《温故知新》激闘の果てに‥‥
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■ショートシナリオ
担当:とらむ
対応レベル:1〜3lv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:09月20日〜09月25日
リプレイ公開日:2004年09月29日
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●オープニング
「よく集まってくれた、冒険者の諸君」
冒険者ギルドの大広間、そこに集まった冒険者の顔を眺めながら、江戸冒険者ギルドの総元締め、幡随院藍藤(ばんずいいん・らんどう)は破顔した。そして手にした木簡を確認しつつ、全体に通る声で一同に言葉を伝える。
「先日の妖狐の事件、江戸が無事であったのは皆の手によるものだと、わしは思っておる。‥‥しかし、いまだ暗雲は完全には晴れてはおらん。ギルドの書蔵から発見された文書も、完全なる解読は終わってはおらんとのことだ」
大きくため息をつくと、体格のよい男は木簡の内容を静かにあたりに広げて知らせる。
「そこで、再び冒険者の諸君に手を貸していただきたい。
解読に必要とされる文書のいくつかは、どうやら、江戸近くの神社や寺に奉納されているようだ。諸君にはそれらの神社仏閣を訪ね、文書をぜひギルドまで持ち帰ってほしい」
ぐるりと、冒険者たちを見回しながら藍藤は幾度かうなずき、その木簡を眼前に晒す。
「江戸近くではまだ妖怪の姿が見られるらしい。それらと相対することも考え、無事依頼を完遂させてほしい。頼んだぞ」
幡随院藍藤はそこまでで言葉を切ると、一人の男を呼んだ。蒼い顔をしたその男は、今現在起こっている一つの出来事を冒険者に告げる。
「実は今まで様子見をしていたんだが‥‥」
言葉を濁しながら、男は口ごもる。
夏祭りに紛れて現れた妖狐。多数の妖怪と手下を連れて現れた彼の妖怪の残した爪跡は大きい。
特に、その残党が未だ江戸や近郊の村々に影響を及ぼしているのは周知の事実だった。
そして今回、古文書があるという神社に残党の一部が立て篭もってしまっている。
「立て篭もると言えば聞こえはいいが、実際は完全に占拠されてしまっている状態だ」
苦しげな声と顔で、男は言う。
というのも既に一度討伐隊を送ったものの、失敗してしまったからだった。
相手がただの残党だからと甘く見ていた事が、失敗の原因として大きい事は否定できない。
確かに敵の抵抗もしぶとく、そして強固だった。
結局は根負けしてしまい、一時撤退となってしまったのが現状だと、男は言う。
撤退した後になってこの神社に古文書がある事が判明した。
もしかすると、それが抵抗が強固な理由なのかもしれない。残党達はどうあっても社を明け渡そうとはしないのだ。
二匹の山鬼、そして一匹の化け狐を中心として豚鬼、小鬼、茶鬼、犬鬼。複数の妖怪も混ざってはいたが、こちらはほとんどが退治された。
「社は三方を森で囲まれ、正面しか開かれた場所が無い。戦うには都合の悪い場所でな」
しかし、防戦するには善い構えともなっている。社を囲むようにして三方にある高い垣根もこうなっては邪魔以外の何者でもない。
焼き払ってしまっても善いようなものだが、この辺りの森は『神の森』と呼ばれていて、信仰が厚く無茶も出来ないという泣き所があった。
社自体を下手に損壊させて、中にある古文書を失ってしまうのも見当違いだけに、今となってはでたらめな事も出来ないのだ。
「厳しい依頼だが、何とか引き受けてもらいたい」
男は深々と頭を下げた。このままでは彼の面子も立たぬ。
唯一、前回の戦闘で社の背後にある垣根の一部が倒壊している場所が出来ている。
ここから攻め込む事が出来れば挟み撃ち、もしくは二方面作戦が展開できるのではないか。男はそれを告げつつも、
「戦力を分散させてしまうのが、問題ではあるがな」
とだけ忠告をした。
●リプレイ本文
先の討伐隊が開いたという裏手の入り口とそして正面。二方向から時間差で攻めて敵を撹乱する作戦となった。
裏手から侵入するのは忍者の久遠院雪夜(ea0563)、浪人の白銀剣次郎(ea3667)、志士である雪切刀也(ea6228)
そして正面から陽動を兼ねて突入するのが武闘家李雷龍(ea2756)、僧侶夜十字琴(ea3096)、侍の御剣桜(ea3836)、志士天狼寺雷華(ea3843)、異国の神聖騎士であるユウナ・レフォード(ea6796)、さらに二人の協力者であるミラルス・ナイトクロスとトルク・ファーレス。
後背の部隊が戦術的に効果的に動く為にも、正面では派手に立ち回らなくてはならない。
先に裏手へと回り込んで行った挟撃班を見送って、静かな社の方へと足を進めながら雷龍は首を捻った。ここに次の討伐隊がくる事は予想している筈。それなのに静か過ぎる。
「大丈夫ですよ。きっと前の討伐隊から直ぐなので油断しているんです」
と雷華が声をかける。
「そうだな」
雷龍は悪い考えを頭を振って追い払い、合図役である琴を見た。今回最年少の仲間だ。僧侶としての力は確かなのだろうが、如何せんまだ子供。彼女の愛らしい容姿のせいもある。
琴は頭にシフールのミラルスを乗っけながら、どこか危なっかしい足取りで後をついて来ているが‥。
「あっ」と言う琴の声が響いた。雷龍の目の前で、ボテッと転ぶ。涙目で起き上がる彼女の様子を見ながら、雷龍は複雑な表情で首を掻いた。
社が見え始めると、雷龍は歩調を緩め声を低くした。
「いいな。僕達の役割は‥」
「敵の霍乱であろう?」
言葉を遮って桜が言う。早々に腰に履いた刀を抜き放ち、やや緊張しているようだ。彼女もまだ若い。少々気負っているのだろう。
「大丈夫だって。そんなに気負わなくても」
と雷華が桜の肩を叩く。
「拙者はそんなつもりは‥」と言いながらも、まだ口調が固い。
「皆さん。怪我をされたら私が回復しますので、無理をなさらずに後退して下さい」とユウナが微笑む。
「私もいますから、皆さん頑張りましょう!」
両手をグット握って、琴は小さくガッツポーズをした。
●戦闘開始
「行くぞ!」
少しだけ歩調を早めて速度を上げ、雄叫びと共に敷地内に突入する。これが奇襲となれば、こちらに優位だった。
だがまるでタイミングを合わせるかのように、社の奥や物陰から鬼達が現れる。
「読まれていた?」
雷龍の目配せに、雷華の表情が一瞬険しくなった。
物陰から現れたのは犬のような顔をした鬼、犬鬼だ。
左右から三匹ずつ。そして雷龍の正面、社からは醜い牙を剥き出しにした豚面の鬼がやや重そうな身体を揺らして近付いてくる。
自然に陣形は中央に琴とユウナを庇って円形になった。
「上等! 鬼退治と行きますか。佐々木流天王寺雷華、参る!」
抜き放った刀を大きく構え、雷華は端正な顔を醜い二匹の犬鬼に向ける。
はぐれた一匹が桜へと向ってきた。
「来た!」と刀を構え、桜は一歩を踏み出す。
「兄上様、雨雀‥‥私はやってみせる。こんな所で‥‥死なないから!」
さらに一歩を踏み込み、ミラルスによるバーニングソードで炎を纏った刀を振るう。確かな手応え。犬鬼はたまらず地面に倒れ附す。桜は動きを止めた犬鬼にとどめの一撃を突き入れ、刀を引き抜いた。
「私だって、やれるんだから!」
と犬鬼と豚鬼に挟まれ防戦を強いられている雷龍の元へと走る。
それを横目で見た雷華は「やるじゃないか」と口元を微かに緩めた。
二匹の犬鬼を相手に、雷華はまるで引けを取らない。もともと犬鬼程度では彼女の敵ではなかった。既に一匹は虫の息だ。もう一匹がこの僅かな油断の隙を突いて、雷華に剣を当てる。
瞬間、雷の華が咲いたように雷光が閃いた。
ライトニングアーマーによる雷撃だ。犬鬼の動きが止まる。それを見逃す雷華ではない。
「成敗!」とすかさず刀を切り上げ、とどめを差す。
素早く動き回り犬鬼の動きを牽制しつつ、トルクは雷龍を取り巻く敵を翻弄した。
犬鬼三匹に付き纏われて、さらに戦槌を振り回す豚鬼が相手では分が悪い。
オーラパワーを纏った拳が二度豚鬼を捕えたがさほど聞いているように思えなかった。トルクと琴の援護がなければ、かなり厳しい。
豚鬼の振り回す戦槌を何とかかわして、寄ってきた犬鬼の腹部に拳を叩き込む。身体を折った所に、今度は後ろ回し蹴り。捻じれるようにして空中に吹き飛んだ犬鬼は地面に叩きつけられ動かなくなる。ようやく一匹。
「よしッ!」と言う声に続いて、くぐもった響きの声が雷龍の口から漏れる。突然背中に激痛を感じて、雷龍は思わず膝をつく。
背後にいた犬鬼の剣が背中を切ったのだ。傷は深くなかったが、痛みが酷い。
「しまった毒か‥」
痛みに目が霞む。犬鬼の剣には毒が塗布してある事を思い出す。この痛みは毒のせいだろう。
雷龍の様子に気が付いたユウナが慌てて走り寄り、同じく駆け寄ってくる別の犬鬼を鞭で牽制し、雷龍の背中に触れる。
一瞬痛みに顔を歪ませた雷龍が「ただの傷じゃない。解毒剤を‥」と痛みを堪えながら犬鬼の骸を指差す。大抵の場合解毒剤を持っているからだった。
「あ、はい」と足を向けるユウナの進路を豚鬼が塞ぐ。
ユウナは騎士ではあるが、戦いは得意としていない。扱う鞭も殊戦闘力に関しては決して役に立つような代物ではなかった。
「お前の相手は私だ!」
豚鬼は背後に聞こえた声と共に、背中に衝撃を感じて苦痛の呻き声を上げる。桜の一撃は豚鬼の足を止めた。
「今の内だよ!」と雷華の声がかかる。
「分りました!」と返事をするユウナの視線の先、社の中から赤銅色の肌を持った鬼が現れる。額に二本の角を持ち、手に持った金棒を振りかざしている。
「今頃、山鬼が?」
驚いた雷華が走り出る。丁度その時、物陰からさらに唸り声を上げて数匹の鬼が飛び出してきた。
「さ、山鬼、茶鬼、小鬼‥隠れていたのか」
苦痛を堪えて雷龍が呟く。完全にこちらの動きが読まれている。
「まずい‥早く合図を」
微かな呟きをミラルスが琴に伝える。混戦の中、機会を逸していた琴が天高く矢を放った。
●トラップ
破れた垣根を木陰から覗き見て、剣次郎は「遅いな」と呟いた。
先ほど正面の方が騒がしくなった。おそらく突入したのだろう。それから直ぐに合図がくるかと思ったのだが。
「遅過ぎるな。何か問題があったのか?」
と傍に来たのは刀也だった。とっくに合図がきてもいい頃合は過ぎている。こちらから出向いていった方がいいのではないか、そう思えてならない。
「僕が見てこようか?」と雪夜が言う。
「雪夜何が起こるかわからん。無茶はするもんじゃない」
剣次郎がそれを止めたが、状況が見えないままじっとしているのにも限界があった。
「やっぱり見てくるよ」
言いながら腰を浮かしかけた雪夜が「あっ」と言う声を漏らして動きを止める。
その理由は明白だった。
壊れた垣根の向こう側。彼女の視線の先に現れたものが、動きを止めさせたのだ。
「化け狐‥」
思わず刀也が呟いた。
「待て!」という剣次郎の静止の言葉より、雪夜の動きの方が速かった。縛った黒髪を風になびかせ、疾走の術を用いて一気に化け狐に肉薄する。
気合一閃。
忍者刀を振るうが、ひらりとかわされてしまう。
逆に大きく開いた隙に化け狐の牙が雪夜を捉えた。二度にわたって噛み付かれ、雪夜は悲鳴を上げて倒れ込む。
三度、攻撃を仕掛けようとした化け狐だったが、あらぬ方向から飛来してきた物体を避ける為に身を翻し、雪夜と距離を取った。
刀也が投擲した風車である。
手にした刀を大きく構え、刀也は雪夜を庇うようにして立ち塞がる。鋭い視線が化け狐を射抜いていた。
「こちらの策を読んでいたようだな。だがこうやって目の前に現れた以上、俺が排除してやる‥それだけだ!」
刀を上段に構え、ジリッと一歩を前に踏み出した時、横合いから剣次郎の蹴りが化け狐に炸裂した。年齢に相応しからぬ素早い攻撃で続け様に拳を叩き込む。
その間に刀也は蹲る雪夜にリカバーポーションを使い、傷を癒した。
剣次郎は怯んだ狐に対し、再度拳を構えるがそれを社の影から走り出てきた三匹の小鬼と茶鬼、それに豚鬼が阻む。
「‥これは、まずいな。待ち伏せされているぞ」
おそらく道中の警戒が足りなかったのだろう。作戦と足取りは完全に読まれているようだった。
数の上では圧倒的に不利だった。しかし戦い慣れている刀也と剣次郎が、確実にまずは小鬼を仕留めていく。
辛うじて雪夜も小鬼を仕留めたが、混戦の中、茶鬼の斧の一撃をくらい無事とはいい難い。剣次郎が庇ってくれなければ、茶鬼の斧はさらに彼女を捕えていた筈だ。
大きな斧を振り回す茶鬼を軽快な足さばきで撹乱し、剣次郎は二、三度の打撃を見舞った後、スタンアタックで一気に勝負をつける。茶鬼はよろめき、大地に昏倒した。
刀也は豚鬼の振り回す戦槌に手を焼きながらも、刀也も確実に豚鬼を刃に捕えていた。一度の攻撃で豚鬼の攻撃が鈍り、二度目に切り付けた時には足が止まる。だが苦し紛れに豚鬼の放った一撃が刀也の身体を弾き飛ばした。
戦槌の重い一撃に、刀也は息を詰まらせ膝をつく。
「大丈夫か、刀也殿」
剣次郎が加勢に付き、明らかに動きの鈍くなった豚鬼目掛けて雪夜が刀を振るう。
「化け狐は‥奴は、何処に?」
この乱戦に、化け狐は加わらなかった。早々に身を翻し姿を消してしまっている。
視線を巡らせつつ、刀也は立ち上がった。まずは豚鬼を屠らねばならない。
この作戦が敵に読まれているのが分った以上、正面の部隊も苦戦している筈だ。
「早く合流した方がいいだろうな」と剣次郎が刀也の考えを察したように言う。
「ならば!」
痛みを我慢して奮い立ち、刀也は刀を振りかざす。三対一になれば、豚鬼といえども敵ではなかった。
「俺達はこのまま正面の加勢に回る。雪夜さん、あんたは古文書を先に探し出してくれ。‥どうも嫌な感じがする」
何よりも優先するべきは古文書の確保と刀也は考えていた。もし確保できたなら、無理にここで敵を殲滅する事もないだろう。不利ならば戦いを避け当面の目的を果たすまでだ。
刀也の言葉に了解の意を示し、雪夜が動く。
社の中へと彼女が入った直後、社の屋根越しに天高く放たれた矢が空を射抜くのを刀也葉は見た。
そして同時に、社の上に立つ化け狐の姿をも視線に捉える。
「まずいぞ!」
その姿に、思わず刀也は叫んだ。
化け狐が口に咥えているのは火の付いた松明だった。
「奴め、社ごと古文書を燃やすつもりか!」
いろめき立つ剣次郎と共に、刀也は社の正面へと駆け出した。
●決戦
社に起きた異変を見たのは琴だった。目で放った矢を追うと、化け狐が見えた。
「皆さん大変です!」
社の上を指差して琴は叫んだが、二匹の山鬼と茶鬼そして小鬼の相手をしている者達はそれこそ大変な事になっていた。琴の叫びが耳に入る筈もない。
「どうしましょう? 妖精さん‥」
と途方に暮れる間もない。小鬼はともかく茶鬼や山鬼は手強い相手だ。一人だけが遊んでいていい場合ではない。琴は傷を負い、明らかに動きの鈍い山鬼の一匹に向かって矢を放った。
隠れていた山鬼は既にかなりの深手を負っているようだった。動いているというより、立っているのがやっとという状態だ。おそらくは琴の放った矢も見えてはいなかっただろう。矢は寸分違わず眉間を射抜き、山鬼はもんどおりを打って倒れ込む。
小鬼は然程問題ではなかった。回復した雷龍が二匹の小鬼を寄せ付けずに倒す。
桜と雷華は山鬼と茶鬼に相対され苦戦を強いられていた。
身体の空いたユウナが助太刀とばかりに山鬼へと鞭を振るう。動きを封じるなり、気を逸らせば、桜に有利になると思っての事だった。
唸りを生じて空を裂く鞭は、しなやかに山鬼の腕を打ち、幸運にも腕に絡み付いた。
「桜さん、今です!」とユウナは鞭を引き絞るが、山鬼が煩わしげに絡め取られた腕を振り上げると、次の瞬間彼女は甲高い悲鳴を残して空中に放り出されてしまう。膂力の違いがあり過ぎたのだ。ユウナはそのまま社の壁面に激突し、蹲る。
その様子を視界の隅で見た雷華は思わず「チッ」と舌打ちした。
二手に分かれた事が災いした。出来るだけ早く奇襲組が合流してくれるのを待つしかない。桜では山鬼の相手は荷が重い筈だ。
既に数度切りつけられた茶鬼は動きが鈍い。
雷華はフェイントをかけつつ茶鬼に接近すると「これでお終いにするよ!」と剣を突き上げ、スマッシュEXを突き入れた。深々と突き刺さった刀が茶鬼を絶命させる。
明らかに力の差がある山鬼を目の前にして辛うじて踏み止まっていられるのは、トルクが山鬼を撹乱してくれているからだろう。そうでなければ、このぐらいの傷で済んでいる筈がない。
桜の攻撃も一度は何とか当てたのだが、後はてんで話しにならない。防戦一方だ。
一端距離を取り、放り飛ばされたユウナに視線をちらりと遣る。社の壁にもたれかかるようにしているユウナの姿が見えた時、桜もその異状に気が付いた。
「社が燃えている?」
丁度雷華と雷龍もやってきて山鬼と向かい合う。二人も社の事に気がついたようだ。そしてその屋根に居座る化け狐の存在にも。
そこへ剣次郎達が走り込んでくる。
これで数の上では圧倒的に有利になった。一気に山鬼を追い詰める。
桜が牽制し、雷龍と剣次郎が肉弾戦で着実にダメージを与えていく。
数に翻弄され、山鬼は完全に目標を見失っていた。ただ悪戯に金棒を振り回し、雄叫びを上げる。それでも、当たれば危険な代物だ。
隙を見て、雷華が放ったスマッシュは茶鬼同様に山鬼の身体を深く貫く。だが茶鬼と違い、山鬼はしぶとい。断末魔の悲鳴を上げる間もあればこそ、最後の力で金棒を振り回し雷華を吹き飛ばした。
幸いにして大きな怪我にはならなかったが、剣次郎に助け起こされて雷華は「まったく何て奴? まだあんな力を残しているなんて」と首筋の冷汗を拭う。
折り良く燃え盛る社の中から、雪夜が走り出てくる。
「古文書は?」と問い掛ける剣次郎に、豊満な胸元に収まった筒を見せて彼女は煤けた顔で笑う。
化け狐に対しては有効な手段がなかった。燃え行く社の上に居座ったまま動こうとしない。一度ならず琴が弓を射掛けたが、全て避けられてしまった。
雪夜が社から出てきた時、一度だけ化け狐の鋭い視線が向けられるが、それ以上は動こうとしなかった。
「あのまま焼け死ぬつもりか」と刀也が呟く。
出来れば化け狐を倒したかった刀也は密かに唇を噛んだ。