森の中の一軒家に、罠

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 93 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:08月07日〜08月14日

リプレイ公開日:2006年08月16日

●オープニング

 罠を作って欲しいと、その老人は言った。エルフの、枯れ木のように細い老人だ。
「いかような目的のものか、お聞かせ願えますか」
 こんな吹けば飛ぶようなじいさまに罠ってどういうことと言う気持ちは綺麗さっぱりと隠した、冒険者ギルドの受付係は生真面目な顔付きで問いかけた。
 だが。
「ふむ、話せば長いことながら‥‥」
 こう聞いた途端に後悔した。こんな断りつきで話し始めるご高齢者の話が短いはずがない。目的だけ話してくれと、慌てて言い募ること十回を越えた頃になって、ようやっとじいさまは目的を短く話してくれた。
「孫を懲らしめたいのじゃ」
 要するに、このじいさまの孫娘が大変なお転婆で、冒険者になって立身出世し、いつかプランシュ騎士団のヨシュアス・レインの妻に納まってみせると思い描いているらしい。ちなみにじいさまはパリから徒歩二日ほど離れた村の単なるじいさまで、貴族でも騎士でもない。騎士団長の嫁なんぞ、まずありえないと考えているようだ。
 それに、問題の孫娘は『冒険者になる』と言いはするもの、そのためにお金を貯めようとか、弓の腕を磨こうとか、魔法を覚えようなどとするわけでもなく、口先ばかり。母親がおろおろしているのを見ても、わがままを引っ込めるでも、努力するでもないので、じいさまは一つ懲らしめてやろうと考えたのだ。
「そのために、罠ですか」
「うむ。わしの家は隣と山一つと半分、離れておってな。人が入らん場所なら、罠の三つや四つあっても平気じゃ。さすがに大怪我をしては困るので、脅かすようなものを仕掛けて欲しいのじゃよ」
 幾ら孫娘の我侭が過ぎるからと、そこまでやるか‥‥などとは、受付係は言わないし、思いもしない。時々いるのだ、こういう人は。
「罠を仕掛けるだけでよろしいですか? いかに大変な仕事かを話して聞かせるってのも出来ますよ」
「ふうむ‥‥いや、名のあるお人と知り合いでもして、孫がそのお人を頼って出て行きでもしたら困るからのう。孫はまだしばらくパリにおるので、帰ってくる前に一仕事してもらいたい」
 それはもしや、冒険者の男に目的を変えて家出されたら大変とか思っているのでは‥‥と受付係は考えたりしたのだが、まあ、そういう話もたまに聞いたりするので口にはしなかった。
 先程のあれこれ寄り道した話の中で、話題の孫娘の姉が、村に出入りしていた商人の息子といい仲になって結婚し、パリに住んでいると言っていた。多分同じことが起きたら嫌だと、じいさまは切実に思っているのだ。
「では、おうちの裏あたりに罠を三つか四つ、まあ広さによってはもう少し仕掛ければよろしいですね。食事などはどうしましょう?」
「おお、飯か。行き帰りの分までは面倒は見られんが、うちにいる間なら、好きに狩りでも木の実拾いでもしてくれて構わんぞ」
 全日程飲食自己負担と依頼書に書き添え、受付係はまた尋ねた。
「狩りって、何が取れます?」
 これでモンスターが出て、冒険者が危ない思いをするのでは大変なのである。
 けれども、じいさまは腹芸とは縁がないようで。
「兎、野鳥、時々鹿や猪かのう。熊は五年前に見掛けたきりじゃ」
 モンスターとは縁のない話らしい。

●今回の参加者

 ea2816 オイフェミア・シルバーブルーメ(42歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3233 ブルー・フォーレス(26歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea5803 マグダレン・ヴィルルノワ(24歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea5886 リースス・レーニス(35歳・♀・バード・パラ・ノルマン王国)
 ea9933 バデル・ザラーム(32歳・♂・ナイト・エルフ・インドゥーラ国)
 eb5363 天津風 美沙樹(38歳・♀・ナイト・人間・ジャパン)
 eb5698 三笠 流(26歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ガイアス・タンベル(ea7780)/ リュヴィア・グラナート(ea9960)/ アニエス・グラン・クリュ(eb2949)/ セレスト・グラン・クリュ(eb3537

●リプレイ本文

 集まった八人の冒険者を前に、依頼人のじいさまはホクホク顔だった。これだけいれば、孫娘を十分に懲らしめられると大喜びしている‥‥はずだが、マグダレン・ヴィルルノワ(ea5803)が道中の食糧を買い足すついでにと、じいさまの好きなものも買ってくれたからかもしれない。
 この時、一緒に買い物をした仲間もいるのだが、何も買わないのにマート・セレスティア(ea3852)は保存食を大量に背負っている。足は達者なじいさまが、見兼ねてマグダレンの馬に自分より荷物を載せてやってくれと言ったくらいだ。
「皆の分も持ってきたような勢いじゃのう。坊はよい子じゃ」
 じいさまはご機嫌に勘違いしているが、一度でもマートと一緒の仕事をしたことがあれば大抵は知っている。彼がその保存食の山を『自分のためだけ』に持ってきたことを。
 それはさておき、依頼を無事完遂するためには、『悪戯』の相手である孫娘について、多少ではなく情報が欲しいのだが、ブルー・フォーレス(ea3233)が歩きながら尋ねたら、じいさまは聞こえなかったらしい。二人の間には、ちょっと距離がある。それで中間地点にいたバデル・ザラーム(ea9933)が尋ね直したが、これまた返事なし。そんなに耳は悪くないはずだと、不思議に思いつつすぐ横にいた三笠流(eb5698)がもう一度尋ね‥‥そろそろ、皆も気付いた。
「おじいちゃん、そんなにつんけんしなくても、この人たちはあたし達と一緒に帰るから心配ないわよ。怪我させないように、知りたいだけなんだから」
 オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)が取り成して、じいさまはようやく説明してくれた。なんのことはない、孫可愛さに男性陣の下心を疑っていたらしい。しかしながら、同族のブルーとバデルも孫娘が四十歳ちょうどではそれほど魅力的とは思わなかったようだ。
 話を聞きつつ、パラのリースス・レーニス(ea5886)は指折り計算して、孫娘がパラだったら何歳に見えるか考えているが、天津風美沙樹(eb5363)の方が計算は早かった。人間でだいたい十三歳前後、パラの場合はマートやリーススのような年齢不詳が多いので、考えるだけ無駄である。と、シフールのマグダレンはちょっと思っている。男性陣も考えは色々だろうが、苦笑気味だった。
 種族差はさておき、この中では一番年嵩に見えるオイフェミアは、じいさまに『頼りにしておるよ』と、現地にいない孫娘保護の大任を負わされていた。普通に仕事をすればいいはずだ。
 ちなみに孫娘は身長が一五〇センチ、細身で、割と手足が長く、髪は肩口で切りそろえているらしい。左利きで弓を使う猟師だそうだ。これだけ分かれば、まあ、罠を仕掛けるのには問題ないだろう。後はマグダレンが服の趣味など聞いているが、これは道中の世間話だと当人以外は思っていた。
 元は猟師だというじいさまは、野宿も慣れたもので連れて歩くにはそれほど問題はなかった。あるのは、男性陣を微妙に警戒していることだが、まあ、石を投げてくるわけでなし気にすることはないのである。

 そうして、二日あまりで辿り着いたじいさまの家は、見事な山の中の一軒家だった。家の周りにちょっとばかり畑があるが、隣の家からは獣道に毛が生えたような細い道しかない。そこにいきなり冒険者が八人も押しかけたので、じいさまの息子夫婦は大層驚いたが、マートとリーススとブルーとバデルは興奮を隠し切れない。パラ二人は『これは楽しそう』と半ば仕事を忘れそうな勢いで、ブルーとバデルは『いい物が獲れそう』だ。
「軒先を貸していただければ、別に何も不自由はありませんから」
「突然すみません。馬の世話もちゃんとしますから」
 人は八人、馬だけで五頭もいるし、他にも犬と隼が鳴き交わしている。マグダレンと美沙樹が挨拶ついでに事情も説明すると、息子夫婦も納得して、じいさま達も一緒の雑魚寝になるが部屋を開けてくれると言った。
 それから、ブルーと息子が狩りに出掛け、バデルは下見だと言いおいて、間違いなく香草摘みに出かけて行った。マートとリーススは下見と言いつつ、見付けた草の実を食べていて、オイフェミアは掘り返してもよいと許可を貰ったあたりの土を調べ始めている。こうなると、マグダレンと美沙樹と嫁さんが家の片付けで、三笠はじいさまの昔話の聞き役になっていた。この大役は彼かオイフェミアのものである。単にこの二人が、じいさまのお気に入りなのだ、話を聞いてくれるから。
「落とし穴とか、まだ掘らなくていいのかな?」
「やっぱり、ご飯の都合をつけるのが先だよね」
 全員自分の分の保存食は持っているのだが、今回の料理長ブルーが『美味しいものを食べて、力をつけて欲しい』と願っている以上は、マートの言い分のほうが正しいことになるのだろう。
「わしには子供が十人おってな。孫は六十三人じゃ。孫の子供も八人に増えよってのう」
 マグダレンと美沙樹が頼まれて畑の作物の収穫をしている時には、奇妙に黄昏た三笠が、じいさまの家族自慢を聞かされているところだった。若いのに、背中に哀愁が漂っている。
 その向こうでは、オイフェミアが土に水を混ぜてこね始めていて、リーススとマートがその様子を眺めていた。今にも悪戯しそうだが、今のところ耐えている。
 やがてバデルが籠いっぱいに食べられる植物を摘んで帰り、ブルーは罠に掛かっていた兎を回収して戻ってきた。兎の旨味が増す頃、彼らの仕事は終わるはずである。

 次の日。
 ブルーは朝から森に出掛けて、色々採取している。大半は食べるもので、時々落とし穴に入れる草の実や汁気が多い枝などだ。しかし、食べ物を集めては加工したり、料理したりと忙しい彼がいつになったら落とし穴を掘れるのかは謎である。何しろ彼の食事を待っている冒険者と、じいさまとその家族が総勢十名。
 この家の主婦は、台所をブルーに明け渡して、日頃は出来ない細かい掃除や繕い物にいそしんでいる。
 その横ではマグダレンが手持ちの布に貰ったはぎれを足して、布製の花飾りを作っていた。彼女は仕立て屋なので、余り布でも十二分に見栄えがする飾りがこさえられる。きちんと孫娘の好みを聞いて、彼女が欲しがりそうなものを作っていた。これを餌‥‥いや、ご褒美にして、罠に挑戦するよう仕向ける予定だ。
 本物の花を集めているのはリースス。森の中をうろうろして、時折道に迷ったのか同じところでぐるぐるしているが、借りた籠にいっぱいの花を摘んでいた。
「本人がいたら、ファンダズムでドラゴン出してみせてあげるのにー」
 彼女が森で行方不明にならないのは、大声で歌っているか独り言を言うからだ。
 この大声を基本に森の中を進んでいるのは、バデルである。彼もなにやら色々集めているが、現在は狩猟のための罠を仕掛けていた。腕のよい料理人がいるので、美味しいものが食べられるように働いているのだ。そのため、人の声が届かないところで作業。これらの罠は、孫娘が帰ってくる前には外しておくのが礼儀だろうとも考えている。
 家の軒下で、虫に囲まれているのは美沙樹だった。正確には、糸くずと葉っぱや木の皮、その他諸々の不要物で虫のようなものを作っているのだ。孫娘は猟師の仕事をしているから虫が嫌いということはなかろうが、大量に降ってくればびっくりするだろう。そう企んでいるのだが‥‥一部作品は、誰かの馬に齧られている。
 作品と言うなら、オイフェミアがもっとも大掛かりだった。土をこねて円盤状の塊を幾つも作り、真ん中に穴を開けている。何か物足りなかったようで、平らな部分を色々と削って模様を入れてから、ストーンをかけた。立派な石の加工品の出来上がりだ。それから持ってきた箱の蓋の細工に取り掛かり、今度は大層手の込んだ模様を彫り入れている。
 横で、マートが楽しそうにその様子を眺めていた。
 皆がそうして過ごしている間に、三笠はと言えば。
「結婚するなら早いほうが良いぞい。そしたら孫の顔もたくさん拝める」
「なるほど‥‥しかしだな」
 じいさま相手に、なにやら人生相談をしていた。若いのに、子供の話だ。
 なにやらこうして、あっという間に日が過ぎ、依頼の最終日になっている。
 この日になって、数名が計画に欠点を発見した。
「わしら、一人も字は読めんのじゃよ。これだと分からんのう」
 なにかありがたい言葉でも書いてあるのかと、リーススやマートが字を書いた板切れを覗いて、じいさまは物珍しそうにしている。冒険者はほとんどがある程度の読み書きが出来る、ないしは相当読み書き達者な者も少なくないが、確かに普通に山村で暮らしていれば文字は余り必要ない。じいさま達はまったく読み書きと縁がない生活をしているので、警告の文面も『聖書の言葉』と嘘をついたら信じてしまうだろう。
 仕方がないので、そこの部分は変更して、簡単な図面にするか、息子夫婦に言付けるかしておくことにした。
 あとはオイフェミアが。
「お金の詰まった箱が隠してあるからって言ってね」
 とじいさまにお願いしたら、笑われたのだ。そんなものがあるなら、とっくに自分の家に持ち帰っているし、村の誰も箱いっぱいの金なんて拝んだことがないのだから、思わず笑ってしまったらしい。日頃現金を使わないで暮らしているのも、山村にはよくある話だ。ただこちらは、オイフェミアが作った箱が見事な出来栄えだったので、それが宝物でいいのではないかと話がまとまった。仕上げのストーンは、後日家まで運ぶのが大変だから止めてくれと、願われたが。
 そんなことはあったが、順次罠の作成である。ご褒美のオイフェミアの箱と、マグダレンの作った飾り、それに持って来たヨシュアス卿の肖像画を濡れないようにした場所に隠して、その周辺に各自思い思いの罠を設置する。とはいえオイフェミアは『宝物が単なる箱と石ってのが罠』と、皆の代わりに木の実の採取に出掛けた。マートはいつの間にか、姿を消している。
 罠の基本は落とし穴。三笠は他の人達が罠を仕掛ける場所のすぐ横などに、せっせと落とし穴を掘っている。彼が掘るのは子供時代を思い出しての、それほど手は込んでいないものだ。相手は駆け出しかもしれないが猟師だから、これには間違いなく引っかからないだろう。けれどもそれを避けようとした時に注意を怠ると、別の罠にすとんとはまる仕掛け‥‥なのだけれど。
「ついて歩いてくるのは、危ないぞ」
 彼が作った罠にいきなりはまったのは、じいさまだった。話し相手を求めて、うろついていたらしい。
 手の込んだ落とし穴を掘っているのはブルーだった。明らかに猟師の腕が孫娘より上の彼が掘る落とし穴は巧妙だ。挙げ句に中には馬の糞が落としてある。危険性は低いが、この上に落下した際の気分は最悪との効果を彼は狙っていた。
 後は罠の下を通ると、上から草の実が降ってくる罠。髪はそれほど長くないし、くせも少ないと聞いたので、多少絡まっても大丈夫だろうと通称ひっつき虫の類を用意した。服につくとはがれなくて苦労するあれだ。
「そろそろおやつを用意しないと騒ぎますね」
 仕事をしている彼を邪魔するのは、食欲魔人の空腹を訴える声だった。ブルーには、これが無視できない。
 バデルも一つ落とし穴を掘ったが、そればかりなのも芸がないと、あちこちの草を結んで歩いている。まさに子供の遊びだが、まさかこんなことをしているとは思わないだろうと、裏をかいてみた。ちゃんと足元に注意していれば、これはまず引っかからない類だし、これに引っかかるようなら冒険者には向いていないとじいさま達も断言できるだろう。
 さすがに転んで顔でも打ったら可哀想なので、転げそうな方向には他から抜いた草を置いて柔らかくしたり、集めた葉を撒いたりしてある。その中に木いちごを入れて、服にしみが出来るようにしたのは悪戯心だ。本当の依頼だと、これが毒の場合もあると息子夫婦に念押しは済ませた。ところが。
 マグダレンは一人で何か設置するのは至難の業なので、リーススと美沙樹の三人で罠を仕掛けていた。高いところがマグダレン、力仕事は美沙樹、下のほうはリースス担当で、浅めの落とし穴と、張った糸に引っかかると上から虫もどきや花が降ってくる仕掛けをした。花は間違いなく枯れるだろうが、まあ今の段階では綺麗なものだ。
 落とし穴の中には、柔らかい草と葉っぱを敷いて怪我をしないように、振ってくるのも本物の虫だと準備するほうも気持ちが悪いので偽物で揃えて、準備万端である。
 安全のために、じいさまと息子夫婦に罠の場所と種類を説明して、うまい具合にその気にさせてくださいねと三人でというか、美沙樹とマグダレンが言い含めていると、リーススがにぱっと笑顔で。
「ちょっと森で遊んできていい? 向こうにね、木いちごの木があったの」
 返事も聞かずに飛び出しかけて、見事に転んだ。どうもバデルの仕掛けた『草を結ぶ』に引っかかったらしい。
「あらやだ。それって、この程度に引っかかるようじゃ、冒険者は出来ないぞって言うための罠よね」
 鼻の頭をさすっているリーススに、美沙樹の素直すぎる言いようは救いがない。じいさま達もどうしたものかと思っているようだが、『うちの孫も冒険者になれるかも』とは言わなかった。代わりに。
「色々ありますけれど、それでお孫様がすねてしまって、おじいさまを嫌われることがあるとしても、わたくしどもは責任取れませんわよ?」
「大丈夫じゃ、おまえさんが作ってくれたものがあれば、絶対機嫌は直る」
 簡単に断言されて、忠告した甲斐のないマグダレンの前では、リーススが転んだ拍子に見つけた花を、美沙樹と愛でている。
 何かほのぼのとしてしまった依頼は、その日の夕飯も豪勢に食べて終わりかと思いきや。
「身長に比して、穴が浅いから危ない。臭いがつくものは、猟師の仕事するのに不便だから駄目。こっちの罠は網を被るのだから平気。これも偽物だから大丈夫。あ、木いちご見っけ。ん、ここの草地は転んでも平気だね」
 夜中に、マートが全員の罠を確認して歩いて、危険なものは片端から外したり、見えるようにしたりと細工をしていた。臭いがつくものも、ぽいぽいと他所に弾いている。
「ま、こんなもんかな」
 ある意味腹の立つやりようだが、彼は見かけによらずレンジャーらしい隠密行動の達人だった。けしてつまみ食いだけが得意なのではない。そうは見えなくても、隠密行動がものすごく得意で、罠を仕掛けるのも当然その筋の玄人だ。
 彼が手を入れたので、罠は間違いなく安全で、でも引っかかると嬉しくないものになっていた。
 後は。
 六十三人いたって、一緒に住んでいる孫が一番可愛い孫馬鹿のじいさまに、皆が『村の外を知るのも大事だよ』と忠告はして、旨味を増した兎の肉を手土産に帰路に着いたのである。
 もちろん、兎の肉はパリに着く前に消費されてしまった。