【ジューンブライド】結婚するって本当に?
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや易
成功報酬:2 G 49 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月22日〜06月25日
リプレイ公開日:2006年07月01日
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●オープニング
依頼内容は、簡潔にまとめればお転婆が過ぎる娘のお守りだった。
問題は相手がけっこうな家柄の貴族の孫娘で、目の中に入れても痛くないほど当主や息子夫婦に可愛がられているわがまま娘で取り扱い注意であることと、今回のお転婆の理由である。
「陛下に城外でお会いしたいと、どうして思われたのでしょう。あなた様であれば、城内でお会いすることはそれほど難しくはないと思いますが‥‥」
依頼のために出向いてきたのは、そのお転婆娘の父親だ。身分からすると『わざわざ自分で来た』のは酔狂か、それとも内密にしたいか、単純に動転しているかだが、今回は最後のものらしい。誰かを使いで寄越してくれればよかったのに、この人が来たのでお相手しているのはギルドマスターのフロランス・シュトルームだった。
そして依頼人は、この多忙を極めるが有能で、まず滅多に慌てないと評判の女性をしばし絶句させることに成功した。やらかした当人は、全然気がついてはいなかったけれど。
「陛下が、どうなさると?」
しばらくして、身を乗り出したフロランスに依頼人は一言ずつ噛み締めるように繰り返した。流石に周囲をはばかるのか、幾らか声が低い。フロランスの執務室内の会話に、聞き耳を立てている者などまずいないのだが。
「陛下の、ご婚礼が、決まったそうです。まだ噂の段階ですが‥‥御母堂の作られた庭で、歓談していらっしゃったのを、見掛けた者が何人も」
「‥‥歓談していただけでは?」
「あの、陛下が? 興味もなければ、ご縁もない女性と、歓談だけ?」
最後は一言一句ずつ区切って言われると、フロランスも反論するほどの材料はない。ノルマンの、それも国王お膝元のパリに住む者であれば、国王ウィリアム三世の結婚話は待ちに待っていた事柄のはずだ。生まれた時から心臓が悪いようだから、早めに世継ぎを設けて欲しいので速やかに結婚を‥‥というのに賛同するかどうかは別としても。
国王の結婚ともなれば、素晴らしく明るい話題に間違いはない。お祭りにもなろう。
ただ、それが今回の依頼とどう繋がるかといえば。
「娘は外歩きが好きなので、時々郊外に乳母達と出掛けるのです。いつだったか、その帰り道に街の中で陛下をお見かけしたと言い出しましてな。娘は馬車に乗っていますし、見掛けた場所が商家の並ぶ界隈の外れの、まあ商人相手に飲食を供する店が集まるあたりでしたから、まずありえないと笑っていたのですよ」
依頼人の話はくどくどと回りくどいが、要するに娘がパリ市街でウィリアム三世を見たと言い、今回の婚礼話も耳にして、一体どこの誰が結婚相手か確かめるために国王陛下を探しにいくと息巻いているらしい。貴族の娘が、まったく地理に疎い、自分の足では歩いたことのない街の中に。
「言い出したら、聞かない娘なのですが‥‥今回は本当に何をどう言い聞かせても頑なになってしまって」
家の者は誰も着いてくるなと泣き喚き、部屋に閉じ込めれば周囲の隙を突いて抜け出そうとするので、とうとう家族も音を上げた。一度街を歩けば国王陛下はいないと理解するだろうと、案内と護衛とお守りをしてくれる冒険者を探しにきたのである。
親馬鹿だった。
「親馬鹿だとは分かっていますが」
分かっているだけましかもしれないが、結局親馬鹿だった。
パリの街中を歩き回ってでも、お忍び中の国王陛下を探し回り、見事見付けた折りには、皆にまだ内緒の婚約者殿の名前を聞いて、ぜひとも自分も結婚式に呼んでくださいとお願いする。
そんな野望に満ちた貴族のお嬢様のお守りを募集である。
●リプレイ本文
依頼人の娘、エリゼ嬢は見るからにこまっしゃくれ‥‥闊達そうな女の子だった。外出着のはずだが、くるぶしまである長いふんわりしたスカートにレースが使われた共布の上着を羽織り、頭にも同系色の布で作られた大きな帽子を被っている。
集まった冒険者の誰が見ても、『お忍び中の国王陛下』を探す服装ではない。
ただ楽士で様々な場に出入りするマリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)やメイドのマイ・グリン(ea5380)は、この服装を見て『動きやすいほう』だと思ったし、東洋人の紅天華(ea0926)と鑪純直(ea7179)はこういうものなのだろうと納得した。ウリエル・セグンド(ea1662)とフレイハルト・ウィンダム(ea4668)は何を考えているのか分からないが、服にこだわりはなさそうだ。
とはいえ、
「目立つねぇ。これじゃ本物がいたとしても、先に見付けて逃げ出すだろうな」
「本物ねぇ。結婚の噂はまんざら嘘でもなさそうだけど、お忍びはどうかしら」
いかにも『良家のお嬢様でござい』な見た目なので、自称『フールなプティング』を仲間にも通しているフレイハルトとマリは対照的な表情で、首を傾げていた。フールは楽しそう、マリは不思議そうだ。
だが、合流場所の冒険者ギルドの受付前で、もっと不思議そうだったのが純直である。
「これは、なんと書いてあるのであろうか? 国王と読めるのだが」
「あら、エリゼが読んであげるわ」
えらそ‥‥利発さを全開で、エリゼ嬢が掲示板の前にやってきたが、残念ながら問題の羊皮紙ならぬ薄い板は高いところに張ってあって、上手く読み取れないらしい。その背後に立っていた天華が、掲示板を覗いて読み上げ始めた。
「ウィリアム三世国王陛下のお妃を予想して、がっぽり儲けよう。現在の大本命、マント領領主、クラリッサ・ノイエン嬢。対抗馬、やり手王宮御用達商人、エリス・カーゴ嬢。大穴、パリ最強ウェイトレス、アンリ嬢。超大穴、冒険者ギルドマスター。勝負、素敵仮面マスタレード」
「‥‥ファンタスティク・マスタレード? ‥‥女性、でしたでしょうか‥‥?」
「‥‥さあ?」
「ご用命は、旅の吟遊詩人、エモン・クジョーまで」
淡々と全文を読み上げた天華の声を聞いて、マイとウリエルが多分不思議がっている。どちらものんびりゆっくり話すので、細かい心理を読み取るのはなかなか大変だ。察しが悪‥‥年少のエリゼ嬢は、マイとウリエルの言い分は聞かなかったことにしたらしい。そもそも耳に入らなかったのかもしれないが。
なんにせよ、そのすごい掲示内容を聞いたマリとフールと純直が三者三様に反応している前で、思い込みの激‥‥聞いたことを素直に信じる純真なエリゼ嬢は、瞳をきらきらさせて喜んでいた。賭け事に対する知識はないようだ。
「ほら。こんなところにもお話が回っているのだもの。陛下は間違いなく、お忍びをしていらっしゃるのよ!」
見付けてみせるわと決意を新たにしたエリゼ嬢をさておいて、純直は『最後の二人はありえない』と呟き、天華は『こんな吟遊詩人は知らない』と口にし、フールはほくそえんでいる。マイとウリエルは我関せずで佇んでいて‥‥マリだけが、この後のことを考えて悩んでいた。
だが、その悩みも。
「どこで、話を聞こうかしら」
こんな感じである。
まずは場所を変えて、エリゼ嬢が国王を見たという場所その他を確認し、ついでに純直の友人のクリステに居場所を占ってもらおうと順当な手段を取ることになった。冒険者酒場でもと最初はそちらに足を向けたのだが、わがま‥‥好奇心溢れるエリゼ嬢が、店先に果物を並べた甘味どころに興味を示したので方針転換。フールの『この店は最近流行りだした云々』との解説を聞いてから、エリゼ嬢に『お忍び中の国王陛下』について確かめた。
その間に、確認は他の者の仕事とばかりに席を立ったマイが、店員をそっちのけで皆の世話を甲斐甲斐しく焼いたり、ウリエルがひたすら食べることにだけ口を使ったりと、いらぬことで目立っている。もし近くに誰かの知人がいても、係わり合いになるのを避けたかもしれない。
だが、主にフールとマリが聞き出した『お忍び中の国王陛下』の外見などは‥‥
「紺色の上下に、頭に深緑の被り物」
「金髪、白皙の美青年。もちろん人間。いやぁ、楽しくなってきたねぇ」
思った以‥‥記憶力が良ろしくていらっしゃったエリゼ嬢の説明は、昨年何度かデビル絡みの事件で冒険者の前にも姿を現した国王と、特徴は一致していた。どうも陛下は、深みのある青や緑系統の色がお好きらしい。確かに記念で一部冒険者に配られたマントは、そんな色をしていた。
「しかし、時間は日暮れ後では、まだ随分あるが」
それまでどうするかねと問いかけた天華に、フールが自信満々で答えた。
「心配ない。昨今の流行の店はすべて調べてある」
「まずは占ってもらおう」
純直が言わなかったら、そのまま店から飛び出していきそうな勢いだった。
ちなみに『ウィリアム三世国王陛下』で占った貰って結果は、コンコルド城。お城のお庭にでもおいでになるようだ。
「陛下も昼間はお忙しいのよ」
諦めが悪‥‥大変に前向きなエリゼ嬢との、パリ市外観光の開始である。
とりあえず、歩き慣れないお嬢様には天華の馬に乗っていただく。ついでに。
「ちょっと、どこに行くつもりなの?」
度々皆からはぐれそうになるウリエルは、純直が目配りすることになった。
でも、先頭はフールである。
一日目は、まだましだった。なにしろサンワードで国王陛下が城外にお出ましでないかの確認が取れたし、移り気激‥‥何事にも興味津々のエリゼ嬢は占いをしてもらってご機嫌だった。ご当人は、天華の愛馬シンに乗っているので、たいして疲れてもいない。
そうして、実は人を乗せた馬の手綱を取る経験がほとんどない天華も、ウリエルがいたおかげで何の苦労もなく、ウリエルが変な方向に行かないように純直が見ていてくれる。飽きっぽ‥‥子供らしく様々なことに興味を示すエリゼ嬢のご機嫌は、言葉少ないながらもマイが取ってくれ、フールがいらんことまで様々吹き込んだ。
なんとはなしに、当初の目的を懸命に果たそうとしていたのはマリ一人だったようだが、もちろんお忍び中の国王陛下は見付からずに、日が傾いたのである。
「明日はもっと頑張るのよ。今日はご苦労だったわね」
一人前に言うことだけは言‥‥ねぎらいの言葉を忘れないお育ちのよいエリゼ嬢は、日が暮れる前に皆に送られてご自宅に戻られた。
「‥‥お見掛けした時間に‥‥まだ、ありますが」
「‥‥そうだよな‥やっぱり」
「君らはさ、しゃきしゃきと話せないものかね」
「子供は寝る時間が早いものじゃからの」
実は『お忍び中の国王陛下』目撃時間は、急な雨をしのいでいたせいで帰宅が常より遅くなった時だったのだが、当初の目的を忘‥‥冒険者達の案内に満足したエリゼ嬢は、その時間まで粘るより親の言いつけを優先したらしい。流石に人前であくびなどしないが、帰宅間際は大分眠そうだった。
「これでよいものかどうか」
「ご本人が満足しているから、いいことにしましょう」
フールの案内で下町まで入り込んだために、聞き様によっては失礼発言ぶちか‥‥無邪気な感想を並べたエリゼ嬢に振り回されたマリは、純直のもっともな心配をうやむやにする方向を選んだ。マイや天華、フールはまったく気にしなかったが、それは慣れとか、本人の性格とかによるので、下町常識な‥‥家族に大事にされているエリゼ嬢が問題を起こさなかったわけではないのだ。
ウリエルは、途中途中で買い食いしていたので、細かいことは気にしていない。
明けて二日目。
一日目はマイが弁当を作ってきていたので昼食はそれにしたが、ウリエルの買い食いを自分も欲しそ‥‥物珍しげに見ていたエリゼ嬢のために、この日は屋台で買い食いとなった。マリが頭を抱えているが、それを心配したのは純直だけだ。
「‥‥何事も‥‥経験、です」
「そうかしら」
「でも、楽しそうであるよ」
マイが請け負い、純直が素直な感想を述べたが、まさにその通りである。当初の目的が頭から零れ落‥‥初の体験に意識を奪われたエリゼ嬢は、現在天華に手を引かれて屋台の串焼きの品定め中だ。
店そのものはフールが事前調査に加えて、大道芸人の経験など取り混ぜた観察眼で確かめたまっとうな品物の店だ。自分も買い物する気が満々でも、ウリエルが傍らにいる限りは暴漢など食前の運動で片付けられてしまう。その前に純直やマイが気付く可能性も高かった。
それに。
「こういうものはがぶっとかぶりつくのが、ここでの作法なのだよ」
その辺の男どもは、ほとんどが身なりがいいが見るからにお子ちゃ‥‥まだあどけないお子様のエリゼ嬢ではなく、連れの女性陣を眺めて喜んでいる。流石にフールは顔が見えないので、ちょっと除外され気味だが。
まあ、親が甘やかして小遣い持た‥‥きちんとした金銭感覚を養う機会に恵まれたエリゼ嬢は、銅貨を数えて串焼きと引き換えていた。この銅貨は、マイが最初に財布を持っているのを見て、両替したものである。銀貨や金貨など、屋台で使うことは普通ない。
確かに。
「あ、全部で七本よ」
「お連れさんの分もですかい。よく出来たお嬢さんだ」
全員分払ってくれたら、たまには使うが。
「‥‥俺は、その‥‥右端の」
遠慮のないウリエルだった。
と。
歩きながらは流石に無作法が過ぎるので、道端だが適当に腰掛けたりして串焼きを『がぶっと』やっていた一同がいたのは、それこそ問題の場所だった。すでにそのことを忘れ果‥‥焼き串をちゃんと味わっているエリゼ嬢が、『お忍び中の国王陛下』を目撃した界隈である。
ここに国王が歩いていたら、それなりに噂になるのではないか。
市井の様子を確かめるために歩くなら、このあたりは向いているかも。
お忍びなんだから、見付けたら嫌がられないだろうか。
似ているとしても、影武者ではないのか。
何事も、本物を見ると夢が壊れたするものだ。
お城の周りで張り込むなんていわれなくて良かったけど。
とりあえず退屈しないように街巡りをすればいいか。
もぐもぐと串焼きを頬張っていた一同は、様々な人が行きかう様子を見るともなしに眺めていたが‥‥突然子供特有の金切り‥‥驚きを露にした大きな声をエリゼ嬢が上げた。
「お姉さま! お姉さま!」
はて、このお転婆むす‥‥活動的なエリゼ嬢には姉がいたのかと視線をめぐらせ、または不要な騒ぎに巻き込まれないようにさりげなくあたりを警戒した一同の視界で、反応を見せたのはこの中の誰よりも年長の女性だった。
「‥‥あれが‥お姉さま?」
「‥‥お静かに」
「君らは、本当に楽しいねぇ」
周囲の目を気にしな‥‥すっかり『お姉さま』に意識を集中したエリゼ嬢に近付いてきたのは、年の頃四十に手が届きそうな人間の女性だ。冒険者達から見ると『ナイトあたりかな』と思わせる身のこなしと体格をしている。
「お姉さま、エリゼね、国王陛下とここでお会いしたのよ」
正しくは、本人が見掛けたと主張しているだけです。
何人かが心の中で訂正を入れたが、女性には欠片もそれは通じなかった。言われた途端に、明らかに周囲を見回して、確認をしたからだ。
「何事かのう?」
「いずこもご苦労が耐えないのね」
「いやはや」
笑いを堪えているフールは役に立たず、マイとウリエルでは時間ばかりが掛かり、天華と純直は他国生まれが歴然としているので、マリが事情の説明をした。マリもノルマンの生まれではないが、ゲルマン語はかなり流暢に操るし、何より物腰が柔らかくて印象が良い。
「なるほど。お忍びの陛下を、ここでね‥‥エリゼ、陛下はお城で忙しいのだから、一人で出歩いたりはしないのよ」
「あら、エリゼが見たときはお一人だったもの」
「それは別の人」
自分に言い聞かせている。と、よほど察しが悪い冒険者以外は思っていた。相手がわざと名乗らないようなので、誰も名前は問いたださなかったが、そういうことに考えが回らな‥‥しつけがちゃんとされているエリゼ嬢は皆に紹介をしてくれた。
「お姉さまはね、お城の偉い人なの」
必要最低限も極まれりだが、『偉い人』が分かればまあよろしい。そんな偉い人が、どうしてこの界隈を一人でほっつき歩いていたのかは、とりあえず置いておく。
ついでに、諦めの悪‥‥子供らしい熱心さで『ここで陛下を待つ』とぐずり始めたエリゼ嬢の説得も、お任せしておいた。なにしろ下手に口を出しても、迷惑になりそうなので。
聞き耳を立てていたなんてことは、特にない。そのはず。
結局のところ、言い負か‥‥説得に応じたエリゼ嬢は、一日目と同じ時間に帰宅して、一同はのんびりと帰路についたが‥‥
翌三日目。
「‥‥これ、美味い」
ウリエルが、街中の広場でマイの弁当を食べていた。マイはまたもかいがいしく、皆に飲み物を配っている。
昨日、慣れない買い食いをしたのが良くなかったのか、それとも箱入り娘が二日も出歩いて疲れたのか、何してもくたばらなそ‥‥元気いっぱいだったエリゼ嬢がおなかを壊してしまったので、彼らの仕事は一日早く終わってしまったのである。買い食いについては、『お姉さま』がとりなしてくれたのか、愛娘の病気に動転したのか、お咎めも嫌味もなかった。
そんなわけで、六人集まって本日分に用意された弁当を消費しつつ、この二日の疲れを癒しているのだが‥‥
「この馬も、ずっと石畳を歩いたから疲れ気味のようだ」
「そうか? しばらく無理は禁物じゃな」
純直は日頃の仕事柄馬に目が行き、天華にあれこれと世話での注意を言い聞かせている。
そうして。
「今頃、絶対に絞られているのに金貨一枚。どうだね?」
「賭けにならないわよ、それ」
フールとマリは、話題だった人の現状を勝手に想像している。
確認する術は、流石にないのだが。