【ジューンブライド】結婚式にご招待

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:6〜10lv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:4人

サポート参加人数:3人

冒険期間:06月27日〜07月04日

リプレイ公開日:2006年07月06日

●オープニング

 世の中には、様々な風習があるものである。
「結婚式には珍しい話をするって、それもまた変わった習慣ですねぇ」
「どうせ小さな村なので、珍しい話なんか出来る奴は滅多にいないんですよ。だから吟遊詩人の人を招いたりして、話してもらうんです。その人の食い扶持は、花婿の家が出すって訳で」
 祝いの席に、芸人を呼んで皆を喜ばせるのが一種の甲斐性なのだろう。結婚式ともなれば祭りも同然、小さな村では滅多にない楽しみのはずだ。
 だが、それなら吟遊詩人のギルドなりを尋ねるのが普通だが‥‥
「六月の結婚式は縁起がいいってんで、今年は四組も結婚するんですよ。それだけいれば、いつもより珍しい人が呼べるんじゃないかと思って。なんかこう、すごいモンスター倒した人とか、国王様の下で働いたことがある人とか、いませんか?」
 いないとは言い切れないが、そういう冒険者の仕事と宴席で皆を楽しませるのは別問題。バードもたくさんいるとはいえ、冒険者ギルドではそういう職種の人だけが都合よく集まるとは限らない。
「吟遊詩人のギルドに行ったほうが、間違いがないですよ」
 受付係は、親切に勧めたのだが。
「食い扶持しか出ませんけど、でも冒険者の人の話を聞かせてやるって、もう村の連中に言っちゃったので。なんかこう、すごい冒険をしたことがあるような人を紹介してくださいよ」
 依頼人に、押し切られた。
「すごい冒険って‥‥その条件だと駆け出しじゃ駄目だし、普通は雇うとものすごく高いんですよ」
「食い扶持しか出ませんけど、結婚式だから肉も魚も甘いものもあります」
 パリに住んでいると、けっこう舌が肥えていたりすることもあるのだが、依頼人はそんなことは予想していないだろう。お祝いの席のご馳走が、酒場の料理並みだったりするかもしれない。それでも平気な冒険者となると、また条件が厳しいような気もしたが‥‥
 目をきらきらさせて、『結婚式のお祝い』と一生懸命な依頼人を見たら、もう何も言えなかった。ちゃんと仲介料は払ってもらったし。
「じゃあ、募集してみましょうかね」
 そうして、結婚式の宴席を盛り上げる要員の募集が始まる。

●今回の参加者

 ea6999 アルンチムグ・トゥムルバータル(24歳・♀・ナイト・ドワーフ・モンゴル王国)
 ea7814 サトリィン・オーナス(43歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb2456 十野間 空(36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2818 レア・ベルナール(25歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

シャルロッテ・ブルームハルト(ea5180)/ ゲイリー・ノースブルック(ea7483)/ アイル・ベルハルン(ea9012

●リプレイ本文

 結婚式で、何か珍しい話をしてください。
 素直に吟遊詩人を呼んだら良い話だが、冒険者ギルドに頼んでみたことで集まった四人全員がノルマン以外の出身だった。しかもパリのギルドでは、それなりの実力者と目されているはずだが、依頼人達の村では誰一人名前など知らない。
 それでもやってきたアルンチムグ・トゥムルバータル(ea6999)はモンゴルのナイト、サトリィン・オーナス(ea7814)はビザンチン生まれの白クレリック、十野間空(eb2456)はジャパンの学者、レア・ベルナール(eb2818)はフランク生まれの探険家と、色々な話が聞けそうな一行に村の人々は大喜びした。
 陰陽師と言ってもさっぱり理解されない十野間とはちょっと困って苦笑し、被り物が取れると問題のレアはまめに身なりの点検をしているが、にこにこっと笑っている村人を前にすると表情が和んでくる。
 だが、気が付いてみると村長以下まとめ役と思しき人々が少しばかり困っているような顔だったが‥‥サトリィンがどうかしたのかと尋ねると、素直に彼女に頼んできた。
「あら、そういうことでしたら幾らでもお手伝いしましょう。でも一応段取りは確認させてもらいたいわ」
 村の教会といっても、近くの別の村々も集う先の教会の老神父は、腰痛を患って長い。長時間立ったままでいるのと、重いものを持つのが辛いが、あいにくと代理などいない。また結婚する四組の男女も洗礼から面倒を見てくれた神父に結婚式を司ってもらいたいのだが‥‥誰かが支えたほうが安心だ。どの村の誰がこの名誉なことをするかでもめても困ると悩んでいたら、サトリィンが来たのでお願いすることにしたらしい。
 サトリィンも断ることなど考えもせず、すぐさま頷いたので、結婚式は滞りなく行われた。さすがに十野間は臨席を遠慮し、アルンチムグとレアは邪魔にならない隅で式の様子を眺めさせてもらった。パリの街で見掛ける結婚式とは比べるべくもない質素な式だが、複数の村の村人ほぼ全員が集まっての式は賑やかさでは負けていなかった。
「皆さん楽しそうですね」
「ほんまやね。これをもっと盛り上げろいうんは、難しい話やわ」
 堂々としていて、でも出過ぎたところのないサトリィンの補助も村人には好印象だったようだ。披露宴というより宴会に雪崩れ込む人々は、式には参列しなかった十野間も引き摺るようにして宴席に突入した。
 老神父を手伝っていて、少し遅れたサトリィンが宴席に到着した時には‥‥もう他の三人はどこの人の輪に飲み込まれたのかわからない状態だったのである。

 アルンチムグの周りに集まった人々は、ほとんどがモンゴル王国と言う名前も知らなかった。もちろんどんな国なのかは、まったく知らない。
 それでもドワーフだからお酒を飲ませないといけないと、彼女用に随分大きな器を持ってきてくれた。アルンチムグはかなりの酒豪なので、これは嬉しい。口もすべらかになろうというものだ。
「うちの国はドワーフの王様夫婦が治めとる。住んどるドワーフは、ノルマンよりよっぽど多いで。ここみたいに遠くに山も見えん、ずーっと草原ばっかりの広い国なんよ」
 パリ近郊もそれなりに平坦な土地だが、地平線まで続く草原は皆の常識を超えていたらしい。とても不思議そうな顔で聞いていたが、その平原で使われる蒙古馬の話には興味津々だ。彼女以外にもサトリィンと十野間が馬を引いてきたし、村にも共用の馬が数頭いるのだが、アルンチムグのソレンゴは見るからに体つきが違う。
「こういう足の太い丈夫な馬でないと、遊牧生活には連れていけん。それにうちらが乗るにも、あんまり背の高い馬はちょっち困るんよね」
 冗談めかした言いっぷりに、村人が遠慮なく笑う。子供達は『よその国の珍しい馬』に心惹かれて、近くを行ったり来たりし始めた。
「まだソレンゴも子供やさかい、大人は乗せられんで」
 と言うことは、子供だったら乗ってもいい? 自分達に都合がいいことは聞き逃さなかった子供達が、きゃっきゃとソレンゴの周りに集まった。さすがにいきなり乗ってみようとは思わないらしく、アルンチムグの様子を伺っている。
「小さい子からやで。蹴られるから、後ろに回ったらいかんよ」
 しばらく働いたソレンゴは、村の馬の餌を分けてもらって猛然と食べていた。随分頑張ったらしい。

 親戚関係にある二組の新郎新婦に請われて、その家族が作った料理をご馳走になっていたサトリィンは、さすがに酒を一樽空けそうな勢いはなかった。それでも勧められる料理や酒を断ることはなく、花嫁達と料理談義などしている。
 でもやはり、珍しい話はねだられた。料理も大切だが、なんと言ってもサトリィン達を招いた醍醐味はここだ。それに、彼女は村人達が見たこともない衣装を着ていたし。
「今年に入ってから、最近までジャパンに行っていたのよ」
 これだけでもうどよめくので、サトリィンもどう話を続けようかと迷わないでもなかったのだが‥‥荷物の中から取り出しておいたキモノガウンを花嫁達に広げて見せた。
「今着ているものもあちらで手に入れたものだけれど、こちらはノルマンで作った品物なのよ。少し派手に見えるでしょうけれど、あちらではこういう柄が若い女性の晴れ着で使われていたわね」
 柄の取り合わせがジャパン人からするとちぐはぐだったりするのかもしれないが、十野間は別の人の輪に飲み込まれている。よって『そうなのか』と素直に納得した村人達の、若い女性陣がサトリィンの申し出に歓声を上げた。嗜める母親の声もするが、祝い事の席なので厳しくはない。
 袖を通してもいいと言われて、裾が汚れないように板を敷き、花嫁四人全員は揃うし、既婚未婚の別なく若い女性に少女も集まって、キモノガウンを順番で羽織っている。中に入れないでいる年少者にも、サトリィンが声を掛けるので、娘達の姿を見に家族や若者も輪になって‥‥しばらくは大変な騒ぎになっていた。
「こういう柄になると分かりにくいけれど、ジャパンにもこちらと似たような花もたくさんあってね。あちらの人達が楽しむ桜はアーモンドに似ているわ」
 まったく同じにしか見えない花もあるんだと、遠くて、村の誰も行くことはなさそうな国の話は簡単には尽きない。
 でも、スウィルの杯で甘くした酒が過ぎて、寝入ってしまった者は何人かいた。

 その頃、レアは困っていた。いつもニコニコしている彼女だが、新郎の姪っ子に自慢の髪の毛を握られて離してもらえないのだ。ハーフエルフであることを布を巻いて隠しているので、あまり引っ張られるのはありがたくない。
 幸いにして姪っ子は離してくれないだけなので、膝の上に乗せて話をすることにした。昨年のパリでの騒動の頃には、レアはドレスタットでドラゴンや精霊に出会う体験をしている。それもデビルに魅入られた男の仕掛けた事件だが、まあ細かいことはぼかしておくのが得策だ。なにしろ祝いの席には向かない内容もあるのだから。
 細かい事件の話は大分はしょってしまったが、レアがドラゴンや精霊を見たと聞いた人達は当然驚いた。ドラゴンがどれほど大きくて、どんなに強いか。またドラゴンによっては素晴らしく賢いことも話して聞かせたレアは、それほど話が得意なわけではない。精霊は特徴を説明しにくくて言葉に詰まったりもしたが、普段の何日分かをまとめて話したような気分になった。
 だがまあ、ドラゴンも精霊も、いわれなく他人に牙を剥いたりする存在ではないが、そうせざる得ないほどに大切な宝物にまつわる話だとはちゃんと伝わったらしい。宝物が角笛の形と聞いて、子供は納得していなかったり、きっと金だと勘違いしたりしていたが。
「ドラゴンも精霊も、悪い奴が世界の調和を崩すのをとても嫌がっていました。皆が普通に、幸せに生活できるのが一番なんですよ」
 実際のドラゴンや精霊が個々の人々の生活ぶりまで気にしているとは思えないが、結婚する男女が四組もいる幸せを嫌がることもありえない。精霊も祝福しているだろうと言われて、新郎新婦はそれはそれは嬉しそうだった。
 けれども、髪の毛を握った姪っ子に寝入られてしまい、レアはやっぱり困っている。

 ジャパン人はノルマンにとって恩人だし、何より今回来てくれた四人の中で十野間は唯一の男性だ。女性陣には近付きがたく思っている同性に囲まれて、十野間も忙しくこれまでの経験を話している。
「確かに地上を彷徨う霊には恐ろしいものが多いですが、あの時に出逢ったのは本当にはぐれた恋人を探しているだけの、優しい人でしたから」
 依頼で出向いた村で、村が滅んでからの長い年月を彷徨っていた霊を昇天させた話に、怖くなかったかと問いかけられ、十野間はゆっくりと首を振った。あの時は恐れより同情より、きっと青年があれほど捜し求めた恋人と再会できただろうと安堵したのを覚えている。ジーザス教ではそのようには考えないのかもしれないが、少なくともあの青年の心は安らかなはずだ。
 だからそう言うのも悪い話ではないとしんみりしている村人に、十野間は頷きつつも、思わず口にしていた。
「そんなことにならないように、守れる力も欲しいのですが」
 誰を?
 すかさず突っ込んだ少年が、皆からよく言ったと褒められて鼻高々だ。十野間の提供したどぶろくを飲み交わしつつ、村人達は『ここだけの話』と十野間に白状しろと迫る。こういう場での『ここだけの話』が守られないのは、十野間だって承知しているから‥‥
「自分の話をしにきたわけではありませんから」
 無駄ではあるが、しばらく抵抗した。あくまで、しばらく。
 確かに『宴席を盛り上げる』役には立ったが、何か当初の予定と違うと反省しきりの十野間だった。

 食べるのも話すのも少し落ち着いてきた頃合に、サトリィンは聞きなれない音を耳にした。何事かと皆で首をめぐらせてみれば、座ってはいるがすっと背筋を伸ばした十野間が、アルンチムグの三味線の演奏で何か歌おうとしているところだ。サトリィンは知らないが、故郷の馬頭琴を弾きこなす腕前のあるアルンチムグは、十野間の故郷の楽器三味線も手馴れた調子で鳴らしている。

『風は草木と共に歌う 喜びと希望の歌を
 光は迷い人に照らす 生きる道を』

 ノルマンや近隣諸国の吟遊詩人達が奏で歌う旋律とは違う、不思議な音程の連なりが歌曲になって流れていく。サトリィンが日頃口にする賛美歌とも随分と違うが‥‥優しい想いの浮かぶ曲だった。

『気持ちは歌に 歌は空気に 愛は光に
 歌は大気に溶け すべてを優しく包む』

 短い一曲を歌い上げたが、もう一度と皆にねだられた十野間が戸惑うところに、アルンチムグがまだ最初から旋律を奏で‥‥今度声を上げたのはレアだった。ほんの少し曲と合わないところもあるが、駆け出しの本職にも劣らない声量で一度聞いただけの歌をなぞっていく。十野間はオカリナを取り出して、演奏に加わった。

『風は草木と共に歌う 喜びと希望の歌を
 光は迷い人に照らす 生きる道を』

 幾多の笑顔に囲まれて、新しい生活を踏み出す男女に、末永い幸が訪れますように。
 聖母への願いに、幾度も繰り返される歌が重なって、長いこと消えなかった。