真夜中に笑う男
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 17 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:09月10日〜09月20日
リプレイ公開日:2006年09月20日
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●オープニング
村はずれに住み始めた、自称錬金術師の様子を確かめてほしい。
ものすごく嫌そうに依頼金を出した依頼人は、パリから三日ほど離れた村の代官だった。態度からして、徴税が大好きそうだが、払うのはとても嫌いのようだ。
それでもどうにかせねばと思うほどに、その『自称錬金術師』ははた迷惑な存在なのだろう。
「元有名な冒険者で、ドラゴンとも戦ったことがあるとかで、そのときに手に入れた怪しい道具で何かしているようなんだが、時々夜中に大きな音を立てたり、奇声を発したり、それだけではなくて大笑いしていたりするんで気味が悪い。村の者も怖がって家の近くには寄り付かないが、あの家の周りはもともと村の共有地で栗や胡桃の木がたくさんあるんだ」
今はまだいいが、これからの季節にびくびくしながら木の実拾いに出掛けるのは有り難くない。かといってそのあたりに近付かないようにしていたら、冬越しの食料が乏しくなってしまう。
そんなわけで、代官はしぶしぶお金を使っても、怪しげな住人の様子を確認することにしたらしい。自分で行かないのは、『自称元有名な冒険者の錬金術師』が代官の顔を見るとウィザードが持っているような杖を出してきて、むにゃむにゃと何か唱え始めるからだそうだ。魔法を使えるかどうかは不明だが、薄気味悪いし、殴られても困る。
「本当に冒険者かどうかは顔も見ていないことですし、ギルドとしてもなんとも言えませんが‥‥念のために腕利きを集めるお気持ちは?」
「ない。なぜなら、この時期は徴税前で金がないからだ」
あまりに正直な返事に、冒険者ギルドの係員もしばし押し黙った。この依頼人は、金がないので出し渋るのか、それともけちなのか、よく分からない。もしかすると両方かもしれなかった。
「では、とにかく集まった者で、その相手の様子を確かめに行かせますが、実は悪党だったのでやむなく応戦したなんて場合は、どの程度まで反撃してもよろしいものでしょう?」
「殺さなければ、相手の態度に応じて必要なことはしてもらっていい」
さすがに死んでしまうと寝覚めが悪いのではなく、この先徴税の際に税金が取れないからと言い放つ依頼人は、ある意味代官の鑑だった。村人に好かれるかどうかは、別問題。
ともかくも。
「怪しげな自称錬金術師が家の中で何をしているのか、こっそり調べて報告すればよろしいですね? そちらの依頼だと言って、おおっぴらに家に踏み込むことも出来ますが」
「逃がした時の仕返しが怖いから、こっそり」
依頼人、案外と小心者。
村の外れの古い家に住み着いた、態度が大層怪しい自称元有名な冒険者で錬金術師の人間の男性、多分五十代後半の素行調査、ものすごくこっそり‥‥との依頼である。
●リプレイ本文
怪しげな錬金術師の調査。これを行うにあたり、依頼を受けた八名の冒険者は二組に分かれた。直接錬金術師に会いに行くジョセフ・ギールケ(ea2165)、レオンスート・ヴィルジナ(ea2206)、マート・セレスティア(ea3852)と、搦め手を使うケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)、レオパルド・ブリツィ(ea7890)、水無月冷華(ea8284)、パトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528)、ガイアス・タンベル(ea7780)だ。
会いに行く三人は、それぞれに口実を設けているので、連れ立つようなことはしない。弟子入り志願を装うジョセフはともかく、マートは『噂を聞いて面白そうだから覗きに来た』で、レオンスートはどう見ても聞いても借金取りだ。当人は契約不履行の人物を求めてきたような話を作っているが、なまじ胡乱な感じに見えるように服装を作ってみたから、立派な借金取り。
ジョセフも弟子入り志願というものの、実際は錬金術の知識もそれなりにある。時として怪しく見える知識の担い手である自覚があって、今回の件を苦々しく思っていた。無駄に怪しまれるのは迷惑、ということだろう。
しかし、そういう準備をしたり、胸中思うことがあるとしても、マートの一人速やかな道行は予想外だったようだ。問題の村までやってきて、自称錬金術師の家の方角を聞くと、
「ひゃっほー」
という叫び声を残して、走り去ってしまったのである。
「あらぁ、少し待ってから行ったほうがいいわよねぇ」
「そうだな。相手が多少混乱したところで畳みかけよう」
もともと一緒に行く予定ではないから、残された二人は案外と冷たかった。冷静だったのかもしれない。
そうして残る五名はといえば、依頼人と村人に自称錬金術師に関する聞き取りだ。幾らそこそこ規模が大きいとはいえ、村は村。八人も冒険者が来れば目立つので、向こうでも何事かと様子を窺っている気配がある。パトゥーシャが依頼人に挨拶しようと、代官の居場所を聞いたので、村人達も薄々事情は察したらしい。
「高名な錬金術師の方がおいでと聞いたのですが」
「なんでもドラゴンと戦ったことがあるとか」
ガイアスとレオパルドがやんわりと事情を尋ね始めたのだが、村人はもうそれどころではなかった。村に着いたのが夕方近かったのもいけないのだろう。三々五々に集まってきて、離れて様子を見守っていた冷華とガルゥの二人も囲んで、やいのやいのと言い始めた。七割が『いかに迷惑しているか』の嘆きで、三割は『本当に有名な冒険者なのか』の質問だ。
「もしかして、迷惑だったかなぁ?」
「かなぁではない。これで仕返しされたらどうしてくれる」
でも、こんなにさっと人が集まるのは、きっと依頼を出したのが村人にはばれていたからだ。その点を依頼人ははっきりしなかったが、要するにそういうことらしい。どこでばれたのかは、パトゥーシャは尋ねなかったけれど。
とりあえず皆が聞かされた話を総合すると、自称錬金術師はいわゆる夜行性で、夕方近くに起きて、夜中に活動しているらしい。だから必要があって出掛けてきても、おおむね夕方で、ごく稀に早朝のこともある。村の他の家と何か関わりがあるのは、生活に必要なものを買う時ぐらいだとか。それも適当な時期に来るので、決まった外出時間などはないらしい。
大声で笑ったり、とんでもない騒音を出したりするのは、大抵明け方近くだ。村の誰もが寝静まった静かな時間帯なので、とても響く。
「研究熱心のあまり、他人の迷惑顧みない奴か」
「そういうのって、珍しくないわよね」
「そっかなー。こんな村だと珍しいっていうより、普通いないよ」
ジョセフとレオンスートとガルゥが小声で会話を交わしているが、この場合、村人の気分に一番近いのはガルゥである。冷華が確認してくれた、自称錬金術師の買い物はたいていが食料品で、目立って奇妙なものはない。
「ドラゴンと戦ったことがある錬金術師といっても、いつの話か分からないのでは‥‥」
「でも子供に声を荒げるような人ではなくて、よかったですよ」
自称錬金術師が『ドラゴンと云々』と語ったのは、勇敢にも様子を覗きにいった子供達に対してだった。ただ内容がいかにも子供が喜びそうなものなので、どこまで本当かは疑わしい。レオパルドの友人タケシがドラゴンと戦ったことがある錬金術師について情報がないか調べてはくれたが、例えばジョセフが大抵はウィザードとして依頼を受けるように、冒険者が通じているすべての技量をギルドも把握しているわけではないので、該当者がいるかどうかもはっきりしなかった。特にドレスタット方面での話ならば、簡単には辿れない。
裏を返せば、幾らでもいるかもしれないという話になるのだが、ガイアスが言うとおりに少なくとも子供相手に乱暴狼藉を働く人物ではなさそうだ。
この話で、それほど悪い人ではないのではと口にしたパトゥーシャは、依頼人から切々と苦労話を聞かされる羽目に陥っていた。
そうして、あいにくと冷華やジョセフ、他の皆も知りたかった一番の事柄、『本当に錬金術師なのか』は知識がある人が居ない村では、誰も確認のしようもなく、謎のままだった。
仕方がないので、第二陣でレオンスートとジョセフが問題の家に向かうことになる。
その頃。とっくの昔に家についていたマートは。
「ええい、帰れというのが分からんのか」
「そんなこと言わずにさ、じいちゃん、おいらも仲間に入れておくれよ」
自称錬金術師を相手に傍若無人の限りを尽くしていた。もはや依頼が頭にあるとは思えず、勝手に家の中に入ってしまい、広くもない室内をめちゃくちゃ狭くしている様々な物品を弄り倒していた。
「じいちゃんではないわい、わしはまだ四十四じゃ」
「‥‥うっそだー」
依頼人は、自称錬金術師を五十代後半だといった。マートは知らないが、村人も五十歳より下ではないと口を揃えた。けれども近くでよく見ると、肌には艶がある。ただ、髪の毛が絶望的に薄かった。おかげで大層老け込んで見える。
それでマートは正直な感想を述べたわけだが、こう言われれば普通の相手は怒る。よって帰れ帰らないと騒いでいるところに、ジョセフとレオンスートがやってきて、弟子入りだ貸した金だと話を始め、しまいには狭い家の中で男が四人、それぞれ勝手なことを言っている状態になった。
もちろんこの間にジョセフとレオンスートは自称錬金術師の持ち物を観察していたのだが、マートは勝手に室内を物色していて、自称錬金術師は苛々を募らせている。
挙げ句に家の近くでは、他の五人が息を潜めて、様子を伺っていた。ガイアスなど、騎士らしくもなく家に近付いて、他の部屋に誰かいないかを探っていた。実は冷華も、反対側から家に取り付いて、人の気配を探している。どちらも結果は、自称錬金術師の一人暮らしに落ち着いた。
これで夜中に大声で独り言を言われれば、誰だって気持ちが悪いというものだ。いちおう、夜中に誰かが尋ねてくることも考慮しておいたほうが良いだろうが。
直接家を尋ねて、結局追い出された三人はそれぞれに感想もあるのだが、一つ一致していたのは‥‥
「なんだか、とっても発音の悪い人ねぇ」
「きっと鼻が悪いんだよ」
「それはあるかもしれないな」
話し方や他にも理由はありそうだが、自称錬金術師はあまり明朗な声の持ち主ではないということだった。近くでなら何とか聞き取れるが、興奮してくると段々と発音が不鮮明になって、しまいには何を言っているのかよく分からない。
実際、外で聞き耳を立てていた五人は、自称錬金術師のいうことはよく聞き取れなかったのだ。
仕方がないので、深夜に交代で見張ってみたが、誰の来訪もなかった。けれどもよほど立腹したらしい自称錬金術師は、大声でなにやら愚痴めいたものを言っていた。確かにちょっと怖いと、ガイアスも納得している。ナイトで冒険者の彼でも『これはいただけない』と思うわけだから、村人などそれこそ不安だったことだろう。ゆえにパトゥーシャなど、何が何でもこの一件を解決せねばと決心していたが、その前に起床するまでは何もかも忘れ果てたように寝ていたことは、冷華しか知らないだろう。
その冷華は早朝から、昨日話を聞き漏らした村人がいないか確かめに行き、猟を生業にしている人物からの聞き取りを行ってきた。それによると。
「どうやら山中で薬草の類を摘んで歩いていたようですが‥‥錬金術とは、どちらかといえば鉱物などを扱うものでは?」
「一概に金銀ばかりというわけではありませんでしたがね。錬金術を応用して、薬草から効き目の強い薬を作ったりもするようですから」
冷華の疑問に、レオパルドが何か思い出しながら答えている。彼はドレスタットに居た時期に、友人の錬金術師が色々とやっていたのを目撃しているらしい。それを思い起こすと、鉱物だけではないとなるのだろう。ガルゥが熱心に聞き入って、頷いていたりする。
「でもジョセフさんの見立てじゃ、錬金術師らしくないってことだから、家の奥を覗いてみなきゃ駄目だよね。俺、ちょっと行ってこようか」
確かにジョセフが見た限りでは、錬金術に必要な道具類は整理されていない部屋の中には見当たらなかった。奥にある部屋が実験室なのかも知れず、そうするとどこで寝ているのかがよく分からないが、とにかく確認してみなくてはならぬと一部で話がまとまった。
一部なのは、他人の家の中まで勝手に踏み込むのを躊躇したから‥‥ではなくて、他の人々には単純にそうした技量の持ち合わせがなかったからだ。さすがに代官のお目こぼしが確約とはいえ、『他人の家に忍び込んでこい』と要請するのは普通心苦しいだろう。
結果、レオパルドが相談を持ち込むふりで家を訪ね、上手く連れ出せたら、シフールのガルゥと、ガイアス、冷華が中を覗くなり入り込むなりしようという話になって‥‥一人足りないことに、七人が気付いた。
「ちゃんと相談したとおりにやらないでどうしますかっ」
レオパルドが小声で叱ったが、もう遅い。マートが皆の気付かぬうちに、自称錬金術の家の扉をがんがん叩き始めていたのだ。時刻はまだ昼前。夜明け頃まで起きていた相手が、気持ちよい目覚めを迎えているとはとても思えない頃合である。
隠密系の心得がある者はそれぞれの得意な方法で隠れつつ家に近付き、そうでないものは念のために茂みなどに隠れて、レオパルドとレオンスートがマートを追った。ジョセフは相手が魔法を使おうとしたときの用心にヴェントリラキュイの間合いを計っている。同様に集中を乱す目的で、パトゥーシャも弓矢を構えていた。
けれども。
確かに悲鳴がした。だがそれは、扉をあけた途端に家の中に押し込まれた自称錬金術師のもので、今回雇われた冒険者のものではない。マートが大層な身のこなしですたこらと室内に入り込み、レオンスートは『あら大変』の一言を残して続く。レオパルドはもう少し細かいところにこだわるというか、良識の持ち合わせがあったというべきか、押しのけられた自称錬金術師を助け起こしていたりしたが、中から悲鳴じみた叫びが聞こえて様子を見に入っていった。
この頃には、マートが室内を明るくするために窓という窓を開け放ち、きゃーとかぴゃーとか言いながら、奥の部屋に積まれていた木の板を全部広げているところだった。それと、その横のふわふわもこもこした毛糸の束らしいものも。
窓からひょこんと顔を入れ、それを見つけてしまったガルゥは一つ抱えて屋根の上へ。たくさんあるからいいと思ったのだろうが、勝手に持ち去っていることに変わりはない。しかしふわふわもこもこしたものが大好きな彼には、こういうものを見せるのがいけないのだ。ガルゥが勝手に覗いたのではあるが。
それを見送ったガイアスは、窓から飛んできた板切れを一枚拾い上げた。齧った程度に植物の知識がある彼にも分かる薬草の名前と、何かの薬用の配合が書かれている。それがどういう薬になるのかは、あいにくとガイアスの知識の外だが、一応それを抱えて‥‥
「なんだかもう、隠れる必要もないようですけれど」
「おまえ達、わしの研究を盗みに来たんじゃろー」
マートを追い掛け回しているうちに、何の確証もなく『おまえ達はみんな仲間に違いない』と言い放った自称錬金術師は、やはり洞察力を発揮したわけでもないのに事実を言い当てた。いわく。
「あの代官に頼まれて、わしが何を研究しているのかを調べに来たのじゃな」
思い込みでも当たっているのだから、それはそれでたいしたものだ。『うん』と頷いたマートは、後ほど叱り飛ばされていたが。
その後も相変わらずの発音の悪さに加え、泣いて鼻をすすりながら自称錬金術師が訴えたのは。
「こっちの山が、『自分の人生に欠けている楽しみを得る薬』で、こっちが『自分に不足している部分を劇的に改善する薬』だって」
「察するところ、惚れ薬と髪の毛が生える薬でしょう」
マートが荒らしてしまった室内の片付けを、見るに見兼ねて手伝った一同のうち、パトゥーシャと冷華に切々とどういう研究をしていたのか説明したくれたが、要するにそういうことだった。
「こんないい加減な道具を使って、今までよく大怪我もしなかったものだな」
薬草から髪に効く成分を抽出するのに、水を張った鍋の蓋を溶かしてくっつけ、火にかけた後を発見したジョセフが呆れ果てている。蒸気の力が蓋にかかって、破裂するような騒ぎが一度ならずあったはずだ。確かめてみるまでもなく、それが大きな音の原因だろう。室内に、色々なものが飛び散った跡も残っていることだし。
「するとこれはー」
「頭に被ってみたんじゃないですか」
ガイアスとの会話の後、ガルゥが抱えていた毛糸の束を放り出しても誰も咎めなかった。
「本物だったら、不穏な昨今、ぜひとも協力を仰ぐところでしたが」
「あら、少なくとも薬草師としては本物らしいから、そのお仕事しながら、平和に惚れ薬でも何でも研究してくれればいいのよ」
レオパルドは結果を見て苦笑しつつ、ちょっと残念な気分を隠さない。けれどもレオンスートの意見に、思わず吹き出した。
彼らの依頼人の代官も、髪の毛の量が絶対的に不足しているお仲間だったのだ。話を聞いて、便宜を図ってやれば役に立ちそうだと知ると、なにやらそわそわしていた。
「今度錬金術師を詐称したら、ただではすまさん」
ジョセフがにっこりと、元自称錬金術師で現薬草師に宣言したのを機に、なんだかなし崩し的に依頼は終了したらしい。なお。
「本人にどうにもならないことを馬鹿にするのは、するほうが悪いのです」
冷華がぽろりと零したこの言葉が、薬草師には感動的だったらしく、彼女は村を去り際に拝まれていた。
他の人々は、『生活態度も大事』と思っていたが、あんまり熱心に拝んでいたのでいわずに済ませたのだった。