●リプレイ本文
依頼を受けた冒険者達。
「このままでは墓参りも安心して出来ぬ上に、何より墓に眠る方々が安心して成仏できないでござるよ」
「人間サマの眠りを妨げるなんざ、バチ当りもいいとこだ」
「生きるためとはいえ、お墓を荒らすとは許されません」
陰陽師の山吹葵(eb2002)、浪人の龍深冬十郎(ea2261)、神聖騎士フレア・レミクリス(ea4989)達が、ヴァルチャーの所業を非難する。
「禿鷹とて生きる為には食わねば成らぬ。退治依頼ゆえ余り気乗りはせぬが、死者を弔う事すらままならぬのでは仕方があるまい」
そう腹を決める武道家の明王院浄炎(eb2373)。彼には、厳しさの中にも温かみのある雰囲気がある。
「ふう‥‥三年前に空腹で行き倒れていたところを突きまわされたあげく、身包みまで持っていかれた恨み、今こそ晴らさせてもらいますよ!」
何やらヴァルチャーに個人的な恨みがあるらしく、鼻息が荒いレンジャーのロソギヌス・ジブリーノレ(ea0258)。
(「いえ、決して『禿』に惹かれたのでも、導かれたのでもありません‥‥たぶん‥‥きっと‥‥私は、頭を剃っているだけですし‥‥」)
悶々と考え事をしている神聖騎士ショコラ・フォンス(ea4267)。『禿』に特別な感情があるのだろうか。
それぞれの思いを胸に、冒険者達は依頼の村へと出発した。
道中。
「そういや、ここ何ヶ月も誰かと一緒に旅に出ることなかったわ」
天涯孤独なレンジャーのシェアラ・クレイムス(ea4049)。田舎者なのを気にして、丁寧に話していたのだが、最近は元の話し方に戻りつつあるようだ。
「禿鷲が相手なら、狩猟用の道具があると便利です」
猟師として一流の腕を持つレンジャー、マヤ・オ・リン(eb0432)。
「俺も手伝おう」
鍛冶の出来る浄炎が協力を申し出る。浄炎一人で作れる物ならばセブンリーグブーツで先行し、村で鍛冶場を借りるなどの方法もあるのだが、どちらかと言えば、これは猟師の領分であり、マヤが中心となって必要になりそうな道具を作成する事になる。
野営の時間に出来る事は限られているが、少しでも準備をしておく事が出来れば、それだけ依頼の達成にも有利になるというものだ。
「いろんな戦術とかあるんやね、勉強になるわ」
と、感心しているシェアラ。
また、マヤ、冬十郎、ロソギヌス達が、野営のついでに猟師セットを使って罠を張り、獲物を捕っておくのだった。
そうして、依頼の村へと到着した冒険者達。
馬やセブンリーグブーツで、到着前日から少し先行していたショコラと浄炎が、村の墓地周辺の様子を仲間達に伝える。
それを参考に、墓地の裏手へとまわる冒険者達。
得意の占いで、そこが適所かどうか占う葵。
自ら『葵ちゃんの日替わり占い』と呼ぶ今日の占いは‥‥ひじの内側へ小枝を挟み込み、力を込めたとき折れれば吉、というもの。
結果は見事真っ二つ。
「『ばっちぐー!』でござる」
吉と出たようだ。
さてさて、道中に捕った獲物を並べる。
それを見て喉を鳴らすシェアラ。だが、
(「食べるのは我慢や‥‥大きい鳥肉のために頑張るで」)
どうやら、これを餌に禿鷲を誘き寄せる作戦のようである。
「軽すぎると運び去られてしまいますから」
そう言って、餌の腹に石を詰め、重くしておくマヤ。これも猟師の知恵だろう。
夜の間に、餌を中心に罠を仕掛けていく冬十郎。罠ごと飛ばれないよう、木に結ぶなどの工夫をし、更に餌の血を撒いて罠の臭いが目立たないようにしている。
「勉強になるわ」
それを見習いつつ、シェアラも網を使って罠を張る。
「浄炎殿にコレで絡め取られたら、良く食い込みそうでござるなぁ‥‥」
網を張るのを手伝いながら、そんな誤解を招く発言をする葵。何だか視線も熱い気がするが、気にしないでおこう‥‥。
さあ、これだけ周到な罠を張っておけば、餌を持ち逃げされるような事は無いだろう。
「あとは獲物が近づくのを待つだけです」
仕上げに、罠から手頃な距離の場所で、草を使ってカモフラージュするマヤ。一緒に隠れる冒険者達。
体の下には毛布を敷いてあり、待ち伏せも比較的楽である。
そして、夜が明け、待つこと暫し。
ギャアギャアうるさい鳴き声と、大きな羽音が聞こえる。ヴァルチャーどもに違いない!
「拙者を食べても、美味しくないでござるよ!」
なぜか、葵が追われている。その手には冬十郎に分けて貰った餌の一匹。『チャーム』を使ってヴァルチャーを罠に誘き寄せようとしたのだが、四羽一斉に飛び掛かられてしまったのだ。
慌てて逃げてきたのだが、このまま行けば、うまく罠に誘い込めそうではある。
血の臭いを嗅ぎつけたのだろう、逃げる葵から、餌の方へと目標を変えるヴァルチャー。
「「「Gyaaッ!?」」」
餌をついばみ始めた所で罠が作動し、驚いて飛び立とうとするヴァルチャーだが、罠に挟まれてしまっている!
そこへ、シェアラがスリングで攻撃を仕掛け、マヤが作っておいた狩猟道具を投げつけ、絡みつかせる!
「これは村の皆さんの分! そしてこれが墓で眠る人たちの分! そしてこれが三年前の私の分ですっ!」
木に登って隠れていたロソギヌスが、矢を射掛ける!
「不動明王の浄炎が御相手いたす」
射撃や魔法で戦う仲間達を守るよう前衛に立つ浄炎。『オーラボディ』発動!
同じく冬十郎も前衛に立ち、まだ残っていた罠にダガーを落とし、作動させてから前進する。戦闘中に残しておくと、何かの拍子に誰かが掛かってしまう可能性もあるからだ。
「‥‥ディストロイ!」
「あなたの動きを封じます」
二人に守られるようにして近づいたショコラがクルスソードを地に置いて身軽になると攻撃魔法を浴びせ、フレアが『コアギュレイト』でヴァルチャーを呪縛する!
「我、牙無き者の牙とならん」
受け用に持っていた棒を手放して身軽になり、『牛角拳』を叩き込む浄炎。
「佐々木流ってのはイロイロと鳥と縁があるんでな。運が悪かったと思えよ」
『スマッシュ』を叩き込む冬十郎。
ショコラも、そのまま接近して回収したクルスソードで攻撃を仕掛ける。
ダガーに持ち替え前衛に加わるシェアラ。
「肉や、肉ぅ〜肉食うでぇ〜」
声に出ていると本人は気付いていないようだが、餓えた目つきで言われると、ちょっと怖い‥‥。
そうして、罠や魔法の効果で動けないヴァルチャーを次々と討ち取っていく冒険者達。
だが、残っていた一羽が、罠の掛かりが浅かったのか飛び立ってしまう!
しかし、ただ逃げるわけではないようだ‥‥?
禿鷲に対して、苦い思い出のあるロソギヌス。そのコンプレックスを敏感に感じ取ったのか、弱者を見つけた悪者のような勢いで、飛び掛かるヴァルチャー!
「え、いや、ちょっと」
必死に追い払おうとするも、木の上では仲間達も援護しづらい。そして足場も悪い。
「この‥‥ぎゃあ〜〜〜」
足を踏み外し、転落してしまったロソギヌスだが、そこは冬十郎と浄炎が受け止めてくれた。
すかさず、マヤが『ダブルシューティング』で、ヴァルチャーを撃墜したのだった。
「皆さんお疲れ様でした」
共に戦った仲間達を労うショコラ。
少し怪我をしたロソギヌスに『リカバー』を掛けるフレア。
その後、報告を済ませ、荒らされた墓の修復を手伝う冒険者達。
家族を思い出し、空を見上げるシェアラ。
「どうか安らかにお眠りください」
冥福を祈るフレア、十字を切るショコラであった。
ちなみに、ヴァルチャーがその後どうなったか。
「本日は大猟ですね♪」
「あ〜腹減った‥‥」
ショコラの言葉に、ばたんきゅ〜と倒れ込み、食事を催促するシェアラ。ショコラの家事の腕はなかなかのものである。‥‥ヴァルチャーが美味しいかどうかは別問題だが。
「‥‥あの、何を?」
料理を手伝っていたフレアが、無意識にヴァルチャーの頭を撫でていたショコラに尋ねる。
「‥‥いえ、なんとなく」
まあ、そんな事もありつつ、冒険者達は依頼の達成を喜び合った。
「野に生きる物にとって生きる事こそ命をかけた戦い、糧を得るためならば覚悟もしよう。しかし、此度の戦いは我らの都合でしかない。ならばこそ弔う必要を感じるのだ」
そう言って浄炎は穴を掘り、
「心に牙持ちて戦う者は、命を奪う事で糧を得る者は、奪いし命の重みを忘れてはならぬと俺は思う」
ヴァルチャーを埋め、弔うのであった。
いずれ彼らが英雄と呼ばれる日が来ることを願っている。