木の実、何の実、樹になる実?
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■ショートシナリオ
担当:とらむ
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月14日〜08月19日
リプレイ公開日:2004年08月17日
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●オープニング
「おらぁ、薄気味悪いだよ」
とその男は言った。
江戸から歩いて二日もかからない所にある小さな村での出来事である。
「最初はな、虫か何かだと思っただよ」
と声を潜めつつ、身振りなんかを交えて男はその夜の事を話す。
数日前から村ではおかしな噂が立っていたという。森にある社へと続く小道でおかしな声を聞くと言うのが噂の内容だった。虫の声でも、鳥の声でも、獣の声でもない。とにかく不思議で、しかしどこか薄気味の悪い声が森に響いていると。
「ケヒェリャヒャシャ〜、ケヒェラリヒャシャ〜」
男はまるで意味を成さない不気味な旋律を伴った音を口から漏らして、「おらはこれでも獣の鳴き真似は巧ぇんだ」とにやりと笑う。
「とにかくこんな感じの声がよ、確かに聞こえたんだ」
事件が起こったのは、噂が立ってから二日目。小さな村だから、二日目にはもう村の誰もがこの声の噂を知っていた。そして向こう見ずな若者が三人、真実を確かめるべく社へと向かい‥‥。
「そりゃあ、おぞましい光景だったそうだ」
帰りの遅い三人の若者の様子を見に行った村の別の若い衆が、帰ってくるなりその場で腰を抜かしてガタガタと震えながら語るには。
三人の内一人は、何か重い物に押し潰されたようになっていた。
残り二人の身体は原形を留めない様子だった。
食い千切られた腕や足。頭のない躯が三つ。
三人とも、まるで獣に食い荒らされたかのような酷い有様だったという。
あまりの事に唖然としていた時、梢の上から例の声が聞こえ、若い衆は一目散に逃げ帰ってきたのだということだ。
一人は言う。
「あれは鬼の仕業に違いない」と。
人を喰らう鬼が森に住み着いて村人を襲っているのだと。
一人は言う。
「いや違う、天狗様だ」と。
何か自分達が山の天狗を怒らせるような事をしたに違いない。だから罰を与えられているのだと。
そして一人は言う。
「それどころじゃない。悪霊だ。森にとんでもない悪霊が住み着いて、氏子様をないがしろにしているのだ」と。
早く何とかしなければ、村は見放されてしまうと。
若い衆最後の一人はしかし冷静にこの状況を見詰めていた。
「とにかく何かが森にいるのは違いない。おらたちじゃどうにもならねぇ。怪物にしろ、悪霊にしろ、生業にしている者達に何とかしてもらう他はない」と。
「お願いだ。おら達の村を助けてくろ。たいした報酬は出せねぇが、精一杯のお礼はするだ。どうか、森の怖い怖い『何か』を探し出して、退治してけろ」
●リプレイ本文
岩倉実篤(ea1050)と浦部椿(ea2011)そして劉紅鳳(ea2266)は、今回の事件の化け物について多少の見解があるようだった。
実篤は以前、情報と似た釣瓶落しという妖怪と剣を交えている。椿と紅鳳は話に聞いただけだ。
「だが、腑に落ちんのだ」と実篤。
「押し潰されたという点かい?」と紅鳳が聞いた。
「そうだ」
「確かに妙だね。あたしも初耳だ」
「釣瓶落しなら、ただぶら下がっているだけだもんね」とのんびりとした口調で外橋恒弥(ea5899)が言う。両手を頭の後ろに組み、微笑を浮かべてまるで他人事だ。
「ず、頭上は注意しなければなりません!! 何時たらいのお化けが降って来るか分かりませんの!」と両手をぎっゅと握り締め力説したのは、夜十字琴(ea3096)だ。彼女自身はそう信じて疑わない。
「まあ、とにかく用心に越した事はないだろう」と椿。
「いかにも。ここは前後に分かれて参るとしよう。貴殿もそれでよいな?」
言葉数少なく、やや影の薄いように感じられる柊鴇輪(ea5897)は、実篤に聞かれて首を縦にチョコっと揺らした。
「うん。わし、も‥‥それ、で‥‥」という言葉は、既に振り向いてしまった実篤には届いたかどうか。
●森にて
前衛は実篤と椿。恒弥も後方から支援する術がないと、飄々として前衛組に加わる。 後衛では紅鳳が一人「背の高い分、上の方は見えやすいからね。何かヘンな物が見えたら教えるよ」と、かなり前を行く三人見ている。ジャイアント族の出である彼女はスバ抜けて背が高い。その紅鳳が突然険しい表情で振り向いた。
「らーらーらー、らーららーらー♪」
と鼻歌交じりの琴の声が突然途切れたからだ。まだ森に入って直ぐ、敵か?
しかし目に飛び込んできたのは、ボテッとこけている琴の姿だった。直ぐに顔を上げて「痛いですぅ〜」と涙目になる。
「何やってんだ。気をつけて歩きな」と言いながらも、彼女の首根っこをつまんで持ち上げる。「気ぃ‥‥つけ、や。こけ‥‥たら、痛い‥‥でな」と鴇輪が消え入りそうな声で言う。
どうも調子の狂うやり取りに、紅鳳はやれやれと頭を掻いた。
「後ろ、大丈夫なのかな?」
後方を覗き見るようにしながら、恒弥は金色のメッシュの入った頭髪を撫で付けた。
「後ろが襲われたりしたら、大変だ」
「そうならぬ様に、我らが前にいるのだ」
恒弥とは正反対に真面目な表情で実篤が言う。「まあ、そうだけどね」と恒弥。
「お二方。油断は禁物。岩倉殿、そろそろこの辺りだ」
椿の警告に実篤は「うむ」と頷き、辺りを窺った。
「ここら辺が若者の死体が発見された場所の筈だが‥‥特に何か居る気配はしないようだな」殺気も何も感じない。警戒して出てこないのか。
「どれ。それじゃあここは一つ任せてもらおうかな」
と言いつつ前へ踏み出そうとする恒弥を実篤が引き止めた。
「待て。単独で動けば危険だ」
「だが、このままでは埒があかない。違うかな?」
「それはそうだが、外橋殿には策があるのか?」
聞いたのは椿だ。現実、村人が犠牲になっている。それを考えれば単独での行動は確かに危険だった。
「俺の北辰流は、剛のみの剣じゃないんだよね。ま、ご覧あれってね」
あくまでマイペースを崩さず、恒弥は一人歩を進める。それを見守りながら、椿は早々に抜刀し、体勢を整える。実篤も剣の柄に手を添えて重心を落した。その上で恒弥の周囲、特に頭上を注視する。
●恐怖のトリプルアタック
まるで無防備の様に思える足取りをやや心配げに見守る実篤は、その時確かに梢の上に何かの気配を感じた。
「用心なされよ!」と声をかけようとした時、奇怪な声と共に恒弥の真上から、黒い塊が落下した。
「ケヒェラ!」
それをまるで柳の枝が風に揺れる様に、恒弥は緩やかに身体をかわした。そのまま身体を地面に投げ出し、反動で起き上がると同時に腰に佩いた刀をすらりと抜く。
「上から来るってわかっていれば、察するのは難しくないってね」
言葉の最後が、ちょっとした驚きで詰まる。
事態の急を悟った実篤と椿も、目の前で起こった出来事に目を細め、或いは「ほぅ」と息を漏らした。
「ケヒェラ、ヒェラ!」
ドスンッ。と恒弥を狙って落ちた塊の上にもう一つの塊が落ちる。
それは実篤や紅鳳の思っていたように釣瓶落しと呼ばれる怪異の物だった。巨大な人の生首。木の上から釣瓶の様にぶら下がり、夜道で人に害を成す類いの化け物だ。
そして三人の見ている前で、さらに一つがその上に落ちる。
「なるほど。やはり、正体はコイツか」
「思った通りだったな、実篤殿」
「だがしかし‥‥」
奇怪な鳴き声と言い、この不可解な行動といい、以前に出会ったモノとはどこか違う。
「でも、これで原因がわかったわけだ。じゃ、後は」
手の内がばれてしまえばどうと言う事はない。
「承知!」
言うが早いか椿は必殺の初太刀を繰り出す。鎧兜すらも叩き切る、示現流必殺の太刀だ。
「なッ?」確かに当たった。だが当たった瞬間の手応えの気持ちの悪さに力が入り切らない。大きなダメージは無かっただろう。椿は思わず身を引いた。縦に重なった三匹の内、真ん中の物を切った筈だった。
当たった瞬間、声が聞こえた。
「釣瓶落し」
その声に合わせて、真ん中の一匹が横へ飛び出てストンと落ちる。そして他の二匹がにやりと笑った。直後に呆気に取られる三人を他所に、梢の上へと飛び上がって姿を隠してしまう。
後には怪異な声が響いた。「ケヒェリャヒャシャ〜、ケヒェラリヒャシャ〜」と。
「なんと、奇怪な」
「‥‥達磨落しの間違いだよね」
二人同時に違う意見を述べて、共に動けなかった事を悔やむ。
当の本人である椿ですら、起こった出来事に呆気に取られてしまっていた。
「実篤殿、あれな怪異な物と戦ったのか?」
「いや、見た目は同じだが別の物のようだ。心してかかられよ」
「その方がよさそうだ」と軽口を叩いた恒弥は、椿の頭上から落ちてくる幾つもの釣瓶落しの姿を見た。油断していたわけではなかったが、刃を向けるには位置が悪い。実篤と椿に至っては完全な死角だった。
咄嗟に身を捻る実篤と椿。しかし全てを避けきれるものではない。内一匹が椿の肩口に牙を掠めた。
「クッ!」と苦痛に顔を歪める。
そこへ気迫の声が轟いた。
「ハァァァァッ! 龍飛翔ッ!」
巨大な身体が疾風を伴って三人の間を駆け抜ける。繰り出す剛拳が唸りを伴って宙に舞い、釣瓶落しの一匹を突き上げ粉砕した。
ズンと地鳴りすら響かせて、紅鳳は着地する。
「あんた、大丈夫か?」
と椿を振り向くと、いつの間にか琴が直ぐ傍にいる。
「い、痛いの痛いの、飛んでけー!! ですのッ」と椿の肩口に手を翳す。
一瞬にして引いていく痛みに椿は表情を和らげた。
「身は小さくとも、立派だな。夜十字殿。恩に着る」
言われて琴は「エッヘンですの」と胸を張った。
「‥‥実篤、後ろ‥‥や」
鴇輪の言葉に、今度は瞬時に反応した。油断してなければ見えなくても、感じでわかる。振り向き様に抜刀し、逆袈裟に切り上げ、返す刀で視界に入ったもう一匹の蔦の部分を寸断する。地面に落ちた一匹はそれで動かなくなった。
「お見事」と思わず恒弥が手を打った。
「油断するな。こいつらさっきの奴等とは違う」
実篤に促され、琴と鴇輪を中心に囲む形で円陣を敷き四方と上方に気を配る。そこへ頭上から三匹の釣瓶落しがぶら下がって来た。名前の通り、木の枝から釣瓶の様にぶら下がって牙を剥き出す。
「こいつらは普通の釣瓶落しだけど、さっきのは?」と紅鳳が訊ねる。彼女もどうやら知らないようだった。
「わからぬが、変り種だろう。気をつけよ!」
言葉の最後が意味する事を全員が理解して、散開する。直後に真上から巨大な首が落ちてきた。続け様に残りの二匹。そして、同時にぶら下がった釣瓶落しが一斉に襲い掛かってくる。琴が狙われた。
「たらいのお化けじゃなかったんですかぁ〜?」
と涙交じりの悲鳴を上げる彼女の前に、俊敏さで秀でる鴇輪が咄嗟に立ちはだかった。
「琴が、怖がっとるさかいに。‥‥わてが」
飛び掛ってくる釣瓶落しを鮮やかにサイドステップで避け、横殴りに短刀でカウンター攻撃を仕掛ける。しかし非力なせいか、あまり効果がない。
釣瓶落しが逆撃を仕掛けようと向きを直しかけた時、気合一閃、椿の剛剣がそれを真っ二つに切り裂いた。
「よくやった鴇輪殿」と褒める椿を見もせず、鴇輪は真っ二つになった釣瓶落しを見、「‥。死んだ‥」と呟いた。
残りの二匹はそれぞれ実篤と恒弥に向う。
敵が眼前にいれば、何も戸惑う事もない。
実篤は鞘に収めたままの刀の柄に手を置き、太刀筋の見えない必殺剣ブラインドアタックで向ってくる釣瓶落しを難なく両断する。鞘に戻した刀が「チンッ」と涼しげな音を立てた。
恒弥は抜刀した刀を構えず、下方に向けたままゆらゆらと揺らす。釣瓶落しが攻撃を仕掛けてきた時も、あらぬ方向に刀を向ける。それを好機と見て襲い掛かる化け物をしかし鮮やかに切り伏せた。得意のフェイントアタックだ。
「貴殿。見かけによらず、やるではないか」
と実篤も思わず太刀筋を褒めた。
「さて、残るは‥‥」
と恒弥が振り向くが、地面に落ちた三匹の姿がない。
「逃げたよ。クソ。今度逢ったら、ただじゃ済ますものか」
と紅鳳は悔しそうに拳を打ち鳴らした。確かに手応えは在った。しかし留めは差せなかった。多少他の個体より耐久力が在ったのだろう。それに、
「『釣瓶落し』にやられたんだ」と椿が説明する。
「‥‥達磨落しだよね、絶対」
と恒弥は苦笑した。
実篤の提案で森と社の付近を念入りに調べたが、どうやら化け物は姿を消したようだ。しかし今後の事も考えて村人には注意するようにと言い残す。
村から今回のお礼として珍しい野菜を贈られる。西瓜だった。
大きさはちょうど人の頭ほど。とても美味しいそうだ。