●リプレイ本文
港町へ向かう道中。
猟師スキルを活かして獲物を捕るレンジャーのアシュレー・ウォルサム(ea0244)。
またナイトのレジーナ・オーウェン(ea4665)の提案で道すがら、危険な場所や賊が潜伏するのに丁度良い場所を確認しておく。
「保存食だけじゃ体に悪いですからね」
それを調理するのは長髪の先に腕輪を結んでいる浪人、とれすいくす虎真(ea1322)。また、荷物の引換証は彼が預かっている。
冒険者達は、三組に別れて夜間の見張りを担当しつつ旅を続ける。
「わたくしも冒険者。仕方が御座いません」
見張りの支度をするレジーナ。
「それじゃあ、女の子はテントを使うわね♪‥‥覗いたら、死、あるのみ‥‥だからね☆」
簡易テントを組み立て、女性専用の寝床『男子禁制・女の園』を確保するウィザードのリーベ・フェァリーレン(ea3524)。
「あの星はね〜♪」
見張りの退屈を紛らわせようと、小さくハミングで鼻歌を歌ったり、星読みをしながらレジーナに色々な話をするリーベ。
「依頼が終わった後でティータイムですか‥‥。楽しみです」
虎真と組になっているウィザードのアルカード・ガイスト(ea1135)。
「何で私だけ野郎と‥‥何でしょうかね?」
ぶつぶつ言っている虎真。『愛に飢えてて何が悪い!』というのがキャッチフレーズの彼にとっては、この組み合わせは悲しいところだ。
「‥‥私だって同じ気持ちです」
苦笑するアルカード。
「だろ?」
しかし、案外意気投合して仲良くやってたりしている。
「お腹空いたな‥‥」
見張り用の鳴子を作りながら呟くアシュレー。困ったことに保存食の持ち合わせが一日分しかなかったことに気付く。
狩りで何とか一日分は補っているが少し足りない。急ぎの旅なので、これ以上ゆっくり狩りをするわけにも行かない。
「ええと‥‥どうしましょう? よろしければ食べます?」
そう言って予備の保存食を差し出したのは同じ見張り組の神聖騎士ロレッタ・カーヴィンス(ea2155)。
「ありがと〜。港町に着いたら、買って返すよ」
そんな微笑ましい光景もありつつ、行き道は特に障害もなく、港町へと到着する。
港町。
アシュレーの保存食購入を済ませ、港へ向かうと、丁度目的の船が荷揚げしている所だった。
引換証を見せて身分を確認すると、割と大きめの箱を受け取る。
これに紅茶の茶葉が満載されているのだろう。
「紅茶男爵様も楽しみにしていらっしゃるでしょうから、決して奪われるわけにはいきませんね」
紅茶の箱は、ロレッタとレジーナの馬で運ぶ事にした。
「せっかくの港。新鮮な魚介類とかも買っていきましょうか」
港に来たついでに新鮮な魚介類を仕入れる虎真。
港に長居する余裕もなく、キャメロットへの帰路に着く冒険者達。
夕食時。
魚介類の焼ける香ばしい香りがする。
「魚も食わないと体に悪いですよ」
調理した魚介類を皆にも勧める虎真。
「私自身が寝る場所が無くなるかもしれませんが、外に置いておくよりはマシでしょう?」
紅茶の箱を自分のテントに保管するよう提案するアルカード。
その香りに釣られて、というわけでは無いだろうが、何者達かが忍び寄る。
「盗賊かな?‥‥危ない!」
いち早く察知したのはアシュレー。
そこへ飛来する『シューティングPA』の一矢。
気付かなければ致命傷にもなりかねない射撃を間一髪回避する。
「ちっ、バレちまっちゃあ、しょうがねぇ‥‥その荷物、置いてってもらおうか!」
ファイター風の盗賊が現れて凄む。
「あなたがたに渡すわけにはいきません。おとなしく‥‥退いて下さいませんか?」
冷静に周囲に注意しつつロレッタ。
「甘いです」
死角から『チャージング』で突進してくる別のファイターを『バックアタック』で対処する虎真。
「かまわねぇ! 殺っちまえ!」
月並みな台詞を吐き、襲いかかってくる盗賊団。
どうやら盗賊団も六人のようだ。
「そこだね!」
先ほど弓を撃ってきたレンジャー風の男を発見し、弓で応戦するアシュレー。
「『夜駆守護兵団』の『高貴なる夜鳥』、参ります」
『ソニックブーム』を放つ虎真。
「‥‥ウォーターボム!」
魔法発動の瞬間、リーベが青く淡い光に包まれると、水球が出現し盗賊に炸裂!
「‥‥ファイヤーボム!」
魔法発動の瞬間、アルカードが赤く淡い光に包まれると、火球が出現し、さらに盗賊達に炸裂する!
「消し炭になりたくなければ引きなさい!」
そう警告するアルカード。
「その程度ではわたくしに触れることなど出来ませんよ」
なおも向かってくる盗賊を『オフシフト』と『カウンターアタック』のコンボで返り討ちにするレジーナ。
「魔法を使わせるな! ドンドン矢を撃ってやれ!」
盗賊団もそこそこに頭を使ってくるようだ。魔法詠唱に集中していては矢は避けられない。
冒険者達も無傷では済まなかったが、
「こ、これ以上やられたら死んじまう!」
深手を負った盗賊の一人が逃亡したのを転機に、一気に形勢が傾いた。
「‥‥アイスコフィン!」
リーベの魔法で接近しすぎて逃げ遅れた盗賊が氷の棺に閉じ込められる。
「野盗なんて、氷の中で反省しなさいっ」
「チクショー、覚えてろよ!」
またもや月並みの台詞を残し、氷づけになった仲間を見捨てて逃亡する盗賊団。
紅茶の箱を守らなければならない以上、深追いはできないが、戦いは冒険者達の勝利に終わった。
「皆さん、お怪我はありませんか?」
負傷者にリカバーを掛けるロレッタ。
「矢って何度も買わないといけないからね、無駄にはできないよ」
自分と敵の撃った矢から、まだ使える物を回収するアシュレー。
その後。
「い、命ばかりはお助けを!」
氷が溶けて意識が回復した盗賊が涙ながらに命乞いする。
「ちゃんと反省した?」
そう確認するリーベ。
「も、もちろんでさ」
カクカクと頷く。
「じゃあ、行っていいですよ」
盗賊の顔面に『グランドクロス参上』と書いた紙をペシッと張り付け、追い払う虎真。
それからキャメロットまで、冒険者達は気を抜くことなく、旅を続けた。
盗賊団が再び襲ってくるような事も無かった。
そうして無事、キャメロットへと帰還した冒険者達は、早速、紅茶男爵なる貴族の屋敷へと紅茶の箱を届けることに成功する。
「これは御苦労様で御座いました。只今、ティータイムの準備を致しますので、応接室にてお待ち下さいませ」
執事の案内で応接室に通される冒険者達。
「うーん、ティータイム。楽しみですわね♪」
心から楽しみだという雰囲気のレジーナ。
待つこと暫し。
ノックと共に、先ほどの執事と侍女を連れたダンディな貴族の男性が現れる。
「冒険者諸君。依頼達成御苦労であった。さあ、共にティータイムを楽しもうではないか」
そう言って席に着く。
侍女が入れたての紅茶とお茶菓子を配る。
「我が輩のことは紅茶男爵と呼んでくれたまえ。我が輩自身、この呼び名が気に入っていてな」
そう笑いながらティーカップに口を付ける男爵。
「ふう‥‥美味しいですね、紅茶。以前実家で父が貰ったものを飲んで以来です」
礼儀作法は修得していないが、なるべく気を付けるアシュレー。
「ほほう、紅茶を嗜んだことがあるとは、その父上は一廉の人物なのであろうな。どうかね、久しぶりに飲む紅茶の味は」
「ええ、あいにく昔のことなので味の記憶が曖昧ですが、こちらの方が美味しいと思いますよ」
「嬉しいことを言ってくれる。紅茶を美味しく入れるのには幾つかコツがあるのだよ」
そして紅茶の入れ方を語り始める男爵。
「‥‥良い香りですね。このお菓子ともよく合いますわ」
礼儀作法の基礎をしっかり修めているロレッタ。
「紅茶男爵様は何故冒険者である私達に紅茶を振舞ってくださるのでしょうか?」
「我が輩も若い頃は冒険者に憧れておったのだよ。各国を旅し、未知の体験に心躍らせる冒険者にな。だが、我が輩は家督を継がねばならなかったのでな‥‥」
少し遠い目をする男爵。
「今では冒険者を支援し、こうしてティータイムを共にすることを楽しみにしておるのだ。どんな美酒にも劣ることのない紅茶の深い味わいを諸君にも知って貰いたいのだよ。ささ、諸君の冒険の話を聞かせてくれたまえ」
期待の眼差しを向ける。
「‥‥海賊の船で大立ち回りを致しましてね、その時嵐が来たんですが樽に入ってやり過ごしたんですよ」
樽に入ってイギリスに来た時の体験談を話す虎真。
「樽に入って嵐を? それは面白い!」
興味津々。次々と冒険者達に話を聞く男爵。
「エルフでありながら『火』のウィザードであることが可笑しいですか?」
自分の過去には触れないようにしつつ、男爵の話し相手を務めるアルカード。
「おおいに結構。冒険者とは己が信じる道を究める者。その才能を存分に伸ばすと良いだろう」
そして、ふと思い出したように、
「そう言えば、道中、盗賊団に襲われたと聞いたが誠なのか?」
そう尋ねる男爵。
「ホントだよ。私の魔法で氷づけにしてやったんだよ☆」
そう自慢するリーベ。
「紅茶の箱を置いて深追いすることもできず、取り逃がしてしまいましたが‥‥捕縛した盗賊には改心の兆しが見えました」
事の顛末を説明するレジーナ。
「なるほどなるほど。よくぞ、我が輩の大切な紅茶を守り抜いてくれたな。改めて礼を言うぞ」
そして、全員に握手を求める男爵。
「旦那様、そろそろお時間で御座います」
執事が告げる。
「楽しい時間というのは短いものだな。いつか諸君が英雄と呼ばれ、名を轟かせる日を楽しみにしているぞ」
紅茶男爵の期待を受けた冒険者達は、新たな冒険を求めて旅立つのであった。