ゆうわくのれ・し・ぴ☆

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:4人

冒険期間:08月16日〜08月21日

リプレイ公開日:2006年08月25日

●オープニング

 パリの冒険者酒場の調理場で、料理人の皆さんはどきどきしていました。
「この店で、不届きな真似は許しませんよ!」
 ああ、また今日も誰かが銀のトレイの角でごっつんされているようです。ごっつんしているのは、この店の看板娘アンリさんに違いありません。だって声がアンリさんでしたから。
 何日か前から、アンリさんはご機嫌斜めです。銀のトレイをぶんぶん振り回し、おいたをしたお客さんにお仕置き三昧の日々を送っています。
「きっと、誰かに振られたんだよ」
 調理場のある人が、とうとう言ってしまいました。ああ、それだけは言ってはいけないことだったのに。みんながそう思っていたけれど、口にしてもいいかといえば。
「ば、馬鹿だなあ、おまえ。そんなこと決め付けたら駄目だよ」
 そう、決め付けはいけないのです。アンリさんはそんなこと、一言だって言っていないのですから。
「何言ってるんだ。あの荒れようは他には考えられないぞ。そう思うだろ?」
「お、俺は思わない。思わないったら、思わないから!」
 お仲間に間違いないよと言った人は、逃げ腰のお仲間を見て不思議そうでした。
 でも。
「ワインの樽が空になりそうなので、誰か一緒に取りにいって欲しいんですけど。お願いできますよね?」
 みんなの顔が、真っ白になりました。心臓はどっきどきで、今にも止まってしまいそう。
 アンリさんが、今のを聞いていたのです。銀のトレイが、トレイが‥‥
「さ、行きましょうね」
 そうして、アンリさんは調理場の人と一緒にワインの樽を取りに行ったはずでしたが‥‥帰ってきたときは一人でした。

 その次の日です。
「なにかこう、人と分けやすい、今のメニューにはないような斬新な料理を作って欲しいんだ。おかずと甘味と幾つかあるとありがたいな。アンリさんが喜ぶから」
 酒場の代表の人が、冒険者ギルドにやってきてこうお願いしたのです。どうして自分達で作らないのかといえば。
「味見はアンリさんなんだ。俺達は‥‥」
 どうして自分達で作らないのでしょう?
「あんなに可愛い娘さんに嫌われたら、そりゃあ仕事がつまらなくなるもんな」
 ギルドの受付の人は勝手に納得していますが、酒場の代表の人は、顔が真っ白です。
 何か怖いことでもあるのかもしれません。
 なにが? 誰が?

 でも、依頼は『一皿でも人と分けやすく、今のメニューにはないような斬新な料理』を考えて作って欲しいというお話なのです。

●今回の参加者

 ea1763 アンジェット・デリカ(70歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea3689 ナンシー・プロト(31歳・♀・バード・人間・ビザンチン帝国)
 eb3537 セレスト・グラン・クリュ(45歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb5422 メイユ・ブリッド(35歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5528 パトゥーシャ・ジルフィアード(33歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ヘルヴォール・ルディア(ea0828)/ 時奈 瑠兎(eb1617)/ アニエス・グラン・クリュ(eb2949)/ アンリ・フィルス(eb4667

●リプレイ本文

 パリの冒険者酒場シャンゼリゼのアンリさんに新しいメニューを提供しようと集まった冒険者の人は、五人もいました。アンジェット・デリカ(ea1763)さんは二回目です。
「あらまあ、これは楽しみですね」
 今日はご機嫌麗しげなアンリさんが、五人とそのお友達四人ににっこりします。とっても素敵ですが、手にはもちろん銀のトレイ。
 あれでごっつんされませんようにと、パトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528)さんは真剣にお祈りです。もちろん、腕によりをかけてお料理するのです。
 でも、ナンシー・プロト(ea3689)さんやセレスト・グラン・クリュ(eb3537)さんは割とのんびりしています。メイユ・ブリッド(eb5422)さんなんて、
「アンリさんに挑戦です」
 と言いました。何かと思えば、お料理のことでした。ちょっとどきどきしている人達がいます。
 それはさておき、まずはお買い物です。デリ母さんとセレストさん、その娘のアニエスちゃんとお友達のヘルヴォールさん、メイユさんとパトゥーシャさんは市場に、ナンシーさんとお友達の時奈さんは氷の調達、メイユさんのお友達のアンリさんはシャンゼリゼのアンリさんに応援だってこき使われています。大変かも。

 さて、材料は揃いましたが、一つ問題が。
「なんだい、あんたはそれほど料理が好きじゃないのかい?」
 こんな話に乗ったにしては珍しいとデリ母さんに言われているのは、メイユさんです。メイユさんは料理が嫌いでも、苦手でもないのですが、それほど得意でもありません。だから厨房の誰かに手伝ってもらおうと思っていたのですが、みんな忙しそう。
「皆でやればいいわよ。別に一人一品なんて決まりがあるわけじゃないし」
 気楽に行きましょ、気楽にと、セレストさんが言ってくれました。代わりに。
「練習するのよ?」
 絶対に『嫌』とは言えない勢いで、『にっこり』とされてしまいました。これで嫌って言ったら、怖いかもしれません。
 パトゥーシャさんとナンシーさんも、こくこくと頷いていています。この二人も、『先生二人』からしたら、駆け出しさんなのでした。
 ちょっと色々ありましたが、『分け合える料理』のご注文に沿って、五人は働き始めたのです。もちろんお友達や娘さんも味見だけでは駄目。夕方までお手伝いなのでした。

 初日は皆で、下ごしらえをしました。デリ母さんがフリーズフィールドで食材保管場所を作ってくれたので、生ものだって安心です。。
 そうして、鶏のスープを作っていたパトゥーシャさんは、そのスープを冷ましてそば粉と塩と練っているところでした。粘りが出たところで卵と何かを加えて、フリーズフィールド近くに置いています。このまま一晩保管なのです。
 他にも古くなったパンを細かくしたものとワイン、小麦粉をちょっと加えて、さらに果物のはちみつ漬けやワイン漬け、干したものを刻んで入れて、蜂蜜を入れるかどうかお悩み中。セレストさんにも味をみてもらって、蜂蜜はちょっぴりにしました。こちらも、フリーズフィールドの側。
 それから、市場を歩き回って見付けた鹿肉を取り出して、デリ母さんに見てもらいつつ筋を切ります。鹿はかなりお肉が固いので、お肉が柔らかくなるようにするのは大変です。ちょっと手つきが覚束ないのは、まあご愛嬌。
 これにこんがり焼いて、一度取り出して、熱いけれども切れ目を入れます。それから先にみじん切りにしておいたにんにくをすり込むと。
「手がにんにくの臭いまみれかも‥‥」
 それは間違いなく事実でしょう。とにかく今は美味しい料理を作るのがお仕事ですから、今度は塩をまぶして、また焼きます。かなり大きなお肉ですが、パトゥーシャさんは猟師さんでもあるので落としたりしません。
「あと、ワインの量はこのくらいかな」
 でもお肉にかけるソースを作るためのワインは、加減が難しいのでおっかなびっくり計っていました。

 デリ母さんはそういう迷いがありません。日頃は仕立て屋さんですが、アンリさんの試食なんか怖くないのです。そもそもトレイは料理を運ぶためのものですから、それで『ごっつん』なんて、デリ母さんは許しません。
 そんなデリ母さんは、パスタを茹でています。そのかまどの余熱で、さっきまで煮ていたスープも温めているようです。主婦のやることには無駄がありません。
 スープは鶏肉と季節の野菜がたっぷりで、味付けは香草と塩。塩はちょっときつめです。他には、卵が幾つか用意してあります。
「鉄板を温めて使うといいんだが、考えてみたら、そんなに都合のよい鉄板をここで揃えるとなったら物入りだねえ」
 デリ母さんのおうちで時々使うなら、料理用の鉄板を買ってもいいでしょう。だけど冒険者酒場ともなると大きすぎて、新しいメニューのたびにそれ用の食器を揃えたら、商売にならなくなってしまいます。置き場にも困るでしょう。
 そんなことを考えながら、デリ母さんは茹で上がったパスタを手早く湯切りして、今度はそれを焼き始めました。しかもちょっとずつにまとめて、見栄えよく形を整える凝りようです。それを両面、こんがりと焼き付けて皿に盛り、スープを再度煮立たせて卵の黄身を混ぜたものを入れていきます。とろりとしたところで、スープはおしまい。
 この料理には、昨日あれほど大量に刻んだり、取り出していたはちみつ漬けの果物と、レモンなどの出番はないようです。なにやらパイ生地を用意してありますが、こちらもパスタとは関係がありません。何に使うのでしょう。

 何に使うのか分からなかったデリ母さんの果物の残りは、ナンシーさんがほじくっています。幾らかメロンを使っていたので、その皮と果肉の合間をナイフで切り落としては、すりつぶしているのです。手についたものを時々なめていますが、それほど甘いものではありません。
 そりゃあ果物はけしてお安くありませんが、このナンシーさんの姿はなんともいえません。今回は材料だって、厨房の皆さんがある程度譲ってくれたし、材料費もちょっとは出してくれたのだから、甘味を作るなら果物本体を使えばいいのにと思われています。
 だけどナンシーさんは『お財布に優しい』を合言葉に、捨てちゃいそうな部分をせっせと使っているのでした。すりおろしたものを布で包んで、汁を絞り、それに山羊乳や蜂蜜を加えて、フリーズフィールドで保管してあった氷で冷やします。まだまだ暑いので、冷たいものを目指しているようです
「ええと、確かこれを‥‥そのまま凍らせるんだったかしら?」
 どうも誰かに教えてもらったか、小耳に挟んだものを作っていたみたいですが、最後の詰めで記憶が怪しくなったり。
「ええと、どうだったかしら」
 大事なところが、なかなか思い出せないみたいです。

 唸っているナンシーさんから数メートル、メイユさんも唸っていました。メイユさんはあんまり料理が上手くないので、デリ母さんとセレストさんに手伝って貰って、出来るところは自分でやって、何とか思いついたレシピを形にしようとしているところです。
 でも、慣れないパン作りは無駄に力が入って辛そう。他の材料はそれほど珍しいものを使うわけではないけれど、メイユさんはすでに汗だくです。それでも生真面目にこねているので、お顔もまっかっか。
 すると、頼んだわけでもないのに厨房のお兄さん達が休憩だからと手伝ってくれたり、飲み物を届けてくれました。なんてありがたいとメイユさんは素直に喜んでいますが、これまたデリ母さんとセレストさんが追い払ってしまいます。
「あら、せっかくこつを教えてくださるところでしたのに」
 汗を拭いて、ちょっと残念そうなメイユさんは、ハーフエルフなのですが、なかなか珍しいタイプの美人さんでもあります。目鼻はくっきり、仕草は上品、相乗効果で艶っぽい。となれば、寄ってくるお兄さん達は親切なのではなくて、
「肩が重くなりましたわ」
 その肩こりのもう一つの原因である女らしさを間近で眺めてみようとか、考えていたのに違いありません。メイユさんは全然気付いていないようで、手伝ってもらって嬉しそう。
 でも、パンを焼く前にたどたどしい手つきでチーズや腸詰をパン生地で、ゆっくりゆっくり巻いています。これは自分で頑張らなきゃ。

 そうかと思えば、セレストさんは手がよく動いています。セレストさんには料理はいつもしていることなので、ぱっぱと手早いのでした。
 使っている材料は魚と野菜と卵にヤギ乳とレモン。他の皆さんに肉料理が多いので、魚料理にしたみたいです。肉でも作れると、初日に娘さんに言っていました。
 骨を抜いた魚を叩いて、みじん切りした一部の野菜を入れ、ヤギ乳で湿らせたパンや卵と一緒に混ぜる。調味料も下味としてこの時に入れます。臭み消しにレモンの汁も少々。これを下茹でしたキャベツの葉に、他の歯ごたえがある野菜と茹でた卵を切ったもの、それから魚のすり身を乗せて、形よく巻き上げます。大きさも揃えて、パン焼き釜の片隅でじっくりと火を通しても、まだ完成ではありません。
 出来上がりにどう使うのか、こちらも味付けの濃いスープとソースの中間のようなものが用意されていました。盛り付けが命らしいです。
 あとは卵を割りほぐして塩と香草で下味をつけたものを、バターたっぷりで焼き上げて、綺麗に切り分け、見た目よく盛り付けなおすと、出来上がり。こちらはそれほど手を掛けたわけではないけれど、見栄えがいいので豪勢に見えます。

 そうして、アンリさんの休憩時間に、試食が始まりました。当然作った皆さんも、一緒に試食するのです。
「ちょっと焦げてしまいました」
 メイユさんが作ったのは、中にチーズと腸詰を入れ込んだパンでした。軽食向けだし、作るのも慣れた人ならそれほど難しくはないのですが、ちょっとだけ焦げています。火の通りを見るのと、取り出すのに手間取ったせいで、幾つか失敗してしまったからです。もちろん無事なものもあるから、アンリさんにはそちらを差し上げましょう。
「パンの中に色々混ぜたりするのはよく見るけれど、これなら作れるかしら‥‥」
 感想の方向がちょっと違いますが、アンリさんは美味しそうに食べています。
「チーズが続くのは楽しみがないから、いきなり重いけど、鹿肉のローストだよ」
 スープでそば粉を溶いて作るガレットも準備していたパトゥーシャさんが、手間隙かけて焼いた鹿肉を切り分けました。もちろんお肉にも味はついていますが、それだけで食べるのではなくて、肉汁とワインを煮詰めたソースもかけましょう。
 目の前で切り分けると、より豪勢な気分でしょと言いながら、パトゥーシャさんはガレットをいつ出そうか考えています。他のお料理もあるし、なかなか悩むところです。
「あら、このお肉は随分柔らかく仕上がってますね。でも鹿だと、たくさん入らないかも」
 アンリさんの『入らないかも』は、何人かの『そんなに食べていて、それを言う?』との心中とは別に、仕入れのことみたいです。多分、きっと。
 次はデリ母さんの、かまどから下ろしたばかりの小さな鍋と、手にした鉄板の上に乗った焼きパスタのお料理。
「こういうのはどうだろうって言ってくれたのがいてね。試しに作ってみたよ」
 鉄板の上の焼きパスタに、熱いスープをざあっと掛けます。ちょっと跳ねるので、事前にトレイで防御してもらいましたが、アンリさんは素早いです。熱い料理は熱いうちが美味しいとばかりに、こんがりパスタのスープ掛けをもう口に運んでいます。
 途中、無言で鍋を指したのは、お代わりの要求‥‥でも試食は他にもあるのです。
 続いて出てきたのは、セレストさんが作った魚の身の包み焼きに、スープをかけたもの。こちらは具のないスープだから、包み焼きが主役。一応温野菜も添えてあるけれど、小骨も全部抜いて叩いた魚は、煮たり焼いたりとは違う食感なのでした。
 更に香草入りのオムレツも出されて、皆さん目で楽しんでから、さっと取ります。アンリさん一人で試食しているわけではないから、早く取らないと食べられません。あれこれ作り方の情報交換もしなくては。
 でも、アンリさんはどちらの料理も作り方は途中で聞くのを止めてしまいました。
「あなた、何を目的に聞いているの、何を目的に」
 セレストさんの質問には、口にものが入っているから答えられない振り。そのくせ、パトゥーシャさんのガレットは、よくよく作り方を確認しています。あれれ?
 残ったのは甘味が三点。最初はナンシーさんの作った冷たいものが出てきましたが、一つ問題が。
「ガチガチに凍ってますね」
「あら、やっぱり途中で混ぜるんだったかしら。少し溶かしたら、美味しいと思うの」
 後に食べたら、確かに美味しかったのですが、溶かし具合の見極めが大層難しく、アンリさんはほとんど溶けたものをすすっていました。なんとなく嬉しくなさそうです。
 これは溶け掛かりをスプーンでざくざくして、よく混ぜたら、一番美味しかったのでした。やはり途中で混ぜたほうがよかったみたい。
 それからパトゥーシャさんの作った蒸しパンケーキは、ちょっと入れた果物が偏ってしまいましたが、みなさんに好評でした。あとどこをどうしたら味がよくなって、果物が偏らないなんて話にもなりましたけど、アンリさんは聞いていません。いっぱい取ったのは、厨房の皆さんの分でしょうか。
 最後が、デリ母さんの‥‥
「ワインの木いちご漬け? そういうのは、珍しくありませんよね」
 アンリさんも首を傾げたましたが、たっぷりのワインに果物を入れて、味を調えたものです。ワインの新酒が出回るには遠いこの時期、香草などを入れて古くなってきたワインの味を調えるのと同じ感じ。これを別に焼いておいたパイ生地の上に掛けたり、中の果物を乗せたりして食べてもいいし、それだけ飲んでもなかなか美味しい。ちょっと甘いですが、果物だから仕方ありません。
「漬けるだけなら、私でも出来ますね」
「そうだね。店で使うかどうかは別にしても、ちょっと練習して、覚えた料理を分け合える男が見付かるといいもんだね」
 どれか採用してもらえそうかしらと、尋ねてみようとしたナンシーさんとパトゥーシャさんとメイユさんがのけぞりました。そんな怖いことを言ってしまっていいのかと思っていたら、セレストさんがぽんと手を叩いて。
「それでご機嫌が悪かったのね。でもどんな理由があっても、あなたの笑顔でお客さんや厨房の人達が癒されるのだから、あまり不機嫌を振りまいては駄目よ?」
「気をつけますー」
 にーっこりと笑いあっている三人の女性の周りは、今まで食べていた料理の味も、教えてもらったレシピもすっ飛びそうな、見えない吹雪に支配されていたのでした。
 おかげで、どの料理が採用されそうかなんて、とてもではないけれど訊けなかったのです。