Revenger Hunter
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:朱鷺風
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月19日〜02月24日
リプレイ公開日:2007年02月27日
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●オープニング
「今から、一つ昔話をしましょう」
「かつて、旅の一団が山賊に襲われるという事件がありました。
旅人たちはおとなしく金品を差し出すのを拒み、山賊たちの手にかかって命を落としました」
「山賊たちが馬車の中の品を物色していると、一人の赤ん坊が眠っているのが見つかりました。
山賊の頭はその子を殺すのに忍びなく、かといって連れ帰るわけにもいかず、その子が凍えぬようにと毛布をかけて、手下を連れてその場を離れました」
「その赤ん坊との出会いが、山賊の頭をしていた男の心を少しずつ動かしていきました。
やがて、彼はそっと根城を離れ、過去を隠して、長い、長い旅に出ました」
「そして、旅の果てに、男はある孤児院にたどり着きました。
男はその孤児院のために懸命に働き、やがて、そこを任されるようになりました」
「一方、その赤ん坊の方も、運良く通りがかった旅人に拾われ、一命を取り留めました。
ワレリーと名づけられた少年は、やがて自分の生い立ちについて知り、いつの日か両親の敵を討つことを夢見て、冒険者となりました」
「そして、こちらも長い旅を続けながら、ゆっくりと、真実に近づこうとしています」
「‥‥もし、ですよ」
「もし、今の話が、全て本当の話だったとして。
その孤児院で育った子供の一人が――仮に、インサフという名だとしますが――冒険者となって、風の噂でそのことを聞いたとしましょう」
「確かに仇討ちをしたい心情は理解できるけれども、孤児たちにとって院長は絶対に必要です。
そして何より、自分の恩人である人を、むざむざ殺させるわけにはいかない。彼はそう考えました」
「そのインサフが、あなたたちの目の前に現れて、こんなことを頼んだとしたら、どうします?」
「ワレリーと会って、自分と一緒に彼を説得してほしい。
そして……もしそれが叶わぬ場合、院長の耳に入らぬうちに、全てを闇に葬ってほしい、と」
●リプレイ本文
●覚悟
「ワレリーの復讐は正当だと思う。これを他人の手を借りて止めようとするのは卑劣な行為だとは思わないか?」
レイア・アローネ(eb8106)の問いに、インサフはこう答えた。
「それはわかっています‥‥ですが、他に手がないのです。私が命を捨てて済むことならそれでも構わない。けれど、それで止められる保証はないでしょう」
●確認
一方、インサフの言葉の真偽を確かめるべく孤児院に向かったイヴァン・ロゾコフ(eb9788)は、インサフの友人と称して院長に会っていた。
「インサフの言ったことは、全て本当です」
彼の話によると、もともと彼は異国で傭兵をしていたが、偶然「知ってはならない情報」を――今となってはすでに価値のないものだが――知ってしまい、追われる身となったらしい。
そして、逃げ延びた先で山賊に用心棒として雇われていたものの、その後頭が戦死し、主に襲撃時にリーダーシップをとっていた彼が自然と後釜に推された、とのことであった。
結果、インサフの言葉は全て事実だったことが確認され、また新たな情報も得られたが、院長にいらぬ心配をかけたという点で、この行動にはマイナス面もあったと言えよう。
●誘い出し
その翌日。
「ワレリー殿か?」
黒之森烏丸(eb7196)の言葉に、男は怪訝そうな顔をした。
「ああ。何か用か?」
年は恐らく三十歳前後だろうか。
冒険者としてはやや頼りない印象だったインサフとは違い、こちらはいくつも死線を越えてきた歴戦の冒険者といった趣である。
「山賊狩りの剣士が仇を捜してこの街に来ていると聞きましてね」
そう続けるのは、アルーシュ・エジンスキー(eb9925)。
その言葉に、男は軽く苦笑した。
「山賊狩りは休業中だ。俺の仇はとうの昔に山賊をやめているらしいからな」
どうやら、かなり真実に近いところまで辿り着いているらしい。
となれば、もはや一刻の猶予もない。
「俺たちの仲間の一人が、ちょうどそれらしい男を知っている」
烏丸がそう言うと、案の定ワレリーはそれに食いついてきた。
「何だって?」
「だが、それを知った経緯が経緯故、ここでは教えられない。よければ一緒に来てくれないか」
●説得
烏丸たちがワレリーを案内したのは、町外れの方にある空き地だった。
「ずいぶんと大勢だな‥‥で、俺の仇を知っているのは誰だ?」
待ち受けた一同を見て――ヴァイナ・レヴミール(eb0826)、サシャ・ラ・ファイエット(eb5300)、ランデル・ハミルトン(ec1284)、レイア、イヴァン、そしてインサフ――ワレリーがその数の多さに苦笑する。
それに応じて、まずはインサフが一歩前に出た。
「私です。私はその人に、あなたが仇と狙う人に育てられました」
「‥‥何だと?」
一瞬にして場の空気が緊迫した物になるが、ワレリーもここでいきなり斬りかかるほど愚かではない。
そんな彼に、インサフは彼の知っていること全てを語った。
インサフが話し終えるのを待って、ワレリーは一言こう答えた。
「それで、俺にどうしろと言うんだ?」
その視線はあくまでも冷たく、少なくとも今の時点で彼の気が変わっているとはとても思えない。
一同はすぐに説得に移ろうとしたが、そこをレイアが手で制した。
「我々としては仇討ちを諦めてほしいが、ただ諦めろと言っても腹の虫が治まらないだろう。
怪我をしているインサフの代理に、私が相手になろう」
状況の関係もあって暴れ出さずにはいるが、ワレリーの心中が穏やかでないであろうことは容易に想像がつく。
ならば、一度少しそれを発散させてから、というのもいいかもしれない。
ちなみに、もちろんインサフの怪我はレイアが出るための方便である。
「一騎討ちか。いいだろう」
それに応じて、ワレリーは静かに剣を抜いた。
レイアとワレリーの一騎討ちは、ほとんど互角だった。
両手剣を巧みに操るレイアと、剣と盾を用いた堅実な戦い方のワレリー。
お互いに相手の攻撃の大半を防ぎきる形で、戦いは膠着状態に陥った。
勝たねばならぬ戦いであるなら、一か八かの賭けに出ることもできたのかもしれない。
けれども、これはむしろ「負けられない戦い」であったが故に、お互いにリスクを避け――やがて、どちらからともなく剣を収めた。
「‥‥やるな」
「お前こそ」
レイアにとって五分という結果は満足のいくものではないが、一対一で五分なら、他のメンバーが参戦すれば戦況は一気にこちらに傾くということでもあるから、こちらの優位は確認できた。
ワレリーの気持ちも多少は落ち着いたようであるから、得た物はあっただろう。
ともあれ、そうして一段落したところで、今度こそ残りのメンバーがワレリーの説得を始めた。
「俺はお前ではないから、お前の痛みはわからない。だが、彼が何故孤児院の院長をしているか考えてみてくれ」
静かに、そして冷静に語るヴァイナ。
「もしあなたが院長さんを手にかけるようなことがあれば、彼を父親と慕う多くの孤児たちが、あなたと同じ辛さを味わうことになるのですよ?」
「いや、孤児であるその子たちはすでに一度親を失う辛さを味わっておる。今度再び父親を奪うことは、その子たちを二重に苦しめることになるのう」
孤児たちの身を案じるサシャの言葉を、ランデルが引き継ぐ。
それを、ワレリーはただ黙って聞いていた。
時折微かに表情を動かすことはあったが、あとは応えるでも言い返すでもなく、ただただ口を閉ざしたままである。
やがて。
一同が一通り話し終えたのを確認して、ワレリーがようやく口を開いた。
「お前たちの言いたいことはわかった。だが、俺にはどうも信じられん。俺の追っている相手がそんな男だとは思えんのだ」
これも、考えてみれば無理もない話である。
悪逆非道な男と信じてきたであろう「両親の仇」と、多くの孤児たちに慕われる「孤児院の院長」とでは、あまりにギャップがありすぎる。
確たる証拠があるならともかく、今日初めて会ったような相手の言葉だけで、その二人の人物をイコールで結びつけることは、なかなか難しいだろう。
しかし、それでは困るのだ。
「では、仇討ちは?」
サシャの問いに、ワレリーはこう答えた。
「今は何とも言えんな。お前たちの言葉の真偽をまずは自分の目で確かめる必要がある。その後どうするかは、それからでなければ決められん」
予想できた展開ではあるが、これでは結局リスクはそのまま残ってしまい、問題解決にならない。
とはいえ、事の重大さを考えれば、この段階で即説得失敗と切って捨てるのも、さすがに乱暴であろう。
そうなれば、こちらの監視下で、実際に彼に院長の様子を見てもらうより他にない。
この案には反対する意見もあったが、最終的には「直接は会わせず、物影から見守るだけにする」「このようなケースでだけ用いる最後の手段にする」などの条件つきで、インサフからも承諾を取りつけていた。
ランデルが一同を代表してそう提案したが、それに対してもワレリーは即答を避けた。
「一晩考えさせてもらおう。明朝またこの場所に来る」
●孤児院
翌朝。
約束通りに現れたワレリーとともに、一同は町の反対側の外れにある孤児院へと向かった。
「私が行って、院長を庭に連れてきます。皆さんはここで待っていて下さい」
一同が庭の様子が見える辺りに隠れたのを確認してから、インサフが孤児院の中に入り――やがて、一人の老人と、そして大勢の子供たちを伴って庭へ戻ってくる。
二人がとりとめの話をしている間も、二人の周りから子供たちの姿が消えることはなかった。
インサフの顔を知っているらしい年かさの少年たちは比較的インサフの方に集まってきていたが、それよりも年下の幼い子供たちは、なかなか院長の側を離れようとしない。
その仲のいい親子のような様子を――年齢差を考えれば、祖父と孫たちと言うべきかもしれないが――ワレリーはただ黙って見つめていたが、やがて突然くるりと背を向けた。
「どうかしましたか?」
「‥‥もう十分だ」
サシャの問いに一言そう答えると、ワレリーは孤児院に背を向けて歩き出した。
●そして
孤児院からだいぶ離れたところで、ワレリーはようやく立ち止まった。
「あの院長の姿を見たでしょう。彼は彼なりに過去の行いを悔いて、せめてもの罪滅ぼしにと、このような道を選んだのでしょう」
「そして、院長が子供たちに慕われておるのもわかったじゃろう。あの子たちのためにも、おぬしの思いは胸にしまっておいてくれんか」
「お前がもし院長を消して、その事があの子たちに知れたら、お前は自分が恨んでいる相手と同じことをすることになる。そして、今度はあの子たちがお前を狙うことになるかもしれない」
「難しく、酷なことかもしれませんけれど‥‥ワレリーさんには、復讐の念を押さえ、耐え抜くことで復讐の連鎖を断ち切っていただきたいと思うのです」
アルーシュが、ランデルが、ヴァイナが、そしてサシャが、黙ったままの彼に言葉をかける。
そして、最後に追いついてきたインサフが彼の前に立ち、深々と頭を下げた。
「お願いします‥‥どうか、どうかあの人を殺さないで下さい!」
すると。
「俺の追っている男が、あんな男であるはずがない。人違いだ」
ぽつりと一言、ワレリーはそう呟いた。
「では?」
「人違いである以上、もう用はない。俺があの男の前に現れることは二度とないだろう」
はっきりとそう言いきって、彼はさらにこう続ける。
「そもそも、俺の聞いた通りの悪辣な男なら、そうそう山賊をやめるはずがない。奴はきっと今もどこかで賊の一団を率いているはず‥‥必ずやこの手で切り捨ててくれる」
彼の仇が山賊を辞めていたことは、すでに彼自身が突き止めていた事実であるはずだ。
それをあえて否定すると言うことは――もはや「正解」に辿り着く気はない、ということだろう。
あるいは、復讐の対象を「山賊そのもの」にすり替えることが、ただ復讐のために生きてきた彼にできた精一杯のことだったのかもしれない。
ともあれ、こうしてインサフの願いは無事に叶えられたのであった。