娘の手紙に暗号が
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:とうりゅうらふう
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月06日〜09月11日
リプレイ公開日:2008年09月15日
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●オープニング
一人の男がギルドへ駆け込んだ。彼はここから二日程歩いた所にある小さな町の小さなお店の主だった。大きな街へ行って生活品を買ってきては店頭に並べ、農家へ行って野菜を仕入れては店頭に並べ、誰かに頼まれて又買いに行って‥‥地域密着型の小さなお店で、特に店の看板娘が明るく元気で街の人気者でもあった。
そんな彼女が浚われたと、彼は訴えた。
「それで、お役人さんには話したのですか?」
「その日の晩のうちにすぐに届け出たんじゃがな、年頃の娘の無断外泊なんぞで構ってられるかという勢いでな。とりおおて貰えなかったんじゃ」
「それはまた、職務怠慢なお役人さんですね‥‥」
「そこで更に翌朝までまったんじゃが‥‥一向に帰って来ないんじゃ‥‥。あの子は親に無断で何泊も無断外泊をする様な子じゃないんじゃ! 絶対何かあったんじゃ、そう思ってまたお役人さんに泣き付いたんじゃが、又もスルーされてな‥‥その代わり、夜に身代金要求の手紙が届いたんじゃ」
そういうと、彼は質の悪い羊皮紙を二枚、ばさばさと机の上に広げた。
一枚目はよくありがちな「娘は預かった。指定の時間、指定の場所に身代金を用意しろ。娘は無事だ、二枚目に証拠となる手紙をつける。身代金を用意できなかった時は娘の命はないと思え」というような定型文だったのだが、娘の手紙とされる二枚目手紙を見て、ギルドのスタッフは怪訝な顔で親父さんの顔を見た。これを見せても、役人は取り合ってくれないかもしれない。そんな気がひしひしとした。
その内容は下記の通りだった。
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外が気持ちよくて
数々のお野菜を見に
半刻程お散歩をしてきました
人づてに
八百屋さんと呼ばれる野菜の商人さんの
手本になるような有名人がいらっしゃると聞いて
相談に伺ってます。お
屋敷は
小さいですが
のびのびとお
腹いっぱいごちそうになっています
中でも果物を
山盛りにしたデザート
のおいしさといったら!
北国
の物もあったそうで、
街でも是非扱いたいと思いました。
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行の空いている所は羊皮紙が谷折にされており、丁寧に畳まれていた事が伺えた。
「‥‥何の‥‥報告でしょうか‥‥この八百屋さんと呼ばれる商人さんはお知り合いの方、もしくは何か噂の方だったりするのですか?」
「うんにゃ、これっぽっちも心当たりねえだよ。そもそもうちの娘は初めて会う人様の家へ行って、もりもりとデザートを食べる様な子じゃないだよ。これはきっと犯人に『無事を知らせる手紙を書け』と言われてワシを心配させまいと、かつ何かを、例えば自分の居場所の情報何かを伝えようと思って馬鹿を演じて書いた文章に決まっているだよ。それも、犯人側に怪しまれないように、きっと上手くカモフラージュして‥‥頭のいい子じゃからな、あの子は! なんかこう、ここまで出掛かっているんじゃが‥‥! わしは頭が悪くてよくわからないんじゃ!」
親父さんは悔しそうに地団駄を踏んだ。
「言われてみれば‥‥折り目は付いていますがこの行間、改行位置は何か不自然ですよね‥‥ここで改行をしなくてはいけない何かがあったのでしょうか‥‥。場所を示していそうな所といったら北国‥‥でしょうか。しかし一口に北国と言っても‥‥」
「どうせ盗賊が潜むような所なら、街の東の山か北の山に決まっておる! しかしじゃ〜‥‥一口に山って言っても広いしのぅ〜‥‥相手も何人何だかわからんし‥‥。もし読み解く事が出来れば、期日を待たずして娘を救出して欲しいんじゃ‥‥」
「では、読み解く事が出来なかった場合は指定の日時に指定の場所で身代金を支払う、という事でよいですか?」
「そうするしかないんじゃが‥‥どうしてこんな貧乏人から身代金を取ろうとするんじゃ盗賊は‥‥そんな大金どうしたらいいんじゃ‥‥」
親父さんは机に突っ伏しておいおいと泣いた。
●リプレイ本文
「よ! 布津とは、たしかゴーレム教習で一緒になったよな? 演歌ちゃんも久しぶり! 今日は忍者ちゃんと幽霊ちゃんは居ないのか」
村雨紫狼(ec5159)が明るく四人に挨拶した。それに対して布津香哉(eb8378)が「久し振り」と爽やかに返した。ルゥナ・アギト(eb2613)も「がう♪」といいながら嬉しそうに笑う。
「今回はひなたさんも貞子さんもいないんですよ〜。でもいつもいつもお二人に頼ってばかりじゃダメですよね。今回は私が頑張ります!」
演歌歌手の水無月茜(ec4666)は、そう言って皆に挨拶をした。
「そっか〜、そりゃ残念だなあ。そういや聞いてくれよ演歌ちゃん。俺さ、ゴーレムパイロットやる事になったんだぜ!くはー、男だったら燃えるロボット乗りだぜ!早くエースになって、イカス専用機とパーソナルカラーをゲットしなきゃな」
「凄い、頑張ってますね! 私も頑張んなきゃ。頑張るぞ〜、お〜!」
茜がガッツポーズを作ると、皆も続く様に「おー!」と右手でガッツポーズをし、和やかに笑った。
「先ずは依頼人の手紙なんだが‥‥」
香哉が話を切り出すと、得意げな顔をした紫狼が「ふっふ〜」と笑いながら勢いよく掌を皆の方向へ突き出し、大見得を切った。
「謎は全て解けた!! もう一回言っちまえ。謎は全て解けた!」
「何だか懐かしいな」
香哉が笑うと茜もうんうんと頷く。
「これクセになるよな、じっちゃんの名に賭けないけどさ」
「ともかく、話を進めよう」
笑いながら香哉が促すと、そうだったとばかりに紫狼が真顔に戻る。
「じゃ、手短に。手紙の一番最初の文字、これを繋げて下から読めばいいのさ。『街の北の山中腹の小屋相手八人半数外』とまあ、こんなもんさ」
紫狼の説明を受け、皆が手紙を今一度見直す。
「依頼人さんの娘さん。捕らわれの身になりながら、無事を知らせる暗号文を残すとはよほど聡明なお嬢さんなんだな。頑張って救出しないとだな」
香哉は感心した様子で自分の顎を撫でる。
「十二歳位だと超ストライクなんだけどな〜。しかし前のおやっさんといい今回といい、ファンタジー世界ってミステリーマニアばっかか?」
「どうなんだろうな。ただ、この盗賊どもも文字を書ける事と身代金を払えそうな割と裕福なレベルの娘を攫ったりするあたり、連中は荒事に慣れててリーダー格は頭が切れるのかもしれないな。こちらも救出するにしても戦うにしても、しっかりと連携が取れないと足元を救われかねないかもしれん。気を引き締めていこう」
香哉の言葉に全員が頷いた。
少女の手紙が指し示した小屋は、あっさりとみつかった。北の山自体に小屋は幾つかあったのだが、街に下りる事を視野に入れると南斜面にある小屋しか考えられなかったのだ。依頼人に暗号を見せて確認した時も、北の山で猟をした事のある猟師に依頼の事は伏せつつどの辺に猟師小屋があるかと聞いた時も、出てきた結果が一緒だった為、彼らは安心して的を絞る事が出来たのだ。
小屋は南斜面に建っており、東側に扉、南と西面にそれぞれ大きな窓がある。周囲は開けており、見晴らしが良い。それを取り囲む様に森が広がり、街へ降りる道と峠を越える道がそれぞれ一本ずつあった。一行は最寄の森の中から小屋の周囲をざっくりと観察した後、ルゥナだけ一人小屋への接近を試み、残るメンバーは小屋の南側からこっそりと中を窺った。日が高い為、室内の様子は見えにくい。そして小屋の周囲には三、四人の盗賊が巡回しながら見張りをしているのが見て取れた。
「後は中に入って安否の確認だな」
香哉はルゥナの背中を見送りながら呟いた。
「うーん、それにしても地域密着型のコンビニ相手に400Gだなんて。そういえば、1Gって確か日本でなら1万円くらいでしたよね?‥‥よ、400万円ですか!? 演歌界の大御所さんの一回分のギャラぐらいあるじゃないですか!」
「へえ、大御所になると一回でそんなに貰えるんだ?」
茜と香哉が物陰に隠れつつそんな会話をしている時、ルゥナは持ち前の五感を研ぎ澄まし、裏手側からじりじりと小屋に近寄った。まるで獣が獲物を狙っているかのような正確さで、彼女は音も立てずに器用に進む。その姿は木々に溶け込み、森の一員であるように見えた。
目的の小屋の北面には通気孔程度の小さな格子状の穴しかない為、侵入するなら扉か窓しかない。ルゥナは扉に的を絞り、チャンスを伺った。
「そろそろ時間ですね。それでは、水無月茜、歌わせて頂きます」
手紙の情報が正しければ、小屋の中にも四人見張りが居る筈だ。彼ら全員を外に誘き出し、小屋を手薄にしなくてはならない。
茜は魔法メロディーに『小屋から出てでも、側で私の歌を聴きたくなる』という想いを封じて歌い始めた。清らかでありながら時折コブシの聞いた歌が、静かな森に響き始める。茜の歌を聴きながら、香哉も配置へ向かい移動を開始し、紫狼とハヤトは茜の後方へ身を隠した。
「ん? 何か歌が聞こえるぜ」
「誰だこんな時に歌いながら登山とは‥‥」
「でも何気に上手いな。誰が歌ってるんだ」
小屋の中の盗賊達はそういいながらちらちらとリーダーの顔色を伺った。
「いいぜ、見てきな。俺がここでコイツを見ててやるよ。自分が囚われてると理解も出来ない様な呑気な娘だ。見張りは俺一人でも充分だ」
「へ、へい」
彼らは少女が書いた手紙が、暗号であるとは微塵も気付かず、この子は空気の読めない哀れな娘だと解釈している様子だった。リーダーの提案に甘え、盗賊達はいそいそと表に出て行った。残ると言ったリーダーも声の主が気になる様子で、南面の窓際に立った。盗賊達が周囲を確認しつつ、じりじりと離れていくのが見える。椅子に縄で括られた少女もじっとリーダの姿を見ていたのだが、その時不意に自分に掛けられていた縄が緩むのを感じた。何事か驚きながらも静かに周囲を窺うと、背後に小柄で半裸の少女ルゥナが隠れる獣のようにひっそりと佇んでいる事に気付いた。
ルゥナは静かにかつ手早く縄を総て解くと少女の手を握り、隙をついて一気に扉へと駆け出した。ルゥナの動作は風の様に素早くそして静かだったのだが、隠密行動に慣れていない少女は立ち上がる際に椅子をごとりと鳴らした。
緩慢な動作でリーダーが振り返り、逃げようとする二人を見、脇の剣へ手を掛ける。
その瞬間、香哉の放った矢が窓の板戸を突き破り、リーダーの顔を掠めて北側の壁へ突き立った。リーダーは咄嗟に窓の下の壁に身を隠す。二本、三本と更に矢が頭上を越えていく。またそっと窓から外を窺おうとした所すれすれを矢が掠め、リーダーは再度隠れた。
小屋の中に、もう少女とルゥナの姿はない。
リーダーが扉から追って出ないよう、香哉は扉へ向けて矢を番えた。
「いたぞ! あっちだ!」
不意に、外に出ていた盗賊達の声が聞こえた。何としても茜の側で歌を聞きたくて堪らなくなった七人が、ばらばらと茜に向っていくのが見えた。茜はじりじりとその場を下がりつつも歌う事を止めない。片手に質の悪そうな剣を持った男達が、その間合いをじりじりと狭める。
香哉は矛先を茜を取り囲む男達へ向ける。しかし、この角度からでは茜にも当たりかねない。冷や汗が伝う中、視界の隅で何かが動く気配がした。咄嗟にそちらへ向け矢を放つ。
うぉお! という悲鳴を上げながら、リーダーが右肩を押さえ、扉の前で倒れた。もう一本駄目押しで放つとそれはリーダーの足へ命中した。更にもう一本弓を番え、再び茜の方へ向き直る。
丁度その時、周囲の男達が茜に向って斬りかかろうとしている所だった。
きゃあ、と悲鳴をあげつつ茜が身を屈めたので、香哉は思い切って弓を放った。それは茜に一番近い所に立つ男の左肩へ命中し、男はもんどりうって倒れる。それが合図だったかの様に、紫狼が敵との間に踊り出てダガーを構えた。
「大丈夫か、演歌ちゃん! あとは派手に引き受けるぜ!」
「はい!」
茜が歌うのをやめた事で、彼らに躊躇は無くなり、一斉に戦闘が開始された。キィンカキンと剣戟の音が辺りに響く。
「取りあえず、ルゥナが戻る迄の時間稼ぎだ」
「これって何だか以前の酒場の謎解きと同じ作戦ですね、村雨さん」
紫狼は頷き、茜の盾になるかの様に立ち回り、右手の短剣で相手の剣を受け、左手のナックルで相手の胴を突いた。紫狼の攻撃を受け、一人がどうと倒れる。さらにもう一人、香哉の矢で足を貫かれたところを、紫狼が殴り倒す。
残り五人。五人になる事を待っていた茜の体が銀系統の淡い光に包まれ、腕時計に装備したレミエラにより五本に増やされたムーンアローを放った。月の光の様な五本の矢が円弧を描き、五人の敵へ次々と突き刺ささる。五人は一旦倒れたものの、すぐに起き上がり、茜に明らかな敵意を向けた。
「ふっ、HPばっかでINT値の低そうなツラしやがって。大人しく俺の経験値になりやがれ!!」
こっちを見ろよとばかりに、紫狼が五人の前へ躍り出る。相手にダメージを与えているとはいえ、五対一では流石に分が悪い。
すると、茜の背後から一体の獣が唸りながら飛び出し、紫狼の加勢となり、盗賊へ勢いよく噛み付いた。ルゥナだ。
「お帰りだな! アマゾネスねーちゃん! お嬢ちゃんは無事脱出できたかい?」
紫狼が戦いながら叫ぶ。
「助けた。敵いない、岩、隠した」
踏み込みや攻撃の軌道に変化をつけてフェイントを行いつつも、ルゥナは片言で答える。
「よし」
紫狼も返事をしつつ、盗賊の攻撃を防御し、それを押し戻した。
ルゥナという援軍を受け取った三人は、一気に攻撃に転じた。ルゥナは持ち前の素早さと手数で盗賊を翻弄する。小柄さを活かした回避術に盗賊達は空振りを頻発させ、その隙を突いてルゥナは盗賊に止めの追撃をお見舞いした。威嚇をするかの様に低く唸りながら攻撃する様はどうみても獣そのものだった。
こうして始まった混戦は見事に彼らの勝利で幕を下ろした。
その後、リーダー格の男を見失ってしまったのだが、あの傷ではそう遠くにも逃げられまい。後始末は役人にでも任せればいい。そう判断し、彼らはリーダーを捕獲する事を諦め、少女を連れ帰る事を優先する事にした。
「外の敵を森の中に誘い込んだり、混乱させる事ができればなあとかは考えていたが、余りいい方法が浮かばなかったからどうなる事かとおもったが」
何とかなって良かったと香哉は笑った。
ルゥナの案内で訪れた岩陰に、少女が小さく丸くなっているのを見つけた。少女はルゥナに渡された大きな木の枝を強く握り締め、怯えた目をしていたが、ルゥナの姿を見るとほっとしたのか、枝を捨ててすっくと立ち上がった。
「無事そうで何よりだ」
香哉が声をかけると、紫狼は携帯電話を構えながら少女に近付いた。
「んじゃ、俺のケータイでお嬢ちゃんのベストショットをゲットだぜ!」
少女は携帯が何かわからずきょとんとした顔で紫狼の顔を見ていたが、紫狼の笑顔(厳密には邪な思いが交錯する笑顔なのだが)を見て緊張から解き放たれたのか、くすんくすんと唐突に泣き始めた。
目の前に無く女の子がいるのに放置するのは男の恥!とばかりに、紫狼は勢いでぎゅうっと少女を抱きしめた。近すぎてベストショットは取れなかったが、紫狼は心の中で「むっは〜!」と喜んだ。
こうして、少女は無事に依頼人の元へ返されたのだった。