【破滅の魔法陣】シュバルツ城浄化

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:9〜15lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月09日〜12月14日

リプレイ公開日:2005年12月17日

●オープニング

 冒険者ギルドのギルドマスター、フロランス・シュトルームの執務室では、渋い表情の種族も年齢も違う男女二人と、窓の外を眺めている青年一人がこれから話をしようとしていた。もちろん男女二人のうちの一人フロランスと、もう一人のエルフ男性のギュスターヴ・オーレリーは小言から始めなければならないと思っている。
 ところが。
「一人で来たわけでもなく、ヨシュアスにも一言断ってきた。そんなに額にしわを寄せずともよかろう? 早速本題に入ろうではないか」
 小言の一つ二つ、三つ四つは甘んじて受けて欲しい相手は、いけしゃあしゃあと先んじてきたのである。旅をしているときの吟遊詩人や若い商人が好みそうな若草色の服を着て、同色の帽子を目深に被ってギルドを訪れてはいたが‥‥彼がノルマン国王なのはギュスターヴも認めるところだった。
「「陛下‥‥」」
 思わず重なった呼び掛けに、ウィリアム三世はにこりと微笑んだ。いささか血の気が薄く、人より色が白く見える肌に、怜悧といってよい顔で微笑まれると、立場もあってか文句を言わせない雰囲気になる。先程までとは別人だ。
「少し市街を巡ってみたが、先日の騒動もあまり話題に上らなくなったようで安心した。悪魔崇拝者が逃げたことは、冒険者以外にはあまり広まっていないようだ。プロスト領のことは、少し話題になるようだが‥‥」
「今回はいずれも治療、蘇生が可能でしたから。死者が目立たなければ、人心も揺らぎません。ですから、早急にシュバルツ城の始末をつけませんと」
「聖櫃は騎士団に護送させる。手順はギュスターヴと調整してくれ。聖職者の方々も手配はするが、どれだけ人手を要するか分からないので冒険者からも募りたい」
「逃げた輩もおりますので、聖職者ばかりとはいきませぬな」
「‥‥そういう厳しい条件には、最低限でもこれだけ見積もらせていただきますが」
 三人で囲んだ卓の上に指で書かれた数字を見て、ウィリアム三世がちょっと表情を改めた。いきなり少年のような顔付きに変わっている。
「相変わらずフロランスは計算が速いな。伯母上はあんなにおっとりしていたのに」
「「陛下」」
 また重なった声に、ウィリアム三世はすました様子で口を噤んだ。金額についてはまったく異論もないようで、細かい支払いなどはもとより彼が関知するところではない。適正な価格であれば、城の役人が支払いに訪れるだろう。書類の作成はフロランス、確認はギュスターヴの仕事である。
 そんなわけで、一つくらいめでたい話を聞かせてやろうと思ったのかどうか、あることを口にしたウィリアム三世は二人に恨みがましい目付きで見詰められた。
「そういうお話は、ぜひともご自身に関わることでお聞きしたいですわ」
「陛下のご婚礼を見るまでは、隠居も出来ませぬ」
「‥‥レイモンドの相手は、今日は来ていないものだろうか」
 お妃問題で常に注目される青年の戯言など、目の前の二人にはもちろん通じなかった。

 紆余曲折はあれど、ギルドの掲示板に張り出されたのは、『シュバルツ城破滅の魔法陣の浄化、破壊』である。
 聖櫃はブランシュ騎士団が運ぶので、現地で合流の上、こんどこそ魔法陣を消し去ることが求められている。

●今回の参加者

 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1924 ウィル・ウィム(29歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea2606 クライフ・デニーロ(30歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea2924 レイジ・クロゾルム(37歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea4284 フェリシア・ティール(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea7210 姚 天羅(33歳・♂・ファイター・人間・華仙教大国)
 ea7509 淋 麗(62歳・♀・クレリック・エルフ・華仙教大国)
 ea9519 ロート・クロニクル(29歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)

●サポート参加者

琴吹 志乃(eb0836

●リプレイ本文

 立場はそれぞれに違うが、ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)、ウィル・ウィム(ea1924)、淋麗(ea7509)の三人に、ブランシュ騎士団のオーレリー分隊長は思いのほか丁寧な態度で挨拶をしてきた。ウィルとニルナはジーザス教白の、麗も教えは違えど聖職者。きちんと敬うということらしい。
 そのオーレリーとブランシュ騎士団が聖櫃と共に護衛してきたのは、白クレリックが五人ほど。人数は先日の儀式に比べ格段に少ないが、いずれも壮年かそれ以上の年代だ。態度はおおむね穏やかで、高位の聖職者という雰囲気である。
 ただし。
「で、結局何人だ? 感知魔法で数え違いはしたくないから、はっきりさせてくれ」
 レイジ・クロゾルム(ea2924)の不遜の見本のような態度には、さすがに不愉快そうになった者もいる。彼が常にそういう態度だと知っていても、今まさに儀式の警備のことを話し合おうとしていたクライフ・デニーロ(ea2606)も頭を抱えたい気分だ。
「言うことはこんなでも、実力とやる気はあるから、心配はない」
 それよりなにより、一刻も早く儀式を行おうとロート・クロニクル(ea9519)がとりなして、速やかに儀式を行う者とその護衛とに分かれて、手順が話し合われた。冒険者側は、相談済みの役割分担が活かされるようにと、全員が地下室内だ。外はブランシュ騎士団員が警戒に当たる。
「今現在、パリ周辺で魔法陣と呼ばれているものは幾つもあるけれど、一番近いのは黒の修道院の地下に封じられていたようで、方向はこちらね」
 フェリシア・ティール(ea4284)が友人のまとめてくれた資料の内容から、各所の魔法陣との距離を測っている。儀式の最中に他の魔法陣に何かがあって、こちらに影響がないとも限らないからだ。
 それを聞いていた姚天羅(ea7210)が、同じ組織の仕業か問うも、フェリシアもその答えは持たない。そもそもデビルなどの知識の持ち合わせは、彼女自身もほとんどない。最近とかく話題になるので、聞きかじったくらいのもの。
「デビルも複数現れていますが、彼らが手を結んで騒動を起こしているとは考えにくいでしょう。互いの起こす騒ぎで、対応の手が足りなくなることを見越して連動しているかもしれませんが」
 ウィルの助け舟には、他の聖職者達も同意した。デビルは人の魂を欲しがる。配下ならともかく、同列のデビルと組んでいては取り分が少なくなろう。あえて、この魔法陣奪取を狙って、大挙して押し寄せてくるとは考えにくい。
「代わりに、ここを使うつもりでいた組織は、なんとしてでも取り返そうとするかもしれませんが」
 それでも、よほどのことがなければ自分は儀式に集中するつもりなので、周囲の警戒はお願いする。ニルナの言葉に『自分も床を削るつもりだ』とロートが応じて、一同はそれぞれの持ち場についた。
 ランタンが幾つも照らす中、クライフがヘキサグラム・タリスマンを発動させ、聖櫃の傍らに置く。その直後に八方から聖櫃へと手が伸ばされて、あたりが目を覆うような白と僅かな黒の光で満たされた。

 先日の攻防戦、アンドラスの来襲で最後に詰め切れなかったが、残っている魔法陣は四分の一もない。それとて何箇所かで分断されているが、アンドラスは周囲に散った血でその紋様を補おうとしたらしい。
 今回はここで争いもなく、人数は少なくとも聖櫃があり、あのときのような邪魔は今のところ入っていない。ウィルは張り巡らせたホーリーフィールドに、常より強い効果を感じていた。それがこの場の誰の出入りも拒まないということは、先程クライフが使用したリーヴィルエネミーに敵意が映らなかったことの裏付けにもなる。ただクライフは、『人を見て使えよ』とオーレリーに釘を刺されていたが。
 わざわざスクロールを使わせずとも、これで確かめればよいと言っておけばよかったかと、ちらりと考えてからウィルは首から提げたロザリオに手を触れた。すうっと息を吸い込んで、ジーザスに助力を願う。
 このシュバルツ城で、今足元にある魔法陣を巡る戦いがあったときに、ウィルはパリにいなかった。その頃に受けていた依頼を軽んじることはないが、自分の力が必要とされていたときに不在だったことは、心の中で棘のように気に掛かっている。
 浄化の呪文で、足元の魔法陣が少し消える。同時に棘の痛みも少し失せたように感じて、ウィルはまた呪文の詠唱に入った。過日の償いではなく、将来の平和を手に入れるために。

 アンドラスが現れたことで、魔法陣を残してしまった。それは麗にとって、大変な気掛かりだった。アンドラスは確かに滅したと思うが、その配下の悪魔崇拝者がすべて捕らえられたわけではないため、いつまた悪用されるか分からない。
 この依頼は、その気鬱の種を払う最高の機会だから、もちろん彼女は全力を尽くすつもりだ。先日のように周囲で争う気配もなく、警護も任せるに足るだけの人々がいてくれて、集中できないとしたら問題だろう。あいにくとジーザス教の使徒ではないが、冒険者のみならず、在籍する教会では高位だろう聖職者達も気にした様子はない。使う魔法の種類を問われたときも、和やかな雰囲気だった。とても、これから魔法陣を壊そうとしているとは思えないほどに。
 今度こそ、この忌まわしきものを消し去ってみせる。誰に宣言するでもなく、自分に言い聞かせると、麗は呪文を紡ぎ続けた。

 わざわざデビルを崇拝しようする心の在りようは、どうやっても理解できない。ジーザス教においてデビルが悪だという以前に、子供の命を捧げて見返りを得ようとする心根が人とは思えない。ニルナが話した騎士達は、おおむねそんなことを言った。彼女もまったく同感である。
 デビルを崇拝した者達には、彼らなりの論法かあるのかもしれないが、直接言葉を交わしたところで、この魔法陣を使用してよいという結論には至らない。神聖騎士であるニルナにとっては、あまりに当然のことだ。これは、他の聖職者達も同じ気持ちだろう。
 あちらはあちらの正義を唱えるかもしれないが、それは世を乱す元になるもの。周囲の気配に耳を澄ませ、仲間の居場所を確認してから、ニルナは邪なるものを打ち払う呪文を唱えた。傍らには、デビルスレイヤーと呼ばれる剣を置いて。

 人数の加減か、魔法陣の浄化はゆっくりと進んでいる。往路からここまで、怪しい影一つ見受けられなかった。
「このまま終われば、楽な仕事で有り難いがな」
「帰りに襲ったところで意味はないからなぁ」
 広い地下室の一部にのみ残る魔法陣の浄化のため、聖職者達は東南方向の壁の前に固まっている。聖櫃が残った魔法陣の中心に置かれているせいもあるが、その一帯はそれは綺羅綺羅しい。魔法の発動光が聖櫃を輝かせるから尚更だ。
 そちらを見ていると暗いところが見えなくなるので、姚とレイジは背中を向けている。たまの会話で『仕事がないに越したことはない』などと言い合っているので、フェリシアが身振りで『いい加減にしなさい』とやっていた。仕事をしていないわけではないのだが、この二人はどうにも態度がそっけなく、見様によっては投げやりなのだ。
「そっか、帰りだったら聖櫃もちょっとは調べさせてもらえるかもしれないじゃん」
 挙げ句に、いきなり学者魂が首をもたげてきたロートが自分の持ち場で新たなやる気の種を見出していた。間に挟まれた形の位置にいるクライフは、素直に心情を表して、困った顔だ。
 だがそんな顔をしていられたのも、一瞬のこと。
 瞬時にバイブレーションセンサーを発動させたレイジが、入口の一つの向こうで起きている騒ぎに加わる人の数を六人と確認した。入口毎に二人の騎士が警戒に当たっていたから、襲撃が最低四人で行われたことになる。
 それとは別に、階段を駆け下りる小さな振動があって。
「大きさはネズミだな。よろしく頼む」
「小さい的は苦手だぜ」
 正体を現せとばかりに、ロートがストームを放った。ここで使うかと誰かが呟いたが、暴風は階段を駆け下りる最中だった小さな影を吹き飛ばした。その影が床に叩き付けられる直前に、翼のある影に変わる。
「インプか、グリムリンね。飛ぶのが厄介だわ」
 けして強い敵ではないが、相手を侮るのは隙を生むとばかりに、フェリシアがオーラパワーを練り終えている。なにしろこういう時にデビルの存在を間違いなく感知してくれる聖職者達は、この騒ぎにも顔色一つ変えずに呪文の詠唱を行っていて、頼るわけにはいかないのだ。元より頼るつもりもないが。
「階段一つくらいは、許容範囲か?」
「生き埋めにならねば、一つ二つは気にせぬな。上は上でやっておろう」
 天井が崩れて聖職者達に被害が及ぶことは許さんと、一階にいる部下への救援はまったく考えていない言葉を返したオーレリーに、姚は一つ頷いて腕を横に滑らせた。クライフが作ったアイスチャクラが、舞い上がろうとしていたインプらしき影の翼を切り裂く。今度こそ床に落ちたインプには、フェリシアのオーラをまとった日本刀が食い込んでいく。さらに身動きの取れないインプに、止めと振り下ろされたのは別の剣だ。
 フェリシアの面差しに似合わぬ黒いローブの上に、白いマントが被さった。その下で噛み合うようになった刃の先、インプが姿を塵に変える。
「これ一匹とは限りませんわね」
 まったくだと頷いた騎士団員は、ついで聞こえた魔法の音に苦笑した。
 その魔法を仕掛けたレイジは、思った以上の展開に微笑んでいた。その笑みはなにやら邪な雰囲気で、周囲の明かりがランタンと魔法の発動光だけだったのは、彼にとっては幸いだったかもしれない。
 ただし彼のローリンググラビティーのスクロールで、階段を降りる途中に天井と床のそれぞれに叩き付けられた人影は、生きているかも怪しい。後で事情を聞くという選択肢は、今のレイジの中にはないらしい。
 こういうとき、周囲に目を配ろうとしている者はいささか辛い。敵は敵として潰すことにはロートも大賛成だが、それで一階にいる騎士団員を巻き込むのは願い下げだ。今だって、内部に入り込んでやられた輩を追って階段に踏み込む寸前だったのだから。
「いざって時は前衛を頼むって言って、巻き込んだら怒られるじゃん」
「巻き込んだ奴も、巻き込まれた間抜けも一緒にな」
 ついでに呪文以外で口を動かす奴も怒ってやってもいいぞと、聖職者を背後にする位置から動かずにオーレリーが語りかけてきたのと同時に、ロートはその間近にライトニングサンダーボルトを放っていた。オーレリーもオーラショットで続く。
「おっさん、器用だな」
 伊達で長く騎士を務めているわけではないと、ロートに対して抜いた剣の切っ先を向けてきた『エルフのおっさん』は、働かない奴がことのほか嫌いなようだ。もちろんロートはサボるつもりなど、欠片もありはしないが。
 かたや会話もなくせっせと働いていたのは、姚とクライフだった。アイスチャクラでぱらぱらと姿を見せるインプを切り裂き、クライフは適時アイスチャクラを唱える。のみならず、レイジが散々に叩き付けた輩に息があるのが確認できると、アイスコフィンで凍らせる。これで情報源は確保されたわけだ。姚はいっそ殲滅してしまえばとちらりと思ったのだが、ここにきたのが全員とは限らないと思い直していた。
 今の差し迫った問題としては、毎回どこから連れてくるのかと思うほどに現れるインプだ。ネズミだけではなく、鳥になって飛び込まれると、姿が見えるまでは存在が掴めない。しかも飛ぶので、クライフのアイスチャクラは騎士団の一人にも手渡された。
 とはいえ、姚も騎士も、空を飛び回るものを一撃で必ず仕留められるとは限らない。彼らが打ち落とせば、誰かが間違いなく止めは刺してくれるのだが。後はロートの周囲を巻き込みかねない魔法か、オーラ魔法での撃ち落しだが、これはなかなか矢継ぎ早とはいかなかった。
「鳴弦を使う奴を決めておくべきだったな」
 こういうときのためにと持ってきていたが、誰が使うか定めていなかったので姚の近くに置かれたままの鳴弦の弓に、誰かの手が触れた。慣れない様子で構えた弓をかき鳴らしたのはニルナ。
「魔法陣はっ」
 慌てたように問い掛けたクライフへの答えは、行動で返ってきた。一時に輝いた白い光が、中に一つ黒も交えて、筋となって飛び回るインプを打ち据える。合わせて、この城内にいるデビルは今見えるだけだと、しわがれた声が断言した。
「おい、仕事は終わってんだろうな」
「おかげさまで」
 怒鳴りつけたレイジに、ウィルがやれやれといった様子で対した。幾つ目になるのか、ソルフの実を齧っている。インプを一体滅ぼしたフェリシアが下がっているように勧めたが、聖職者達は聞く耳がないようだ。治療はどうなるんだとぼやいた姚の手からアイスチャクラが消える頃には、デビルは一体を除いて姿を消していた。
「この石像、ここに飾っとくわけにはいかないじゃん。どうする?」
 他に誰か潜んでいないかとブレスセンサーのスクロールを使用したレイジに、ロートが問いかける。範囲魔法でなければこれとばかりに、ストーンに捕らえたインプだ。
「まあ‥‥あちらに凍っている人がいるようですし」
 そもそもインプ程度では会話は成立しても、重要なことを知っているかどうか。麗の言葉ももっともだが、わざわざデビルを石化から解いてやりたいと思う者もおらず、魔力に余裕がある者が魔法で打ち砕くことになった。
「あちらの痴れ者がもう少し運びやすくなるまで、成果のほどを確認するとしようか」
 オーレリーの言葉で地下室をくまなく探った一行だったが、あの床一杯に広がったこともある紋様は僅かたりとも見出せなかった。それを確かめて、良かったと麗が胸を撫で下ろすと。
「麗さんはよくありませんわ。よく見たら、お顔が真っ青ではありませんか」
「本当に。どうぞ座っていらしてください」
 お疲れでしょうとニルナとフェリシアに二人掛かりで指摘されて、自分の役目は終わったと好きに座っている聖職者達の仲間入りをさせられた。他の冒険者は、ウィザードも含めて案外と元気で、何人かは聖櫃を撫で繰り回している。
「して、諸君。用が済んだからには、地上で一息入れるべきではないかね」
 一応一日くらいは様子を見て、問題がなければ警邏の者に引継ぎをしよう。オーレリーの言葉に、反対する者はいなかった。振り返ってみれば、随分と働いたのだ。
 そうして。
 地下室には格別の異常もなく、また悪魔崇拝者の更なる動きも見出せず、彼らは無事にパリに帰還した。その際にそれぞれが大分消費したソルフの実を『国がけちだと思われてもつまらん』とオーレリーが補填してくれたのは、有り難いことだった。
 どうせなら、飯も出してくれればよかったのにと遠慮のないことを言うものがいたとしても。