【ドラゴン襲来】孤島に眠る宝
|
■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:7〜13lv
難易度:やや難
成功報酬:6 G 84 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:09月11日〜09月21日
リプレイ公開日:2005年09月21日
|
●オープニング
領主の館に出掛けていって、不機嫌な顔付きで冒険者ギルドに帰ってきたギルドマスターのシールケルは、一回り年下と思われる女性を連れていた。海戦騎士団のララディと名乗った彼女は、シールケルが執務室にこもってしまったのに非常に未練たらたらだったが、それでも依頼の受付をする係員のところにやってきた。
「冒険者八名、出来れば船に詳しい者を手配して。仕事は宝探しだけど、その前に嵐を突っ切って、宝の守護者と戦う必要がありそうなのよね」
「嵐を突っ切るのは、決定事項なんですか?」
天候も何も関係なく、そこに行けば嵐が起きているような言い草に、係員は思わず聞き返した。ララディの返事は是だ。
「別口で遭難救助依頼も出ているでしょう。その海域よ。最近、船が近付くと突然嵐が起きるって噂でね。でも、そこに用があるのよね‥‥軍資金が眠っているから」
海戦騎士団は軍資金のために宝探しもするようになったのかと、なんだか納得がいかない風情で依頼内容を書き留めていた係員は、ララディに髪を引っ張られた。どうやら考えていたことが顔に出たらしい。
「ロキの軍資金よ。それでやる気が出る冒険者をよろしくね」
ドレスタットがドラゴンに襲撃された大元の理由を作った男の名前に、係員も事情を悟った。ドラゴンの宝を奪ったとされるロキが置いた守護者なら、それは手強い相手だろう。それと嵐は、あいにくと係員には結びつかなかったが。
仕事の内容は、嵐の頻発する海域の中にある島の洞窟に隠されているらしい金品を発見、回収すること。それを妨害するものがいれば、相応の対処、例えば退治、撃退を行う。往復とも船なので、その上での行動に慣れているとか、航海の要する技術があるものが特に望ましい。最悪、船酔いはしない者だ。
「いざって時に役に立たなかったら、報酬は全額返してもらうわ」
ものすごい押しの強さでそう言い切ると、ララディは執務室の方向に未練がましい視線を投げてから帰っていった。
シールケルとどういう関係だろうかと係員が悩んでいると、先輩格の記録係がやってきて、結構とんでもないことを訊いてきた。
「おまえ、怒鳴られなかった? そりゃ良かった。彼女、悪い人じゃないけど、喜怒哀楽の激しい人でさ。物分かりの悪いことすると、すぐ怒鳴るんだ。あと、他人に命令口調で話しかけられると大変でね」
海戦騎士団でもそれなりの立場にあるから、通常ララディに命令するのは領主のエイリーク、その側近の海戦騎士団団長や幹部、ほかに地位のある面々だけだ。命令ではなく提案ならちゃんと聞くので、話し方さえ間違えなければ仕事はしやすいらしい。
搦め手で、当人が命の恩人とエイリークと同列に信奉しているシールケルから話を通すというのもあるが、これはシールケル本人が嫌がるそうだ。
「‥‥なんで、そんなに詳しいんです?」
「前に彼女の依頼で働いて、一晩かけてギルドマスターにいかに恩があるか聞かされたから。あの崇拝のされ方は疲れると思うよ。美人だけどねー」
へえと頷いた係員は、最後に聞かされたことに慌てて依頼書の中身に間違いがないかを確認した。
『ドラゴンの宝』の管理責任者だというララディだが、今回はそれに関係する話はなかった。確かに、『宝探し』だけだ。
それだけで済みそうな感じは、まったく、どこにもなかったけれど。
●リプレイ本文
海戦騎士団のものらしく、いかにも丈夫そうな船が出港してすぐ、行く手からドレスタットに向けて進む船があった。日頃小船を操っている漣渚(ea5187)が見て、明らかに暴風雨で傷めつけられた船だと分かる代物だ。
向こうの船長から色々聞き込んでいたララディが難しい顔になった。御影紗江香(ea6137)が問い掛けられたのは、嵐を起こす精霊についてだ。エイジス・レーヴァティン(ea9907)が友人に教えてもらった『行き先の海域では異常な嵐で何隻も難破している』は大げさな話ではなかったらしい。確かに目の前の船は、そうとでも言わないと辻褄が合わない暴風雨に巻き込まれたのだという。
それで『精霊が混乱して起こしている嵐』を指摘した紗江香が呼ばれたのだが、残念ながら彼女も精霊に詳しくはない。少し精霊について調べたイワノフ・クリームリン(ea5753)を見上げたが、こちらもいい返事の持ち合わせはなかった。ただ、海上で嵐となれば、あまり知識はなくとも察しはつく。
それを口にしたのは、ウィザードのティアイエル・エルトファーム(ea0324)とセルフィー・リュシフール(ea1333)だった。水の魔法より風の魔法に効果が似たものがあるのだから、可能性が高いのは風だと言うのだ。それは誰もが納得できる意見だが‥‥ボルト・レイヴン(ea7906)が見たところ、ララディは非常に不満そうだった。部下の風のウィザードのリィとナイトのウィルも憂い顔だ。
それで、冒険者一同と船員の無言の圧力を受けて、なぜかララディに気に入られた西中島導仁(ea2741)が尋ねることになった。件の嵐を起こすような精霊に心当たりがあるかどうかをだ。返事は簡潔に『風の精霊なら出来るわよ』だった。
問題は二つ。
そんな『混乱している』かもしれない風の精霊と海上でやりあわねばならないこと。侍の西中島と渚、ナイトのイワノフ、ファイターのエイジスがいても、船上というのは実力を発揮するのに十全な場所ではない。ましてや風の精霊魔法を使うティアイエルとリィは‥‥いわぬが花。
もう一つは、精霊がどうしてロキの軍資金など守っているのか。精霊を従えるなど滅多に出来るものではない。
「今回のお宝は、金貨千枚は下らないって話だから、何とか頑張ってちょうだい」
何をどう頑張ると光明が見えてくるのかは、ララディにもさっぱり予想がつかないくせに、依頼人は強引だった。
問題の島までは、風の具合と近付く時間の調整で約二日。
その間、冒険者は格別船上仕事の手伝いも要請されず、見張りも船員で十二分に数を揃えたとあれば体力温存に努めるしかない。後は嵐を起こす精霊への対抗策を考えておくだけだ。ティアイエルはその点で、リィの役割を確認した。嵐対策になるような魔法を持っているのかどうか。
「ウインドレスは効果があると思うんだよね」
「本職相手に? 頑張ってはみますけど」
二人は顔を見合わせて乾いた笑い声を上げているが、聞いているほかの面々には笑い事ではない。セルフィーも相性が悪いと頭を抱えていた。宝探し前に精霊と戦うとは予想していても気の重い話だ。中には、そういう気分を感じさせない者もいるが。
「精霊信仰の地域では、ロキって世界を滅ぼす邪神だったかな。使う魔剣がレーヴァティンっていうんだよ」
だから自分とロキは縁があると言える。精霊が門番だなんて楽しみではないか。そんなことを船べりでララディに聞かせたエイジスは、さらりと言われていた。
「敵についたら、身動き出来ないようにして、一寸刻みで殺してあげるから」
任せておけと請け負われ、エイジスは苦笑している。彼の『縁がある』は、この依頼で『敵として立ってやる』気分だったのだが、素直に受け取られたらしい。傍で聞いていた渚は、釣竿を放り投げそうな勢いで爆笑していた。邪魔にならないように一塊になっていた紗江香は、懸命にも口を挟まずに唇を押さえていた。
そうした光景を横目に、武器の手入れに勤しんでいたイワノフと西中島、ウィルの三人は精霊への攻撃方法を相談していたのだが、笑われてむきになったララディが周囲に殴りかかっているのを目にして話題を変えた。西中島やイワノフの常識では、ああも喜怒哀楽が激しい、しかもバードの女性が前線の指揮官だというのは納得しがたいのだが‥‥
「やはり海賊の多い地域ゆえ、受け入れられるのだろうか?」
「エイリーク様と同じ性格だからな。バードに『手前ら、あたしについて来い』と叫ばれたらどうする?」
ナイトや侍が、本来後方で支援する女性にそう叫ばれたら、やることは幾つかある。とっ捕まえて後ろに放り出すか、並んで守って戦うか、相手より前に出るかだろう。
「危ないお人だな」
西中島の正直な感想は、幸いにして当人の耳には届かなかった。だがウィルが『エイリーク卿と同じ』と言うからには、そのエイリークの部下達に好かれる要素は十分ということだ。攻撃魔法が全くないバードだとしても。
「人間の女性の顔の造作をどうこうは言わないが、元海賊達をやる気にさせるのはわかった。操船は心配せずとも大丈夫だな?」
エイリークとララディのためなら、死んでもいいって船員を揃えたので心配なし。なんとも物騒なお墨付きをもらって、西中島とイワノフも苦笑せざるを得なかった。
だがそんな船員達も、冒険者から保存食をきっちり集め、もって来ていない者からは市販の倍額ふんだくり、船に積んでいた食料と合わせて紗江香が調理してくれた食事に感動していた。主に『若い女の手料理』というところにだ。おかげで配膳を手伝ったボルトは、気を利かせて皆の目に触れないところで働いていた。
そして二日目の昼、問題の島がよほど目の良い者にだけうっすらと見えた気がする海域まで来て、それまでかけらも見えなかった暗雲が船へと攻め寄せてくるのを見ることになった。
船乗りには、陸の上のものとは違う足がある。と誰かが言っていた気もするが、イワノフやエイジスも何とか立っているのがやっとだった。ティアイエルは帆柱に体を結んで、船べり目指して這っている。ボルトは船尾で荷物同様に括られているし、紗江香や西中島は片膝ついたまま、セルフィーはなんとか帆柱に掴まって立っているものの、その場から動くことは叶わない。
それほどの風が荒れ狂っている中、冒険者で甲板を動いているのは渚だけだ。歩みは遅いが、なんとか移動して予備の小さな帆を広げている。自分の足元に座り込んでいるリィとララディの二人の風除けだ。時々銀、または緑の光が現れる。
この間にようやく船べりに辿り着いたティアイエルと、端から反対側を向いていたエイジス、その周囲を囲んでいる冒険者の目には暗い雲と雨、時折下から被さってくる波しぶきが見えていただけだが、不意にティアイエルが声を上げた。皆の制止を振り切った甲斐があったと、当人が思ったかどうか。
「精霊がいる!」
彼女が精霊と断言したのには、当然理由がある。海上を飛ぶことはそうした魔法の使い手なら可能だが、身の丈がイワノフの倍もある者は人ではないからだ。
合わせたように、船の周りで風が途絶えた。波は相変わらず激しいが、風がなければ船乗りの足を持たない者もなんとか歩けるだろう。渚はすでに走って、船尾のボルトを担いでいる。皆にグッドラックをかけてもらうためだ。
「風は止まっとるが、波はどうにもならん。振り落とされたら、見捨てるで」
どこまで本心だか、渚は言い置くと帆柱に新しくロープを結びつけてボルトの腰と繋いだ。手早くもう一本結んで、今度はララディとリィのところに戻っていく。すでに精霊がいる側の船べりで身を乗り出しているララディと、それを支えているリィに括りつけるのだろう。
「ジニール! ロキになに命令されたか、それがドラゴンの言う宝のせいか、答えろ!」
「きゃー、落ちるー」
船べりをがんがん蹴りつけているララディの姿に、セルフィーが悲鳴を上げた。幸いにして悲鳴の通りにはならず、セルフィーも風がなくなったおかげでちゃんと声が出ると気付いて『ジニール』とやらの姿を探す。もし向かってくるなら、アイスコフィンを盾代わりに使用するのが多分一番良い魔法の使い道だ。水のウィザードとして釈然としないが‥‥
変わらず薄暗い中で、紗江香がランタンを掲げた。ジニールと言うらしい精霊から丸見えになるが、そもそも人と同じようにものを見ているとは限らないので皆の安全を優先させたようだ。ボルトも渡されたランタンを掲げて、明かりの確保に努めている。
そうして透かし見ると、ジニールは上半身裸の男性のように見えた。精霊に明確な性別があるかどうかはさておいて、身長は四メートル程度。仮に殴られれば、大半の者は船から海面に転がり落ちるだろう。
「もしや‥‥我々はドラゴンが探す宝を奪った輩を追う者だ。好んで精霊に危害を加えるつもりはない」
腹に響くような声で、イワノフが動きを止めたジニールに声を掛けた。こちらはゲルマン語だが己の立場を明らかにしておく必要があると感じたのだ。ジニールが、ララディのテレパシーで動きを鈍らせたと見て取れるからだ。
すると。
『契約の品は、いずこか』
返ってきたのは、やはりゲルマン語だった。
「半分はロキっちゅう野郎が、残り半分はドレスタットの偉いお人が持っとるで。返さなにゃならんけど、ロキが見つからんところや」
居場所を知っていたら教えてくれと、渚が冗談混じりに語りかけたのには反応はなかった。ただ『返さなくてはならない』と口にした時、宙から船へと伸びていた手が止まる。
「こちらが、それを返すために我々を雇った。契約の品とやらを取り戻したいなら、この嵐を止めてほしい」
西中島が、今にも甲板から身を乗り出しそうなララディを無理矢理背後に回して、ジニールとの間に立った。近くで見ると、ジニールの全身が細かく震えている。恐怖ではなく、なにか激情を抑え付けている人が震えているような具合だ。
良くないと彼が感じた瞬間に、ジニールは横殴りに腕を振るった。互いの距離がもっと近ければ帆柱が折られているところだが、幸いに狙いは西中島やララディ、リィ、渚がいる辺りだ。
とっさに身を捻った西中島と、半分風圧で圧された渚が甲板にキスする羽目になったが、そのくらいは被害に入らないだろう。リィは自分で甲板に伏せ、ララディは先程まで船員に混じって働いていたウィルが駆けつけて押し倒している。そのウィルは、肩の辺りに打撃を受けたらしい。身軽に起き上がったララディを止め損ねている。
「貴様、あたしの部下にこれ以上なんかしたら、契約の品は戻せる奴がいなくなると思え! それともロキに味方するか!」
こういうのは、何かで従わされているのではと紗江香が呟いてももう遅い。ティアイエルとセルフィーは、もはやここまでかと二人で手を取り合って呻いていた。平常心を失った精霊など、効果的な魔法もなく、船の上から攻撃できるとは思い難い。
確かにジニールは何の感慨も覚えなかったように、もう一度腕を振るった。もしも迷いがあったとしたら、それはあまりに大振りで、狙いの定まらぬ腕の動きにあっただろう。そうして、それを見逃さない者もいた。ずっと一言もなかったエイジスだ。
エイジスの手にした聖剣アルマスが、振り下ろされた腕に突き刺さる。勢いを利用して柄まで埋め込んだ。デビルスレイヤーの別名を持つ剣は、精霊にその特殊な効果を発揮しないが‥‥続けて腕の向かう方向と逆に引かれれば、傷が開くように見える。イワノフと西中島、渚とウィルも、それぞれの武器を手にジニールに対した。
それより先に、腕を切り開いたエイジスの返す刃が、自分に攻め寄ってきたもう片方の手に突き刺さる。ここまでの船旅の間、何が起きようとニコニコとしていた気の良い青年の姿はない。
振り回された腕に、何人かの武器が当てられ、ジニールが何か叫んだように聞こえた。合間に何人かが、何か壊れるような音を耳にしている。
「まだ、ロキに与するか?」
いつ何で切れたのか分からない傷をこめかみに加えて、エイジスが無表情に言い放った。その剣は変わらずジニールの腕に、だが最初とは逆の側に埋め込まれている。そしてジニールも、最初のようには暴れていなかった。
『契約の品を戻すか?』
「まだ暴れるなら、今度ドラゴンに会ったときに、ここでジニールがロキに味方してるって言いつけるわよ」
下手なことを言って、エイジスを危ない目を合わせてくれるなという願いに気付かぬようで、ララディが子供の喧嘩じみたことを言う。しかしジニールはそれが非常に嫌だったらしい。二言三言交わされた会話は、『イグドラシルに来たなら、力を貸す』の台詞で終わった。
ウインドレスの魔法の外、荒れ狂っていた風と波が静まった。あまりに突然で船員達は目を擦っていたが‥‥やがてへたり込んだ。荒波の中、船の位置を保持した彼らには渚が景気よく礼を言って歩いている。その彼女も、腕から手の甲に真っ青なアザを見咎められて、ボルトのところに追い返されたが。
その頃には、いささか呆然として見えるエイジスを始め、イワノフも西中島もウィルも、紗江香やセルフィー、ティアイエルに急かされたボルトの治癒を受けていた。彼女達も、思ってもいなかったところにアザの三つ四つを見付けて驚いたけれど。
嵐にもまれていたのが、短いようで半日も経っていたため、問題の島には翌朝辿り着いた。隠し場所までの地図が用意され、『行ってこい』と送り出された一行は、まったく何の問題もなく、洞窟の奥にその宝らしきものを発見したが‥‥
「あいにくと、私では持ち上がりませんわ。あれを全部引き上げるには相当の時間が掛かります」
水遁の術で潜った紗江香がそう報告し、素潜りの心得があるイワノフや渚、西中島にエイジスが潜っても四十はある木箱を一つずつしか上げられないとなって、彼らは速やかに船へと助力を求めた。
一応紗江香が水の中の木箱をロープで括って、潜らない三人が力をあわせて引き上げられるかは試したが、一つも上がらなかったのだ。これはもう、人手を増やすしかない。紗江香とティアイエルが途中まで戻り、セルフィーは念のために洞窟の壁に何か書かれていないか探しておく。ボルトは灯り番だ。
もちろん潜れる面々は、延々と重い木箱を水中から担ぎ出していた。
ウィルが船員を連れてきてくれた頃には、全員がそれぞれの働きで大分消耗していたのである。
だがしかし、帰りの船旅で確認した限りでは、金貨だけで千枚を超え、他に装飾品が多数出てきたことを考えれば、素晴らしい結果を得たと胸を張れるのは間違いなかった。
それだけ手に入れた割に、追加報酬と出されたのがワインと食事だけだったのをどう思うかはそれぞれのこととして。