蝶の群。

■ショートシナリオ


担当:とらむ

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月04日〜10月09日

リプレイ公開日:2004年10月14日

●オープニング

 村人達は悲嘆に暮れていた。
 これから収穫の時期だというのに、これではどうしようもない。
 薄暮れないの闇の中、沈み行く陽光を受けて空中を舞うものが無数にある。
 それは掌大ほどもある大きな蝶だった。畑の上に数え切れないほどの無数の蝶が舞う。
 何故こんなに大量に発生したのかは分らない。
 しかしこれだけは確かだ。
 このままでは作物の取り入れが出来ない。
 近付けば蝶の燐粉で動けなくなってしまう。
 そして何よりも‥‥。
 世闇の風に乗り、奇妙な声が聞こえる。
 「チョンチョン。チョンチョン」とそれは聞こえるようだった。
 何人かの村人は、人の顔を持つさらに大きな蝶が飛んでいるのを見たという。
 ほとほとに困り果てた村人ギルドへと依頼を持ち込んだ。
「誰か、あの蝶の群を退治してくんろ」と。

 ギルドの番頭の説明では蝶から攻撃を仕掛けてくる事はないそうだが、
その中に混じっている蝶よりは大きな何かに噛み付かれたという話もあるようです。
気をつけて下さい。

●今回の参加者

 ea4593 リュミエル・フォレストロード(25歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea5523 高野 鬼虎(27歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea7116 火澄 八尋(39歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7367 真壁 契一(45歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●リプレイ
「‥‥これは、酷いな」
 無数の蝶が畑を占拠したとは聞いていたが、火澄八尋(ea7116)は目の前の光景に思わず絶句した。
 作物が実り、稲穂が頭を垂れる中、夏に比べればやや勢力は衰えたとはいえいまだ眩しいばかりの陽光が大地に降り注ぐ。
 しかし殊更その光が反射してまでに眩しく感じられるのは、空中に舞った燐粉が陽の光を反射している為だった。
 それだけならまだいい。
 異国から来た異種族のウィザードであるリュミエル・フォレストロード(ea4593)が徐に地面にあった石ころを掴んで投げる。
 投じられた石が乾いた音を立てて作物の葉を揺らす。
「うわっ」
 と声を上げ、高野鬼虎(ea5523)は思わず仰け反った。
 石が投じられた辺りから、無数の蝶が空中に飛立った。
 一匹や二匹ではない。数十匹の蝶が一斉に舞い上がる。
 予想を遥かに上回る蝶の数に、鬼虎は唖然とただ様子を眺める。
「これは凄いですね。これほどとは思いませんでした」
「まったくだ。これは骨が折れそうだな」
 魔法で蝶を一網打尽にするつもりでやってきた八尋だったが、これではいくらなんでも精神力が持たないだろう。長期戦を覚悟した方がいいかもしれない。
 リュミエルも眼前の光景に予定していた作戦の変更を考えていた。
 畑に被害が出ないように蝶を別の所に誘き寄せるつもりだったが、どうやら多少の事では意味がなさそうだ。とにかく数を減らす事を優先した方がいいだろう。
「さて、どうしたものかな‥‥」
 やや深刻な面持ちで八尋は腕を組んだ。
 とにもかくにも、剣などで切り払っていたのでは文字通り日が暮れる。
 ふと視線を落すと、彼の横で真壁契一(ea7367)が元気なく俯いていた。心なしか顔が蒼い。長身の一団の中で一番背の低い契一だが、今は膝に手をつき項垂れているのでさらに低く見える。
「真壁殿。張り切り過ぎだな。もう少し配分を考えた方がいい」
 到着するかなり前からライトニングソードを両腕に交互にかけ続け、勢い勇んでやってきたて契一だったが、張り切り過ぎてすっかりへばってしまっていた。
「そ、そのようですな‥‥。拙者の勇み足のようで」
 はっは、と疲れた笑い声を上げて尚も息をつく契一を他所に、八尋は目の前の問題に視線を戻した。
 何にせよ魔法を中心に片付けていく事になりそうだが、精神力にも限界があるというものだ。何か別の手段もあれば善いのだが‥‥。
「‥‥ん? リュミエル殿、何をしているのです?」
 鬼虎の声に促されて八尋が見ると、リュミエルは荷物から縄梯子を取り出しているところだった。言葉が通じないのでやや相互会話に難点があるのだが、それでもこちらが行動に疑問を持っていることぐらいは察しがつくだろう。
 しかしリュミエルは質問には答えようとせず、縄梯子を広げるとそれに手を触れ、徐に呪文を詠唱した。
 直ぐに縄梯子の一部が凍りつき始め、次第に範囲を広げていく。だが一m程が凍りついた時点で止まってしまった。それ以上は広がらない。
 凍りついた部分だけがずしりと重い縄梯子を摘み上げ、リュミエルは困ったなという顔で、片方の眉だけを器用に吊り上げた。
 出来れば縄梯子を凍りつかせて、広範囲を叩く事の出来る簡易武器として使用したかったのだが、クーリングの効果範囲が思ったほど広くなかったのだ。これでは意味がない。
 その様子を見て、八尋は歩み寄り「ちょっといいか?」と聞くなり縄梯子を手に取った。
 大きな縄梯子だ。これを凍りつかせて振り回せば確かに一度に多くの蝶を退治できるだろう、しかし‥‥。
 縄梯子自体結構な重みがある。一部分が凍りついた為重みは増しているようだった。仮にもしこれを完全に凍りつかせたとするならばおそらく一人で持ち上げて振り回す事はよほどのり力の持ち主でない限りは難しいだろう。
 八尋自身アイスコフィンの呪文が使えるのだ。おそらくリュミエルが考えているであろう事は実行できるだろうが、意図している事の実行は難しいだろう。
 その時ふと思いつく事があり、八尋はリュミエルに向って「すまぬが、この縄梯子使わせてもらうぞ」と断ってしゃがみ込むと、持っていた短剣で縄梯子を切り始める。
 最初は驚いたようにしたリュミエルだが、直ぐに八尋の意図するところを見抜いたようだった。
 凍った部分を含めると二m程にもなる一本の縄を持ち、八尋は立ち上がった。
「ちょっと離れていてくれ」
 と言いながら、手に持った縄を振り回す。凍りついた部分が遠心力を伴って風を叩き掻き乱す音が辺りに響いた。
「なるほどこれなら剣を振るうより或いは効率的かもしれないですね」
 鬼虎が自分の担いでいる六尺棒と見比べて、簡易アイスハンマーとも言うべき代物をそう評した。
 
●蝶退治
「毒の粉を吸い込まないように準備は整えておいた方がよろしいですぞ」
という契一の助言を受けるまでもなく、各々がある程度の備えをしてきてはいた。唯一ローブの裾で口元を押さえているだけのリュミエルに、契一は余分に持ってきていた古布を差し出す。
「異国の魔法使い殿は魔法を扱うには両手が自由であった方が善いと思いますが、いかがですかな?」
 契一が手振りで示すような事を理解したリュミエルは古布を手に取った。
「私は別にかまわんが‥‥、そちらとしてはなるべくそう持って行きたいのであろう? 試して不利になる状況でもあるまい」
 などと高飛車な口上をしてみるが、契一には何の事かまるで分らない。
「いやいや、お礼は結構です」と豪快な笑い声と共に、かなり肥満気味の身体を揺らしながら契一は遠ざかって行く。
 八尋と契一それにリュミエルが簡易に作り上げたアイスハンマーを手に取り、鬼虎は自前の六尺棒を用いる事にした。
 リュミエル自身、あまり武器を振り回す才覚を持ち合わせていない。適当な所で魔法に切り替えるつもりだった。

「では、兼業商人真壁契一、推して参る!!」
 張り上げる声と共に、簡易アイスハンマーが唸りを生じて振り回される。
 丸っこい身体に似合わぬ素早さで突き進む契一の周りでは、いく片もの蝶が舞い上がり、風圧や直接に簡易アイスハンマーに叩き落されて地面に落ちる。
「さながら、台風だな‥‥」
 その様子を見て、思わず八尋は呟いた。
「それでは、拙者も続きますかな」
 担いでいた六尺棒を軽くしごいて、鬼虎も前へと歩み出る。契一とは方向を大きく違えて、六尺棒を頭上に掲げると、ゆっくりと回転させつつ足を踏み出していく。
「そう言えばなにやら得体の知れないモノが混ざっているとか。用心するに越した事はありませんね」
 振り向かずに、鬼虎はそれだけを言い残すとやや歩みの速度を上げる。
「さて、農民の皆々様の為、尽力いたしましょうか!」
 一気に回転の速度を上げると、風を切る唸りがゴウと音を立てて辺りに響く。
 舞い上がった蝶が、毒の燐粉を撒き散らしつつ次から次へと叩き落されていった。
 鬼虎の言うのは聞くところからおそらくはチョンチョンと呼称される人面蝶であろうが、詳しい事までは確かに分らない。だがまずは目前の事態の解決に当たるべきだろう。
 契一と鬼虎のおかげで無数の蝶が畑の上を舞っている。
 これで狙いやすくなったというものだ。
 作物になるべく被害の無い様に、配慮して八尋は掌をやや上空へと向けるとアイスブリザードを唱える。
 扇状に広がる魔法の吹雪が、空中を薙ぐ。まるで白い扇が空中に現れたように遠くからは見えることだろう。
 続け様に二度アイスブリザードを放ち、それから八尋もアイスハンマーを振りかざした。時間はかかるが、仕事を焦っても仕方がない。
「引き受けた以上は、きっちりとさせてもらおう。ではリュミエル殿もしかと頼んだ」それだけを言い残して畑へと分け入っていく。
 やや予定外の展開で物事が進んでしまったが、結果的に自分の試みが功を奏したようであるのは間違いがない。
 リュミエルは三人の攻撃の間を掏りぬけて飛んできた一片の毒蝶目掛けてウォーターボムを放つ。蝶は一瞬ふらりと軌道を変えたが、落ちるまでにはいかなかった。どうにも威力が不足しているらしい。
 肉体労働は少々不本意だが致し方ない。
「後は怪異なるジャパンの妖怪を見られればいいか」
 元々それが今回の目的でもある。その為の少々の手間隙は必要だろう。
 
●伝承の始まり
 遠くでこの様子を見ていた農民の何人かが、縄を使った蝶退治の様子を見て声を上げた。
「ここはオラ達の畑だ! 冒険者の皆さんが頑張っているんだ。オラ達も手伝うべ!」
 そんな言葉に乗せられて、何人もの農民達が一次休憩をして用意された昼御飯を食べていた冒険者達の所へとやってきて、共に蝶退治を行うと申し出た。
 その場に在ったものを利用して退治の方法を考え出した事に感銘を受けたのだというような類いの事を言って、自分達にも武器を、簡易アイスハンマーを作って欲しいと願い出た。
「まあ、それは構わんが‥‥」と八尋が言葉を濁したのは、戦力として成り立つかを計算したからだった。
「まあ、火澄殿。幸い蝶自体は襲ってくる事は無いですから。毒にさえ気をつければ」
「そうですぞ。毒の対策は、ほれ拙者が用意したこれを使えば問題は無い」
 と契一は用意してきた古布を掲げてみせる。
「いやいや、御代は結構。これも国の為、強いては国の礎農民の皆様の為」
 はっはっは。と威勢のいい笑い声を上げて、古布を引っ張り出しつつ契一は着々と準備を進めている。
「後は、その人面蝶とか言うものに我々が気をつければよいでしょう」
 確かに、人数が多いほどいいと思えた。村人達の勢いもあるようだし手伝って貰うのは悪い事ではないだろう。
 
 午後からは三倍以上にも増えた人数で蝶の退治に当たる。さすがに人数が増えただけあって効率が桁違いだった。
 これなら思ったより早く片付くのではないかと思えた時、村人の悲鳴が聞こえて冒険者達は誰彼ともなく駆けつけた。

●烈風、疾風?
 真っ先に駆けつけたリュミエルは、空に浮かぶその怪異なる姿に興醒めした様な視線を向け、息をついた。
 やや輪郭の狂ったような人面に、けばけばしい色合いの大きな二枚の蝶の羽がついており、それが風に舞うでもなくフワフワと空中を漂っているのだ。近くには噛み付かれた村人が蹲っていた。これが件の妖怪である事は間違いない。しかし‥‥。
「なんとも美しさに欠ける生き物だ。もう少し面白い物かと思ったが‥‥、配色が悪趣味だな。興味が失せた。さっさと片付けるとしよう」
 これで目的は果たした。思ったほどものでなかったのが残念だが、これもまた経験だ。
 片手を掲げ続け様に二度のウォーターボムを放つ。二発とも確かに命中したが、あまり効いている様には見えなかった。どうにも威力不足だ。
 襲い掛かってくる人面蝶の攻撃を何とかかわしたところへ八尋と鬼虎が現れる。
「なるほど聞いた通りの姿だな」と言ったのは八尋だった。聞き知っていただけの存在だったが、確かにあまり見目のいい妖怪ではないようだ。
「これを片付けてしまえば、心配はなくなるようですね」と鬼虎が手にした六尺棒を正中に構えた時、背後からザザザッという音に続いて、走り出てきた契一が勢いそのままに地面を蹴る。
 「ハッ! 兼業商人真壁契一、二度、参る!!」
 いつの間にか両手にはライトニングソードを携えて、契一はどう見ても体格には不似合いな素早い動きで、人面蝶に肉迫すると。胸の前で交差した両腕を同時に高く切り上げて、地面に土煙を上げて着地した。
 人面蝶は十字の傷口を晒して地面に落ち、ひくひくと波打つと動かなくなる。
「お見事。真壁殿」
 思わず鬼虎の口をついて出た言葉に、契一は「はっはっは、それほどでもありますぞ!」と胸を張った。余分な肉がタプンと揺れる。
「間違っても電光肉団子や電光ダルマ等とは呼ばないで欲しいですな」
 と思わず口走った台詞に、八尋が感心したように頷いた。
「なるほど。言いえて妙だが、確かに」
 すると周りから、村人達が「おお〜、電光ダルマ殿。なるほど」と納得の溜息が漏れる。
「あ、いや。だから、そうは呼ばないで欲しいと‥‥」
 そんな契一のぼやきなどは気にされるはずも無く、再び蝶退治が始まる。

●これより始まる物語
 その後も二度ほど人面蝶が現れたが、鬼虎の豪腕にかかって粉砕された。長身から繰り出される強打の威力の前には、役不足の相手だと言えるだろう。
「然程の事はありませんでしたね」鬼虎は笑う。

 約二日に渡って行われた蝶退治の後は、村人が総出で庁の市外を集めて回り、八尋の指示の元、全てを焼却処分にした。
 大した怪我人も無く、無事に事を負えいざ帰途に付く時になって村長が見送りに来て冒険者達にそれぞれ一つの根付を差し出した。
「これは村の恩人である皆様へのお礼でございます。村の者達は自分達でも戦うという事を教えて頂きました。この御恩は子々孫々に渡るまで村に語り継がれる事でしょう。どうかこれをお持ち下され。これをお持ちになられれば、いつ如何なる時どんな時でも我々はあなた達の一族を迎えましょう」
 村人達の感謝の視線に見送られて、冒険者達は帰途に着く。