朱色の晩

■ショートシナリオ


担当:とうりゅうらふう

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月23日〜09月28日

リプレイ公開日:2008年10月01日

●オープニング

 夕刻、徐々に暗くなって行く中、一人の冒険者が足早に街道を歩いていた。冒険者とはいえ軽装備で、まだまだ駆け出し感が強い雰囲気だった。表情もどことなく不安そうで、野鳥の声や野犬の遠吠え等が聞こえるたびに、彼は怯えた表情を見せた。
 夜までに大きな街へ着く事は無理だが、遠くに見える小さな村にはたどり着くことが出来そうだ。
 彼は緩やかな坂を下りながら、眼下に広がる小さな村へと更に更に歩を早めた。村は恐らくお夕飯の準備中なのだろう。どの家も明かりがともり、いい匂いが香る気すらした。

 ふと、彼は目の前に一人の老婆が歩いている事に気がついた。行商の人なのか、それとも村に帰る為なのか。みすぼらしいなりで、それなりに重そうな荷物を背中に担いでいる。彼女も迷う様子も無く真っ直ぐに村へと向っている。歳の割には足腰が頑丈そうに見えはするものの、それでも老婆の足では村に着くのは相当遅くなる事だろう。
 いくら村の近く、開けた街道とはいえども、夜間の一人歩きは余りにも危険だ。ましてや老婆一人では。
「あのう」
 彼は出来るだけ優しげな声で、控えめになりつつ声を掛けた。老婆は一瞬歩みを遅めたが、またすぐ歩き出す。
「ぼ、僕も今村へ向ってるのですが、お婆さんも村へ向われているのですよね?」
 老婆は振り向く事もせず真っ直ぐに進んだ。
「さ、最近野盗が出るとか色々噂を聞いて、一人じゃ僕も心細かったんですよ。良かったら一緒に‥‥」
 出来るだけ怪しまれぬ様、彼は明るく振舞ったのだが、老婆は無視するかの様に真っ直ぐ歩き続ける。
「荷物、重そうですね!お持ちしますよ? あ、その、僕怪しい者じゃありません! 冒険者なんです! 盗賊とかじゃないですから怪しくないですよ!」
 そういいながら荷物を奪う盗賊もいそうだよなと思い、フォローをしてみたものの、口を開く毎に怪しさが増しているなあと、彼自身がそう感じていた。
 全くの好意で提案した荷物持ちに大して、老婆が完全に反応を示さないので、彼はそれ以上荷物について触れるのを避ける事に決めた。
「僕ね、冒険者なのにモンスターが怖いんですよ。はは、おかしな話でしょう? だから僕、そんな自分を克服する為にもギルドに行って、軽い仕事から徐々に慣らしていこうと思ってるんですよ!」
「‥‥」
 老婆はちらり、と彼の姿を見た。彼は、自分を越えて道の外側にある雑木林に視線を移されたのかと思い、条件反射的にそちらを見た。あたりはかなり暗くなってはいるが、雑木林の中に獣がいる気配はとりあえず感じられない。
「今に始まった事じゃないですけど、夜って言ってたらモンスター、っていう感じじゃないですか」
 だから些細な事でも過敏に反応しちゃうし、そのせいで夜全体が怖く感じちゃってねと、彼は恥ずかしそうに頭を掻いた。そんな彼を、老婆はじいーっとみた。
「どうかしましたか? 僕の顔に何かついてますか? それともお孫さんか誰かに似ているとか?」
 老婆は立ち止まり、更に彼の顔を凝視した。
「や、やだなあ‥‥怖いじゃないですか。何か見えるんですか?」
 彼も老婆と共に立ち止まり、あたりをきょろきょろと見回した。とりあえず、何も異変は見当たらない。
「こんな所に長居したらモンス‥‥うわぁあああああああ!」
 振り向いた彼の目に飛び込んで来たのは、耳元まで裂けた口を大きく開き、まさに自分を食べようとしている瞬間の老婆の顔だった。
「うわぁあわぁあ!」
 彼は手にしていた杖代わりの棒切れを闇雲に振り回し、脱兎の如く駆け出した。老婆は白髪を逆立て、彼を追う。
 うぎゃぁあとも聞こえる悲鳴をあげながら、彼は一目散に村へと走った。数歩行った所で両脇の木陰からゴブリンがわさわさと現れ、道を塞ぐ。しかし彼には止まる程の心の余裕がなかった。全力を持ってゴブリンに体当たりをすると、無理矢理突破口を開き、走り続けた。途中何度かバックパックを引っ張られる感じと、ゴブリン達の攻撃が耳元を掠めたが、振り向く余裕もバックパックを引き戻す余裕も無かった。
「(これは夢だこれは夢だこれは夢だ!)」
 彼はひたすら走った。ただただ走った。上着を引っ張られれば上着を捨て、ありとあらゆる力を振り払って村へと駆け込んだ。
 奇声を上げ、凄い形相で駆け込んでくる彼を見て、村人は誰もが警戒した。しかし、彼の怯えた表情を見るとすぐに彼らは彼が何かしらの被害者である事を悟り、彼を匿うと手に松明を持ち、見えざる敵に対する構えを見せた。ところが、追っ手はいつまで経っても現れる様子はなかった。

 夜が明け、彼は村の青年ヒロと共に街へ向った。襲われた冒険者、ヤクトが生きて村へ辿り着けたからこそ事件は発覚したが、もし彼が老婆に丸呑みされていたとすれば、村のすぐそばでこの様な事件が発生していた事は未だに知られていなかっただろう。寧ろ、既に何件起こってしまっていたかすら不明だ。この忌々しき事態を何とかしなくては‥‥。ヒロはそんな思いでギルドを目指していた。残された村の人々が、今夜も松明を手に巡回する事になるだろう事は間違いなかった。

●今回の参加者

 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb4494 月下部 有里(34歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec4205 アルトリア・ペンドラゴン(23歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec4873 サイクザエラ・マイ(42歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

「老婆に化けるオーガとな?」
「山姥ってやつかしら?」
「山姥だとかブラック・アニスなどと呼ばれる連中が該当するな。以前戦った時にはそう大した相手ではなかったが‥‥。こっちの世界では違うかもしれないな。ともかく、遭遇し次第すぐに持ち合わせている知識で判断し、合図を出そう」
「他の記録係さんの報告書によると、メイにもいるみたいね」
 アリオス・エルスリード(ea0439)と月下部有里(eb4494)が、ヤクトとヒロを囲みながらあれやこれやと策を練っている。
「相手が老婆に身を窶し、旅人を誘うなら。こちらは旅人に身を窶し、鬼を誘いましょう」
 ルイス・マリスカル(ea3063)も加わりながら、目立つ武具を机上に置いた。
「鬼に警戒されるといけないので私も軽装で。聞く限りでは、ゴブリンの攻撃自体はヤクトでも避けられるみたいね」
 有里もそれに続く。
「火事場の馬鹿力の様な偶然、という事もありうるからな、油断しない様に行こう」
 アリオスの言葉に彼女は頷いた。
「私は前衛向きではないので後衛としてうまく連携できる様に努力しよう」
「では私が前衛に」
 サイクザエラ・マイ(ec4873)とアルトリア・ペンドラゴン(ec4205)がそれぞれの位置を申告すると、
「敵を誘う囮役には、私が」
 と、ルイスが申し出た。一行の中で最も適任であろうこの申し出に、全員が頷いた。彼は小柄と篭手をローブの袖口に隠し、どこから見ても非武装の旅人に見える様に装った。
「作戦中は、巡回警備を一旦止めて頂き、村の方々は安全な場所での待機をお勧め致します。万が一の時はご自身の安全を優先する様お願いします」
 ヤクトとヒロは彼らの提案に従い、村人達と共に安全な場所で待機する事となった。


 陽が暮れ始めた頃、ルイスは一人で他所から村へ向う旅人の振りをした。ヤクトが襲われた時刻に問題の場所に辿り着く計算だ。ルイス以外の四人は彼より100m程下がった繁みの中をこっそり潜行している。これだけの距離があれば、潜伏しているであろうゴブリン達の更に外側に位置するだろうし、ぎりぎり攻撃射程範囲に入れられるだろうと考慮したアリオスの策だ。
 緩やかな坂道は真っ直ぐ村へ伸びており、殆ど障害物はない。辺りは薄暗くはあったが、まだランタンを点ける程でもない。ランタンをつければ敵が怯んで近付かないかもしれないとも考えながら歩を進めていると、あっさりと目の前に不審な老婆が現れた。現れ方も風貌も、何もかもがヤクトの報告と共通している様に見える。一言で言えば身なり貧しい老婆である。しかしだからといって山姥であると決め付けるにはまだ早い。彼は早足で老婆に接近し、優雅にかつ大きく帽子を振る様にしながらアプト語で挨拶をした。
 女性なら思わず惚れてしまいそうな丁寧な挨拶だったにも関わらず、老婆はちらりと盗み見る様にルイスを見ただけで、急ぎ足で坂道を下りにかかった。言葉が通じないのか、興味がないのか、或いは油断させる為にわざと無視する振りをしているのか。
「長旅でこの荷物では大変だった事でしょう。何かお手伝いしましょうか?」
「‥‥」
「行商でいらしたのですか? 私は首都へ行く為にこの街道を使っていまして」
「‥‥」
 彼は紳士的に、世間話の他に気遣う台詞も幾つも投げかけたのだが老婆の反応は全く無い。
 先程の帽子の合図を見たサイクザエラはインフラビジョンで周囲に潜む熱源を調べ、位置や数、動きを確認した。繁みに六つ反応が見て取れ、総ての矛先はルイスに向いている。有里もブレスセンサーでほぼ同じ内容を確認した。
「そもそも村がこんなに警戒している状況で、こんな所にいる老人ってのも怪しいけれど、万が一って事もあるからまずは確認してから‥‥と思ったのだけど、もう疑い様もなさそうね」
 有里はテレパシーでルイスに、サイクザエラと自分の得た情報を余す所なく伝えた。ルイスは了承し、丁寧な物腰で、老人に付き添った。
「もうすぐ村ですね。あと少しの辛抱です」
 ルイスの気を緩ませた演技にも老婆は乗ってこない。
「(成る程、もっと大きな隙を見せないと駄目そうですね)」
 彼は一先ず有里の合図を待つ事にした。やがて、アリオスと有里は相変わらず距離を保ち、アルトリアとサイクザエラが距離を半分に詰める形の配置に着いたとテレパシーで伝えられた。彼はすぐに老婆の前に出て、
「大変でしょう、お荷物背負います」
 と大袈裟に背を向け、背中に荷物を置く様にと促した。
 老婆が動く気配がする。
 荷物を降ろす様に見せかけて、荷物から大きな山刀を静かに引き抜いている音を聞き分けた。
 ルイスは全く後ろを見る事もなく「さあ、遠慮せずにどうぞ」と更に老婆を促してやった。そして案の定、荷物の代わりに大きく山刀が振り下ろされた。
 キィイン!
 完全に仕留めたと思い込んでいた老婆の上体はルイスの篭手で大きく弾かれ、老婆は荷物の上に背中から乗り上げた。彼は慣れた手つきで質の良い短刀を口の裂けた老婆につきつけると、彼女は窪んだ目を大きく見開いた。バックアタックの技能を活かし完全な背後からの攻撃を完璧に受け流された事を理解できなかったのだ。
「現在老婆姿のオーガが出没した事件があり、警戒中なのです。確認の為同行頂きたいのですが」
 なおも紳士的な口調の彼の短刀を老婆は山刀で押し戻しすと、奇声を上げて反撃を開始した。彼は顔色一つ変えずにかわし、老婆は髪の毛を振り乱して方向転換をしつつ攻撃を続ける。と、そこに青白い残滓を残しながら飛来してきた二本の矢が、老婆の背中に勢いよく突き立った。アリオスが手にしている弓は、まだ白銀に輝いている。
「その山姥は、モンスター以外の、何者でもない」
 声こそ届かなかったが、アリオスの判断にルイスは頷いた。
「ぐあぁあぁあ!」
 一撃で重傷を負った山姥が吼えると、周囲からガサッとゴブリン戦士が六体出現した。
 逃げ出す山姥にルイスが短刀で斬り付ける。二人が移動した事でゴブリン戦士達と距離が出来た。その隙に有里はイリュージョンを唱え、ゴブリン戦士達はあっさりと自分達が分厚い石壁の中に閉じ込められたと錯覚した。攻撃を加える為にアルトリアが全力で走り、徐々に遅れつつもサイクザエラが続く。
 逃げる山姥に更に矢が二本突き立ち、山姥は転倒した。そしてそこにルイスの止めの一撃が放たれた。
「敵の数が多そうな事が問題になるかと思ったけれど‥‥なんとかなりそうね」
 有里は安堵の色を見せつつ、強烈なライトニングサンダーボルトを敵に向って放った。敵が一箇所に固まっている為、狙うのは簡単だ。そしてそこにダブルシューティングによって放たれたアリオスの弓が次々と敵に突き刺さり、サイクザエラのファイヤーボムが炸裂した。そして、爆発の煙が引いた側からアルトリアが敵を切り刻む。
 戦闘はまさに一方的だった。ゴブリン戦士からは壁しか見えず、その壁の向こうから魔法や弓が飛んで来る上、壁をすり抜ける様に敵が入ってきては切り刻んで行くのだ。六体のゴブリンは次々と瀕死に陥っていった。
「これ位の敵なら、一匹、泳がせたらどうだろうか」
 様子を見たサイクザエラの提案に皆が同意した。イリュージョンが解けた途端、その中で一番体力の残っていたゴブリンが一目散に茂みの中に駆け込んでいく。とはいえかなりの深手を負っているが為、その足は遅い。
「禍根になりそうなものを残らず退治できるなら、その方がいいしな」
「そうね。でもオーガの知識がないと、鬼の痕跡を追うのは少し難しいかもねぇ。ブレスセンサーの探知を展開しておくわ」
 有里は泳がせているゴブリンが範囲から出ない様に監視を続ける事にした。
 一匹目に続いて逃げ出そうとした敵にはアリオスの容赦ない弓が打ち込まれ、残る総てが絶命した。
「倒したゴブリンは死体が魔物になるという話を聞いた事があるので、灰になるまで燃やしておきたい」
 サイクザエラの申し出に、皆一様に驚いた様子ではあったのだが、特に反対する者はいなかった。
「構わない」
 そうアリオスが答えると、彼は他の物に延焼しない様に念入りにファイヤーコントロールを使いながら、ゴブリン達を出来るだけ焼き尽くす事を試みた。
「それにしても、気になるのはこの中身ね。親切な人が声を掛けるのを待つ為かしら。鬼が何故大きな荷物を持っているのかは判らないけれど、今まで強奪した荷物とかもあるかしら」
「開けてみましょう」
 炎に照らし出されている不気味な荷物を眺める有里の疑問に応えるかの様に、アルトリアは素早く袋の口を解いた。中から財布、腕輪やナイフ、血のついた小さな鞄に続き、殆ど朽ちた頭蓋骨、腕の骨といったありとあらゆる物がごろごろと転がりてきた。ちらちらと燃える炎の影が、荷物を更に不気味な物に見せた。有里が息を飲み、ルイスはそれらのいくつかを手に取り、アリオスと共に観察した。
「大きな荷物を背負わば人から声を掛けられると、中身が先に襲った人の一部であるなら人はそれを取り戻しに来ると、どこかで知恵をつけたのかもしれませんね」
「そうね‥‥強奪した物のうち任意の物を、持ち歩いていたという事で間違いはなさそうね」
 皆が溜息をつくかの様に呻く中、一人アルトリアが茂みの奥を見渡した。もうゴブリンの姿は見えない。
「そろそろ、適当な距離が開いた頃ですか?」
「ええそうね、こっちよ」
 有里がゴブリンの位置を案内する。
 これだけあいていればゴブリンも一行が追ってきているとは思うまい。
 一行はそれをほぼ確信していたが、念の為に隠密行動に優れたアリオスを先頭に追跡を開始した。彼は有里の案内を元に、念の為足元をよく観察しながら進む。見れば草が周囲より弱り、新しく獣道が出来ようとしている雰囲気だった。そう古くから往復されていた様子ではなさそうだが、少なくとも最近は何度も使われたと思われる状況で、稀に装備品や携帯品の残骸と思われる物が落ちているの時もあった。

 目的地へは比較的簡単に着く事が出来た。森の中にぽっかりと開けた空間、小さな崖に出来た洞窟がどうやら彼らのアジトらしかった。
 有里のブレスセンサーによれば、中には負傷しているゴブリン戦士を入れ、三体の敵がいるらしい。
 サイクザエラがインフラビジョンで確認する限りでは、洞窟の奥で若干往来がある時に見える程度で、完全に把握する事は出来ない。
 全員が目配せをし待機をする中、サイクザエラがそっと近付き、洞窟の中にファイヤーボムを放った。
 どごぉんと言う強烈な爆炎と熱気がサイクザエラを撫でる。そして、身体を燻らせたゴブリン戦士が二体、物凄い勢いで飛び出してきた。そのうち一体が、真っ直ぐにサイクザエラに襲い掛かる。狭い空間に放ったせいでやや膨張したファイヤーボムの熱風に怯みつつ、ファイヤーコントロールを唱えようとしていた彼には、それに対する防御が間に合わない。
「危ない!」
 有里が叫ぶより早くアリオスの弓が唸る。フレイルを振りかざしたゴブリン戦士の胸に二本の矢が突きたった直後、フォローに入ったアルトリアの一撃で、ゴブリン戦士は吹っ飛ぶ様に倒れこんだ。もう一体が改めて臨戦態勢を取る。そこへ、有里のイリュージョンが炸裂した。ゴブリン戦士はまた、狭い兵の中に閉じ込められた幻影に見事はまり、その場から動けなくなった。あとはもう、アルトリアの独壇場だ。
 こうして村周辺に巣食っていた山姥とゴブリンの殲滅は完了した。
 洞窟の中には絶命したゴブリン戦士が一体横たわり、そしてその更に奥の簡易的な岩扉の奥には、ガラクタ置き場と見られる小部屋があった。そこには予測していた通り骨や遺品、ガラクタ、財布などが無造作に山積されていた。
 サイクザエラはファイヤーコントロールで延焼を防ぎつつまたもやゴブリンを灰にする事を試みている。
 ゴブリンを燃やす炎で明かりを取りながら、一行は比較的新し目のガラクタを集め、村へと持ち帰る事にした。
 外は既に、夜だった。

 翌朝、一行の案内の元、洞窟内のガラクタの大回収が行われた。遺骨は村人が丁重に埋葬し、遺品はギルドへ預ける事となり、村総出での仕分け作業はあと数日は続く事になりそうだ。
 そして一行が出立する際、村長を先頭に村の人々全員が見送りの為に集まった。その中にはヤクトとヒロの姿もある。
「村の外の事とはいえ、すぐ側でそんな事が起こって居ようとは‥‥大元から退治して頂き有難うございました。これでまた、安全に暮らせます」
 村長は深々と頭を下げた。
「当然の事をしたまでですよ」
 有里はにこりと微笑んだ。
 持ち主の判らない遺品については、後日ヤクトとヒロがギルドへ届けにいくそうだ。
 村の端には注意書きの看板が掲げられ、村ではまたこうして一つの物語が語り継がれる事となったのであった。