【聖人探索】ギルフォードに眠る物

■ショートシナリオ


担当:紅茶えす

対応レベル:9〜15lv

難易度:やや難

成功報酬:6 G 48 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月12日〜09月19日

リプレイ公開日:2005年09月16日

●オープニング

 ――それはオクスフォード候の乱の開戦前まで遡る。
「王、ご報告が」
 メレアガンス候との戦端が開かれる直前のアーサー王を、宮廷図書館長エリファス・ウッドマンが呼び止めた。
 軍議などで多忙のただ中にあるアーサー王への報告。火急を要し、且つ重要な内容だと踏んだアーサーは、人払いをして彼を自室へと招いた。
「聖杯に関する文献調査の結果が盗まれただと!?」
「王妃様の誘拐未遂と同時期に‥‥確認したところ、盗まれたのは解読の終わった『聖人』と『聖壁』の所在の部分で、全てではありません」
 エリファスはメイドンカースルで円卓の騎士と冒険者達が手に入れた石版の欠片やスクロール片の解読を進めており、もうすぐ全ての解読が終わるというところだった。
「二度に渡るグィネヴィアの誘拐未遂は、私達の目を引き付ける囮だったという事か‥‥」
「一概にそうとは言い切れませんが、王妃様の誘拐を知っており、それに乗じたのは事実です。他のものに一切手を付けていないところを見ると、メレアガンス候の手の者ではなく専門家の仕業でしょう」
「メレアガンス候の裏に控えるモルゴースの手の者の仕業という事か‥‥」
 しかし、メレアガンス候との開戦が間近に迫った今、アーサーは円卓の騎士を調査に割く事ができず、エリファスには引き続き文献の解読を進め、キャメロット城の警備を強化する手段しか講じられなかった。
 ――そして、メレアガンス候をその手で処刑し、オクスフォードの街を取り戻した今、新たな聖杯探索の号令が発せられるのだった。

 ここは冒険者ギルド。
 冒険者達が仕事の斡旋を求めて集う場所である。
「仕事の斡旋か? 凄い依頼人が来てるんだが‥‥」
 緊張したように冒険者ギルドのおやっさんが依頼人を紹介する。
「私はダゴネット・フール(ez0097)、円卓の騎士を務めている」
 その寡黙な大男は簡潔に自己紹介し、話が他者に聞かれないよう、別室へと移動してから依頼内容を話し始めた。
「新たな聖杯探索の号令が発せられたのだ。私は探索行を共にする冒険者を求め、ここへやってきた。
 目的地はギルフォード地下迷宮。そこに『聖壁』のひとつがあるという」
 ダゴネットは、そう手短に依頼を告げた。

 キャメロットから南西二日ほどの所にギルフォードという街がある。
 ギルフォード男爵家本邸の庭に、地震によって出現した穴は、謎の地下迷宮へと繋がっていた。
 地下迷宮は冒険者達によって探索が進められており、つい最近、地下三階への階段が発見されている。そして、地下三階は、それまでの迷宮の雰囲気から一転、教会施設らしきものと一体化した造りになっているというのだ。
 地下迷宮そのものが、この教会施設、ひいては『聖壁』を守るために造られたものかも知れない。
 果たして、ギルフォード地下迷宮には何が待つのか?
 この探索行は、イギリス英雄の一人として名を残すチャンスに違いない。

●今回の参加者

 ea0123 ライラック・ラウドラーク(33歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea1131 シュナイアス・ハーミル(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea2578 リュウガ・ダグラス(29歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4137 アクテ・シュラウヴェル(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea9420 ユウン・ワルプルギス(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

レイル・セレイン(ea9938)/ 陳 狼焔(eb1622

●リプレイ本文

「ダゴネット卿とは二度目の探索行だな、今回もよろしく」
 そう挨拶を交わすファイターのリ・ル(ea3888)。
「地下の教会かぁ‥‥お布施持ってかなくても大丈夫?」
「敬虔なのは良いが、役立ててくれる者はいないだろうな」
 少しおどけて尋ねるファイターのライラック・ラウドラーク(ea0123)に、笑って応えるダゴネット。
「リュウガ殿、神のご加護があらんことを願っています」
 神聖騎士リュウガ・ダグラス(ea2578)に、罠に関するレクチャーを出来る限りする狼焔。一朝一夕に身につくものでは無いが、役に立つことはあるだろう。
(「慎重に行こう‥‥」)
 色々考えを巡らせている志士の閃我絶狼(ea3991)。以前、迷宮の入り口整備と護衛をしたが奥へ入るのは初めてだ。また『筋肉騎士見習い』の彼にとって、筋肉騎士団が紅茶男爵に仕官した事は喜ばしい。
「‥‥でもまあ、あの頃とは事情が違うかな?」
「ま、頑張ってらっしゃいな」
 そう励まして、送り出すレイルであった。

 ギルフォード男爵邸。
 紅茶男爵に面会しておくダゴネット達。堅苦しい挨拶を交わすが、お互いの立場を考えれば仕方のないことだ。
「お久しぶりです。筋肉騎士団の面々はしっかり勤めていますか?」
 『筋肉騎士団名誉戦士』として挨拶するリル。
「勿論だとも。リル君、絶狼君も筋肉騎士団ゆかりの冒険者として期待しているぞ」
 そうした世間話から場が和む。
「ところで、この迷宮内に入るのは俺達だけの筈だな?」
「いえ、この迷宮は冒険者に開放しておりますので、他にも探索者はおります。ですが、出入りは管理しておりますので、不審者の侵入は許しておりません。御安心を」
 ナイトのシュナイアス・ハーミル(ea1131)の問いに答えたのは紅茶男爵の執事だ。
 一通り、迷宮の事を確認し終えた冒険者達に、
「もしよろしければ、任務達成の後、ティータイムを御一緒して頂けますかな?」
 最後に紅茶男爵はそう言って送り出した。

「噂通り、気さくで素敵な方ですね」
 そう微笑むウィザードのアクテ・シュラウヴェル(ea4137)。紅茶男爵の事だろう。
 管理小屋で地図を受け取り、迷宮に挑む。
「地下迷宮‥‥ここに聖壁の1つが眠っているかもしれないのですね。必ず成功させなければ。‥‥それに、聖壁を見る機会など、あと数百年生きても滅多にあるものではないでしょうしね」
 ウィザードのユリアル・カートライト(ea1249)。意気込みを感じられる。
 ランタンを灯し、隊列を組む。
「砂や埃に装置が隠れているから注意してね、おねーさんと約束よ」
 迷宮の罠に対しては、鍵開けや戦場工作の出来るライラックが要となる。
 地図を確認し頷くウィザードのユウン・ワルプルギス(ea9420)。
「ええと、ここがこっちの道と繋がってるから‥‥うん、近道になったみたいだね」
 彼女の『ウォールホール』によって壁を通り抜け、複雑な迷宮を近道したのだ。『アースダイブ』で壁の向こう側を事前に調べ、『バイブレーションセンサー』も併用し、モンスターとの遭遇も避けている。攻撃手段の少ない彼女は、仲間が疲弊せずに聖壁に到達できるよう配慮しているのだ。
 ユリアルも『バイブレーションセンサー』を使えるので、ある程度は交代で使用している。

 こうして、ほぼ最短距離で地下三階へと到着。情報通り、教会施設と一体化したような造りになっているようだ。とは言え、通路は複雑に入り組み、『聖壁』を探すのは簡単では無さそうだ。
 不審者の出入りは無いとの事だったが、敵はデビルという情報もあり、何らかの手段を講じて入り込んでいる可能性は高い。
「再現の神、大いなる父の力を持って聖なる結界をここへ! ホーリーフィールド!」
 背後からの不意打ちに備え、最後尾を守るリュウガ。
「‥‥にしても、地下迷宮に教会施設か、違和感有りまくりだな‥‥『聖壁』か、果たしてどんな力を持っているのやら」
「聖杯へ至るまでのヒントが描いてある壁‥‥でしたかしら? 絵が描いてある壁を探すのですね」
 周囲を警戒しつつ、絶狼とアクテ。
「あ、ちょいタンマ。あそこの壁が怪しいなー」
 罠がありそうな場所を調査するライラック。怪しい所はリルが六尺棒で突いて協力している。
 解除の難しい罠は、ユウンが『サイコキネシス』で遠距離から作動させ、被害を受けないようにして進んでいく。魔法を連続使用するため、採算度外視でソルフの実も使用している。
「随分、ユウンに負担をかけているな、そろそろ休憩するか?」
「まだ大丈夫だよ。神に感謝を」
「ああ、神に感謝を」
 ユウンを気遣うダゴネット。彼女は『聖壁』発見に一歩でも近づけるよう、出来る限り探索を続けた。
 その甲斐もあって、予想より、かなり探索を進める事が出来た。ちなみに『神に感謝』という合い言葉を会話に交える事で、デビルが仲間のフリをして入り込むのを見抜く作戦なのだ。
 その後、小部屋で休息。ダゴネットを含め、三班三人ずつの交代で見張りをする。

 休息を終え、探索を再開しようと部屋を出た所で、一人のクレリックらしき人物と出会った。
「ああ、助かりました。迷宮探索している冒険者の方々ですね? 仲間とはぐれてしまいまして。地上まで御一緒願えないでしょうか?」
 丁寧な言葉遣いで近づくクレリック。別段、不自然な所は無い。表情からも敵意は窺えない。
 しかし、冒険者達は警戒を解かなかった。
 おもむろにスクロールを取りだし、使用するアクテ。
「どうかなさったのですか?」
「残念でしたわね、悪魔さん」
 使用したのは『SCROLLofリヴィールエネミー』。クレリックの隠された敵意が青白い光となってアクテには見えるのだ。
 身構える冒険者達。
「何を言って‥‥くっ、正体を見破るような魔法でしたか。これは計算外でした‥‥罠に落としてから、と考えていたのですが‥‥」
 クレリックの変身を解き、現れたのは白鳥の翼を持った獅子。ヴァブラというデビルだが、それを知る者はこの中にはいない。
「どうやら、お出ましの様だぜ!」
 『ホーリーフィールド』を発動させるリュウガ。
「貴方に炎の加護を」
 リュウガに『バーニングソード』を掛けるアクテ。
「悪魔ってのは厄介だよな、普通に殴っても効きやしねえ‥‥魔剣よ、来い!」
 『クリスタルソード』を発動させる絶狼。
「頼むぜ、ユリアル!」
 ユリアルの作り出した『クリスタルソード』を受け取るリル。
 『オーラパワー』を発動させるシュナイアス。
 デビルに普通の武器は効かないが、幸い冒険者達には攻撃手段が充実していた。
「何の策もなく戦うのは、あまり好きではないのですが‥‥」
「だーっ、悪魔が相手なら天使でも雇えよなっ!」
 ヴァブラの鋭い爪を『オフシフト』で回避するライラック。だが、今の動きで、そのまま戦っても充分に脅威となる戦闘能力を持っているのは分かる。
「再現の神、大いなる父の力を今ここ示し、邪悪なる敵を撃破せよ! ブラックホーリー!」
 攻撃魔法を撃ち込むリュウガ。
 挑発するシュナイアス。『カウンターアタック』からの短期決着を狙いたいところだが、
「その手には乗りませんよ‥‥さあ『仲間を攻撃しなさい』フォースコマンド!」
 高速詠唱で行動を強制する魔法を掛けるヴァブラ。
 辛うじて抵抗したシュナイアスは『オーラエリベイション』を発動させ、精神を守る。
 続いてアクテは、リルに『フレイムエリベイション』を掛ける。全員に掛けていきたいところだ。
「余計な真似を‥‥」
 舌打ちするヴァブラ。冒険者達は攻撃を集中させるが、ヴァブラは回避能力も高く、大技を命中させる事は難しそうだ。鋭い爪や牙による攻撃に加え、魔法を操る。恐るべき力を持ったデビルなのだ。

「何としても倒すぞ!」
 ダゴネットに冒険者達が続く!
「アグラベイション!」
 動きを鈍らせる魔法で援護するユリアル。
「地獄に落ちろっ! ‥‥あ、この場合は‥‥ゴートゥホーム!!」
 エスキスエルウィンの牙で斬りつけるライラック!
 絶狼の『ブレイクアウト』からの『スマッシュ』!
「故郷に送り返してやると言っているんだ。感謝して逝け!」
 更にシュナイアスとリュウガの『スマッシュ』!
「その体に十字を負って滅びちまえっ」
 リルのクリスタルソード二刀流『ダブルアタック』!
「ぐうぅっ、私が手傷を負わされただと‥‥!」
 まだ致命傷には至らないが、何発かの攻撃がヴァブラに命中し、ダメージを与えている!
「だが、まだ終わったわけではありませんよ‥‥」
 そう言うと、ヴァブラの姿が突然消えてしまった。
 まだ気配はある。身構え、警戒を解かない冒険者達。
 だが、次の瞬間、ヴァブラの気配は逃げを打っていた。
 追ってトドメを刺したい所だが、ここは迷宮。無闇に深追いするのは危険だ‥‥。

 完全にヴァブラの気配が消え、警戒は怠らないまでも臨戦態勢を解く冒険者達。
「こう物騒だと、やっぱり魔法の武器なんてのも必要なのかねぇ」
 効果時間が切れ、消えていく『クリスタルソード』を見てリルが呟く。
 探索再開である。
 戦闘では、あまり役立てなかったユウンだが、再び魔法を駆使し、効率よく探索できるよう全力を尽くした。

 そして、ついに教会施設の中枢、大聖堂へと到着した。
「これが‥‥聖壁!? って、別に大した事無いな。こういうのに詳しくないけど」
 失礼なことを言うライラック。
 対照的に、ダゴネットは神聖な雰囲気を醸し出す壁画に息を呑む。
「‥‥はっ」
 同時にデビルの気配に気付く。
「くっ‥‥間に合いませんでしたか。私の仕事は聖壁発見の阻止、あるいは破壊‥‥だったのですがね」
 姿を現すヴァブラ。
「破壊などさせん!」
 剣を構えるダゴネット。冒険者達も戦闘体勢だ。
「御安心を‥‥時間を稼ぐはずが、逆に手傷を負わされ、破壊すらままならないとは。今日の所は大人しく引き下がるとしますよ、失礼」
 再び姿を消したヴァブラの気配は、すぐに消えてしまった。

 見事『聖壁』を発見し、その伝承を得たダゴネット達は、気を抜くことなく地上を目指し、迷宮を脱出した。
 約束通り、紅茶男爵とティータイムを共にし、冒険者達は帰路に着く。
 そして、彼らのもたらした伝承によって、聖杯へ大きく近づく事になる。冒険者達の名は、この偉業の中に必ずや残されるだろう。