おぼっちゃまのかませいぬ

■ショートシナリオ&プロモート


担当:朱鷺風

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月05日〜11月10日

リプレイ公開日:2006年11月12日

●オープニング

「この場所に、恐ろしいモンスターの住む洞窟がある」
 地図を指さしてそう説明するのは、何やら屈強そうな戦士。
 この男が、今回の依頼の依頼主である。
「幸い、まだ大きな被害は出ていないが、このままにしておいては危険だ。
 付近の人々に被害が出ないうちに、早急に討伐してほしい」

 それは、どこにでもありそうなモンスター退治の依頼‥‥の、はずだった。



 ところが、その後に男が続けたのは、予想だにしなかった言葉だった。
「‥‥という建前になっているが、実はこの洞窟に住んでいるのはただのゴブリンの群れだ。
 そのゴブリンの巣窟に乗り込んだ後、わざとらしく見えない程度にやられて帰ってきてはもらえないだろうか」
 ただのゴブリンを『恐ろしいモンスター』と偽ったあげく、負けて帰ってこいと言うのは、一体どういうことだろうか?
 怪訝そうな顔をする冒険者たちに、男は一度大きなため息をついた。
「実は、私はとある貴族に仕える身なのだが、その方のご子息の一人が、なにやら冒険者に興味をお持ちになられてな。
 自分も冒険をしたいと言い出したのだ。それも、それなりに骨のある冒険を、だ」
 なるほど、彼もまた気紛れなぼんぼんのわがままに振り回される被害者の一人らしい。
「とはいえ、実際に危険な場所に連れて行くわけにもいくまい。
 そこで、私は一計を案じ、ただのゴブリンを『強大なモンスター』だと誤解させることにしたのだ」
 つまり、『他の冒険者がすでに一度失敗している』という実績を作ることで、洞窟に住むモンスターが『強大である』というウソに信憑性を持たせようということのようだ。

 そこまで言うと、男は申し訳なさそうに俯いて、再び大きく息を吐く。
「ロクでもない仕事だというのはわかっている。
 それでも、『恐ろしいモンスター』に敗れたということなら、それほど評判に傷もつかないはずだ。
 もちろん、報酬の方は相場よりかなり高めに出すつもりだが‥‥引き受けてはもらえんだろうか」

●今回の参加者

 eb6622 アリアス・アスヴァール(19歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb7113 ハル(33歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb8537 チロル(22歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

●下準備
「らしくするために服を破ったり汚したりするから、そのための服を用意してもらえないかしら? 自前の服はお気に入りなのよね」
「わかった。用意させよう」
「それから、問題のゴブリンの洞窟の情報も。抜け穴とかはないわね?」
「抜け穴は『今のところ確認されていない』」

 依頼主・ゲンナジーとの交渉で先頭に立っているのはアリアス・アスヴァール(eb6622)。
 パーティーの中でもっとも経験の豊富な彼女は、前準備がどれだけ重要であるかを一番理解していた――特に、今回のようにいろいろと事情のある依頼においては。
 そのことはゲンナジーも承知していたらしく、服の提供などには快く応じてくれたが、問題の洞窟についてはそこまで綿密な調査は行っていないとのことで、「周囲に抜け穴らしきものは見あたらない」という答えを得るに留まった。もっとも、ゴブリンと戦うことなしに洞窟の奥まで調査できるはずもないのだから、それも当たり前のことではあるが。

 そのアリアスに続いて声を上げたのはハル(eb7113)である。
「出発前に、一度おぼっちゃまにお会いできないでしょうか〜?」
 その申し出に、ゲンナジーは少し首をひねった後、難しい顔でこう答えた。
「保証はできないが、努力はしてみる。なにぶん気紛れな方だからな」

●出発前日
 問題の貴族の息子・イヴァンが四人のもとを訪ねてきたのは、出発の前日だった。
 ゲンナジーによると、チロル(eb8537)が「『恐ろしいモンスター』を退治に行く」と酒場などで触れ回ったのがどこからかイヴァンの耳に入り、彼の方から「会いたい」と言いだしたらしい。
「ふむ。君たちがその怪物とやらを討伐に行くのか」
 年齢は十代半ば。イメージしていたのとはやや異なり、どこか憂いの影を漂わせた少年である。
「はい。がつ〜んと、敵を倒してきますから〜」
 かわいらしくそう言うハルに、イヴァンは「頼もしいことだ」と微かに笑い返す。
 そんな彼の顔をじっと見つめて、アリアスはほれぼれした様子で言った。
「まあ、ご立派なお顔ですわ」
「何のことだ?」
 怪訝そうな顔をするイヴァンに、彼女はこう続ける。
「私は占いも少々嗜んでいるのですが、イヴァン様のお顔に珍しい相が出ていましたもので」
「ふむ、どのような?」
「賢明な領主や中興の王などに多い顔相ですわ。民の為には力を発揮なさり、それ以外では常に無し、御珍しい顔で偉大な領主になれる相ですわ」
 遠回しに冒険者には向かないと伝えようとしたアリアスだったが、返ってきたのは意外な反応だった。
「だとしたら、運命とは実に皮肉なものだな」
 自嘲気味に笑ったイヴァンの本心は、彼女にも見抜けなかった。

●いざ洞窟へ
 問題の洞窟は、街道からやや離れた森の中、なだらかな丘の斜面にあった。
 不用心なことに、見張りの姿は全く見あたらない。
「それじゃ、ちょっと行ってくるよ」
 近くの茂みの影に仲間を待機させ、チロルが忍び足で洞窟へと近づいて中の様子を伺う。
 入り口付近から見た限り、やや狭い通路がだいぶ奥の方まで続いているようだ。
 特に脇道のようなものも見あたらず、ゴブリンの姿も見あたらない。
「‥‥寝てるのかな?」
 仕方がないので、チロルは一旦仲間を入り口付近まで呼び寄せた。

 ゴブリンの側から出てこないことを確認して、四人は洞窟の入り口付近に陣取り、服や顔、武器などをに泥を塗ったりして汚し始めた。
「大苦戦の末に逃げてきた」という説明に説得力を持たせるには、ある程度はボロボロになっているように見せかけなければまずい、ということである。
 アリアスに至っては、支給された服であるのをいいことに、胸元やスリットのあたりをだいぶ破って、ややキワドイ感じに仕上げていた。
「色仕掛け、ですか?」
 そう尋ねるサクラ・フリューゲル(eb8317)に、アリアスは軽く笑ってみせた。
「まあね。わりと効きそうな感じだったし」

●遭遇
 一通りの工作を終えると、一同はチロルを戦闘に洞窟の奥の方へと進んで行った。
 入り口から続いてきた通路は、奥で一旦急角度に曲がっている。
 チロルがこっそりとそこから顔を出してその先の様子を伺うと、そこには確かにゴブリンの姿があった。
 まさかこんなところまで敵が来るとは思ってもいなかったのか、一応数匹のゴブリンが居住区の前と思しき場所にたむろしてはいるものの、あまり緊張感は感じられない。
「うわあ‥‥いた」
 ゴブリンと出会うのは決して初めてではないが、戦うとなるとまだ経験のないチロル。
 そんな彼女を、サクラが後ろから励ます。
「大丈夫です。私たちがついていますから」
 その言葉に一度小さく頷いて、チロルはゴブリンのうち一匹に狙いをつけてスリングで石を放った。
 その一撃は狙い過たずに命中し、ゴブリンたちが一斉にチロルの方を向く。
「!?」
 チロルが素早く曲がり角のこちらへ逃げてくると、ゴブリンたちは敵を彼女一人と誤認してか、なぜか全員揃って追いかけてきた。
 そのゴブリンたちを、サクラとハル、そしてチロルの三人が迎撃する。
 ゴブリンの数は全部で四匹。アリアスが後退しているため、数の上ではやや不利となる。

 もともと、ゴブリンは弱い相手を狙うことを好む。
 そんな連中が真っ先に狙いを定めてきたのは、クルスソードを手にした神聖騎士のサクラでも、ダガーとナイフの二刀流の構えをとったハルでもなく、もっとも小柄で弱そうに見えるチロルだった。

 ところが。
「ひゃあっ!?」
 奇声を上げつつも、身の軽いチロルは二匹のゴブリンが振り回す斧をひらりひらりと回避していく。
 ほとんど逃げ回っているだけで、へっぴり腰で苦し紛れに振り回した短剣はあまり役に立たなかったが、彼女のおかげでサクラとハルは少ない相手に集中することができた。
 ハルの双剣と、サクラの聖なる剣がゴブリンを切り裂く。
 そうしてゴブリンたちのうち一匹が倒されると、敵はとたんに浮き足立った。

 とはいえ、こちらも全く無傷というわけではない。
「退却しますよ〜」
 ハルの合図で、残ったゴブリンを牽制しながらゆっくりと後退していく。
 それを見て、ゴブリンたちは一旦追撃の構えを見せたが、アリアスが牽制として一度アイスブリザードの呪文を唱えると、ゴブリンたちはすぐに諦めて奥へと逃げ去っていった。

 その様子を見て、ハルは複雑な表情で一言呟いた。
「そんなに悪いこともしてないらしいですし、本当はあまり戦いたくなかったんですけどね〜」

●撤退
 ハル、サクラ、チロルの三人が街道まで撤退してくると、イヴァンとゲンナジーの二人が待っていた。
 もちろん、あらかじめゲンナジーと打ち合わせて様子を見に来るように仕向けたことは言うまでもない。

「どうした、何があった!?」
 ボロボロの三人を見て、イヴァンが血相を変える。
 三人は彼に駆け寄ると、一斉に打ち合わせておいた通りの話を始めた。
「イヴァンさん! 怖かったよ‥‥」
「あそこまで手強いとは‥‥予想外でした」
 サクラが話術を駆使して敵の恐ろしさを語り、それをチロルが身振り手振りを交えて強調し、ハルが今にも泣き出しそうな顔で相づちを打つ。
「なんと‥‥」
 三人の真に迫った話しぶりに驚きの表情を浮かべるイヴァン。
「それで、どうにか逃げ出してきたんですけど〜」
 ハルのその言葉を合図に、取り決め通りにゲンナジーがこう指摘する。
「ところで、もう一人の姿が見えぬようですが‥‥?」
「まさか、逃げ遅れて!?」
 サクラたちが動転したフリをしてみせると、イヴァンは険しい表情で少し思案した後、意を決して歩みを進めた。
「今から助けを呼びに行っていては間に合わぬか‥‥行くぞゲンナジー!」
「はっ!」

 三人がイヴァンたちを連れて戻ってくるのを見計らって、アリアスは洞窟から駆けだした。
 もともとゴブリンはこの洞窟の奥の方に住んでいた上、何度かアイスブリザードで脅かしてあるので、後を追ってくる心配はまずない。
「イヴァン様!」
 いかにもたった今命からがら逃げ出してきたかのように演技しつつイヴァンに駆け寄り、その豊満な胸を押しつけるようにして彼にすがりつく。
「隙を見てどうにか逃げてきましたが‥‥あれは、ただのゴブリンではありませんでした」
「う、うむ‥‥何はともあれ、無事で何よりだ」
 少しどぎまぎしたように視線を逸らすイヴァン。
 どうやら、アリアスの策は見事に当たったらしい。

●そして
 その後、一同は少し洞窟から離れた場所まで後退し、そこで行きがけに採取してきた薬草などを用いて応急手当などを行った。
「見事なものだな」
 チロルの手当の様子を感心しながら見ているイヴァンに、真っ先に手当ての終わったハルがこう尋ねる。
「それで、これからどうしましょうか〜? あの洞窟にいたのは、きっと『グレーターゴブリン』だと思うんですけど〜」
「グレーター‥‥何だ、それは?」
「ゴブリンによく似た魔物ですが、ゴブリンよりはるかに強力な高位種族です〜」
 ハルの大嘘説明を、イヴァンは一切疑うことなく鵜呑みにする。
 そのまましばらく考えた後、彼はこう決断した。
「ふむ‥‥よし、ここは一旦退くぞ」
 
「これ以上君たちに無理はかけられぬし、かといって四人で乗り込んで勝てぬものを私とゲンナジーだけでどうにかできるとも思えぬ。ここは一度退いて態勢を立て直すのが上策というものであろう」
 なるほど、言われてみれば的確な状況分析である‥‥が。
「一旦、ということは?」
 サクラが聞き返すと、イヴァンは力強くこう宣言した。
「もちろん、そのように危険なモンスターを野放しにしておくわけにはいかぬ。十分な準備を行い、次こそ私の手で討ち果たしてくれよう!」

 そんな彼の姿を見て、ほんの少しでも「諦めてくれれば」と思っていたゲンナジーはがっくりと肩を落としたのだった。