【ドラゴン襲来】イグドラシルへの遠い道
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:9〜15lv
難易度:やや難
成功報酬:6 G 48 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月27日〜11月03日
リプレイ公開日:2005年11月06日
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●オープニング
この日、ドレスタットの領主館の女官長は、海戦騎士団員でバードでエイリーク信奉者のララディが跳ねるように走っていくのを目撃した。歩幅はいつもの倍はあっただろう。
「邸内はお静かになさいませ。それと、その偽物の毛など捨てておしまいなさい」
女官長は巷で『エイリークの赤毛』として流通している品物を非常に嫌っていた。色も艶もこしも違うと、かなりのご立腹である。
ところがララディは『エイリーク様に髪を切ってなんて言えないし』と、偽物のそれを大事に持ち歩いていた。どうやら最初は誰かから取り上げ、以降は話を聞きつけた騎士団員がくれたとかで五束も。この日もそれを大事に抱えていたので、女官長がいい加減にしなさいと怒ったのだが。
「これは駄目です。だって奥方様からいただいたんですもの。うふふ、本物ですよ、本物」
どこをどう巡ったものか、エイリークの妻のガルスヴィンドがララディの奇癖を耳にしたらしい。ララディは『偽物だろうと、航海のお守りになる!』と断言して赤毛の束を持ち歩いていたから、心優しい奥方がエイリークに頼んで一房髪を切ってもらったのだ。ララディが跳ね歩いていたのは、それを貰ってあまりに嬉しかったからだ。
「これでもう、あたし死んでも悔いはない!」
「伯もシールケル様も、あなたを海で死なせるために助けた訳ではないでしょう。滅多なことを言うものではありませんよ」
浮かれたにしては物騒な発言を聞きとがめた女官長は、もちろんララディに小言を忘れなかったが、受ける側はにやりと笑ってこう返した。
「なに言っても、分けてあげませんからね。これはあたしのものですー」
そうして、走って逃げた。
この日の夕暮れ、海戦騎士団と館の有力女性陣にエイリークがなにやら詰め寄られている光景を見た者がいたとかいないとか。
そして、この日の夕暮れの冒険者ギルドでは。
「あのね、シールケル様、そういうわけで八人ほど都合して欲しいんですけど。陸戦に強い奴」
「受付で言え。受付で」
海戦騎士団の権力でギルドマスターの執務室まで押し入ったララディが、シールケルを相手に『お強請り』をしていた。片手にナイフを握り、相手の髪を掴んでの『お強請り』は一見すると只ならぬ気配だがシールケルは煩そうに手を振ったのみだ。目は手元の書類から離れない。
「だいたいイグドラシルに行くなら、海戦に強い奴だろう。徒歩で行くわけじゃあるまい」
「馬で。あたしは乗れないから、馬車ですけど。お宝運ぶのに、丈夫な馬車選びましたから」
「‥‥例のお宝を、お前が運ぶのか? 切るならとっとと切れ」
しっかりと髪を掴んでいるララディが、根負けしたようなシールケルの言葉に一房だけ黒髪を切り落とした。それを器用に紐でくくり、小さな皮袋に収めて首から吊るしている。頬擦りしているのは、シールケルは見ないことにしたようだ。
繰り返したのは、先程の質問である。
「そうですよー。だってあたしが管理していたのに、なんで他人に運ばせますか。そんなわけで、強いの八人ください」
執務机の横に座り込んで、『お強請り』を繰り返す依頼人と言うのも珍しいが、シールケルは先程までとは打って変わって真剣な顔付きになった。ララディにルートを確認し、近隣都市国家の勢力範囲を避けて海岸沿いを行くと返答を得ると、更に厳しい表情を浮かべる。
「八人か」
「そうです。男女、剣、魔法の別は問いません。ぜひ強くて、協調性があるのを」
「ついでに囮に十分な知名度と、ころりと騙されてくれる素直さと、事実を知っても怒らない温和な奴か? そんなのいるか」
いたとしても、ギルドとしてそんな仕事の斡旋は出来ない。ギルドマスターに断言されて、ララディはしばらく黙り込んだが‥‥
「本物だもーん」
「俺やエイリークを騙せたことが一度でもあったか、おまえ」
口にした言葉に言い返され、また黙り込んだ。
「‥‥どうしたもんですかねぇ」
「どれが本物を運んでも構わん。次々それらしいのを出発させる。死人は出さずに戻ってくるのが、中堅幹部としての務めだと、エイリークの野郎から伝言だ」
すでに完成して、後は掲示されるばかりの依頼書を示されたララディは俯いたと思いきや。
うふふふと、気持ち悪い笑い方をしているのが聞き取れた。
「やっぱりあたし、エイリーク様とシールケル様のためなら死んでもいい」
「俺達は迷惑だ」
シールケルの心底からの台詞は耳に入らなかったようで、ララディは依頼書を握って受付へと跳ね歩いていった。
『ドラゴンの宝をイグドラシルまで輸送する隊の護衛人員募集』
●リプレイ本文
ああ、もうやった。相手は誰だ。勝った。負けた。何であの子供なのよ。それより誰か止めなくてもいいものか。でもかなり怒ってるぞ。なに言っちゃったんだろう。
打擲音が響いたというのに、まるで慌てる様子もなく言い交わしている海戦騎士団の人々を前に、ヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)とイコン・シュターライゼン(ea7891)はかなり面食らった。そうなった理由は、明らかに彼らが上司のララディが最初に誰に怒りをぶつけるかで賭けていたことだ。察するに大穴だったらしい。
「なにしてやがる、挨拶しただけじゃねーかっ」
「陸戦に強い奴って条件の護衛に参加して、『弱すぎて役に立てないかもしれない』ってほざいた餓鬼を躾けて何が悪い。条件も聞かずに、どの面下げて仕事に来た」
集った冒険者の顔と名前を一人ずつ確認していたララディが、美芳野ひなた(ea1856)と顔を合わせたところで、なにやら悶着が発生したらしい。先程互いに久し振りだと言い合っていた巴渓(ea0167)が食って掛かるが、ララディは言うだけ言って、アマツ・オオトリ(ea1842)の馬の確認に向かっている。こちらでも何か言われたかもしれないが、まったく取り合っていなかった。
「ふむ。ギルドが仕事を斡旋した以上、経験が不足していることはあるまいがのう」
「でも、護衛が『弱いです』って口にしたら、守られる側は何を頼ります? 弱い護衛なんか雇う意味ないでしょう。安心が欲しくて大枚払うのですから」
風のウィザードでリィと名乗った女性が、ヘラクレイオスの呟きに返してきた。今回の依頼は海戦騎士団からで、イコンやヘラクレイオス、アマツと同じ騎士やエイジス・レーヴァティン(ea9907)と同じファイター、それからウィザードが何人か参加するとは聞いているが、彼等と共に『荷物』の護衛をするのだから、条件から外れていたり、心構えがないのは迷惑だと言うことらしい。それはそれで、理屈は通るが。
「んん〜、相変わらずララディ嬢はかっ飛んでおるの〜。言うより先に手を出しては、しつけにならんのであるよ」
こちらも騎士とはいえ、この季節に全裸に近い格好で高笑いをするマスク・ド・フンドーシ(eb1259)に指摘されたら、きっとまた怒るのだろうなとララディと行動を共にしたことのあるエイジスなどは思ったのだが、案外とそんなことはなかった。
「見てるほうが寒いから、何か着て。一応若い娘どもがいるんだしさ」
女性陣全部が、これは冒険者も騎士団も問わずに目を背けているというのに、一人平気でマスクの腕などぺたぺた叩きながら言っていた。
「なるほど。イグドラシルまでの強行軍を命じられるだけのことはあります」
イコンの感嘆に何人が頷いたかは、誰も数えていなかった。
今回の依頼は、イグドラシルまで『契約の宝』『ドラゴンの宝』『ギャラルホルン』などと呼ばれる品物を戻しに行くことだ。これはロキという名のハーフエルフに持ち出され、どういう経緯でか二つに割れて、片方がエイリークの手元に来たものだ。ドラゴンがドレスタットと近郊を襲ったのも、この宝を捜し求めてだが、ロキがあちこちを襲うように仕向けた可能性も高い。
しかもロキはドレスタット近郊に領地を構える貴族の何人かに接近して、不和の種を撒いたのみならず、ユトレヒト侯国にも手を伸ばし、侯爵側近と通じて暗躍しようとしていたらしい。これは最近、侯爵ソルゲストルに気付かれて、姿を消した模様。つまりは行方知れずだ。
挙げ句にロキには海賊、山賊、ハーフエルフの個人から集団まで、さらに怪しげな団体と片手では数え切れない種類の部下と協力者がいて、これが昨年来ドレスタットと近郊各地で暗躍している。捕縛、処刑された者もいれば、戦って殺した者、いまだ逃げ延びている輩と色々だが、ロキは他人の歓心を買う能力に長けているらしい。
そして一度は、精霊を支配下に置いていたことがある。これはどうやったのか、まったく不明だ。
「ま、本人が来たら聞けばいいわ」
今回の依頼に関わりそうなこれまでの経緯を全員に周知して欲しいとイコンに願われたララディは、相槌を打つ間もない速度で情報を話した。一度だけイコンが表情を動かしたが、他国に関わることなので口は噤んでいる。ここで余計なことを言えば、間違いなく十発は殴られるからだ。たいして痛くもなろうが、時間の無駄ではある。
彼らは馬車と馬に分かれて、海岸沿いに道もないところを進んでいるところだった。イコンとヘラクレイオス、アマツと巴が馬で、ひなた、エイジス、マスクは馬車に分乗している。騎士団は半数が馬、半数が馬車で、見た目に大差のない馬車は四台もあった。乗り手はジャイアントのマスクがいるとはいえ、十一人である。御者の横にひなたが座れるのだから、四台は必要ない。乗れなければ、エイジスはセブンリーグブーツで併走するつもりでいたくらいだ。
「要するに、囮は派手なほうがいいってことだろ」
今だ諭すより先にひなたを殴ったと不機嫌の直らぬ巴が口にしたのは、ある程度皆が感じていたことでもある。イグドラシルまでの道行きは、早馬で疾走すれば一日か二日で着かないことはない。わざわざ海岸沿いに行かずとも、どうせ道のないところを進むならまっすぐにそこを目指せばいいことだ。ただし、島なのだから最後に船はいる。その準備はない。代わりのように、ポーションの類が山ほど積んであった。
これで察しなかったら、かなり鈍いか、素直に過ぎる。冒険者の中では、ひなたがきょとんとしたままで、巴が不満顔だが、アマツはほぼ無表情、エイジスはにこにこと、マスクは機嫌が良く、イコンとヘラクレイオスはまあ普通の顔。
「こんなに買ったら高いですよね。これも宝物ですか?」
ひなたに尋ねられた騎士団員はなんとも言えない顔をしたが、一応宝はララディが持っているとは答えた。ララディの膝に乗るほどの木箱は厳重に封がされて、馬車の中では当人がその上に座っている。これを守って、イグドラシルまで届けるようにと依頼書にはあった。
急ぐはずの道行きにしてはいささか遅めに、だが緊急時に馬がへたり込むようなことがない程度の速度で一行は進み、夜にはウィザード達がトラップ系の魔法を各所に仕掛けた輪の中で見張りを立てつつ休息した。
たいして会話も弾まなければ、食事以外に楽しいこともない、ひたすらの移動である。
唯一の幸いは、ひなたが手際よく暖かい食事を準備してくれたことだろうか。
海岸沿いを進むのだから、たいてい海が横に見える。入り組んだ入り江が限りなく続くわけでもないから、最初は船の姿も見えていた。が、それとて一日目のことだ。
そうして三日目。行く先の入り江に浮かぶ船を見て、皆に共通したのは確信だ。ここで嫌な予感などと言っても始まらない。敵が現れたのである。
「どうせなら、ロキと対決したいよね」
これまでといささか種類の違う笑みを表情に刷いて、エイジスが盾を構えた。今にも馬車から飛び出しそうだったララディは、マスクにひょいと奥に押し込まれている。
その間に、乗馬していた面々が手近の馬車の陰に入る。こちらに向かってくるいかにも怪しげな、武装した一団が弓を手にしていたからだ。
「馬っ鹿じゃねーのか、丸見えで襲ってきて勝つつもりか」
自分の馬から飛び降りて、素早くナックルを着けた巴が最初の矢の波が届いた直後に駆け出そうとしたが、同様に地に下りたアマツに引き止められた。
途端に、馬車の前方で炎が弾けた。魔法同士のぶつかりあいだと判ろうが判るまいが、爆風で巻き上がった土埃が薄れる頃には、剣を持った者の大半が周囲に散っていた。その動きには敵も味方もない。
「陣形というほどのこともないか」
渓と共に飛び出したアマツが、あまり手入れも良くなさそうな剣を受けつつ、周囲を見渡した。敵は人間とドワーフが半々くらい、大半はファイター崩れだろう。力量に差があるのは、寄せ集めなのかもしれない。少なくとも、互いに距離を測り、協力し合うほどの動きは、彼女の目には映らなかった。
明らかに馬を狙っていた一人を切り伏せたアマツは、渓がもう一人をうまく気絶させたのを確認して、その剣を蹴り飛ばした。渓も馬に近付くものがいないか視線を巡らせて、興奮した馬をなだめるようにその首筋を軽く叩いた。
その間に大凧を抱えた、正確にはしがみついたひなたは、『宝』を積んでいるララディが乗った馬車に移っていた。こちらはマスクが相変わらずの姿で立ち塞がっている。
「手足がなくてもいいから生け捕りにして。あんたも働け」
「威勢がよいのはいいが、目立つと狙い打たれるのである。静かにするのだ」
自分が言われたわけではないが、ひなたは大凧の使い道を説明するより先に、一度口を噤んだ。それから一呼吸して、大ガマを呼び出す。彼女は大ガマと言わずに、ちゃっぴいと呼ぶが。
「襲ってきた人を近付けたら駄目なの!」
突如現れた大ガマちゃっぴいに、襲ってきた側の数人がなにやら叫んだ。うち一人は近くにいたので、足で踏みつけさせる。さすがにひなたは『手足がなくてもいい』とは思い切らなかった。そもそも、刃物の類で一番慣れているのは包丁だ。
倒れた男はマスクが鳩尾に一撃入れる。本当は縛っておきたいところだろうが、さすがに周囲に魔法が飛び交う中でそれは難しい。ついでにマスクは、ララディが御者台から飛び降りないように抑える役目もある。
「宝の箱、大丈夫なの?」
「あ、代わりに見といて」
まったく疑いもせず、馬車の中の木箱を大事に抱え込んだひなたに、マスクがちょっとばかり唸ったが、それ以上の余裕はなかった。
これより少し前のこと。ヘラクレイオスは最前線に愛馬で乗り入れていた。相手は魔法の使い手より、剣を使う人数が多いようなので、まずは後方の魔法使い達に彼らを寄せ付けないことが一番だ。ララディ配下の騎士やファイターにも、馬上からの攻撃が得意な者が数名いるので、彼らが一応の最前線だ。
一応というのは、その前に一人いるからである。
「狂化したハーフエルフなど、捨て置く‥‥で十分じゃろうに」
それではララディが憤死すると、冗談交じりに言う余裕のある騎士に、ヘラクレイオスはいっそ憤死しても構わないと返したかったが、シールケルに恩のあるというララディが冒険者を死なせては悔やむのも当然かと言わずに済ませた。
ただし、率先してハーフエルフを助けるつもりなど欠片もない。狂化して一人飛び出したエイジスのために、後方を危うくすることは出来ないからだ。そうして、不満と怒りは襲ってきた同族を切り伏せることで多は晴らされないから、不機嫌なままだ。
その間、エイジスは弓手の内臓をぶちまけること一回、魔法使いの腕を切り落とすこと一回の戦績を含めて、何人かを葬っていた。それ相応の傷は受けたが、だからと歩みが止まるなら狂化ではない。死ねば止まろうが、骨が覗いたくらいではまだ動いていた。
正面に、紫色のローブを纏った男が立っている。
「腕利きを揃えたようだが、さて、当たりかどうかな」
男の前に最後の一人を三合でエイジスが切り捨てる間に、男は懐からなにやら中途半端な品物を取り出した。
確かに、その瞬間は空気が震えた。
「あれが、おそらくロキです」
瞬時にエイジスの身体の各所が切り裂かれ、さすがによろめいた彼の向こうで、つむじ風にローブを跳ね上げられた男を見て、腕の血を払いつつ、イコンが低く告げた。この期に及んで紫のローブに、白い髪、風で舞い上がったその下にあったのはエイジスと同じく半端と称される長さの耳だ。
そうして。
「共鳴がないところを見ると、『こちらも』偽物らしい。随分と念の入ったことだ」
音のしない角笛をまた仕舞い込み、足元に伏せた狐のような精霊に何事か告げたロキは、手勢をまとめることもせずに、ふいと姿を消した。あまりに突然で、まだ騎士団員や冒険者と戦っていた者達の威勢が殺がれた途端、あちこちで血しぶきが上がる。
「トッドローリィ、風の精霊に縁付いてるじゃない」
敵味方関係なく、十数人に切りつけた精霊が消え去った時に、ララディはそう吐き捨てた。ひなた共々マスクが身体を張って庇いはしたが、彼女もまるきりの無傷ではない。
「どうします。先を急ぎますか」
長くはなかった戦いの間に、船は入り江を離れていた。追う方法はない。
それなら、怪我の少ない何人かで目的地に向かおうと言うイコンに、返された台詞はいささか素っ気ない。
「戻るわよ。倒したのも、息があるなら連れて行かないと。あ、今のうちにロキの顔、よくよく記録しておいて」
囮は終わりかと渓が揶揄したが、それとて大分息が切れていた。出血も少なくないが、危うくどこかに逃げ去るところだった馬を捉えてくれたアマツには、先に馬にポーションを与えるように言っている。かろうじて怪我のないひなたが、せっせとポーションの箱を開けては、怪我人と馬に配っていた。
ヘラクレイオスも受け取って、愛馬のケイロンには目立つ傷がないことを確認してから飲み干した。それでも、他の者と同様に虚脱感は拭えない。疲れているが、幕切れが不満というところだ。
精霊が現れなければ、相打ちくらいは出来たかもしれないと、ポーションを何本か消費してようやく意識が戻ったエイジスが、にこにこと口にした思いとある程度は共通しよう。少なくとも、誰かが一太刀なりと浴びせたはずだと。
戻ると決めたララディと、なにやら吹っ切った気配のイコンだけは屈託がない。
「あんた、先に行けそう?」
「あいにくと、僕の腕では速度が稼げるとは限りません。馬は元気ですが、ちょっと興奮が収まりきっていませんしね」
「じゃ、落ち着かせるから貸して」
どうぞと、何より情報伝達を急ぐことに賛成のイコンが頷いたので、ララディはテレパシーを使ったようだ。他に何頭か選んで、騎士を乗せて送り出す。
「しかし、島の守り手といい、今回といい、精霊がどうしてロキに従うのか‥‥」
イコンの呟きに、敢えて応えた者はいなかった。
往路の約半分の時間でドレスタットに戻った一行は、先行した騎士達から後発の『宝を返すための一行』複数に情報が回されたと聞いてから、解散した。
まずは血と埃を落として、それから休息だろう。