香草を取ってきてください
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月01日〜08月08日
リプレイ公開日:2004年08月08日
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●オープニング
冒険者ギルド。
このギルドは、数あるギルドの中でも一風変わっている。本来ギルドは同業者の組合で、職業技術の共有や進歩、また商品などの適正価格保持、一定以上の水準確保、更には悪辣な組合員発生を事前に防ぐための相互監視機能、組合全体の利益確保などなどを得ることが目的の組織なのだが‥‥冒険者ギルドは、数々の技能修得者で構成されている。
そもそも冒険者には修行中のナイトがいるかと思えば、遠い異国の武道家を見ることもある。ウィザードもクレリックもおり、とにかく様々な技能修得者たちが、それぞれに目的を持ってギルドの建物を訪れるのだ。
ただし、俗に冒険者と言われている彼らに、ギルドの構成員であるとの認識を持つ者は少ないだろう。彼らにとって冒険者ギルドの構成員は、時に親切、時に巧妙に、たまに泣き落としなどで仕事を斡旋してくれる人々を指す。つまりは冒険者ギルドの建物の中で働いている、あまたの人々だ。
この辺の認識が個人でそれぞれに多少ずれていても、おそらくは誰も気にしない。冒険者と呼ばれている当人たちだって、自分の職業はそれぞれの技能に基づいた『○○である』と思っている者が大半だろう。それはそれで、なんら問題はない。
しかし、その冒険者たちも食わねば生きてはいけないわけで、経験が少なければ少ないほど、僅かの報酬で様々な仕事に駆り出されることになる。いずれ誰もが知るような名声の主にでもなれば、他人が出向いてきて何事かを解決して欲しいと依頼してくるようになるかもしれないが。
冒険者ギルドに出入りする大半の者には、それはまだまだ未来の話である。
さて、この日冒険者ギルドを訪れたのは、三十路に手が届こうかという青年だった。腰に剣を差しているのと鍛えた身体つきで、ナイトかファイターと推測される。防具の類は身に着けていないので、冒険者だとすれば近くに宿なり借家か借間を得ている人物となるだろう。種族は人間だ。
ただ、彼は冒険者ギルドの建物が初めてらしく、様々な仕事の依頼が張られた掲示板を興味深げに眺めてから、受付にやってきた。
「お仕事をお探しですか?」
何人もいるギルドの係員、この時の受付担当の四十路に入っていてもおかしくない女性が、実直な表情で青年に問い掛ける。違うと身振りで示されて、軽く首を傾げることで話の先を促した。
「仕事をお願いに来たのですが、香草の採取なんて、受けていただけるものでしょうか」
「この時期にまず採れないものを三日で採って来いという内容でもなければ、通常お断りすることはありません。ですが報酬がない、非常に危険性が高く提示された報酬に見合わないこと甚だしい、明確な犯罪行為、またはその疑いが強い、といったものは受け入れられません」
ギルドの係員は割と難しい言い回しを使用したが、青年は十分理解したようだ。係員も掲示板に張り出された羊皮紙を苦労なく読んでいた様子を見て会話している。異国の出身でなくとも、文字の読み書きが出来ない者は少なくない。ただ冒険者は必要上、読み書きや外国語に秀でた者がかなりいるのも事実だった。
「報酬はご相談の上で。危険を冒していただく必要はなくて、パリ周辺で採取できる香草を集めてきて欲しいんです。出来れば煎じたり、湯通しでお茶として飲めるように加工もしてもらえれば助かります。俺、ああ私にはそちらの知識がまるでないので」
モンスター退治、農作業手伝いに力仕事、たまに決闘代理人や武具の完成度を見る実験台、洞窟探検のお供やその他諸々の護衛、ごくまれに海の中から宝物引き上げ、老婦人のお話し相手に子守など、多種多様な依頼を受けては斡旋する冒険者ギルドでも、これは簡単な依頼に入る。
青年と係員の報酬に関する相談は速やかにまとまり、依頼を記した羊皮紙が掲示板に一枚増えたのは、それからしばらく後のことだった。
●リプレイ本文
●問題は突然に
全員が初めて依頼を受けたという一行が、分かり易いからと冒険者ギルドで待ち合わせをした一日目。
いきなり問題が発生していた。
「半分しかいない‥‥のかな?」
メル・コーウェイン(ea2339)が不思議そうにあたりを見回している。釣られたシフールのケイ・メイト(ea4206)もぐるりと首を巡らせたが、この場に集まったのは彼女達をいれて四人きりだ。
『いないね』
『何か問題のある依頼なのでしょうか』
実はゲルマン語の話せないケイのラテン語を受けて、フレア・レミクリス(ea4989)は、早くも後悔の念に襲われている。こちらもラテン語しか操れないが、神聖騎士なので職務的に困ることは少ないのだろう。日常生活では大変な目に合うこともあるだろうが。
しかし、セーラ神はこの神聖騎士と白クレリックに試練ばかりを与えるつもりはないようだ。なんとなれば、日頃は通訳として日銭を稼いでいるティム・ヒルデブラント(ea5118)がいるからである。
『幸いこの人数でこなせない依頼ではありませんから、まずは情報収集を始めましょう』
現状唯一の男性であるティムは騎士らしく丁寧にラテン語で述べた後、メルにも同じことをゲルマン語で告げた。一緒に依頼を受けたと思っていた冒険者の不在は痛いが、モンスター退治などの危険度が高い話ではない。依頼人のためにも、早めに仕事を始めるべきだろうとの彼の意見に異議は出なかった。
ただ。
「通訳、お願いねぇ」
『よろしくにゃー』
メルに腕を絡められ、ケイが肩にしがみつく格好になって、フレアにその様子をしみじみと眺められるのは、ティムにとってありがたいのかなんなのか‥‥難しいところだ。
ギルドの係員に残りの仲間が来た時のことを頼んで、ともかくも彼らは香草摘みに適した場所の調査に出掛けていった。
●気を取り直して一日目
ティムが情報集めに出向いたのは、冒険者が集まる酒場の一つだった。
「この依頼がうまくいったら、古ワイン以外も頼みますから」
香草のある場所を教えてほしいと頼む彼に、看板娘はやれやれと肩をすくめた。
「騎士様が古ワインって情けないったら」
ちょっと胸に痛い言葉はあったが、看板娘はパリ周辺で市民が行ける範囲の話を聞かせてくれた。ティムの馬を使わなくても、朝出掛けて夕方戻ってこれる程度の距離だ。
「保存食よりうちの料理のほうが安いしおいしいんだから、遠出はしないでねー」
ちゃっかり宣伝もされたが、遠いよりは近いほうが何かと便利なのは確かだろう。野宿はしないで済めば、それに越したことはない。
なお、ティムにちゃっかりくっついてきたケイは、彼があれば便利と言っていた小さな鉢を見付けることには成功していた。それが店の厨房で、傷んだから処分されるところだった器だとしても、問題はない。穴があるほうが使い勝手がいいからだ。
『ちょーだい、ちょーだいにゃ』
問題は、彼女のくせのあるイギリス語を理解してくれる店員がいないことだった。
結局、連れがなにやら騒いでいると知らされたティムが間に立って、無事に器を貰い受けたのである。彼らの考えていることを知らない店員達は、変わったシフールだとケイのことを思っただろう。
言葉の壁は、早めに取り除いたほうがいい。
さて、こちらはギルドで香草の生えている場所を尋ね歩いていたフレアは、早くもまた後悔していた。時々徹底して後ろ向きになる性格らしい。
ラテン語しか出来ないフレアだが、ギルドの周辺ならそれで困ることはない。神聖騎士やクレリックはラテン語に習熟した者が多いし、ギルドの係員も何人かは話す。他にもラテン語圏の人々がいるのだが‥‥
『メル、メルさん』
「‥‥もしかして、呼んだ?」
ティムとケイが酒場に情報収集に行ったので、もう一人残った仲間のメルと意志疎通があまり出来ないのだ。こんな話を聞いたと教えたいが、それもままならない。
とはいえ、メルは言葉の壁などたいして気にした様子もなく、身振り手振りと、適当に巻き込んだ言葉の出来る他人を交えて、自分が集めた話を説明してくれる。なにかこう、時々フレアが困惑するようなことも含まれているのだが。
『人様の薬草園の隣って、本当に問題ないんですか』
「境界線より外に、種がこぼれて育ったのはいいんだって。長年ある畑の回りは、結構色々あるらしいよ。ね?」
『境界線を間違えたら大変じゃありませんか』
「こんな暑い時期に当てずっぽうで歩くよりは楽だよ。いい話が聞けて良かったね」
ギルドの係員を間に挟んで、二人はてんでに好きなことを話している。挟まれた側はうら若い女性が両脇にいてと、喜んでいる場合ではないだろう。
その証拠に、情報の突き合わせに戻ってきたティムは、係員から恨めしそうに見詰められる羽目に陥っていた。
でも、それぞれに有益な情報を集められたので、明日からは無事に香草集めに取りかかれそうな気配である。
「えーと、次はラテン語で‥‥」
ティムの通訳が、滞りなく終われば。
●二日目、三日目、四日目はよく働きました
依頼人のご要望は茶になる香草を集めて、出来れば加工もしてほしい。基本はこれだけだが、贈り物にするための手伝いもすればいいことの一つや二つあるかも知れない。そうでなくてもナイト、神聖騎士、白クレリックにジプシーと、他人の心情を汲んで働くのが基本の職業が揃ったのだ。
心ならずも四人になったしまった彼らだったが、結構あれこれと考えていた。
『端切れならいつでも買えるので、集まった香草の量で必要な幅を考えましょう』
「道の確認はしたから大丈夫だよ。香草は教えてもらわないと駄目だけどね」
『みんなで楽しく行くにゃ! 馬だから楽だしにゃ』
フレアはラテン語で、メルはゲルマン語で、ケイはその時の気分でラテン語とイギリス語とシフールの共通語のいずれかで話す。その全部を習熟度の差はあれ話せるティムが、喉を押さえながら返事をしていた。
ケイがこの時はラテン語で話した通りに、彼女はフレアの馬に相乗りしていた。メルはティムの馬にいる。
そのメルの先導で平らな道を辿り、彼らは本日の目的地にたどり着いた。近くに薬草園があって、そこからはみ出した薬草や香草が雑草化している草原だ。念のためティムが薬草園で働いている人に声を掛け、境界線もきちんと確認しておいた。
準備万端整ったところで、さあ、香草摘みの開始である。ここでの皆の師匠は植物に詳しいフレアとなる。毒草の鑑定はメルも出来るようだが、そんなものは摘んでこないに限るだろう。
しかし。
『これと、それと、あれと、こっちと向こう。‥‥たくさんありますわね』
そうそう迷わない程度に、香草類は雑草化していたのである。『これ』と言われたものを摘んでいれば、半日はあっという間だ。
おかげで四人は、時間を忘れて香草摘みに熱中し、昼過ぎにはそれぞれ一抱え以上の種類の違う香草を手に入れていた。
もしかして、もう十分?
「これから乾燥させたりすればいいんだよね。後は入れ物作ったりすればいいかな」
「そうですね。でもこれだけあるなら、ちょっと抜いても問題なさそうですし」
用意してきた入れ物で鉢植えにして、贈り物に加えてもらおう。そうティムが言うので、午後からは四人は仕事を分担することにした。
まず、香草の選り分けをするメルとフレア、蔓の刈り取りをするケイとティムに。鉢植えを作るのは、依頼人に渡す直前のほうがいいだろうから、後日に回っている。蔓は贈り物を入れる籠を編むのに必要だからだ。
でも、その前に。
『このお茶は、喉が痛いときに利くんですよ』
人の倍は話さなくてはならないティムのために、フレアが香草茶を淹れてくれた。暑いときに熱いものは大変だが、体にいいので全員で一休み。代わりにティムが持ってきた保存食を出してくれて、それにたくさん摘んだ香草をちょっと入れて美味しいスープも出来上がり。
ちなみにかまどはメルが上手に作って、薪はケイがあそこ、ここと探し当ててくれたのを使った。それから、午後はまた働く。
こうして、二日目は大収穫だったのだが、夕方になって。
「あんたがた、それは仕事かね」
薬草園の人が、売り物にするのなら、そんなに摘んだら駄目だと言いに来たのである。そうではなくてと依頼の内容をティムとメルが説明し、ケイとフレアは身振りで嘘は言わないと示した。教会関係者の発言は、身振り手振りでも効いたらしい。
「そうかね。まあ修業中の騎士様達も大変だなぁ。世のため人のためだ」
本当は、彼らだってもっと大きな仕事をしたい気もするのだが‥‥初仕事なので、危険度が少ないものを勧められたのである。言わないけれど。
しかし、職業に育ちの良さそうな雰囲気や華やかな美人、いかにもシフールらしい物怖じしない態度が功を奏したか、薬草園の人はこう言った。
「その蔓をくれたら、うちで乾燥済みのを分けてあげるよ。籠を編むなら、一度乾燥させないとね」
生だと編んでから崩れるよと教えてもらい、この日の彼らはいったんパリに戻った。
そうして三日目と四日目は、選り分けた香草を乾燥させたり、蔓草を刈っては薬草園の人に交換してもらったり、それで籠を編んだりと非常に忙しく働いたのである。
●五日目はお買い物に
香草は乾燥中。鉢植えはなんとか根付いて、さきほど水やりも済ませたところ。籠はいささか不恰好だが、いかにも手作りらしくて素朴なものが二つ出来た。
この二つの影に、四人で合計七つの失敗作があったりするのだが。なにしろそんな籠作りなど、実は誰もろくにしたことがなかったからだ。
そういうわけで、彼らは本日、パリ市街で買い物に勤しんでいた。贈り物らしい体裁を整えるために、籠の中に敷く端切れが必要だと意見の一致を見たからだ。
でも、だけど。
『こんなのもあったにゃ!』
『あまり派手な色はどうでしょう。そちらの柄ものも香草に合うかしら』
「なんたって贈り物なら薄紅色だよ」
女性陣の、パリ市街の店を全部回るつもりではないかと疑いたくなるような勢いに、ティムは言葉もなく付き随っているだけだった。
夕方、女性陣の意見が揃ったのは、白地に薄桃色で地模様の入った端切れである。
●六日目は賑やかに
前日買い込んだ端切れをどう籠に敷くかで、言葉の壁を乗り越えたように相談している女性陣の横で、ティムは黙々と乾燥させた香草を刻んでいた。
彼が準備した香草茶を、彼以外の三人が熱心に籠に詰めて、ようやく満足した頃には昼過ぎ。
『まあ、私たちったら』
『あー、色々させちゃってごめんにゃ』
「ほら、おかげでいいのが出来たよ」
三人とも、ちょっとは後悔したようだが、あくまで‥‥
ともかくも、依頼人からのご要望は、これで果たせることだろう。
●初依頼、完了!
香草茶の贈り物仕様と鉢植えを受け取った依頼人は、非常に喜んだ。喜んだついでに報酬とは別に今回の必要経費分を出してくれた。持ち出しは誰の懐にも痛いので、これは大変にありがたい。
そうあることではないよと、居合わせたギルド係員から釘を差されたけれど。
「どうもありがとう。ここまでしてもらえて、すごく嬉しいよ」
でも、もしかすると、こんな単純なお礼の言葉が一番ありがたくて、嬉しいのかも知れない。
最初の仕事は、無事完了である。