夜の林の向こう側
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 81 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月03日〜06月06日
リプレイ公開日:2006年06月12日
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●オープニング
それほど大変な依頼ではなかったので、首尾よく終わった。まだまだ、歴史に残るような事件の一端を担うような腕には至らないが、依頼人が喜んでくれるのはよいことだ。
明日になったら、冒険者ギルドに戻って報告を済ませ、一日くらいはのんびりしてもいいかもしれない。
そんな余裕は、そこまでだった。
夜も更けているからと、依頼人の好意で泊めてもらうところだった冒険者の一行の前につれて来られたのは、随分と薄汚れた身なりになってしまっている青年だった。どういう道を通ってきたのか、服のあちこちにかぎ裂きが出来て、土埃がまとわり付いている。
顔色が悪いのは疲れからかと思えば、話はまったく違っていた。
「化け物なんです。どういうのかは、よく分かりません。一応人がましい姿はしてましたが‥‥十くらいはいたと思います。他の人が」
青年の仕事は行商人だ。扱っているのは塩や蜂蜜などの食品で、今いる村にも時々回ってくる。大抵はもう一人、服地や糸を扱う商人と連れ立ってきていた。
更に今回は、鍛冶師や大工、家畜の買い入れなどをする人々と同行することになり、総勢八名と羊二十頭くらいで街道を歩いていたという。
そうして、青年の知識では何とも分からないが、オーガ族の類に襲われて、彼以外の人々は捕まってしまったのだ。相手は随分と飢えている様子で、羊だけでなく人も食べてしまいかねない勢いだったらしい。
「去年は色々ありましたが、今年になってからは化け物の噂もあまり聞かなかったのに‥‥とにかく、他の人達を助けてください。お願いします」
冒険者ギルドから斡旋された依頼は果たした。報告をする必要があるので、本来は出来るだけ速やかに帰らなくてはならない。この頼みを受けなくても、冒険者ギルドから責められることはないだろう。
受けなくても責められない。だが、受けたからといって責められる筋合いでもない。ちゃんと帰れればと注釈は付くが。
後は、自分の気持ち次第だ。
●リプレイ本文
最初の依頼人は、今いる村の顔役だった。流石に街道沿いにオーガの類が出たとあっては黙っているわけにもいかず、村の男達を集めて、問題の街道側の方面に篝火など準備させ始めた。
そうして、急を知らせた行商人を次の依頼人と定めた八名の冒険者達は、誰一人として謝礼などとは言わず、救出に向かう準備を始めている。
「竪琴も持ってきてねー。今聞いたあたりで、誰かの声がしないか調べておけばいいよね?」
先行偵察の一人、ラフィー・ミティック(ea4439)はあまり緊張感がない様子で、荷物を預けるとひらりと飛び去った。シフールのラフィーはまったく障害物のない上空を進むから、その速度もあいまって現場には夜が明けぬうちに到着するだろう。
「速度を合わせるべきであろうか?」
「否。その時間が惜しい」
続いて出立したのは、芦品慈恩(eb1835)と黒風怪(eb3502)、二人のジャイアントだ。芦品は忍術で、黒はセブンリーグブーツで進み、ラフィーほどではないが、やはり朝日より先に到着の予定。早く着けば、それぞれの特技や技能で連れ去られた人々がいる方向のあたりをつけることも出来よう。
言葉を交わす時間も惜しむ様子で飛び出した三人と異なり、残る五人は幾つか準備を整えていた。ウェルス・サルヴィウス(ea1787)とアタナシウス・コムネノス(eb3445)は行商人の怪我の具合を改め、気付けに酒を含ませつつ、オーガ族に連れ去られた人々の名前や容貌の特徴、目撃したオーガの外見などを確かめている。先行した三人は頼まれて助けにきたと言えるように、とりあえず行商人の名前だけ聞いていった。
「ゴブリンとホブゴブリンではないかと思われます」
「打撲傷はありましたが、刃物傷は見受けられませんでした」
印象は違うか、どちらも見るからに聖職者然とした男性なので、行商人も大分安堵したらしい。先行したのが偵察に向いていそうなシフールと、いかにも頼りがいのありそうなジャイアントだったこともあって、二人の質問には落ち着いて答えていた。おかげで分かったのが、相手が牙のある人がましい顔をしたオーガで、大人ほどの体格のモノが三か四、残りが子供に近い体格だったと言う。オーガ族についての知識を多少なりと蓄えたのはアタナシウスだけだったが、そうでなくとも彼の言葉に頷く冒険者は多かっただろう。
「んー、森の奥に行ってって、歌ったらいい?」
「メロディーだよね、それで効果があればいいけど」
リースス・レーニス(ea5886)とウィルフレッド・オゥコナー(eb5324)が、セレスト・グラン・クリュ(eb3537)の荷物から空飛ぶ絨毯を出して広げ、その上に運ぶべき荷物を載せていた。この会話には、顔役が何か言いたそうだったが、セレストが目顔で黙らせる。人命救助が大事ねと続けられた言葉には、当然のように居合わせて全員が頷いた。
ただ、街道沿いである分、実入りの多い仕事もある村にしたら、モンスターは追い払うのではなく倒して欲しいものだろう。それが理由で人の行き来が減ったら、死活問題である。とはいえ正式の依頼ではなく、善意の人助け。人命優先で、モンスター退治は可能な範囲と言うのが妥当なあたりと、セレストと無言の相談がまとまったらしい。
単純に、聖職者三名とエルフとパラとはいえ女性の前で利己的な主張をするには、『正式な依頼ではない』ことを気にする相手だったのかもしれないが。
ウェルスのグッドラックを受けたセレストが、ウィルフレッドとリーススの二人を空飛ぶ絨毯に乗せて、街道を移動し始める。アタナシウスとウェルスが徒歩なのは絨毯に無理に乗っても、落ちないような速度で行くことになるので、素早い行動が必要な今回は無益だと判断したからだ。彼らの手が急ぎ必要なら、誰かが絨毯で迎えに戻ることになっている。
まずは先行した三人に追いついて、ウィルフレッドの魔法で連れ去られた人々の居場所を確認するのが、何よりも急がれた。
幾度も通っている場所なので、自分達が襲われた場所に対する行商人の説明は正確だった。おかげで黒と芦品はかなり手前で様子を確かめるために足を止めたり、身を潜めたりしたが、あいにくとラフィーは上空からなので少し行き過ぎた。ラフィーがこっそりと木の枝に降りたのは、動物の悲鳴がしたからだ。
「‥‥七人だったよね?」
羊がざっくりやられているのは見ないようにしながら、その近くでぐるぐる巻きにされている人数を数えたラフィーは首を傾げた。行商人の話では捕まった仲間は七人。しかし。
「どうしよう、五人しかいない」
その五人もぐったりしているし、周囲も暗いのでどんな状態かはよく分からないが、何回数えても五人だ。困ったラフィーは、後から来ているはずの芦品と黒を探すべく、街道に戻って行った。ホブゴブリンとゴブリンは羊を捌いていて、自分達が見付かったことには気付いていない。
しかし、戻ってしばらくは黒としか合流できず、芦品はどうしたのかと少し待っていた二人は、先に魔法の絨毯で駆けつけたリースス、ウィルフレッド、セレストを見付けた。三人も、また響いた羊の断末魔に渋面を作ったが、人影が五人しか確認できないと聞いてより険しい表情になる。ラフィーとリーススがそれぞれテレパシーで芦品とウェルス、アタナシウスの三人を呼んだが、応じたのは芦品だけだった。後続の二人はまだ遠いようだが、芦品はすでに捕らわれた五人に接触していたらしい。
「二人足りないのは、子供は別に逃げたからのようだ。あの五人には大きな怪我は見られなかったが、骨が折れていたりすれば別であろう」
テレパシーであっちだこっちだと引っ張り回された芦品が合流して、七人のはずが五人しかいない謎は判明した。分からないのは相手の数で、芦品も人数が合わないことの確認を急いだので、敵が十体前後としか分からない。敵もうろうろと行ったり来たりするので、明かりもないところで完璧な情報は掴めなかったのだろう。当人は不満そうだが、他の五人にしたら行方が分からないまでも、二人が捕まったわけではないと知れただけありがたい。
「悪いけど、後の二人を待っている場合ではないと思うの。ホーリーフィールドがあればありがたいけど」
「そこまで連れて行く前に、間違いなく気付かれるからな」
黒があっさりとセレストの言に賛成して、他の者も早い救出に否やはない。怪我人が出ないうちにここまで来てくれますようにと願って、五人はまずウィルフレッドの魔法で正確な敵の数の把握を試み始めた。それで数と位置が分かったら、人命救助優先で動きはじめなくてはならない。この対応をモンスター退治か、追い払いのどちらとするかで意識のずれがあるのだが。
ところで、その頃のアタナシウスとウェルスはといえば。
荷物はセレスト達に預け、ほとんど身一つで街道を急いでいた二人が手にしていたのは、ウェルスのランタンだけだった。それでも二人が聖職者なのは服装で分かる。道行く人がいる時間ではないので、聖職者らしからぬ早足で進んでいた二人を見咎める人々はいるはずもなかったのだが。
がさがさと街道横の茂みの下のほうが揺れた。風はないし、足音を気にせず進んでいた男性二人がいて、小動物の類が出てくるとは思えない。出会い頭の遭遇としては、相手が逃げないのも不思議だ。
『なんでしょうか』
『大きなものではないようですが』
この二人、どちらもノルマンの出身ではなかった。ラテン語が母語な上にクレリックだから、思わず口をついたのはラテン語だ。ウェルスがランタンを掲げ、アタナシウスもそちらを伺った。間の会話は、ずっとラテン語である。
と、両者共にふと気付いた。
「どなたかいらっゃいますか」
ゲルマン語に切り替えてウェルスが問いかけた途端に、やはり茂みの下のほうから、ひょっこりと人の顔が覗いた。年の頃二十五前後のドワーフである。人間で言えば、十二、三歳だろう。背の高いアタナシウスが茂みの向こうを覗き見たところ、もう一人いる気配がする。
「神父様?」
「大工のローラン親方の息子さん達ですか?」
互いに顔や服装を観察して、ほぼ同時に問い掛けあった子供二人とクレリック二人は、これまた同時に自分の側の事情を話し出してしまった。もちろん先に黙ったのはアタナシウスとウェルスになるので、子供二人がまとまりは今ひとつながら自分達は一度捕まったがどこかに連れて行かれる途中で逃げ出し、先に助けを呼びに行った行商人を追いかけていたことを説明してくれた。合間に何度も咳き込むし、顔色は緊張やら何やらで真っ青なので、ウェルスがクリエイトハンドで作った水を飲ませる。間の悪いことに、急いでいた彼らは何時間かのことだからと水も気付けになるような酒類も持っていなかったのだ。大きな木の葉が器代わりだからかなり零れたが、それでも子供達は人心地ついたらしい。すかさず一緒に出て来た粥も食べたからかもしれないが。
すでに助けが向かっていることを聞いた子供達は、もう歩くのがやっとという風情で、かといって何があるかわからないのでここで待っていなさいとも言えず‥‥
「迎えが来るはずですから、少しずつ歩いていましょうか」
「時間が掛かるようでしたら、どちらかが先に皆さんを呼びに行きましょう」
先行した仲間にも様子は知らず、二人は『子供を置いていけない』と意見の一致をみて、それぞれに子供の手を引いて歩き出していた。
確かにしばらくすると迎えが来たのだが、それとても二人が子供の話を辛抱強く聞くのに随分と時間を掛けていた間に、状況が変化していたからである。
少し時間は遡って。
敵の数は十体ちょうど。ホブゴブリンが四体にゴブリンが六体。捕らわれている五人は一箇所に固まっているが、敵は周囲をうろうろしている。羊は大分減って、残りが八頭ほど。もしかしたら逃げたものがいるかもしれないが、ウィルフレッドが確認したのは、とりあえずそんな状態だった。
「見張りとかはいないようだね。歩き回っているから、見張りがいるより面倒かも」
飢えが満たされて満足したというより、興奮状態が続いている感じ。ウィルフレッドの報告に、僅かの間対策を相談した一同は、まず芦品が五人のところに近付き、それからラフィーとリーススがスリープの呪文を掛けることになった。興奮している相手には効きにくいが、ホブゴブリンの一匹でも寝てくれればありがたい。黒はその直後に敵の目をひきつける役、セレストとウィルフレッドは彼の援護だ。
結果。
「たーすーけーてー」
「ギュンター君と違うー」
スリープの呪文が掛かったのは一体だけ。それならとラフィーとリーススはテレパシーにチャームを繰り出したのだが、興奮している相手にはいずれも効果が薄かった。それにそもそもが弱いもの苛めが好きでこずるいなどと評されるホブゴブリンとゴブリンである。ごく稀にいると言われる平和的なオーガの話などしても、はなから聴く耳を持たなかった。
結局、姿を見付けられてしまったリーススとラフィーは追い掛け回され、もちろん身軽なところを見せて逃げ回り、しばし怖い思いをしたのだった。ラフィーだけなら上空に逃げればいいのだが、リーススをおいて自分だけ助かろうとするほど薄情ではなかったらしい。
おかげで芦品の人質救出は非常に容易に進み、当人達の商売道具でもあったロープで縛られていた五人は何とかかんとか危険な場所から逃げ出していた。足がもつれても、芦品がすぐに吊り上げて立たせてくれるので、ひたすら足を動かしていたとも言う。こちらを追いかけたゴブリンもいたのだが、日本刀でジャイアントに突きこまれればまず助からない。体の大きさも段違いの芦品に武器を向けようというゴブリン達は、他にはいなかった。
黒は黒で、芦品より更に頭ひとつ分背が高いところに、ラージフレイルを振りかざしていくものだから、向かっていくものは最初から皆無だった。囮なので敵の目を集めるために挑発もするが、なおいっそう怖気づいて逃げ腰になっている。元気だったのは、リーススやラフィーを追い掛け回した何匹かだけだったようだ。睨み合っていても埒が明かないと思った黒が歩を進めた途端に、向かい合っていた三匹はわっと逃げ散ったのだから。
そうして、弱いもの苛めをしていた何匹かは。
「ちょっと、今真横を通ったわよ」
セレストがぞっとした風情で立ち止まった真横を確かに通ったライトニングサンダーボルトで、一匹が昇天していたのである。他はよろよろしながら、別々の方向に逃げていこうとして、黒の手に掛かったのがまた一匹。セレストも芦名のほうから逃げてきたのを倒して、計五匹は倒したことになる。ウィルフレッドは、ちょうど誰も被害に遭わないと思ったと、しれっと応えたらしい。
五匹逃がしてしまったことになるが、それをしまったと考えているものは案外少なくて、そうした者も人質が助かったことをもちろん喜んでいた。
そうして。
自分が行くと騒ぐリーススと、たまには自分の羽根以外で飛んでみたいラフィーが空飛ぶ絨毯に乗って、まだ到着しない後続の二人と行商人がいる村に事の次第と子供が二人逃げていることを伝えに向かった。この二人は、それほど行かないところでウェルスとアタナシウスが子供を保護していることを確かめ、村への報告にどちらが戻るかでなにやら賭けた後、負けたラフィーが自分の羽根で村へと向かった。リーススはまるで自分のもののように絨毯を自慢して、子供達とクレリック二人を乗せて皆のところに引き返している。
理由は簡単。子供達の親に早く会わせてあげたいのと、子供達同様に疲れ果てた大人達元気付けるのにセレストと黒が簡単な食事を準備していたからだ。リーススも、考えてみればおなかがすいた。他の皆は逃げ散った羊を集めたり、あちこちに散らばったままの商人達の荷物を回収している。駄目になった品物も相当あるが、大きな怪我もなく助かった彼らは家畜商人の損害をどうやって埋め合わせるかを相談して、悲嘆にはくれていなかった。
ちなみに家畜商人は。
「これが売れたら、あんた達へのお礼にしよう」
と、殺されてしまったが食べられていない羊を集めて、まったくへこたれないところを見せていた。
一番へこたれていたのは、村まで戻って、それからなんにも食べずにまた皆のところまで戻ってきたラフィーだったようだ。これでなんにも食べるものがなかったら倒れていただろうが、流石に皆はそれほど非情ではなかった。
最後の難題、空飛ぶ絨毯が『子供達』に占拠されて荷物がほとんど詰めず、持ち主達もいつもほど背負えない状況で、かき集めた荷物をどうするか。
これは、芦品と黒が皆の期待に力強く頷いて、解決してくれた。