●リプレイ本文
ギルドで初めての依頼を受けた冒険者達。
「犬を子爵様にお届けする御依頼、確かに承りました」
依頼書にサインするウィザードのアデリーナ・ホワイト(ea5635)。
「歌唄いのシルエリンと申します。シルとでも呼んでくださいませ」
まずは自己紹介するバードのシルエリン・フォウナ(ea5587)。
「あ、はじめまして。フィーナと申します。初めての仕事は緊張しますね‥‥うまくいくといいんですけど‥‥」
初仕事に緊張気味なウィザードのフィーナ・ウィンスレット(ea5556)。
「あたいは、まだ駆け出しなんで至らない所があるだろうが、全力で犬を護る依頼を遂行してみせる! 女の割にはガサツかもしれんが、それは愛嬌だ、ふははは!!」
豪快に笑うファイターのミケーラ・クイン(ea5619)。
「皆始めての経験だ、慎重に行こうではないか。必ず成功させてみせようぞ!」
意気込む神聖騎士エレナ・アースエイム(ea0314)。
「い、犬っ! 私の後ろを歩くんじゃない! 古傷が裂ける!」
犬が大の苦手なウィザードのセシリア・カーライル(ea5648)。幼少時、しつこく追いかけられた事があるらしい。
「BAW〜♪ BAW!BAW!」
ニヤリと下品な笑みを浮かべるとセシリアを追いかけ回そうとする。
「だ、誰か何とかしてくれ!」
物陰に隠れるセシリア。
「アイツぁ、人をからかって喜んでる節があるからな。ま、気をつけてな」
しみじみ言うギルドのおやっさん。
「そういうことは早く言ってくれー!」
悲鳴を上げるセシリア。
「ところで、彼の名前は? さすがに道中『犬』と呼ぶのも気が引けるからな」
リードをしっかり持って犬を止めつつ、おやっさんに尋ねるレンジャーのユーフェミア・バーソロミュー(ea5609)。彼が基本的にリード持ち担当となる。
「えーと、バーウ‥‥なんたらかんたら何世とか言う長い名前だが。バーウで良いと思うぜ」
全員が「良いのかそれで!」という目をする。
そして冒険者達はバーウを安全に運ぶためのケージと馬車の貸し出しを交渉する。
「‥‥ですからこそ、子爵様の大切な犬を安全かつ確実にお届けするためにもケージとそれを運ぶための馬車をご用意頂けないでしょうか?」
話術を駆使し、笑顔で丸め込もうとするシルとアデリーナ。
「それができるなら、そうしてやりたいんだが。子爵様は犬を檻に閉じこめるのがお嫌いなそうでな。そういう扱いはできねぇんだ。ま、しっかりリード握って、連れてってやってくれ」
残念ながら借り受けることはできなかった。
「申し訳ありません。わたくしの力が及びませんでした」
軽く胸に手を置いて頭を下げるシル。
「‥‥めんどくさいなぁ、まったく‥‥」
ヤル気なさそうなナイトのグラディ・アトール(ea0640)。
そうは言いつつも、皆の荷物や食料を馬に積んでやるなど、なかなかイイヤツではあるようだ。
「BAW! BAW!」
こうして八人と一匹の旅が始まる。
冒険者達は順調に歩を進め、一日目の日が暮れる。
協力して野営の準備をする。
「炎の恵みを‥‥クリエイトファイヤー」
魔法で焚き木に火をつけるセシリア。
「保存食そのままで食べるよりは、手を入れて少しでも美味しくいただきたいものです」
料理の腕を振るうシル。
「よーし。待て」
犬の餌を一食分だけ取りだして、バーウの躾を試みるユーフェミア。
「BAW〜?」
首を傾げるバーウ。そしてニヤリと笑うと、
「BAW!BAW!」
ユーフェミアの皿に飛び掛かる。
だらーっとヨダレを掛け、自分の食料だと主張するバーウ。
「あー、やられた‥‥」
顔に手を当てるユーフェミア。
慌てて、各自の食料を守る冒険者達。
「仕方ない、ちょっと調達してくる‥‥」
猟師スキルを持つユーフェミア。
「予備の保存食もあるぞ、食うか?」
バックパックを探るミケーラ。
「いや、それは、いざって時のために残しておこう」
ミケーラにリードを預けると森へ入っていく。
「道中はたぶん安全って言ってたけど、もしかして、一番の敵はバーウなんじゃ?」
笑いながらアデリーナ。
「あはは、そうだよね」
釣られて笑うフィーナ。そして皆。バーウも笑っているようだ。
「BAW〜」
そしてユーフェミアの夕食と自分の餌を平らげたバーウが、虎視眈々と皆の食料を狙う。
「BAW!?」
にっこり笑って尻尾をむんずと掴んでいたのはシルだった。
夜間の見張りは交代で行う。
第一班グラディ&シル&アデリーナ組。
「やはり寝る前には、コレだな」
発泡酒を取り出すエレナ。
「私にもいただけるかな?」
コップを差し出すセシリア。
「私は飲むと起きれなくなるので、遠慮しておきます」
自分の見張り番に備え、眠りにつくフィーナ。
「良い夢を‥‥」
先に休む皆にそう声を掛けるアデリーナ。
「BAW!BAW!」
今度は発泡酒を奪って飲み始めるバーウ。
ぶはーっと息を吐くと、酔いが回ったのか、顔が赤くなる。
「おまえもイケルクチか? まあ飲め」
同じく酔ったセシリアが更にバーウに飲ませる。
そして、昔読んだ冒険譚を語りだす。
「夢もまた現、現もまた夢‥‥」
軽く竪琴を爪弾くシル。すると、
「BAW〜♪」
酔っ払いながら器用に二本足で立ったり逆立ちしたりして踊るバーウ。
案外芸達者なようだ。
「お、いいぞー♪」
盛り上がるセシリア。寝なくていいのか?
第二班エレナ&フィーナ&ユーフェミア組。
「ふわぁ〜〜」
眠そうなフィーナ。寝起きが悪いようだが、第二班で大丈夫なのだろうか。
「犬はまあ‥‥、嫌いじゃない‥‥」
踊り疲れて眠るバーウをそっと撫でてやるグラディ。
案外犬好きなのかもしれないが、それが恥ずかしいのか、人が見ている所では興味のないスタンスを貫いている。
「‥‥通常、犬という生き物はもっと賢いはずなんだが‥‥いや、ある意味賢いが‥‥」
そんな事を呟くユーフェミア。
バーウは確かに『バカ犬』だが、ある意味頭はいいのかもしれない。悪知恵が働くという点では。
第三班ミケーラ&セシリア組。
「‥‥コイツも寝てれば可愛いもんだな。寝相は悪いみたいだが」
ゴロゴロ転がったあげく、仰向けになっているバーウを苦笑しながら見つめるミケーラ。
特に敵襲などは無く、無事朝を迎える。
「「Zzz‥‥」」
まったく起きる気配の無い、フィーナとアデリーナ。
「ほら、起きろ!」
寝起きの悪いエルフウィザード組をたたき起こすセシリア。
「「う〜ん、もう少し‥‥」」
「バーウに朝メシ食われても知らないぞ!」
「「それは‥‥イヤ‥‥」」
ようやく目を覚ます二人。
朝食の準備とバーウの動向に注意を払う冒険者達。
「BAW〜☆」
そしてまた、朝もバーウとの朝食争奪戦が起こるわけだ。
「こら、返せ! バカ犬!」
「子爵様の犬じゃなかったら、ぶん殴ってやるのに!」
今日も賑やかに旅ができそうだ。
その後もバーウとの騒動は絶えなかったが、旅は順調と言えた。
地図では、もう小一時間も歩けば子爵家別荘に辿り着くというところで、数人の男達が現れる。
「おっと、待ちな。その犬が子爵家の飼い犬だって事は知ってんだぜ」
どうやら盗賊のようである。
わざわざ、バーウを誘拐して身代金を要求する計画まで詳細に話してくれたりする。
「しかし、みすぼらしい犬だな‥‥?」
元々、どこにでも居そうな犬である。しかも、例の豪華な首輪とリードはカモフラージュのために普通のロープに付け替えられている。
「BAW!」
さすがに怒ったのか、噛みつく!
というフェイントをかけ、盗賊の足にオシッコを掛けるバーウ。
「うわっ、きったねぇー! なにしやがんだ、このバカ犬!」
剣を振り回す盗賊をあしらいつつ、べーっと舌を出す。
「おい、ソイツを殺したら計画が台無しだぞ。護衛の冒険者を片付けるぞ!」
リーダー風の男の言葉で戦闘体勢に入る盗賊達。
「ふははは! 相手になってやるよ!」
手斧と盾を構えるミケーラ。
「盗賊風情が‥‥」
レイピアを構えるエレナ。
「コイツを誘拐しても苦労するのは、お前達だと思うが‥‥これも仕事なのでな」
バーウのリードをしっかり握るユーフェミア。
「‥‥あまり戦うのは好きじゃないんだが」
ロングソードを構えるグラディ。
「悪党共、裁きの炎で灰塵に帰すがいい!‥‥ファイヤーボム!」
魔法発動の瞬間、セシリアが赤く淡い光に包まれると、盗賊達を爆炎が襲う。
「実無くして影無く影無くして実無し、故に我汝が影を縛して汝を縛するものなり‥‥シャドウバインディング!」
魔法発動の瞬間、シルが銀の淡い光に包まれると、
「なんだこりゃ、動けねぇ!?」
盗賊の影が固定され、動けなくなる。
「支援します‥‥ウィンドスラッシュ!」
前衛の支援に徹するフィーナ。
「‥‥ウォーターボム!」
さらにアデリーナの魔法も立て続けに飛ぶ。
「その程度じゃ、あたいは倒せないな」
『ダブルブロック』や『ガード』を使って壁になり、盗賊を通さないミケーラ。
「さて‥‥次に灰になりたいのはどいつだ‥‥?」
セシリアが更に魔法の詠唱をしようとすると、
「覚えてろよ!」
あっさり盗賊達が逃げていく。
「オマケだ、とっておけ‥‥」
剣を地面に刺して身軽になり、逃げる盗賊にオーラショットをお見舞いするグラディ。
「覚悟が足りん」
偉そうな事を言うエレナ。
「Fuaa〜〜」
その間バーウは暢気に欠伸をしていた。
そして無事、子爵家別荘が見えてきた。
「世はなべてこともなし」
首輪とリードを元に戻してやるユーフェミア。
色々あったが、子爵家別荘に到着する頃には、冒険者達とバーウは割と仲良くなったと言えるだろう。
「BAW〜♪」
「バーウ! 会いたかったよぅ〜」
まだ幼い子爵令嬢がバーウに抱きつく。感動の再会。
「よう御座いました、お嬢様。御苦労様でした、冒険者の皆様」
執事らしき男が報酬を渡してくれる。
「元気でな‥‥」
手を振る冒険者達。たくさん苦労させられたが、少しは情も移るのか。
「BAW〜〜」
「また、バーウに会いに来てあげてねー☆」
少し寂しげな表情で冒険者達を見送るバーウと子爵令嬢であった。
いずれ彼らが英雄と呼ばれる日が来る事を願って。