<狼の群>

■ショートシナリオ


担当:とらむ

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月10日〜11月15日

リプレイ公開日:2004年11月18日

●オープニング

「なぁ。どうするべ?」
 村人の一人、その男は猟師だった──が、途方に暮れた表情で村長に訊ねた。
 村は今寄り合いの真っ最中だった。重大な事態が起こった時、こうやって皆が集まり話し合う事になっていた。
 誰も皆深刻な面持ちで、村長を見つめる。
「どうすると言ってもなぁ‥‥八郎太」
 難しい表情で腕を組み、村長は表情に濃い影を落す。
 八郎太と呼ばれた猟師からもたらされた情報は、もし本当ならば由々しき事態になる出来事、その前触れの様に思われた。
「あのまま放って置いたら、銀毛様が食われちまうだ。そうなったら村はお終いだべよ」
 村の守り神、鎮守の杜に祭られている銀毛の狼。その狼が率いる群が、鬼の集団に襲われているのを八郎太は狩の最中に目撃したのだ。
 鬼の数は十数体。
 今は丁度狼は子育ての時期だ。子供を庇っての戦いでは分が悪い。
「銀毛様も怪我をされているようだったべ。急がないと‥‥」
「そうか‥‥」
 唸るようにそう呟いて、村長は空を見上げた。
「鬼は沢山いるだ。甲冑を着た熊みたいな奴、豚みたいな奴、頭に角が生えた奴。それにちっちゃい鬼も一杯いた。何とかしねぇと。なあ、村長!」
 そうは言われても、どうしようもない。
「ギルドに頼んじゃどうだかな?」
 話を聞いていた村人の一人がついには項垂れてしまった村長にそう提案する。
「それは、わしも考えた。しかし‥‥」
 ギルドに依頼すれば、それなりの報酬を用意しなければならない。しかしこの村はとても裕福とは言えない。そんな報酬をどうやって都合したらいいものか。
 困り果てた顔の村長の傍に、孫娘のお花がやって来て手にしていたものを差し出した。
「じじ‥‥これ」
 村長の膝の上に置かれたのは、縁日で買った風車だった。お花の宝物だ。
 つぶらな瞳で見つめられて、村長は迷い振り切るように微笑んだ。そして孫娘の頭を優しく撫でる。
「これはお前の宝物だよ。あげてしまってもいいのかな?」
「じじ。銀毛様を助けて上げて」
 真摯な眼差しに、長老はゆっくりと頷いた。
「ギルドに依頼しよう。報酬は‥‥何とかしよう。直ぐに報せを」
 どよめく寄り合いの場から一人の若者が立ち上がった。
「俺が行って来よう」
 その若者は村長の四番目の息子だった。何も言わずとも父親の考える事を全て知っている、分っている。そんな眼差しをしていた。

 以下、村に伝わる銀狼伝説より。
『かつてこの村の在った辺りに、銀色の毛を持つ狼の群が存在していた。
 ある日、森の中に捨てられた人間の子供を拾った銀狼達はそれを不憫に思い、人間に化け、その子供を育てた。そして狩りを教え、知恵を与え、ついには自分達が守ってきた土地の一部をも分け与え、そこに子供とその子孫達を住まわせた』

●今回の参加者

 ea1369 鬼嶋 美希(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2034 狼 蒼華(21歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4522 九印 雪人(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5011 天藤 月乃(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6130 渡部 不知火(42歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7078 風峰 司狼(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7310 モードレッド・サージェイ(34歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea7447 楊 苺花(28歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7918 丙 鞆雅(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8212 風月 明日菜(23歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「お酒ですか?」
 出かけに「酒は無いか?」と訊いた鬼嶋美希(ea1369)に村長は首を捻った。
「まあ、地物が無いなら何でもいいさ」
「何故また?」
「村の守り神に会いに行くってんだろ? 手持ちぶさたじゃ、なぁ」
 そう言って貰ってきた酒を、美希は早々に開けてしまい、歩きながら豪快に呷る。
「あら、御供物じゃなかったのねん?」
「まあまあ、硬い事言わないでさ。不知火姉ぇ」
 頭二つ分以上上にある渡部不知火(ea6130)の精悍な顔に向ってニッと笑い、美希は手に持っていた酒を差し出した。
「どうだ? 景気付けに一杯」
「遠慮しておくわねん」
 しなを作って苦笑する。今酔っ払ってしまったら戦いに差し支える。美希ほどの酒豪でもなければとても無理だ。
「あら、なくなっちまったな」
 手にした酒壷を逆さにして、美希は中を覗き込んだ。

 不知火の申し出により全員に配られた蓑だったが、九印雪人(ea4522)は指でそれを摘み上げる。
「こんなもの意味があるのか?」と渋い表情の雪人に狼蒼華(ea2034)が言う。
「狼は警戒心が強いんだ。余所者の近付くのを由としない。だからこういったものは効果はあるだろう」
 この土地に住む者が使っている物を身に付ける事で警戒心を和らげようというのだが、「そんなもんかねぇ?」と雪人はまだ訝しげだ。
 村から冒険者を案内している猟師に聞く所によれば、鬼達は鎧を着込んだ大きな鬼の下、集団で狼を追い込んでは餌食にしているという。
「随分と知恵の働く鬼よねん」
 手に持った小さな風車に息を吹きかけながら不知火は感心したように頷いた。
「それは‥不知火姉ぇ、もう貰ってきたのか?」
 丙鞆雅(ea7918)はやや呆れたように不知火の手の中にある風車を見た。彼らを見送りに来ていた村長の孫娘が持っていたものだ。
「これ上げるから、銀毛様を助けて」
 そう言いながら差し出されたものを不知火が受け取った。
「実は俺にも弟がいてな。小さい頃はそれは可愛かったものだ。よく縁日では不知火姉ぇの様に買ってやった風車を回していた」
 懐かしさを覚えて微笑む鞆雅の隣で、息巻いている二人がいる。
「でもホンと酷いよね! 森の神獣を‥しかも子育ての時期に襲うなんてサイテー!」
 と、この依頼を受けてからずっと怒りが収まらないのは楊苺花(ea7447)だ。
「そんな鬼なんか、あたし達がやっつけてやるわ!」
「そうだねー♪ うん絶対許せないよー♪」
 その波長にぴったりと合っているのは風月明日菜(ea8212)。二人ともまだ冒険者になりたてで、やもすれば戦いへ赴く緊張感が感情を昂ぶらせているのかもしれなかった。
 その賑やか、あるいは華やか、な二人の少女を苦笑交じりに眺めていたモードレッド・サージェイ(ea7310)が「やれやれ。これじゃあ、花見かピクニックだな」と溜息にも似た言葉を漏らした。
「ぴくにっく?」
 と聞き慣れない言葉の意味を尋ねたのは天藤月乃(ea5011)だ。
「ああ、皆で楽しく出かける事を言うんだ」
「ふ〜ん。ま、良いんじゃない? ほら、変に気負われて足引っ張られても困るしね。相手も数が多いみたいだし。人数は多い方がいいわよ」
「まあ、そうだな。もしかすると狼達も俺達と共に戦ってくれるかもしれん」
 希望というよりそれはどちらかといえば風峰司狼(ea7078)にとっては願望に近い。どうやら蒼華も狼に対しては特別な想いを抱いているらしい。

●銀狼
「近いぞ」
 猟師の声を聞いて間もなく、耳障りな喚き声が森の木々に響き始める。
 足を速めた冒険者達の脇の叢が音を立てた。
「気をつけろ!」
 モードレッドの声に前後して叢から飛び出してきた獣が低い唸り声を上げてこちらを威嚇する。身構える一同の前に、蒼華が手を広げて飛び出し叫ぶ。
「大丈夫だ。俺達は敵じゃない!」
 現れた獣は銀色の毛皮に身を包んだ狼だった。漆黒の瞳が鋭い視線を蒼華に向ける。
「‥銀狼だ」
 驚きともつかぬ呟きを漏らした司狼の横から雪人が一歩前へ出た。
「俺が話してみよう」
 オーラテレパスで話し掛けてみようというのだ。
『俺達は敵じゃない。お前達を助けに来た』
「あっ!」
 苺花が声を上げたのは、銀狼が踵を返して森の奥へと走り去ってしまったからだった。
「あら、失敗したのかしら?」
「いや、分ってくれた」
「分るの?」
「‥そんな気がするだけだ。でも、間違いない」
 月乃と蒼華のやり取り聞きながら、鞆雅が「行こう」と先に駆け出した。

●援軍
 キャン!
 悲痛な叫びが森の木々に反射する。だがその悲鳴も群を取り囲む鬼達の喚き声に阻まれて遠くまでは響かない。
 群を取り囲む鬼は二十匹を越す。狼達も数だけでいえば負けてはいない。
 中心に子供を庇って取り囲み、ほぼ円形に陣を作っている狼を、さらに大きな輪を作って手に獲物を携えた鬼達が取り囲む。
 怯えた子供達は尾っぽを身体の下に丸め、縮こまってしまっている。逃げ出そうにもこれでは無理だろう。
 威嚇の唸り声も意味をなさない。せめて鬼の群の頭目を潰せればと思うが。
 一際体格の良い鬼が群を指揮していた。猪の顔を持ち、人間のように甲冑を付けている。とても歯が立たない相手だった。
 もはやこれまでか?
 さらに新しい敵がやってきたのを確かめる為、場を離れた当主も返ってこない。
 こうなったら、せめて一矢を酬いるのみ。
 頭を下げて、彼は鎧を着込んだ鬼へと目を向ける。
 ちょうどその時、視界の隅に一頭の銀色の毛をなびかせて、当主が戻ってきた。
「早まるな。状況が変わった。人間の群がここへ来る」
「敵ですか?」
「いや、違う。どうやら私達を助けてくれるらしい」
「‥?」
「理由は分らん。だが、守りを固めよ。戦えるものは人間と共に」
 彼の言葉に人の声が重なった。
 
●鬼退治
 雄叫びを上げて蒼華と苺花の二人が先陣を切る。
「行くぜ、鬼ども!」
 地面を蹴った勢いそのままに蒼華は行く手にあった小鬼の背中を蹴り飛ばす。その脇を
苺花が駆け抜け宙に舞い、狼を捕まえていた別の鬼の背中に立て続けに蹴りを放った。
「ハイィーッ!」
 空を裂く気合の入った声を背に、無様に吹き飛んだ鬼の手から狼が放たれる。
 鬼達は完全に不意を突かれていた。まさか人間が現れるなど予想もしていなかった。下手に敵を分断するなどせず、一気に攻め入ったのが功を奏したようだ。
「あらあら、慌てちゃって。行動がバラバラね。となればこちらの好機よね」
 司狼を伴って、月乃は赤銅色の肌と二本の角を持つ鬼、山鬼に向う。手強い相手だが、二対一なら互角以上の勝負が出来るだろう。
 突然現れた部外者の襲撃に浮き足立って、鬼達は戸惑っている。その隙を突いて月乃は山鬼の懐へと潜り込む。身体も大きく、腕も遥かに長い。しかも手にした金棒を考えれば距離を置くのは愚策と思えた。
「懐に入れば!」
 オーラパワーを施された左右の拳が空を裂き、瞬く間に四度、山鬼の腹部に叩き込まれる。苦悶の呻き声を漏らし、山鬼は堪らず身体を折る。月乃は薄い唇を微かに緩めた。薄茶色の髪がハラリと落ちてそれを隠す。
 刹那、片手を地に付き、月乃は身体を翻して落ちかかる山鬼の顎を蹴り上げた。そのままバク転を切って距離を取る。
「いい運動になったわ」涼しげに微笑んで髪をかき上げる視線の向こうで、山鬼が地響きを立てて倒れ臥す。
「‥凄い」
 思わず呟いた司狼の背後から、もう一匹いた山鬼が怒りの咆哮を上げて打ち掛かる。
しかしその金棒は宙を切った。
「銀狼の牙を折る前に、まずこの俺の牙を折ってみる事だ」
 背後に回り込んだ司狼が、刀を一閃した。

「俺達も行くぞ。やれるな?」
「大切な狼さん達にはこれ以上手は出させないよー!」
 モードレットの視線に明日菜は無邪気に笑い、小太刀を抜いて身構えた。
「まあ、無理をするな」
 言いながら、モードレッドは小鬼の群を素早い動きで掻き乱す蒼華と苺花を指差す。
 その指差す方へと明日菜は駆ける。茶色の髪が風になびいた。
「行くよー♪」
 橙色の着物をはためかせ、明日菜は手近な小鬼目掛けてダブルアタックを繰り出した。
小太刀と短刀が交互に閃く。
 だが慣れないせいか短刀は宙を切り、小太刀は当たりはしたものの小鬼は少しだけ表情を変えただけだった。
「あれー?」
 今一力が足りなかったようで、小鬼の逆撃が棍棒の形を取って明日奈を急襲した。
「きゃあー!」という情けない悲鳴を上げて、それでも棍棒を何とか避けた所に、苺花が飛び込んでくる。
「喰らえ! 必殺、鳥爪撃ッ!」
 目にも止まらぬ無数の蹴りは、しかし全て空を切るばかりだ。当たれば威力は大きいのだが、如何せん技量が不足している。しかしながら牽制には充分だ。

 モードレッドは豚面の鬼を目の前にして、ニヤリと口の端を歪める。
「聞けば、銀狼は村の守り神。神に仇なす罰当たりめ。お前らみてぇな罰当たりには、極刑だ」
 繰り出す剣戟は確実に豚鬼を捕えて傷を負わせる。さらに援護に雪人が加わった。剣の腕ではモードレッドが勝るが剣速では雪人が速い。両手から繰り出される左右の刀は豚鬼を怯ませ、容易に傷を負わせていく。三体の豚鬼を二人で屠るのに、それほどの時間は要さなかった。

●コンビネーション
「俺達の相手は奴だな」
 口調を変えて、不知火は不敵な笑みを浮かべて猪の顔を持つ鬼、熊鬼を見る。巨大な熊の身体には所々を繋ぎ合わせた無様な甲冑をつけている。一筋縄ではいきそうもなかった。
「やれるか?」
「誰に言ってるんだ、不知火姉ぇ?」
 茶色の瞳を好戦的に躍らせて、美希は笑う。
「んじゃ、いくぜ、お嬢! 鞆雅も遅れるな!」
 その言葉より先に美希が飛び出す。
 不知火に続いて鞆雅も駆ける。
「出たな。不知火姉ぇの兄貴変化!」
 不知火のこの口調が出る時には、気合の入った時だと言うのは既に知っている。共に戦うのであれば、心強い事この上ない。
「先手必勝ォッ!」
 雄叫びと共に渾身の力を乗せてスマッシュと共に突き出された刀は、甲冑に弾かれるのもものともせずに表面を滑り、その隙間に深々と突き刺さる。
 衝撃と痛みに堪らず動きを止めた熊鬼の傍らを不知火が駆け抜ける。
 無言で放った右腕の一撃は繋ぎ留めてあった甲冑を吹き飛ばし、左の一撃が熊鬼の命の炎を消し飛ばした。
 白目を向き、口角から血を噴出して倒れる熊鬼を鞆雅が唖然と眺める。全く出番がなかった事も一つだが、絶妙の攻撃だ。鮮やかとしか言いようがない。
 次ぎの敵を求めて視線を左右に振ると、小鬼の何匹かが森の中へと逃げていくのが見えた。追う必要もないだろう。首領格を倒してしまったのだ。自ずと勝負は見えている。
 気を取り直して振り返った時、月乃の悲鳴が聞こえた。
 一瞬の油断だった。苦し紛れに振り回した金棒に弾き飛ばされ蹲る月乃に、鞆雅が駆け寄り手当てを施す。
「あ痛たたた。油断しちゃったわ」と痛みを堪えて苦笑する視線の向こうで、司狼が山鬼に止めをさした。

 小鬼の半分が逃げ去ってしまったせいで、意外に早く方がついた。手分けして怪我をした狼の手当てをしている間、蒼華が実に楽しそうに子供の狼とじゃれていた。
「あいつ等は俺の仲間、いや友達なんだ。みんな狼吠の仲間さ」と蒼華は祖国につながる遠くの空を見つめる。

●報酬
 村へ戻った冒険者達の為にささやかな宴の席が設けられた。「銀毛様」と呼ばれている銀狼とその群の大半が無事であった事を村の全員が心から喜んでくれていた。
「報酬は、必ずお支払いいたします。ただ、少しだけ、お時間を頂きたい」
 酒の席、やや声を潜めて村長が言った言葉に全員が示し合わせたように顔を見合わせた。
「俺はもう貰ったぞ?」
 美希の言葉に村長は首を傾げる。
「ほれ、出掛けに酒を貰ったろ? あれで充分だ」
 という美希の周囲には空になった酒壷が幾つも転がっている。
「あ、あたしはいいよ。時間かかるんだったら。だって面倒臭いもん。これで充分よ」
 料理の膳を持ち上げて、月乃はニッと笑った。少々痛い思いはしたがいい運動になった。食事もうまいと言うものだ。雪人も特に異論はないようだ。
 娘を売ってまで、という話を耳にしている以上、後味の悪い気持ちにはなりたくないと言う理由もあって鞆雅と苺花も辞退した。
 思いがけない事態になって表情に困っている村長の肩をモードレッドが叩く。
「俺達は冒険者だが、金のない奴から毟りとるほど生活に苦労はしてねえよ」
「その通りだ。もし、今回の事で金銭に困っているというのであれば‥」
 言いながら司狼は懐からいくらかの金子を取り出して村長に渡そうとしたが、驚いた村長は慌ててそれを拒む。
「俺は銀狼に会えただけで満足だ」
 戦いの後、司狼はやや緊張した面持ちで銀狼と向かい合った。さすがに触れる事はかなわなかったが、一度だけ正面から視線を合わせられて、司狼はその時の漆黒の瞳の輝きをまだ忘れられない。
「また同じ事があれば俺を呼んでくれ。必ず駆けつける。それとお花ちゃんにはこれをあげよう」
 差し出した簪をお花は手に取ろうとしたが、司狼はそれをすっと髪に挿してやる。
「あら、似合うわねん。それじゃあ、私からも」
 と不知火が差し出したのは、未の根付けだった。
「これと交換よねぇん。狼じゃないのが残念だけどねん」
 と手の中の風車をクルクルと回す。

●風に響くは
 村を離れ街道へと向う最中、不意に叢から飛び出てきたものに、皆が一斉に身構えた。
 直ぐに気がついたのは蒼華だった。
「銀狼だ!」
 見間違いでなければ、それは群を率いていた銀毛様の筈だった。
 銀狼は冒険者達と少し距離を置いて向かい合い、鋭い視線をこちらに向けたかと思うと口に咥えていた何かを地面に落とし、また叢の中へと姿を消した。
「何だったんだ?」
 と雪人が首を傾げつつ銀狼がいた場所へと進んで地面の物を拾う。
「‥これ、砂金の大粒じゃないか?」
 銀狼が持ってきた物は金の塊だった。さほど大きくはないが今回の報酬としては充分過ぎる代物である事は間違いがない。
「お礼って事なのかなー♪」
「そうだろう。あの狼が村の言い伝えにある神獣かどうかは分らんが。少なくとも──」
 モードレッドの言葉が途切れた。響いてきた遠吠えの声に中断させられた。
 誰からともなく声のする方を見る。
 少し離れた所、大岩の頂きに銀狼がいた。天高く首を伸ばし空に向って、吠える。
「礼を言っているんだ、俺達に」
 背筋を這い登ってくる感激の波を堪えるように司狼が呟く。
「この国では、こういうのを『粋な』はからい、というのだったな」とモードレッドが不知火に訊いた。
「正に、そういう事だ」
 手にした風車が風に吹かれカラカラと音を立てて軽快に回った。