探し物は奇々怪々
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:5〜9lv
難易度:やや易
成功報酬:2 G 74 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月31日〜06月05日
リプレイ公開日:2006年06月09日
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●オープニング
その日、冒険者ギルドにやってきたのは貴族か豪商か、とにかくいかにもお金持ちの家の侍女頭といった感じの老婦人だった。着ているものが使用人用のお仕着せでなければ、貴族の大奥様でも通用しそうな上品なご婦人である。
しかし、持ってきた絵はなんとも‥‥
「奇々怪々って感じの生き物ですが、これはもしやホーンリザード?」
「その通りでございます」
描かれていたのは、草原らしき場所を二本足で立ち上がって疾走しているとしか見えない、トカゲだった。絵画なので実際の大きさは分からないが、頭には見事な角が一本ある。
角があって、後ろ足で立ち上がって、走り回るトカゲ。
酒場で話の種にしたら、大ぼら吹きとでも言われそうな生き物だが、冒険者ギルドの係員は知っていた。確かにこんな生き物が、ホーンリザードという名前で存在するのだ。現物にお目にかかったことは、流石にない。暗黒大陸かどこかにいるような噂は、一応聞いた。
しかし、そんなものを絵画に描く絵師が存在するとは、予想もしていなかった。
けれど。
「当家の奥方が、誰も飼っていない様なペットが欲しいと申されまして、主が手を尽くして入手したのがこの生き物でございます。わたくしが見たところでは、身の丈がこの程度で」
手で示されたのは、大柄なシフールと同じくらいだ。
「後ろ足のみで立ち上がって、この絵の様に走ることが出来るそうです。角で突かれると、かなりの怪我になるのではないかと思われます」
描かれたとおりの、つんととんがった鋭い角が固いものであれば、それは確かに痛いだろう。
「名前はシャルロットとタロウと申しまして」
どうやらつがいらしい。つがい?
「二匹もいるんですか?」
「はい。シャルロットは濃淡の茶が混じった色合い、タロウは黒みがかった茶色のホーンリザードです。これが、別荘から逃げ出してしまいまして、わたくしどもでは見付けられませんでしたので、こちらの方々にお願いをいたしたく伺いました」
どうやら飼い主は、別荘でホーンリザードを知人友人に見せて自慢したらしい。それは良かったのだが、シャルロットとタロウは逃げ出してしまったのだ。使用人総出で探して、何度か姿を見付けはしたのだが、どうしても捕まえられなかった。
そんなわけで、冒険者なら捕まえてくれるだろうと依頼を出しに来たようだ。誰かに盗まれたわけでもなく、何の陰謀の香りもしない、単なる捕り物。そのはずだったが。
「珍しいペットですから、確かにお気持ちは分かりますが‥‥例えば、魔法で治してお戻しするのでも駄目ですか?」
「角が折れたら、元には戻りませんでしょう。最大限、注意を払っていただきたく」
ホーンリザードを捕まえる際に、絶対に傷付けてはいけない。例え魔法で治せる怪我だとしても、傷付けたのが分かったら報酬は大幅に減額させてもらう。これが依頼人からの条件だった。
「その分、経験のある方を集めて下さるようにお願いいたします」
これで間違って殺しでもしたら、当人達のみならず、冒険者ギルドもどこでどう言われるか分かったものではないというような迫力に満ちた、丁寧なご依頼であった。
●リプレイ本文
シャルロットは、タロウよりよほど凶悪そうな面構えのホーンリザードだった。それが餌を抱えて目前までやってきて、親切にも地面に置いてくれようとしたミーファ・リリム(ea1860)を見た途端に、後ろ足二本ですっくと立ち上がったのである。
もちろん、その後は突撃だ。
「な、なにするのら〜」
「飛べっ、早く!」
ユノーナ・ジョケル(eb1107)が叫ぶと同時に、ナイトらしく同族のミーちゃんを助けるべく急降下したが‥‥そもそも彼らはシフール、はっきりきっぱりシャルロットのほうがでかかった。
きっと、二人が餌に見えたに違いない。
今回依頼を受けた六人のうち、男性はユノーナとホメロス・フレキ(ea4263)の二人だが、ホメロスはウィザードだ。大きな籠を手にしていて、身軽に動ける状態ではなかった。
更に残る三人もクリミナ・ロッソ(ea1999)は白クレリック、ニミュエ・ユーノ(ea2446)はバード。体型、体力的に飛び込んでシャルロットを止めることは出来ない。
レア・ベルナール(eb2818)はファイターだが、いる位置がシフール二人の背後、それもいささか離れているとあっては、やはりシャルロットを止めることは出来ず‥‥
誰も高速詠唱の魔法も使えず、空中で硬直する離れ業を披露したミーちゃんを背後に庇ったユノーナが、駆けてくるシャルロットに向き直って‥‥
時間は、一日前に遡る。
依頼人の別荘というのは、なかなかに豪勢な建物だった。それだけなら休ませて貰うにはありがたいのだが、依頼人の夫人は相当の話し好きで、お茶がなくなったミーちゃんは明らかに飽きていた。ホーンリザードの自慢話をされても、彼女はそんなに嬉しくないのだ。幸い、お茶とお菓子のお代わりを持ってきてくれたので、無作法をすることはなかったが。
それ以外の五人は、夫人にとっては理想的な聞き手であったろう。ユノーナは自分で『特徴など聞かせて欲しい』と言い出した手前、やや引きつってきたが笑顔を保って話を聞いていた。予想通りの自慢話羅列だが、他人の悪口でなし、急かすのも悪い。
クリミナは出掛けに少しばかりホーンリザードについて調べていて、その知識を元に会話をするので喜ばれたし、絶対に誇張された夫人の話も感心して聞いているので、夫人は鼻高々だ。自慢の種に逃げられて、しょげ返って別荘にこもっていた人とは思えない。
なにより、夫人はエルフなので種族こそ違うが、いかにもお育ちが良さそうで会話が巧みなホメロスがこれ以上はない絶妙な間の取り方で、場を盛り上げてくれる。とてもではないが、すでに一日の半分を自慢話に費やされている冒険者の態度とは思えない。笑顔もなにかこう、輝いて見えるようだ。
そして積極的に会話に参加するわけではないものの、ニミュエは吟遊詩人らしく、話の要点を上手にまとめてみせる。なんとはなしに態度が偉そうなのだが、夫人は気付いていないようだ。彼女の従妹がホーンリザードを欲しがっていたと聞いて、ご満悦である。
傍らでは、どんな話もニコニコ、ニコニコと笑って頷きながら聞いてくれるレアがいれば、もはや夫人のご機嫌は留まるところなく上昇していきそうだったが、それでは話にならない。と言うか、いつまでたっても探しに行けない。
「ではそろそろ、我々もその素晴らしいペットを探しに参りましょう。実際に見てみないと、お話の素晴らしさも実感が半分と言うところでしょうから」
ホメロスが何か上手いことを言って夫人を納得させた上で話を切り上げたが、それが出来るなら早くしろと口にするような仲間は、今回はいなかった。性格、または身分柄、そういうことを言うものがいなかったのである。
「他人に自慢したいがためだけに、角のあるトカゲちゃんを飼う気合が気に入りましたわ」
ニミュエの感想は身も蓋もなかったが、夫人には聞こえていないので良いことになった。
ホーンリザード達が入っていたという籠二つを借りて、ようやっと彼らは果樹園と畑にお出掛けである。
ホーンリザードのシャルロットとタロウは、それぞれ別の場所で目撃されている。対する冒険者は六名で、うち二人がシフール、他も荒事に慣れているのはレアだけで、腕っ節もちょっと足りない様子。ホメロスはユノーナ以外にこまめに気を配っているが、流石にホーンリザードを素手で捕まえるような技能の持ち合わせはないだろう。魔法もスクロールも、あまりこういう時向きではないと言うし。
幸い、クリミナがコアギュレイトなどを使えるので、まずは一匹ずつ誘き出してその魔法か、罠で捕まえようということになった。誘き出すのは、餌とニミュエのメロディーを試すことになっている。餌は兎の肉だそうだ。
「豪勢らね〜。トカゲさん達見付けたら、ミーちゃんにも食べさせてほしいのら〜」
今にも口から心の汗を垂れ流しそうな様子で、ミーちゃんがサンワードの魔法を一回失敗した。誘き出しの前に、せめておおまかな方向だけでもあたりをつけようとしていたわけだが、ちょっと雑念が強すぎたらしい。二度目は成功して、畑の外れの溜め池あたりにトカゲさんはいるようだ。これまでの目撃証言からすると、タロウの可能性が高い。
ユノーナが元気に空からの偵察を言い置いて飛んで行き、ミーちゃんものんびりした風情でそれに続いた。クリミナは今の段階ではやることがなく、ニュミエはメロディーを奏でるのに座りやすい場所を探している。
そんなわけで、兎の肉を撒いたり、罠として籠を仕掛けてみたり、一応網を投げる練習をしたりするのはレアとホメロスなのだが‥‥餌撒きはともかく、網を投げるのはレアがかろうじてなんとか様になった有様で、罠を仕掛けるにいたってはどちらも背負い籠を逆さにして、棒切れで支える程度のことしか出来なかった。やったことがないことを頑張ってみてもどうにもならない。夫人が怪我をさせないためにはこういう罠が一番と用意してくれたので、一応お義理程度に使うことになった。
ちなみにこの間にクリミナが説明してくれたところでは、トカゲに限らず野生の動物ではつがいの相手を選ぶ優先権はメスにあることが多いのと、種類によってはメスのほうが大きくて性質も荒いので、タロウを先に捕らえるのが良さそうだとか。確かに夫人の話でもシャルロットのほうが、タロウより一回り大きかったらしい。これが種族特有の性差なのか、それとも単なる生まれた時期の違いなのかは、流石にトカゲ博士ではないクリミナの知識にはなかった。
「少なくとも、日陰の湿っぽい、冷たいところにはいないはずです。寒いと動けなくなる生き物ですから」
トカゲ類全般の特徴から、上空からだと見付けやすいのではないかと話を締めくくったクリミナの声が聞こえたわけではないだろうが、ユノーナがそれらしい影を見付けたと叫んできた。ミーちゃんも真下を指しているようだから、そこにタロウがいるのだろう。
「思っていたより遠いが、大丈夫か?」
こちらは動く分には構わないがと、タロウを入れる装飾過多の籠を持ったホメロスが気を使うが、ニミュエは全然平気だった。クリミナがグッドラックをかけてくれるのを待って、それから歌いだす。
『その素晴らしき鱗を見せてくださいな〜♪』
歌詞はどうなのかと思わなくもないものだが、類稀なると評して遜色ない歌声はそれはそれは見事だった。けれどもホーンリザードや普通のトカゲ、蛇が人の言葉を解するわけではないものだから、なかなか効果が出てこない。
合間にユノーナが見付け出したタロウの気を引くように、ミーちゃんに借りたスカーフをひらひらさせながらすぐ上を飛んでいた。どちらかといえば、こちらのほうがタロウの本能を刺激したと見えて、するすると四つ足の体勢で追いかけてくる。案外早かった。
「やっぱりトカゲですのねぇ」
妙なる歌声に魅了されないことをクリミナはのほほんと評したが、実はそれどころではない。なにしろタロウはそこまで来ていて、捕まえるのに一番の効果的な魔法はクリミナのコアギュレイトだからだ。ニミュエのチャームもあるが、相手はトカゲ。確実に効果があるかどうかが危ぶまれる。
もちろんちょっとでも動きが止まれば、ホメロスとレアが捕まえるべく待機しているのだが‥‥ユノーナがわざとゆっくり飛んできたあたりで、タロウの動きは素早く変わった。
風が変わって、スカーフの揺れ具合が変化した途端に、後ろ足で立ち上がったのだ。
『よっしゃ、捕まえてやる!』
と、タロウが思ったかどうかは、テレパシーの持ち主もいないので分からない。
ただ。
「まあ、なんだか楽しい動きでしたわね」
と、クリミナが後でうきうきと感想を述べた程度に楽しい、滑稽な動きで走り出していた。レアが網を投げたが潜り抜け、ホメロスが野菜入れのほうの籠を被せようとしたが叶わず、ユノーナが慌てて上空に舞い上がったのに合わせて、太郎は飛んだ。明らかにスカーフの動きを追っていたが‥‥残念、タロウの跳躍力ではシフールに叶うはずもない。
「これ、どうします?」
ジャンプの後に四つ足で着地し、衝撃のせいか動きを止めたタロウに、拾った網を被せたレアが皆を振り返った。くわっと口を開けて威嚇しているのに、レアがあまりに無造作だったので、ホメロスが速やかに手を出してタロウには籠にお入り願う。
なにか自分も使えるものをと荷物を探っていたミーちゃんが到着した時には、もうタロウは籠の中で角を振り回して威嚇動作をしているところだった。荷物は整理して、適量にしておくに越したことはない。幾らか代わりに持ってやっていたユノーナには、スカーフが役に立ったのだけれど。
なんにせよ、ものすごくご機嫌斜めになっているがタロウは捕まえられた一同は、夫人に大変感謝され、シャルロット捕獲の期待もされ、また自慢話を聞かされる羽目に陥った。食事は品数も豊富、新鮮な材料で美味しかったので、誰も文句はなかったのだが。
でも、この食事の席でホメロスが、ホーンリザード達の籠をもう少し大きいものに変えるように進言した時は、皆が揃って頷いている。入れてみたら、かなり小さかったのだ。
そして翌日。
はなからミーちゃんのサンワードを頼ることにした一同は、今度は果樹園の近くにいた。果樹園の中で捕り物をするのは、流石に小さな果実が見える木々に被害が出ないとも限らず、何をするにも動きが制限されるので、出来れば果樹園の外で捕り物としたいところである。
「走る姿は面白いものでしたけれど、案外と速かったですから」
「ハティに追いかけさせると怪我をするかもしれないし」
クリミナが魔法の掛け時を間違えないようにしないといけないと考えている横で、ニミュエは愛犬になにやら言い聞かせていた。この場合、怪我をするのはシャルロットか、それともぷすっとやられてハティなのかは不明だ。同様に、ユノーナが突っ込んでこられた時の用心として、ミーちゃんにいらない品物を外させている。実際に外してやっているのは、レアになるのだが。
「昨日は動くものに反応したから」
やはり捕食本能を刺激するのがいいと、ホメロスはしなる枝の先に肉片を結んでいた。これをまたユノーナ達に持って飛んでもらい、シャルロットを広いところに連れ出してもらう計画である。
後は今日こそコアギュレイトなりチャームなりで、しっかりとシャルロットを保護すべしと計画していた一同は、サンワードの結果で活動場所を決めて‥‥
「な、なにするのら〜」
「飛べっ、早く!」
突撃をかましてきたシャルロットに、あわやユノーナとミーちゃんが串刺しにされそう‥‥
「ぐえっ」
「ぴぎゃっ」
ずしゃ。
「怪我したんじゃないかしら!」
「まあ、大変ですわ」
片手ずつにシフールを一人ずつ『握り締めた』レアが、両手を高々と掲げ、その足元では彼女の靴に突っ込んでしまったシャルロットが地面に抱きついていた。ニュミエとクリミナが慌てたのは、もちろんシャルロットに怪我がないかどうかだ。
「ちょっと失敗したようです」
「いいから、手を離してあげな」
羽ごと握りこまれて息も絶え絶えのミーちゃんとユノーナ、それからシャルロットを見て、レアがちょっと首を傾げた。ホメロスに注意されて、ようやく手を離してから、今度は足元でクリミナとニュミエに牙を剥いているシャルロットの首を掴んだ。恐れ気のない女性である。
宙に放り出されたシフール二人は、ユノーナがミーちゃんを落ちないように支え、それをホメロスが受け止めて休ませている。流石にユノーナも、ホメロスの肩を借りていた。この場合、借りるのは座り込む、である。
そんな間に女性三人がシャルロットを表にしたり裏にしたり、逆さに振ったりして怪我がないことを確認して、ホメロスが持っていた籠に入れていた。装飾過多の籠は小さいので、今日は別の籠だ。ついでにミーちゃんが持っていた肉片も入れてやる。
「誰も怪我がなくてなによりですね」
ニコニコと嬉しそうに頷きあうクリミナとレアに、色々言いたい人がいたかも知れないが、なにしろ『ぎゅうっと』された後なので声が出なかった。
「今度、飼い方に詳しい方を探して、小屋でも建ててあげようかと思いましたのよ」
なにやら疲れ果てて戻ってきた一同を見た夫人は、今までの籠の三倍の大きさの箱の中でのびのびと横になっているタロウとシャルロットを見て、そんなことを口にした。
それは素晴らしいと、心の底から賞賛してくれる人が何人もいたりするのが、今回集まった冒険者達の一番素晴らしいところかもしれなかった。
「それで卵を産んだら、従妹に一匹分けて欲しいものね」
心の中で、違うことを考えている人もいたりするが‥‥
「食べさせてはくれないと思いますよ。品がないから拭きなさい」
口から心の汗を垂れ流しそうになっていたのは、一人きりだ。