素敵?なお茶会への招待、再び

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:1〜3lv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月26日〜07月31日

リプレイ公開日:2004年08月02日

●オープニング

 その女性は、冒険者ギルドにやってきたとき、いささか変わった姿だった。橙や赤などの色が入り混じった花の咲いた枝を一抱え、懸命に運んでいるところだったのである。
「あの、この間のお茶会に来てくださった方や他の皆様を、またご招待させていただきたいのですけれど」
「なんでっ」
 この日、窓口にいたのは依頼人と同じ程度に若い女性の係員。依頼人は見るからに仕立てがよく、流行も取り入れた、薄い生地を何枚も上品に重ねたスカートと手の込んだ刺繍が付いた上着を着ているが、係員はやや着古した上下に洒落たリボンを縫い付けて、うまく仕立て直した服装だ。二人を比べれば、依頼人はいかにも金がありそう。
 そういう相手に今の反応はなんだよと、先輩格の係員が怒ってもいいところだが‥‥奥から顔を出した何人かは、誰一人として仲間を責めなかった。ついでに依頼人も。
「なんでと言われましても、この間のお茶会では『また呼んでね』と言っていただきましたし、今回は新しいお茶もご用意するつもりですし」
「新しいお茶って?」
「花のお茶なんですの。こういう花を乾燥させて、香りを楽しむものなんだそうですよ。華やかな色の花がいいと思って、たくさん買ってきましたの」
 だからお茶会の参加者募集の羊皮紙を張って‥‥と、上目遣いの依頼人を前に、女性係員は『ダメ』の一言を口にした。
「まあ、どうして、今回はお礼が用意できないって分かりましたの? ちょっと今月は物入りで、お茶会に少し豪勢なお料理を用意しようと思ったら、皆様にお礼するお金が捻出できなくて。冒険者の方は、やはりお礼を包まないと足を運んではくださいませんわよね。お仕事ですもの。でもでも、子豚を一頭買い占めましたから、それで好きなお料理していただいて、全部食べても、余ったら持ち帰りしても良いということで、なんとかなりませんかしら?」
 依頼人こと、知名度はこの周辺だと『たまに知っている人がいなくもない』程度のウィザードのアデラが、頭を抱える係員に怒涛のごとくに喋り捲っている。別に危険もなし、力仕事もなし、単にお茶会でお茶を飲んで、好きなだけ依頼人の金で食事ができる依頼なら、報酬なしも悪くはない。
 しかし、係員には譲れない理由があった。それは。
「その花は毒があって、口にすると身体がしびれて動けなくなるって、知らないんですかーっ!」
「あら、知りませんでしたわ」
 自称茶道楽のアデラ。彼女は過去に開いたお茶会で参加者の健康に多大なダメージを与えたこと複数回の、危険な人物だった。そんなのに『また呼んで』といった輩は誰だと、係員の額には青筋が浮いている。
「じゃあ、このお花は飾るだけにして、普通のお茶にしますから、お食事だけで来てくださる方を探していただけませんか? これ、差し上げますから」
 今自分が『毒がある』と断言した花を枝ごと差し出されても、係員も嬉しくはない。けれどもアデラはいいと言うまで居ついてしゃべるだろうし、どんなお茶会かを説明した上で参加を希望する者がいれば、それは当人の責任だ。何が起きてもギルドの関知するところではない。

 そうして、依頼の羊皮紙が張り出された。
『ウィザードのアデラ女史主催のお茶会参加者募集。報酬は現物支給。当日のお茶会では子豚一頭他の豪華料理を約束。他に主催者の作ったお茶を飲むなりなんなりすること。
 なお、この主催者が過去に何度も参加者の健康を害する謎のお茶を作っていることを付記する』
 そんなお茶会に、さあ、行ってみよう!

●今回の参加者

 ea1763 アンジェット・デリカ(70歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea1857 タイム・ノワール(20歳・♀・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea1860 ミーファ・リリム(20歳・♀・ジプシー・シフール・イスパニア王国)
 ea3776 サラフィル・ローズィット(24歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4757 レイル・ステディア(24歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea4778 割波戸 黒兵衛(65歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●お茶会のその前に 〜三日前〜
 子豚はぶうぶう鳴いていた。
「一人でどうしたらいいかと思っていましたの。あ、刃物はこちらにありますわ」
 お茶会用に子豚一頭買い付けの話を聞いた初参加者の割波戸黒兵衛(ea4778)は、三日前に主催者アデラの家を訪れていた。子豚の調理の手伝いをしたほうがいいだろうと、気を回したのだ。当日にキュッとやった子豚では、生臭くていけない。
「では、おまえさんは湯を沸かしてくれ」
 割波戸が手際よく手伝ってくれたおかげで‥‥子豚料理の下ごしらえは完了した。

 同じ頃。前回のお茶会にも参加したサラフィル・ローズィット(ea3776)は、市場で暗く溜め息を吐いていた。
「さすがにお高いものばかりですこと」
 月道渡りの本物のお茶は、ちょっと彼女の財布には厳しすぎた。

 市場でも、酒類を商う別の店では、やはり二度目のお茶会参加のタイム・ノワール(ea1857)が威勢の良い声を上げていた。
「この守銭奴! けち! いじわるー!」
「なにをっ。値切るのもたいがいにしろ!」
 でもしばらく後に、値切りに値切り倒した酒樽を、嬉しそうに転がして帰るタイムの姿があった。シフールだけど配達は拒否されたので、転がしているのだ。
 そのくらい、買い叩いたということである。

 そしてレイル・ステディア(ea4757)は同居人の置き手紙を握り締め、こう呟いていた。
「帰ってきたら、羽根むしってやる」
 勝手に『評判』のお茶会に申し込まれたと知った彼の独白は、なかなか恐ろしかった。

●お茶会のその前に 〜当日の朝〜
 前回の教訓を活かして、アンジェット・デリカ(ea1763)が約束の時間より早めにアデラの家に着くと‥‥台所ではサラがこめかみを押さえていた。十二分に予想された光景である。予想と違うのは、アデラが残念そうに枯れ葉をかまどの横に積んでいる姿だ。
「いったいどうしたね。また不可思議な草をむしってた来たんじゃあるまいね」
「ちょっと、失敗しましたの」
「「ちょっと‥‥?」」
 サラとデリが不審さをたっぷりまぶしたような声を揃えて問い直すが、アデラは相変わらず反省した様子がない。サラに『これは飲んだら体に悪い』と注意された枯れ葉を、未練気に見やっていた。
 おかげでデリも加わって『お茶』の中身を再点検し、安全なものだけに選り分けた後。
「丸焼きは割波戸さまが見た目を嫌う方もいるから、止しなさいとおっしゃったので」
 止められなかったらやっていたような口振りのアデラは、料理はけして下手ではない。物によってはサラやデリより上手かもしれない。骨でとった出汁で煮込んだ根野菜は、今回もとても美味しい。葉野菜で肉を巻いた料理もいい匂いがした。
 味覚はきちんとしているのに、どうしてお茶だけああなのかと思いながらも、デリとサラは余った屑肉で腸詰めを作っている。香草をアデラに提供させて、いい香りのする木屑で薫製にしようかというところで、そろそろお客様が集まり始めたようだ。

●本日のお茶会は
 これまでのお茶会の噂を知ってか知らずか、ソフィア・ファーリーフ(ea3972)は手土産持参で訪れた。手土産の中身は香りも高い、様々な香草類だ。聞けば彼女が摘んできたものだとか。
 サラとデリも納得の香草類は、同じウィザードでもアデラとは大違いだ。乾燥しても緑色が残っているところが、また目にも麗しい。
 しかし。
「私、このお茶会を楽しみにしてきましたの。なまじ植物の知識があるせいで、アデラさんのような新たな発見をする喜びから遠ざかっていたように思うものですから」
 今回使用のお茶葉や分量、なによりアデラの自由な発想を記入するべく、貴重な筆記用具持参のソフィアを見て、サラとデリは強烈な不安に襲われたかも知れない。
 挙げ句に。
「また来たよー。ねえちゃんのお茶会、楽しみにしてたんだ。ほい、おみやげだよ」
「子豚料理なのら〜、おみやげあるのら〜」
「買ったのは、あたしよ!」
 大食いパラのマート・セレスティア(ea3852)と大食いシフールのミーファ・リリム(ea1860)が、タイムと一緒になって到着。彼らが口々に土産と言うのは、タイムが買い込んだ酒類である。当人のタイムはテーブルを飾る花束を抱えていた。
「これ、乾燥させると飲めるって」
 マーちゃんやミーちゃんに劣らず、タイムの土産選び基準も偏っていた。
 その後、時間に正確に割波戸とレイルが到着して、お茶会は始まった。

 このお茶会が正確に何回目かを知る者はいないが、前回のお茶会に参加していない者は三人だけだった。それは『恐いもの知らず』と言われた者が五人もいたことを示している。
 そして何も知らないか、聞いていてやってきた割波戸とソフィア、それから同居人が勝手に申し込んでしまったレイルの前で、突如として始まったのは‥‥
 主催者アデラへの『しごき』だった。
「さ、ここにちょうどいい香草があるから、あたしの手本通りにやってみてごらん」
 ソフィアの土産の香草類で、デリが基本的な茶の淹れ方を披露する。本物の茶と茶会の本場出身を自認するレイルが見ても、デリは文句なく基本を踏襲していた。
 しかし、お作法の修業中の娘さんよろしく、生真面目な顔でアデラが茶器を取り上げた途端に、レイルは立ち上がった。茶会では、主が勧めてくれるまでは茶は口に出来ないと待ちの姿勢の割波戸が、不躾だと視線で咎めたが、レイルは黙っていられなかったのだ。
「どうしてそこで、山盛り入れるんだ」
「だって、人数が多いんですもの」
 大きな茶器を出しなさいと、一応お客らしい体裁を整えた口調でレイルが言うのに合わせて、サラが『使うのはこちら』と新しい茶器を脇から示した。また一からやり直し。
 または、デリとレイルの忍耐力鑑定の時間。
「味見はまず自分でおやり。上司がどう言おうと、それが茶会の主の礼儀だろうにっ」
「‥‥なんだか不思議な味がしますわ」
「あら。どれとどれを混ぜると、こういう味になるのかしら。刺激的なお茶ね」
 アデラがいつのまにやら数種類を混ぜ込んだ香草に湯を注ぎ、なんとも言えない焦げ茶色の液体を抽出している。それをソフィアが一緒になって味見して、彼女は喜んでいるか‥‥当のアデラもブレンドを覚えていない香草茶を飲めるソフィアへの周囲の評価は、推して知るべしだ。
 レイルとデリには、もはや頭を抱えるよりない時間‥‥
 ノルマンの茶の作法などよく知らない割波戸は、皆がああでもないこうでもないと騒いでいるのを横目に、サラに分からないことを尋ねていたりする。なんといっても、アデラのお茶にああも大騒ぎする理由を知りたかった彼だが。
「わたくし、先日ようやくアンチドート、毒消しの呪文が使えるようになりましたのよ。これで今日のお茶会は安心ですわ」
 サラににこにこぉっとこう言われて、嫌でも察する羽目に陥っていた。彼がソフィアの香草の鑑定眼を知っていれば、少なくとも毒が出てこないことだけは分かったことだろう。
 しかし、現状唯一、アデラのお茶をためらいもなく口にするソフィアへの皆の信頼度が如何程かは不明だ。そしてそれは、決して彼らの人が悪いわけではない。
「ああもうっ、香草が勿体無いから、しばらく二人でそっちの葉っぱでやっといで!」
 しばし後、アデラの上達の無さに我慢の限界を迎えたデリがソフィアともども主催者を片隅に追っ払って、自ら香草茶を淹れ始めた。これには割波戸も驚いたが、追いやられた二人が楽しそうなので口は挟まない。
「一度教えると口にしたなら、きちんと全うすべきだろう」
「お子様達の世話をしたら、また面倒見るけどね。しばらく同年代で喋らせたほうが、身になりそうじゃないか」
 レイルが厳しいことを言っても、さすがは年の功で、デリは平然としている。確かに彼女の見立て通り、ソフィアから香草の種類の説明をされているアデラは、デリに怒られ続けた時より元気が出たようだ。
「ほほう、やる気を出させるには押すばかりでは駄目と言うわけじゃな」
 からかうような割波戸の言葉にはどう応えるつもりだったか‥‥デリは両肩をいささか大袈裟にすくめた後に、『お子様達』を見て絶句していた。それは、レイルと割波戸も同様だったのである。

 お子様達、あまり正確ではないが見た目はたいそうその通りの分類をされたタイム、ミーちゃん、マーちゃんの三人は、テーブルにへばり着いていた。シフールのタイムとミーちゃん向けの食器も完備で、本当はお茶を待つばかりのところだ。
 でも別に、お茶がなくたって、食べることは出来るのである。ついでにタイムがお酒をしこたま持ち込んでいたし。
「「「かんぱーい!」」」
 そうしてワイン樽を開けて、三人は勝手に飲み食いを始めていた。だって目の前にご馳走が並んでいて、『食べて〜』と語りかけてくるのだ。マーちゃんとミーちゃんには、どうにも抗えない『声』である。タイムだって食べるのは嫌いじゃないし、ワインに美味しい肴は必要だから、ためらわない。
 パン、木の実入りのパン、肉詰めのパイ、肉料理がいっぱい、魚料理も幾つか、野菜の煮たのにスープにチーズもあって、それが全部取り放題!
「生きててよかったのら〜」
「おいら、アデラねえちゃんの家になら住んであげてもいいなぁ」
「それ取ってー。あ、ワインなくなっちった」
 てんでに好きなことを言いながら、三人はよく食べた。他の皆がアデラに気を取られている隙に、お客に有るまじき無作法で料理を制覇し続けている。
 が、それもやがては終わらざる得ない。
「まったく、恥ずかしい子達だね。このいう席では、いただきますは全員でだよ」
「あ、そうだよねぇ。お茶だってぇ、せーので飲むんらもん」
 調子に乗ってワインを飲み過ぎたらしいタイムの呂律は、すでに怪しくなっている。しかし妙なところで『全員』に拘わりだし、お茶はまだかと催促し始めた。
 すると、それを聞きつけたサラが。
「さあ、お茶ですよ。ソフィアさんのブレンドで、アデラさんはお湯を入れて、わたくしが器に注ぎましたから」
 三人作業の、よく分からないお茶を全員に配り始めていた。少なくとも倒れることはなさそうだが、奇妙であることに変わりはない。もはや作法も何もあったものではなかった。
 挙げ句にマーちゃんとミーちゃんが『茶をくれ』と騒ぐのでなおさらだ。
「ま、腹を壊すことはなかろうよ」
 もはや諦めの境地のデリがこう口にしたのを機に、なぜかまた全員で‥‥
「せーのっ」
 と、茶を飲み干そうとしたのだがっ!
「し、渋い。飲めるかい、こんなの。あっ。この茶っ葉は誰のだい!」
 茶を淹れた三人もげほごほしながら、その中のアデラが『自分の』と仕種で示した。
「「ノルマンの茶会って‥‥」」
 ご丁寧にノルマン語で呟いた割波戸とレイルに、デリだけが違うと息巻いたが、肝心のルマン出身三人娘は『何がいけなかったのか』論議で振り返りもしなかった。
 そして、食いしん坊三人組は、口直しの食べ物を求めている。料理は美味しい、文句なく美味しかった。
 でも、この後のお茶をデリとレイルが淹れることに、誰も反対はしなかったのである。
「騎士のたしなみだ」
「長く家事してりゃ、このくらいはね」
 そういう人々に、自称茶道楽はまったく太刀打ちできないと分かった、貴重な日であった、かもしれない。
 けれどもアデラは、一緒にあれこれ試してくれるソフィアと、それを手伝ってくれるサラとの三人で、自前の『茶葉』を消費する作業に大満足であったことも、また確かである。

●そして、お開きとなりました
 本日のお茶会は一部不穏な物が出回ったが、その大半は淹れた当人達が味見をしたので、他のお客に回ることはなかった。アデラとソフィア、それからサラの声がなんだか掠れていたのは、たくさん咳をしたためだろう。
 しかし、この三人は全然懲りていなかった。
「アデラ様、今回教えていただいたことを忘れずに復習してくださいね。次は試験ですわ」
「私ったら、夢中になって記録を忘れちゃったのよね。ぜひ次にはしっかりとお茶の葉の記録を取らなくちゃ」
 次はより美味しいお茶を淹れられるように! この目標のもとに一致団結した三人は、早速次回の約束をしている。次回があるのかと、レイルがげんなりしているのは視界にも入らなかった。
「別に無理して付き合わなくてもいいんだからさ。ほれ、茶菓子を持って帰れば」
 デリがサラの差し入れの菓子を包んで、全員分の土産を用意していた。サラもアデラ教育に懸命になって、うっかり出し忘れたものらしい。まあ、これ以外の料理は全て、二人のシフールと一人のパラに食い尽くされていたのだが。
「そもそも茶は薬だったのが、今は楽しみに変じたもの。ああして良い味を探究するのも、一つの楽しみ方として評価されるべきかも」
「わーい、おみやげ。うっ」
 割波戸が半ば自分にも言い聞かせるように好意的解釈を口にしていた途中、酔ってふらふらと飛んでいたタイムが腹部を押さえて空中でよろめいた。と思うと、ものすごい勢いで台所の向こうの茂みまで飛び去っていく。
 これを見た人々が、家路を急いだかどうかは個々人の判断による。
 それから三日後。
「あのねあのね、アデラねえちゃんのお茶会は美味しかったし、楽しかったよ」
「たのしかったのら〜」
 たまたま出会ったマーちゃんとミーちゃんが、そんなことをギルドの係員に話していた。
 けれども、この二人の姿が見掛けられたのは、実に三日振りのことだ‥‥