素敵?なお茶会への招待〜六月の花嫁
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:8人
冒険期間:07月03日〜07月06日
リプレイ公開日:2006年07月11日
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●オープニング
パリの冒険者ギルドには、アデラという名前の常連がいる。毎月毎月やってきて、自宅のお茶会に参加する冒険者を募るウィザードだ。
ただし、彼女はそれなりの植物の知識を持つらしいのだが、目に付いた植物をむしってお茶にしてみる悪癖がある。挙げ句にそれを他人に飲ませてしまう。誰がどう直しても、この悪癖は出てしまうものらしい。
そんなお茶会なので、もちろん出て来るお茶も壮絶なものの場合があるのだが‥‥何故か常連がいて、毎月毎月開催されている。
このアデラが、今月もやってきた。すっかりギルドの受付係とも顔馴染みだ。
「お茶会をしたいんですの」
「はいはい、今月もお茶会ですね。ところであーた、いつ結婚するんですか」
通称お茶会ウィザードのアデラには、ジョリオという婚約者がいる。婚約するまでの紆余曲折もお茶会仲間の冒険者達に収拾してもらったのだが、何故か未だに結婚しない。実は受付係はジョリオの幼馴染なので、心密かに心配していたりするのだが‥‥
アデラはけろりとこう言った。
「収穫祭の時に決めましたの。ご近所と職場の皆さんとお友達にお振る舞いするとなったら、物入りですもの」
確かに結婚するのは物入りだと、既婚者で娘二人、息子一人の父親である受付係は知っていたが、アデラがけっこうな土地持ちだとも知っていた。ジョリオだって騎士だし、二人ともちゃんとした仕事があって、結婚のお披露目程度が出来ないとは思えない。よほど豪勢にしたいのなら別だが、そういう性格ではないはずだ。
まあ、アデラは冒険者を集めて色々振舞うのが好きではあるが。
「別に豪勢にしなくていいんだから、さっさと結婚したらどうです」
「でも、もう上司に言ってしまいましたの」
それなら仕方がないかと、受付係も納得した。自分が結婚するわけではないので、時期が決まっているだけいいと思ったのだ。
そんなわけで、依頼の取りまとめである。アデラのお茶会はお茶のほかに料理も振舞われ、これがけっこう豪華だったりするのだが、毎回なにかしら注文がつく。
「六月も終わってしまいますけれど、結婚話が聞きたいですわ。結婚している方でなくてもいいので、何かこう幸せになれるようなお話。結婚式の段取りなんかも、お勉強したほうがよろしいですものね」
勉強しなくても、周りが言う通りにしていれば式は終わるんだけど‥‥と受付係は思ったが、女性の夢を突き崩すと後が怖いので黙っていた。
「今回は、魚料理を幾つか作ってみようと思いますの。それでは、皆様によろしく」
「あー、ジョリオは魚が好きだからねー」
ご機嫌で戻っていくお茶会ウィザードの手に、なんだか雑草が握られていたことは‥‥受付係は見なかったことにした。
アデラのお茶会、『結婚にまつわる四方山話』の会である。
●リプレイ本文
アデラのお茶会といえば、最近は有志が前日に家に上がりこんで、勝手に準備をする。アデラは仕事だったが、八人の冒険者がやってきた。このうちお茶会の参加者はサラフィル・ローズィット(ea3776)とマート・セレスティア(ea3852)とリュヴィア・グラナート(ea9960)とアニエス・グラン・クリュ(eb2949)の四人である。
それなのに倍もいるのは。
「これはお酒に漬けておいてくださいな。こちらは料理に使いますから」
「それ、おいらが食べるから」
「み、みじん切り‥‥」
「その椅子は、あそこに運んでくれ」
サラとアニエスが、知人友人家族を連れてきているからだ。そうしてマーちゃんとリュヴィアも、それが当然のように彼らを使い倒している。
マーちゃんは、時々つまみ食い防止のパンを与えられて、台所の外放り出されているが、また戻ってくる繰り返しだ。母親に料理を仕込まれている節のあるアニエスとは随分違う。
それでも買い出しにサラの友人を連れ出すのはリュヴィアだし、サラは自分の家の台所のように道具を使っている。
この上、買い出しから戻ったリュヴィアがスクロールで氷を作ったりして、どんな祝い事かと思うような素晴らしいお茶会の準備が整えられていくのだが‥‥これは冒険者ギルドの受付係が『物好きの集い』と評するアデラのお茶会なのである。
さりげなく、当日の朝にアデラが調理するための魚は別に分けてあったりもする。
当日の早朝からも、相変わらずマーちゃんはつまみ食いに精を出し、アニエスは昨日仕込んだスープの仕上げに余念がなく、リュヴィアは相変わらず茶葉の選別をしていて、サラはアデラをびしばししごいていたりするが、お茶会の時間はやってきた。本来は、この時間に来ればいいのである。
だから、オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)はのんびりと歩いてきたし、アフィマ・クレス(ea5242)は着飾った人形を抱えて飛び跳ねるように駆けてきた。サーラ・カトレア(ea4078)は到着して、踊り子らしい優雅な挨拶を寄越した。ここまでは、今までにもお茶会に参加したことがある面々だ。
今回初めてアデラと顔を合わせるグリュンヒルダ・ウィンダム(ea3677)は手土産に小さくはない籠を抱えてきたが、彼女のことをアデラは一応知っていた。
「国王陛下が親しくしていらっしゃるレイモンド卿の大切な方に来ていただけるなんて‥‥お茶会にも箔がつくというものですわ!」
それは絶対に違うと、ほとんど全員が思ったのだが、アデラは気付かない。グリュンヒルダも返事に困っていたが、サラの紹介を受けて改めて挨拶をしなおす。アデラも一応ナイトと結婚しようかという女性なので、まともな挨拶は出来た。
とはいえ。
「おかげさまで、先日陛下と会話する栄誉に授かれたのですわ。今日は選りすぐりのお茶をご用意いたしますわね」
どういう意味の『選りすぐり』だと、これまたほとんど全員が思った。けれどもグリュンヒルダは別のことが気になったようだ。
「陛下と、どんなお話を?」
「お祝いにお悩みのようで、そういうお話でしたわ。確かカーゴ一家の方や、マントのご領主様、最近結婚された城内の方ともお話していらしたはずですわね」
こういうことに興味のないマーちゃんやオイフェミアは『ふーん』で聞き流すが、他はそうもいかない。けれどもアデラは全然気にせず、堅苦しい礼儀もそこまでで、いつも通りのお茶会模様に突撃していた。
今日のお茶会は結婚談義付き、である。
ただ。
「ヒルダさん‥‥あなたという方は」
「これ淹れてもらおう、これ!」
グリュンヒルダが差し出した手土産の、『シャンティイの森から適当にむしってきた草』は、アデラとアフィマに大層喜ばれた。この直前にアフィマはせっかく用意した雑草茶の材料をリュヴィアに捨てられている。
挙げ句に。
「今回は、私も自分でお茶を淹れてみたいと思っているんです」
こうサーラが言い出したので、早くもお茶会は騒然とし始めていた。姪っ子四姉妹は、マーちゃんとどの席に座るかでもめている。お茶会の箔はどこへやらだ。
お茶会といっても、アデラの主催するそれはお茶以外はなかなか素晴らしい。今回は本人がほとんど料理に腕を振るっていないので、料理関係はほとんどサラが取り仕切った。まるでお食事会である。しかもどうも豪勢な料理が多い。
「今回は結婚式用のお料理を揃えてみましたのに‥‥ジョリオ様はまだお仕事ですのね」
サラがそれは残念そうに、地を這う低音で口にした言葉に、アデラは『まあ素敵』と喜んでいる。グリュンヒルダも感心した様子で説明を聞いていたが、その目前を横切る小さな腕はもちろんマーちゃんだ。相変わらず卓上に乗りあがる勢いで、まずは全部の料理を自分の皿に乗せるべく手を動かしている。
「あ、気にしないで。ああいう人だから。邪魔だったら蹴っても斬っても文句は出ないが」
リュヴィアの解説があまりに普通の口調で、その内容のすごさにアニエスは開いた口が塞がらない。アフィマはけらけらと、サーラはおっとりと、オイフェミアは鼻で笑っていたりする。マーちゃんに対する周囲の態度が、なんとなく通じた瞬間だった。
だからといって、実のところマーちゃんを蹴飛ばすのは実力と運が必要なのだが‥‥流石に誰も実力行使には及ばなかった。この間も、サラの説明は続いている。
「こちらは私が母に手伝ってもらって作りました。お式と関係ないので、普通の料理ですが」
気を取り直したアニエスが、自分の手料理を披露した。リュヴィアは昨日から来ていても、買い出しと茶葉の選別だけなので、料理はしない。それでもスクロールで氷を作ってくれたので、今日は冷やした果物も食べられる。
『ところで皆さん、今日は結婚式のお話をする集まりでございますよ』
芝居がかった口調で語り始めたのは、アフィマの相棒の人形だった。ドレスで着飾った人形は、こっけいな身振り手振りで『結婚式と言うのはね』と話し出す。腹話術だ。
『まずは誰を招待するのか、決めなくてはいけません』
サラとリュヴィアがしっかり頷いた。すでに招待される気に満ちている。
『それから衣装はどうしましょう? ご自分で作るなら』
「あたしが作る」
これは、お針子のルイザの出番である。当人が速やかに主張した。
『結婚の証人も必要ですよ』
「それは上司にお願いしましたの」
誰か、舌打ちしたような‥‥
『披露宴の場所を決め、料理人も確保です。大道芸人も必要ですよね』
「あたしだったら安くしとくから」
「私もぜひ呼んでください」
これは人形に続いて、アフィマ本人が立候補。サーラも続いた。
「招待客が多いのなら、料理人もそれに応じて人数を揃えないといけませんね」
グリュンヒルダが、『誰の式のことを言ってるの?』と皆に思われるような口振りで言うが、最初に返った反応は。
「おいら、ご馳走食べに来るからね!」
マーちゃんだった。口に物が入っていないのは感心だが、両手に料理は無作法だ。
『最後は踊り明かす! 体力付けておかないといけませんよ』
これには姪っ子四人が唸ったが、実際に踊り明かすかどうかはその日のお客の様子なので、今から心配しても始まらない。
ところで、こうして話している間に、本日はお茶を淹れたいと立候補をしたサーラが最初の一杯を淹れていた。茶器の来歴指南オイフェミア、お茶の葉の選別方法教師リュヴィア、淹れ方教師サラ、お客への出し方指南グリュンヒルダと、そうそうたる面子でのご教授だ。サーラはあまり緊張していないが、傍らで一々頷いているアニエスは拳を握り締めて力が入っている。アデラは皆に料理を取り分けつつ、にこにこと様子を眺めているだけだ。皆が一番勉強しろよと思っているのは、おそらく彼女のはずだが。
まあ絶品とはいかないが、初めてにしては上手に淹れられたと先生方からお褒めの言葉をサーラがいただいた頃になって、遅れていたジョリオがやってきた。それを見て、アフィマがにやりと笑う。
『ただいま、結婚式のお話をしております』
「‥‥ああ、そう」
ちゃんと礼儀作法に則った挨拶の後に、ジョリオはアフィマの人形に苦笑を返している。そういう話は女性が優先とかなんとか、すでに逃げ腰だ。そこにリュヴィアが畳み掛ける。
「そうか。我々の話が優先か。では、我々はアデラ殿が結婚後もお茶会に招いてくれるだろうと期待しているが、よもや反対すまいな?」
それは結婚式の話ではありません。と、助け舟を出すような者はいない。そもそもジョリオ以外で唯一の男性のマーちゃんは食べるのに夢中。他は『お茶会〜』とか『秋になったらまたワイン〜』とか『ここで頷かなかったらどうなるか分かっているはずだ』とか、そういうことを考えている。
そうして。
「反対すると思ってないくせに」
ちょっとふてくされたジョリオの返事を満足そうに聞いて、またアフィマの人形が『結婚のお話〜』と、今度は皆を促した。
それで、アニエスが身を乗り出す。
「あのう、皆様の理想の結婚のお相手はどういう方なのでしょう?」
「‥‥レイモンド様ですわね」
即答ではないが、返答の難しいことを口にしたグリュンヒルダに、アデラが擦り寄って目をきらきらさせている。そこから二人で、他人が聞いたら惚気にしか聞こえない会話を始めたので、とりあえず話の流れから分断。婚約者持ちの婚約者自慢など真面目に聞いたら、日が暮れて、また昇ってきても終わらないかもしれない。どんなに結婚後の目的意識に溢れた会話でも、惚気は惚気。
ジョリオは、先程に増して居心地が悪そうだった。
「アニエスちゃんは? あたしはブランシュ騎士団のヨシュアス様と、運命的に出会って、結婚したいーっ」
「確かに陛下やヨシュアス様は憧れますね。でも家のことがあるので、まずは母と祖父母が認めてくださる方でしょうか」
「なに、アニエスちゃん。それなら国王様は譲るから、ヨシュアス様はあたしよ?」
なにやら噛み合っているのかいないのか怪しげな会話に、四人姉妹が乱入して、『誰がヨシュアス様と白馬に乗るか』と騒ぎ出した。全員人間では、エルフのヨシュアス・レインの結婚相手にはまずならないので、大人は笑って聞いている。
その合間にも手慣れた様子で香りのよい花を加えた茶を淹れたサラが、二杯目を皆に配っている。アデラがグリュンヒルダと話に夢中なので、今回はもしかするとアデラのお茶の出番はないか知れない。それはそれで、ちょっとさびしいサラだが‥‥結婚しても、自分の才能を磨いて、人様のお役に立つ人間になりたいなどと意見の一致をみている二人に割って入る気はないようだ。かといって。
「私が結婚の話をすると、堅苦しくなりますから」
白クレリックゆえ、作法その他が知りたければ思う存分勉強させてあげるがと、遠慮しているのかジョリオをいびりたいのか、どちらともつかない発言をしていた。謹んで遠慮したジョリオの皿から、マーちゃんが料理を掻っ攫っている。
「オイフェミアさんは?」
花茶の香りを楽しんでいたサーラが、食べるのに邁進していたオイフェミアに話を振ると、振られた側は興味ないからとそっけなかった。
「だって、あたしが大事なのは死んだお母さんだけだから。結婚なんて考えられないわよ」
それって後ろ向きじゃないと、誰かが言葉を選んで言う間もなく、同意の声が。
「そうだよね。結婚なんてするもんじゃないよ! だって、知り合いのおっちゃんが、結婚したら稼いだお金は取り上げられるし、お酒は飲めないし、好きなものも食べられないし、たまの休みは子供達の相手で休めないって!」
「お酒が飲めないのは、嫌よね。前に依頼で結婚式の手伝いに行ったのに、結局式がなくなって‥‥でもあの時の会場はさびしいなりに趣があったけど」
「えー、だけどご馳走も食べられないなんて、行った甲斐がないねー。結婚式はご馳走だよ! 秋だったら何でも美味しいね!」
何かが違っている。あちらの分段組とは別方向に、全然話の方向性がずれている。と、『白馬のヨシュアス様談義』から戻ってきた少女六人にも怪訝な顔をされたオイフェミアとマーちゃんだが、二人は分かり合ったらしい。食べ物、お酒と双方で繰り返しているので、ジョリオがワインを一瓶、オイフェミアに差し入れていた。こちらも、結局分断。
それでもって。
「ワインの在り処まで知っているとは、さすが婚約者」
「俺のことはいいんで、そちらの理想は?」
サーラは早々に『あまり考えたことがなくて』と口にしたので、残るはリュヴィアだ。ところが彼女はけろりと言った。
「私も婚約者がいるからな。今頃はさぞかし可愛くなったことだろう」
なにやら非常に嬉しそうなリュヴィアに、聞いた九人は顔を見合わせ‥‥アニエスが代表して『可愛いのですか?』と尋ねた。どう可愛いのかで、色々と想像の羽の広がる先が違う。凛々しいリュヴィアに、可愛い婚約者‥‥?
「ああ。なにしろ今は十五歳か。会った時は十歳だったかな? 舌足らずな挨拶がそりゃあもう可愛くて、成長した姿を次に見るのが楽しみだ」
リュヴィアはエルフなので、お相手は人間だったら五歳くらい。サラ以外は頭の中でそう置き換えて、しばし呆然とした。
「まあ、そんなにお若いとは、先日はお聞きしませんでしたわね」
サラだけは、動じていない。
「家の決めた結婚とはいえ、可愛いから好きでも、好きなのだからそれで問題はないと思っている。好きな相手との結婚が一番だろう」
エルフ二人の視線の先で、ジョリオは明後日の方向を眺めていた。アニエスはなにやら色々考えていたが、まだ結婚を真剣に考えるには若すぎたらしい。四人姉妹と、アデラの結婚式の衣装のことで盛り上がり始めている。途中から、マーちゃんとの話に飽きたオイフェミアが、婚礼衣装の絵を地面に描いて、この五人の視線を奪っていた。
と、アフィマはお茶の葉にグリュンヒルダのお土産を紛れ込ませようとして、サーラに見付かっている。でも『お土産ですから』と、結局サーラはその葉っぱでお茶を入れてくれた。
これが結果。
「まずっ。アデラねーちゃん、このお茶、やっぱりまずい」
アデラがいわれのない非難を、マーちゃんに向けられることになった。が、聞いちゃいない。グリュンヒルダと、何か理解しあったらしい。誰も、ジョリオすらも何をとは聞けなかった。多分お茶のことではないはず。
そうして、今回は主催者が一度もお茶を淹れないうちに、こともあろうにお茶会は終わってしまったのであった。
翌日。
後片付け、一部残り物をおなかにしまいに来たアデラの家に来た人々は、昨日の話を思い返しているらしい気もそぞろなアデラに、相変わらずのお茶を淹れられて‥‥
「お茶会をした気分になりましたわ」
と言ったとか、言わなかったとか。