<今度こそは>
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■ショートシナリオ
担当:とらむ
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月16日〜12月21日
リプレイ公開日:2004年12月26日
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●オープニング
「よくぞ集まってくれた、我が精鋭たちよ!」
腰に手を当て胸を張るお春の前で、やえが呆れた様に視線を送っていた。
「お春ちゃん、私一人しかいないけど?」
ギロリ。
お春の目が鋭い視線をやえに突き刺す。
「後でお仕置きね、やえ」
低い声色でボツリと呟き、お春はくるりと背を向ける。
ここは森の中、泉の辺。
緑の木々が枝葉を伸ばして水面に大きな影を投げかける。この泉にとある妖怪がいるという噂を何処からか聞きつけて、お春は早速やってきていた。
嫌がるやえを、無理やり引っ張って‥‥。
「ねえ、お春ちゃん。何もいないよ、帰ろうよ〜」
どこか及び腰でやえはお春の後に付く。きょろきょろと周りを見回す目が忙しなかった。
「いや、いるわ。ほら、これを見なさい!」
ビシッと指差す、その先にあったのは、半分ほど残った食べかけの胡瓜だった。
「水辺に食べかけの胡瓜‥‥これだけの証拠があれば十分よ! そう、ここにいるのは──」
「狐?」
ゴンッ!
顎に人差し指を当てそう答えたやえの脳天に、お春の鉄拳が炸裂した。
「痛いよ〜。お春ちゃん」
「煩い! 問答無用よ」
前回は惜しくも溶解を目撃しそこね、あろう事か人身御供にした筈のやえだけがその姿を目撃できてしまったという苦い記憶がある。今回は抜かりなくやらなくてはならない。
かなり大きな泉だった。さほど森の奥深くというわけでもなく、村から行って帰っても日が暮れるという事もない。もしここで河童を目撃できたなら、いい研究材料になるだろう。
「ねえ、お春ちゃん。その妖怪って、怖くないの?」
「河童よ。あんたも知っているでしょう、やえ?」
やえは控えめに頷いた。知っていると言うほど多くの事を聞いたことはないが、確かに人を獲って食べるという話は聞いた事がない。
「齧られたりはしないから、平気よ」
とお春はにこっと笑う。しかし、その笑顔がお春には怖かった。きっと何か良からぬ事があるに違いないと、心の中で何かが囁くのを聞いた気がした。
「そう言えば、聞いた事があるんだけど‥‥尻子玉って何?」
その質問に、お春はニヤリと笑った。悪魔の笑みだ。
「‥‥まさかそれを確かめようなんて、思ってないわよね? お春ちゃん‥‥?」
「まさかぁ〜。そんな危ない事、あたしがすると思っているわけ?」
「うん」
何の躊躇もなくやえは頷いた。
「あ、そう。じゃあ、お望み通りにしてあげるわよ、やえ。フフフ‥‥」
──し、しまった。
初めからそういう風に答えさせる罠だったのだ。
青くなるやえを見て、お春は勝ち誇ったように笑った。
「大丈夫だって。いざとなったら、これで──」
と懐から取り出した小刀をお春は見せる。
しかしそんな小刀一本で何をしようというのか?
「無理だよ、お春ちゃん。かないっこないよ〜」
泣きそうになるやえを見て、お春は首を傾げる。
「誰が、河童と戦う何ていったのよ? そんな事になったら、あたしの子分どもを呼べば善いいのよ」
と、今度はやえが首を傾げる番だった。
「いざとなったら、これであんたの髪を剃って‥‥」
そこまで訊けばさすがにわかる。
「そんなの嫌〜〜ッ!」
踵を返して逃げようとするやえをお春は後ろから羽交い絞めにする。
「大丈夫。やえなら立派に河童で通用するわ」
お春の穏やかな微笑みに、しかしやえは声を張り上げた。
「そんなの嬉しくない〜! お春ちゃんの方が絶対に似合うよッ!」
苦し紛れに放った一言が、お春の頬を引き攣らせた。
「ええい。生意気な奴め、こうしてくれる! 数裡破放流頭(スリーパー・ホールド)!
いきなりやえを離したかと思うと、今度は背後から両腕で頭を締め上げる。
じたばたともがくやえは、悲鳴を上げつつあらぬ方向を指差した。
「お、お春ちゃん。あれ、あれッ!」
てっきり意識を逸らす為のでたらめだろうと思ったお春だったが、ふっと振り向いた矢先に視界の隅に嫌なものを見て思わず「ゲッ」と美しくない呟きを漏らした。
慌ててやえを引っ張って泉から離れて木陰に隠れる。
「どうするの、お春ちゃん? 見つかったら‥‥」
それだけを言ってやえはその後の言葉を飲み込んだ。お春の真剣な表情を見たからだ。これだけ真剣な表情をするのは見た事がない。本当に危険な状況なのか、あるいは‥‥。
「な〜んてね。平気平気。ちゃんと手は打ってあるわよ。そろそろ下僕達が現れる頃よ。専門家なんだから何とかしてくれるでしょ。ま、それまでは大人しくしててあげるわ」
●リプレイ本文
●森の中
「――っぇっくしッ!」
静かな森の中にアキ・ルーンワース(ea1181)の派手なクシャミが轟いた。
「何だ。風邪か?」
前を歩いていた鬼嶋美希(ea1369)が肩越しに振り返って訊く。アキは鼻の辺りを指でで擦りながら、首を傾げた。風邪というのではない。
「‥‥何だろ、何か云われてる気が──」
まさか自分達の事を噂されているのを感じたわけではないのだろうが、突然のクシャミに襲われた。
「まあ、お春の事だからな。何やらよからぬ事を口走っていても不思議じゃないがな」
と美希も首を竦めた。
「‥‥、知り合いか何かなのかな?」
薄茶の瞳に人懐っこい色を浮かべて狩野柘榴(ea9460)は訊いた。ちょっと長めの頭髪が風に揺れる。
「ああ、。まあ‥‥ね」
と、美希はもう一度アキを見た。以前お春と一緒に関わったのはアキだけだ。
「私も聞き及んでいます」
横合いから観空小夜(ea6201)がそう口を挟む。
「風邪の長殿から詳しい話は聞いています。とても、元気があるお子様達だとか」
「うん? 僕が聞いていたのとは違う感じですね」
腕を組みつつ堀田小鉄(ea8968)が首を捻る。
前回参加したお嬢からは好敵手だと伝えられている。そう聞いていたからこそ、心構えもしてきたのだ。
無意識に顔の前に持ち上げた手で、指をパキパキと鳴らす。
「‥‥何を聞いてきたんだ?」
それを見て美希が思わず苦笑した。
「何やら穏やかじゃ無さそうだな」
やや離れてその様子を見ていた山内峰城(ea3192)が、よいしょっと肩の荷物を揺らす。それを見たミリオン・ベル(ea5910)が碧色の瞳に好奇心の色を湛えて訊いた。
「ねえ、それ何?」
「ん‥‥、まあ、な」
とやや誤魔化すようにして、峰城は荷物を隠すようにそそくさと歩く。その峰城を追いかけるようにして並んだのはベルと一緒に並んで歩いていた楊苺花(ea7447)だ。
「ねえねえ、何ってばぁ?」
と峰城の周りをちょろちょろと付いて回る。
「別に、何でもない」
「えー、だったら教えてよ。知りたいよね〜、めいぽん?」
「そーよ、そーよ!」
非常に賑やかだ。
「ま、何にせよ。早く合流するとしよう。何かと物騒だそうだからな?」
と尋ねた相手はアキだ。発つ前にお春の祖父から聞いた話では森の中を徘徊する鬼の集団がいるという話も聞いた。
「あー、誤魔化した!」
「今話しすり替えたよねミリー?」
「‥‥煩いなぁ、もぅ」
困った顔で呟く峰城にアキが笑いかける。
「人気者ですね山内さん。まあ、それはともかくいくら元気がいいと言っても鬼の相手は無理だろうなぁ」
何かを思い出すようにして小首を傾げるアキはふと目にしたものに表情を硬くした。美希を呼ぶ。
「美希さん、これ‥‥」
秋に指差されたものを見て美希がやや視線を鋭くする。それは幾つもの足跡だった。好意的に考えたとしても、彼女達の物とは思えない。
「急いだ方が良さそうだな」
言うなり歩を早くした美希を後の者が追う。
●危機一髪
「人間の匂いがするオニ」
「するオニ、するオニ。河童も食べ飽きたオニ」
「捕まえるオニ」
という平和的な相談がまとまった事など知る由もないお春とやえは、身を低くして叢に潜んで息を殺していた。
「‥‥遅いわね、まったく」
きょろきょろと視線だけを動かして辺りを窺い、そろそろ隠れているのに疲れてきたお春がボツリと呟く。「シー!」慌ててやえが口の前に指を立てた。
「見つかったらどうするのよ! お春ちゃん」
「‥‥お約束の例に漏れず、あんたの方がずっと大きな音を立ててるわよ、やえ。ほら」
とお春が指差す向こう、明らかにこちらを見つけたと思われる動きをする鬼達が向ってくる。
「あわわわ、ど、どうしよう!」
おろおろと慌てるやえを尻目にお春は素早く立ち上がる。
「仕方ないわね。こうなったら‥‥」
スラリと小刀を抜き放ったお春を見て、やえは不覚にも一瞬感動を覚えてしまった。直ぐにそれが大いなる間違いだと気が付いたが‥‥。
いきなりお春はやえを羽交い絞めにすると、首筋に刃を突きつける。
「止まりなさい! さもないとこの娘は保障できないわよ!」
「え゛?」
混乱と驚きの濁った呻き声がやえの口から漏れた。
「ちょ、ちょっとお春ちゃん! 何に考えてるの! やーめーて〜〜ッッ!」
やえの悲痛な叫びがこだました、が、鬼は一向に止まる気配がある筈もない。
「チッ。何が拙かったのかしら。かくなる上は‥‥」
残念そうに呟くお春の腕の中でやえがもがいた。
「お春ちゃん、馬鹿な事はやめてよ〜」と半分泣き顔になっているやえをお春は言われるがままに開放した。
‥‥だけでは済まなかった。
離し際にドンと背中を押されたやえはつんのめって両手を付く。その隙にお春は猛ダッシュをかまして逃げようとした。
「一匹逃げるオニ!」
「美味そうな方が残っているからいいオニ」
という会話が聞こえたわけではないだろうが、お春が突然足を止めて振り返る。
「何ですって?」
誰にでもなく詰問してから、お春はまずったと言う顔をする。その足元へ泣きながらやえが縋り付いて来た。お春は顔をややあらぬ方に向けて「チッ」と小さく舌打ちする。
「あー、今露骨に嫌な顔した! 『チッ』て言った!」
「あーもう、煩いなぁ」と心の中では思ったが口には出さず、お春は笑顔で「そんな事無いよ」と言いながらやえの手を取る。
さて、次はどうしてやろうか‥‥。
しかしその間も鬼は迫ってくる。
やえの悲鳴が響いた。
真っ先に駆け寄ってくる鬼が凶悪な笑みを浮かべた瞬間。横合いから飛来した何かが鬼の足を止めた。
地面に刺さったそれを目に止め、お春が「手裏剣?」と呟く。
それだけでは無い。飛来した二本の矢が、足の止まった鬼を間違う事無く貫く。
ベルの放ったものだった。
「モンスターなんかに容赦はしないんだから!!」
ベルの視線が放った矢もかくやという鋭さで鬼を射る。その横で柘榴が気勢を上げた。
「よし、当たった!」
駆け寄ってくる柘榴を見て、お春は微かに目を輝かせた。微妙に好みだった。
その背後から、雄叫びと共にまず小鉄が走り出る。その横には苺花が並ぶ。
「確実に当てて行けばいい!」
という美希の檄が飛ぶ。
小鉄は龍飛翔を狙っていたが、今一自分の技量では当たりが悪い。迫った小鬼を目前に素早く体勢を切り替える。突然の乱入に鬼達は明らかに虚を突かれていて動きが鈍い。
「やぁッ」
掛け声と共に蹴りを見舞い、怯んだ所に立て続けに拳を叩き込む。身体を折った鬼を尻目に小鉄は「ここは任せます!」と苺花に声をかけるとお春とやえの方へと走った。まずは二人を守る事が優先だ。
「任せて!」と苺花は地面を蹴る。
「あたしだって、前より少しは強くなってるんだからっ! 喰らえ!! 必殺!! 鳥・爪・撃ッ!!」
ふわりと宙に舞った苺花はしなやかな身体を駆使して無数の蹴りを繰り出す。
「ハイ!ハイ!ハイィーッ!!」
小鳥のさえずりの様な愛らしい声だが、繰り出された蹴りは小鬼を軽々と吹き飛ばし、地面に叩きつける。
「めいぽん、やるぅ〜」と中弓を手にしたベルが嬉しそうに笑った。
見たところ敵は小鬼が数体だ。何の備えもない子供二人ならそれでも充分過ぎるほどに危険な相手だが、どうと言う事はない。
「いくぞ、山内!」
背中の荷物を降ろすのにやや遅れを取った峰城の傍らを、茶色の髪をなびかせて美希が走り抜ける。見れば小夜は隙を縫って既に二人の元にいる。
アキの高速詠唱による呪文がそれを援護した。
●お春の企み
転がっている小鬼の死体を眺めながら、美希は「まったく」と頭を掻いた。
「妖怪を探すのは良い。だが危険な者達が出て来てるのに、子供二人で行くなんて無謀だぞ」
と、言ってから「まあ、言っても聞かんだろうけどな」と呟く。
まだ平静を完全に取り戻しきれて居ないやえをなだめつつ、小夜はお春に事の次第を訊く。
都合よく状況をまとめて説明しようとするお春の横から、やえが切々と自分の窮地を語った。それを聞いて小夜は「困ったものですね」と表情を曇らせた。
「お話は聞いていますが、あまり度を越すのは良くありませんよ」と戒めのつもりで軽く杖を差し出してお春の頭を小突こうとしたが何を思ったか、お春は急に手を頭上に掲げて一歩を踏み出した。
「何の真剣白羽取り!」
ゴンッ。
額を押さえて蹲るお春を見て、小夜が目を丸くする。そんなつもりではなかったのだ。
「大丈夫かな?」
傍による柘榴の気配を察してお春が顔を上げる。
杖が当たった部分を指差して、痛みを訴えようとするお春を見てやえが一言「自業自得だもん」とぼそっと呟く。
「‥‥そうだね」
と柘榴も同意した。
「後でお仕置きよ‥‥やえ」とぐっと拳を握り締めたお春が小さく呟いた。
●河童は何処?
大きいとは言っても、この人数で辺を探せば調べ尽くすまでには時間はそれほどかからない。一通り調べてしまった後で、アキがデティクトライフフォースでもう一度探るが、やはりそれらしい反応はなかった。アキとしてはあまり河童を追いまわすのも可愛そうなのでこの程度でいいのではないかとは思っている。
「やっぱり居ないみたい。時期も時期だし、留守にしているんじゃないかな?」
しかしお春は「絶対居る」と譲ろうとしない。
「河童って、緑の皮膚に皿‥‥あと胡瓜が好きなんだっけ」
と柘榴が思い出したように言う。
「だったら泉に胡瓜投げ入れてみたらどうかな? そしたら出てくるかも。『貴方の落とした胡瓜はこの金の胡瓜ですか』とか」
「どこかで聞いたような話だね」とそれを聞いてベルが笑った。
結局散々探した挙句見つからず、それでも帰らないと意地を通すお春に負けて夜営をする羽目になった。
昼間騒いだせいもあるのだろうお春はぐっすりと寝込んでしまい、それを見ながら火の番をしていた美希は酒を満たした杯を片手に苦笑した。
「こうやっていると、ただの子供なんだがな」という呟きに共に番をしていた小夜が「そうですね」と相槌を打つ。
つまみも兼ねてと持ってきていた胡瓜に手を伸ばし、美希はふと首を傾げる。数が足りない。見れば傍らに置いていた味噌もない。
「あ、河童だ」
と押さえ気味に声を発したのは苺花だった。焚き火の照らされて、赤く染まった茶色の瞳が見開かれる。
その声に一瞬びくっとした河童だったが、美希が「どうだ?」と杯を差し出すと、それにすっと手を伸ばす。
「‥‥あれ、どうしたの?」
とむくっと起き上がったのは、やえだった。そして目を擦りながら見た事のない物体がちょこんと座っているのを目をしぱしぱさせながら見つめる。
「あ、‥‥河童?」
●次ぎ行ってみよ〜
「嘘〜〜〜〜〜ッ!!」
お春の絶叫が静かな森にこだました。
「ちゃんと起こしたんだよ」
と柘榴は説明したが納得が行く筈もない。
確かに何度か起こしたのだ。しかしその都度「邪魔する奴は蛇固めであの世行きよ!」と怒られるものだから、結局起こしきれなかったのだ。
「もしかして‥‥」
ギロリとやえを見る。やえはニッと笑ってブイサイン。
グガーーーッ!
奇妙な雄叫びが空気を揺るがす。肩を怒らせたお春が怒りの矛先をやえに向けようとした時、べルと苺花が「山内さんは?」と異口同音に誰にともなく聞いた。
そういえばさっきから姿が見えない。
ガサリ。近くの叢が揺れた。
矢八つの視線が一斉に集中する。
出てきた物を見て、苺花とベルが「あははははははは!」と甲高い笑い声を上げてお腹を抱えて笑い転げる。
頭に皿を載せ、蓑を被って背中には大きな鍋を背負い、嘴の代わりに黄色く塗った貝殻をくっつけて‥‥。
「‥‥か、カッパ」
どう鳴くかまでは考えてなかったので、口を突いて出た言葉がそれだった。
「か、河童美夢ッ(カッパビーム)」
と呟くと、お春の隣の草がアイスコフィンで凍る。
お春の頬が引き攣った。
「そっくりそっくり! お春ちゃん、ほら河童河童!」
指を差して笑い声を上げながら、やえは涙を浮かべている。一方納得がいかないのはお春だ。その怒りの矛先が向けられる場所は当然。
「きぃええええーーーッ!」
奇声を上げながらお春は猛ダッシュしてやえに向う。秘儀、泥塗布蹴苦(ドロップキック)だ。
「きゃあ!」
しかし悲鳴と共にしゃがんだやえの上をお春は勢い良く飛び越して行く。
ドボ〜〜ンッ。
派手な水飛沫が上がった。
「見事な水飛沫だな」と美希が呟く。
その視線の先で目に殺意を漲らせたお春が泉から上がってくる。
全身ずぶ濡れのお春はギロリとやえを見ると、一歩一歩やえに近付いていく。やえはと言えば、蛇に睨まれた蛙の様にその場から動けないでいた。
「僕が相手だ!」
と、突然間に割って入ったのは小鉄だ。袖捲くりをしてお春を受けて立つ構えを見せる。
「今こそ必殺の哀暗苦弄(アイアンクロー)を試す時!」
闘志を燃やす小鉄にお春はにじり寄る。
「いい度胸だわ」
と邪魔者を排除する為に一歩を踏み出したお春だったが。
「ハ‥‥ハックションッ!!」
大きなクシャミが泉の辺に響き渡ると、そのままへなへなとへたり込んでしまった。
小夜が直ぐにお春の身体を拭き始め、焚き火灯される。
どうやら今回も、お春の目的は達せられなかったようだ。