身代わり大作戦

■ショートシナリオ&プロモート


担当:朱鷺風

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月26日〜03月31日

リプレイ公開日:2007年04月11日

●オープニング

 街をやや離れたところにある、一つの分かれ道。
 その小さな分かれ道には、ちょっとしたドラマがある。

 ある兵士は言う。
「十年前、俺はあの場所で親友と約束をした。十年後の同じ日に、この場所でまた会おうと。
 ところが、十年の歳月が過ぎ、俺とあいつは敵同士となってしまった。
 俺は兵士に、そしてあいつは犯罪者に。
 俺はあいつを捕らえねばならないが――俺にはどうしてもできそうにない。
 俺の代わりに行って、あいつを捕らえてはくれないだろうか」

 ある流浪の剣士は言う。
「十年前、俺はあの場所で親友と約束をした。十年後の同じ日に、この場所でまた会おうと。
 ところが、今の俺は濡れ衣を着せられて追われる身にある。
 とても、約束を守れそうな状況にはない。
 俺の代わりに行って、あいつに伝えてくれないか。
 俺は何もやっていないということと――おそらく、もう会えないということを。
 あいつが今何をやっているのかは知らないが、もう俺には関わらない方がいいだろうからな」

 また、ある商人は言う。
「五年前、私は彼女とあの場所で別れた。必ず五年で一人前になって迎えに行くと約束して。
 約束通り、私は今や自分の店を構える身――だが、その日に大事な商談が入ってしまった。
 どうか、私の代わりに行って、彼女を連れ帰ってきてはもらえないだろうか。
 自分で迎えに行くことだけはできなかったが、それ以外では私は約束を守った。
 私は今でも変わらず彼女のことを愛している。一日たりとも、彼女のことを忘れたことはない」

 そして、女は言う。
「五年前、私はあの場所で恋人を見送りました。
 必ず五年で一人前になって迎えに来ると、彼はそう言ってくれました。
 けれども、その後私は流行病にかかり、ご覧のような醜い姿になってしまいました。
 こんな姿を彼に見せたくはありません。
 ですから、どうか彼に伝えて下さい。
 私は五年を待てずに心変わりしたと。
 私は別の幸せを見つけたから、もう貴方と会う気などないと」

 四人の約束の日は――奇しくも、同じ日だった。

●今回の参加者

 ea8484 大宗院 亞莉子(24歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 eb2235 小 丹(40歳・♂・ファイター・パラ・華仙教大国)
 eb5662 カーシャ・ライヴェン(24歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb9928 ステラ・シンクレア(24歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ec1110 マリエッタ・ミモザ(33歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

レア・クラウス(eb8226

●リプレイ本文

●混乱
 最初に「四人の」待ち合わせの場所にたどり着いたのは、兵士の依頼を受けてやってきたレイア・アローネ(eb8106)とマリエッタ・ミモザ(ec1110)だった。
「どうやら、相手の方はまだ来ていないようですね」
「そうだな」
 そんなことを話しながら、二人は待ち合わせの相手の到着を待つ。

「‥‥はて?」
 待ち合わせ場所にいる二人の女性の姿に、小丹(eb2235)は首をかしげた。
 彼は商人の依頼を受けて彼の婚約者を迎えに来たのだが‥‥この二人のうちどちらかがそうなのだろうか?
 町外れであるから、念のために護衛を連れてきていたとしても不思議ではないが、この二人はどちらも冒険者であるようにも見える。
 だとすると、ひょっとすればこちらと同じく代理なのだろうか?

 丹がそんなことを考えている間に、カーシャ・ライヴェン(eb5662)とステラ・シンクレア(eb9928)の二人が姿を現す。
 彼女たちは剣士の依頼を受けてきたのだが、ぱっと見た限りでは、彼の言っていた「親友」は、この場にはいないように思えた。
「どうしよう、カーシャさん?」
「男の人だという話でしたし、パラではないでしょうし‥‥」

 と、そこへ最後の一人、大宗院亞莉子(ea8484)が現れる。
 彼女はそこに集まっている面々を見ると、その中で唯一の男性である丹の方へと歩み寄り、少し驚いたような様子でこう尋ねた。
「まさかパラだとは思わなかったけど‥‥商人やってる人って、あなたよねぇ?」
 それはさすがに彼女の早とちりだったが、当たらずとも遠からずではあった。
「いや、わしは代理で来たものじゃが、おぬしがその婚約者の?」
「ええ〜!? 私も、その女の人に代理を頼まれたんだけどぉ」
「そうじゃったか。世の中にはこんな偶然もあるのじゃな」

「待ち合わせの場所に来たのがどちらも代理だった」という予期せぬ事態に驚きあう二人。
 その様子を見て、残った四人も「まさか」とは思いつつ、お互いに顔を見合わせた。

 そしてもちろん、その「まさか」は、現実だったのである――。

●友情の絆
「濡れ衣だ、と?」
 レイアとマリエッタの言葉に、兵士は複雑な表情を浮かべた。
 驚きと、戸惑いと、そして微かな期待と、そういったものが入り交じった表情を。
「いずれにせよ、相手が代理ではどうしようもない。
 予想外の事態故、一旦あなたの指示を仰ぎに来た」
 レイアのその言葉に、男は少しの間考え込み――やがて、苦々しげにこう答えた。
「信じたい気持ちはある。そうであればと願ってもいる。しかし私に何ができる?
 仮にそれが本当だったとしても、犯人の言葉で事件を洗い直すなど聞いたこともない。
 どうせただの言い逃れと受け取られるのがオチだ」
 そんな彼に、レイアは表情一つ変えずにこう言い放つ。
「わかった。ならば、私たちは当初の予定を実行させてもらう。
 あくまで犯罪者としてその男を捕らえる。それでいいな」
「抵抗するようでしたら、魔法を多少使わせていただきますが‥‥」
「問題ないだろう。犯罪者であれば生死は問わない筈だ」
 マリエッタの言葉に、男の返事を待たずにレイアがそう答える。
 そんな二人の様子に、男はたまらず声を上げた。
「待て!」
「‥‥何か?」
「もういい。
 『待ち合わせ場所に現れた剣士を捕らえろ』というのが私の依頼のはず。
 あいつが待ち合わせ場所に現れなかったのは私の読み違い、それで仕事は終わりのはずだ」
 呻くようにそう口にした男を、レイアはさらに突き放す。
「だとしても、私たちのやることは変わらない。
 犯罪者を捕らえて引き渡せば賞金が出る。みすみす逃す手はない」
 その横で、マリエッタがぽつりと一言呟いた。
「できることがあるにせよ、ないにせよ、せめて真実を聞いておかないと後悔するのでは?」



「そうか、あいつが兵士に‥‥あいつらしい」
 一方、カーシャとステラから報告を受けた剣士は、その皮肉な展開に軽く苦笑した。
「それで、自分で俺を捕らえるにしのびなく、代理をよこしたと。ますますあいつらしい」
 そんな彼に、カーシャはこう提案する。
「あなたの罪は確かに濡れ衣なのですよね。
 でしたら友情を信じ、再びご友人に会うことは出来ないのでしょうか」
 しかし、剣士は首を横に振った。
「今さら会って何になる。お互いに余計苦しむだけだ」
 そう答えたくなる気持ちも、わからなくはない。
 けれども、だからといってこのままでいいはずがない。
「今ごろ、あちらの代理の方から、ご友人の方にもこちらの事情は伝わっているはずです」
「それなら、もうそれでいい。それ以上できることなど、俺にもあいつにもない」
 諦めたようにそう言う男に、カーシャはなおも食い下がる。
「何故そう決めつけてしまうのですか?
 あなたのご友人は、濡れ衣を着せられた親友をそのままにしておくような人なのですか?」
 その言葉に、剣士の顔から自嘲気味な笑みが消えた。
「ご友人がせっかくあなたの濡れ衣を晴らそうとして下さっているのに、肝心のあなたが諦めてしまって、事情を説明しようとすらしないとしたら、それはご友人への裏切りになるのではありませんか?」
「‥‥しかし」
「濡れ衣を晴らす為にも、もう一度ご友人に会うことは出来ないのでしょうか?」
 カーシャの言葉に、剣士の心が揺れる。
 その迷う背中を、ステラの言葉が押した。
「それでも心配なら、私が先に行って向こうの人たちと連絡を取ってきます」



「しかし、あいつは来るだろうか?」
 待ち合わせの場所に向かいながら、兵士はそう呟いた。
 濡れ衣とは知らなかったとは言え、自分が剣士を捕らえようとしていたことを、彼はすでに知っている。
 それでもなお、彼は自分に会おうとするだろうか?
 そんな彼の様子に気づいて、レイアが一度背中を叩く。
「何を迷っている? お前は自分の友が信じられないのか?」
「そんなことはない。だが‥‥」
「『だが』は不要だ。信じているなら、迷う必要はないはずだ」
 二人がそんなことを話していると、マリエッタが前方にステラの姿を見つけた。
「あ、ステラさんが来たみたいですよ」
 シフールの飛行能力を活かしてカーシャたちより先行したステラから「剣士が変装してこちらへ向かっている」ということを聞いて、兵士は嬉しそうな表情を浮かべた。
「そうか、あいつは俺を信じてくれたのか」
 そんな彼に、ステラが笑いながら続ける。
「かなり迷ってはいたみたいでしたけどね。本当に来てくれるだろうか、って」
「似たもの同士ですね」
「違いない」
 マリエッタとレイアにまでそう言われては、兵士も苦笑するより他なかった。



 こうして、無事に二人は再会を果たした。
 剣士の言葉を手がかりに、兵士が手を尽くして問題の事件の記録を調べなおし、事件の真犯人がその街の警備隊の隊長であったことを突き止めるのだが、それはまた別の話である。

●愛の絆
 商人と女、それぞれの事情を聞いた丹と亞莉子は、それぞれ「自分の」依頼人の元には戻らず、「相手の」依頼人のところへと向かっていた。
 お互いにセブンリーグブーツなどを用いたために通常よりも早く目的地にたどり着いたが、より早く到着したのは忍術なども併用した亞莉子の方だった。

 商人の店は、街の片隅にある小さな店だった。
「いらっしゃいませ‥‥?」
 顔を隠したままの彼女に、微かな不審の色を滲ませる男。
 そんな彼の側まで近づいて、亞莉子はそっと顔を覆う手を退けた。
「私が誰だか、わかりますか?」
 彼女の顔は、人遁の術で彼の婚約者そっくりに――それも、病で変わり果てた今の彼女とそっくりになっている。
 その顔に、男は驚いたような表情を浮かべ‥‥やがて、「まさか?」と一言だけ呟いた。
 小さく頷く亞莉子に、男は半ば呆然としてこう尋ねる。
「一体何が?」
 そんな彼に、亞莉子は自分が身代わりであることだけを隠して事情を説明した。
 すると、男は一度悔しげに机を叩き、少し怒ったように言った。
「何故そんなことになる前に私に連絡してくれなかった!
 その病気なら、ちゃんと薬を送れたはずなのに!」

 早い段階で薬を服用していれば、こんなことにはならなかった。
 そして、彼女もそれを知っていた。
 だが。

「あなたの夢を、邪魔したくなかったから」

 病気のことを告げれば、彼はきっと薬を送ってくるだろうと彼女はわかっていた。
 だからこそ、彼女は何も告げなかったのだ。
 きっと彼は、簡単には手を出せないような高い薬でも、平気で送ってきてしまうから。
「自分の店を持ちたい」という夢が遠くなるのも構わずに。

「バカだ、君は」
 俯いたまま男はそう言うと――いきなり机越しに亞莉子を抱きしめた。
「そんなことを僕が喜ぶとでも思っていたのか?
 君さえ待っていてくれるなら、僕はどんなに遠回りしてもよかったのに」
 この言葉を聞く限りでは、彼の気持ちは変わっていないと考えていいだろう。

「ちょ、ちょっと待って!」
 一旦男を引き離し、術を解除する。
 男はその様子を呆気にとられたように見つめていたが、やがて我に返ると烈火の如く怒り出した。
「君は誰だ? 一体こんなことをして何のつもりだ!?
 そもそも私が依頼した冒険者は一体どこに‥‥」
「落ち着いて! 私は彼女に頼まれてきたのよぉ!」
 その後、亞莉子がどうにか彼を宥め、事情を説明して納得してもらうには結構な時間を要した。



 その間に、丹もどうにか女のもとへと辿り着いていた。
「わしは小丹という者じゃ、商人の坊ちゃんの代理じゃ」
 彼女も自分が依頼した冒険者ではない相手が来たことには驚いた様子だったが、丹が最初から事情を素直に説明した分、彼女を落ち着かせるのにさほどの時間はかからなかった。
「それにしても、大事な日になんで商談なんぞ入れちまうんじゃろうか」
 丹の呟きに、女は微かに笑いながらこう尋ねてきた。
「あの人がお店を持ったのなら、やはりそこで働いている人もいるのでしょう?」
「ああ、ほんの二、三人じゃがな」
「その人たちのためですよ。そういう人です」
 確かに、いかに大事な約束と言えども、それは所詮自分と彼女だけの問題である。
 けれども、商談を疎かにして店が傾くようなことになれば、従業員にも迷惑がかかりかねない。
 その解釈は好意的すぎるようにも感じたが、一応筋は通っている。
 そんなことを考えながら、丹は彼女にこう提案した。
「ところで嬢ちゃん。
 代理同士じゃ話にならんし、当人同士がもう一度会えるよう、嬢ちゃんの代理と話し合ったんじゃが、どうするね?」
「いえ、私は‥‥」
 一度は拒もうとする女だったが、丹は構わずこう続ける。
「あの坊ちゃんが嬢ちゃんが言うほど責任感の強い男なら、嬢ちゃんをこのまま放っておくとは思えんがの」
 それを聞いて、彼女はしばらく考え込み、やがて丹に同行することを決めた。



「これをかぶって念じれば、当分の間嬢ちゃんの姿は見えん」
 丹がパラのマントをかけてやると、女は言われた通りにそれにくるまり、たちまちその姿が見えなくなる。
 その状態でしばらく待っていると、やがて亞莉子が商人を連れてやってきた。
「丹さん! 彼女はどこに?」
 辺りを見回す商人に、丹は答える代わりにこう尋ねた。
「わしはどうも坊ちゃんのことがよくわからん。あの嬢ちゃんに会ってどうするつもりなんじゃ?」
「連れて帰るに決まっています」
 そこまでは予想通り。問題はここからだ。
「あくまで約束を守ると言うことか。じゃが、それはただの同情からくるものではないのかの?」
 そう聞いた丹の目を、青年はじっと見返し‥‥そして、はっきりとこう答えた。
「同情が全くないとまでは言い切れません。
 ですが、それ以上に、これは私の責任だと思っています」
 丹が求めていたのは「ない」という答え。
 そして、そのこと自体は、男もおそらく気づいていたことだろう。
 しかし、この状態で本当に「絶対に同情ではない」と心から言いきれる者が、はたしているだろうか?
「どうやらわしは坊ちゃんのことを誤解していたようじゃ。真っ直ぐな男じゃな」
 苦笑する丹の横を駆け抜けて、マントを脱ぎ捨てた女が恋人の胸に飛び込んでいった。



 その後。
 亞莉子が女に化粧の方法などを教えられる限り教えたことや、商人がいろいろ手を尽くしたこともあって、女も元の通りとまではいかずとも、当初とは見違えるようになった。
 そんなおしどり夫婦の二人が営む店は、正直すぎてなかなか利益が出ないらしく、相変わらず小さなままではあるが、多くの顧客に愛されながら街の片隅で営業を続けているという。