男の気持ち
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■ショートシナリオ
担当:槙皇旋律
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月04日〜07月09日
リプレイ公開日:2008年07月09日
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●オープニング
「お前ももうすぐ成人だ。そうなれば、男として成さなくてはいけないことが山のようにある」
父親に言われて青年は蒼白な顔になった。
親の教えを守り、真面目に親の家業を手伝ってもきた。親の贔屓目だが、それでも真面目で誠実である良い子に育ったのだ。だが、青年は自信というものがなかった。
「俺が‥‥」
青年は、憂鬱とした表情で呟いた。
一人前の大人になるということに、不安があるのだ。子供ということに甘えているわけではない。これから、いろいろなことを任せてもらえるだろうことが嬉しいはず、だが
「怖い」
もしかしたら、失敗することが。
無論、何かをはじめれば失敗だってする。だが、それを青年はとても恐れた。
「何とかして、自信をつけなくちゃ」
●
ギルドの冒険者たちが仕事を求めて集まるところに青年は現れた。装備はナイフだけという、なんとも素人くさい格好だ。
「あ、あの、すいません、お願いがあるんです。・・・・近くの、森にいって、俺にモンスターを倒させてください
自信がなくて、けど、何か一つでも、そうです。怖いモンスターを一匹でも倒すことが出来れば、俺、自信がつくと思うんです。けど、一人だと危険なので、どうかお願いします」
青年は縋るように頭をさげて懇願した。
それが青年の大人になるという第一歩の自信を持つための依頼であった。
●リプレイ本文
「シケたツラしやがんな。・・どもんなよ。イラっとする」
ハルトムート・バーレイグ(ec4776)がぶっきらぼうにいうと依頼人の青年は肩を震わせた。
その態度に今回の依頼を引き受けたヒルケイプ・リーツ(ec1007)、リューリィ・リン(ec4929)、リース・フォード(ec4979)は互いに顔を見合わせて、苦笑いをこぼした。依頼を受けたが、今回の依頼に引っかかりを感じているのだ。
依頼で魔物とはいえ命を奪うのだ。それが本当に依頼人の自信に繋がるのだろうかという疑問だ。
「失礼ですが、確認したいことがあります・・魔物を倒して、本当に自信がつくんでしょうか?」
自然と供にあるレンジャーのヒルケイプは命を奪うことに疑問を感じているのだ。だが彼女は、そのようなことを悟らせるほどに子供ではない。
「あたしも、それが気になっているの」
ここぞとばかりにリューリィが続く。
その問いに青年は驚いたようだ。
「確かに人間である君から見たら、モンスターは知性が低くて、闇雲に害を成すかもしれないけど、君の自信のために殺される命はどんな軽さだろうね」
リースの強烈な皮肉に青年はたじろいだようだ。
「依頼は引き受けたから、ちゃんとするわ。ただ、たとえば森でサバイバルをして見るといいんじゃないかしら?」
リューリィが優しく諭す。
「・・出来れば、モンスターも退治したいです」
おずおずという青年が言うとリューリィは頷いた。
「そう、わかったわ。けど、すぐに出るとは限らないから、その間は野宿することになると思うわ。その場合は、依頼人だけどいろいろとしてもらうわ」
「は、はい」
青年がゆるゆると頷いた。
「先ずはギルドで情報集めするか。都合よくモンスターがいるとも限らないしな」
ハルトムートのいうように、都合よくモンスターと遭遇できることはない。ギルドにいる冒険者等からモンスターをよく見たといった噂を集め、そのポイントへと出発した。
●
身軽なヒルケイプが先行して、ギルドで集めた情報が正しいか。モンスターを退治するといっても、無闇に命を奪わないために人に害があるか、排除しなくてはいけないか、そして依頼者の青年でも倒せるレベルかどうかを確認し、結果として幸いにも川辺にサバイバルをするにはいいポイントを見つけだすことが出来た。
その頃には、既に夕方になっていた。夜ともなればモンスターを退治することは危険だ。
森での野宿は、共同作業となる。それぞれが与えられた仕事をこなしていく。依頼人の青年は慣れないことに戸惑っているようであった。
ヒルケイプとリューリィが、依頼人の青年に丁重にやるべきことを教えていく。
依頼人の青年はおっかなびっくりに、だが、失敗しないようにと慎重に作業をこなしていく。
「あ、ここは、かたく結んでください」
テントをはるのに紐を結んでいた青年にヒルケイプが言った。
「あ、すいません。すいませんっ、失敗しまたか」
「いいえ。教えなかったですから・・・・失敗が怖いんですか?」
「・・・・小さい頃、体が弱くて大切に育てられたんです。叱られたことがあんまりなくて、だから、余計に叱られることが怖いんです。失敗してしまったらって思うと、やっぱりそれは変ですか。みなさんに迷惑をかけてしまったし」
「失敗を恐れない人はいませんよ。けれど、失敗から学べることは多くあります。それらを繰り返して、成長していくことが自信になるんじゃないかしら」
「自信に・・・・」
ヒルケイプの言葉に依頼人の青年は考えるようであった。
「夜の見張りは、どうする」
リースが尋ねた。森の野宿ともなれば見張りがいなくてはいけない。
「はー、めんどくさ・・・・」
ハルトムートが顔をしかめた。
リースがちらりと依頼人の青年を見る。
「やってみない? こういうことも経験したほうが自信とやらに繋がるかもよ。挑戦するなら俺が付き合うよ」
リースの言葉に青年はおずおずと頷いた。
「人と話すときは目を合わせろよ」
ハルトムートに叱れて青年は慌てて顔をあげた。
「お、おねがいします。あっ、どもった」
青年が慌てて口を押さえる。会ったときにどもるなとハルトムートに叱られたからだ。
ハルトムートがふぅとため息をついているのに青年は弱弱しく笑った。
「すいません」
「意味もなく笑ったり、謝ったりするなよ」
「はい!」
ハルトムートの言葉に青年が大きな返事で頷いた。
その日の夜は、リースと依頼人の青年が夜の見張りとなった。
夜の森の静寂に慣れない青年はどこか不安げだ。一方、リースのほうは怯えたところはまったくない。逆に怯えている青年を気遣うように笑った。
「夜が怖いかい? けど、こんな中にも、命はいっぱいあるんだよ。俺たちエルフは古代から精霊や動物たちと生きてきたから。この森にとっては命はすべて等しいものなんだ。本当に自信をつけるのならば、何かを、どんな小さなことでも自分一人の力で、やりきったときこそ、自信になるんじゃないかな」
青年はじっとリースを見つめていた。
「雇われる側が生意気なことをいったかな」
「いいえ。ありがとうございます」
●
「みんな、あたし、ちょっと行ってくるわね」
朝一番でリューリィが、モンスターをおびき寄せることのできる「強烈な匂いの保存食」を片手に持って言った。
昨日、ヒルケイプがあちこち探してくれた情報を元に、素人が相手をしても大丈夫なモンスターがいる場所をリューリィがふらふらと飛んで、強烈な匂いで、おびき寄せるつもりなのだ。
「よろしくお願いします」
青年が頭をさげてリューリィを見送った。
「これをどうぞ」
ヒルケイプが槍を差し出した。
「えっ」
「ナイフだけでは不安ですから、これを貸します」
「ありがとうございます」
槍を受け取って青年が頷いた。
はじめはどもっていたが、それも今はなくヒルケイプのことをまっすぐに見ている。野宿に効果があったらしい。
「きたわよ」
リューリィが叫ぶ。
その後ろには腹を空かせて、よだれをたらしたドックが二匹。
腹をすかせている分、見境がないのか、牙を剥き、襲い掛かってくる。
「ひっ」
怯む青年にハルトムートが、すかさずフレイムエリベイションをかける。
「やるんだろう。びびってんじゃなにもできないぞ」
「はい」
青年が怯えながらも向かってくるドックと対峙する。
心配そうなヒルケイプが動こうとするのをリースがやんわりと制した。
「少し依頼人一人で対面してみるといいんじゃないのかな。ただあと二匹は俺たちがひきつけよう」
「そうですね」
青年の邪魔をしないようにヒルケイプが二匹のうち一匹を縄ひょうを絡みつかせて動きを制限するのに、リースがウィンドウスラッシュで倒す。
青年が怯えながらも一匹のドックと向き合う。ドックのほうがすばやく牙を剥き出しに、青年の腕に噛み付いた。
「っ!」
「いけないっ」
リューリィが叫ぶのにドックが驚いて青年から身を離すとハルトムートがマグナブローで動きを牽制する。
「おい、いまだ」
ハルトムートの声に青年の槍がドックを貫いた。
倒れたドックに、よろよろと力を無くして崩れる青年。その腕からは血が溢れていく。
リースが近づき、青年の腕に応急手当を施していく。深いものではないが、生きるために戦うモンスターから負った傷だ。それは痛みが違う。
「これで満足? もちろん、必要で森を通るのにモンスターがいれば、そして、危害をくわえてきたら、あたしたちは容赦しないわ。でも・・今倒した獣には理由があったのか。考えてほしいの。そういうことが考えられることが大人じゃないかって思うの」
リューリィがおずおずと、けれどまっすぐに見つめて言うのに青年は手当てされた怪我を見て、一瞬だが俯きそうになったのを慌ててやめてリューリィを見つめた。
「はい。みなさん、ありがとうございます。俺は、いろいろなことから逃げてたんだってわかりました。・・まだいろいろと怖いですけど・・みなさんのおかげで、がんばろうって、思えました。本当にひどい依頼人ですけど、みなさん、見捨てずにいてくれたおかげで自分に足りないものがわかりました。自信は、まだ正直ないけど、けど、それよりももっと大切なことはわかりました。それはみなさんのおかげです」
青年は朗らかに笑った。
その顔は依頼したときよりも、ずっと明るかった。