大湖山の宝物

■ショートシナリオ


担当:とうりゅうらふう

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月06日〜11月11日

リプレイ公開日:2008年11月14日

●オープニング

 村の近くにある小山の頂に大きな湖があった。この湖には昔から大蛇の夫婦が住んでいるという言い伝えがあった。実際見たという者はいないのだが、それでも先人からの言い伝えを大切に思った住人達は、これを守り神としてひっそりと崇め、山そのものを大切にし続けている。
 そんなある日、そうとは知らない他所者が湖に迷い込んだ。その場所をすっかり気に入ってしまった彼は、野宿に馴れた手つきで木や葉や蔦等を上手く使って仮設の小屋を作り、一人で生活を始めた。朝は木の実や茸、そして野草等を採取し、昼間には森で野生動物を狩り、気が向けば湖で釣りをする。森は豊かで湖は綺麗で。夜かなり冷え込む事以外については申し分のない環境だった。
 家には少しずつ柱を足し、少しずつ強化しては住み易くしていく。そんな生活だった。
 村人もこの湖を頻繁に訪れている訳ではなかったので、彼が住み始めた事に気がついたのも、だいぶたってからだった。しかし彼をすぐさま追い出す口実も見つからず、良い顔はしないながらも誰も彼を追い出そうとはしなかった。どうせもう少しすれば寒い時期が訪れる。そうすればいつまでも湖の側には居られまい。そんな考えでもあったからだ。

 そんなある日彼は突然その家を捨てて逃げざるを得ない状況に陥り、その足でギルドに駆け込む事件が発生した。

「はい、こんにちは」
「こんにちはじゃねえ!呑気な顔しやがって!」
「まあまあ、水でも飲んで落ち着いて下さい」
「有料とか言い出すんじゃないだろうな」
「そういいたいところですがね」
 ギルドのスタッフは穏やかにふふっと笑った。どうやらお代をとる気はないらしい。
「ともかく、人は出会ったらまず挨拶から、ですよ」
 駆け込んだ男は水を一気に飲み干すとぷはぁと大きな息を吐き、少し落ち着きを取り戻しながら、そうだな、自分はグランだと名乗った。
「俺の家を、取り戻して欲しい」
「強盗にでも遭ったのですか?」
「いいや、話をすれば長くなるが‥‥」
「長い話も歓迎ですよ」
 彼は自分が山に住み着いた事、湖を出る迄の伸び伸びした生活振りをスタッフに話した。
「いつからだったかな、唐突に夢を見たんだ。いや、俺が寝ぼけていただけでもしかしたら夢じゃなかったのかも知れないが。ともかくある日を境に連日蛇が俺の枕元に立っては、早くここを立ち去れと脅すんだ。俺は折角手に入れた快適な家だからと、そいつのいう事なんざ信じなかった。したら、そいつが武力行使に出てきやがったんだ」
「ほう、武力行使で追い出された‥‥と。複数人ですか?」
「いや、夢に出てきた奴は一人だ、あ、いや、一匹だったな。だが襲ってきたのは複数‥‥いきなり壁が壊されたんで、よくわからなかったんだがえらくずんぐりむっくりした巨人‥‥いや、人じゃなかったかもしれねえ。あいつ、俺が出ていかねぇんでモンスターを刺客として放ったに違いねえ! 一般人、あ、いや、俺は冒険者だから一般人じゃねぇかもしんねえけど、とにかく人をモンスターに襲わせる奴なんざ最低だ!」
 ふむ‥‥スタッフは彼の台詞をメモしながら、難しい顔をし、横の棚から資料を手にして戻って来た。
「それでは、少々確認したいのですが」
 スタッフは資料に目をやり、彼の顔を見ずにおもむろに尋ね始めた。
「まず、食料調達はどうされてましたか?」
「そりゃ、持ち前の動植物知識、調理知識で食える物を森から調達、場合によっちゃ湖で釣りもしたし。狩猟メインかな。あの森には豚が多くて助かったぜ」
「それらの骨や食べられない部分はどうしましたか」
「あ〜、まだ家の裏に纏めてあるな。そのうち処分の予定だな。あとは買ってきた塩につけたり燻製を作ったりだな」
「これは噂話ですが、貴方が住み着いた湖には、大蛇がいたという言い伝えがあったそうですが、それはご存知でしたか?」
「いや? じゃあきっとそいつだ! そいつが俺の夢に現れたんだ! きっと蛇が自分の縄張りに俺がいる事が気に入らなくて‥‥! 別にとって食いやしないのに!」
「大蛇がいたという言い伝えは、麓の村のみで信じられており、村人達はその蛇を大切にしている‥‥と聞いたのですが、それはご存知でしたか?」
「いや? まあ、山の麓に村はあった気はしたが‥‥」
「その村には、もしかしたら豚の放牧を行っている方がいらしたかもしれない‥‥とは考えなかったのですか?」
「‥‥」
「元々湖や森にモンスターが出ていたかどうかは判りませんが、貴方を襲った後、村を襲わないとも限りません。ですからモンスター退治は必要だと思います。しかしそれと同時に貴方も湖から立ち退く準備が必要でしょう」
「何で俺が!」
「確かに冒険者はこの国の人々から頼りにされると共に特別視されていますが、その土地の方に無断で住み着いて山を汚していいものではありません。我々ギルドとしても、冒険者が迷惑行為を行ったとあらば放置する訳にはいきません」
「‥‥」
「しかし今このまま貴方が湖に住む事を諦めたとして放置すれば、貴方の壊れた家はそのまま野ざらしです。貴方に見えなかった住人達がそれを見たらどう思うでしょう。モンスターの駆除、それから湖畔周囲の清掃。そのどちらも今必要な事だと私は考えます」
「分った。じゃあそれでいい。物事を投げ出して放置するのは好かねぇ。俺が散らかした事に他の冒険者を付き合わせる形になっちまうのは何ともかっこ悪いが、身から出た錆だ。是非依頼の掲示を頼むよ」
 彼は少し反省したような表情を見せながら、依頼の申請を完了させた。

 こうして又一件、「掃除」の依頼が張り出されたのであった。

●今回の参加者

 ea1842 アマツ・オオトリ(31歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ec5775 セイヤ・オギノ(21歳・♂・ファイター・人間・メイの国)

●リプレイ本文

「いやぁホント悪ぃなあ、一人暮らしの男の部屋を女性陣に掃除させる様な依頼になっちまってよ」
 依頼主グランは頭を掻きながら照れ臭そうにした。美芳野ひなた(ea1856)がわざとむすっとした表情で腰に手をあてる。
「全くですよ! 自分の食べ残し位、ちゃんと片付けて下さい!」
「はは、面目ねぇ‥‥ってあれ、確かもう一人依頼受けてくれた人が居た様な‥‥」
「集合時から見えていなかった様だが」
 アマツ・オオトリ(ea1842)は視線を周囲に走らせたが、シャクティ・シッダールタ(ea5989)を含めたここに居る四人の他、誰の気配も感じなかった。
「そうか‥‥せめて、一言でもあったらよかったんだけどな。とりあえず宜しく頼むぜ!」
 こうして四人の登山が始まった。


「うぉ、寒ぃー! 先日ここに居た時はこれ程じゃなかったんだがなぁ」
 グランの住んでいた湖は、それなりに標高のある所だった為、麓よりは若干季節が先を行っていた。寒い寒いと二の腕を擦る彼を見て、シャクティは暖かい笑顔を向ける。
 湖の畔に広がる金色の広大な草原。所々禿げた土が見受けられ、土面積が広い所にグランの傾いた小屋が建っていた。まだ比較的新しい筈なのに激しくやつれ、雨でも降ったかの様なぬかるみが演出に拍車を掛けている。大小様々なモンスターの足跡を確認するも、今の所モンスターらしき気配は全く感じられない。
「人の過ごし易い季節だけ長くと願っても、そうはいかないというのが自然、という物ですわ」
「そうですね!」
 ひなたもグランを見てくすくす笑う。
「もう寒さが身に染みる季節となってしまったとは全く早いものだ。しかし此度は防寒着の用意に抜かりは無いぞ」
 アマツは雪の積もった山を遠くに見ながら、防寒具や防寒服をがっちりと握り締めた。
「ふう、これを忘れたばかりに、かつての依頼で『凍える冒険者』などという呼び名が‥‥不覚。不名誉な称号は返上させてもらうぞ」
 目から炎が出んばかりの闘志が燃えている。代わりに、防寒具を用意していなかったグランが悲しげに凍えていた。
「野営用のテントは、体力に余裕のあるわたくしが持参しました。これで寒さ対策は万全ですわね。皆さん、どうぞお使い下さいまし」
「わぁ、助かります!」
 ジャイアントのシャクティが優雅な手つきで折り畳まれたテントを四つ並べると、ひなたはそれを小屋からやや離れた位置に手際よく組み立てた。グランは一人離れ、そっと自分の小屋へ手を掛けている。
「最早小屋で寝泊りするのは危険であろう」
「そう、だな‥‥」
 アマツは肩を落としたグランの横をすり抜け、慎重に中を覗き込んだ。かなり荒らされてはいるがモンスターの気配は無い。
「我々は不法居住を犯した冒険者の後始末をする為に来ている。この小屋を撤去する覚悟は出来ているであろうな?」
「‥‥ああ。そうだった。小屋を見たらついまだいけるかもって淡い期待を抱いちまった。もう大丈夫だ。未練はねぇ」
「ならば良い。モンスターは恐らくそなたが喰い散らかした残飯やら動物の骨やらの腐臭に釣られてきたのだろう。まだそれらが残る現状、遅かれ早かれモンスターが再来する可能性は高い。今のうち速やかに清掃を行なおう」
「そうだな、それに俺が見た正体不明の蛇が出て来る前に何とかしたいしなぁ」
「その蛇さんはきっと湖のヌシさんではないでしょうか」
 ひょいっとひなたが顔を出し、その脇にはいつのまにかシャクティも居る。
「湖の主? ギルドの奴も口走っていたが本当にそんなものが‥‥」
「天然自然にも神仏は宿るものですわ。きっとその大蛇の幻も、不埒な所業を諌めに現れたのでしょう。これは俄然やる気も湧きますわっ!!」
「全て終わるまで時間は掛かるだろう。皆、根気良くゆくぞ!」
「おー!」
 アマツの言葉に皆が元気良く応えた。


 ぐるりと周辺を見回ったのだがモンスターの気配を感じられなかったので、一行は清掃から先に行う事にした。先ずは破片や食べ散らかしの処理、といったところだ。
「むうう〜‥‥何とも苛烈な腐臭!」
 アマツは手で鼻を覆った。グランが保存食だと主張した物は異臭を放ち、とても食べられる気がしない。アマツは二人の女性陣に同意を求めようとしたが、彼女らは腐臭に対して特に気にしていない様子だった。よく見れば二人は兎の様な耳がついたヘアバンドをしている。ふわふわ、ふわふわ可愛らしい。
「だがこれも民草を護る騎士の役目ぞ、力仕事ならば任されよ!」
 気になる兎耳を無視し、時折むぅうという唸り声を上げながら、アマツは異臭のする壷や籠を、次々小屋から運び出した。細かな部分はひなたが整理をしながら進めていく。
 あ、それはッ、あ、すまんッ。と、あわあわするグランを半ば無視しながら、アマツはせっせと働いた。時折「何だこれはッ!」と叫び、グランが謝るといった姿も見られた。


 清掃開始から数時間、何度かの休憩を挟んだ午後。周囲の森からざわざわと怪しい風が感じられた。
「来たか」
 アマツが音を聞き、ひなたが目で確認する。
 体長3mを超える巨大な熊が、その餌はワシのだといわんばかりに、威嚇吼えをしながら全力で向ってくる。
「いくらここを浄化する為とはいえ、魔物達を討たねばならぬ事‥‥。御仏に仕える者としては、矢張り退治という手段には心苦しいものを感じますわ」
「でも、仕方がない‥‥ですよね」
「我が斬奸刀に断てぬものなし‥‥命が惜しくば下がるが良いぞ!!」
 アマツは熊に向って叫ぶが、依然熊は迫って来る。
「ゆくぞ」
「はい!」
 アマツはオーラパワーを刀に纏わせ、シャクティがひなたとグランの前に立ちはだかる。
 アマツは射程までひきつけてから疾風斬を放ち、その直後にひなたが大ガマの術を唱えた。
「よーし! ごお、ちゃっぴい☆」
 熊とシャクティの間に、どふんと3m級の蛙が現れ、一瞬熊が怯み、迂回する素振りを見せる。疾風斬が当たった事で、熊は殺気立っている。
「無手とはいえ、救世願う我が金剛力。伊達ではございません。迫り来る魔物よ、我が強力の投げ技を、とくと味わいなさい!」
「いや、あの、熊に素手ってそりゃ無理だろ!」
「天地壊百! 蓬・莱・山、崩しィィッ!!!」
 グランの静止を無視し、シャクティは熊の勢いを利用しつつ目にも留まらぬ早業で、今しがた片付けていた瓦礫の山へ熊を投げつけた。
 バーン! ガラガラガラ‥‥
 物凄い音と共に、残骸が周囲に弾け飛ぶ。
「うッ臭い!」
 アマツが一瞬鼻に手をやる。何が起こったか混乱しつつのっそり起き上がる熊に向かい、ちゃっぴぃがぺたりとした前足で熊を瓦礫に向って勢い良く踏みつけた。正面から喰らった熊は再び瓦礫へ埋もれたが、強烈な爪で反撃を繰り出しちゃっぴぃの腕を引き裂く。ちゃっぴぃはそれをかわし切れず、痛がる様に大きく後ろに仰け反った。
 一瞬出遅れたアマツだったが、すっかりちゃっぴぃに気をとられている熊の脇をを刀で薙ぎ、熊が蝿を払う様にアマツを払おうとする頃には、彼女は踏み込みの勢いのまま反対側、シャクティの方へ抜けていた。
「ちゃっぴぃ頑張って!」
 ひなたがちゃっぴぃの負傷していない腕で攻撃を繰り出させる。熊は瓦礫に足を取られつつも辛うじてそれを避け、標的をアマツに変えて向って来た。
 シャクティはそれを見るより早く火鳥変化のスクロールを開き、アマツは振り返るようにして熊の攻撃を受け流し、その背後でシャクティの体が炎に覆われた。
「わたくしが魔を滅ぼす化身となりましょう」
 アマツに気を取られていた熊は、電光石火の勢いを持った炎の鳥に幾度も体当たりをされ、終いには逃げ出す姿勢のまま瓦礫の山へ身体を埋めた。ぶすぶすと毛がくすぶり、辺りに嫌な臭いが立ち込める。
 森の中にはわぅわぅと犬に似た声が響き、それが徐々に遠のいていった。
「一旦引いた様だ。深追いする必要はないと思うが、再来の可能性もあるだろう。油断はせぬ方が良いとは思うが」
 アマツが刀の血を振り払い、鞘に収めると、シャクティが元の姿に戻り、ぽんぽんと身体についた汚れを払った。グランはぽかんと口を開け、三人の強さに驚愕したまま硬直していた。
「なんとか、なりましたわね」
「そうだな。やれやれ、これで漸く掃除の本腰を入れられる‥‥」
「やっとひなたの出番ですね! 小町流花嫁修行目録の技の冴え、名だたる剣豪、大魔術師にも負けませんよ〜! グランさん、まずは荒らされた小屋から貴重品を選び出して下さいね。でもあんまり多くは持って帰れませんからね。ひなたの連れて来たロバのろしなんてだって、そんなには積めませんし。バッサリ諦めて捨てるのも掃除の極意ですからね♪ ‥‥って、聞いてますか?」
「ん? あ、あぁ。バッサリ諦める‥‥か。ま、元々俺も冒険者の端くれだからな。貴重品を家に置いて出る様なタイプじゃねぇ。バッサリやっちゃってくれ!綺麗サッパリな!」
 一瞬寂しそうな顔をしたグランだったが、隠すかの様ににぃっと笑って見せた。初めて建てた自分の家。それが壊される事がほんの少し、寂しかったのかもしれない。
「モンスターを引き寄せる悪臭の発生源となっている生ゴミの分別はひなたがしますから、グランさんもしっかり手伝って下さいね!」
「当然だぜぇ!」
 口では『手伝う』という表現になっているものの、すっかり女性陣の下僕と成り果てているのはあらゆる面からしても逆らい様がなかったからだ。
 アマツは延焼しない安全性の保てる場所を吟味した上持参のスコップで大な穴を掘り、シャクティも持参のスコップで別の場所に穴を掘り始めた。暫くしてからグランがアマツと交代をし、アマツはひなたと共にゴミの分別に取り掛かった。
 やがて巨大な穴が掘れた所で、生ゴミやガラクタをひなたの指示に従い分別すると、それをシャクティが紅蓮噴火の真言で浄化し、ゴミが轟々と燃え盛った。
「うふふ、生ゴミはちょっとアレですけど、こうやって火に当たるととても暖かいですね」
「そうだな。これだけ燃料があれば、一晩中寒い思いをしなくてすみそうだな」
「小休憩が終わったら、いよいよ小屋を取り壊しましょう」
「は〜い」
 四人は掘った穴に山盛りのガラクタが燃える速度を測り、たまに火を囲んで休憩を入れつつ作業をした。爽やかな疲労感が全員を包み始めている。
「さあ、もうひと踏ん張りですわ!」
 シャクティは驢馬のガネーシャに積み込んだ金棒を取り出すと、小屋の前で構えた。
「一気呵成に粉砕していきましょうか!! それでは‥‥そーれい!!」
 どーんという音と共に、バリバリと木々が裂ける音が鳴り響く。一撃、ニ撃、三撃。撃つ毎に悲鳴を上げていた小屋の木々が、四撃目にはキイィと叫び声をあげながらその場に崩れ去った。
「うはぁ‥‥」
「では、燃やしやすい様にどんどん細かくしてしまいましょう」
 何事もなかった様に微笑む彼女に、グランはすっかり圧倒された。
 残骸は細かく砕いては火にくべられ、夜には暖を取りながら経験談に花が咲いた。
 寒い夜とは思えない暖かな夜になった。


 翌朝快晴に恵まれる中、主にシャクティが誘導する形で湖の周辺の最後の清掃を丁寧に行い、一行は湖を後にする事にした。ゴミさえ無ければ、モンスターもここには来ないだろう。
「さて、総て終わった事だし、湖に向かって謝罪を述べるぞグラン殿」
「え? 湖に謝罪?」
「そうだ。夢枕で我らを諌めた存在なのだ。礼節は尽くさねばならん」
「湖周辺を荒らしてしまった事について、大蛇の許しを乞いましょう」
「蛇さーん、これでいいですか〜? って。それに、あまり湖を荒らすとモンスターに襲われるから注意しろーってお告げをくれた事に対してお礼を言わなきゃですよ」
「俺はてっきり蛇が自分の縄張りから出て行けとだけ脅していたと思っていたぜ」
「もしそうなら、その蛇さん問答無用でグランさんを襲ってる筈ですよね」
「‥‥そうだな」
 グランは三人より一歩湖寄りに立つと、口の両側に手を当て、蛇へ「済まなかったなー! 有難うなー!」と大声で叫んだ。内容が違えば、まるでどこかの青春物語の一場面の様だ。
 その時、水面が急激に盛り上がり、ざばぁと巨大な水柱が立ち上がった。
「あっ‥‥蛇さんが‥‥!」
 真っ青で美しい巨大な蛇がこちらを見つめていた。しかしやがて蛇は何も言わないまま後ろを向くと、そのまま静かに遠のきながら湖の中に消えて行った。飛び散った水飛沫もキラキラ輝きながら消えて行く。まるでスターダストの様に、光の粒が皆の周りにもゆっくりと降り注いだ。
「綺麗‥‥。どうやら許して頂けたみたいですわね」
 シャクティがにこりと微笑んだ。きらきらとした光に囲まれて、より一層笑顔が素敵に見える。
「ああ‥‥これからはちゃんと気をつけるよ。皆、ありがとな!」
 こうして、湖に再び静かな季節が訪れようとしていた。