【月道探索】気分は小旅行

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 30 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月13日〜10月20日

リプレイ公開日:2005年10月23日

●オープニング

 依頼内容は興味深く聞いていた冒険者ギルドの係員だが、同行者として示された人物を見て、いささかどころではなくぎょっとした。
「こんにちわー、よろしくお願いしますー」
「‥‥月道の探索ですよね、いわゆる国の依頼ですよね」
「ええ。でも、月道のバードが当日留守にするわけにはいきませんから」
 十歳の女の子を連れて、月道探索に行きましょう。
 そんな依頼書を作りながら、係員は『いいんだろうか』と呟いていた。

 二十何年以上前、もっと前かもしれないノルマンで、一時期月道探索がこっそりと、でも結構な人数を使って行われたことがあったらしい。とはいえ、月道が発見されるのは、かなり偶然の要素が高い。
 探索する場合、例えば他の月道のある場所と地形が似ている、精霊が目撃されたことがあるなどで選ばれた場所で、月魔法のムーンロードを満月の夜に使うという博打めいた確認方法を取るのだ。もちろん見付かることは滅多にない。
 それでも国には重要なものゆえ、一度真剣に探してみようかということになったのだろう。ムーンロードを使えるバードは少ないので、まずは候補地の絞り込みを行った。この調査の結果は、簡潔に『候補地報告書』と呼ばれていたらしい。
 その後、ノルマンは本格的な月道探索に乗り出す前に一度滅んで復興し、その間に『候補地報告書』は散逸してしまった。最近その一部が見付かり、記された候補地にバードを送り込んでみようという話になったのだ。
 だからこれは、立派に国の依頼である。

 連れて行くバードは十歳の女の子、野宿なんかしたことがない、結構なお嬢さんだ。
「シルヴィでーす」
 行き先は、彼女の足だとちょうど丸一日。冒険者なら知っている者も多いだろう、シュバルツ城という。

●今回の参加者

 ea0858 滋藤 柾鷹(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea1999 クリミナ・ロッソ(54歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2789 レナン・ハルヴァード(31歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea4071 藍 星花(29歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 ea5765 アミ・バ(31歳・♀・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb0010 飛 天龍(26歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb1566 神剣 咲舞(40歳・♀・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

サラフィル・ローズィット(ea3776)/ シュゼット・ソレンジュ(eb1321)/ アニエス・グラン・クリュ(eb2949

●リプレイ本文

 月道が開くのは十五日の深夜。依頼を受けた八人の冒険者が集ったのが十三日の朝だから、移動にはいささかの余裕がある。同行するのが年少者なのでゆっくり歩くとしても、少し寄り道をすることは可能だ。
 大量の荷物を持ってやってきたバードのシルヴィと合流して、その荷物は適当に皆で分けて持った一同は、飛天龍(eb0010)と神剣咲舞(eb1566)の提案で月道の管理塔へ向かった。事前に話はギルドの係員から通してもらったと聞いても、本当に入れるのかと半信半疑だった者もいたが無事入る。
「シルヴィ、有名人だね。すごいや」
 仮にも国から派遣されるのだから月道管理塔とも関わりがあるらしく、顔見知りのマート・セレスティア(ea3852)や藍星花(ea4071)、付き添いのサラやアニエスが驚いたように、シルヴィは中の人々とも挨拶を交わしている。そうして、得意そうに言った。
「これから行くお城は、他所のお国の月道と地形がそっくりなの。どこのお国かは内緒よ」
 居合わせた係員に『ホントに内緒だぞ』と念押しされたシルヴィの台詞を聞いて、クリミナ・ロッソ(ea1999)が思わず漏らした言葉に頷いた者も何人か。
「あらまあ、せっかく見せていただいたけれど、それだと参考になりませんわね」
 ちなみに見せてもらったと言っても、月道がある塔の外側だけ。現地を拝んだわけではないから、そもそも参考になったかどうか。先にマートが『シルヴィが行くんだから期待薄い?』と言ってアミ・バ(ea5765)とレナン・ハルヴァード(ea2789)に叱られたのが思い起こされる。
 滋藤柾鷹(ea0858)は江戸からイギリスの月道を利用したことがあるが、パリもそれら同様に非常に物々しい警備が敷かれていて、いかに月道が国家財産として大事かを示しているのだ。確かに子供と冒険者に任せるものだろうかと思わなくもない。
 とはいえシルヴィはやる気満々だし、一同も依頼を受けたのだし、ありがたいことにセブンリーグブーツを貸してくれる仲間もあったので、まずは目的地に向かうことになったのだった。

 ところで、一同はシルヴィに負荷を掛けない速度で進むことでは意見の一致を見たが、どういう風にシュバルツ城まで行くかの調整はしていなかった。ついでにシルヴィは、馬に乗ってみたいとのたまう。
「乗せるのは、拙者の馬で問題はなかろう。代わりに靴をお借りする。それで数は合うだろう」
「初めての靴で大丈夫でしょうか。シルヴィちゃんも、落ちないようにしましょうね」
 柾鷹の駿馬にシルヴィを乗せ、彼とマート、クリミナが借り物のセブンリーグブーツに履き替えたころには、アミとレナンがそれぞれ馬で先行して、行く手の偵察を行っていた。聞けばシュバルツ城近辺は八月末の騒動以来は国が監視の目を置いて、あの騒動で近郊に散ったと思しきオーク類も冒険者がおおむね退治して、今はかなり平穏だというが、依頼内容が内容だけに警戒しないで済むものではない。
 幸いにして何の異常もないどころか、そもそも何十年来住む者もなかった城への道には通る人もなく、誰かが最近通った跡もなかった。出発が少し遅れたのと、なにより血腥い戦闘が行われた城内で夜営するのもまっぴらだと、レナンとアミは開けた場所の下見も済ませた後に、幾らか戻ってシルヴィとお守りの仲間が到着を待っていた。
「なんだか、大変だったのかしらね」
「私は前から知っているからいいけど、初対面だとそうかも」
 アミの問い掛けに苦笑交じりに答えた星花は、いつの間にかちゃっかり馬に乗り込んだマートが、シルヴィと一緒に干し果物を食べている様子を示した。その二人の横で、轡を並べてしまった天龍は耳を押さえ、馬をひく咲舞は小さく咳をしている。クリミナはさすがクレリックでにこやかさを保っているが、柾鷹はかなりげんなりした様子だ。アミでなくとも、何をしていたのやらと思うような状況である。
「そんなにしゃべってて、ムーンロード唱えるときに声が出なくなったら大変だよ」
 レナンがからかうが、シルヴィはたくさん話したつもりはないらしい。質問攻めにされた柾鷹や天龍や咲舞には異論もあろうが、喉が丈夫なのは間違いがない。
「力仕事なら、自信があったけど‥‥」
 子供のお守りとは明言しないが、これはなかなか難しいと零した咲舞の視線の先には、なぜだかマートも含まれていた。『お子様二人』のせわしないがどうでもいい内容の話から、天龍は偵察と上空に逃げ出している。
 そして。
「シュバルツ城がどんなところか、そういえば存じませんでしたわ」
「八月にさー」
 デビルに魂を売った男が、オークや質の悪い傭兵や仲間を率いて攻めた場所がシュバルツ城だ‥‥と、マートとシルヴィが交互に大きな声で説明し始めるのを聞いて、アミとレナンも耳を塞いだ。声量を考えていないので聞きにくい。
 そんなことは気にならないようで、感心かつ驚きながら聞いているクリミナを、尊敬した者は少なくない。しかし、そういう場所だと知らずに依頼を受けたのは、ある意味とんでもない話ではある。
 それでもこの日は何事もなく、夜営になった。

 問題があったのは、シルヴィの荷物の中身だ。本人が『お師匠様から預かった』と言い、とても厳重に封がされた木箱を引き摺るように持ってきていたのだが、中身が砂だと判明したのだ。もちろん夜営の際に、皆においしいものを食べさせてやろうと保存食の他に数日の保存が利く食品を持ち込んだ星花がクリミナと料理をし、マートが差し入れのお菓子を食前の軽いおやつとして食べていて、アミとレナンが馬の世話を、柾鷹と咲舞がテント張りをして、天龍がシルヴィのお守りをしていたときのことだ。
 月道が開く時間を確認するための道具と聞いたので、わざわざ何人もが荷物の積み替えをして乗せた箱なのに、中身は砂。シフールながら常に姿勢のよい天龍が、思わずがっくりと前屈みになった。
「その辺の砂じゃ駄目だったのか?」
「量を測ってあるから駄目。月の位置でも確認できるけど、念には念を入れるのよ」
 大事なお仕事なんだからとシルヴィは胸を張るが、もうちょっとうまい方法はなかったのかと皆は思ったり思わなかったり。ついでにシルヴィに確認したところでは、月道が開くと推測されているのはシュバルツ城の大広間がある辺り。けれども月道はムーンロードを至近距離で唱えないと開かないので、シルヴィの荷物には紐も入っていた。
「最初の位置で駄目なら、次はこの糸の描く丸より遠いところでもう一回ということ? 先に呪文を唱える場所に印をつけておいたら?」
 自身も魔法を使うナイトのアミが、紐の束を見て嘆息した。当日は砂時計の組み立てと呪文の使用箇所の確認を夕方までに終わらせなくてはならないようだ。砂時計は割と簡単な作りのようで、勝手に箱を開けて中を確認したマートが一時間はかからないと請け負った。実際に働くのが彼かどうかは、非常に怪しいが。それでも力仕事ならやり手はたくさんいるので、心配はない。
 なお、レナンや星花は開いた先のことを気にしていたが、今回の依頼で月道が確認されても向こう側に移ることは厳禁とされている。もしも月道が実在したら、一人は先行して報告に戻って欲しいということにもなっていた。あまり真剣には言われなかったが。
 それにしても、シュバルツ城内での作業は誰だって手早く済ませたいので、レナンが城の簡単な見取り図を地面に描き始め、シルヴィに大広間の場所を説明する。細かい補足は咲舞やアミが行った。シュバルツ城には地下室もあるが、月道が地下に敷設されている国は聞いたことがないとシルヴィが言うので、こちらはとりあえず異常がないかの確認だけすることになる。後に柾鷹の意見で、シルヴィが何か感じないかだけは確かめてもらうことになったのだが。
「その争いの跡があまりあるようだと、ちょっと考えますわね」
 クリミナの意見も尤もなので、いささか難しいところではある。
 そして、食事は干し果物や焼き菓子などの食後の楽しみもたっぷりで、とてもおいしくいただけた。

 翌日、手早く出立の準備をした一同は、昼前にはシュバルツ城に到着の見込みだった。昨日と変わらずレナンとアミが先行して、異常がないかを確認している。すると。
「ここで人に会うとは思わなかったな」
 徒歩にしてはしっかりと鎧を着込んだ風情の壮年の男性が、城近くに佇んでいるのと行き会った。蹄の音が聞こえていたのか、男性は彼らのほうを見ながら悠然と立っている。敵意はまったく感じられなかった。
「城の警備の方々がいると聞いたが、そのお役目かな?」
「いえ、知人に頼まれて城までの道案内です。遺品を見つけたいというもので」
「そうか。私も先の争いで死んだ古い知人の跡でもと思ってな」
 敵意も感じさせず、身なりも整った男性の問いに、あまり正直ではない返事を返したアミを疑うでもなく、相手はのんびりと言葉を紡いだ。八月の争いでは、騎士団の何人かが蘇生も叶わずに亡くなっている。その縁者だろうかとレナンが思っていると、男性は会釈をして道もない方向に向かっていく。乗騎がそちらに向かってしまったと、悠然と言い残して。
 男性が立ち去る前に、レナンがせっかくなのでクレリックに祈ってもらったらどうかと提案していたのだが、相手は慈母の使徒ではないからと断っていた。後ほど合流したクリミナはそれを聞いて、黒の使徒では仕方ないと残念がっていたが、仕事の内容が漏れてもいけないと意見もあって諦めたようだ。
「後でも、そういう御仁がいたと警邏に知らせたほうがよいのではないかな。怪しげな男がうろついていたとされては、哀れでござろう」
 柾鷹の言い分も尤もだが、流石にそのためだけに人手を割くには時間がない。天龍が城壁の外から良く見える位置に目立つ布などを結び付け、人がいることが分かるようにした。ついでに上空から城の様子などを見て、一言。
「あの辺は崩れかけているからシルヴィは近付かない」
 朝方、あれだけ面倒を見たんだから言うことを聞きなさい。習慣の十二形意拳の型をさらっていた時に、一々説明した分の取り戻しを狙った天龍だった。分かったかと念押しされて、シルヴィは涙目で頷いている。そんなに厳しく言ったつもりはない天龍は少々慌てたが、乗馬に縁のないシルヴィが二日も馬に乗ったせいであちこち擦りむいていただけだと知って安堵する。
「あれほど、疲れたりしたら言ってねと言ったのに。我慢強いのもよしあしよ」
 ここに着くまでは、相変わらず気持ちよく話していて気付かなかったお喋り娘をひょいと抱えて、星花が嘆息している。擦り傷程度でクリミナを煩わせるのも普通はしないことだが、なにしろ今回の依頼の成否がシルヴィに掛かっているのだ。痛い痒いを言わせている場合でない。
 その間に、マートは咲舞に力仕事を全部押し付けて、砂時計を組んでいた。要するに積んできた砂が器に開けた穴から全部落ちきったら月道が開く時間と調整してあるので、非常に簡素なつくりだ。ほとんど器を載せる台を組むだけのこと。
「うーん、咲舞ねーちゃんは不器用だな」
「大工仕事は縁がないからね。ここ、ぐらついたらいけないわよね‥‥」
 マートがやれば、あっという間にぐらつきが直るのだから、最初から一人でやればよかったのだろうが‥‥本日の彼は朝の残りのパンを消費するのに忙しいから、咲舞に働いて欲しかったようだ。後で誰かに蹴られていたが、その誰かは怒られなかった。
 そんなこんなしている間に、柾鷹やアミ、レナン、天龍が城内、特に大広間の様子を確認し、格別心配はないだろうと落ち着いた。もちろん月道が開く時間までは、常時誰かしらが見張りに立っている前提だ。血の跡がなければここで寝れば済むことだがと、レナンは苦笑い。デビルが出てくるんじゃないかと、冗談を口にしていた彼にしたら、こうまで何もないとかえって心配になるのかもしれない。
「後は地下か。明かりはたくさんないと不味いよな?」
「でも、カルロスが斬られたところよね‥‥」
「シルヴィには見えないほうがいいものが、ここ以上に残っているでござろうな」
 まずは明かりを十分に用意して、先に自分達で様子を見てから、シルヴィを入れるかどうか決める。明かりを誰が持つかでちょっと調整に手間取ったが、無事に先行確認を終えてシルヴィを連れて行けば、
「寒いね、ここ」
 の一言で終わってしまった。途中、靴の爪先でなにやら床を擦っていたのは、石に入った模様が面白かったからだと言う。
 結局は、大広間のあたりという当初の予定で動くことになりそうだ。

「もし開くなら、珍しい食材が安く手に入るところがいいわね」
 星花はのんびりと言うが、月道が実際に開くかは今のところ分からない。マートの『シルヴィが寄越されるくらいだから』説も有力ではあるが、一同に支払われる報酬は結構な額だ。さて、どうなることやらと日暮れと同時に動き出した簡素な砂時計を見ながら、警戒怠りなく見ていた一同だったが、まずつまずいたのはクリミナだった。
「あらまあ、お恥ずかしい。いつもはもっと成功するのに」
「月道が開く場所では、他の魔法が制限されるようなことでもあるのだろうか」
 グッドラックをシルヴィに施そうとしたが、何度試してもうまく行かないので、アミが思い付いて尋ねてみる。時間が迫っているが、そういう前例があれば望みのある場所だと言うことだ。応えたシルヴィは。
「神聖魔法は使っているのを見たことがないから知らないの。精霊魔法は全然平気よ。もちろん月道が開くときには普通は使わないけどね」
 何かあったら大変だからと、こんなときでも長く話す。すでに大広間の最初の候補場所に立って、砂時計が時刻を示したとの知らせを待ってところだ。レナンや柾鷹などの月道を利用したことのある者が、魔法の効果を見定めようと両脇にいる。マートが石を握って混じっているのは、月道が開いたら石を投げ込んでみたいかららしい。
 結局グッドラックが成功しないままに、刻限が来たことを咲舞が知らせた。シルヴィの体が銀色に光って、それが収束しても変化はない。移動の順番を間違えないように星花と咲舞が交互にシルヴィを抱えて移動させ、次々と試すが変化はなかった。
「駄目‥‥かな」
 天龍の嘆息に、大広間のすぐ外で周囲の警戒をしていたアミは無言で肩をすくめただけだった。
「次の機会にでも、また別の場所で探してみようよ」
 マートに言われると、腹が立つのはなぜだろう。シルヴィがぽかぽか殴ろうとするのを、協力する者はいても、止めたのはクリミナだけだった。

 どうやら外れのようでした。
 その経緯の報告も詳細に求めたシルヴィの師匠は、彼らの労をこうねぎらった。
「私など百箇所は捜し歩きましたが、まだ一つも見つけたことはありませんから」
 これまた、あまり嬉しくない労いである。