<叶わぬ恋の物語>
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■ショートシナリオ
担当:とらむ
対応レベル:1〜4lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月14日〜11月19日
リプレイ公開日:2004年11月23日
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●オープニング
<叶わぬ恋の物語>
「突然集まってもらってすまないな」
ギルドの番頭は口調も表情も、沈鬱な雰囲気を漂わせていた。
眉間には深く皺が刻み込まれ、目もどこか虚ろだ。
「先日の熊の一件を知っている者もあると思うが‥‥」
それは、先だって妻を殺された若者が仇の熊を追いかけた挙句返り討ちに在った事に端を発した、熊退治の依頼の事だった。
一先ず依頼は解決し、お冬は村へと戻る筈だった。
最後に死んだ若者の墓参りをしている時に、突然墓の下から若者が姿を現したというのだ。
「つまり、死人だ」
だが、と番頭は腕を組む。
「どうもな‥‥様子がおかしいようなんだ」
死人には意識というものはもちろん存在していない。盲目的に生者を襲う事しか出来ない存在の筈だ。
「お冬さんは、その時のショックで寝込んでしまっている。何が起きたかまでは聞き出せていないんだ」
お冬はうわ言で「仇は私が‥‥」と呟いているらしい。
時を遡る事、数刻前。
村へと戻る前に最後にもう一度若者の墓参りに訪れたお冬は、どことなくおかしい墓場の雰囲気を感じながらも若者の墓に手を合わせた。
若者の妻の形見の簪は墓に供えられたままだ。一度はやはり持ち帰ろうかとも思ったのだが、あの時仇を討ってくれた冒険者達のかけてくれた言葉を思い出すとこの恋の事は思い出として自分の胸の中にしまっておくのが善いのだろうと思う。
お冬は未練の想いを長い吐息にして吐き出して、静かに手を合わせるとゆっくりと立ち上がった。
カタン。
石か何かのずれる音だったように聞こえた。
小首を傾げ、音のした方を覗き込む。
瞬間、お冬の表情が引きつつった。
「‥‥嫌」
思わず漏れた言葉と共に後じさった拍子に、躓いてよろめく。
お冬の視線の先では、墓の下から青白い手が伸びて空中を苦しげに引っかいていた。
カタン。
ガタン。
ガタガタ‥‥。
堰を切ったかのように、一斉に墓場中の墓票、木々が音を立て始める。
そして‥‥。
一際大きな音を立てて、若者の墓石が横倒しになった。
その下から二本の腕が伸び、続けて若者の上半身がぎこちない動きで起上がる。
「嫌‥‥嫌ぁ──」
奇妙にごつごつとした動きで若者は起き上がり、焦点の定まらない瞳でお冬見る。
「お‥‥お、冬‥‥怨‥‥」
ぞっとする声が若者だったものの口から低く響く。
「私が、ちゃんと仇を討たなかったから‥‥だから、怒っているの?」
震える声でお冬は呟く。しかし若者は答えない。
ゆっくりと一歩一歩足を引きずりながら、近付いてくる。
「お‥‥冬‥‥」
言葉を漏らした口がニヤリと薄気味の悪い笑みを形作った。
若者の手が伸びる、その手に触れられた時急激に意識が遠ざかる感じがして、お冬はその場に倒れた。
ちょうど通りかかった若者が、自分の身の危険も顧みず死人の集団に飛び込んでお冬を救ったという。
この男が言うには、墓場には青白い炎が浮かんだような影が二つ三つあったという。
死人の数は無数に居て、今は墓場の中をうろついているという情報がもたらされている。
●リプレイ本文
●浄怪
「行くぜ御神楽! 遅れるなよ!」
「はい。高澄様!」
広い墓場には所々死人がうろついている。雨雲が懸かり沈鬱な表情を見せる空模様までもが重苦しい雰囲気を増長しているようだった。
高澄凌(ea0053)と御神楽澄華(ea6526)は囮役を買って出たつもりだった。死人が出るのは問題だが、それよりも気になるのはお冬の思い人であったと言う若者の事だ。事の真相を握るであろう若者の死人をまずはおびき出すのが肝心と思えた。
死人の姿はまばらで、二人の技量を持ってすれば役不足だ。やや後ろには僧侶である観空小夜(ea6201)も控えている。万が一があったとしても対処に困る事はないだろう。
死人を切り飛ばし、蹴り倒し、元の骸へと戻していく。
「さすがに手応えがねえなあ」と何体目かの死人を切り倒して凌は一人ごちた。
「他の奴らは‥‥」と遠くを見る。
「高澄様! 油断は禁物ですよ!」
紺がすりの着物をはためかせ、澄華が駆け抜ける。
凌は思わず肩を竦めた。
●浄解
遠くから聞こえる喧騒が墓場の空気を微かに揺らす。
「始まりましたね」
リュー・スノウ(ea7242)の声に天乃雷慎(ea2989)は口元を引き締めて頷いた。
「嵐兄貴から聞いたんだけど、多分前に兄気が取り逃がした怨霊が絡んでいるんじゃないかって言ってたんだ。気をつけないと」
不意打ちとはいえ、腕の立つ兄弟に不覚を取らせた相手だ。心してかからないといけない。
「はい。私もその一件については耳にしております。不浄なる物が跋扈するのは憂慮すべきですね」
リューは首に下げた十字架のネックレスを掲げると、ホーリライトの呪文を詠唱する。
「そっか、怨霊には通用しないんだよね」
これも兄より聞いた話だった。通常の武器では怨霊に相対する事は叶わない。雷慎は手元を見つめていた視線をちらりと雪守明(ea8428)に向ける。
「ん? 何じゃその視線は? はっきりと口に出して言わんか」
つっけんどんな物言いに、雷慎はニッと笑って持っていた剣を差し出した。
「だから、口に出して言えというに‥‥」
ぶつぶつと文句を言いながらも、その刀にもオーラパワーを施して、明は刀を構える。
「来たようじゃな」
清浄なる光が差し出されたリューの手先から発せられるのを見計らって、明はふらふらと周りに現れ始めた死人に切りかかっていく。
●怪異のもの
思ったほど死人の数が多く感じないのは、三方の敵それぞれに現れているからなのだろうが、それにしてもやや手応えが足りない感がした。
ふらりと近付いてくる死人にまずは一刀を浴びせかけ、一瞬動きが止まった死人の傍を双子小次郎(ea8303)はすり抜けるように駆け、シュライクを放ち切り裂いた。死人には痛みも何もないだろうが、それでも大きく身体が傾ぐ。さらに切り返した一刀を振るうと、死人はぐしゃりと地面に臥して動かなくなった。
「思ったより、手応えがないな」
思わず呟き、少し離れた所で剣を振るう白鳥氷華(ea0257)を見る。沈鬱な墓場の中にあって尚、彼女の剣裁きは華麗さを振り撒いていた。その装束のせいもあるだろうが、まるで白刃の煌めきが形を成した様だ。
「鮮やかだな」
と思わず漏らした小次郎を見て、氷華が「後ろだ!」と叫ぶ。
いつの間にか背後にいた死人の爪を難なくかわし、小次郎は白刃を閃かせる。動きの遅い死人などは格好の的だった。
「油断するな」
駆け寄ってきた氷華は一言だけ告げると、さっさと歩みを進める。ややこちらの敵が少ないのは、他の所に回っているせいかもしれない。となれば合流を早めた方がいいだろう。聞き及んでいる若者の姿もここにはない。
死体が笑う。
普通ではない。何かしら別の存在が背後にいるのだろう。同行する者の中には思い当たる節がある者もいるようだが、目にして見るまでは分らない。
「いたぞ!」
視線の向こう。死人の姿に混じって凌達の姿が見える。混戦の様相だった。
そして、
「あれは、何だ?」
氷華は上空に揺らめき時折人の形を取る青白い炎のような物に目を凝らした。
「さあな。初めて見るが、要は倒せばいいという事だ」
小次郎の言葉に氷華はしかし、柳眉を寄せた。「そんな単純な事であればいいが‥‥」と思う。
●真の敵は
「御神楽! 行けッ!」
「はいッ!」
混戦状態の三人をまるで嘲笑うかのように剣戟の届かない空中を舞う怨霊目掛けて、澄華は中腰の姿勢で土台になった凌の背中を蹴り、跳んだ。
着物が風をはらみ翻るが、気にしてもいられない。頭上に掲げた刀はバーニング・ソードの赤き炎を纏っている、これならば効く筈だ。
「ィヤァッッッ!」
裂帛の気合いを込めて振り翳した刀を叩きつける。さすがにこんな攻撃は予想もしていなかったのだろう。怨霊はそのまま地面に叩きつけられる。澄華自身もかなり危なっかしい状態で着地した。乱れた黒髪が一瞬視界を覆い隠す。フレイムリベイションの効果がなければ、このような芸当が出来たかは疑問だった。
直ぐに振り返って確認したのは叩き落した怨霊ではなく、凌の方だった。三体の死人が屈んでいる凌に群がっている。
「た、高澄様ッ!」
思わず声を上げた澄華に応える声がある。
「おうさ! ええい、邪魔だってんだろ!」
声と共に一体の死人が後方へと吹き飛んで、残り二対は勢いに押されてよろよろと後退した。
慌てて駆けつけた澄華が一体を切り倒して、凌を見上げた。その額から一筋の血が流れている。思わず表情を曇らせた澄華を見て、凌は片方の眉をひょいと吊り上げた。
「ああ、これか? こんなものは何でもない。平気だ」
指先で血を拭い、凌は近付いてきた死人を事も無げに切り捨てる。気を取られていた澄華はその事に全く気がついていなかった。驚きで目を丸くする。
「彷徨う魂に付け込んだ不浄なる悪霊よ、下がりなさい!」
突然背後から響いた声に、苦悶の呻き声が重なる。怨霊が弧を描いて地面に落ちる。そのまま姿を消した。小夜の高速詠唱によるピュアリファイだったが、とどめをさすまでには至らなかったようだ。
「油断なさらぬよう」
表情を引き締め駆け寄ってくる小夜の後に続いて、氷華と小次郎も合流する。
「大丈夫か?」
辺りを警戒しつつ訊ねる氷華に「まあな」と応えて、凌は辺りを見回した。どうやらこの辺りの死人は一掃したようだが‥‥。
「さっきのがそうなのか?」と氷華が空中を差した指を回す。凌が小夜を見た。
「はい。恐らくは。あれは怨霊、悪しき存在です」
「悪しき‥‥ねぇ」
凌は頭を掻いた。
●仇なす存在
出立の前、まだ寝込んだままと言うお冬を何人かで訪ねていた。少しでも情報を得る為だ。心の傷は身体の傷の様に魔法では癒し難い。
「皆様。またご迷惑を‥‥」
やや落ち着いた感じで床より半身を起こして、お冬は深々と頭を下げた。
「いいって事よ。それよりも今は早くよくなる事だ。後の事は俺達に任せな」と言う台詞とは裏腹に、凌の表情はやや引き攣り、柄にもない事をしている、と無言で主張している。
「見ちゃおれんな」と小さく呟いて氷華が前に出た。
「その通りだ。今回の件、普通ではない。気にせぬが良い」
「そうですよ。私達が今度こそ決着をつけますから」と澄華の真摯な眼差しに、お冬は頷いて瞳を潤ませた。後ろで代理を頼まれて名乗りを上げた雷慎とリューも頷き合う。
「お話から察するに、取り憑いた何かが生前の記憶を利用しただけの様に思います。どうか気になさらぬように」
リューの言葉にお冬は力なく「はい」と小さく答えた。
「少しだけ窺伺いたい事があるのですが、よろしいですか?」
と小夜が申し出た。代理を頼まれたという事を抜きにしてもこの一件、何やら良からぬ悪意を感じている。出来るだけの情報が欲しかった。既にお冬を運んだ若者には話を聞いてあるのでほとんど確認の様なものだ。
「分りました。今回の一件、あなたが成さねばならぬのは、信ずる事です。悪霊のまやかしに負けてはなりませぬよ。彼がどのようなお人であったかは、貴女が一番御存知の筈」
その言葉に誰もが頷いた。
●決意の下に
「そうか、綺麗な人で在ったか。見ておけばよかったな」
そんな軽口を叩きながら、明はやや離れた位置にいる死人を指差した。
「あれが、狙い所じゃな?」
「うん。きっとそうだよ」
死人自体はさほどの敵ではなかったが、切りつけても怯まない分厄介だった。確実に動きを止めなければ、囲まれてしまい身動きが取れない。
「一度お引きになって下さい!」
リューの声に応じ、一端後ろに下がる。ホーリーライトの照らす範囲には死人達も近づけはしないが、体勢を立て直す間にすっかりと囲まれてしまう。
「迂闊じゃったな」
「でもここで引いたら兄貴に合わす顔がないよ」それに小夜様も見ている。無様な所は見せられない。
「よっしゃ、もうひとふんばり行くかっ! あんたはあいつを。私はこいつらを引き付ける!」
言うなり、牽制の意味を含めて明は大振りに刀を振るう。続いてリューが「邪悪なりし者達よ下がりなさい!」と凛とした声を響かせ、ホーリーを放つ。
「任せて!」
と素早く飛び出した雷慎は一直線に若者へと駆け、目にも止まらぬ速さで抜刀から切りつける。オーラパワーを施された刀は、若者の身体に潜む悪霊に微かながらも届いたように感じられた。
「やった?」
と思わず口にした途端、何かに触れられた感があり、痛みを伴って急激に力が抜ける。
続け様に若者の手が雷慎に伸びようとした時、遠くから援軍の声が上がった。真っ先に駆けつけた澄華が勢いに任せて刀を振るう。当たりはしなかったが、威嚇には充分だった。炎を纏った刀身は、怨霊にとっても憂慮すべき存在だ。
凌、氷華、小次郎が死人を取り囲み動きを遮る。
「遅くなったな」と声をかける凌の頭に視線が行きそうになるのを辛うじて堪えつつ、明は「雪守の、お前はあっちを頼むぜ」と顎をしゃくるのに合わせて目標を変える。
「一気に決めるぞ!」の声と共に、氷華の白刃が死人を切りつける。出来れば怨霊に向いたかったが、魔力を付与している余裕がない。
「三対一。勝負はあいましたね。心苦しくはありますが‥‥」
逃げられぬよう三方より若者を囲み、それぞれに剣を振るう。たとえ取り憑いたものが何であれ、これでは逃げられまい。
雷慎、明に続いて澄華の一撃で若者は完全に動きを止めた。そこへ小夜が寄る。訊いて置かねばならない事がある。
「身体を借りし怨霊よ。答えなさい。何故、このような事をする?」
「マダ、ハジマリデスラナイ。オビエルガイイゾ‥‥」
聞き取り辛い言葉と共に、伏した若者の身体から青白い炎の形をとった何かが抜け出ようとした。
「滅!」の声と共に、ピュアリファイがとどめをさし、その身体を消滅させる。
「小夜様‥‥」
怪訝な表情をした雷慎が心配そうに傍による。小夜は目を閉じ静かに首を振った。
●鎮魂の風
雲の晴れた空から、上弦の月が淡い光を投げかける。微かに吹き始めた風に乗り、甲高い笛の音が遠くへと流れていく。
近くの石に腰掛けて、雷慎は目を閉じ、ただ一心に笛を吹いた。想いはただ鎮魂の調べになって墓地に響く。
焚き火を囲んで一同が座る中、小夜は調べに合わせてやはり鎮魂の神楽舞を静かに舞う。
「これで全てが終わったと言う訳では無さそうだな」
揺らめく炎が金色の髪を橙色へと染める。氷華は炎を見つめながらポツリとそう呟いた。
「そのようですね。お冬様の事は決着がついたようには思いますが」
思いがけず事件に関わる事になってしまった澄華も、表情にはやや釈然としない感がある。怨霊に関しての今までの出来事を雷慎から聞くに及び、この一件の奥底に潜む「何か」を感じずにはいられなかった。
「私も詳しい事は分りませんが、いずれこの先に何か良からぬ事があるような気がします」
怨霊が群れを成して害を及ぼすという事は尋常ではない。不浄なる存在が常世の者を惑わすのであれば、神に仕える身としては放っては置けない。
リューは炎と同じ赤い瞳を薄く細めて、神楽舞へと視線を移した。この一件はあの人にも伝えた方がいいだろうとふと思う。
三人からやや離れたところで腰を下ろす凌に、明と小次郎が近付いた。
「今一つ、すっきりとしないな」
ただ死人を片付けるだけだと思っていた小次郎だった。
「そうだな。どうも要らぬ事に首を突っ込んだ感じがするぜ」
神楽舞を眺めながら、凌は首筋を掻いた。怨霊などという得体の知れないモノと関わっていたのではどうなるか知れたものではない。
だがしかし、捨て置くわけにも行かないだろう。これも何かの縁かもしれない。
「それはともかく、高澄殿‥‥」
そこまで言葉に出しておいて、明はやや口ごもるようにして言葉を濁した。視線がちらりちらりと上方を向く。
「何だ、雪守の?」
ややわざとらしく視線を逸らそうとする明を見下ろして、凌が訊く。
「あ、いや、‥‥その、何だ。つまり‥‥だな」
どうにも口に出しては言い辛いようだが、その視線が何を言いたいのかを如実に物語っていた。
「ああ‥‥、これか」
と頭を指差し、凌が言う。
「もちろん。地毛だぜ」
ニッと笑う凌を見て、明は思わず「‥‥地毛‥‥」と漏らす。
「益々、謎だ‥‥」
唖然と呟く明を月の光が優しく照らしていた。