ごぶりんがでたっ!

■ショートシナリオEX&
コミックリプレイ


担当:龍河流

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月22日〜08月27日

リプレイ公開日:2004年08月30日

●オープニング

 パリからちょっと離れたその村は、いつもはとっても平和でした。
 村の人たちは畑を耕したり、果樹園を世話したり、ヤギや羊を飼って暮らしています。特にヤギと羊は、村から離れた丘まで放牧に行くので、お世話はとっても大変です。
 でも、この村の人たちはとっても働き者だったので、みんなお仕事を嫌がらずに、楽しく仲良く暮らしていました。
 そんな平和な村に、大変なことが起きたのです!

 それは、よく晴れた日のことでした。
 村の羊飼いさん一人カールさんが、放牧している羊の様子を見に、ちょっと離れた丘にお出掛けしました。村から丘を二つ越えただけなので、お手伝いをする犬二匹だけが一緒にお出掛けです。
 羊はこの時期、昼間は木の下なんかでのんびり過ごしています。暑いのは、みんな同じだからです。
 だけど、カールさんが丘に到着したとき、羊はみぃんな走り回っていました。めえめえ、メエメエ、めーめー、メーメー、騒がしく鳴いています。いったい何があったのでしょう?
 カールさんがあたりを見回してみると‥‥
「うわぁっ、モンスターだぁっ!」
 なんと、丘の向こう側ではモンスターが羊を捕まえようと走り回っているところでした。なんて恐ろしいことでしょう。
 でもでもだけど、この時は羊は無事だったのです。なにしろカールさんのつれていた犬がモンスターに噛み付いて、そいつらを追い払ってくれましたから。

 さて、カールさんからモンスターの話を聞いた村の人たちは、おっかなびっくり村の周りを見回ってみました。するとなんてことでしょう。
 村の周りには、モンスターがいっぱいいるようなのです!

「も、モンスターだ。武器を持ってたぞ」
「子供は外に出したらダメだ」
「なんとかしないと、羊が食べられてしまうぞ」
「もしかすると、村の中に入ってくるかも」
「「「「うわーっ、どうしよーっ」」」」

 困ってしまった村の人たちは、村で一番若くていい馬に荷台をつなぎ、村で一番を争う馬の扱いが上手な若者二人を乗せて、パリに行かせることにしました。こういうときは、パリの冒険者ギルドにお願いして、冒険者の人たちに来てもらうのが一番です。
 きっと冒険者の人たちなら、どんなモンスターだってずんばらりんと剣で斬ったり、どかんと魔法で倒してくれるに違いありません。
 ええ、すぐに村を平和なところに戻してくれるはずです!

 そうして冒険者ギルドでは。
「モンスターは猪の顔も、犬の顔もしていなくて、猿みたいな顔で二本足で歩き、数は分からない。ゴブリンだと思いますが、数が分からないと報酬が捜索分、余計に掛かるかもしれませんよ」
 係りの人がすまなそうな顔をするのに、村の若者二人は小袋をたくさん取り出しました。
「これはうちのばあさんが嫁入りのときに持って来た銀貨。こっちは親父が生まれたときに売った羊の代金を記念に取っておいた銀貨」
「この袋が村長の家のばあさまが出してくれた銀貨で、それが村の子供たちの小遣いを集めた銅貨の袋。あと、さっき羊毛商人から前借りした銀貨がこれでぇ」
「村の教会の献金袋のお金だろ。あと、それからぁ」
 たくさんの小袋から取り出した銀貨と銅貨でギルドの受付には山が出来ました。半分以上が銅貨です。村の人たちは普段あんまりお金を使わないので、金貨は持っていないのでした。
 だって、食べるものも着るものも、いつもはだいたい自分たちで作っているからです。
「みんなでお金を出したんだ。これだけあったら足りるかな?」
「急ぐんだよ。お願いだから」
 早く、村を助けて。

 それから何日か過ぎて、村の入り口に繋がっている道の向こうに、馬車が見えました。
「村長ー、冒険者の人が来てくれたよぉ」
 パリに行った若者が手を振っているのを見て、村の入り口を見張っていた人が村長さんに知らせに行きました。
 やれやれ、これで一安心です。
 馬車が村に入ってきて、そう、みんなが思ったのに。
「大変だー! 畑の近くにモンスターが出て、カールのとこのマリアがっ」
「マリアが、斬られちゃったんだよー!」
 村の反対側から走ってきた人たちが、そう叫んだのです。

 早く、村を助けて。
 カールのとこのマリアを、一番に助けて。
 おねがい、冒険者のみなさん!

●今回の参加者

 ea1407 ケヴァリム・ゼエヴ(31歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1643 セシリア・カータ(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea3012 アリア・エトューリア(25歳・♀・バード・人間・イスパニア王国)
 ea3270 ルシエラ・ドリス(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea3674 源真霧矢(34歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea4190 ガリンシャ・ノード(36歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5001 ルクス・シュラウヴェル(31歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea5242 アフィマ・クレス(25歳・♀・ジプシー・人間・イスパニア王国)
 ea5488 シアルフィ・クレス(29歳・♀・神聖騎士・人間・イスパニア王国)

●リプレイ本文

●マリアを助けて
 村に着いた馬車には、冒険者の人が四人しか乗っていませんでした。そのうち三人は人間の女の人で、残る一人はシフールの男の人です。
 もちろんこの四人にも、村の人の『マリアがーっ』は聞こえています。ただし、シフールのケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)さんには、意味が分かりません。だって、ガルゥさんはゲルマン語はお話できないからです。
 それだから、いっつも言葉が通じるアリア・エトューリア(ea3012)さんに通訳をお願いしていました。だけど今回は、何が起きたのか教えてくれません。
 それどころか、普段はいきなり走り出したりしないようなアリアさんも、いっつもお上品なふるまいのルシエラ・ドリス(ea3270)さんも、馬車から飛び出して駆けていってしまったのです。
 いったい、どうしたのでしょう?
 ガルゥさんにはわかりません。おんなじようにゲルマン語の出来ないアフィマ・クレス(ea5242)さんにも、全然わからないのです。
『なんだろう?』
『何があったのかしらね?』
 ついでに、この二人の間でも、会話は全然通じないのでした。
 でも、村の広場で騒いでいて、そのまま反対側の入り口に駆けていってしまった他のお仲間の人たちを見て、二人は思いました。
 これは、モンスターが出たんだ。
 さあ、馬車を走らせていた村の若者と一緒に、村の広場に行ってみましょう!

 ところで、冒険者の人は十人です。四人しか馬車に乗っていなかったのは、もちろん理由がありました。
 なんと!
「うわーい、騎士さまがいっぱいだー」
「騎士さまじゃない人は、なんだろー」
「皆さんで、マリアを助けてくださーい」
 ナイトの人が人間三人、神聖騎士の人が人間とエルフと一人ずつ、ジャパンの志士の人が人間一人。みぃんな、自分の馬に乗っていたからです。
「マリアが斬られたというのはどこだっ」
 村の入り口から、真っ先に白馬で駆けつけたエルフのルクス・シュラウヴェル(ea5001)さんが、騒いでいる村の人たちに言いました。みんなが指さした先には、誰かが誰かを背負って走ってくるのが見えます。その向こうにも、嫌なものが見えました。
 ルクスさんは、返事をする間もなく、そちらに馬を走らせます。
『皆さんは、ここから動かないでください』
 すぐ後ろを、やっぱり馬でやってきたシアルフィ・クレス(ea5488)さんもあっという間に通り過ぎていきます。馬だから、とっても速くて、何を言ったのか聞き取れません。ゲルマン語ではないから、仕方がないのです。
 それから、ガリンシャ・ノード(ea4190)さんと源真霧矢(ea3674)さんが、シアルフィさんを追い越すような勢いで、やっぱり馬で走り抜けました。
「その先は丘陵だ。村を出て少し行くと、上りになるから気を付けろ!」
 お腹にずしんと響くような声は、アレクシアス・フェザント(ea1565)さんでした。それを聞いて、村の人たちも『石ころが多いよ』と教えてくれます。
 そんな村の人たちに、にっこりと笑顔で挨拶したのはセシリア・カータ(ea1643)さん。
「悪いモンスターには、私たちがお仕置しますわ。どうかご安心を」
 なんて素敵なんだろうと、村の人たちはうっとりしています。こんなにたくさんの冒険者さんたちが来てくれたら、マリアだって助けてもらえるに違いありません。
 もちろんナイトと神聖騎士と志士のみなさんは、カールさんとお友達と、背負われたマリアを追いかけていた悪いモンスターをすぐに追い払ってくれたのでした。
 マリアの怪我は、ルクスさんの魔法ですぐに治りましたとさ。
「マリアちゃんって、わんこだったんだね」
 『大変だーっ』を聞いて飛び出してきたルシエラさんが、怪我が治ってきれいに洗ってもらったマリアを見て、言いました。
 そう。マリアはカールさんの大事な牧羊犬だったのです。助かって、よかったね。
 村の人たち、大喜びです。

●悪いモンスターってどんな奴?
 カールさんたちを追いかけ回していた悪いモンスターは一度逃げたので、冒険者の人たちは村長さんとお話することにしました。ちゃんと悪いモンスターを見たけど、村の人たちが見たのと同じか、確かめないといけません。
 だけど、ゲルマン語が出来ないガルゥさんとアフィマさん、ガリンシャさん、シアルフィさんの四人は、お話し合いには参加しないで、馬の世話をしたり、村の様子を見て歩くことにしました。ガルゥさんは、飛んで見るのです。
『あー、誰かスペイン語が通じたらぁ』
 アフィマさんが残念がっていますが、小さな村なのでスペイン語が出来る人はいないのでした。だけど子供たちが寄ってきて、口々に何か話しかけてきます。
「冒険者なのに、ちっちゃいなぁ」
『大丈夫だよ、あたしは何回も依頼受けたことがあるんだから。暗い顔しないのっ』
 アフィマさんは十三歳、村の男の子たちより背が小さいのですが、自信はたっぷりです。言葉が通じなくても、身振り手振りで任せなさいと言い張っています。ついでに大道芸なんか見せてあげると、子供たちも心配そうな顔が和んできました。
『そうそう。心配な顔をしてると、羊さんが怯えちゃうからね。ゴブリンが来ても、あのお姉ちゃんたちが助けてくれるから』
 指さしたのは、シアルフィさんのこと。アフィマさんと同じ国の出身で、どんなに頼りになるのか知っているからです。だって神聖騎士さまだし。
 シアルフィさんもみんなが見ているのに気付いて、おいでおいでをしました。さっきから、村のより大きな馬に触りたくてうろうろしていた子供たちまで、いっせいに寄ってきます。
「さわらせてー、乗せてー」
 こんなときに子供たちの言うことは一緒です。だから言葉が通じなくても、シアルフィさんは自分の馬に触らせてあげます。もちろん集まった子供たちが危なくないかどうか、きちんと確かめながら相手をしているのでした。
 ところで、もう一人の馬の持ち主、ナイトのガリンシャさんは‥‥
『参ったな。パリだと困らないのに、ちょっと離れるとこれかよ』
 おやおや、言葉が通じないのを嘆いています。そんなことばかり言っていても仕方がないので、口笛も吹いたりしていますが。
 もちろん、けちけちせずに子供たちを馬にも跨がらせてあげているのでした。危ないから、歩かせないけれど。
 そんなことをしていたら。
『ひひひーん』
 ガリンシャさんの馬ではない鳴き声がします。他の馬の様子も見ましたが、どれが鳴いたか分かりません。というより、どれも鳴いてないかも?
 おかしいなと、みんなが不思議がっていると‥‥ガルゥさんが物陰から顔を出しました。ちっちゃい身体で上を向いて、唇を尖らせるとどうでしょう!
「馬だぁっ」
 ちょっと一本調子ですけれど、馬の鳴き声を真似しています。続けて羊やヤギも真似すると、子供たちは大喜び。馬に干草を持ってきてくれた大人も、嬉しそうです。
「モンスターが出てから、子供たちも元気がなかったのがねぇ」
 村の人たちは、四人にパンとチーズとヤギの乳を持ってきてくれました。確かにそろそろお腹がすいたかもしれません。
 ところで、お話し合いの人たちはどうしているのかな?

 四人が村の子供たちにもみくちゃにされている頃、お話し合いは白熱していました。
「そのモンスターは、やはりゴブリンたろう。ガリンシャ殿もそう言っていたし」
「幸いにして、難敵ではないが‥‥間違いがないように確認はさせてもらおう」
 お話し合いの司会はルクスさんとアレクシアスさんです。神聖騎士さまとナイトさまなので、村長さんも頼もしそうに見ています。
 最初、アリアさんを見たときにも、なんだかとっても心配そうな顔をしていたのですが、魔法も使えるバードの人だと聞いて安心していましたし。なんたって、魔法使いが四人で、ナイトさまが三人で、魔法も剣も使える神聖騎士さまと志士さまもいるのです。
「一時はどうなることかと思いましたが」
 いえいえ村長さん、安心するのはまだ早いのです。これからゴブリン退治のために、村の人にも色々してもらわないといけません。
「村の人が外にいると危ないから、退治できるまではどこかに集まっていてほしいでしょ。それから、羊も入れる柵があれば」
 ルシエラさんが、指折り数えて『やってほしいこと』を言いました。中にはシアルフィさんやアフィマさんの知りたいことや、やってほしいことも入っています。
 人も羊も、どこかに集まっていてほしい。
 ゴブリンは何匹、どこにいたのか教えてほしい。
 村の周りの様子も知りたい。
 ゴブリンが住み着くような洞窟があったら、場所を教えてもらわないと!
 だんだん片手で足りなくなって、ルシエラさんは両手で数え始めました。村長さんも指を折りながら、一つずつ返事をしています。でも、ゴブリンが何匹いたのかは、村の人たちもびっくりしていて、数えられなかったそうです。さっき、カールさんたちを追いかけ回していたのは、五匹ほどだったでしょうか。
「もう少しいるようですが、羊の様子も見に行きかねる状態で‥‥」
「そりゃ、しゃーないな。素人はんが無理するんは、怪我のもとや」
 源真さんは、ゴブリンだったら村の周りを一巡りして、せっせと倒していってもいいんじゃないかと言っています。見るからに強そう、見るからに戦い慣れていそうな源真さんが言うので、村長さんの頼もしい気分はどんどん増していきました。
 やっぱり冒険者の人たちは強いんだなぁと、パンやチーズや暖めたヤギの乳を持ってきたおじさんたちも感心しています。
 アリアさん、自分はそんなに強くないんだけどと困っていますが‥‥ルクスさんが『しゃんとしているように』と言うので、頑張ってみました。セシリアさんも、そうそうと頷きながら、おっとり笑顔を崩しません。
 冒険者の人たちは、悪いモンスターを倒しに来たのですから、ドキドキしていたらいけないのです。村のみなさんを、元気にしないと!
「悪いことするモンスターは、お仕置きなんですよ」
「そうですね。頑張ります」
 セシリアさんとアリアさん、二人で気合いを入れています。
 その間にアレクシアスさんが村の周りでゴブリンがいそうなところを確かめて、ルシエラさんとルクスさんは森の木の具合を聞いています。村の人が、板切れにけっこう上手に絵を描いてくれました。おかげでとっても分かりやすいです。
「羊はこのあたりにいるはずで、追い立てるならこちらの方角か。後で探すことを考えたら‥‥」
「この林が栗だから、木に傷を付けたり、不用意に揺らして実を落とすと、収穫期の納税に関わるか」
「あら〜、近いものね、納税時期」
 みんなが話しているのを聞いていた源真さん、通行税や酒の税金くらいしか払ってないなと苦笑い。冒険者の人たちは、畑を耕したりしていないからいいのです。時々、違うところでいっぱい払ったりするし。
 でも、村の人たちが困らないように、早くゴブリンを倒しに行きましょう!
 でもでも、もう夜になって危なすぎるから、ゴブリン退治は明日の朝です。
 だって。
「そんな、知らない土地で夜中に動くなんて危なすぎます! いけません!」
 村長さんが、いっしょーけんめいに止めるので。

●さあ、ゴブリン退治だ!
 翌朝です。今日はゴブリン退治の日。
『さっさと、片付けちまおうぜー』
 今回が初めての依頼のガリンシャさんは、すっかり準備万端で朝も早くから元気です。ジャパン語ができるから、源真さんに叫んでいます。
『まだかー?』
『弁当をもらわんで、どうするんや』
 村の人たちもいつもより早起きして、冒険者の皆さんのためにお弁当を作ってくれました。大人の人には、ワインも渡してくれています。
 アリアさんとアフィマさんは、まだ大人にはなりきれないので、お水なのでした。アフィマさんは、ぷーっと膨れているので、源真さんが二人のお水にちょっとだけワインを混ぜてくれました。おいしいかな?
 そんなことをしている間に、やっぱり準備ができていたルシエラさんとガルゥさんは、村の外れの柵の中にいました。
『ふわふわ、もこもこ〜』
「かぁわいいーっ」
 危ないから柵の中に入れられた羊さんと、たわむれているのです。ふわふわのもこもこが好きなガルゥさんと、動物が珍しいルシエラさん、ゴブリン退治の前に元気をもらっているのでした。もちろんお弁当も。
 あとは神聖騎士とナイトのみなさんの準備ができたところで、出発です。シアルフィさんが、誰か村に残らなくても大丈夫って心配していますけれど‥‥
「なにかあったら若いシフールに知らせに行かせますから」
 村長さんがそう言うので、冒険者の皆さんは全員で出かけることにしました。
 さっさとゴブリンを倒すのです!

 さて、村から離れた丘の上。この辺りは最初にカールさんがゴブリンを見付けたところです。アレクシアスさんがきちんと調べていて、丘の向こうの森からゴブリンが出てきたのも分かっています。
「さすがに村人でないと分かれば、いきなり襲っては来ないか」
「弱いものいじめなんて最低ですわ」
 アレクシアスさんがちょっと悩んでいるのを聞いて、セシリアさんは唇を尖らせました。でも、ルクスさんは当然だと言います。
「そういう生き物ゆえ、仕方がない。どこかで待ち伏せるか、おびき寄せるか」
 いろんな国の言葉で相談です。するとガルゥさんが言いました。
『羊の鳴き真似する!』
 それをアリアさんがゲルマン語にして、それから源真さんがジャパン語でガリンシャさんに教えてあげます。スペイン語をお話しするシアルフィさんとアフィマさんには、アレクシアスさんが通訳です。
 作戦決定。
 馬は目立つから、森の中に隠します。それからガルゥさんがゴブリンが出てきた方向に飛んでいくと‥‥いるいる、いました。ゴブリンがいっぱい。
『めぇめぇ』
 ガルゥさんが鳴き真似すると、ゴブリンがそれを聞きつけたみたいです。仲間を呼んでいるのかも。
 ガルゥさん、鳴き真似をしながら、ほかの人たちがいるところに戻ります。一人で捕まっちゃったら、がぶりと食べられてしまうかもしれません。さあ、急がなくちゃ。

 それからしばらくして。
『よっし、出てきたなっ』
 茂みをごそごそかき分けて、丘のふもとに出てきたゴブリンの群れに、叫んだのはガリンシャさんです。それだけではなくて、もう飛びかかっていってしまいました。
「一人で危ないです」
 セシリアさんも走り出しました。でもそれより速く、アレクシアスさんもゴブリンに向かっています。
 ここはやっぱり、ナイトのみなさんが、最初にがんばるのです。
 そうして神聖騎士のルクスさんとシアルフィさんは、ゴブリンがやってきた方向に行きました。仲間が来ても、二人が倒してくれるでしょう。それにこういうのは退路を断つというのです。
 源真さんは、ジプシーのみなさんとバードさんが固まっているのを見てから、ほかの皆さんの応援に駆けつけます。故郷に妹がいる源真さん、こんなときでもお兄ちゃんの気分なのでした。
 で、ゴブリン退治はといえば。

 ナイトの皆さんは、オーラパワーを使います。ゴブリンなんか、それでずんばらりんなのです。
 あっという間に、三人で三匹を倒してしまいました。
 神聖騎士の皆さんも、負けてはいません。クルスソードがびゅんびゅんびゅん。
 ゴブリンが二匹、倒れています。
 志士の人は、日本刀です。ジャパンの剣で細いけど、とっても強い。えい、やっ。
 これでゴブリン六匹退治!

 この頃、ジプシーとバードの人たちはどうしていたのかと言うとです。
『やっぱりいたーっ。あっちに、二匹!』
『そっちの茂みも様子が変だよ!』
 アフィマさんは魔法のリヴィールエネミーで、ガルゥさんは木の上からの観察で、それぞれ隠れているゴブリンを見つけ出していました。
 すると今度はアリアさんが、ムーンアローで攻撃、ぷすっ。ゴブリンは痛くて茂みから飛び出しました。
 ルシエラさんもサンレーザーで攻撃して、じゅっ。ゴブリンは熱くて茂みから以下同文。
 そこを駆けつけたナイトと神聖騎士と志士の人たちの、退治されてしまいましたとさ。
 その後ももうちょっと探したけれど、もうゴブリンはいないみたいです。
 では、村の人たちに知らせてあげましょう!

●お仕事終わったその後は
 村に戻ると、まだお昼過ぎでした。予想以上に早く終わって、村長さんも村の皆さんもびっくりしています。
 それから、とっても喜びました。
 とてもとっても喜んで、冒険者の皆さんに約束通りのお礼のお金の他に、なにか欲しいものはないかと訊いてきます。村にあるものなら、なんでもプレゼントしてくれるそうです。
 でもだけど、冒険者の人が羊やヤギをもらっても、お世話に困ってしまいます。野菜や果物も、そんなに持って帰れません。ワインだって、暑いところを持って歩いたら、パリに着く前に悪くなってしまいそう。
 それになにより、みんなの宝物の銀貨を集めたお礼のお金を、そのまま貰っていいのかな。って、思った人はたくさんいるのです。
 そんな中、ルシエラさんは言いました。
「皆さんの気持ちがいっぱいこもっているのだから、ぜひとも受け取らせてもらわないと」
 それはもっともな意見なので、みんなもお礼は受け取ることにしました。だけど、村の人たちはそれだけでは物足りなそう。
「それなら、二日くらい、馬を休ませてもらおうか」
 アレクシアスさんのお願いに、村の人たちはまた大喜びです。他のナイトや神聖騎士の人たちも、いい草が生えているので、馬のお世話をお願いすることにしました。もちろん自分の馬だから、いつも通りのお世話は自分でもきちんとするんですけれど。
 後は人間の人もエルフの人もシフールの人も、みんなでのんきに村で過ごすことにしました。
 いえ、のんきに過ごすはずだったんですけれど‥‥

 ふわふわモコモコの白い毛玉が欲しいな。
 村のシフールの人にそうお願いしたガルゥさんは、あっさりうんと言われて嬉しいところ。どの羊さんの毛玉がいいか、いろいろ悩んでいましたが。
『この櫛で毛をすいて、汚れを落としてね。そんで引っかかって抜けたのだけでも、毛玉なんかあっと言う間に三つくらい出来るよ』
 シフールの人用の櫛を借りて、気に入った羊の毛をすいています。けっこう力仕事ですが、他の人たちもせっせと働いているので、いっしょになってがんばります。
 毛玉はいくつ、出来るかな?

 馬のお世話をお願いしたアレクシアスさんとシアルフィさん、お願いしたはずなのに、しょっちゅう呼ばれています。
 村には馬がちょっとしかいないので、きちんとお世話が出来る人も五人くらいしかいないのです。だからその人たちがいないときは、呼ばれてしまうのでした。
「騎士さまも、馬の世話するんだなぁ」
「自分の『足』の様子を見るのは、当然だから。ブラシの掛け方はこうだ」
 いろいろお世話の仕方を教えて、それからきちんと出来るか見てあげて、アレクシアスさんもけっこう忙しそうです。
 シアルフィさんは言葉が通じないけど、村の子供たちに身振り手振りで、馬の扱い方を教えてあげます。近くによるときは後から寄っちゃ駄目とか、触ったらいけないところとか、言葉が通じないなりに、とても楽しそうです。
 それでもって、自分の馬の面倒も、やっぱり見ているのでした。

 おやおや、アリアさんとアフィマさんが、誰かを呼びに来ましたよ。
「源真お兄様、高いところのお仕事ですって」
『早く来て、早く。今夜はあたしたちがいろいろやってあげるからね』
 アリアさんは吟遊詩人、アフィマさんは人形使いです。それを聞いた村の人たちが、ぜひとも歌ったり人形を使っているところを見せてほしいとお願いしてきたので、二人はただ今舞台の設営中なのでした。
 アフィマさんがしっかりした舞台でやりたいと言うので、源真さんとガリンシャさんにお手伝いをしてもらいに来たようです。
『いいぜ。別に暇だしな』
『マリア嬢のお相手はいいのか?』
 ガリンシャさん、本当に暇だったみたいで、あっさりうなずいてくれました。それを源真さんがからかうのは、牧羊犬のマリアがガリンシャさんになぜか懐いているからです。
『人間の女の子だったら、もっと嬉しい』
 と、ガリンシャさんが言っていたとか、いないとか。アリアさんとアフィマさんも人間の女の子なので、ぜひともがんばってもらいましょう。
 そうして源真さんとガリンシャさんは、村の人たちが畑仕事やいろんなお仕事で忙しい間に、人形劇用の舞台をせっせと作っていたのでした。
 ちょっと、暑くて大変だったかも。

 ところで、神聖騎士のルクスさんとナイトのセシリアさんは、馬を他の人に預けてどうしていたかと言うとです。
「ほらほら、かわいいでしょ。ふわふわだよ」
 ルシエラさんが小羊を抱っこさせてもらって、きゃっきゃっと喜んでいます。ルクスさんとセシリアさんも、羊の群れのところについてきたのですが、二人とも羊がこんなにいっぱいいるのを見るのは初めてでした。
「‥‥柔らかい」
「こっちはごわごわしてます」
 セシリアさんが撫でたのは、ヤギだったようです。残念。ルクスさんは羊の感触にびっくり。まだ手の平を眺めています。
「こんな羊の毛で作った織物だと、きっと柔らかくて気持ちのいいのが出来ますよね。春用の薄いスカートなんか欲しいなぁ」
 きっと踊ってもふんわり広がってきれいなのにと言いたかったルシエラさん、ルクスさんに口をふさがれてしまいました。セシリアさんも、『しーっ』ってしています。
「そんなことを言ったら、本当に布地を持ってくるかも知れないだろう。気を付けなさい」
 そう。村の人たちはなにか贈り物をしたくてうずうずしているのです。聞かれたら、全員分の服地を持ってくるかも知れません。
 それでなくても。
「あのねぇ、今夜のご飯は何が食べたいですかって、おかあさんが。たまご食べる?」
 毎日、ご飯のたびに、何がいいですかって確かめてくれるのです。
 それからしばらくて、三人が村のおうちでお料理を教えてもらいながら、お手伝いしている姿がありました。

 そうして、明日はパリに帰る前の夜。
 即席で作った舞台の上で、人形がえいやぁとモンスターを倒しています。時々オカリナの演奏が雰囲気を盛り上げて、モンスターが倒れるときには変な鳴き声付きです。
 ほんとのゴブリン退治とは全然違うけど、村の人たちは熱心に見入っているのでした。
 最後は素敵な踊りがついて、それからみんなで輪になって踊って、夜は更けていきます。
 次の朝、冒険者の人たちはパリに帰っていきました。

●でも、終わりのその前に
 パリの冒険者ギルドは、今日も大忙しです。冒険に行く人にいろいろ説明したり、帰ってきた人から報告を聞くのです。
 あと、帰ってきた人にお礼のお金を渡すこともあります。報告書と交換です。
 だけど、ほとんどの人は、村で食べたものや馬の世話をしてもらった分や、お料理教えてもらった代金や、ふわふわもこもこ白い毛玉、とっても楽しい体験が出来ていい歌が出来そうなお礼や、教会への献金に、お礼のお金は使ってもらうはずなんだけど?
 ギルドの人は言いました。
「えーっと、馬の世話の仕方の教習代、宴会余興代金、各種仕事の手間賃に、教会掃除賃金、子供の世話賃などの依頼終了後の奉仕労働分の報酬だそうだ。さっき、村人が来て、最初のお守り銀貨なんかを引き取って、羊を売った金貨で支払っていったから」
 それは、本当にもらっていいお金なの?
 ギルドの人は言いました。
「金も払わずに助けてもらったら、施されたみたいで悪いだろ? それにあの村は現金の持ち合わせがないだけで、畑も家畜もすばらしかったろ?」
 そうして、ゲルマン語の、古布に書かれたお手紙をくれました。

『ぼうけんしゃのみなさんへ。
 あきになったらおいしいくだものがいっぱいとれるから、こんどはかいにきてください。
 またきてね。
 まってるからね』


 これでゴブリン退治のお話は終わり。
 全部終わって、めでたしめでたし。


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