開拓計画〜道を拓く

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月26日〜08月05日

リプレイ公開日:2006年08月04日

●オープニング

 それはいささか風変わりな依頼だった。
 ロシア王国、中でもキエフ周辺で、国王ウラジミール一世の政策で入植地開拓が行われていることはキエフに住む者なら大抵は知っている。なにしろ人が多すぎて、キエフの街中ではそれに関係する揉め事が少なくはない状況なのだ。
 開拓を行えばそれなりの見返りもあるため、多少の金がある者は単独で、または一族で、そうでなければ仲間内で出資しあって開拓に乗り出しているとも言われるが、ものの見事に成功した事例と言うのは滅多に聞かない。
 理由は簡単。深い森に、少なくない獣、更には恐ろしいモンスターなど、人里を離れると多少の人数では太刀打ちできない危険が目白押しだからだ。
「とはいえ、陛下の意向を無視して、キエフの街が荒んでいくのを座視するわけには行かぬ。これが成功すれば、こちらにも別にそれなりのものをご用意しよう」
 冒険者ギルドの受付カウンターではなく別室に通されたあたりで、すでにそれなりの身分があると知れるが、見ただけでも相当の威厳を備えた男性は、重々しい口調でそう告げた。姿を見た者が、おそらくは貴族であろうと目星を付けたのは、男性がいかにも造作が整い、体格も申し分なく、立ち居振る舞いが優雅なハーフエルフだったからだ。いかにハーフエルフ至上主義の国とはいえ、見た目も態度も頭の切れも完璧に近いとなれば、綿密な血統管理の下に生まれ、万全の教育を施された貴族階級の者だろう。
 冒険者ギルドとすれば、信用が置けて、金払いがよく、無理難題を言わない客であれば種族と身分はたいして問わないのだが‥‥まあ、相手が金持ちであれば大変にありがたいところ。
「面倒な条件なのは承知しているが、危険はほぼない。適任者を送り込んでくれ」
「承知いたしました」
 確かに男性が提示したのは面倒な条件ではあったが、命は危険はない。なにしろこれまでに、腕の立つ冒険者を随分と送り込んだ地域だ。これでまだ面倒なモンスターがいたら、それはもう運が悪かったというしかないだろう。

 そんな条件は面倒だが、支払いが悪くない依頼は、こんなものだった。
 依頼人の男性貴族が開拓を進めている地域の事前調査が完了し、いよいよ村を切り開くことになった。とはいえ、そこに至る道もなく、予定地はまだ森の状態となれば、まずはある程度道を拓くことから始めなくてはならない。
 よって、募集されるのは、事前調査で決定された開拓地までの道を開いてくれる力仕事担当者と、その統率をする森などに詳しい経験豊富な監督者、それから全体の食事などの世話をする者だ。
 なにしろ、この仕事に従事するのは労役の者も含めて、冒険者以外に二十人あまり。冒険者も含めれば、最大で三十名にならんとする団体だ。
「それで、現地までの案内人を勤める依頼人の部下はいるけれど、それとは別に全体の監督を任せられる経験豊富な人材を最低一名、他の人達の監督も出来るような力仕事の担当者も最低一名、その全員の食事の世話などをする人が若干名欲しいという話。いずれも複数いるに越したことはないけれど、単なる力仕事担当や下働きでも大丈夫のようね。とにかく人手が足りないのよ」
 割とおっとりした口調の女性が、『ある意味経験不問、やる気が大事』と言ってのけたこの依頼、駆け出しの冒険者から、他国まで名が知れるようなベテランまで、誰でも請けることが可能らしい。ただし、報酬には差がつく。
「そうはいっても、仕事の間の食事は支給されるし、ちゃんと人が来れば料理人付きよ? 悪い話じゃないでしょう。道具も借りられるし‥‥あ、お酒だけは自前ね。報酬額は、開拓予定地までの木を予定通り倒せば、最低金貨一枚。後は仕事具合で増減されます」
 責任が重い役職につけば、それに見合った報酬が支払われ、予定より仕事が進めば追加報酬がある。幸いにして、依頼人は金持ちな上に、金払いもよいという。

 問題があるとすれば。
「依頼人の部下が、予定地までの地図と伐採計画書を持って同行するけれど‥‥この人、ものすごく内気なのよね。あ、種族は彼もハーフエルフだから」
 初対面の人と打ち解けるのに、相手がものすごく気を使っても一週間は掛かるという、困った御仁らしい。

●今回の参加者

 ea9542 ミーシャ・クロイツェフ(18歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9740 イリーナ・リピンスキー(29歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5617 レドゥーク・ライヴェン(25歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5624 ミランダ・アリエーテ(45歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 eb5646 リョウ・アスカ(33歳・♂・エル・レオン・ジャイアント・ロシア王国)
 eb5690 アッシュ・ロシュタイン(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5724 レイヴァン・テノール(24歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

 依頼人の部下は、ユーリー・ジャジュチェンコと言うらしい。らしいとなるのは、待ち合わせ場所に指定された冒険者ギルドに集まった八人が五回も聞き直して、なおユーリーの発音がはっきりしなかったからだ。
 名前が分かったのは、
「ジャジュチェンコなる家名を聞いたことがあるが、その縁者か?」
「‥‥言われてみれば、確かに何かで聞いたお名前ですな」
 何で耳にしたかは思い出せないまでも、イリーナ・リピンスキー(ea9740)とレドゥーク・ライヴェン(eb5617)が正確な発音を記憶から引っ張り出し、同じくロシア出身で神聖騎士とナイトのミーシャ・クロイツェフ(ea9542)とレイヴァン・テノール(eb5724)も頷いたからだ。何かで名前が知られた家の出身らしい。
『男の方ではありませんでしたか?』
『そのように聞きましたが‥‥レイヴァン殿も男性ですから』
 ゲルマン語ではない会話を繰り広げているのは、ミランダ・アリエーテ(eb5624)とリョウ・アスカ(eb5646)の二人だ。ロシアにやってきたばかりで言葉に不自由なミランダは、今回あいにくとリョウ以外に言葉が通じる相手がいない。そのため何事も皆より一拍遅れるのだが、ユーリーがいる限りは、何の心配もないようだ。
 仕事が、ずるずると遅れそうな気配である。何しろ名前を確認するのにさえ、ミランダの時の三倍の時間が掛かった。そんな訳で、この二人は一見すると女性かと思うようなユーリーを眺めつつ、会話をしているのだ。
「お互い名前も分かったことだし、急いだほうがよくないか」
「計画書を見せていただければ、道々相談も出来ましょう」
 あまりのことに見兼ねたのか、アッシュ・ロシュタイン(eb5690)が皆を促し、オリガ・アルトゥール(eb5706)はユーリーに丁寧に話しかけた。返事をしたのかどうかは、『何か聞こえた』程度でよく分からないが、計画書そのものはすぐにオリガの手に渡る。広げてみると、労役の二十人はキエフから半日弱の場所で合流する手筈らしい。ちゃんと地図もある。
「ユーリー殿、貴殿、狂化で何か人との付き合いに支障をきたしたことでもあるのか?」
 道々、イリーナが思わずと言った感じで問うたのは、ユーリーが日差し避けにしては厚地のフード付きマントをすっぽりかぶっているからだ。イリーナは髪をまとめるのにスカーフを使っているが、今回六人いるハーフエルフは誰も、フランク生まれのアッシュも顔まで隠すような真似はしていない。ここはロシア王国である。マントは羽織っていても、季節柄風が入るようにしているから、ユーリーが入ると人目に立って仕方がない。
 そして、返事は相変わらずぼそぼそ‥‥結局、地位と経験を考慮して全体責任者にレッド、補佐にミーシャ、労役の取りまとめはレイヴァンで、雑務はイリーナが取り仕切ることに決まったが、その間計画書はオリガが持ったまま、話し合いを仕切ったのはミーシャとレッドで、ユーリーは黙々と歩いている。
 合流場所で休憩していた労役の者と挨拶を交わしたときには、『九人』の中の仕事割り振りは、ユーリー以外は決定していた。ちなみに。
「ユーリー坊ちゃんは、森には詳しいし、弓の腕も相当なものなんだが‥‥」
 あの性格がねぇと、荷物を預かっていたらしいジャイアントの初老の男がぼやいていた。
「ふむ。それなら適材適所で、危険がないかの偵察と狩りでもお願いしたらどうです?」
 レイヴァンの提案に、珍しくはっきり頷いたところを見ると‥‥
「依頼人殿のお考えが、今ひとつ分かりませんね」
 他人といると気詰まりな者を派遣するのもどうかと、レッドが考え込んでいる。

 そうは言っても、仕事は木を切り倒すこと。ほぼこれに集約される。
 適当に離れた何本かの伐採予定の木に、それぞれ人を割り振って切らせる。計画書にどの木を切るかまでは書いていないので、ユーリーが先行して一本ずつ目印をつけ、きこりの経験があるレイヴァンが一度に切り倒す木を決める。レッドとミーシャが体格や年齢、ざっと見た限りだが人となりを判断して、労役の二十人を五つに分割し、冒険者が一人ずつ入って仕事をする。ほぼ力仕事一本のアッシュとリョウは気楽に指示を受けているが、自分の組の中で一番大変そうなところを率先して手掛ける心意気を持ち合わせていた。
「三本目、斧を入れる順が違います」
 けっこうな大木が一度に何本も近距離で倒されるので、レイヴァンが斧を入れる位置から指定する。怪我人は出ないようにするのも、仕事のうち。
 更に、倒した木はすぐには建材などにならないのと、今回は道を通すのが目的なので計画書にはなかったが、アッシュとレイヴァンが後日建材に使えるように枝を払い、傷まないように処置しておくことを提案して、レッドやミーシャの許可を得ている。ユーリーはどこまで先行したのか不明なので、事後報告とした。
「これは、夕飯が楽しみになりそうな仕事です」
 もちろんこういう予定外の仕事は、より体力を必要とするので後回しにされた可能性もあり、リョウや数人いるジャイアント勢の活躍はめざましい。他はドワーフか人間、エルフなので、大木の場合はロープを掛けるのも手際よくとはいかないからだ。
 リョウが言う通りに、ひたすら食事を楽しみにしないと、働けない仕事でもある。他の楽しみは、ほぼないからだ。大木が倒れると、その一瞬の達成感は悪くないが‥‥
「この、払った枝がすぐに焚き付けになるといいんだけどな」
 思わずアッシュがぼやいたように、生木の細枝はかさばって、扱いが面倒なのである。でもやる。他人の分まで働いているのではないかと思うくらいに、せっせと動く。
 依頼人、つまりは労役の皆からすれば領主であろう貴族が、わざわざ雇った冒険者がこれだけ働くのだから、二十人もよく働いた。だが、レッドが見るところ、彼らはもともと真面目な性質だ。会話を聞いていると、領主を相当信頼しているらしい。レッドも小さいながら領地を持つので分かるが、これはなかなか難しいことだ。
「そうでもなければ、開拓は難しいでしょうが」
「確かにな。ところで、これだけの作業だと当然近くに狩れるような動物はいないのだが、ユーリー殿はどこまで行ったと思う?」
 ミーシャのディテクトライフフォースの効果範囲から、ユーリーはとっくにはずれている。わざわざ探しに行く必要はなさそうな歩みだったが、どうにも付き合いがたい御仁だとミーシャも思っているのだろう。
 と、レッドは考えたが。
「手ごろな獲物でも見付けているといいが」
 このミーシャの発言は、後に『そうしたらそこから会話が生まれる』と聞くまでは、周囲に『食欲の人だ』と勘違いされていた。

 その頃の女性陣は。
 計画書添付の地図に本日の宿泊場所と記載されていた場所で、食事の支度に勤しんでいた。ここは事前調査でも使われていたのだろう。小さいながらも川が近いし、広い範囲で木も刈ってある。最近生えたらしい下草はあるが、敷物を敷けば苦になるものでもなかった。
 そうして三人は、微妙に意思疎通が難しいながらも、三十五人分の料理に取り掛かっていた。人数に対して六人分多いのは、労働内容とジャイアントが多かったことを考慮した結果だ。とはいえ、家事をこなした経験が豊富なのはイリーナだけなので、すべての分量はイリーナの判断である。
「これの皮をむいて、等分に切る。分かったか?」
『皮をむいて、ざくざくと切ればいいんですね。大丈夫です』
 細かい指示が通らないので、料理の具も色々な形になったりするが、煮込み料理の準備は快調だ。イリーナのように家事が得意ではなくても、ミランダは手先が器用なので刃物の扱いも慣れている。
「イリーナ、水はあとどのくらい必要ですか。薪ももっと拾わないといけませんね」
 手先の器用さはミランダに一歩譲ったオリガは、ハーフエルフとしては細い体つきだが、率先して水汲みなどをしている。先程まで薪拾いをして、座っている暇もなかった。ミランダが何か言うのは、交代しようかとの申し出らしい。
「いっそ三人で集めれば、早いな」
 パンも日持ちするように固く焼いたものが荷物に入っていたが、どうせなら温めて食べたいし、好みでチーズや干し肉を乗せても美味しいだろう。依頼人は食べるものはけっこういいものを準備してくれてある。これだけあると食事の準備も楽しいと、イリーナが思うような種類と量だ。
 そんなわけで、料理に不可欠の薪を集めるべく立ち上がった三人は、離れた場所から誰かが近付いてくる音を耳にした。見れば、男性陣から行方不明扱いのユーリーが何か引き摺ってきている。
「こ、こ、こ、これ」
『あら、ちゃんとしゃべれましたね』
 全然ちゃんとではないが、女性だけが相手で少し努力する気になったのか、ユーリーが枯れ木を指して言った。何故か視線は真上を見ているし、相変わらずフードすっぽりだが、まあ最初よりまし。そして何より。
「その口元は、木いちごだな。まだ残っているなら案内しろ。貴殿を取っては喰わぬ」
 どこかになっていた木いちごをつまみ食いしてきたのをイリーナに見付けられ、籠を持たされて、道案内に駆り出された。途中、オリガが指摘してやる。
「唇が、木いちごの汁で染まっていますよ」
「‥‥ぁ」
 この日の夕食には、木いちごが加えられた。

 食事は肉体労働なので、しっかりしたものを一日三回。毎食少ないながらも肉がつく。育ちがいい者もいるはずだか、誰も文句は言わなかった。労役の人々にしたら、かなりのご馳走である。
 代わりに、作る三人はとにかく忙しく、一度作業の進行具合で場所の移動もあったので、お疲れ気味だ。ミランダの理美容の技は、ほとんどすべて同性の二人の疲れを癒すのと、気分転換に使われていた。
 そりゃあ男性陣も腕のひとつも揉んでもらいたい気分ではあるが、ミランダにやってもらうのは気分的に色々とあるので、文句は出ない。何よりイリーナとオリガとミランダがいなかったら、食事が食べられないのだ。イリーナはともかく、すっかり疲れ果てたオリガを元気付けて、ミランダ本人も気分一新しているようだ。
 なお、二日目には切り倒す木すべてに印を付け、更に鹿を仕留めたユーリーはイリーナの指示で毎日薪拾いや肉以外の食料探しをしている。
「作業の進行状態は、報告すればちゃんと理解しているようですが」
「妻女の話をしたら、逃げられたか」
 レッドがこれでいいのかと悩んでいるのを、ミーシャがからかう。女性陣は一つテントで仲良く、言葉が通じないことも気にせず過ごしているが、男性陣は大半が季節柄毛布や寝袋で焚き火を囲んで寝ていた。その前のちょっとした時間に、レッドが家族の話を嬉しそうにするのは、女性陣までも知っている事実だ。人によってはのろけやがってと思っているかもしれないが、確かにユーリーには逃げられていた。初老のジャイアントが目配せしてきたところを見ると、家族の話はユーリーには禁物らしい。
 しかし、レッドもミーシャも仕事の報告はもちろん、それ以外でも挨拶はじめユーリーとは会話を持とうとしている。アッシュはもっと気さくだし、リョウも物怖じしない、レイヴァンは挨拶を欠かすなど思いもしないので、ユーリーも『あー』とか『うー』とか声が聞こえる程度には慣れてきたようだ。
「なんですかねぇ、あの方も。こんなにやりがいのある仕事なのに、楽しそうではないし」
 リョウなど、遠慮のない物言いで労役の者に尋ねていて、仕事熱心だと頼られている。色々話してみると、彼らの住んでいる領地は開拓予定地のもっと先で、キエフへ農作物を売っていきたいと領主の依頼人が考えているらしい。そのためには安全な道と中継点が必要なので、今回の開拓となったようだ。
「それなら、この村の開拓が済んでも、まだ先まで道を作る仕事はあるわけだな」
 いささか懐が寂しいアッシュにしたら、食事付きのこの仕事は非常にありがたい。ぜひとも追加報酬を得るべく、熱心に働こうというものだ。更に何度か、自分に都合よく仕事が出ればもっといいと思っているだろう。他にもっと適した仕事もあるかもしれないし、ハーフエルフだからとうるさく何か言う奴もいないし、キエフはなかなか過ごしやすそうだ。
 かとも思えば、レイヴァンは生真面目に、融通が利かないほど生真面目に『陛下のため、皆のため』と切り倒した木の始末をしている。休憩中もあれこれとやっていて、それが見過ごせないアッシュと二人で休まないので、とうとうレッドから注意された。
「こういうとき、騎士は率先して働くものだと思うのだが」
 目上の者が休まないと、労役の皆は休めないのだと諭されている。

 そうして。
 ひたすら木を切り、的確に始末をし、交代で食事をして、夜は早々と寝る。時々お酒が回ってくるが、これがまたドワーフの持ち込んだ酒で、呑むとよく眠れる。
 毎日毎日、水汲み炊事、時々服の繕いが入って、なのに夜のおしゃべりは止められない。止めたら、かえって気分が落ち着かない。言葉が一部通じていないのに。
 やがて、ユーリーが印を付けた木がなくなり、木々の向こうに川が透けて見える場所が現れた。このあたり一体が、開拓予定地だろう。その整地は、日程の都合もあって、依頼内容に含まれていない。
 金銭面や開拓への熱意、その他諸々の都合でこの予定地の整地にも取り掛かりたい者は複数いたのだが、あいにくとこれまで切り倒した木を処理していた時間があるので、この後はキエフに戻らないといけなかった。依頼の日程が守れないのは困るし、労役の皆も早く家に帰りたいだろう。
「日のあるうちに、キエフへの距離を稼いでおきましょうか」
 レッドの宣言に、皆、頷いたのである。
 それでも、依頼内容以外に木材への処理もしたので、報酬は多少期待できそうだ。

 帰り道は、何故か熱心な食材調達担当が増えたので、食事は移動中とは思えないほどに豪華だった。
 予備も考慮して準備されただろう食料を、それでも全部使い尽くしたので、依頼人がどう思ったかは不明だが。