妖怪から私を守って!

■ショートシナリオ


担当:とらむ

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月01日〜09月06日

リプレイ公開日:2004年09月08日

●オープニング

「ニャァ〜〜オ」と声がした。
 びくびくと怯えながら、布団の中から顔を出す。
 少しだけ強い風が吹いていた。障子がガタガタと揺れていた。
 月明かり。
 差し込む光が障子に何かの影を投影する。
「ニャァ〜〜オ」 
 影だから、形はよくわからない。
 それは二本の足で立ち、二本の尻尾を揺らめかせていた。
 つんと突き出た鼻。そして頭の上にはピンと立った二つの耳。
 その何かがゆっくりとこっちを振り向く。
 女の子は「ひぃッ」という小さな悲鳴を上げて布団の中へと潜り込んだ。
 隣では両親が眠っているが、まったくそんな様子に気がついた感じもない。
 袖を引っ張って起こそうかとも考えた。けれど、また笑われるのが関の山だろう。
 だからこうやって布団の中に隠れているしかない。
 両親の間に挟まって、しっかりと二人の手を掴んで、何処にも連れて行かれないように。「ニャァ〜〜ッッ!」と声が高く上がる。まるで隠れている自分に怒りを顕にしているように。
「フーーーーーッ!」
 と威嚇の声。
 どうしてお父さんもお母さんも起きてはくれないの?
 こんな夜がもう何日続いただろう。怖くて震えていると、いつの間にか眠ってしまっている。そんな夜が。
 
 次の朝。
 眠そうにしている女の子に母親がどうしたのかと尋ねる。
「また、来たの。絶対、そうよ。間違いないもの」
 と訴えるような目で母親を見る。
「ミャア〜〜」と鳴き声がした。
 女の子は驚きのあまり飛び跳ねる。そしてこの家にずっと住み着いている三毛猫のみけから逃げるようにして母親の背中に隠れた。
「ミャア〜」と甘えるような声を出して、みけは母親のくるぶし辺りに頭を擦り付けていたが、
「嫌、あっち行ってよ!」と思わず声を上げる女の子に驚いて悲しそうに一声鳴いて、再び外へと出て行く。
「あらあら可愛そうに。八つ当たりなんかして」
「お母さん。違うのよ。昨日の夜もちゃんと見たんだから!」
「またその話?」
 と母親は呆れて笑う。
「猫はお家を守るんだってお祖母ちゃんも言ってたでしょう? みけは狐や狸じゃないんだから、大丈夫よ」
 そう言って母親は娘の頭を撫でた。
 けれども納得できる訳がない。
 女の子は外に出て、影のあった辺りを確かめる。
 障子には何の痕跡もない。しかし‥‥。
 「これ、何の毛だろう?」
 地面に散らばる長い山吹色の毛を幾本か摘み上げて、女の子は眺めた。みけの毛のようにも見える。
 よくよく見れば、何かが争ったように近くの叢も乱れている。
 いったいどういう事なんだろう?

●今回の参加者

 ea0247 結城 利彦(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0250 玖珂 麗奈(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3619 赤霧 連(28歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea3650 住吉 香利(40歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3874 三菱 扶桑(50歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea5088 アルファネス・ファーレンハイム(39歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea5906 クローディア・ルシノー(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea6188 リアン・デファンス(32歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

「腑に落ちないとは思わないか?」 
 住吉香利(ea3650)は遥か頭上に位置する三菱扶桑(ea3874)の顔を見上げて訊いた。
「何がだ?」
「ご両親の態度の事でしょうか?」と間に入ったのは、アルファネス・ファーレンハイム(ea5088)異国から来たナイトだ。
「そうだ。何を聞いても知らぬ存ぜぬだ。そのくせ、こうやって私達を招き入れもする。これがおかしくなくて何だと?」
 不信感を顕にして香利は腕を組む。
「ご両親だけではありませんね」
 とクローディア・ルシノー(ea5906)が話に加わる。エルフである彼女は自分がこの国でも珍しい存在だと知った上で、情報収集の為の自分の容姿を利用した。物珍しさから警戒心を持たれない。
「周辺の人達もこの事については知らないというばかりです」
「確かにそうですね。本当に知らないのかも、知れませんが」ファーレンハイムも同様に感じていた。誰でもが気軽に話をしてくれるが、情報らしき情報はない。
「なるほど。そう言えば先だっての妖狐の件があるにもかかわらず、過敏な反応がなかったのは妙とも思えるな」
 扶桑も既に聞き込みを行って、同じように情報がない。庭に落ちていた山吹色の毛は狐の物だとクローディアの動物知識でわかった。その事を話してなお反応がないのは返っておかしい。
 先日の妖狐と何か関係があるのではないかと考えているのは、香利、扶桑、クローディアだけではない。 
 リアン・デファンス(ea6188)も妖狐が関係しているのではないかと思っている。しかし、まずはみけの方だ。
 どうも姿が見当たらない。
 小枝に嫌われてから、あまり姿を見せないようにしているという事だった。みけは小枝の祖母が子供だった頃からこの家に棲んでいるらしい。
 小枝はみけが自分を狙っていると思っているらしいが、どうもそうではなさそうだ。仲間は自分と同様‥?
「連の姿が見えないようだな?」
 リアンの言葉に誰彼ともなく彼女の姿を探す。 
 ミャ〜〜オ。
 鳴き声と共に物陰からみけが走り出てくる。
 そしてその後を追って出てきたのは赤霧連(ea3619)だ。だらしなく緩んだ頬が普段は凛々しい彼女の横顔を忘れさせる程だった。
「にゃ〜〜ん♪ 待ってよぉ〜。肉球プニプにさせて〜」
 唖然とした全員が見守る中、以前にも依頼を共にした扶桑が呟いた。
「連、お前そんなだったか‥?」と。
 やや離れた位置から様子を見守っていた玖珂麗奈(ea0250)は隣に立つ結城利彦(ea0247)に笑いかけた。
「よほど猫が好きなのね。いいなぁ〜、私も、とし君に追いかけられてみたいわ〜」
 と意味ありげな微笑を浮かべた麗奈の視線から逃げるように、利彦は咳払いをしつつ前を見る。
「と、とにかく。事件が起きるのは夜らしい。今は皆休んでおくのがいいだろう」
「じゃあ、私はとし君と同じ部屋でね」
 言いながら、麗奈は利彦の手にそっと触れる。
「な、なななな、何を嬉し‥いや、何を言っているんだ俺は‥」
 顔を赤くしてしどろもどろになる利彦を見て、麗奈が笑う。

●月夜の晩に
 夜半過ぎ。
 静まり返った家の中で皆が息を潜めていた。両親には隣の部屋で休んでもらい、みけ或いは山吹色の毛の持ち主が現れるのを待つ。
「来ませんね」とクローディアが小声でリアンに話し掛ける。
「そうだな。まだ何の気配もない」
「お二人とも静かに。声が漏れますよ」とアルファネスは口の前に指を立てるが、その拍子にチェーンヘルムがジャラっと音を立てた。思わず苦笑いをしてしまう。
「しかし、この部屋に全員が集まる事はなかったんじゃないか? いくらなんでも‥」
 狭い。という代わりに、香利は頭二つ以上も上にある扶桑の顔を見た。ただでさえ狭いのに、ジャイアントである扶桑がいるせいで、なお狭い。
「悪かったな」と扶桑。
 そこへ声がする。
「フッフッフ。さっさと来なさい、化け狐‥」
 夜気の冷たさをいや増す連の声に、全員が引き攣った顔で視線を下ろす。いつでも飛び出せる位置でひざまづきながら、連は既に刀を抜き臨戦態勢に入っていた。
 やや俯き加減の顔に影が差す。気のせいか、オーラで白髪が揺らめいて見えるようだ。
「猫さんを傷つけるものは、この私が成敗して差し上げますわ」
 と紅い瞳に妖しげな光を湛えて、連が呟く。
「連君、気合い入っているわね」
 と必要以上に利彦に密着している麗奈が微笑みかける。
「猫好きというより、信者だな。‥ところで麗奈、そこまでくっ付かなくても、その‥」
「あら、小枝ちゃんが窮屈よ。ねえ?」
 と声をかけられた小枝は、連のやや後ろでじっと障子を見つめていた。その顔には不安が色濃く浮き出ている。
「来たよ、ほら!」
 最初に気がついたのは小枝だった。
 障子に映った影はみけだった。部屋の前まで来ると、立ち止まる。こちらを振り向いたような感じがした。
 それを見て、連が頬を緩ませ飛び出ていこうとする。その首根っこを捕まえて、扶桑が目を細めた。
「確かに、ただの猫ではないようだな」
 障子の向こう。影が後ろ足で立ち上がったのを見て扶桑が呟く。
「大丈夫だ。私達が守る」
 その様子を見て怯える小枝の肩を、リアンが優しく抱く。
「出るか?」
 と障子に手をかける香利を、アルファネスが制した。まだわからない。
「もう少し様子を見ましょう」
 という声に重なるようにして、みけの悲痛な鳴き声が高く響く。
 次の瞬間、障子を突き破って飛び出したのは連だった。
「おぉ〜のぉ〜れぇ〜〜ッ! 猫さんを傷つけるとは断じて許すまじ!」
 両手を広げて大きく構えを取るその先に、先の騒ぎでも目撃された化け狐が、みけと思われる妖猫の首筋に牙を立てている。
 空気を揺るがす弦の音が響いた。
 香利の放ったダブルシューティングの矢が二条の疾風となって化け狐に放たれる。一本は外れ、一本が命中し手傷を負わせる。
 たまらずみけを離した化け狐に、連が殺意溢れる笑みを覗かせ上段から振り被った刃を叩きつける。
 間髪入れずに次は、「とし君頑張って!」と麗奈に送り出された利彦が、クローディアのかけたバーニングソードの揺らめく炎を纏った刀を振り下ろす。止めの一撃だった。
 その様子を麗奈とリアンと共に見守っていた小枝が、意外な展開に目を丸くしている。確かにみけは普通の猫ではなかったが‥。
「みけはね、小枝ちゃんを守っていたのよ」
 麗奈の言う通りだった。一目瞭然だ。あの化け狐こそが小枝を襲おうとしていたものの正体だった。
「その通りだ。みけに害意はない。小枝を守る為に毎晩あれと戦っていたのだ。おそらく小枝が油断しない為に、わざと怖がらせていたのだろう」
 とリアンが説明する。
「それじゃあ‥」
 と口ごもる小枝を他所に、アルファネスは別の物を見ていた。
 前に出た三人の背後に、もう一匹の化け狐が居た。なるほど二対一では勝ち目がなかっただろう。
「もう一匹いますよ! 気をつけて!」
 呼びかけつつアルファネスは前に出る。しかし化け狐の方が動きが素早かった。近くにいた利彦目掛けて牙を剥く。咄嗟に避ける利彦だったが、かわし切れずに牙が腕を掠めた。利彦は痛みに顔を歪める。
 だが、そこまでだった。駆けつけたアルファネスのしごいた長槍が、化け狐の脇を深く抉る。
 化け狐の動きが止まった所に扶桑がさらに切り付け、止めを刺した。
 
●和解
 幸いみけの傷は深くなく、連の手厚過ぎる看護で回復までは早そうだった。
 利彦の怪我も大した事はない。
 訊けば、今回の事はやはり両親は初めから知っていたのだという。
 人間に化けた狐に脅されていたのだ。
 実は祭りの夜に騒ぎに乗じて小枝を迎えに来たところを、みけが救った。
 その時初めてみけの正体を知ったのだが、その事が下手に広がってみけに害があるといけないと思って黙っていたのだという。
「ねえ、小枝ちゃん。ほらぁ、可愛いぃ〜よぉ〜」
 と先ほどの剣幕は何処へ行ったのやら、連はだらしなく笑いながらみけを抱き上げる。逃げる事の出来ないみけは、すっかりいいなりだ。
「とはいうものの、普通の猫ではありませんものね」とクローディアはみけを見つめた。
「害はないとはいえ、子供には怖いかもしれないな」とリアンも困った顔をする。化け狐が害があり、化け猫には害がないと説明するのは難しそうだ。
 実際小枝はまだみけに近寄ろうとしない。
「困ったな。みけよ、小枝ちゃんはまだお前が怖いそうだ。どうする? 自分のところでよければ、来るか?」
 その様子を見て、扶桑が連に抱きかかえられたみけに話し掛ける。
 心なしか、みけの表情も悲しそうに思えた。
「いいの? みけが遠くへ行ってしまうわよ」
 と麗奈が小枝に訊ねる。その間にも扶桑がみけを抱こうとするが、連がまったく離そうとしない。
「‥‥嫌。駄目、みけはうちの猫だもん! 連れてっちゃ駄目!」
 言うなり小枝は飛び出して、連の腕からみけを奪うと「ごめんね。ごめんね」と言いながら抱きしめた。
 悲しげにそれを見つめる連に「残念だったな」と扶桑が声をかけて肩に手を置く。
「仲直り出来たみたいですね」とアルファネスもホッとした表情で香利に話し掛ける。
「一件落着だな」と香利も頬を緩ませた。
 化け狐が先の妖狐の騒ぎとどういう関係があるのかはわからなかったが、残党の一部である可能性もある。それを片付けられたのは幸いだった。
「やはりまだ居残りがいるみたいですね。退治できて何よりです」
 そう言うクローディアにリアンも頷いた。
「まったくだ。しばらくは油断が出来ないかもしれないな」
 横たわる化け狐の遺骸を見つめながら、リアンは腕を組んだ。
「仲直り出来て良かったわね」と麗奈も嬉しそうに言う。利彦の怪我の具合が心配だという理由をつけてぴったりとくっ付いていられるのが嬉しくてたまらないという表情だった。