素敵?なお茶会への招待〜お客様です〜
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月31日〜08月03日
リプレイ公開日:2006年08月10日
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●オープニング
今月もやってきたお茶会ウィザードのアデラは、顔見知りの受付係ににこやかにこう言った。
「今回はお客様がいらっしゃいますのよ」
言われた受付係は、にこやかにこう答えた。
「そうですか。もう冒険者は同好の士で、お客じゃないですからね。で、どなた?」
なにやら冒険者に対して失礼な物言いだが、アデラは気付かない。ということは、彼女も冒険者は友人知人、いつも来る人で、今更お客様だとは思っていないのだろう。
普通のお客は、主のいない家で平然とお茶会の支度にいそしんだりはしない。だからやっぱり、お客ではないのだ。
「ええと、お名前がオルド・イガエスさん。ジャイアントの方ですわね。お茶会の作法を教えてあげてくださいと頼まれましたの」
私などまだまだと言いながらも、アデラは嬉しそうだ。対する受付係の顔からは、血の気が引いている。最近のお茶会ではまっとうな知識の持ち主達が、厳しくうるさく事細かに、意地悪小姑もかくやという勢いで『教育』しているアデラだが、相変わらず『雑草むしってお茶にしてみる悪癖』は健在だ。一応お作法の基本は押さえているらしいが、誰がこの人にお作法を教えてくれなどと言ったのだろう。
いや、以前にも何を思ったのか、騎士のお嬢さんがお茶を教えてくれとアデラに言ったことがある。その時も随分怒られたはずなのに、アデラはすっかり忘れ去ったらしい。それとも、誰か断れないような人に頼まれたのか‥‥
色々悩んだ受付係は、アデラに尋ねてみることにした。
「誰に頼まれたんです? あれ、そういえばオルドって聞き覚えが」
「教会の司祭様ですわ。オルドさんは、司祭様が懇意にしている方が預かっている、ジャイアントの方ですの。こちらのギルドとはご縁があるとお聞きしましたわね」
言われて受付係は思い出した。確か奴隷商人から逃げてきた十七、八の少年で、何度かここにも顔を出している。どこかの教会に身柄を預けられたはずだから、そこの司祭とアデラが通う教会の司祭が懇意にしているのだろう。
きっと、オルドがいる教会の司祭は、アデラのことを勘違いしている。騎士と婚約した、良家のお嬢様だとでも思っているのだ。確かにアデラはウィザードを多数輩出している家の、一応女当主だが‥‥お茶会の作法はどんなものか。
「ま、頑張ってください。オルドくんはお茶会の日に来るんですね?」
「いえ、前日の準備と翌日の後片付けもいらしてくださるそうですわ」
自分は仕事でいないが、いつも誰かが準備も後片付けもきちんとしてくれるので、何の心配もない。と、アデラは細かいことは気にしない。
依頼人が気にしないので、もちろん受付係も気にしなかった。
アデラのお茶会、本人結婚式の二ヶ月前。
こともあろうに、人様にお茶会のお作法を教える場となるらしい。
●リプレイ本文
●準備の日
アデラが主催するお茶会では、当人が客人のオルドを置き去りに出掛けようと、慣れた冒険者は誰も驚かない。
「さ、家の中をご案内いたしましょうね」
そして、場を仕切るのはサラフィル・ローズィット(ea3776)である。彼女はもはやこの家の親戚のようだ。
今回初めてお茶会にやってきたカンター・フスク(ea5283)とジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)は、ラテリカ・ラートベル(ea1641)に顔を向けている。表情に浮かんでいるのは、『これでいいのか』だが、ラテリカだって今回が二度目だ。
「呆けてないで、準備だよ。いいかい、ここのお茶会はね、いつもこんななんだ」
非常に簡潔な解説を加えたデリかあさんことアンジェット・デリカ(ea1763)が、ミルフィーナ・ショコラータ(ea4111)とガイアス・タンベル(ea7780)から挨拶されて、ニコニコしているオルドと共にこの場の全員を促した。
「ギルドで何度かお名前をお聞きしたので、さぞ立派なお茶会だろうと思って、楽しみにしていたのですが」
ジュヌヴィエーヴがまだちょっと呆然として言ったことに、同情的な視線がちらほら。
「あれ、今回はご馳走を取り合いしなくても、もしかして大丈夫でしょうか」
そこにガイアスがこんなことを嬉しそうに言ったので、カンターはこめかみを揉み解している。と、更に悲鳴が。
「これです、これを使うのが楽しみだったのです〜!」
叫んでいるのはミル、人間のアデラの家には、何故かシフール用の調理道具一式があり、ミルはその腕を存分に振るえると喜んでいるのだ。
サラが台所でぶつぶつ言いながら、壁際に吊るしてある香草と言うには枯葉っぽい品物をかまどの炊きつけの上に積んでいるのや、ガイアスが勝手に庭の鶏小屋から卵を回収してくるのや、ミルに頼まれたオルドがこれまた庭の貯蔵庫地下から樽を幾つも運びあげるのや、デリ母さんが手馴れた様子で鍋を取り出すのに加え、ラテリカもテーブルを拭いているとなれば‥‥
「何を手伝えば、一番お役に立つのだろう?」
家事も料理も相当得意なカンターも、黙っているわけにはいかない。ジュヌヴィエーヴは掃除に加わっていた。
そうしてしばらく。翌日使うための茶器を改めていた彼や彼女達は、あることに気付いた。シフール用の食器はあるが、さすがにオルドが使うのによい大きさで、茶器ともなるとなかなかいいものがない。
最初は手に馴染むものを使ったほうが緊張しないだろうと話していると、アニエス・グラン・クリュ(eb2949)がやってきた。
「古道具屋を巡ってみましたが、なかなかいいものが見付からなかったので」
自分で器を作ってみたと、作りかけの品物を持参している。本人に大きさを見てもらい今日中に完成させるつもりらしい。これで茶器の心配はなくなったが‥‥アニエスが山盛りの杏を持ち込んで、焼き菓子にしてくれと願っている姿を見ると、『立派なお茶会』の中身が明らかになってくる。
この後、料理担当を買って出た人々が、一体何を作るかで熱く意見を交わしていた。
お茶会前日。当日の天気も悪くなさそうなので、庭でお茶会をしようと草むしりも含めた準備をしているラテリカ、ジュヌヴィエーヴ、オルドの三人に、木工に精を出すアニエス、料理に勤しむデリ母さんとミル、カンター、それから。
「またこんなものをむしってきて。虫除けではありませんか」
額に青筋を浮かべて、家の内外の怪しげな枯葉をかき集めているサラの姿があった。
●お茶会の日
教会にラテリカとカンターが迎えに来てくれたので、ちゃんと挨拶をしてから往来に出る。と、ラテリカが抱きついてきた。
「似合うですよー、その礼服」
堅苦しい集まりではないお茶会だと聞いてはいたが、オルドは以前にカンターに仕立ててもらった礼服を着ていた。それにあわせて、カンターも礼装だ。ラテリカはちょっとおしゃれをしていたが‥‥
「今日はまだ喰い散らかすのがいないからいいけどね」
デリ母さんは彼らの服を見て、汚さないようにと念押ししてくれた。どう聞いても、優雅なお茶会の印象とは程遠い言葉だが‥‥それは、現場を見れば分かる。
「つまみ食いは駄目ですよー。ちゃんとお皿を運びましょう」
天気のよい日の木陰に設えられたテーブルの上で、料理の皿を乗せる位置を采配しているのはミルだ。シフールの彼女の下では、アニエスと、アデラの姪のシルヴィ、ルイザが料理を運びながら何かつまんで食べている。ガイアスにいたっては、杏を齧りつつ椅子の位置を直していた。
庭に出した炉でお湯を沸かしているジュヌヴィエーヴの顔色が冴えないのは、このある意味非常識な光景のせいだろう。その横では、アデラがサラに見張られながら、本日のお茶の用意をしている。
「いつもこんななのか?」
「いらっしゃい。ええまあ、いつもこんなです。気取らないお茶会‥‥ですね」
その妙な間は何? とカンターは尋ねなかった。ガイアスは一応言葉を選んでいるが、貴族階級のも催すそれでないのは確かだ。いきなりそんなところにオルドを放り込んでも、それはそれで大変なことになっただろうが。
「あらまあ。ようこそお運びくださいました。今日のお茶はサラさん選りすぐりのものばかりですのよ」
「‥‥なんにも、運んでない」
アデラがオルド達を見付けて挨拶を寄越したが、オルドにはちょっと難しかった。サラが『そういう受け止め方もありますね』と納得しているが、他の大半は『その反応違う』と思っている。
「人の家においでと呼ばれて行ったときには、『お招きありがとうございます』だよ」
「今日のところは、『お邪魔します』でも構いませんよ」
デリ母さんとジュヌヴィエーヴが促して、分かったのかどうかオルドが言われた通りに挨拶しなおしている。するとアニエスが出てきて、
「こちらにどうぞ。あんまり緊張しなくても、大丈夫ですからね」
オルドやカンターを席まで案内してくれた。アデラの姪のルイザとシルヴィもオルドの周りをうろうろしている。
そう思えば、サラが茶器を前にして目頭など押さえ。
「なんだか今日は、普通のお茶会みたいですのね」
妙な事を口走るので、一部初心者は社交用笑顔が引きつっている。そこに到着したアデラの婚約者のジョリオが、挨拶がてらに『気軽にどうぞ』と苦笑した。日頃はのんびりお茶を飲んだり、料理を食べたりする場だからと解説がついたが、これまた大半が『のんびり?』と口にしている。
お茶会の作法を学ぶ場‥‥との目的はどこかに置き去られそうな様子だが、肝心のオルドも料理の解説をミルやアニエス達からしてもらって楽しそうなので、多分よい。そういうことにして、お茶会は始まったのである。
ちなみに、アデラが頼まれたのは『お茶を飲むときの作法を経験させること』で、『お茶の淹れ方』は含まれていないことが、この時になってようやく判明したのだった。
ところで、オルドが預けられているのは教会だ。彼がお茶会にしましょうと言われて、食前のお祈りの姿勢になったので、何人かがきょとんとしている。白クレリックのサラが、その様子にまた目頭を押さえていた。大抵いつも、ここのお茶会は食べ物の奪い合いで始まるのを思い出してしまったらしい。
「お茶会の時は短いお祈りで済ませるところもあるようですよ」
やはり白クレリックのジュヌヴィエーヴが、教会式に長いお祈りをしたオルドに、アニエスやシルヴィ、ルイザのお祈りを示している。招待してくれた人に合わせればいいと説明が入ったが‥‥肝心のアデラはデリ母さんに椅子の足を蹴飛ばされ、サラに睨まれ、ジョリオにため息をつかれてから、大層短いお祈りで済ませていた。ガイアスもほぼ同様。
「いつもあんななのか?」
「前回はいただきますをしましたです」
「‥‥いつも、戦いですからね」
カンターとラテリカがこそこそ会話していると、ミルがこれまでを振り返って苦笑していた。すぐに気を取り直して、料理の解説に入ったが。
目的が『お茶会の作法を経験させる』でも、誰も難しいことは説明しなかった。オルドに色々言い聞かせても混乱しそうだし、ここで失敗してお茶会全般に対して拒否反応が出てもいけない。他人を不愉快にさせないことだけ徹底すれば、最低限の目的は達成されるはずだ。
「あ、その卵、僕が分けますよ」
「これはオルドお兄ちゃんの分よ」
「お兄ちゃん、胡桃のパンもあるのー」
「シルヴィ、ルイザ、そんなに大きな声でなくても聞こえますよ」
ミル以外の身長一四〇センチ以下の人々が、ああでもないこうでもないと騒いでいるような気がするのは、おそらく気のせいだ。あれはオルドを歓待しているのであって、ガイアスが器用に皿を抱えて、率先して料理を皆の皿に山盛り取り分けているのも、ルイザとシルヴィがオルドの両脇にやってきて、膝に乗る勢いで話しかけているのも、アニエスがそれを嗜めるように後を追い掛け回しているのも、きっと気のせい。
そう思うには、カンターの膝の上にちゃっかり座り込んだシルヴィの姿が、ラテリカにはくっきり見えていたりするのだが。
ちなみにオルドの膝の上はルイザが占拠していた。アニエスが『こら』と言いたげに、二人を見ているが、オルドがあんまりにも嬉しそうなので困っていた。
ラテリカも、山盛りの料理を差し出されて、微妙に困っている。女性に料理を勧めるのは、こうした席での若いナイトの役目のこともあるのだが、なんだか料理の量が多め。
「ここは常識外の見本市かい‥‥」
デリ母さんが口にはするが、オルドが緊張していないので一応大目に見ているらしい。隣でシフール用食器に自分が作った以外の料理を取り分けたミルが、美味しいと料理を食べている『子供達』を眺めて笑っている。
ただ、慣れている人々はいいのだが。
「もともと優雅なお茶会ではないので、本来は作法云々を言える場には程遠くて」
たまたまジョリオと隣り合わせ、挨拶や婚約祝いの言葉のやり取りをしていたジュヌヴィエーヴは目を丸くしている。『素晴らしいお茶会』のつもりが、彼女は昨日から驚き続けていた。ジョリオがそれに気付いたのか、色々と普段の様子を、知っているものからすると大分穏やかな表現で説明してから、ぽろっと言った。
「ここでなら、茶器の扱いに慣れるまでに何回落としても咎められないから、慣れてから別の所かな」
「ああ、なるほど。その節は教会の方にお願いしましょう」
ここで納得していいものやら、端で聞いていたデリ母さんやミルもちょっと考えたのだが、確かに今回はオルドの茶器をアニエスに用意してもらえたが、ナイフやスプーンなどは人間とシフール用しかなかったので、時々取り落としている。必ず彼に合うものが出てくるとは限らないし、人と会話しながら飲食する時の作法は、皆が実践しながら教えてくれているようだ。
「口に物を入れたまま、話をするのはいけません」
「だから、こういうところではちょっとずつ口に入れるんですよ」
そんなことをやっている横では、ラテリカがどうやったのかカンターに椅子を寄せて、シルヴィと肩で押し合う形になっているのだが‥‥さすがにこれはジョリオが未来の姪を引き取りに行った。
この間、アデラはサラに相変わらず見張られながら、お茶を淹れていた。最初はさっぱりした味わいの、あまり口に味が残らない香草茶だ。
「そういえば、アンジェットお義母さんが、冷たい果汁や香草茶も用意してくれてありますよ〜。後で甘いものの時に出しましょうね」
ミルが忘れたらいけないとデリ母さんがフリーズフィールドで冷やしておいてくれたものを皆に知らせている。その前にはもちろんアデラのお茶があるのだが。
「ああ、これは料理の味を惑わせない、いい味だね」
「なるほど。そうなのですか」
なにやら落ち着いた様子のカンターとラテリカが、振舞われた茶の味を堪能していた。オルドが音を立てて飲むので、さりげなく静かにと言い聞かせてもいる。
この感想に、サラがまた目頭を押さえていたりするのだが、アデラが一度使用した茶葉の上にまたお湯を注ごうとしたので手が素早く動いた。ぺしっと小気味よい音がしたが、それが何かは見ても知らぬ振りをするのが賢明だ。
「このお茶はすぐに葉が開くから、自分で飲むときも一度で変えてくださいと、あんなにお教えしたはずですわよね、アデラ様」
「あら、茶葉を変えてませんでしたわ」
何かが渦巻いているように見えるかもしれない一角はさておいて、料理を楽しんだアニエスがシルヴィにリュートを聞かせてくれと頼んでいた。そこから。
「‥‥‥‥今回は、アンジェットお義母さんにお砂糖を分けていただいて、ジャパンで食べたお菓子を出来るだけ再現してみたのです」
と、ミルが本日一番のお勧めお菓子を出してくれるまでの間に‥‥
滑らかな板壁を爪で引っかいたような音とか。
その音で生じた姉妹喧嘩の声とか。
同じ楽器とは思えない耳に心地よい旋律とか。
聞き苦しい旋律とか。
バード三人の悲鳴のような声とか。
結局また、滑らかな板壁を‥‥
色々と繰り返されたのである。
「魔法の勉強はしてるの」
バードのシルヴィが胸を張って言っていたが、お菓子を配っているミルの顔からは少し生気が失われている。危ないので、デリ母さんとジュヌヴィエーヴが手伝っていた。ラテリカも同様の状態でカンターとガイアスに心配されている。
頼んだアニエスは、『へたっぴ』と叫ぼうとしているルイザの口を押さえて、やっぱり生気がちょっとばかり欠けていた。オルドは律儀に、拍手をしている。
「あら、間違えてしまいましたわ」
「淹れ直してくださいましね、アデラ様」
ここでサラがアデラを見ていなかったら、更なる衝撃が一同を襲うはずだったが、幸いにしてその危機は回避されたようだ。
しみじみと、甘いお菓子を食べる幸せを噛み締めた一同だった。
オルドにお茶会のお作法を教える集まりは、予想外の出来事に見舞われつつも、オルドが木いちごの蜂蜜漬けをお土産に貰って、幸せそうに帰っていったので良しとされている。多分。
●片付けの日
普通はここまで手伝うことはないのだけれどと、教えてもらったが、オルドは片付けにも来ている。当然他の八人とジョリオも揃っていた。いないのは、この家の住人ばかり。
「いつだってそうだけど、何を手伝えばいいかって尋ねてくれれば、お互いに仕事がはかどって、会話も弾むし、得意な仕事が出来るだろう」
それを忘れないようにとデリ母さんに言われたオルドは、『カンターがおととい言ってた』と呟いてから、頼まれた力仕事をジョリオとこなしている。
後はめいめい、デリ母さんとミル、ジュヌヴィエーヴが台所を片付け、ガイアスとアニエスは庭の掃除をして、カンターとラテリカは畑の作物の面倒を見ている。
サラだけは、一晩の間にまた摘んできてあった雑草を、かまどに放り込むのに忙しい。