許しがたき乙女の敵

■ショートシナリオ&プロモート


担当:槙皇旋律

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月07日〜08月12日

リプレイ公開日:2008年08月12日

●オープニング

「ひどいわ」
 道の一角で、人の目を集めることも厭わずに女が叫んだ。その横にいる整ったハンサムな男はしかめ面を作った。
「今まであなたに尽くしてきたのに、私、お金だって、あなたがいうから出してきたのよ」
「それには感謝しているよ。けれど、それはすべて君が勝手にしたことじゃないか」
「そんな、結婚するからって」
「君がそう思いこんでいただけだろう」
 男の言葉に女は瞳から涙を流した。
 男が愛を囁いてくれた。そして、ときどき金がないと困っているという。その度に女は両親に頼み込んでお金を工面して、男に渡していた。
 それは、すべては男が結婚しようといってくれた言葉を信じていたからだ。
 今日の今日まで信じていたのに。
「じゃあな」
 そういって男は笑って去っていった。
 女は追おうとしたとき、男の傍にはすでに新しい女が寄り添っていた。
 あまりのショックに女は泣くしかできなかった。


 ギルドに不似合いなほどに可憐な服を着た少女といってもいい娘がおろおろと不安げにやってきた。
「お願いがあるんです。ある男に・・・・名前はエリックといいます。その男に復讐してほしいんです。この男は、女と見れば口説き、その女たちからお金を搾り取るだけ絞りって捨てていくんです。私の姉も捨てられて、ショックのあまり寝込んでしまっているんです。悔しい。とても悔しいんです。それに、また女性が被害に遭うとしたらなんとしても阻止したいんです。どうにか、この男を懲らしめて、二度と女性に悪いことをしないようにしてください。お金は、あんまりありませんが、お願いします」
 少女はぺっこりと頭を下げた。

●今回の参加者

 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb0033 エスメラ・ラグナルティア(25歳・♀・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 eb0379 ガブリエル・シヴァレイド(26歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ec3660 リディア・レノン(33歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 依頼の内容を聞くと、その場に集まったルシフェル・クライム(ea0673)、エスメラ・ラグナルティア(eb0033)、ガブリエル・シヴァレイド(eb0379)、リディア・レノン(ec3660)は一同にエリックに対しての怒りと被害者に対しての同情を感じていた。
「女性になんということを・・・・男として、人としても許しがたいな」
「そうね、女としてそんな男は許せないわね。一発グラビティーキャノンでもかましてやろうかしら・・・・」
 ルシフェルの怒りの言葉にたいして、リディアはさらりと物騒なことを口にする。むろん、そんなことをすれば洒落にならない。一同がぎょっとしているのにリディアはにこりと笑ってみせた。
「そんなことはしないわよ。洒落にならないものね・・・・まずは、別に依頼主を信頼していないわけではないけど、エリックについて聞き込みをしたほうがいいと思うわ。今までどんなことをしてきたのか知っておいたほうがいいと思うの」
 エリックについて知っておきたいというのは真実だ。リディアの提案にみな、賛成した。
 聞き込みをしていくと、多くの女性が泣き寝入りをしていることがわかった。彼女たちは、みな、エリックに結婚をちらつかされ、財産のほとんどを奪われたそうだ。
 それを知ると、ますます許しがたい気持ちが一同に生まれた。
「エリックは女の敵だね。許せないなの!」
 ガブリエルが拳を握り締めて言った。
「本当だわ・・・・けど、情報を仕入れて、どうするか考えが浮かんだわ。わたくし、商人だから、エリックに騙される女性になろうと思うの」
 エスメラが提案したのは、エリックにわざと騙されて金品を貢ぎ、それが犯罪の品で討伐されかけるというものだ。
「それに泣き寝入りしている女性がたくさんいるでしょう、それで脅すのはどうでしょう」
 リディアがさらに作戦を持ちかけた。
 被害者が多い分、本当に懲りるように二重で脅かし、追い詰めるのだ。
「じゃあ、作戦開始ね」
 エスメラが微笑んだ。
 聞き込みでわざとエリックがよく通るという道でエスメラは待っていた。エリックの姿を見ると、わざとよろめいたふりをした。すると、エリックはすぐにエスメラに近づいた。
「どうかしたんですか」
「ええ。貧血を起したみたいで」
 助け起されるとき、エスメラはわざとらしく自分の持っている高価な指輪を見せることを忘れなかった。その指輪を見たとき、エリックの目が輝いた。いいカモだと思ったのだろう。エリックはエスメラを介抱してくれた。
「ありがとうございます。なんてお優しい人でしょう。わたくし、感動いたましたわ」
 エスメラはちょっと間の抜けた世間知らずなお嬢様を演じてみせた。この娘は、簡単だとエリックは思ったらしい、笑みを浮かべたままエスメラの手をとって
「いえ。それこそ男として当たり前ですよ」
「まぁ素敵なお方」
 エスメラの態度にエリックは脈ありだと判断したらしい。
「よろしかったら、ここらあたりを案内しましょうか」
「まぁ、そうですかぁ。わたくし、見てみたいです」
 エスメラはにこりと笑いながら、エリックと腕を組んだ。
「そうだわ。わたくし、よくあたるという占いのところにいってみたいんですけど」
「ほぉ、いいですよ」
 エスメラの言葉にエリックは頷き、二人は街中を歩いた。
 その占い師は、みなが歩く道から少し離れたところに、そっと店を出していた。店といっても、椅子を置き、テーブルを置いてある小さなものだ。
 それは、リディアが占い師に変装した姿だ。頭まですっぽりとローブを被り、顔がみえないせいか捕らえどころのない印象を与える。
 エスメラがエリックをひいて、リディアのところにやってくる。二人はエリックにはわからないように目で合図をした。
「もし・・・・占いなどいかがですか」
「ええ、占ってほしいと思っていたんですのよ!」
 エスメラが嬉しそうに声をあげてみせた。
 まずはエスメラが占いをしてもらう。むろん、これはふりだけだ。占い師と客を見事に装う。それを見ているエリックも興味が引かれたようだ。
「とってもよい結果でしたわ。そうだわ、あなたもしてみてはいかがですか?」
 エスメラの誘いにエリックは頷き、エスメラと交代でリディアの前にある椅子に腰掛けた。
「じゃあ、俺も頼むよ」
「はい・・・・これは・・・・」
 占い師であるリディアが驚いてみせるのにエリックもひどく興味をひかれたようだ。
「いい結果か?」
 リディアはそっと身を乗り出して、低く、小さな声でエリックに囁いた。
「とても言い難いですが、貴方は相当人に恨まれてますね?」
 リディアの言葉にエリックの顔色から血の気がひいた。
「悔い改めなさい・・・・さもなければ良くない事が起こりますよ?」
「なんて占い師だ!」
 エリックが立ち上がると怒鳴った。
「行こう。エスメラ! ここの占いはどうせ当たらないよ! よかったら、公園でもいってゆっくりしよう」
 エリックはそういうとエスメラの手をとって大股で歩き出した。
 エスメラはリディアに視線を向けると、互いに彼女たちは頷きあった。
 二人が公園にいくのに、傍で隠れていたガブリエルとルシフェルが出てきた。
「反省はしないようだが、脅しにはなったようだな」
「ええ。そうですね。では、このあとはよろしくお願いします」
「うん。まかせてなの!」
 ガブリエルはインビジブルのスクロールで透明になるとエリックたちのあとをついていった。透明な姿で、エリックを脅そうという魂胆だ。
 太陽が沈みだした夕暮れ。
 公園までの道のりを歩いていくエリックにガブリエルはそろそろと近づくと、そっと肩を叩いてみせる。先ほどの占いがこたえたらしいエリックは、ぎょっとして足をとめ、ふりかえる。だが、それも気のせいだと思ったのか、再びエスメラと歩きだすが、その絶妙なタイミングでガブリエルはエリックの肩を再び叩いたりする。
「・・・・っ」
 エリックは再度足を止めたときは、恐れる表情となっていた。
「どうかしたの?」
 エスメラの言葉にエリックは慌てて笑みを作ると同時に転がった。ガブリエルが足をひっかけたのだ。
「いたた」
「大丈夫? まぁ、なにか呪われているみたいだわ」
「そ、そんなことはないよ! ほら、公園の近くには川があるんだけども、とてもきれいなんだ」
 そういってエリックは立ち上がると川に視線を向けたとき、ゆらりと赤い火が揺らいだ。
「なっ! あ、あれは」
「あれ? なに?」
「い、いま、人魂が」
「どこに?」
 エスメラがきょとんとした顔で尋ねるのにエリックは再び人魂があったはずのところを見た。
「えっ」
 人魂。それはリディアとルシフェルが先回りをして松明を燃やしただけのものだ。
「あ、いや、すまない。気のせいだ」 
「ええ。そうね。ほら公園だわ」
 二人は公園に入ると、すぐにベンチに腰掛けた。
 夕暮れの公園は、恋人たちにはうってつけの雰囲気だ。
「よろしければ、今日一日のお礼をさせていただけませんか?」
「お礼?」
「ええ。気絶しそうになったわたくしを介抱してくださったんですもの。そのうえ、街を見れて、楽しかったですから・・・・お礼がしたいんです」
 エリックが笑って頷いた。
 エスメラは、自分の手から指輪を抜き取ってエリックに差し出した。
「ささやかですが、これくらいしかお礼ができませんわ」
「これは、いいんですか。こんな高級そうな品を」
「ええ。こんなものでよろしければ」
「それは、ありがとうございます」
 エリックは指輪を受け取ると、にやりと笑った。
 そのあと、二人は穏やかに雑談を交わして、夜になったので戻るというエスメラをエリックは送るといったが、エスメラは断った。それに対してエリックはまた明日会おうと持ちかけデートの約束をとりつけることは忘れなかった。いいカモだと思っているのだろう。
 公園で別れたあと、エリックはもらった指輪をみてにやにやとしていた。いいカモが手に入った。ただ、今日の肩を叩かれたりした怯えをなんとか忘れようとするように。
「そこの貴殿」
「へ、あっ」
 神聖騎士であるルシフェルにエリックは驚いたようであった。
「あ、あの、なんでしょうか」
「犯罪に関して依頼を受けて調査しているのだが」
 ルシフェルがエリックを見つめた。その視線の鋭さにエリックは怯えた顔をした。叩けば埃の出る身である。出来ることならばかかわりたくない。
「あ、ああ」
「ん、その貴殿の持つ品は」
「え、これは」
 エリックが自分の手の中にある指輪を見た。
「これは・・盗難にあった・・貴殿、大人しくしてもらおうか」
「へ、そんな。これはもらったもので」
「それはあとでゆっくりと聞こうか」
「そ、そんな強引な」
 エリックが文句を言おうとするのにルシフェルが睨みつける。そうすると優男のエリックは怯えた。
「さぁ、きてもらうぞ」
 ルシフェルの言葉にエリックは何もいえない。
 今まで女を騙し続けてきた天罰なのだろうか。そういえば、占い師に言われた不吉なこと、今日は転んだり、肩を叩かれたりした感じがあった。今までしてきた女たちが自分を破滅に導いているのだろうか。悪いことをすれば、それは自分に返ってくる。
「・・・・今までの報いってことなのか」
 ルシフェルに睨まれ、エリックは肩を落とした。