社を守れ!

■ショートシナリオ


担当:とらむ

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月11日〜08月16日

リプレイ公開日:2004年08月15日

●オープニング

 ギラリ。
 闇の中に、ロウソクの灯火を反射して二つの赤い光が煌く。
 神主は、怯えたように身を引いた。ギシッと床板が軋む音がする。揺らめく灯火が赤い二つの光を放つ物の、その本体を一瞬だけ照らし出した。
 薄暗い中、灰色の艶やかな毛並みが橙色の明かりを照り返す。
「ヒィッ!」
 大きな猫ほどもある塊が動くと、固い床を引っかくような音が鳴った。「キィッ!」という威嚇音。それに続いて現れたのは、更なる三匹の同じ灰色の物体だった。
 一様に怯える人間を嘲笑うかのように小さく首を上下に振りながら、闇に声を響かせる。 ジリッと神主は視線を逸らさずに後じさった。後ろを振り向いて走れば、背中から追い付かれてしまう恐怖があった。
 ジリッ。
 と更に一歩を踏む。
 瞬間、ザザザッと響く音。そして、鼠達の物とは違う「シャーッ!」という空気の噴き出すような音が聞こえる。鼠達の声がひと際高く上がり、空気を掻き乱した。同時にガツガツと床を引っかく爪の音が辺りに反響しつつ急激に広がる。
 それはあの巨大な鼠達が一斉に動く音だった。赤い光が闇に乱舞する。
 それを見た神主の頭の中で、何かが弾けた。
 声にならない悲鳴を上げて、神主は踵を返した。
 ロウソクの炎が掻き消え、闇が社の中を完全に支配する。
 背後で聞こえる鼠達の鳴き声は耳に煩く、まるで勝ち誇っているようだった。

●今回の参加者

 ea1181 アキ・ルーンワース(27歳・♂・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea1467 暮空 銅鑼衛門(65歳・♂・侍・パラ・ジャパン)
 ea2989 天乃 雷慎(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3358 大鳳 士元(35歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea3488 暁 峡楼(28歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3988 木賊 真崎(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4068 常 緑樹(31歳・♂・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea5586 月桂冠 寒椿(34歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●ネズミ捕り大作戦
 神主に社の見取り図を描いてもらい、大鳳士元(ea3358)のディテクトライフフォースにより鼠達の居場所を確認した。その上で社の中で鼠が通れそうな穴や隙間を塞ぎ、夜行性の鼠を燻りだして一網打尽にする作戦だ。
 昼間とはいえ、鼠と遭遇する可能性がないわけではない。鼠が苦手と公言する暮空銅鑼衛門(ea1467)は狩猟に関して知識のある常緑樹(ea4068)と共に隙間塞ぎではなく、社の外で鼠を捕らえる為の罠を張る作業に回る事になった。また暁峡楼(ea3488)も会話をするのに通訳が必要という事で言葉がつうじる緑樹と共に作業にあたる。
 隙間を塞ぐのは木賊真崎(ea3988)、天乃雷慎(ea2989)の二人。
「雷慎、全部塞ぐ必要はない。一箇所だけ、わざと空けておくんだ」
「うん。わかってるよ。逃げ道を作っておくんだよね! 煙で燻してって作戦だよね」
「でもさ」と雷慎は少しだけ顔を伏せた。
「できる事なら追い出すだけにしたいよね。鼠だって悪気があってしているわけじゃないんだし」
「そうだな。しかし話し合いをするわけにもいかぬしな」
「動物と話せる兄貴がいたら良かったんだけど‥‥。そう言えば、蛇は?」
「ああ。それなら士元が確認している。天井の隙間にいるそうだ。特に動く気配はないようだがな」
 全員の意見で、特に害がないのなら蛇にまで手を出す事はないという事になっている。煙で燻し出す際に多少の迷惑は被るだろうが。

●準備2
 アキ・ルーンワース(ea1181)と士元、それに月桂冠寒椿(ea5586)の三人は、社からやや離れた位置で火を起こす準備をしていた。
 アキの意見で、万が一にでも社に火の手が回らないように風の向きを考えて場所を決める。
 薪や火をつける道具に関しては、全て神社の方でまかなってくれた。
「士元殿。件の鼠はそれほど大きいのか?」
「そうだな。一番大きいものでアキと同じくらいだ」
「俺とですか?」
 驚いたようにアキが目を丸くする。
「まあな。気をつけるに越した事はない。油断していると噛み付かれるぞ」と士元は人の悪い笑みを浮かべ、アキをからかった。
「となると、それを食べる蛇というのはかなり大きいんじゃねーのか?」
 言葉とは裏腹に、寒椿はどこか嬉しそうに頬を緩め、微かに舌なめずりをする。
「なんだ。嬉しそうだな寒椿?」
「いやなに、蒲焼にすると美味そうだなと」と右手で杯の仕種をしてみせ口元に運ぶ。
「食べるんですか? 蛇を」
 アキがこれまた驚いたように眉根を潜めた。
「美味いと聞いた事はあるがな。酒か、御主もいける口か?」と聞かれて寒椿はニヤリと笑みを浮かべる。
「お二人とも神に仕える身なのに、お酒を?」
「この国の僧侶は総じて生臭でな。浮世を愉しむ事を教えるのもまた仏の道よ」
「貴殿も、もう少し大人になればわかるようになるぜ」
 大人二人の会話に、一人首を傾げるアキだった。

●準備3
 真崎から受け取った漁用の網を仕掛けて、銅鑼衛門と緑樹それに峡楼は最後の仕上げとばかりに網の上から落ち葉などを被せていた。神主も一緒になって手伝いながらしきりに鼠に対する恨み言を漏らす。
「仇討ちはちゃんとしてあげるよ」と緑樹が笑う。
 それを聞いて銅鑼衛門が「はあ」と溜息をいた。「鼠でござるか‥‥」と表情も暗い。
「どうしてそんなに鼠が嫌いなのかな?」
「因縁でござるよ」
「昔酷い目に遭ったとか?」
「いや、来世でござる。ミーは遥かな来世にきゃつらに酷い目に遭わされるでござるよ」
 深刻な表情でそう答える銅鑼衛門に、緑樹は「キミ、なんか面白い事を言うね」と言いながら頬を掻いた。

●作戦開始
 日が昇って直ぐ、積まれた薪に火が付けられた。燻った炎は白い煙を湧き上がらせる。完全に締め切った社へ目掛けて煙は風に吹かれてゆっくりと流されていく。
 しばらくすると社の中が騒がしくなった。唯一開け放たれた社の入り口へと真崎と緑樹、銅鑼衛門以外の五人が煙を吸わないようにしながら向っていく。
「首尾よく頼むぞ」という真崎の声に、何人かが手を上げて応えた。

●社の中で
 煙の充満する社の中ではほとんど視界が効かない。「予想以上だな」と漏らす士元に峡楼と雷慎が同意する。これでは鼠を追い立てるどころではない。
「相手が見えなくちゃどうしようもないよ」とアキも咽返る。
「ここは俺に任せてくれ。いっちょ、脅かしてやるぜ」
 寒椿がホーリーライトを使って煙の中に光源を出現させる。「キー、キー!」という鳴き声が上がって、俄かに社の中が騒がしくなった。
「よし、音を立てて出口へ追い込むぞ!」
 士元の号令に合わせて、各自が柱や床を叩きつつ社の中を出口へ向ってゆっくりと包囲を縮めた。 

●一網打尽
 騒がしくなった社の様子に、真崎は「そろそろだ」と二人に注意を促しつつ、ロングスピアをしごく。緑樹はオーラパワーを発動し、軽く両手の拳を打ち鳴らした。
「ね、鼠‥‥嫌でござるぅ」と情けない声を漏らしつつも、銅鑼衛門も腰に佩いた日本刀を抜き、オーラパワーを発動させた。
「来た」と緑樹が呟く。
 バリッという耳障りな音と共に、複数の黒い塊が社の戸板を突き破って真っ直ぐ突っ走ってくる。そのまま落ち葉を被せてある網の上まで突進してきた時、罠が発動した。木々の間に張り巡らされていたロープが引っ張られて、網が空中へと持ち上がる。
 ガサガサガサッ! という音に混じって、「キー、キーッ!」と鼠達の怒りと困惑の鳴き声が響く。吊り上げられた網の中には複数の鼠がもがいていた。
 内一匹は、網の口が閉まる前に器用に外へと飛び出す。だが真崎はそれを見逃さず、鋭い気勢と共にロングスピアを突き上げる。確かな手応え。突き刺された鼠は絶命した。
 次に逃げ遅れた別の二匹が駆けて来る。後ろからは煙の尾を引きながら峡楼と雷慎が追いすがり、二人同時に地面を蹴った。
 峡楼の身体が一瞬淡い桃色の光を纏う。そのまま鼠の上方から、煙を細かく切り裂くほどの凄まじい速度の蹴りを幾重にも繰り出す。必殺の鳥爪撃だ。残像すら生じる蹴りを無数に受け、鼠はひとたまりもない。
 その横では雷慎が軽やかな動きで短刀を振り下ろす。しかし煙のせいもあったろう。やや目測が狂って致命傷とはならない。そこへ緑樹が素早く接近し、渾身の拳を叩き込みとどめをさした。
 遅ればせながら出てきた士元と寒椿が、上手くいったようだなと網にかかった鼠を眺める。煙も収まって良好になった視界の先に捕らわれた鼠達を見、誰もが気まずい顔になる。
 網にかかった鼠は全部で十匹。大人が三匹とそして子鼠達だった。誰もがとどめをさす事を躊躇っている中、低く地鳴りのような声が響く。
「ねぇずぅみぃぃぃ。いィィィィ〜〜、やァァァァァァッッ!」
 それまで大人しくしていた銅鑼衛門が突然奇声を発して、日本刀を振りかざすや否や突然ソードボンバーをぶっ放しながら網へ目掛けて突進した。
「必殺! 空氣崩(くうきほう=ソードボンバー)! ひひひひひ、死ぬがよいでござる〜〜。滅殺、滅殺ぅ〜!」
 血走った目に異様な光を湛えて、めくら滅法暴れ回る銅鑼衛門。一瞬の出来事に、一同はとりあえず巻き添えを食らわないように散開する。
「また、派手に壊れやがったな暮空の奴」と呆れたように士元が言う
「このままでは拉致が開かないな」と言う真崎に緑樹が「僕に任せて」と一歩前へ出る。当身を食らわせるつもりのようだった。
「ちょっと失礼」というなり、長身の真崎の身体を駆け上がり、そのままの勢いで空中に飛ぶ。そのまま空中で鮮やかに身を捻り、銅鑼衛門の死角のちょうど真上から落下と同時に首筋を打つ。銅鑼衛門はバタンと倒れた。
「人騒がせなおじさんだなぁ」と雷慎と峡楼が苦笑しあう。言葉は分からずとも、雰囲気は伝わったようだった。そこへアキの悲鳴に近い声が響く。
「士元さん、後ろ!」
 咄嗟に身をかわし、士元は地面に転がる。同時に「シャッ!」という鋭い音が響き、一瞬前にいた場所を蛇の頭が通過した。
 いつの間にか巨大な蛇が背後に近付いていた。
 最良の餌場を乱されて、その上煙で燻され機嫌がいい筈もない。
「でかいな‥‥」と真崎は思わず息を飲み、槍を持つ手に力を込めた。大鼠を飲み込むからには大きいだろうとは思っていたが、数メートルは由にある。手強そうな相手だった。しかも怒っていて、もしかすると空腹なのかもしれない。となると厄介以上の相手だ。まともに戦うのは危険だろう。
 寒椿はコアギュレイトを使って大蛇の動きを止めようとしたのだが、それよりも大蛇の方が動きが早かった。一番初めに声をかけたアキ目掛けて矢のような速さで地を這う蛇に、誰一人、行動も目ですらも追いつかない。
 あまりに突然の事にアキも身が竦んでしまったようだった。
 次の惨状を全員が覚悟した時、
「ねずみぃぃぃッ、いやァァッッッ!」
 という奇声と共に刃の形をした闘気の塊がアキの脇をすり抜けて大蛇を弾き飛ばした。
 アキを除く全員が、日本刀を手にゆっくりと起き上がる銅鑼衛門の姿を見た。その目には、まだ正気の光がない。
「正に、キチガイに刃物か‥‥」と真崎が呟く。
 その銅鑼衛門に正気を取り戻させたのはようやく状況を飲み込んだアキの一声だった。
「銅鑼衛門さん! ねずみはもういませんよ!」
「何? それは本当でござるか?」
 と突然何事もなかったかのように我に返り、銅鑼衛門は力の抜けたようにその場にへたり込んだ。
 
 大蛇はソードボンバーの一撃で戦意を喪失し、森の中へと逃げていった。しかし鼠は全て退治され、当面の目的は達成された。後は全員で社の煤払い。そしてとりあえず任務達成のお参りをして、この依頼は終わりを告げる。