【収穫祭】実りの秋のプレゼント

■ショートシナリオ


担当:とうりゅうらふう

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月22日〜10月27日

リプレイ公開日:2008年10月30日

●オープニング

 実りの秋。爽やかな秋晴れ。清々しい毎日。
 山に住み、畑を作り、森が庭のような生活を送っている少女ハイリは、今年も沢山の野菜や果物を収穫した。雲ひとつない青空の下、収穫した物を仕分けして、冬に向けてせっせと仕込みを開始する。
 収穫した野菜はどれもつやつやで、とてもおいしそうだ。もぎたての木の実も今が食べ頃と、どれもいい香りが漂っている。
 ハイリの住む山は、主に牧畜が盛んで、人口は数える程度しかいない。それが故に特にお祭りらしきものが存在せず、ゆったりとした時間だけが毎日流れていっている。
 以前街に遊びに行った際、街のせわしなさ、そして祭りという賑わいを見て、とても楽しんだ思い出があった。
「街では今、収穫祭とかいうお祭りを今年も開いてるのかしら‥‥」
 果物が沢山入った籠を手に持ったまま、ハイリは遠く眼下に広がる街を眺めた。
 その街には、街に居ながらも足が悪いが為にお祭りに行った事のない親友、ゆららが住んでいる。
「そうだわ! この沢山の果物を持って、ゆららの家でパーティーをしたらいいんだわ!」
 ハイリは果物籠を草の上に置き、大急ぎで家へ駆け込んだ。
 お誕生日パーティーをして上げられなかった分、今度こそ何かしてあげなくちゃ!
 ハイリは日が暮れるまで、あれやこれやと考えた案をおじいさんに報告し続けた。
「そうだな、ハイリ。お前のいう事はどれも楽しそうではあるんじゃが、わしは畑の面倒をみてやらねばならんでな、余り手が離せないんじゃ。誰か、一緒に協力してくれそうな人を探さないといけないのう」
「わかったわおじいさん!私、冒険者ギルドへ行って一緒に盛り上げてくれる人を探すわ!」

 こうしてハイリは近所のおばさんに伴われながら、冒険者ギルドへ依頼を出しに行ったのであった。

●今回の参加者

 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea8851 エヴァリィ・スゥ(18歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb1259 マスク・ド・フンドーシ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb2892 ファニー・ザ・ジェスター(35歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7880 スレイン・イルーザ(44歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

「ゆらら、遊びにきたわ! 今日から数日間お世話になるの、宜しくね!」
「ようこそハイリ! 私とっても嬉しいわ!」
 ゆららとハイリは年頃の少女らしく、きゃっきゃきゃっきゃと再会を喜びあっている。何気ないこの挨拶もゆららの気をハイリに逸らす為の作戦だとは、彼女は微塵も感じていない。
 こうしてゆららがすっかりハイリに気をとられている間に、一行はゆららに疑われる事なく屋敷に出入りし、屋敷内で協力してくれるスタッフと共に、念入りな打ち合わせを開始した。打ち合わせは概ね了承され、「お嬢様の為の企画なれば」と費用も負担してくれる事となった。


 長い様で短い準備期間。あっという間に本番の時間がきた。
 時間と共に、エヴァリィ・スゥ(ea8851)がリュートで演奏する陽気な音楽が庭中に響き渡る。さっきまで普通の庭だった所が、あっという間にお祭り会場に変わる。それを合図とばかりに周囲で開門を待っていた子供達がわいわいと入ってきた。近隣の子供達と共に祭を盛り上げる事を、予めハイリやゆららの家の人々に提案してあったのだ。祭りは一人でも多い方が良い。
「今日はゆらら!」
「ゆらら、久し振り!」
「今日は来てくれて有難う! とても嬉しいわ」
 今日はお庭でお祭をするのよとしか聞かされていなかったゆららは、次々と入ってくる子供達に驚きつつも、嬉しくて挨拶をして回った。普段中々会う事が出来ない近隣にいる同年代の子供達に囲まれて、ゆららはとても嬉しそうに笑った。そんな機会に恵まれると思っていなかったので驚きつつも、心底嬉しく思っていた。
 子供達が概ね揃った所で、エヴァリィの奏でるメロディが軽快なファンファーレに切り替わる。
「さあさよってらっしゃい見てらっしゃい! 今日はゆららとハイリの収穫祭だす! 思う存分楽しむといいんだべぇ!」
 三角錐型の帽子を被り、クラウンメイクで大道芸人の姿をしたファニー・ザ・ジェスター(eb2892)が思い切り訛った発音で叫びつつ唐突に現れ、小さな帽子でほいほいと見事なジャグリングを見せ、通り過ぎる子供の頭へランダムに載せていった。小さな帽子は美芳野ひなた(ea1856)やメイド達のお手製だ。
 続いてもう一人巨漢のクラウンが入ってくると、また二つ目のファンファーレが華麗に響き渡る。
「愛と真実のマッスルを貫く大英帝国が騎士、マスク・ド・フンドーシ!! 華麗に蝶☆見参!」
 ふりふりで派手派手な道化衣装をまとった巨漢、マスク・ド・フンドーシ(eb1259)がびしぃばしぃシャキーンとポーズを決める。衣装はひなたが食事を作る合間に頑張って縫った衣装だ。誰が見てもいかにもクラウン! という形である。そしてそのアフロにはいくつか花が埋まっている。蝶が形取られたマスクも相当大きかったが、それ以上にアフロが大きい。見た事も無いその強烈なインパクトの姿に、子供達はおわっと大きな歓声をあげた。
「あっそ〜れ!」
 彼は無造作に花を頭から引き抜くとどことなく危なっかしい動作ながら茎の丈夫な花でジャグリングを見せた。危なっかしいのは素なのか演技なのか。これらは総てファニーに短期間でなおかつ厳しく叩き込まれた芸当だ。それにしては見事な道化っぷりである。
 彼はジャグリングしつつもファニーの後に続き、男女かまわずその頭に花を挿していった。花を挿された少年の周りでは笑いがおき、帽子を貰った女の子と花をにこやかに交換するという微笑ましい交流も生まれた。二人はジャグリングをしながらどーんとお尻をぶつけ合い、お互い前方に転びながらジャグリングしていた物を華麗に周囲に投げ、一瞬で帽子と花を交互に一列に並ばせた。ぱらぱらと拍手が沸く中、後ろ気をつけろよと言わんばかりの口パクの喧嘩に、また子供達がどっと笑う。
 そして次にファニーがやや大きめな布玉でジャグリングを始めると、マスクもそれに協力。二人合わせての見事なジャグリングが炸裂した。辺りに広がる拍手喝采。と、唐突にマスクがその布玉をテーブルへ向ってアタックした。
 子供達は(あたる位置ではなかったのだが)きゃっきゃと言ってそれをさけ、机の上で弾けた玉を見た。玉は縫製の糸が切れ、中から綺麗な花束が顔を出していた。
 おおー! と、子供達がまたどよめく。特に女の子達には受けが良く、皆が口々に綺麗だと褒め、もっと打って! とみんながマスクにおねだりをした。
「続きまして! あっと驚く謎解き手品! ここにあります大きな布は‥‥」
 ファニーが手馴れた手つきで構えると、そこにマスクが得意の踊りを披露しながら突っ込み、気がつけばアフロの上に鳩がちょこんと座っている。
 どっと笑いが漏れ、マスクは頭を揺すらない様にしながら再び踊りを披露する。ファニーの布に撫でられる度にマスクの頭に何かが増えていく。庭はとても盛り上がり、又、大道芸の内容に沿った見事な音楽が、スリリングな場面では緊張感を、コミカルな場面では陽気さを強調させた。演者と演奏者のこの一体感は綿密な練習の繰り返しでしか得られない。短期間ながらよくここまで完成したものだと事情を知る者達は誰もが感心した。
 エヴァリィは裏方に徹しながら演奏や歌唱を行っていた為、その姿は決して表には出ないがもはやこの出し物の演出には無くてはならない存在になっていた。
 更に目立たぬ所でスレイン・イルーザ(eb7880)が大道具や机や椅子、そして次の料理まで、次から次へと力仕事に奔走していた事に子供達は誰一人として気がつかなかった。彼なくしてはこのセッティングは完了していない。まさに、誰一人が欠けてもこの祭は成功しない。そんな連携だ。

 大道芸の出し物が終わった頃、庭にはいつのまにかスレインによって設えられたテーブルが綺麗に並んでいた。そしてその上には所狭しと美味しげな香りを放つ料理が並べられている。テーブルや椅子にちょこんと小さな花束が飾られているその演出も、ひなたの提案だ。
 秋野菜のスープ、クルミパン、キノコのグラタン、秋野菜ピザ、アップルパイ、梨のタルト、フィッシュチップ‥‥添えられたソースも、綺麗な局面を描く金属製の専用の器に注がれており、見ているだけで何だかとても豊かな気持ちになれる。
 エヴァリィは皆が美味しく食べられるように呪歌を掛けようと思っていたのだが、辺りに漂う食欲をそそるいい香りやそれを実際に食べて綻ぶ笑顔を見、その必要もないかと悟った。実際プロ顔負けの実力を誇るひなたの料理はとても美味しい。呪歌を掛ける迄も無く、子供達はその美味しい食べ物に感謝した。
「あのね、ゆらら! この野菜はお爺さんの畑で採れた物なのよ! それをね、ゆららの為にって集まってくれた皆さんが作ってくれたの!」
「まあ! とても嬉しいわ!」
 ゆららは今回の功労者達の所へ車椅子で立ち寄っては一人一人に丁寧な感謝の言葉を伝えて行く。
「一人でこんなに沢山お料理を作っただなんて凄いわ! とても大変そうだわ!」
「そんな事もないですよ。この季節は色んなお野菜や果物が溢れてますからね、楽しかったです」
 ひなたがにこりとゆららへ笑顔で返した。


 一行がこの屋敷に入った時、まず始めたのはお祭の概要説明、それから必要な物の手配からだった。それらを買いに出た時の事。
「足りないのはバターや砂糖、卵に牛乳、レーズン、アーモンド、シナモンパウダー、レモンに調味料、チーズにお魚、えーと‥‥もう色々あります!」
「その辺でしたら備蓄がございますから大丈夫ですよ。ただ‥‥アーモンドとあとはお魚が足りませんわね。それだけとはいえ、結構な量にはなりそうですが‥‥」
「荷物持ちについては丈夫で長持ち、力持ちのジャイアント族にお任せなのだ!!」
 マスクがどーんと大見得を切る。アフロで仮面で浴衣の巨漢。街の人達はそれだけで「まあ何の大道芸人かしら」とひそひそ話す。ひなたとは1mも身長差があり、ただでさえアフロで強調される長身を更に強調している。
「砂糖やら蜂蜜やらレモンやら、あと小麦粉に卵に魚も欲しいと言っておったよなァ〜」
 大柄な体格とは裏腹に、配慮はとても細かく丁寧だ。
「なるほど蜂蜜もですね! 小麦粉も備蓄はございますが、丈夫な方が居られる様ですので是非この機会に補充させて頂けますと助かりますわ」
 そういってゆらら邸のメイドは巧みな交渉術で小麦粉を安く三袋購入し、マスクがひょいとそれを持ち上げると、一袋を何も言わずスレインに持たせた。
「お゛ッ」
 唐突に持たされたスレインはその重みに一瞬よろめく。
「では次はお魚ですね!」
 ひなたとメイドは食材についてあれやこれやと楽しげに話しながら次の店を目指した。どうやら料理好き同士として話があったらしい。そして、丈夫で長い身長のマスクは堂々と、スレインは見た目立派な鎧騎士なのに小麦粉の袋を持たされているというアンバランスな姿でよろよろ後に続いた。最初のうちは大丈夫だと思える重さだったが、時間が経つと段々苦しくなってくる。かなり重労働だ。
 そして総ての買い物を終え、ひなたとメイドは厨房に、マスクはファニーとエヴァリィと共に出し物の打ち合わせ、スレインは打ち合わせに加わった後セッティング手伝いに回る事になったのだ。
「よーし、小町流花嫁修業目録! ひなた行きます!」
 ひなたは厨房に入ると電光石火の勢いで準備を進めた。大人数用な上様々な種類のご馳走を作らねばならない。いくらメイドが手伝ってくれると言っても限度がある。ひなたは効率良く動き、神業としか思えない程の手際の良さを発揮した。
 そのお陰で、今のこの立派な食卓になったのだ。
 
 
「おいしー!これどうやって作るの?」
「これ何が入ってるんだろう?」
「そういえば前、親戚が魚を釣りにいくとかいっててさ‥‥」
 食べる毎にその食材に纏わる話が広がり、いつまでも話題が尽きない。ゆららはこれが収穫祭というものなのねと、初めて体験するこの祭にいつまでも目をきらきらと輝かせていた。

 宴も酣になった頃、マスクは道化師衣装から礼服に着替え、仮面を外し、髪を梳いた。いくら梳いたとは言え、多少広がっている事は致し方ない。そこは上手く束ね、先程迄とは比較できない程の別人に変貌した。ファニーもメイクを落とし、二人は見事な紳士となって再び参上した。
「マスク・ド・フンドーシと申します」
「ケイン・マクドガルと申します」
「ええ!? 本当に先程出し物をして下さったお二人なのですか? 見間違えてしまう程です!」
 驚くゆららの前に二人は跪きお辞儀をすると、おもむろに立ち上がり、奥に設えられた花で綺麗に飾り立てられたテーブルへ向ってゆっくりとゆららをエスコートした。騎士の知識を生かしたマスクはクールさとエレガントさで、ファニーは持ち前の話術で、その短い距離を楽しく演出した。傍から見れば、二人のナイトに付き添われたお姫様の様である。ゆららはその短い時間でさえも、夢の様な気分で楽しんだ。こんな風に紳士的にエスコートされる事が初めてだったのだ。ましてや二人掛かりでだなんて!

 三人が綺麗に飾り付けされたテーブルに辿り着いた頃、丁度良いタイミングでスレインが銀色の半円の蓋を被せた皿を運んできた。
 ゆららはそのテーブルの正面に座り、そしてその周囲を子供達が囲った。
 丁寧な手つきでスレインがその蓋を取ると、中から葡萄や無花果で作られた可憐なケーキがその姿を現した。
「まあ! 素敵! とても美味しそうだわ!」
 初めて見る形のケーキに、ゆららは目をきらきら輝かせた。
「ゆららさんのお誕生日も兼ねてちょっとしたバースデーケーキも作ってみました」
 ひなたシェフがそう説明すると、周囲から「うまそう!」「おいしそう!」「早く切ってゆらら!」と期待の声が次々と寄せられた。

「詳しい話は存じませんが、以前ゆららさんの誕生日パーティが出来なかったと伺ったものですから。大分たってしまった様ですが、改めて一曲プレゼントさせて下さい」
 そういうとエヴァリィはそっと誕生日の歌を演奏し始めた。皆がそれにあわせ、歌いだし、あたりは大合唱に包まれた。
 合唱が終わると共に、ケーキに立てられた蝋燭をゆららが一気に吹き消す。それと共におめでとーという声と拍手がぱらぱらと沸いた。
「遅くなっちゃってごめんねゆらら。これ、前お誕生日会しようと企画した時にあげようと思ってた物なの」
「ありがとうハイリ! まあ、何かしら!」
 ゆららは受け取った物を開いた。それは不器用ながらもかわいいアップリケのついたひざ掛けだった。
「外に出かけた時に敷物にしてもいいし、膝掛けにしてもいいし、色々使えるのよ!」
「まあ! 嬉しいわ!」
「むふ〜、その友を気遣う純真!! ハイリ嬢にはもう感激の涙が止まらんであるよ」
 二人の居場所から三歩程離れた所でマスクが泣く仕草を見せている。
「お誕生日のお祝い、ちょっと遅れちゃいましたけど、気持ちが大事ですよね」
 ひなたも皆が嬉しそうにしているのを見て、満足そうに笑った。
「遅ればせながら誕生日おめでとうである、ゆらら嬢! うむ、万事解決!!」
 その場にいた皆がうんうんと頷いた。
 こんな体験は滅多に出来ないであろうという程の、素敵な収穫祭&誕生日会となった事は言うまでもない。