素敵?なお茶会への招待〜家事手伝いです!

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 46 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:12月06日〜12月09日

リプレイ公開日:2005年12月12日

●オープニング

 幾らか問題は残ったが、当座の脅威が去ったパリの冒険者ギルドに、双子の女の子を連れた青年がやってきたのは、もう日が翳る頃合だった。受付にいたのは、青年も双子も知っている係員だ。
「‥‥何してんだ? 今頃はお姉ちゃんが帰ってきたお祝いしてるかと思ってたのに」
「それどころじゃないのー」
「ものすごく大変なのー」
 よく似たけっこう甲高い声で、双子が訴える。しかし、相変わらず要領を得ないので、係員は幼馴染の青年の顔を見た。
 青年は、簡潔に言った。
「アデラが倒れた。シルヴィはまあ元気だが、城から事情を聞かれたりして忙しい。俺ではあの家の家事全部は手伝いかねる」
「もう一人、お嬢ちゃんがいたろ?」
「ルイザおねえちゃんはお仕事がとっても忙しいのよ」
「聖誕祭前は、おうちに帰ってこれないくらいなの」
 冒険者の一部に局地的有名人のウィザードアデラは、先日、悪魔崇拝者に姪の一人を浚われるというひどい目にあった。姪のシルヴィは無事に戻ってきたが、それを見た途端にひっくり返ったそうだ。現在は、微熱を出して寝込んでいるという。
 食事のことは近所の住人と職場の仲間達が世話をしているが、家の中のことまで細かく見てやれるわけではない。一番親身になっているジョリオは、友人以上になったようだが恋人未満なので、あまり家の中には入り込めない。なにしろ女所帯である。
「すると、今回はお茶会じゃないのか」
「家事の手伝いをしてやってくれ。報酬は出すそうだ。後ワインと食事付き」
「その食事って、自分達で作るんだろ? 材料出してくれるってことでいいか?」
 ついでの仕事が、双子とシルヴィの相手をすること。長姉のルイザは仕事で留守が多いが、この三人は臥せっているアデラの周りに看病と称して入り浸り、賑やかにしているのだ。休養の邪魔になっているようだったら、うまく連れ出して欲しいとのこと。

 アデラ本人は『お茶会の約束が‥‥林檎が‥‥』と口にしているようなので、庭の林檎の木に残っている実はもいで食べてもいいらしい。

●今回の参加者

 ea1860 ミーファ・リリム(20歳・♀・ジプシー・シフール・イスパニア王国)
 ea3776 サラフィル・ローズィット(24歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea3826 サテラ・バッハ(21歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea4111 ミルフィーナ・ショコラータ(20歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 ea9960 リュヴィア・グラナート(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ミケイト・ニシーネ(ea0508)/ マリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)/ 竜 太猛(ea6321)/ ラーフ・レムレス(eb0371)/ 神哭月 凛(eb1987

●リプレイ本文

 その日、叔母アデラの様子を見に戻ったルイザは、家に十七人も人がいるのを見て仰天した。大半は見知った顔で、林檎の木の上でもいだ実にかぶりついている、マート・セレスティア(ea3852)を含めなくても十六人。
「さ、茶でも飲め」
 まるで自分の家のように言うサテラ・バッハ(ea3826)が出した菓子は、ミルフィーナ・ショコラータ(ea4111)が腕によりをかけて作ったものだ。ついでにサテラとアニエス・グラン・クリュ(eb2949)とルイザの妹三人が座っているテーブルの上は、サラフィル・ローズィット(ea3776)がマリと手際よく片付けてくれた場所。
 ミーファ・リリム(ea1860)がいないのは、台所で出来立てお菓子の味見という名のつまみ食いに勤しんでいるからだった。
そして、力仕事でもと来てくれた竜とラーフが裏庭の納屋の前で薪割りをしている。この納屋の中には、カレン・シュタット(ea4426)とリュヴィア・グラナート(ea9960)が不可思議なものを見たという顔付きで佇んでいた。
「アデラ殿は、香草の選別が出来ないはずだが‥‥誰がやったのだろうな」
「そうですね。あら、この棚、ぐらついてますね」
 これまた手伝いのミケイトとカレンで棚を直している間に、リュヴィアはせっせと料理に使えそうな香草を選んでいた。
「離せー、これはおいらのだーっ」
「ミーちゃんも食べるのらよ〜」
「あのお二人はいつもあんな感じらしいので、今のうちに林檎をもぎましょう」
彼女が連れてきた神哭月は当初マーちゃんの妨害にあっていたが、自分も林檎を食べに来たミーちゃんが周りを飛び回っている間に、アニエスやシルヴィ、マリア、アンナと別の木の収穫に成功した。この戦果を受け取ったミルフィーナは大変な賑やかさに夕飯の支度は念入りにと考えていたが、アデラがまったく無反応な事をちょっと心配していた。
先程、彼女が荷物持ちを何人も引き連れて買い物に行く前にはよろよろと部屋から出てきていたのだが‥‥
「お休みならいいんですけれど」
 すると、台所の中に入り込んだ別の部屋のものを探索していたサラが、にこやかに説明してくれた。
「サテラさんが、よく眠れるように香草茶を淹れてくださったのですよ」
 薬草に詳しいエルフの淹れたお茶では、アデラはしばらく目が覚めることはないだろう。

 そして、台所から発掘された様々なものを正しい場所に戻していたサラとサテラの二人は、アデラの寝室に入り込んでいた。男性以外は午前中に挨拶で顔を出したが、今度は主が寝ている合間の入室だ。勝手に洗濯物を引っ張り出したり、けっこうやりたい放題。
「なんか本が広げてあるな。何を読んでいるんだ?」
「あら、人様の本を覗くなんて」
 サテラが勝手に取り上げた本を、サラも一緒になって覗き込んでいる。個人宅の蔵書など珍しいのと、アデラが何を読んでいるのか興味津々の二人だが‥‥どうやら写本中らしいそれを見て、ついでに机の上の写し済みの羊皮紙まで確認をして、顔を見合わせた。
 どちらにも馴染みの深い、ついでにサテラには覚えのある薬草の本だったのだ。誰かに頼まれて写本を繰り返しているようだ。なにしろ、同じ頁を何枚も写し取ったものが置いてあるし。
 ここまでして、あんなお茶?
「勉強熱心なのは、よろしいですわ」
 もう少し実になれば嬉しいと、ある意味『成長がない』と断じたサラと対照的に、サテラは鼻の頭にしわを寄せた。
「これだけ書いて覚えない奴を、国が雇うか?」
 その後、片付けをサラに一任したサテラは、棚から引き出しからすべて開けて、やがて納得していた。

 台所では、あまりの人数に食事作りを初日の仕事と定めたミルフィーナが、棚修理を終えたカレンとミケイトを助手に料理に邁進していた。この家には彼女の大きさにあった調理道具があるので作業はしやすいが、基本的に人間の家だから、調味料などに手が届きにくい。その度に飛んで移動するのも大変なので、主にカレンが呼ばれる。
「林檎は肉巻きもいいですし、バターとお酒でデザートにも出来ますよ。アデラさんには鶏肉でしっかりスープを取った刻み野菜入りのパン粥なんかもいいかもしれませんね」
 先程リュヴィアが持ってきた香草を刻んで、肉に塩とすり込む作業はカレンとミケイトがやる。その後には、野菜の皮むきが待っているようだ。
 でも、ここはつまみ食いという楽しみがあるので、決して悪いところではない。
 ただし、ミルフィーナがアデラのためにと、また人数の多さにも張り切って買い込んだ食材は大量にあったので、それの仕込みを手伝うのは慣れない人には段々と腕の感覚がなくなるような荒行でもあった。水は冷たいし。
「林檎、絞った果汁をあっためて飲んでもおいしいですよね」
 水の精霊魔法を使うカレンとて、冷たいものは冷たいのだ。この言葉は、切実な願望だったらしい。しかし。
「うーん、マーちゃんに食べられていなかったら、果汁も絞れるかもですねぇ」
 願望は、叶えられるかどうか分からなかった。すでに収穫された林檎は、もうミルフィーナの中では使い道が定まっているようだ。

 そうして、薪割り二人組の横では、ながらく切実な林檎戦争が繰り広げられていた。
「いい、アニー。別に悪いと思う必要はないんだけど、どうしてもって言うなら、マーちゃんを捕まえてきて」
 先日誘拐されていたとは思えないほどに元気なシルヴィが、その際に唯一の跡取りに万が一のことでもあったらと家に留め置かれていたことを悔やんでいるアニエスに、難題を突きつけていた。木の上のマーちゃんを捕まえるのは、ナイトのアニエスではまず無理だ。まさか弓で射て落とすわけにもいかないし。
 とりあえず、説得をしてみる。
「マートさん、お一人で食べるには林檎は随分ありますから、私達が貰ってもいいですよね?」
「やだ。全部おいらの」
 取り付く島もないとは、このことである。そもそも林檎はまだ三十個くらいあるのだから、一人で食べるなら一日では無理だ。だがマーちゃんは、一応アニエス同様にシルヴィ達の相手をしようとは考えていたので、構ってあげているのである。彼の感覚的は、だが。どっちが構われているのかは、まあ見る者の判断だろう。
 だが、アニエスも『先日のお詫び』という理由があるので、そう簡単には引っ込めない。林檎の木によじ登って、マートがいる枝の下までやってきた。
 そして、言った。
「林檎のお料理を、ミルフィーナさんが作ってくれるそうです。あと絞ってジュースにしましょうって、カレンさんが。だから林檎の独り占めは駄目です」
「なんだ、それならいいよ。後で台所に手伝いに行かなくちゃ」
 マーちゃんの『手伝う』は味見と使用したつまみ食いだが、アニエスはそこまで考えが至らない。そうしましょうと頷いて、木の下でマーちゃんが邪魔しなくなるのを待っている友人に手を振った。
 でも結局、マーちゃんは邪魔をしなくなっただけで、林檎の収穫はしていない。女の子二人が、おじさん三人に手伝ってもらって、残っていた実を全部収穫したのだった。この家では、男性はたいていが年齢に関係なく『おじさん』である。

 この林檎の収穫に加わっていなかったミーちゃんが、どこで何をしていたかといえば、庭の畑で収穫作業に勤しんでいた。シフールの彼女だが、食通として野菜の出来がいいかどうか位は分かる。後はリュヴィアに言われるままに、葉野菜をちょっと摘んだり、悪くなっているところを切ったりしている。合間に口がもぐもぐするのは、おいしいところも切り取って味見しているからだ。
 そんなミーちゃん同様のことをしているのは、アンナとマリアの双子である。リュヴィアに誘われて、林檎の取り合いから畑の世話に移ってきたのだ。ついでに、日頃の畑の世話の具合をかしましくリュヴィアに説明している。
「おばちゃんね、このくらいになるとお料理に使うの」
「あとね、これは乾燥させて、地下室に入れるのよ」
 双子の説明に、リュヴィアは先程から首を捻っている。納屋には確かにいい具合に保存された野菜があったし、香草も綺麗に分類されて干してあった。しかし、アデラがそれを出来るとは、とても思えないのだが‥‥
「アデラ殿は、いつも畑の世話をするのか? ジョリオ殿は手伝わないのかな?」
 畑の世話はアデラがやっていると聞いて、ミーちゃんが感心したように言う。
「ちゃんと世話しないと、こういう太ったカブは出来ないのらよ。アデラちゃんは野菜の世話が上手なのらね」
 と、言ってからミーちゃんも首を傾げたり。
「でも、アデラちゃんはお茶は下手なのらね」
 今度は双子が、そんなことはないとむくれたり。
 そうしてリュヴィアは、これはいったいと少し悩んだ素振りでいたが、しばらくして何か思い付いたようだった。

 この日の夕食は大人数で、帰ってきたついでに昼寝していたルイザが喜んだ、豪勢な食卓だった。
 もちろん他の人々も、おいしい料理とお茶に大満足したのである。

 二日目。またアデラは一服盛られて夢の中。
 そして八人になったはずの冒険者達だが、家の内外で忙しく立ち働いているのは五人ばかりだ。昼過ぎからジョリオが来てくれるが、冒険者は全員女性である。
 なぜなら、家の中にいると台所でつまみ食いに勤しんでしまうマーちゃんとミーちゃん、アデラの部屋に入りたがる姪っ子達を外に追いやって、家の中に入れないようにアニエスに厳命した結果だ。ルイザは相変わらず仕事に行っているので、六名で現在庭の落ち葉を集めている。
 アニエスはケンブリッジで知った玉遊びをしようかと思ったのだが、マーちゃんがいるとまったく勝負にならない上に、シフールのミーちゃんも参加が出来ない。そして二人とも、ちょっと動くとおなかがすいたとうるさく騒ぐので、落ち葉集めである。
「マートさん、そのお肉はどこから持ってきたんですか!」
「台所だよ」
「パンもあるのらよ〜、あっためて食べたらおいしいんらよね〜」
 食欲魔人達の世話を面白がってやっているシルヴィ達と違って、『家の中に入れない』を全うしたいアニエスは心が休まる暇はない。

 そんな外の騒ぎとは無縁に、家の中を徹底的に片付けているサラとサテラは、ついでに家の方々から薬草・香草関係の本を見つけ出していた。どれもアデラの筆跡なので、当人が集めているものらしい。あちこちに散っているのは、姪達が持ち出してそのままにしてあるから。なにしろ見付かったのが姪の部屋と居間と台所だ。
「こんなに勉強していらしたんですね、アデラ様」
「謀られたとは思わないところが、性格の違いかね」
 きょとんとしたサラには、サテラの仏頂面は理解できていない。本を戻しに行った際には、サテラの盛った一服でアデラはすやすやと眠っていた。

 こちらも何かおかしいぞとは思っているが、それ以上にやることがあるので気にしていないミルフィーナは、相変わらず料理をしていた。昨日より人数が減ったとはいえ、食欲魔人二人を含めて十三人だ。シフールが二人、パラが一人、エルフが四人いようが、作る料理は半端な量ではない。
「この間も思いましたけど、こんなに色々お野菜や香草を揃えているなんて、アデラさんはよっぽどお料理が好きなんですねぇ」
 ただ調味料に幅がないから、ぜひ今度は塩の種類で味わいが違うことも語り合いたいものだとミルフィーナは思っている。昨日と違って、台所からあるべきではないものが片付いているので仕事もしやすい。
 ひたすらに料理に熱中している彼女は、そろそろ何をおかしいと思ったかも忘れている。

 そして、昼過ぎになってやってきたジョリオも手伝わせて、リュヴィアとカレンは畑の世話をしていた。力仕事がジョリオのおかげではかどるので有り難いが、彼は色々と突っ込まれるので表情が冴えない。主に突っ込むのはリュヴィアだが、カレンは感心して聞いているばかりで助けてくれなかった。
「私はアデラ殿が好きだが、もしもこれが本当だったら理由については質したいところだな。知っているなら、代わりに答えてもらおうか」
 サテラも気付いているぞと言われたジョリオは、カレンのもの問いた気な視線にさらされても口を割らず、リュヴィアから一層こき使われることになった。

 しかし、この二日でアデラの家は散らかる前より綺麗になったのではないかと思うほどに、片付けられていた。夕飯には一服の効果が切れて起きたアデラが、しきりと礼を言った後に、自室に並んでいる本を見て悲鳴を上げたとかいうことはあったのだが。

 三日目。思いのほか仕事も早く終わったし、アデラの熱もすっきりと下がったので、お茶会をしようということになった。この日は時間の都合をつけてルイザも帰ってきたし、ジョリオも顔を出している。おかげで全部で十四人だ。ミルフィーナは、忙しいけれど大喜び。サラを助手に、料理もお菓子もたくさん作っていた。
 アニエスや四人姉妹が給仕を務め、ミーちゃんとマーちゃんはカレン、サテラ、リュヴィアのウィザード陣に『先に手を出したら魔法色々』と脅かされて、先に渡されたパンを齧っている。
 ちなみにアデラはお客さん扱い。茶葉はリュヴィアとサテラが独断で決定している。人によって違うのは愛嬌なのか、違うのか。淹れてくれた茶の色を見ると、マーちゃんのはものすごく茶色い。他が薄い黄色や黄緑なのとは対照的だ。どうせマーちゃんは気にしないのだが。
 それ以外は和やかに始まりかけたお茶会だが、リュヴィアが問いかけたことで皆の視線を一身に浴びたのは、アデラとジョリオだった。先日のお茶会で、次回はジョリオが本当に結婚したいか観察という話だったが、さてどうするのか?
「俺は、二度と一服盛られないなら、姪の四人同居くらい楽しいと思うよ」
「おかしな茶を入れるのは、やはり縁談拒否か。回りくどい真似をして」
 サテラに一喝されたアデラが首をすくめた。ミルフィーナやサラ、カレン、アニエスがきょとんとしている間に、マーちゃんとミーちゃんが食事を始めている。
「だってぇ」
 だってではないと、今度はリュヴィアとサテラに怒られたアデラが、ごにょごにょと何か口にしているが、誰も聞き取る努力はしていなかった。
「姪御さん達と別居の話ばかりだったので、縁談がお嫌でしたの?」
「じゃあ、シル達と一緒なら別に断る必要はないということでは」
「まあ、おめでたいですわね」
「後はご本人の気持ち次第ですよ」
 口々に『なんだ、それなら纏まっちゃえば』と言わんばかりに、というかこの場にジョリオがいる時点で他の候補はいないだろうと皆が畳み掛け、姪達は『式はいつにするんだ』と騒ぐ中で、ジョリオが何か言ったようだ。
 結局、アデラは料理を一口に食べないうちに、また熱を出している。
 ミーちゃんとマーちゃんが、食べる分が増えたと喜んだのは言うまでもなかった。