開拓計画〜土地を拓く

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月13日〜08月23日

リプレイ公開日:2006年08月22日

●オープニング

 現在キエフに居を構え、キエフ近郊の開拓を行っている貴族の一人、カルシーファ・アルドスキーは息子や部下達を揃えて、今後の計画を確認していた。カルシーファは九十歳程度のハーフエルフだ。眉目秀麗とはいかないが、いささか頑健な作りの顔は美形と称して問題なく、体つきにも弛んだところは欠片も見受けられない。
 しかし、国全部がハーフエルフで構成されているのではないから、もちろんその場には人間やエルフ、ジャイアントにドワーフもいた。それでも半数はハーフエルフだ。
 このほぼ全員に共通しているのは、高い教育を受けた人々で、地位にも拠ろうが自信に満ち溢れた様子であることだ。ただし、末席で報告書を読み上げている一人は、上擦った声で落ち着かない。報告書を読み上げるだけのことなのに、何度言葉に詰まったか、数えるのも馬鹿馬鹿しいほどだ。
「予定された事業に加えて、も、木材の加工の下準備も終わりました。つ、次は、道の整備か、あの、予定地のば、伐採です」
「ユーリー、おまえはどちらが先がよいと思う」
 カルシーファに問いかけられて、報告を終えたばかりのハーフエルフ、ユーリー・ジャジュチェンコが手にしていた羊皮紙をばさばさと取り落とした。その横に座っていた書記が見兼ねた様子で拾ってやり、ユーリーはあのそのと繰り返してから、ようやく返事をする。それでも声がひっくり返って、甲高くなっていた。
「もも、木材の乾燥期間を考慮して、予定地の、伐採で、です」
「反対意見は?」
 重ねての問い掛けは全体に対してだが、皆、ユーリーの態度にやれやれといった面持ちで、でも反対はない。一つ意見が出たとすれば、エルフの男性が。
「現場の責任者は、別の者がよろしいでしょう。この報告書を見ても、結局雇い入れた者が全部代行しているようですから」
 椅子の上で小さくなっているユーリーを横目に、進言した。これには場の雰囲気も同調気味だ。ただし、上座の四人以外。
「だが、それなら誰が行ってくれる? ユーリーより巧みに伐採の計画が立てられるなら、誰でもよいとは思うが」
「いや、長兄殿。今回は決まった地域の伐採ですから、監督が出来れば問題ありません。森を歩くのに慣れた者が適当ではあるでしょうが」
「当てこすりはよしましょう。私が行きます。これも経験のうち、父上のお許しがいただければ」
 他の誰が口を挟む暇もなく、当主の次男が名乗りを上げてしまい、他の者が功を得る機会が失われた。カルシーファが是と頷いてしまったからだ。
「ユーリーを同行させよ。幾ら代官見習いであっても、その性格は許しがたい。半年の猶予をやるから、速やかに改善しろ」
「は、はいっ」
 ユーリーは必死の面持ちで頷いたが、カルシーファの息子達はお互いに顔を見合わせていた。それより下座に座る面々の表情は、色々だ。
 でも一様に『無理なんじゃないか』と思っていることは、明確である。
「ではイヴァン、今回はおまえに任せる。次、トリスタの養女二人について、報告しろ」
 こちらが本日の本題だと、暗に言ってのけたカルシーファが、息子の一人を促した。そうして話題は移ろう。

 しばらくして、キエフの冒険者ギルドに開拓に関わる依頼が張り出された。

『新規開拓地域の、木材伐採を主目的とする仕事。
 募集するのは、全体責任者の補佐と労役領民の監督。また全体の食事準備を中心とした日常雑務を請け負う者。それぞれ若干名。他に肉体労働に従事可能な者も応募可能。
 全日程の食事支給、酒類自前。報酬は金貨一枚確約。応募者の技能、働きにより増額あり』

「要するに、新しく村にする場所を切り開くんで、仕事が出来る人募集と言うことね。責任者はイヴァン・アルドスキーさん。貴族の跡取り息子さんね」
 けして難しい仕事ではないが、怠け心があると大変な目に合わされる可能性があると、冒険者ギルドの女性は保障してくれた。

●今回の参加者

 ea1872 ヒスイ・レイヤード(28歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ea2181 ディアルト・ヘレス(31歳・♂・テンプルナイト・人間・ノルマン王国)
 ea4104 リュンヌ・シャンス(36歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea9740 イリーナ・リピンスキー(29歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0311 マクシミリアン・リーマス(21歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb4341 シュテルケ・フェストゥング(22歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 eb5624 ミランダ・アリエーテ(45歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

クリステ・デラ・クルス(ea8572)/ ディグニス・ヘリオドール(eb0828

●リプレイ本文

 集まった八人の冒険者の半数は、依頼人から派遣されたイヴァン・アルドスキーとユーリー・ジャジュチェンコのどちらかを見知っていた。ディアルト・ヘレス(ea2181)とシュテルケ・フェストゥング(eb4341)はイヴァンと、イリーナ・リピンスキー(ea9740)とミランダ・アリエーテ(eb5624)はユーリーと、依頼で一緒だったことがあるからだ。
 他の四人もイヴァンやユーリーと面識はなくても、ヒスイ・レイヤード(ea1872)とジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)はエルフらしく森に詳しかったし、リュンヌ・シャンス(ea4104)とマクシミリアン・リーマス(eb0311)は猟師の腕がある。先の四人もそれぞれに特技があるので、作業が進みそうだとイヴァンは喜んでいたのだが。
「イヴァンさん、開拓なんかするんだ」
 そういうことはしなさそうとシュテルケが口にすると、一緒にいたユーリーが上向いた。上を見ても空しか見えないが、冷静に突っ込んだのはイリーナだ。
「ユーリー、言いたいことがあれば、きちんと言え。それとシュテルケ、せめてもイヴァン殿と言わないと、後々苦労するぞ」
 依頼人の息子で貴族なのだからと指摘されて、シュテルケ以外にリュンヌとミランダがそうかと納得していたりする。労役で四十人もこの時期に集められるのだから、それなりの領地があるのだろうと考えているのがディアルトで、マクシミリアンとヒスイはしげしげとイヴァンとユーリーを観察している。ジェシュファは至極ごもっともと、イリーナの言い分に全面賛成の態度だった。
 この間に労役の四十人を観察しておこうとしたディアルトの友人のディグニスは、その大半が途中で合流だと知らされていた。さすがに五十人からの大所帯なので、必要な物資を運ぶための十人ほどがいたが、彼らは顔付きからして生真面目で働き者だ。
 それでも、ヒスイを見て『あの人は男らしいぞ』と囁きあい、背筋が凍るような笑みを向けられて逃げ腰になっていた。

 残り三十人の労役の男達と無事に合流し、一同はさしたる問題もなく開拓予定地まで到着していた。そうして五十人は、予定地の一角、川岸にひとまず腰を落ち着けた。さすがに全員がゆったり座るほどの場所は整地されておらず、川べりにいるか、木々の間だが。
「クリエイトウォーターはいらないようだね」
 移動中はその魔法で、水汲みの苦労を軽減してくれたジェシュファが香草を分けながら、のんびりと口にした。彼と車座を組むようにして、大量の野菜と格闘しているのはヒスイとイリーナ、ミランダ、リュンヌだ。ジェシュファは到着早々に現場の下見に出たディアルトやマクシミリアン、シュテルケにイヴァンやユーリーと共に出掛けたのだが、香草類を摘んで先に帰ってきている。
 ある意味彼はマイペースなだけだが、他の四人はそうはいかない。前回ゲルマン語は片言も満足に操れずに苦労したミランダは、必死に勉強したようで難しい言い回しでなければ皆と意思疎通が出来るようになっていた。それで何をしているかと言えば。
「皮むき、終わりました」
「それじゃあ、こっちの籠をお願いね。ああ、久し振りに国に帰ってきて、やることがこれだとは思わなかったわ」
 女性陣にすっかり溶け込んでいるヒスイの指示を受けながら、料理の下ごしらえをしているところだった。ヒスイも料理の腕は人並み以上なので、イリーナと共に材料を見て、五十人分の食事をどうするか決めている。二人とも、『美味しいものを食べさせる』ことにかなり熱心だった。そのための調味料をイリーナが買い足してきたので、二人で何をどう使って、味を変えたものを作るまで考えていた。
 おかげで移動中もそれなりのものが供されていたのだが、物事は徹底するときりがない。ためにリュンヌは黙々とパンの生地をこねていた。それも大量に。彼女はおしゃべりを好む人ではないと、ここまでの移動で皆が察したので、あまり相談も要らない仕事を回されている。幾らなんでも一人で五十人分のパンを毎食こねられないから、あくまで添え物程度だ。後はカーシャなどに、肉と野菜の煮込みがついたり、香草茶が加わったりする。
「リュンヌ、火の準備が出来たから、生地を寄越してくれ」
「‥‥」
 丸太を輪切りにして、盆のように使っているものに焼くだけにした生地を乗せて、リュンヌがイリーナに差し出している。悪気はまったくないような女性だが、本当に無口だ。あまりに無口だからか、ミランダが長い髪を毎朝編んでも文句がなく、好き放題に髪形を弄られていた。
 男性陣には、日々女性陣の姿が変わるのは、ひそかに好評のようである。

 そして男性陣は、ひたすらに香草、薬草の類をむしるのに熱中してしまったジェシュファはともかく、他の者は聖地場所の確認に勤しんでいた。とはいえ四十何人でうろうろしても仕方がないので、労役の面々は荷物をほどき、間違いなく伐採する木々の切り倒しに入っている。
 だからディアルトとマクシミリアン、シュテルケにイヴァンとユーリーが現地を歩いて、予定地の確認をしているのだが、こちらは問題山積だった。
「代官見習いと言うからには、人を使うことを覚えていただかねばならないのだが」
「そういう風に詰めると、逃げられるよ」
「子羊みたいだな」
 労役の四十人には、何名かあまり真面目ではなさそうなのが混じっていたが、作業の班分けをする際にディアルトが一人ずつにばらして、サボりにくいように手配した。
 現地の確認は、マクシミリアンが道を作ってくれて、たいした苦労もなく一帯を見て回っている。彼はおおまかな地図まで描いていた。
 シュテルケは元が農家の息子だとかで、今回の伐採予定地の端まで来てから、その先の土が麦の栽培に良さそうだとか、あの辺りは果樹が向いていそうと言い出した。これがマクシミリアンの地図に追加されて、最初は板だったものがけっこうな資料になっている。
 しかし、この場にいないといけないはずのユーリーはいつの間にか姿を消して、伐採予定の木に印をつけて回っている。それはこの場の四人に、ジェシュファやヒスイの森と植物に詳しいエルフ達が見ても文句のない伐採予定だったが‥‥
「会話が成立しないのでは、代官、責任者にはなれん」
 人付き合いが苦手な相手だからと、細かく気を配っていたにもかかわらず逃げられてしまい、ディアルトは次の手を考えている。ユーリーが書いた書類などを見ると、知識、計画立案共に代官として十分なのだが。
「打ち解けないんだよね。猟の話をしても、あんまりのってこないし」
「やはり、実家に遠慮があるか」
 マクシミリアンもどうしようかと口にしたところで、イヴァンが不意にそんなことを言った。聞いた三人が何事かと思えば、随分と簡単に。
「実家は代々我が家の代官職にあるが、今の当主はユーリーに跡を継がせたくないんだ」
「他の息子のほうが可愛いとか?」
 どうしたところで言葉遣いが劇的には直らないシュテルケが、呆れ果てたと言いたげに口を挟んだが、イヴァンはそんな彼を見てちょっと悩んでいた。しばらくして、男同士だからいいかと一人で納得している。
 神聖騎士の二人は、察したくはなかったがなんとなく察してしまった。
「ユーリーの実家の当主は、エルフの入り婿だ。その妻もエルフだが、子供が生まれたらハーフエルフだった。だから当主はユーリーを人前でも平気でいびるぞ」
 妻のほうは代官の仕事を継がせるつもりで、相当厳しくユーリーを教育させた。それで仕事の能力はあるのだが、性格はああ出来上がったらしい。おかげで役立たずと実家から冷遇されていたところがイヴァンの父親の目に留まり、この仕事を割り振られたそうだ。
「人に射られたことがある兎を手なずけるより大変かも?」
「仕事を受けたからには、全うする責任を自覚してもらいましょう。‥‥ゆっくりと」
 やれやれと首を振っている神聖騎士二人を前に、シュテルケは大変だなぁと思っていた。

 責任者『達』の下見が済んだ翌日から、伐採が本格化した。村の予定地は周囲に比べれば実のなるような木も少なく、ジェシュファが有益な植物はほとんど回収した。
 ゆえにひたすら切るだけだが、安全に配慮して、班毎にきちんと作業する必要はあった。本来責任者は、作業の手順を指示しなくてはならないのだが‥‥ユーリーには無理。イヴァンが出ると労役の人々が緊張するので、ディアルトが采配する。マクシミリアンとシュテルケも、作業に加わっていた。
 問題のユーリーは、まず絶対に逆らえないイヴァンに命令されたので、ディアルトの隣に立っている。相変わらずフードつきのマントを頭からすっぽりで、真下を向いているが、とりあえずは隣。ディアルトは話を聞かせるところから始めたらしい。
 その様子に笑いを堪えつつ、シュテルケは元気に借りた斧を担いで、自分の作業場所に向かっていた。彼がご一緒するのは、見た目で三つ、四つから四回りほど違う労役の人々六名だ。七人一組で、一度に三本程度を倒し、枝を払って決められた場所まで移動させる。力仕事だが、それほど難しい仕事ではない。
 マクシミリアンも同様に、見た目は同年代から父親ほどの年代までの六人と一緒に働いていた。労役に回ってくるハーフエルフは少ないからか、周囲は彼に対して丁寧な態度だ。マクシミリアンに発破を掛けられて、せっせと働いている。
 この頃、伐採本数一等賞を目指すシュテルケは、自分の班の作業が他所より遅いことに気付いていた。はてと皆を見るが、全員健康そうだ。遅れる理由が分からない。
 別の場所では、マクシミリアンとシュテルケ合作の地図を前に、イリーナ、ヒスイ、ジェシュファがイヴァンと話し込んでいた。全員専門知識があるわけではないが、それぞれの経験や立場から開拓地作りの相談をしているところだった。素案はあるが、現地でなければ分からない細かい問題点を洗い出している。
「井戸の位置は少し奥がよいのではないか? 大雨でも降って増水した折に、やられてしまってはことだからな」
「確かにね。このあたりの春先の増水がどのくらいかも調べたほうがいいわよ」
「それは調べた上での決定だ。だからここが空き地になる」
「空き地に、丈夫な香草を選んで植えつけたらどうだろう」
 イリーナは村の中のこと、ヒスイは周辺の森との兼ね合い、ジェシュファは相変わらず薬草類の話を出して、イヴァンがそれを聞いているのだが‥‥そこにディアルトがユーリーを引き摺ってやってきた。彼にしては珍しく険しい顔付きだ。
「どうした? ユーリー、幾ら気詰まりでも仕事なのだから、用件はイヴァン殿の手を煩わせずに説明できなくてどうする」
「まあまあ、いつもそんなこと言うと萎縮するから。水でも飲んでから、落ち着いて言いなさいよ」
 毎度のようにイリーナがユーリー教育に走り、ヒスイがとりなしつつ、結局発言を促している。ちなみに彼が勧めた水は、ジェシュファが魔法で作ってくれたものだ。
 やがて。
「そういうことは早く言え!」
 珍しく声を荒げたイヴァンが、イリーナにユーリーと一緒にいるよう言い置くと、他の三人を連れて駆け出した。

 さすがに一日中食事の支度では体に根っこが生えるので、ミランダは彼女の体格に比して大きな桶を下げて、各班の作業場所を巡っていた。休憩を促して、水を飲ませるためだ。皆に教えてもらって、水には香草を浮かべている。香り付けには量が不足しているが、家を離れてきている人々には、珍しい心配りとして喜ばれていた。川から汲んだ水でも、汲み置きより冷たいので、それがまた心地よいらしい。
 美容師として、人の『心地よい』には敏感なミランダは、張り切ってこの仕事をしていたのだが‥‥ある班の近くで足を止めた。シュテルケがいるところだ。なにやら険悪なムードの中に、シュテルケが入って双方をなだめている。
「‥‥ディアルトさん達はどこかしら?」
 気配を消して近付いてきたリュンヌに話しかけられて、ミランダは危うく身構えそうになったが、実際には彼らのいる方向を指すだけに止めた。滅多に自分から話し掛けてこないリュンヌが人を捜すのだから、それ相応の事態だと判断したのだ。
「何事ですか?」
「水利がどうって」
 単なる喧嘩なら、シュテルケに彼女達も加われば双方を力ずくで分けて、叱り飛ばすことも出来なくはない。性格的にそんなことに向いている三人ではないにしても、やってやれないことはない。だが違うことが絡むのなら、下手に手を出しても他の者達が入ってくる可能性があるので、睨みを効かせてくれる人物がいたほうがいい。
 この時の二人は、シュテルケのことは心配していなかった。歳は下でも、よほど戦いなれているのだ。一方的に殴り飛ばされるようなことにだけはならないだろう。
 そうして、たいして戻らぬうちに、顔色を変えた男性陣四名と、只ならぬ気配に仕事を放り出してきた様子の十数名にかち合った。
「私が先に。イヴァン殿がいきなり出て、何かあってはことが大きくなる」
「斧だけで四本使っているところだね。力自慢が多いんだ」
 猟に出ていたリュンヌは矢筒に手を伸ばしたが、ヒスイが留めた。いかにも警戒している姿勢でなくても、ヒスイとジェシュファなら魔法がある。
「ジャジュチェンコめ。嫌がらせにも程があるぞ」
 このジャジュチェンコはユーリーではないのだろう。イヴァンに何事かと尋ねるのも危険な雰囲気で、しばらくああだこうだと叫び声が交わされて。
「あのね、代官同士の仲が悪くて、水路のことでもめてるらしいよ。早く解決してあげてよ」
 殴り合いや伐採道具を使用した乱闘をするには、仲裁に入った人々の実力がものをいい、イヴァンに不満が伝わったことで一応騒ぎは収まった。もちろん班分けはもめている村同士の者が一緒にならないように組みなおす。関係者のところには、ミランダやリュンヌまでが、こまめに目を配っているので‥‥はなから乱暴者ではない関係者は居心地が悪かったらしい。以後は小さくなっていたし、なんとなく怠け癖があるような数名も、睨みを利かせた面々が怖かったのか、それなりに働いていた。
 ただし。
「色々あるのは分かったが、だからといって小さくなっていても、事態は好転すまい。せめて相手の目をちゃんと見て話せるように心掛けよ。‥‥親父殿よりひどいお人がいるとは、正直思わなかったがな」
 一緒に労役に連れてこないように手配されていたはずの二つの村人を混ぜたのが、ユーリーの父親らしいと聞いて呆れたイリーナに、ユーリーが半ば励まされ、残りは叱られていた。相変わらず当人は小さくなっているが、一、二度会ったきりの顔をちゃんと覚えていたところは、それなりに皆に評価されている。
 でも、それぞれによく働いた冒険者一同は揃いも揃って『長い道のりだなぁ』と思っている。