●リプレイ本文
お茶会の招待を受けた冒険者達が紅茶男爵邸へと集まる。
「あ、あの‥‥この度はお招きにあずかりまして、光栄に存じます」
照れながらペコリと御辞儀するレンジャーのレオン・スボウラス(ea0800)。友人のリト・フェリーユと一緒だ。
「ミーちゃんは、御飯が食べられる依頼だからって聞いて来たのら〜〜♪」
イギリス語を修得していないジプシーのミーファ・リリム(ea1860)はシフール共通語で話している。レオンや男爵家の者が通訳できるので、それほど不自由はしないようだ。
「神聖騎士のラス・カラードと申します。このたびはお招きいただきありがとうございます男爵様」
礼服で正装している神聖騎士ラス・カラード(ea1434)。
無精髭は綺麗に剃っているが、着流ししか持ち合わせない浪人の来生十四郎(ea5386)は無礼を詫び、
「良ければ好きに使ってくれ」
手土産の毛皮を渡す。彼は猟師を生業としていた。
「有り難く頂いておこう。存分に楽しんでいってくれ」
男爵が挨拶を返していく。
「この度のお茶会にご招待いただきました事、誠に栄光の極みにございます、男爵様。冒険者として駆け出しの弱きエリン・コナハトでありますが、せめてもの心づくしとして、拙い音楽と詩を男爵様とご家族、ご参加されてます皆様に御捧げ致します。どうぞ耳に苦しい時には、男爵様の暖かき御心で、このエリンの不首尾をお笑いください」
「紅茶男爵様、何かリクエストはありますか?」
招かれた礼に歌と演奏の準備をするバードのエリン・コナハト(ea6008)と、ヴァージニア・レヴィン(ea2765)。
「うむ、そうだな‥‥」
暫し考えた後、幾つか雰囲気に合わせた曲をリクエストする男爵。
皆、思い思いにお茶会を楽しんでいる。
ジャパン出身者の思い浮かべるお茶会とは違う雰囲気に戸惑う十四郎。
浪人暮らしが長かったためか、見るもの全てが珍しく、表面上はくつろいでいても動きはぎこちなく内心落ち着かない様子。
「貴族さんの自慢の料理なのらね〜〜? 楽しみなのら〜〜♪」
御馳走の並ぶテーブル飛び回り、料理を頬張るミーファ。
「この、お茶美味しいですね」
ウィザードのセレス・ブリッジ(ea4471)。楽しみにしていた紅茶が評判通りの美味しい物で満足している様子。
「さすがは『紅茶男爵』の異名を持つ男爵様の紅茶ですね。とても美味しいです」
礼儀正しく紅茶を味わうラス。
「紅茶も美味しそうなのらね〜〜♪」
入れたての紅茶をふーふー冷ましながらミーファ。
紅茶を誉められ、男爵も御満悦のようだ。
「男爵様、この紅茶の種類は?」
紅茶の香りを楽しみながら、先ほど独唱を終えたヴァージニアが尋ねる。
「よくぞ聞いてくれた。この紅茶は我が輩自慢のブレンドでな。バロンティーと名付けたのだ。詳しいブレンドは秘密だがな」
自慢げに答え、男爵が笑う。
「‥‥紅茶も良いですが、緑茶が懐かしくなります」
男爵と紅茶を楽しむ浪人のとれすいくす虎真(ea1322)。恋人の速水兵庫と同伴である。
「緑茶とはジャパンのお茶だったな。なんでも原料は紅茶も緑茶も同じとか」
お茶談義に花を咲かせる男爵。
十四郎も加わり、ジャパンの茶会とイギリスの茶会の違いについて話す。
「虎真殿、素敵だ‥‥」
その光景を絵に描く兵庫。
「ギルドの依頼の中には異国文化に関わる依頼も多くありまして‥‥」
ジャパンの話が出た所で、冒険で経験した異国文化の話をするラス。
「特に最近はジャパン文化に触れる機会が多かったですね。『トーフ』だとか『フンドシ』だとか‥‥。僕が経験したジャパン文化の中でも特に興味深かったのはジャパンの食文化についてですね」
「ほうほう」
続きを促す男爵。
「ジャパンの魚料理の中には火をまったく通さずに食べるものがあるのです。『サシミ』というのですが、これには驚きました」
「なんと、魚を生で食べるのか!?」
「サンマをこの調理法で食べさせていただきましたが、とても美味しいものでした」
「今度のお茶会に出してみたいものだな‥‥」
ラスの話に、そんな事を呟く男爵であった。
ヴァージニアの竪琴に合わせて、エリンが歌う。
「エメラルドの大地よ、清らかな風よ
自由に大空へ羽ばたく小鳥達が、末期の目に写った景色
彼への愛は春に芽生え、未来への夢と歌える歌があるのに
私はただ記憶と共に一人、大地を流離う‥‥♪」
話声や歌声に耳を傾け、飲んだことのない紅茶や普段見たこともない料理に首を傾げる十四郎。
初めての味わいに、どう感想を述べて良いのか分からないところだが、失礼にならないよう「美味い」と答えておくのだった。
「最近、先祖の記録が見付かりまして‥‥。コレはその時一緒に見付かった遺産です。なんでもワイバーンを捕まえたとかで‥‥その功績で男爵位を受けたそうです」
ホーヘン十字勲章を見せるレオン。
「ほほう、素晴らしい」
興味深そうに勲章を見る男爵。
「僕の先祖といってもジャイアントでして‥‥。僕の血族を引き取ってくれたそうです」
「では御先祖にも負けぬ偉業を成し遂げねばならんな。頑張りたまえ」
「僕は三つ子の長男で、パリに次男のラオンが、江戸に末っ子のヴァルテルがいます。なかなか連絡は取れませんが、元気でやっていると聞いています」
「冒険者とは世界を飛び回っておるのだなぁ」
「いつか三人で暮らしたいですねぇ。冒険の自慢話でもしながら‥‥賑やかに」
レオンの話に遠い目をする男爵であった。
演奏の合間、せっかくの御馳走を頂くヴァージニア。
「この料理はなぁに?」
普段お目に掛かることのない高級料理をひとつひとつ給仕をしていた青年に尋ねる。
「これはですね‥‥」
丁寧に答えていく給仕。なかなかハンサムである。
最新の話題であるケンブリッジ奪還の冒険譚を話すセレス。
「犠牲者は出ましたが生徒には被害なかったですし」
「うむ、無事ケンブリッジが奪還されたのも、冒険者達の働きによるものだと聞いておる。次代を担う子供達の多くが救われたと聞き、我が輩も感心しておったところだ」
暫く、ケンブリッジの話題に盛り上がる。
続いて、冒険譚を話す虎真。
岩固一鐵などの魔剣を貴族が集めてるとか、貴族の令嬢に褌は気に入られないなど、意外に貴族関連の話題に精通していた。
「先ほどラスの話にも出た褌か。近頃、キャメロットでも話題の品だな。さあ、他にも色々な話を聞かせてくれ」
「こっちに来て最初に受けた依頼は何だったかね。確かひまわ‥‥いや何でもない」
男爵に話しかけられ、冒険譚を話そうとしたが雰囲気を察してやめる十四郎。
「ひまわ?」
尋ね返す男爵に、良いタイミングでミーファが話を繋ぐ。
「ミーちゃんはノルマンからやってきたから、他の人とは違う冒険のお話が出来るのらよ〜」
「ぜひあなた方の国の話をお聞かせください。実に興味があります」
興味津々に尋ねるラス。
ジャパンに伝わる『闇鍋』を食べた話や、ウナギを捕まえて食べた話、お呪いのお菓子売ってるお店の話を通訳して貰いながら話すミーファ。
「あと、ノルマンでもお茶会やるんらけろ、御飯は美味しいけろお茶が美味しくないのらよね〜〜」
「ふむ、ノルマンにはまだ美味い紅茶が入っておらぬのだろうか‥‥?」
真偽のほどはともかく、何やら考え込む男爵。
続いて話し始めたのはヴァージニア。
「では、酒場で微笑みを浮かべつつ死んでる人達が見つかった殺人事件の話を‥‥」
ストーリーテラーのスキルを活かして、これまでの冒険譚を話す。
その話に引き込まれていく男爵と冒険者達。
「‥‥真相は同じ漁師仲間の一人が薬飲ませて殺したんだけどね。とある呪術の完成の為だったの!」
その他、橋の真ん中に居座って動こうとしなかったオーガの話を面白可笑しく話すなど、なかなか好評だったようだ。
「みなさん、色々な冒険をしてるのですね。私も負けていられません」
感心したようにセレス。新たな決意も芽生えたようだ。
ちら、とカップルを見遣ったヴァージニアは、ムードを盛り上げようと恋の曲を歌い始める。
「うん、美味しい。コレ弁当箱に詰めてくれます?」
などと、ちゃっかりしている虎真。
期間に余裕があるので、明日は兵庫と出掛けようというのだ。「虎真殿〜☆」と抱きつかれている。
なかなかイイ雰囲気である。
「ケンブリッジ奪還成功後のお茶は一層美味しいわね。頑張れてよかった‥‥」
「福袋買いましたか? 僕、どうしても欲しい物があってたくさん買っちゃいました」
照れ笑いしつつ、リトとケンブリッジでの話題に盛り上がるレオン。
「オーガパワーリングって言うらしいんですけど‥‥手に入りませんでした。でも、ルースターと空飛ぶ箒が手に入ったんで満足です」
ルースターは馬の名前のようだ。
「今度、箒にも乗せてね☆」
こちらもなかなかイイ雰囲気だ。
楽しかったお茶会もそろそろお開きの時間が近づいてきた。
「薔薇の上に彼の血を見る
星の煌きは彼の瞳に宿り
消えることのない雪は彼の体を浮かばせる
そして彼の涙は空より落つる
全ての道には彼の足跡がある
心臓の鼓動は永遠の海の波に喩えよう
苦難の茨は彼の冠に相応しく
全ての森の木々は彼の生きたる証として残そう‥‥♪」
最後の歌を歌い終えたエリンが皆に御辞儀をする。
「心に響く歌ですね‥‥☆」
聴き惚れていたセレスが惜しみない拍手を送る。
「男爵様のような異国文化に興味を持たれる方とお会いでき、とても光栄でした。機会があればまたお茶会にお招きさせていただきたいですね」
一礼するラス。
続いて冒険者達も男爵に礼をしていく。
「うむ、今日は楽しんで貰えたようで何よりだ。我が輩も楽しませて貰ったぞ。またいずれ冒険者達を呼ぶこともあるだろう」
参加した冒険者達一人一人に声を掛けていく紅茶男爵。
「それでは、男爵様に神の御加護があらん事を‥‥」
最後まで礼儀正しいラスであった。
こうして冒険者達は英気を養い、次なる冒険へと備えるのだった。