●リプレイ本文
アイリスの護衛を引き受けた冒険者達。
「依頼成功の秘訣は、我々と依頼者がよく理解し合っている事。まぁ、その理解の第一歩ということで、まず、キミの好みのタイプとスリーサイズを教‥‥。いや、冗談デスヨ、これは冗ー談デスヨ!」
積極的に話しかけるファイターのリオン・ラーディナス(ea1458)。
「ふふっ、面白い方‥‥」
口に手を当てて笑うアイリス。
「ところで、アイリスさんって恋人さんの居場所、知ってるのかな?」
レンジャーのアリシア・シャーウッド(ea2194)が尋ねる。
「どうしてか、わかるんです‥‥きっと、この剣が彼の元へ導いてくれます」
剣を抱きかかえるアイリス。
「あの‥‥恋人、名前は何と? 冒険者なら、もしかしたら聞いた事があるかもしれません」
続いてレンジャーのリート・ユヴェール(ea0497)。
「ラサ‥‥と言います」
しかし、その名に聞き覚えのある者はいなかった。
少し残念そうなアイリス。
「元気出して下さい。恋人に会った時にそんな顔では、心配されますよ?」
そう励ますリート。
「ところで帰る予定から何日過ぎてるんだ? それ次第じゃ多少なり急いだ方が良いかもしれねぇ」
浪人の陸奥勇人(ea3329)が尋ねる。
「実は‥‥もう随分前に‥‥」
アイリスの言葉に、苦い表情になる冒険者達。
ラサが生きている可能性は低いかもしれない、と。
「でも、彼が呼んでいる‥‥そんな気がしてならないのです」
どこか遠くを見るようなアイリス。
「‥‥なんか気になるんだよね」
誰にとはなく呟くウィザードのカシム・ヴォルフィード(ea0424)。
言いしれぬ不安を覚えつつも冒険者は旅立つのだった。
道中。
「うーむ、暑い。こんな日は、戦士も戦死しちゃうね!」
取って置きのボケをかますリオン。
一瞬、空気が凍りつく。
(「‥‥む、必殺のネタなのに笑わない。何故!?」)
慌ててリオンをはたき倒す冒険者達。
「バカ、状況考えろ」
「ラサって人がもし戦士だったらシャレにならないよ」
アイリスに聞こえないように口々にツッコミを入れる。
「あ、しまった‥‥」
冷や汗を流すリオン。
「本当に暑いですわね‥‥私の依頼を受けて下さって、感謝しています」
当のアイリスは気付かなかったようだが。
「えっと、どちらから告白されたんですか〜?」
話題を変えたのは、ナイトのクラリッサ・シュフィール(ea1180)。
「実は‥‥私の方からです。‥‥いやですわ、恥ずかしい」
そう言って恥じらうアイリス。
そのまま恋愛相談に持ち込むクラリッサ。
「ひどいんですよ〜、相手が鈍すぎて気づいてもらえないんですよ〜」
思い出し、さめざめ泣き始めるクラリッサ。
「気を落とさないで下さいませ。諦めてしまってはダメですわ」
自分と重ねているのか、励まそうとするアイリス。
想いを寄せる者が居る女性同士、この話題は見事にヒットしたようだ。
「街で暴漢に襲われそうになった時、助けて下さったのがラサ様でしたの」
初めて出会った時の話など、なかなか盛り上がっているようだ。
「疲れてないかい?」
旅慣れているようには見えないアイリスを気遣う浪人の水野伊堵(ea0370)。
「伊堵さんこそ、どうかなさったんですの?」
左目だけ涙目になっている伊堵に尋ねるアイリス。
「昔ちょっとね」
そう言って剣以外の荷物を持つ。
「親切にして頂いて、有り難う御座います」
丁寧に頭を下げるアイリス。
「ああ、そうだ。彼氏の見た目についてざっと教えてくれ。手分けして捜す場合もあるしな」
そう尋ねる勇人。
「ラサ様は、それはもう素敵な方なんです。颯爽としていて‥‥」
文字通り恋する乙女のように彼の事を語るアイリス。かなり美化されていそうである。
やがて日も暮れ、野営準備をする冒険者達。
あまり物騒な話は無いらしいが、護衛任務という事もあり、念のため夜間は四交代で見張りをする事になっている。
「剣とは常に手入れをしておかなければすぐに錆付いてしまう物だ。手入れのしてない剣ではその恋人も困るだろう。俺はこれでも鍛冶屋だ。良ければその剣の手入れを手伝わせては貰えんか?」
そう申し出たのは、寡黙なウィザードのオリバー・ハンセン(ea5868)。
申し訳なさそうに首を振るアイリス。
「今側に居ない恋人の大切な剣だ。他人に触れさせたくないと思うのも当然だ」
そう言うオリバーに、少しだけ剣を抜いて見せるアイリス。
その刀身は不思議な輝きを持っていた。
(「魔法の剣か‥‥? いや、何か違うようだが」)
「男にはこうと決めたら前に突き進む時があるもんだ。それが何か大切な事に関わっているなら尚更な。彼氏もそういったクチだったんだろうぜ」
その刀身を見て、男を語る勇人。
「そう‥‥ですわね。浅はかなことをしてしまって、彼に迷惑を掛けてばかりで‥‥」
少し沈んだ表情になるアイリス。
「そうそう! MOONRISEってサーカス団知ってる? 団長がモノスゴイ人でさ〜」
その雰囲気を払拭しようと明るく話しかけるリオン。
「存じませんわ。リオンさんって物知りなのですわね」
感心するアイリスに、間髪入れずに話を盛り上げるリオン。
「ここは景気づけに歌でも歌いましょうか♪」
歌い始めるリート。
そうして夜は更けていく。
夜間の見張り。
伊堵&リート組。
「最近、人も化物も斬ってないから‥‥欲求不満なのに‥‥」
物騒な話がない事を逆に残念がる伊堵。
それを聞いて苦笑するリート。
幸か不幸か、何事もなく交代時間となる。
リオン&クラリッサ組。
「まさかとは思うけど、彼女って、ゆ‥‥。いや、まさかね」
呟くリオン。
「オレってば想像力豊か過ぎ!」
そして、自分でツッコミを入れてみる。
「そういうの、苦手なんですよ〜」
髪の手入れをしていたクラリッサの手が止まっていた。
アリシア&カシム組。
「まぁ、一応念のためにね」
『ブレスセンサー』を使いつつ、見張りをするカシム。
「一人で思いつめるより周りに話す方が楽な時もあるよ? それが愚痴であれ相談であってもさ」
何やら凹んでる風のアリシアに話しかける。
「‥‥ちょっと考えれば当然のコトだったのに、その時は全然気づけなくて」
ぽつりぽつりと話し始めるアリシア。
前の依頼の時に死なせてしまった子供の事を。
「自分の無力さを思い知らされるようで今でも『痛い』んだよ‥‥」
それを黙って聞いているカシム。
「‥‥私が出来ることなんてたかが知れてるけど。それでも私の目に見える所、手の届く所くらいは助けてあげたい。守ってあげたい」
そう決意する。
「だから私、これからも精一杯冒険者を続けるつもり☆」
そして彼女は微笑むのだった。
勇人&オリバー組。
「しかし、怪物もあまり出ない方面から期日を過ぎても戻らないってのがどうも引っ掛かる。冒険ってのは何処に落とし穴があるか判らねぇ‥‥」
勇人が呟く。
「‥‥行けば解る。警戒は怠らないようにしよう」
黙々と焚き火に薪を足していたオリバーがそれだけ答える。
「そうだな‥‥」
その後もこれと言った危険もなく、旅は順調だった。
どことなく悲しげな雰囲気を漂わせていたアイリスも、冒険者達との旅で、随分明るくなっていた。
そして。
森の中、ぼーっと立っている男を発見する。
「ラサ様!」
その姿を見た途端、駆け寄って胸に飛び込むアイリス。
「‥‥アイ‥‥リス?‥‥なぜ、ここに?」
精気の無かった彼の顔に、少しずつ微笑みが戻る。
「アイリス! 会いたかった!」
強く、強く抱きしめる。そして、
「すまない‥‥これひとつしか見つけられなかった」
握りしめていた小さな宝石を見せるラサ。
「綺麗‥‥。でも、私はラサ様さえ側に居て下されば、それだけで幸せでしたのに‥‥」
その手を両手で包んで胸に当て、
「ごめんなさい、私が愚かでした。剣が無くてお困りでしたでしょう‥‥?」
おずおずと剣を差し出すアイリス。
「オレこそ馬鹿だった。キミを待たせてばかりで‥‥」
そして、二人は見守っていた冒険者達に向き直る。
「よかったですね〜」
もらい泣きしそうなクラリッサ。
「ここまで私を連れてきて下さって、本当に有り難う御座いました」
天から光が射したかと思うと、二人の姿が少しずつ薄れていく。
「皆様。実は私は、もうこの世の者ではありません。帰ってこない彼を待ち続ける私に両親は、もう諦めろと縁談を決めてしまったのです。この剣を届けようと両親の元を飛び出し、そこで私は事故に遭って‥‥」
「そうだったのか。すまない、アイリス‥‥。無謀な冒険に出て、オレは命を落としてしまった。‥‥こうして彼女とまた会えたのはキミ達のおかげだ」
微笑み、抱き合いながら二人は成仏していく。
見送りながら、鎮魂歌を歌い始める伊堵。
「主よ、永遠の光明を彼らの上に輝かせ給え
とこしえに、主の聖人らとともに
慈悲深き主よ。主よ、永遠の安息を彼らに与え
絶えざる光を彼らの上に照らし給え
とこしえに主の聖人らと共に。慈悲深き主よ」
伊堵に合わせて共にリートも歌う。
「これで、良かったんだよね‥‥」
アリシアの中で子供の微笑みと二人の微笑みが重なる。悲しくはあるが、痛くはない。
「お幸せに、ね」
呟くリオン。
「幸せになンなよ‥‥グす」
伊堵の左目から涙がこぼれ落ちる。
残された剣と宝石は想いを果たしたためか、輝きを失っていた。
生きて再会することが出来なかった二人の魂の想いが、それらに宿っていたのだろうか。
オリバーは『ヒートハンド』を使って、剣の柄に宝石を埋め込み、二人の墓標にする。
「これで、もう二度と離れ離れになる事は有るまい。俺にはこれくらいの事しかしやれん。二人の魂に安らぎあれ」
黙祷するオリバー。
「剣も彼女もこれで元の鞘に納まった、か。それにしても、なぁ」
複雑な表情の勇人。
「‥‥はうっ」
呆然と突っ立っていたクラリッサが、突然倒れ込む。
「‥‥あらら、気絶してるみたいだね」
駆け寄って抱き起こすカシム。
不思議な体験をした冒険者達は、それぞれの想いを胸に帰路に着く。
後からギルドで聞いた話だが、数年前、その辺りには遺跡が発見され、冒険者達はこぞって探索に向かったという。財宝と名声を手に入れた者、帰らなかった者など様々だったそうだ。
将来、彼らが大成し、英雄と呼ばれる日が来ることを願っている。