【月道探索】シュバルツ城地下室探索

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:9〜15lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:11月14日〜11月19日

リプレイ公開日:2005年11月24日

●オープニング

 シュバルツ城をまた調査に行くので、人を募ってください。
 こう依頼をされて、冒険者ギルドの係員はちょっと面食らった。依頼に来た人々が、顔馴染みだったせいである。
「今から集めると、満月に間に合うか分かりませんけど、それでいいですか?」
「月道は、この間開かなかったので‥‥ちょっと別口の調査ですの。誰か一人でいいので、クレリックの方と、それから魔法物品のホーリーシンボルをお持ちの方がいるとありがたいですわ」
 本当は白黒両方の神聖魔法の使い手がいるといいけれど、とりあえず一人いればよし。ホーリーシンボルは一つあれば問題なし。
 そして行く先はシュバルツ城で、今回は地下室の探索だ。月道関係ではないらしい。
 その割に、同行者にムーンロードしか使えないバードのシルヴィと、その叔母のウィザードのアデラがあげられている。この二人を連れて行って、シュバルツ城の地下室で神聖魔法の使い手を働かせる依頼。
 しかも、国から。
「どのくらい、危ない仕事なんですか? とお尋ねするのはいけないもんですかね」
「もしかしたら危ないけど、危なくない可能性もあるという話ですわね」
「月道警備担当が、満月に仕事場置いて行く依頼ですからね‥‥何のウィザードでしたっけ?」
「水ですわ。クリエイトウォーターとウォーターコントロールしか使えませんけれど」
 警備にしては変わった魔法の選択だと係員は思ったが、アデラはあっけらかんと続けた。
「籠城しても水に困りませんし、操れれば一人二人は窒息させられますでしょう? デビルが出たら、お役に立てそうにありませんけれど」
 いっそ、いつものようにお茶会をしていて欲しいと切実に思った係員だった。

 シュバルツ城地下室探索。
 すでに隠し通路などの建物全体は確認が済んでいるが、今回は魔法発動の状況を確かめるためのものである。

●今回の参加者

 ea0073 無天 焔威(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2606 クライフ・デニーロ(30歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea2924 レイジ・クロゾルム(37歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3674 源真 霧矢(34歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb0010 飛 天龍(26歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ 野乃宮 美凪(eb1859)/ アニエス・グラン・クリュ(eb2949

●リプレイ本文

 どうも同行者にいいことがなさそう。という嬉しくない太陽のお告げを聞いて、でも顔にはまったく表さずに源真霧矢(ea3674)はアデラとシルヴィの二人と合流した。今回は地下室用の明かりにと、ランタンと油を大量に持ち込んでいる二人共に面識があるのは、居合わせる冒険者では彼だけだ。
 飛天龍(eb0010)が元気よく『しふしふ〜』とシルヴィと挨拶を交わしているが、彼は前回シュバルツ城の月道探索にも参加しており、シルヴィとは面識がある。後は霧矢とフランシア・ド・フルール(ea3047)の見送りでやってきたアニエスと、フォーノリッジを使った美凪が、前者は喜色満面、後者はいささか固い表情でシルヴィと話しこんでいた。
 ちなみにアデラ達が持ってきた荷物は、ルイス・マリスカル(ea3063)が自分の駿馬に乗せてくれた。彼はアデラの分のセブンリーグブーツも用意しており、行程短縮に抜かりない。シルヴィは霧矢が預かったものを履く。
 ところで。
「‥‥なんというか、緊張感の薄れる同行人だな」
 呆れ果てたといわんばかりの口調と態度でレイジ・クロゾルム(ea2924)が言うが、神聖騎士のニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)ですら、咎めたのは口調と態度のみ。言った内容は、聞いたフランシアが額を押さえたことで、ある程度同感なのだと知れた。他の者は、おおむねもう少し感情表現が露骨だ。
 とはいえ、同行人がまるで旅行に連れて行ってもらうかのような風情でも、のんびりしている暇はない。人が揃うと共にシュバルツ城に向けて、十人は出発した。
 早々に一つ分かったのが。
「あれ、あの城ってマント領に入ってないんだ? てっきりそうだから、騒動の場所になったんだとばっかり」
 他人の土地で騒ぐなんて最低だなと、八月末にシュバルツ城で平らげられたカルロスを評した無天焔威(ea0073)が思い違いを正した。それこそカルロスが倒れるところを目撃した一人なのだが、土地勘は今ひとつのようだ。だがシルヴィに問われるまま、そのときの様子を面白おかしく語り聞かせている。
 途中、アデラが補足したところでは、シュバルツ城内の探索は騎士団などにより一通り行われ、地下室と外を結ぶ通路も道筋は明らかになっているそうだ。細かい地図は、騎士団や周辺警備の責任者等しか持っていないので、すぐ見ることは叶わなかったが。
「そういえば、魔法物品の手配をお願いしていましたが、いかようなものが?」
「それはわたくしが持参しましたけれど‥‥」
 クライフ・デニーロ(ea2606)のアデラへの問い掛けに、先に応えたのはフランシアだった。貴金属と宝石を使いつつも華美より神々しいと感じさせる十字架を包んでいた布から取り出して見せたが、目的次第では力を貸せぬと断言する。大いなる父の教えに外れるのであれば、この場で正してみせようかという気迫の籠もった断言だ。
 霧矢やクライフがいささか心配そうに、レイジは皮肉っぽく唇を歪めて、他の四人が困惑気味に様子を見守っている中、アデラはあっけらかんと言った。
「謀反者が倒されるまでは、地下室で神聖魔法が使えたそうなんですの。その場にいらした方々が使っていたのですから。間違いありませんわね」
 しかし、前回の報告を受けて後、衛士に含まれる神聖騎士が神聖魔法を試したが発動しない。稀にはするので、正確には異様に発動率が低くなっている。このため、カルロスが倒れた日に起きたことの証言記録を片端から再確認した結果、カルロスが地下室の床に何かの魔法を展開した後からこの発動の低さが始まっているのではないかと推測された。
「せやかて、あの時はそれこそ神聖魔法で倒したんとちゃうんか?」
 霧矢のあごを擦りながらの尋ねに、返事は今度はのんびりとしていた。
「聖櫃に触れていなかった方の神聖魔法は、ほとんど発動していないようです。反面、聖櫃に触れていると不思議なほど効果があったようですけれど」
 神聖魔法の異常は、地下室とその上の空間に限定されている。それで魔法効果のある聖印を使った場合の様子確認を、冒険者ギルドに依頼したわけだ。
「主の御力の顕現を遮るものがあるとしたら、それは除かれねばなりませんね」
 言うことはもっともだけど、今背筋が冷たかったのはその迫力のせいでしょうかとルイスとニルナが思ったのは、多分多少の差はあれ他の者にも共通した気分だろう。シルヴィは焔威の手を握り、反対の手で天龍を握り締めている。
 何はともあれ、道行は順調だ。
 途中、足腰を鍛えると天龍が歩いてみたり、シュバルツ城が見えたところでフランシアとニルナがそれぞれホーリーフィールドを張ってみて、発動したものは霧矢が始末したりと、色々したのだが順調だった。
「現地では時間を変えて試してみるべきかもしれませんね。それとムーンロードも、聖櫃が置かれていた場所なら反応が違うかもしれませんよ」
 クライフがそう言い出した夕暮れ間近に、一行はシュバルツ城前に辿り着いた。

 今回は警備に当たっている人々にも最近の状況を聞いてみようということになって、一行は警邏の衛士が詰めている天幕に立ち寄った。白湯など振舞われての会話では、もちろん城に近付く人はいないとのことだった。ただ前回シルヴィや天龍が来た折に行き会ったという男性も、彼らは目撃していない。
 その男性が白の信徒ではないから黒というのは早計ではないかとフランシアが口にして、なるほどなと思った者も複数。なにしろ最近は悪魔崇拝とやらが幅を利かせている。デビル本体と言うこともないではなかろうが、これと言って血生臭い事件は起きていないそうだ。
 ただ、パリ近郊で子供の誘拐事件が多発しており、街道を外れて移動している者を見付けた場合には、荷物をすべて改めることと命じられているとか。もちろん冒険者の身元は国の依頼を受けたと言うことで保障されていて、荷物を漁られることはなかったが。
「人間なら十歳前後の子供? まあ、シルヴィさんも気をつけませんと」
「勝手にふらふら出掛けるんなよ。探すのは仕事じゃないからな」
 ニルナとレイジに言われたシルヴィか頷いたように、誘拐されているのは人間なら十歳前後、またはエルフの同年齢外見の子供で男女の区別はない。場合によっては彼らの中にもその話を聞いたことがある者がいたかもしれないが、死人も出ているなど子供の前では話題にはされなかった。
 それはともかく、焔威の頼みで地下室に繋がる通路の見取り図が持ってこられた。城外と地下室共に出入り口は一箇所、内部は分岐が幾つもあるが、その先に開く出口はない。ただしこうした通路の常で、曲がりくねって道に迷いやすくなっているそうだ。今は進路を示した記号が壁に記してあって、それが分かる者は迷わないようになっている。当然記号も教えてもらい、通路は頭に叩き込んだ。
 写しを取らなかったのは、万が一にも敵と遭遇した際に奪われることを警戒して。デビル側にも通路の存在は知られているだろうが、正確な道筋まで知られているとは限らない。用心に越したことはなかった。
 そうして翌日15日、まずは天龍に上空から、そしてルイスや焔威、霧矢が周辺に異常がないかを確認して、揃って地下室に入った。調査は冒険者だけで出来るが、アデラは見届け人なので同行が必要だし、となるとシルヴィを置いて二手に分かれるのも具合が悪いからだ。
「前はさ、ここに来た時にはみんな死に掛けてて笑った笑った」
 不謹慎なとニルナとフランシアに睨まれたが、焔威はいかにその時が大変だったかとアデラとシルヴィに語っている。最後に『だから血の跡なんかひどいぞ、きっと』と追加しなかったら、霧矢あたりにぽこりとやられていただろう。
「暗いですから、誰かと手を繋いでいてくださいね。いえ、私ではなくて」
 シルヴィの直前を歩いていたルイスが促したら、シルヴィに握られたのは彼の手だった。彼は実は両手利きだが、万一の際に片手に子供を抱えて戦うのはもちろん好ましくない。教育云々ではなく、シルヴィとアデラに敵を近付けるのは大問題だからだ。
 結局、クライフが手を引いて歩く。アデラは暗い通路に慣れないようで、時々よろめいては結局ルイスに助けられていた。
 やがて、地下室で。
「こちらは全然駄目です。こんなに失敗するなんて‥‥」
「一応成功しましたが、やはり聖十字架あっての成功のようです」
 白黒の差はあるが、神聖魔法を使った二人が異口同音に『確かにおかしい』と漏らすまでには、それほどの時間は掛からなかった。試しにアデラがクリエイトウォーターを使うと、ちゃんと水が湧き出す。
 更にレイジが取り出した聖水を床に振りまいてみると、ニルナが一度だけ魔法を成就させた。ただしクレセントリュートでは、変化らしいものは確認できず。焔威がヘキサグラム・タリスマンを使った場合は、聖水と同様の効果があった。それでも通常より、よほど発動率が低いことに変わりはない。
 この間に、シルヴィ達が持ってきたランタンに自分達のものを加え、城外と一階への通路がすべて開いているのを確認したうえで、焔威とクライフ、シルヴィが床を丹念に調べていた。レイジと天龍、ルイスは侵入者がないかの警戒だ。基本的にはレイジの魔法によるところが大きい。何か異常が発見されたら、最初にルイスと天龍が対処するのだ。
 でも発見は焔威のところであった。
「なんか文字が彫ってあるみたいだね。俺じゃ読めない」
 言われてクライフが見て、しばらくしてから首を横に振った。ノルマンで聞かれる言葉は一通り読み書きし、精霊碑文も読める彼が分からないとなれば、後は古代魔法語か、単なる抽象的な記号か。いずれにしても、この場に刻まれているというのは、何かしらの意味を感じさせる。
 魔法発動の確認もこの場ではもはや無為として、ニルナとフランシア、彼女達に付き添い、ついでにホーリーフィールドを壊していた霧矢も加わって、見付かった記号を辿っていったところ‥‥
「どうだった? なんだか、丸っぽく動いてたけど?」
「そうか? もう一度辿ってみるさかい、よう確認してや」
 アデラが用意していた羊皮紙に模様を写し取っている女性陣を横目に、霧矢がここからここまでと歩いて見せた。天龍が上から見ると円形を描き始めるように見えるらしいが、同じ高さからでは少し曲がって歩いただけだ。
 試しとばかりに、天龍が霧矢の動きのままに円を描くと、地下室を埋めるような大きな円にはなる。ただし模様が彫られているのは、その八分の一になるかどうか。これでなんらかの効果が得られるとは考えにくいだろう。
「これ、何かあるんだろうけど、カルロスが立ってたのがここで、模様がそこからって、けっこう離れてるよな」
 焔威も首を捻りながら意味を考えていたが、ふいと思い出したように呟いた。
「魔法陣って、こういうのかな?」
「魔法を使うのに、わざわざ円陣は描きませんわ。でも月道は、位置が分かりやすいように円陣を描くところもありますの。こんなに大きくはありませんけれど」
 パリの月道がどうとは断言せずに、アデラが焔威の呟きに応えた。月道として望みがあるかもと言う期待より、別の危機感でそれぞれの表情になった冒険者一行が肩の力を抜いたのは、まったく状況を飲み込んでいないシルヴィが喉が渇いたと訴えたからだ。
「寒いし、埃多いし、風通し悪いし、休憩しないとおばちゃん達も大変なの」
 この場合のおばちゃんは、アデラではなくてフランシアとニルナのことである。他は全員おじちゃんだ。
 もう一度、今度は夕方と夜間、それからムーンロードを真夜中に試すことにしている一同は、確かに休息は必要だと地下室を出た。昼過ぎには、警邏が回ってくれる手筈なので、城外からの通路近くに張ったテントで魔法の使い手を中心に休んでいる。
 そうして夕方、日暮れ後の魔法発動も午前と同じ調子で終わり、床の模様が変化していることもなく、真夜中を迎えた。
「わかったよ、貸してやる」
 レイジがクレセントリュートを持ちたいとねだったシルヴィを散々じらして、皆にいい加減にするように言われてからようやく貸してやる。それを見てから、クライフが真っ白い羽をランタンの火にくべた。
「デビルはいないようですね。あくまで、近くにはと言うことですが」
 天使の羽のひとひらも、ルイスの石の中の蝶もデビルの存在を示さず、天龍や焔威の警戒にも、レイジの魔法にも自分達以外の気配は伝わらない。聖剣と呼ばれるアルマスの柄に手をやったニルナと霧矢はそれぞれアデラとシルヴィの横にいる。
 八月の末、聖櫃が置かれていた場所にフランシアがホーリーフィールドをかけ、それが成就したところで、シルヴィがクレセントリュートを抱えて中に入る。時間を計っているのはアデラだ。
「そろそろですわね」
 このいい加減さで大丈夫かと思った者多数、口にした者一人。
 だがシルヴィは素直に呪文を唱え、しばらく待って、もう一度唱える。月魔法特有の銀色の光が二度現れ、ごく普通に消滅した。結果は前回と変わらないらしい。
「はい、おじちゃん、ありがとうぎゃっ」
 レイジへのリュートの礼がおかしくなったのは、手が触れた途端にシルヴィが悲鳴を上げたからだ。皆にも聞こえるほどにピリッと音がしたので、雷が走ったらしい。自分にダメージを与える、始末の悪いライトニングトラップだ。レイジも手を振っているので、相当痛かったのだろう。
 しかし、結局のところ、月道は開かなかった。
「前より魔法のかかり具合が良かったのにぃ」
 これは唇を尖らせたシルヴィの言だ。

 その後、フランシアが城内あちこちでも神聖魔法の発動を試し、結局地下室とその上部では聖十字架なしでの発動がほとんどないことを確認してから、彼らは急ぎパリに戻った。今度は床に刻まれていた模様が古代魔法語かどうか確認するためだったが、こちらも外れていた。
「しゃあない、こうなったらうちらより、お城の領分やろ。分かったことは教えてくれたら有り難いな。彼氏はんにもよろしゅう」
 別にアデラが写しのそのまた写しを取るなとは言わなかったので、希望者はきっちりと地下室床の模様を入手して、代わりに不用意に通路の通り方を口外しないことを約束し、彼らはアデラとシルヴィと別れた。霧矢が余計な一言を追加したので、アデラはシルヴィを引きずって早足に帰っている。もちろん霧矢には、冷たい視線を投げた数人がいたりするのだが‥‥

 数日後、その彼らがギルドに駆け込んできたアデラが人探しの依頼をしたことを見たかどうかは、また別の話である。
「シルヴィと、ご近所のエルフのお嬢さんが連れ去られたんです。髪の色は違いますけれど、背格好はよく似ていて」
 種族は違えど、仲良しだった二人が荷馬車に押し込まれるところを目撃した人がいるのだと言う。