<籠の中>

■ショートシナリオ


担当:とらむ

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月24日〜11月29日

リプレイ公開日:2005年12月01日

●オープニング

 道場に気合のこもった声が響く。直後に、痛々しい悲鳴。そして床に激しく人の倒れる音。
「さあ、次は誰?!」
 仁王立ち。お静は決して身体の大きい方ではないが、まさにそう形容するに相応しい様相でお風は息も絶え絶えの門下生を見下ろした。
 既に十人。床に伸びている者四名。運び出された者三名。介抱されている者三名。いずれもお静の相手をしたせいである。容赦ない剣戟に、五合も堪えれば大したものだ。
 連日続く荒稽古に門下生の全てが怖れをなしているといっていい。
 稽古といえば聞こえはいいが、つまるところ憂さ晴らしである。それは誰しもが知っている事だが、おいそれと口にできるものではない。
 ただ一人気を利かせてそれを口走った者は、既に三日寝込んでいる。
 賢精との逢瀬がかなわなくなって何日が過ぎただろうか。
 全ては山神燈心の耳に届いた噂のせいだった。賢精とお静が暴漢に襲われ、しかもその暴漢が実は破邪剣派の者であったというのだ。
 それを聞き、当然のように二人の逢瀬を禁じ、お静の外出をも禁じてしまった。一度ならず抜け出そうとしたお静だったが、尽く失敗してしまった。
 そしてこの有様である。
「誰かいないの!」
 竹刀が乾いた音を立てて道場の床を打つ。その音に全員が首を竦めて嵐が過ぎ去るのを密かに祈った。
 じろりと道場内を見回す。しかし誰も視線を合わそうとしない。
「いいわよ、もう!」
 一言吐き捨てると、お静は床を踏み鳴らして道場を出る。誰からともなく安堵の溜息が漏れて道場内を満たした。

 部屋に戻ってしばらくすると、障子越しに人影が立つ。かすかな音を立てて隙間が空き、誰かが覗き込んだ。
「何?」
 棘どころか鋭い刃の煌きを込めた視線が向けられる。覗いたのは山神燈心だ。しかし、その剣幕に気圧されてすごすごと引き下がっていく。実は門下生達に泣き付かれてお静を言い含めに来たのだが、たったの一言で退散してしまった。話しにならない。
 まったく苛々が募るばかりだ。それでいて、どうあっても自由にはしてもらえないのである。どうしてくれようか‥‥。
 苛立ち任せに畳を叩く。廊下で誰かが飛び上がるのが聞こえた。まだいたのかと思う。 既に七日。そろそろ限界も限界だ。何か手を打たなくてはならない。賢精はしばらく会わない方がいいなどと言っていたが、それでは誰だか知らない誰かの思う壺ではないかと思う。負けてなるものか。
 しかし、出られないのではどうしようもない。文を届けるのも許されていない。
 ふと部屋の隅を見る。窓際に指してある風車が目に留まった。賢精が祭りの折に買ってくれたものだ。風の吹かない部屋の中では、風車もただの飾りだ。風が吹かなければ回るものではない。
 お静はそれを手にとって息を吹きかける。風車は乾いた音を立ててカラカラと回った。風を与えれば回る風車。けれども風が吹かなければどうしようもないではないか。
 風、風か……。
 風は吹くものだ。吹かせるものではない。けれど、こうやって息を吹きかければ風車は回る。
 ちょっと考える風をして、お静はにやりと口許を緩ませた。進衛門を呼び、文を手渡す。「これを届けて頂戴」
「‥‥いや、しかし」
 賢精には文を届けてはならないとの厳命が出ている。困惑する進衛門にお静は「大丈夫よ」と意味ありげな視線を向けた。
「ギルドに届ければいいのよ。賢精あての文じゃないからいいでしょう?後は、何とかしてもらうから」
 引き攣る進衛門の表情を他所にして、お静は勝ち誇った笑みを浮かべた。

 文の内容は以下の通り。
「最上賢精に何とかして会わせて。私はここを抜け出せないので、引っ張ってくること。ここを抜け出せるなら、尚の事、善し。手段は問わず。しかしながら、騒ぎは避けるに越した事はなし
 

●今回の参加者

 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea3546 風御 凪(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5930 レダ・シリウス(20歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea6130 渡部 不知火(42歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7918 丙 鞆雅(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb2168 佐伯 七海(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●行雲流水
 穏やかな秋晴れの空を眺める最上賢精の表情は決して明るいものではなかった。先日の一件以来どうにも胸騒ぎが消えない。自害した男は明らかに門下の者ではなかった。しかしどこからどう噂が伝わったものか、お静と自分を襲った暴漢達の話は知れ渡っている
 しばらく会わねば無用の誤解を増長させまいと思ったが、お静の身が心配になり、こうやって険しい顔で空を見上げる毎日だ。
 不意に声がして振り返れば佐伯七海(eb2168)が訪れていた。
「どうだった?」
 表情を改めて訊く賢精に七海は首を振った。あれ以来お静は一度も外へは出してもらえぬようだ。こうやって日に一度ならず様子を見に行ってもらっている。
「先生もずっと外に出てないよ。気分転換した方がいいと思うんだ。気晴らしは必要だよ」
 確かにその通りだ。
「大丈夫。僕がちゃんと護衛するかさら」と笑う七海に、賢精は思わず苦笑した。

●予想外
「あら、思いの他簡単に引き連れてきたわねん」
 屋敷から賢精を伴って出てきた七海の姿を見て渡部不知火(ea6130)は満足そうに顎を撫でた。最上賢精は立場上頑なな部分もあるように聞いていた。やや力ずくでも思っていたのだが、これで一つは問題が減った。後は周辺への警戒か。五神剣派の不穏な事件は噂が様々に飛び交っている。
「さあて、向こうはどうなったかしらん?」
 と遥か向こう活神剣派の道場の方角を見る。向こうも首尾よく進んでいればいいのだが。

●下準備
 痛々しい悲鳴が道場内の空気を揺るがし、床を打つ門下生の身体が壁までを震動させて空気を振るわせた。
「あれは痛そうじゃのう」と道場内の悲惨な状況を屋根の上から眺めて、レダ・シリウス(ea5930)はのんびりと呟いた。
 先日にも増してお静の稽古は激しい。今日はまた一段と気合が入っているようだった。痛めつけられる、もとい犠牲になる門下生達はさぞ大変だろう。
「さてそろそろ時間じゃのう」
 折りよく門の前に数人の人影が立つ。内一人の浪人風の若者はさりげなくこちらに視線を向けた後で、一人離れて屋敷の外回りに足を向けた。夜十字信人(ea3094)だ。

●含むところ有り
「さて、それでは始めましょうか‥‥」
 活神剣派の主治医と共に道場を訪れた風御凪(ea3546)は道場に入るなり、床に累々と転がる門下生達の姿を見た。
「いつもこんな状態なんでしょうか?」と訊けば、主治医の佐七郎はやれやれと頭を掻きつつ頷いた。
 道場へと行く為に力を借りようと相談を持ちかけたなら、二つ返事で了解をもらえたのはこういう理由があったのかと思う。二十数名が床に転がり、他の者も五体無事と言える者はいなさそうだ。これだけの者を診察するとなれば、一人ではとても足りまい。
 これで一つの目論みは失敗だなと思う。診察が終わって治療が終わったとしても、とても手合わせなど願える状況にはない。誰も皆、剣どころか指先一つで倒せてしまいそうなくらいだ。
 横で同じく様子を見ていた丙鞆雅(ea7918)も、言葉がない。手合わせを願って時間稼ぎをと考えていたが、それどころではなさそうだ。
「これは凄いな」
 呆れ顔を隠せない様子で呟いた。
 死屍累々。と言うほどではないにせよ、見た目で誰一人無傷の者がないのがわかる。今日一日だけでの結果でないのはわかる。しかし明らかにやり過ぎ‥‥いや、やられ過ぎだ。 お静とは面識のない鞆雅だったが、この仕打ちを見る限りどうやら深窓の姫君とは程遠い存在であるらしい。
「俺も面識はありませんが、腕は良いようですね。見事なくらい具合の悪いところは撃っていないですし」
 良く言えばそうだろう。逆を言えば見事にいたぶっているというようにも思える。しかし手当てがてら話を聞けば、誰一人としてお静を悪く言う者はいない。それどころか、同情の声がほとんどだった。
 事情は概ね心得てはいるのだが、なるほど聞いてみれば現頭首山神燈心の用心の仕方は度を越しているようにも思える。
 暴漢に襲われた、その相手が破邪神剣派の手の者と名乗ったにしても、娘の外出までをも禁じるのは行き過ぎではなかろうか。それでは鬱屈も溜まろう。
 せめてもの気晴らしの手合い稽古であっても、自分達では到底太刀打ちできるものではない。それが帰って申し訳ないというのだった。
「せめて、賢精殿が出向いてくれれば‥‥」
 という言葉も少なくない。しかしそれは無理な相談だろう。賢精こそ警戒すべき破邪剣派の現頭首そのものだ。
「しかし聞いてると何だな。最上賢精殿の評判は随分といいようだが」
 所在投げにしていた鞆雅がふと手を休めた凪に話し掛ける。それを凪はやんわりと訂正した。
「随分とどころではないですよ。俺の見たところ、完全に身内として畏敬の念を抱かれていますから」
 確かにそうだ。お静に対する同情の言葉はあるべき状態にないことに対する反発の言葉とも聞こえない事はない。明確にではないにしろ、燈心への否定的な言葉もあったほどだ。
「互いに引き合う想いの糸を、誰かが断ち切るなど‥‥許せんな」
 思わず硬く拳を握る鞆雅を凪が不思議そうに見つめる。随分と心を動かれたようだなどと思ったものだが、実は義弟を想って、それ故に義憤に駆られている事など知る由もない。そこへちょうど山神燈心が姿を現して、佐七郎と連れの二人に丁寧に挨拶をした。噂通りの腰の低い人物である。活神剣派の頭首たる威厳こそ感じられないが、懐の深さは言葉の端々に窺い知ることが出来た。
「実は手合わせを願いに来たつもりだったが、どうにもかないそうもない。せっかくだから、茶の湯でも一席どうだろうか?」
 ふと一計を思いつき鞆雅が言えば、燈心も喜んでその申し出を受けた。書画を愛で茶の湯を嗜む。他の四派の頭首にはない趣向の持ち主が山神燈心だった。それを軟弱だと公然と謗る者もある。だが活神剣ならぬ活人剣派の頭首としての名を成した人物でもある。人を活かすには剣だけではならぬとの教えも門人達にはあるという。
 故に、なぜ賢精とお静との仲を良く思わないのか不思議に思う声もあるのだ。一説には先代の事があるとも言うが、真相は誰も知らない。
 庭の片隅にある茶室へと通されて、鞆雅は単刀直入に二人の仲について訊いた。
「聞けば、二人の仲は知らない者が無い程とか。事件の事はさておきとしても、どうしてここまで反対するんだ?」
 見事な茶の手前に感心しつつも、燈心は質問の事となれば話は別と笑みの中にも頑なさを見せた。
「事は私ども五神剣派の沽券に関わる故。せっかくのご心配ですが」
「それはそうだが、やはり本人達が想い合っているのを分かつのを見るのは忍びないと思うが?」
「では一つお聞きしましょう。茶とは、果たして茶を楽しむだけのものでしょうかな?」
 訊かれて、鞆雅は質問の意味を測りかねた。燈心は茶道具の一つを取り上げ、愛でるように眺める。
「茶もまた。一つではありましょう。しかし、茶は皿に入れて楽しむものではありませんな。こうして器があって、初めて茶の道というものを味わう事ができるのではありませんかな?」
 茶の道というものが精神性だけではもはや語られない状態であるのは間違いが無い。
 鞆雅は燈心の物言いにどこかゾクリとしたものを感じて目を細めた。屋根で同じく耳を澄ましていたレダも同様にうそ寒さを感じてしまう。どうもこの男には見た目とは違う何かが潜んでいそうな感じだ。
 鞆雅が滞った空気を吹き飛ばすように詰めていた呼気を吐き出すのと、屋敷の中が騒がしくなったのは前後が無かった。
 何かが起こったらしい事は騒ぎでわかる。どうやら凪が騒ぎの元らしい。

●一致団結
 きっかけは単純な事だった。ちょっとした拍子に「お静に会えないだろうかと」話しを持ち掛けた事に端を発する。
 折りしも外に出ていた門下生が戻ってきて、外に不審な浪人がいると言う報告があった。しかも相当に名の知れた人物であるという。それを聞いた者が凪を見た。江戸でも名の知れているものがここにも二人。それだけの条件が揃えば考えられる事実は一つしかなかっただろう。
 さっと道場内の空気が変わったのを凪ぎは知った。一瞬、まずい事になったかと警戒したが、直ぐにそれが誤解だと気がついた。
 門下生の何人かがひそひそと話しを合わせて、凪の方へと寄ってくる。
「風御先生ともあろうお方が、我々などを脅されるとはきっと何か事情がおありなのでしょう。しかし、我々とて簡単に屈するわけには行きませぬ!」
 という声は勇ましいが、数人の門下生達は凪を囲んで奥へと案内して行く。
 道々出会う門下生達は口々に「お静様には近づけさせませんぞ!」「活人剣派を侮るなかれ!」「簡単には通さないぞ!」と声を上げながら、凪をそそくさと案内して行く。お静の部屋の前にたどり着いた時には、背後にずらりと門下生の列が出来てしまっていた。
 部屋の中にいるお静に声をかけようかとした時、突然障子が開き、中からお静が現れる。
「それでは行きましょうか」
 と言われて凪は目を丸くした。スタスタと歩き出すお静の後を慌てて追う。道々また門下生達が「人質とは卑怯な!」「正々堂々と勝負だ!」「誰に頼まれた!」等と、威勢のいい声を上げる。だがもちろん打ちかかってくる者など一人もいない。それどころか安堵の表情を浮かべて見送る者までいる始末だ。
 その騒ぎを聞きつけて燈心と鞆雅がやってきた。
「風御殿何をしているのだ?」
 思わず鞆雅が訊けば、凪は微笑を浮かべて頬を掻いた。果たして説明してよいものやら。
「これは、どういう事か説明してもらえますかな?」
 との燈心の問いに答えたのはお静だった。
「お父様。静は拐かされました故、手出しは無用になされますよう。手出しをすれば、無事では済まされません。そうですね?」
「ええ。まあ」
 先頭に立つお静に訊かれて、凪は答えつつ鞆雅を見た。その視線を受けて、鞆雅は慌てて一歩前へと出る。
「そ、そのようだ。手出しは無用にしてもらおうか! ‥‥で、良いのか?」
 とお静に訊く。答える代わりに腰の刀を抜いて鞆雅に手渡すと、お静は先に進むようにと合図した。
「というわけですので、静は行ってまいります。数刻で戻りますので、ご心配は無用です」
 間にお静を挟みつつ門を抜ければ、信人がそれを待っていた。レダから知らせを受けて待っていたのだ。はっきり状況を理解しているわけではなかったが、門下生総出で見送りをされているように見える。
「どうなっているんだ?」
「風御殿に訊いてくれないか。俺も良くわからん」
「心配無用です。俺だって訳がわかっていないんですから。まあ、とりあえず役目は果たせたんじゃないでしょうか?」
 どうやらそのようだ。
「それで、私にここまでさせた張本人は?」
 とお静が訊く。
「町外れの茶屋を借り切ってある。そこにいる筈だ。後は好きにやってくれ」
 
●無粋な奴等
「で、七海。ここの団子が美味いのはわかったが、どうして我々だけなんだ?」
 いくらなんでも人がいなさ過ぎる茶屋で、賢精はさして咎めるまでもなく訊いた。途中から何か裏がありそうだとは思っていた。別段悪い企みには思えなかったから黙って付いてきたが。
「え、えっと。それは、その‥‥」
 約束の時間からはちょっと遅れている。思わず視線をきょろきょろと辺りにめぐらせるのを見て、賢精は眉の辺りを掻いた。もう少し待たされるのだろうか。
「ま、確かに美味い団子だ」
 と言いながら茶を含む。だが次の瞬間、勢い良く後頭部を叩かれて口の中の茶を異音と共に吹き出してしまった。
「何が美味い団子だ、よ!」
「お、お静殿?!」
 開いた口が塞がらない様子で思わず七海を見ると、やや申し訳なさそうに賢精を見上げていた。なるほどそういう事か。
「まったく。いつまでもこないから、余計な手間がかかったわ。このツケはきちんと返してもらうわよ」
 お静は腰に手を当て、じっと賢精を見下ろす。しかし賢精はその視線をつとかわしてあらぬところを見た。つられてお静もそちらを見る。誰かが様子を窺っている。
「あっと、気になさらずに。お二人は、ほら」
 さっと団子と茶を差し出して、七海は腰を浮かせた。後は自分達の仕事だ。
「いいのよ。こんな事になった責任を取らせてやるわ。何人がかりで来ても、返り討ちにしてやるわよ。一寸の虫にも五倍の魂よ!」
「‥‥いや、五分だ。お静殿。それでは意味がわからぬ」
「もう、一々細かいわね‥‥」
 気を削がれた様子でお静は賢精を振り返った。
 ほのぼのとした? そんな会話を尻目に七海は仲間の下へと走る。不知火が道々怪しい者がいると忠告していた。二人揃ったところで襲うつもりだったのだろう。こんな計画まで嗅ぎ付けられてしまうとは、敵の情報網は大したものだ。
 だがしかし、たどり着いてみれば既にほとんどは片付いてしまった後だった。尽く捕らえられた賊は手を縛られて一箇所に固められ、周りを仲間達が取り囲んでいる。実力者揃いである。相手が悪過ぎるというものだ。
「さて、どうしようかしらねぇん」
 七海が来たのを見計らって、不知火が刀の峰を叩きながら賊を見下ろした。内の一人が口を動かしかける。ヒュン、と風が鳴った。男の口許に刀の切っ先が突きつけられる。
「おっと、余計な事は言わない」
 男の頬に赤い筋が走る。
「そうそう。それでいいのよん。さて、どうしようからしね? このまま黙って帰るならいいけどねん。念の為、お仕置きしておこうかしらねん?」
 凄みを利かせて笑えば、鞆雅がそれに同調した。
「せっかくだから、一人見せしめにしておいたらどうだ?」
「いいわねん。どうしたらいいかしらん?」
「叩きにしたらどうだ?」と信人が手に持った木刀を弄ぶ。
「いえ、刻んでみたらどうでしょう?」と今度は凪だ。
「こんがりと焼いても良さそうじゃのう」とレダは太陽を見上げた。
「まあ、膾でもいいな」と薙刀を扱いて鞆雅はにやりと笑った。
「三枚におろしてもいいかもねん。あ、佐伯は?」
「あ、あの‥‥僕は」
「指先から徐々に削ってみる? 結構、効くわよねん」
 意見が出揃ったところで、不知火が一歩前へ出た。
「さて、聞いての通りだ。誰が料理されるのか、決めさせてやろうじゃねえか」
 途端に男達の顔色が変わった。しきりに互いの顔を忙しく見合わせる。無論、簡単に決まるわけがない。いや、決まろう筈がない。
 ドン! と不知火が片足を踏み鳴らす。
「早くしやがれってんだ! 全員刻まれたいのかッ!」
 突然の剣幕に、男達は先を競って我先にと逃げ出した。しかし誰もそれを追わない。ここで下っ端をいくら手にかけたところで解決はしない。
 それを見て、七海がほっと胸を撫で下ろす。
「せっかくの対面だものねえん。斬り合いは、無粋よねん」
 不知火に背をぽんと叩かれて、七海は満面に笑みを浮かべてその顔を見上げた。