せーりせーとん、さがしもの!

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月10日〜10月15日

リプレイ公開日:2005年10月18日

●オープニング

 それはある日のことでした。
「誰だ、こんなところに書類ぶち込んでやがったのは」
 冒険者ギルドから程よく離れた、ちょっと瀟洒な一軒家の地下でのことです。普通は食料庫やワイン置き場に使われていそうなその地下室には、羊皮紙の束がかなりよろしくない保存状態で詰め込まれていました。一部は虫が食い、一部は黴が生え、一部は湿気でくるくるに丸まった羊皮紙の束は、冒険者ギルドの偉い人シールケルさんのお顔をむすっとさせるのに十分だったのです。
 そのお顔のまま、シールケルさんは言いました。
「整理しておけ」
 言われてしまった冒険者ギルドの人達は、会計の偉い人にお願いして、依頼を一つ出すことにしたのでした。

『古い報告書の整理の手伝いを募集
 ゲルマン語の読み書きが達者なら、追加報酬あり
 報告書の中から『候補地報告書』なる書類を発見した場合、素敵な物品贈呈』

 なんだかとっても怪しく見えますけど、係の人は言うのです。
「平気平気、心配ない。普通のカビだし、街中の一軒家だし、せいぜい床板が腐ってるくらいで安全だよ。書類が見付からなかったら、うちの大将に殴られるかもしれないけど」
 それは、とっても危険なのではないでしょうか。ホントにだいじょーぶ?

●今回の参加者

 ea1389 ユパウル・ランスロット(23歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea4626 グリシーヌ・ファン・デルサリ(62歳・♀・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea5886 リースス・レーニス(35歳・♀・バード・パラ・ノルマン王国)
 ea9568 ミスト・フロール(25歳・♂・バード・パラ・フランク王国)
 eb0704 イーサ・アルギース(29歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb3279 ファリム・ユーグウィド(31歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3537 セレスト・グラン・クリュ(45歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb3586 ゼロ・ヴォイド(21歳・♀・ファイター・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

●これはちょっと許しがたい状態だわね(グリシーヌさんのお言葉)
 今回のお仕事は、地下室から大事な書類を取り出すことです。ずーっと空き家だったので、お家全体がとんでもないことになっているだろうとグリシーヌ・ファン・デルサリさん(ea4626)とセレスト・グラン・クリュさん(eb3537)は思っていました。もちろんその予想通りです。
 このお仕事を受けた人達は、地下室から書類を出す人、書類を整理して、書き直したりする人、仕舞い直す人に分かれてお仕事をしたら、きっとはかどるだろうと思っていました。でも、ちょっとそれでは駄目そうです。
「片付けましょう‥‥まずは」
 イーサ・アルギースさん(eb0704)が言うとおり、地下室の中はカビだらけで、埃っぽくて、とてもとても汚かったのです。どうしてこんなところに、大事な書類をしまっておいたのでしょう?
「ギルドの人って‥‥書類整理とか、嫌いなのかな‥‥?」
 ミスト・フロールさん(ea9568)が、困ったように言いますが、もうお仕事は引き受けてしまいました。みんなで頑張るしかありません。
「うわー、おなかの中にもカビが生えちゃいそー」
 リースス・レーニスさん(ea5886)がなんだか嬉しそうに、でも顔にしっかりと布を巻いて、地下室に入ろうとしています。同じようにして、やっぱりちょっと楽しそうなファリム・ユーグウィドさん(eb3279)が続こうとしますが、止められてしまいました。グリシーヌさんとセレストさん、なんだかとっても怒ってるかも?
 もうちょっと手順を考えてからやろうかと、ユパウル・ランスロットさん(ea1389)も呆れ顔です。
 まずは家中の窓と扉を開けて、埃を払うところから始めるのです!

●仕方ない、ギルドの人達のためだ(ユパウルさんの頑張る発言)
 調べてみたら、地下室への階段のど真ん中の板が腐っていました。みんなで行ったり来たりしたら、間違いなく踏み抜いてしまいます。怪我をしてはいけないので、レンジャーのイーサさんが新しい板を被せてくれました。ちゃんと直すのは、大工さんのお仕事です。
 でも。
「この壁も漆喰を塗りなおして、真っ白にしたいわね」
「ネズミに齧られてない桶の一つも、寄越してくれたらいいのに」
 グリシーヌさんとセレストさんは、なんだか色々言っています。怒られちゃったら大変なので、言われたとおりにせっせと働きましょう。まずは、地下室のものを全部外に出すのと、お台所のお片付けなのです。お台所が綺麗にならなかったら、お店でごはんだからちょっと余計にお金がかかってしまいます。
 それでも保存食よりはやすいし、温かいし、色々選べていいんだけど‥‥グリシーヌさんに『おいしいものを作るわよ』と言われて、リーススさんとミストさんはにかっと笑いました。ユパウルさんやファリムさんも、おいしいものを食べるのが嫌いなはずはありません。
 だから、みんなはともかくせっせと働いたのですが‥‥地下室のものを全部出した頃には、頭からつま先まで、全身埃で真っ白になっていたのでした。とっても嬉しくありません。ちゃんと濡れた端切れを撒いて、埃が立たないようにしていたというのに。端切れは仕立て屋さんもやっているユパウルさんがくれたものです。
 これで、お台所を片付けたセレストさんとグリシーヌさんがおいしいご飯を作ってくれなかったら、みんなぷんすか怒っているところでした。
「日頃から、片付けておいたら‥‥いいのに」
 ミストさんの言うことに、みぃんな頷いたのです。でもお仕事だから、頑張らなきゃ。

●ところで『候補地報告書』ってなに?(リーススさんの質問)
 一日目は、埃を払って、地下室の荷物を一階に運んできたら終わってしまったので、二日目からは整理整とんです。荷物を書類と違うものに分けて、書類からは『候補地報告書』というのを探さなくてはいけません。
 ところでこの日は、朝早くにシールケルさんが様子を見に来てくれました。グリシーヌさんとセレストさんが、お片づけの道具を欲しいとお願いしたのは、あっさりと断られてしまったそうです。
「そういうのも込みでの報酬だ。全部片付けるのが役目じゃないから、金が掛からないようにやってくれ」
「えー、けちだねぇ。ところで、この『こーほちほーこくしょ』って、なあに?」
 むかっとしていそうなお姉さま二人を横にして、言ってしまったのはリーススさんです。シールケルさんはちょっと怒ったような顔になりましたが、イーサさんが、
「気になりますし、大事なものならそう教えていただけると」
 と丁寧に言ってくれたので、ご機嫌は悪くならなかったみたいです。ミストさんが、『整理が嫌いなんですか?』と聞きかけたのは、ファリムさんが『しーっ』としたので、シールケルさんには聞こえませんでした。
 それで、シールケルさんの説明だと。
「国策で、月道じゃないかって場所を調べた報告書だな。隣の役人が押し入ってきたときに、当時の係員が持ち出して隠したらしい。場所を言い残さずに、すぐに天命が尽きたんで、最近ようやく場所が分かったんだ」
 これを聞いて、グリシーヌさんとセレストさんとユパウルさんは、とってもやる気が出てきました。頑張って、探さなくっちゃ。
「承知した。では、書類はすべてギルドに運べばいいんだな」
 そうしてくれと言われたユパウルさんは、早速運ぶときに書類を入れる箱を探し始めました。
 相変わらず、頑張ると埃で真っ白になるけれど、夕方にはシールケルさんがおいしいものを買ってきてくれたので、お仕事一生懸命やりましょう。

●先は‥‥長いです(ミストさんの呟き)
 湿気でカビカビになったり、くっついたりした羊皮紙は、そのままギルドに持っていくわけにはいきません。中身を確かめて書き写して、それから運ぶのです。ぴったりくっついたのは、そのままはがすと文字が消えてしまうので乾かしましょう。
「これは‥‥こっち、これは‥‥書き直し」
 風通しの良いところに敷布を広げて、乾かした羊皮紙を仕分けしているのはミストさんです。羊皮紙は傷んでいるから、そーっと扱います。ばさって投げたら、どこかが破けてしまうかもしれないのです。注意して、そーっとそうっと。
 そんなミストさんの横では、くっついたままの羊皮紙をイーサさんとセレストさんがあっちとこっちを持ってはがしています。文字がはがれないように気を付けて、ゆっくりゆっくりです。綺麗に分かれたので、とっても真剣な顔だった二人もちょっと嬉しそうでした。
 こうやって一枚ずつ分けられた羊皮紙を、今度はユパウルさんとファリムさんが眺めています。地面に座り込んでいるのはリーススさん。この三人は書類から『候補地報告書』を探しているのです。ユパウルさんが、まずは大事なその報告書を見つけ出してシールケルさんを安心させてあげようと言ったので、書き写すのはちょっと後回しになりました。
 でも、なかなか出てきません。ファリムさんとユパウルさんは書類をぱぱっと見て、次々に新しい書類を手に取るのですが‥‥
「あら、リーススさんは何を熱心に読んでいるのかしら?」
「あのねぇ、どこかの伯爵様のお家が片付かなくて困るから、冒険者の人を雇って片付けてくださいーって」
 リーススさんは熱心に読んでしまうので、ちっともはかどりません。お茶の用意をしてくれたグリシーヌさんに見付かって、お説教されています。その間に、イーサさんがお茶を淹れてくれました。ちゃんと手を洗ってからです。
 まだまだお仕事はたくさんありますが、一休みしたらまた働きましょう。そろそろ疲れてきましたけれど。

●趣味です(イーサさんのキッパリ)
 二日目と三日目の午前中を使って、地下室から出した羊皮紙を全部一枚ずつに分けることが出来ました。グリシーヌさんのおいしい料理を食べて、みんなが一休みしているのにイーサさんは家の中の片付けをしています。片付けはセレストさんもグリシーヌさんもしていますが、イーサさんはとっても熱心です。そんなに頑張ったら、疲れちゃいそう。でも。
「こういう状態が許せません。習い性というか、趣味ですからお構いなく」
 あんまりはっきり言われたので、『同じ趣味』ではない人達は『はい』とお返事したのでした。『同じ趣味』の人達は、それはそれはもう嬉しそうに、どこをどう片付けようか相談しています。
「私達は、この山を仕分けしましょうか」
 ファリムさんが残った人達に声を掛けて、こちらは羊皮紙の山と戦うことになりました。この中のどこかに、『候補地報告書』があるはずです。そうしたら、月道があるかもしれない場所が分かるかも?
 だけど『お貴族様のご依頼・子供は見ちゃいけません内容』や『お貴族様のご依頼・他人に話しちゃいけません内容』などが一杯で、ファリムさんも羊皮紙をめくる手がだんだん遅くなったり‥‥リーススさんは相変わらずじっくり読んじゃったり‥‥ミストさんは手にした羊皮紙が虫食いだらけでちっとも読めなくてちょっと睨んじゃったりしています。すごくせっせと読んでいたユパウルさんが、ふとそれに気がついてしまいました。
「こら、働け。依頼人はギルドだぞ」
 怒ってはいませんが、ユパウルさんは黒の神聖騎士様です。ファリムさんは申し訳なさそうに、リーススさんは飛び上がって、新しい羊皮紙を取り上げました。ミストさんは、どんなに頑張っても読めなかった書類をユパウルさんに見せています。
 そこにお茶の片付けをして、ついでに台所のお掃除続きと、書類を入れるのによさそうな木箱探しをしてきたイーサさんとセレストさんとグリシーヌさんが戻ってきて、全員で問題の羊皮紙の読める文字から中身を考える事になりました。すると、グリシーヌさんが。
「これは違うわね。次に行きましょうか」
 何ですぐに分かったのかと思ったら、グリシーヌさんはさらりと言いました。
「あら、『手紙の文面が道ならぬ恋の行方を』って、月道の調査では書かないでしょう?」
 みんなで見てみたら、羊皮紙のうんと下のほうに確かに書いてありました。でも、その辺はものすごく達筆すぎて、最初は誰も読めなかったのです。
 報告書って、奥が深いのでした。

●なんだかどきどきしてきました(ファリムさんのわくわく)
 毎日埃まみれになったり、細かい文字をじーっと見ていたりすると、とっても疲れます。交代でお休みしたり、お茶を飲んだりしましたが、やっぱり疲れるのです。
 でも、今回集まった人達はみんなゲルマン語を書くのに不自由がないので、書類の書き写しは手分けしてやることが出来ます。全員で手分けしてやらなきゃいけないくらいに、いっぱいの駄目になっちゃった羊皮紙があったのです。でもまだ、『候補地報告書』は見付かっていません。一枚ずつ分けるのが、とっても大変でしたから。
 この後必要な羊皮紙とインクと羽ペンは、もちろんギルドの人が届けてくれました。ネズミに齧られた羊皮紙を見て、走って帰ってしまいましたけれど。でも林檎を置いていってくれましたから、後で食べましょう。
 そう思って、お台所に林檎を置いていたら大変です。ネズミが出て林檎を齧ってしまいました。せっかくもらった林檎なのに‥‥
「罠を仕掛けましょうか」
「ムーンアローでえいって」
「あ‥‥ムーンアローなら、使えます」
「罠ねぇ」
「罠ですか。やりましょう」
 結局、ネズミは罠に捕まったり、ムーンアローで逃げたりするのですが、なんだかとっても熱心な人が何人か。普通の小さいネズミだったんですけれど、姿を見るのも嫌って言う人がいたみたいです。
 そうして、相変わらずみんなで『候補地報告書』を探しているのですが‥‥
「ですから、月道、候補地なんて書いてないかを探してくださいね。わかりましたか?」
「うん、分かった」
 ファリムさんがリーススさんに念押しをして、羊皮紙を五枚だけ渡しました。他の人達はもっといっぱい抱えているのですが、リーススさんは少なめです。ファリムさんも、さあやるぞと自分の手元の羊皮紙を眺めて、三枚目になったところで、リーススさんに呼ばれました。
「なんかすごいこと書いてあるよ。えーとね」
 聞いて聞いてと、リーススさんが読み始めます。
『ドレスタットから東南の森に入り  。まっすぐ歩ければ半日と思しき距離である。うち棄てられたと思しき古代の道のような跡を発見した。道にはドラゴン    道標もある。
 道標には     であると思われる文字が刻まれ、解読したところ森の  示していた。このため、実際の道標であったかは、いささか   ある。
 文面に従い進んで行くと、  注ぐ河の中島の丘に立つ石造りの建物を発見した。精霊信仰の  跡と推測されるが、詳細は未確認。
 この神殿跡を調査した結果、  国月道と地形が酷似しており、確認を要する』
 いつの間にか全員が聞いています。時々リーススさんが虫食いの穴のところに詰まると、いつの間にやらユパウルさんが横から覗いて、先を読んでいたり。所々ちょっと分かりませんが、月道って書いてあります。
 もしかして、これが探していたものなのでは?
「でも一枚だけって、そんなことはないんじゃない?」
 この日、みんなで一生懸命探したところ、もう一枚それらしいものが出てきました。こちらは地名がいっぱい並べて書いてあって、地名の後ろに『どこそこと同じ』とか『精霊目撃証言あり』とか注意書きがしてあります。
「環状列石ってどこだ、これ。ミュッデ‥‥滲んで読めないぞ」
 ユパウルさんが一生懸命書き写すのですが、分からないところはどうにもなりません。地名一覧も他の書類も、せっせと書き写してから、古いのと一緒にギルドに運ぶことにしました。
 ところで。
「月道の向こうには、知らないモンスターがいるかもしれませんね」
 ファリムさんは、他の人とちょっぴり違うことでどきどきしています。これにはみんなもびっくり。

●こんな状態で引き渡すなんて(セレストさんの不平たらたら)
 探していたものが見付かったのが、三日目の夕方でした。それから一生懸命、駄目になった書類を書き直していたら、四日目はすぐに過ぎてしまいました。残りのお仕事をやって、五日目ももう夕方近くです。そろそろギルドに整理した書類と、書き直した書類を届けなくてはいけません。
 届ける前に、ファリムさんとミストさんが年代順に並んでいるかを確かめています。それが終わると、リーススさんが布を被せて風で飛ばないようにするのです。後はユパウルさんのお馬に乗せて、さあ、ギルドに出発!
 そのはずなんですけれど‥‥
「諦めろって。ギルドマスターもそこまでは仕事じゃないって言ってたし」
 早く行こうと急かすユパウルさんの声など聞こえないように、セレストさんとグリシーヌさんとイーサさんがお掃除をしていました。
 日が暮れてから到着したギルドでは、係の人が『追加報酬』と言って、今度は葡萄をくれたのでした。