六月の花嫁‥‥の添え物
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:10〜16lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 84 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:06月08日〜06月13日
リプレイ公開日:2006年06月16日
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●オープニング
受けちゃったんだ‥‥という空気が、冒険者ギルドの受付係の間に漂っていた。
「あ、皆でそんな顔する。だって断る仕事じゃないでしょ。依頼人も確かだし、報酬も悪くないし、命の危険もないし、後ろ暗いところなんか欠片もない、他人様の幸せを祝う席だよ」
これで断ったら、余計なことを勘ぐられるんだから、誰が断れるかとやさぐれている受付係の一人に、けれども同僚達の視線は冷たかった。
「こともあろうに六月の初旬にこの依頼では、しばらく同様の依頼が続くかもしれなくてよ。まあ、行きたい人が行けばいいのだから、格別問題にはならないでしょうけれど」
「そう。お行儀良くして、招待客には自分から話しかけるなと、それだけ徹底すればいいだけのことじゃないですか。さすがギルドマスターは、よく分かっていらっしゃる」
受付係に持ち上げられたギルドマスターのフロランス・シュトルームは、笑顔で『でも』と続けた。
「貴族のこういう依頼は、誰それのところに有名人が来たとか来ないとかで騒ぎになるから、面倒なのよ?」
まさにそこだと、声には出さずに同意の空気だけを漂わせた同僚を尻目に、受付係はしれっと言ってのけた。
「そういうときには、我らがギルドマスターが行ってくだされば、全部解決ですよ」
面倒でしょうけれど、よろしくお願いしますねと言ってのけた受付係の頭に、受付業務の責任者の鉄拳が落ちてきたのは直後のことだった。
依頼内容は、貴族子弟の結婚式披露宴の護衛兼盛り上げ役。
実際には護衛も芸人も手配されているのだが、それとは別に、ここ数年の様々な事件の解決に尽力したとされる冒険者達の冒険譚を招待客に語って聞かせて欲しいというのが本当のところ。
要するに『当家はこんなに素晴らしい人物が雇われてくれる家だ』と自慢したい依頼人の顔を立て、座を盛り上げてくれればよい。冒険者の職種は問わないが、依頼人はジーザス教白を信仰しているので、それ以外の信仰を声高に語るような人物は好ましくない。
後は気位の高いお貴族様も多い席のこと、相手から話しかけられるまでは護衛に徹して黙っていられればよい。冒険者側から話しかけるのは無作法とされることがあるので、この点はよくよく注意しよう。
と、こぶを作った受付係は言っていた。
●リプレイ本文
冒険者ギルドの受付達が『これはこれでどうなんだ』と額を寄せて話し合ったことなどもちろん知らず、お貴族様の結婚式警護の依頼に向かった冒険者は八名いた。聖職者が三人、うち二人が白クレリック、バードの吟遊詩人と学士、ジプシーの踊り子、ウィザードの彫刻家に女性ナイトで八名。白クレリックの片方、ブノワ・ブーランジェ(ea6505)以外は全部女性の、ある意味華やかな一行で‥‥まったく『護衛』のための集団には見えなかった。
「堂々としなさい。下を向くと服に負けますよ」
人によっては着慣れない礼服を着けた一同を、グリュンヒルダ・ウィンダム(ea3677)が眺め渡した。紅天華(ea0926)やサラフィル・ローズィット(ea3776)は聖職者だけあって、何を着ていようと背筋が伸びるが、踊り子のサーラ・カトレア(ea4078)、バードのラテリカ・ラートベル(ea1641)、ガブリエル・プリメーラ(ea1671)はいつもと少々勝手が違うのであちらを引っ張り、こちらを撫で付けて忙しい。いずれの服も、念のために依頼人の家臣に検分してもらって、『よくお似合いです』と認めてもらったものだ。
そんな中、オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)は一人くつろいでいた。こちらに着くまでには『話しかけられてもどうしよう』なんぞと口にしていたが、これなら心配ないとグリュンヒルダに思われたらしい。でも座り方は注意されている。
「今頃は、結婚式ですわね」
「一度見てみたいが‥‥流石に迷惑か」
出来れば結婚式にも参列してみたかったサラと天華だが、部外者でもあるし、土地の風習に疎い身で迷惑になってもいけないので窓から様子を伺うだけだ。天華は華国のどこかの地方のものらしい衣装を着け、サラは式典用の聖職者礼装だ。
先に楽団に挨拶を済ませてきたラテリカ、ガブリエル、サーラは、日頃その声や演奏、踊りを披露する時よりは随分と襟も袖も詰まったものを着ている。そう見えるだけで、実際はそれほどでもないかもしれないが、サーラは胸周りがきつそうだ。ラテリカが最初に思わずしげしげと眺めてしまったのは、この場の全員が見なかった振りをした。
「さあさ、行きましょうか。そろそろ宴会場の近くにいたほうがいいんじゃない?」
ガブリエルが皆を促したところで、ちょうど案内に来た使用人が扉を開いた。一人だけ別室だったブノワは、すでに廊下で女性陣を待っていたらしい。
聖職者以外は、実は『将来の参考になるかも』などと考えている一同は、速やかに宴会場へと映っていったのだった。
新郎の父親が長々と挨拶をして、親戚筋の誰だかが乾杯と杯を掲げてからしばらく。
披露宴会場の片隅で、ブノワは招待客の若い女性陣に囲まれていた。彼も一見して聖職者と分かる式典用礼装なので、結婚式の様子を尋ねられたのだ。両者共に、あいにくと結婚式への参列が叶わなかったので、そこで会話が終わっても不思議はなかったのだが‥‥
「そこで黙ってしまっては困りますのよ。それからどうなりましたの?」
この際よその結婚式の話でもいいから聞いてみようと考え直した物見高い娘さん達に囲まれて、ブノワはあれこれ追求されていた。『妻がいる』と口を滑らせたので、馴れ初めから延々と語らされているのだ。宴の席で、聖職者を囲んで話を聞く若い娘達。それ自体は、珍しい光景ではない。
「つまりは一目ぼれね。まあ、素敵」
「神父様、奥方様はどちらですの? ぜひ紹介していただきたいわ」
内情が他人の恋愛話に打ち興じているだけだとしても、一見してそう分からないので、誰もブノワを助けてはくれない。この時ばかりは、姉と姪が『お話することがいっぱい』と妻を掻っ攫って行ったことに感謝した彼だった。押しの強い人が苦手な上、船旅で体調を崩した妻を伴っていたら、大変なことになるところだった。
でも、彼を見た人々は楽しそうに語っていると思っていたりする。
見るからに異国風の衣装を着た天華は、やはりまったく冒険者だとは思われていなかった。どういう関係での招待かと問われて冒険者だと答えれば、誰もが目を丸くした。
「シュバルツ城の騒乱に加わったので、そのご縁かのう」
冒険者が招かれた理由が分からない招待客に、天華本人もとぼけた反応を返している。別に依頼人を思いやったわけではなく、依頼の裏事情などすっかり忘れているだけだ。一応『冒険譚を話してくれ』は忘れておらず、持参していた下賜品のノンマン・ダガーを出して見せ、老若男女問わない羨望を浴びた。当人は『いつも必死だっただけ』と言うも、細身のエルフがデビルと戦った話では、謙遜と受け止められたらしい。東洋人は奥ゆかしい物言いが好みだからと、誰かがしたり顔で口にしている。
「ケンブリッジも無事に卒業できたが‥‥人が生きている限りは学ぶことも、終わらぬのだよ。その人の物語もな。私も悟りの境地には程遠い」
天華本人は気付かないうちに、実は周囲がエルフの若者がほとんどと言う状態になっていたのだが‥‥これまた自身が無意識に口にした『黒の教徒』の一言でその輪が大分薄れていった。
それでも、人が絶えずやってくるのは、当人が語らなかった経歴の賜物かもしれない。
冒険者の中で唯一、いつの間にやら給仕に混じってサラは会場を歩き回っていた。彼女も見るからに白の聖職者なので、招待客の誰もが丁寧な態度だ。今回の依頼人は人間だが、女性のサラは新婦側の関係者と思われたらしい。新郎の縁戚らしき人々が休憩なさいと、一献勧めてくれた。彼らにしたら、単なる教会関係でやってきたらしいと知った時には当てが外れたと思っただろうが。
「レイモンド卿というと、陛下の信頼が厚いお方でしたな」
「そのようなお話も伺った気がしますが、あいにくとわたくしがお会いしたのはデビルの騒動の時ですから‥‥セレスティン様のお顔も最近は拝見しておりませんし」
貴族社会の有名人との関わりをぽろっと口にした後、サラは自分で依頼で知り合った知人友人関係の話を始めてしまった。そのうちの何人かは良縁に恵まれて結婚した話なので、非常にこの場にふさわしいものだ。けれども。
「こうして思いますと、人の縁は神のお導きと自身の心構えですわ。こうした場での出会いが、また良縁に繋がるのやも知れません」
すでに伴侶がおいでの方は、お互いに慈しんで大切になさって。そう白クレリックらしい言葉を聞かされるより、周囲は紹介してもらいたい人がいてうずうずしていたが、あいにくとサラはそういうことには気の回らない人だった。
サラが新郎の縁戚に囲まれて、遠回しに『紹介して』と言われていた、その当人のグリュンヒルダは。
「あれがここの領地の主の妻の兄で、その向こうがどら息子。あまり酒癖が良くないので、よく気を付けられますよう」
「あなたの物言いのほうが、何かとても気になりますけれど」
「‥‥軟弱な。そんなことで貴族の妻が務まるとでも?」
ここで再会するとは思わなかった旧知のシフールにとっ捕まって、延々と招待客の評判を聞かされていた。こうした宴席でシフールと言えば、大抵は盛り上げるための芸人だが、目の前の相手は違う。
シフールに爵位を与えた豪儀なお人は誰だと、グリュンヒルダはこめかみをそっと押していた。
ところで、この頃のオイフェミアは。
「飲みすぎよ、飲みすぎ。ええと、お水を貰ってこないと」
「いやいや、たいしたことはありませんぞ。それにここで一人にされたら、心細くてかなわん。孫が戻るまで、休んでおれば大丈夫ですから」
将来役に立つかもと、しばらくは招待客を眺めて楽しんでいたのだが、綺麗な衣装もたくさん見ているうちにちょっと飽き、人いきれもすごいので窓際に移動した。そこには、似たようなことを思ったのか、一人のご老人が長椅子に座っていたのだが。
このじい様が、オイフェミアの前でふらぁっと床に倒れこみそうになったのだ。彼女がいなかったら、間違いなく床に顔から突っ込んでいた。どこの誰だか知らないが、どう見ても、明らかに飲みすぎ。
お年寄りは敬わねばならぬと思っているオイフェミアは、甲斐甲斐しく助け起こして世話を焼き、酔いを醒まさせようと考えたのだが、酔っ払いほど当人は酔っていないと思っている。おかげで水を飲ませるなり、いっそ白クレリックの誰かを呼んでアンチドートを掛けてもらえばよかったのだろうが、『一人にされたら心細い』にほだされて‥‥
行方の知れない新郎の祖父を捜し求める人々に発見されるまで、彼女はじい様の隣でいつの事だか分からない武勲を聞かされていたのだった。お年寄りを敬うのも、なかなか大儀である。
ガブリエルとラテリカは、二人で楽団の側に陣取っていた。なにしろガブリエルは竪琴を抱えていて、楽団の一員にしか見えないし、ラテリカも知らない人でいっぱいの中をそぞろ歩くよりは眺めているほうが楽しいからだ。なによりどちらも、音楽が良く聞こえる場所が落ち着くのである。
三百人も招くだけあって、楽団も二十人から揃っていたが四六時中何か奏でているわけではない。また歌い手はおらず、ラテリカは少々寂しい思いをしていた。自分が歌うのももちろん大好きだが、人の歌を聞くのも楽しいので。
とこでこの二人、楽団の側にくっついているものだから、招待客は誰も見向きもしない。もしかすると彼女達の顔を見知っている人の一人二人はいるのかもしれないが、誰も気付いていなかった。おかげでどちらも招待客の衣装や装飾品、出ているご馳走などをじっくりと観察して‥‥それぞれ誰かのことを考えたりしていたが、流石にちょっと手の空いた学団員達は彼女達を見逃さなかった。
「えと、ラテリカは、ええと私」
「別に俺達に気取らなくてもいいけど。プロヴァンで歌ったことがある人だろ?」
その後、どこかの宴席でプロヴァンのご夫婦とちょっと話をしたらしい学団員達は、興味津々で目立たないように身を乗り出す技を披露した。ガブリエルが頷くと、あの領地近辺の様子を聞かせてくれる。互いに気になるのは、どこで何を演奏したり、歌ったりしたかだ。後は、今日の宴席で喜ばれそうな話題について。
「あら、花婿はシュバルツ城に来ていた方なのね。あの話はどうかと思っていたけれど、それならちょっとは話してもいいのかもしれないわ」
「ラテリカ、そういう依頼はほとんど受けてないです」
受けていたら、それはそれですごいよと呆れられたか感心されたか、ラテリカは別の話をしてとねだられる。歌い手はいないとはいえ、気の利いた話をするのも仕事の学団員達は、こんないい機会を逃してたまるかと思っているようだ。
ところが。
「楽団とは別に雇われましたが、本当に踊り子ですから」
あんまり固まっていても、一応の依頼内容の護衛にならないと会場を一巡りしていたサーラが、明らかに酔っ払った男性になにやら言われていた。招待客ではないのが紛れていると、難癖をつけられているのだ。ラテリカとガブリエルが立ち上がったが、楽団員が慌てて止めた。どうも依頼人の近い親戚らしい。
サーラは難癖をつけられていると思っているのかどうか。冒険者として場数を踏んでいるので、かなり冷静に自分の立場など説明している。酔っ払い相手には、それがかえって逆効果だったようだ。ここまで来ると、下心があっての難癖だと周囲も気付いて、この場に割り込める人物を探していた。楽団員も数人が屋敷の執事を探して散っている。
ラテリカはかなりおろおろしていたが、ガブリエルがいよいよもって割って入ろうと気合を入れた時に、聖職者達を連れてやってきたのがグリュンヒルダだ。その肩には、絶対に重いだろうがシフールが一人。
「私の知人が、何か失礼でも?」
せっかくのお祝いゆえに、評判の高い踊り手『と』同道しましたが。グリュンヒルダがにこやかに述べると、周囲で様子を見守っていた招待客の中でも年配者が数人、それなら見せてもらおうと何事もなかったように口にした。
「あ、ニライさんです」
それが誰だか分からない楽団員達も、合図を送られて一斉に楽器を取り上げた。その中には、ガブリエルも混じっている。皆に促されて、ラテリカはガブリエルの横で歌う姿勢になった。彼女達は、先程学団員達と話していたので、互いに知っている曲をすぐに奏で、歌うことが出来るが‥‥サーラがいきなり踊れるか、それを心配している招待客が何人か。
けれどもそれは杞憂で。
「所領が落ち着いたら、さっさと招待客を決めて式を挙げないと、男は仕事を優先し始めたらきりがないからな」
「ニライ様、何かおっしゃいまして?」
ブノワとサラと天華は、それさえ聞こえなかったら最高だったのにと思ったかどうか。
オイフェミアはじい様にやたらと気に入られ、よく知っているニライ・カナイがどういうシフールかの説明をくどくどと受けていたが、踊りはちゃんと眺めていた。
「あれほどの踊り手には、なにか贈ってやらねばならんのう。おお、楽団にもじゃ」
「いいお酒に、おいしいものをつけたら喜ばれるわ、きっと」
ついでに、自分が欲しいものをちゃっかりと請求していたりもする。
その後の宴は和やかに進み、ただ何度も演奏や歌、踊りを望まれたガブリエルとラテリカとサーラと楽団は、楽しいながらも終わるころには随分と疲れていた。
それは人に囲まれて、様々な話をねだられた天華とサラとブノワも同様だし、グリュンヒルダは何があったのか眉間にしわを寄せていたが‥‥
宴は招待客を満足させて、無事に終わったのだった。
終わってから、当たり年の美味しいワインに残り物ではなさそうな温かい料理やわざわざ冷やした肴などを提供された冒険者達も、多分一人を除いて満足だった。
「参考どころか‥‥」
除かれた一人については、誰も何の言葉もかけずに、そっとしている。なにしろ、彼女以外は綺麗なものを見たし、いい音楽も聴いたし、演奏したり歌ったり踊ったりして満足だし、美味しいものもたくさん飲み食いして、文句のいいようがなかったのだ。
ただ。
「わざわざ待っていなくても良かったんですよ」
パリの冒険者ギルドまで戻ったら、ブノワだけちゃんと待ち人がいたので、むっとしたのと、そそくさと自分がどこかへ向かったのと、『微笑ましい』と思ったのと、色々と反応は分かれたのである。
「皆様に白き母の祝福があらんことを」
「二人の紡ぐ物語が幸せなものであることを切に願わん‥‥だな」
信仰の違いはあれ、聖職者二人は鷹揚に微笑んでいた。