【ハロウィン】ハロー!勝利の祭
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■ショートシナリオ
担当:とうりゅうらふう
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:4
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月26日〜10月29日
リプレイ公開日:2008年11月04日
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●オープニング
首都から離れたとある街、そこでは盛大な「ハロウィン」という祭が催されようとしていた。
その街は割と古くから栄えており、最近は冒険者がよく往来している。その冒険者達が毎年この季節になると、ハロウィンという祭の話題が盛り上がっていた。ハロウィンは彩りも華やかで、子供から大人までが参加でき、なおかつ近隣の人々との交流が深まると言う。そんな見た事も無い遠い国の祭を誰もが楽しげに語るので、今年はこの街でもそれをやってみよう、という事になった。
「そもそも、ハロウィンってどういう意味なんだろうな」
「考えた事もなかったなあ〜。ハローっていう言葉ならどこかの国の挨拶に使われていると聞いたことがあるけど‥‥」
「そういやウィンっていうのも勝つっていう意味だよな」
「ってことはハローウィン! 勝利の挨拶なのか!」
「勝利よこんにちは、か! 何かすげーめでたい祭だなあー!」
「何かいいなあー! 流石遠い国の祭だ!」
情報源が噂話しかないこの祭。少ない情報を一つも漏らさぬようにしつつ、祭を再現できるよう皆が試行錯誤を重ねている。
「そういや、かぶちゃランタンっていうものがあるらしい」
「かぶちゃ? 蕪の事か?」
「ああ、そうらしい。なんせ見たことがないからなあ〜。ともかく、その蕪にランタンをって話を聞いたな」
「蕪は収穫時期を逸すると中身が空洞になっちまうから‥‥食べごろの奴にランタン飾って、祈ったりするってのか?」
「蕪にランタンねえ‥‥じゃあこんな感じか?」
そういうと彼は蕪の葉を器用に束ねながら、蕪で出来た木の様な物体を作り上げた。まるでさかさまになった白い巨大葡萄だ。そして一粒一粒からにょろりと根が伸びている。見た目は、激しく美しくない。
「そこに、ランタン、だったな‥‥」
そそり立つ蕪の木から茫々と生える根っこに、次々と小さ目のランタンが吊るされて行く。
「おおおもしれぇ。この祭を考案した奴は斬新だな! それでこの蕪に願い事を刻んだらいいんだっけ?」
「そうそう、確かそうだ」
「じゃあ子供達を呼んで色々刻んで貰わないとな。字じゃなくてもいいんだろ?」
願い事は何にしよう! 彼らはとてもウキウキしてきた。
「で、何でも書いていいのか? 恋愛系の方がいいんだっけ?」
「さあ?」
「あれ、でもこれ本体に刻むんだっけか? それとも願い事を書いた木の板や布切れを吊るすんだっけ?」
「う〜ん、願い事を書いた‥‥板切れじゃね?」
「誰か詳しく知ってる奴はいないのかよ」
彼らは顔を見合わせて声を上げ、まあいいか、とまた笑った。
その頃女性達は、広場を取り囲む様に木に掛けられた紐へ、一定間隔でランタンと、蕪を次々と吊るす作業に取り掛かっていた。あるラインでは蕪の代わりにニンジンが吊るされていく。
「蕪をランタン代わりにするだなんて、随分かわった風習ね」
「本当ね。でもこんなのでランタンの代わりになるのかしら」
「大丈夫よ! この蕪は今朝収穫して、さっき丁寧に洗っておいたから、どれもこれもぴかぴかの真っ白よ! きっと祭の日になると、精霊が宿って内側から綺麗に光るのよ! も〜楽しみ! 早く見てみたいわぁ〜!」
「それで、こっちの列は白だから、あっちの列は赤くしてみたわ! ニンジンも綺麗でしょ? きっとあれも祭の日になったら精霊が宿ってきっと赤く輝くのよ!」
「昔はここら辺でも妖精やらなにやらよく見たものだっておばあちゃんが言っていたわ! きっとまた呼び寄せる事が出来るのかも!」
「人参凄いわあ〜!」
もはや蕪もニンジンも大差はない。彼女らの想像力は無限に膨らみ、着実に異次元へと向っている。彼女らは異様に盛り上がりながら飾り付けを進めていっていた。取れたて、洗いたての蕪は、どれもみずみずしく、とても重そうだった。
ハロウィン、というより収穫祭、いやむしろ保存食を作る会の様にも見えた。
「そういや、祭の当日は子供達が何か衣装を着て大人達に挨拶をするんだっけ?」
「ああ〜、ええと男の子も女の子も黒くて質素なドレスを着て、『悪い子はいねがー、とってくうべ〜!』って叫ぶんだっけか?」
「ん〜、多分そんな感じだったな。見本の先生が欲しい所だよな」
「叫ばれた方はどうするんだったかな‥‥」
「赤子を差し出しておまじないをして貰うんだっけ?」
「いやいやいやいや、それは違うだろう」
「悪い子はいませんよーって、食料を出すんじゃなかったっけ?」
「そこで蕪料理の登場か?」
「どうせならおなかいっぱい食べて欲しいよな」
「じゃあ街中が立食パーティー会場、という風に仕上げたらいいのかな?」
「とすると、酒も欲しいところだな」
「いいねえ、酒! 子供にはほら、最近噂のジュースかな!?」
大人達はあれやこれやと希望を出し合い、しまいには好物の宣言大会となり、いかにして自分の食べたい物を準備するかという事を、まるで遠足前の子供のようにはしゃぎながら語り合った。
そんな調子で街の人達は、ひたすら異次元へ向う想像力に物を言わせながら楽しげに準備を進めていった。あれやこれや、画策するのが楽しくて毎日があっという間に過ぎ去っていく。しかし、想像力は人の数だけあり、徐々にまとまりがつかなくなってきている事は、誰の目にも明白だった。
そこで彼らはこの祭に再び「ハロウィン」の意味を取り戻す為、先生となるべく冒険者を大々的に募集する事にした。出身地等も総て不問。何故なら、冒険者であれば他の文化に触れる多くの機会を得ており、こういった民俗的な祭にも詳しいと信じているからだ。
ハロウィン当日まであと僅か。彼らは一人でも多く参加者が増え、一つでも多く祭を盛り上げる要素を増やせたらと考えている。彼らはにこにこしながら先生の登場を心待ちにしているのであった。
●リプレイ本文
「龍牙さんは、街に着く前からハロウィンの準備万端ですね!」
クリシュナ・パラハ(ea1850)が桃代龍牙(ec5385)のランタンを覗き込んでにこやかに笑った。中が刳り貫かれた大きな蕪の中には柔らかい布が敷かれた上、そこへ彼のペットであるしゅろが安置されている。それは珠状で、たまに光を放っていた。夜に見たらさぞかし綺麗なランタンになるだろうと思われる。
「南瓜が手に入らなくてなぁ‥‥代わりに育ちすぎて喰えない蕪でジャックオーランタン作ってきたんだが」
話しているうちに目的の街が見えてくる。
入口には野菜と葉で作られたアーチの様な物が置かれ、『勝利よこんにちは! ハロウィン祭』と大きな看板が掲げられていた。横には蕪で作られたクリスマスツリーの様な物体がでーんと立っている。短冊の様な板が沢山ぶら下がっている所を見ると、七夕にも近いのかもしれない。
「なんっじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!!」
想像遥か斜め上を行く奇妙な物体を目にしてしまい、肩に引っ掛けてきたお手製蕪ランタンと咥えていた煙管を落としそうになりつつ叫んでしまった龍牙二十九歳のハロウィンはこうして始まった。
「ハロウィンか〜、うーん‥‥日本じゃここ10年くらいで広まった祭りだよな。100均ショップでも、この時期になると飾りとか売ってたよな〜何かもって来れりゃ良かったのにな‥‥」
「こ、根本的な所からの説明が必要そうですねぇ」
村雨紫狼(ec5159)もクリシュナも苦笑しか出ない。
「宗教的なもんは分からんから、俺のいた日本でやってた内容で教えるよ。どのみちこの世界って宗教ねーから、まあサワリだけで大丈夫だろ?」
「まあ、そうとも言えますね。実は昔、わたくしの居た学園都市ケンブリッジでもハロウィンやってたんですよ。お二人の地球の知識をお借りして、ジ・アースのハロウィン知識とのすり合わせて‥‥何とかやってみましょうか!!」
街の入口で立ち竦んでいた三人に気がついた街人は、これはこれはようこそ先生方! と彼らを引きずる様に打ち合わせ様の居酒屋へ案内した。
三名の先生対生徒。という向きに設置された椅子に街の人々が納まっている。いかにも講習会という雰囲気だ。
「う〜ん‥‥改めてハロウィンって何ですか? と聞かれると。案外知らないなぁ、わたくしもまだまだ勉強不足ですね」
目をキラキラさせた大きなお友達‥‥いや、大人達を前に、クリシュナは少し照れ臭そうに苦笑した。
「基本的な知識として、ハロウィンは古い時代の収穫祭が宗教‥‥ええと、精霊信仰でしたねここは。ともかく、精霊のお祭りに変化したものです。地域によって解釈に差がある様ですが」
「え〜と、俺の所でのハロウィンは、精霊とか魔物とか、先祖の霊が帰ってくる日で、間違って浚われたりしない様にそういう扮装をだな‥‥おっと時間だ」
龍牙はそういうと手元の糠床を混ぜ出した。街の人々は彼が一体何を始めたのか理解できなかったのだが、きっとハロウィンに欠かせない何かなのだろうと、ひたすらに次の説明を待った。
「とりあえず、元が収穫祭なので、ご祝儀を兼ねて精霊や魔物に扮した子供たちが夕方に家々を練り歩き、お菓子をくれないとイタズラするよ〜と言います。秋の収穫に感謝しなさいよ、さもなきゃ暴れるぞって事です」
それを聞いた子供達が、早速「悪戯するぞー!」と口々に大人達へ言って回り始めた。
「それを言うのはモンスターのコスプレした後だぞ? そんで街中をぐるっと回って、それぞれの家でお菓子をもらうんだ。その時はトリックオアトリート!! って言うんだ」
「トックリアート?」
「トックリアトリートメント?」
近い様で遠い台詞を皆がばらばらと口にする。
「いやいやいや。トリックオアトリート! お菓子を貰えないと、子供達がその家に悪戯するんだぜ。大概の家はお菓子を用意してるから、そんな事はないんだけどな。ほら、もう一回。トリックオアトリート!」
「トリックアスリート!」
「違ぇ! まいっか。詳しい云われは分からないけど楽しむには十分だと思うぜ」
「はぁい!」
返事だけは気持ちが良い程揃っていた。
「決め台詞を言われた各家庭は、秋の収穫物でこしらえたお菓子を出します。アップルパイやかぼちゃパイ、秋の果物を使ったタルトなんかいいですね」
クリシュナの説明一つ一つに、どよめきと歓声が入り混じる。秋の食べ物と言えばあれだ! これだ! と自分達が食べたい物申請大会が再び勃発し始めている。
「それから重要なのがランタンです。蕪は中身をくりぬいて空洞にし、中にロウソクを立てます。ランタンの名称はそこから来ています」
平和な申請大会を両断する勢いでクリシュナが龍牙の持ってきたランタンを皆に掲げて見せた。おお、凄い! と皆が口々に食い入る様にそのランタンを見つめた。
「目や口の形で皮をくり貫いて、中身もくり貫く。その中にろうそくを立てる。ジャック・オー・ランタンって言うんだ」
「あ、そうだったんですねー」
「ですよねー」
ランタンを持ち上げているクリシュナに代わって紫狼が補足する中、蕪でオブジェを作った二人組みがこそこそと肩を縮こまらせていた。それでも彼らは変な物を作ってしまった自分の馬鹿さ加減がおかしくて笑い出した。
「さて、と。肝心の衣装なんだけど、やっぱちっちゃい女の子は、萌え萌えキュートな悪魔っ娘衣装が似合うよな!」
「萌え‥‥って何ですか? それと悪魔っ娘というのは何でしょう?」
「あー、まああれだ、厳密にはちょっと意味合いが違うんだけど、簡単に判り易く言うと、可愛い魔女のお姫様‥‥ってとこかな」
「とすると、そちらのクリシュナ様の様な感じでしょうか?」
唐突に話を振られた外見年齢十八歳のクリシュナがえっと驚いた表情を見せる。黒い三角帽子、黒いローブ。余り魔法使いを目にしない彼らにとってクリシュナは立派な魔女のお嬢さんに見える。
「た、確かに、とんがり帽子やローブはそうとも言えますわッ」
クリシュナはくるりと一回転してみせると、街人達はふむふむと真顔で頷いた。紫狼はう〜ん、とやや首を傾げた。
「でもほらもうちょっと可愛いのがいいっていうか」
「(失礼な!)」
クリシュナは喉元まで出掛かった台詞を飲み込み鋭い視線をキッと紫狼に投げつける。
「だって、ちらりと見えてるそのチャイナ服は可愛いっていうより色っぽくて綺麗っていう分類じゃん?」
「え、ええ‥‥まあ‥‥そうとも、言えますね。と、ともかくそれは置いておいて、デザインに関してはわたくしも協力させて頂きますね」
紫狼に背を向ける様にこほんと咳払いをしたクリシュナに向って、街の人々は口々におお頼もしいと連呼した。
「うーんそれじゃまあ、俺はショタじゃねーけど男の子向けのも考えるよ」
「ねぇねぇお兄ちゃん、女の子が悪魔っ娘なら俺らは何になるの?」
期待に満ちた顔でわらわらと少年達が紫狼の所へ集まってくる。
「ん〜‥‥、一言で言うとモンスター、かな」
「ひでぇ!」
少年達は言うなり紫狼をもみくちゃにした。
「うわ、ちょ‥‥!」
皆楽しそうに笑っているが、叩かれている方は案外痛い。
「こらこら、先生を揉んじゃ駄目だぞ」
「はぁい‥‥」
大人達に注意された子供達は素直に引き下がり、もっといい役が欲しい! いいのを考えようぜ! と叫びながら、大人達と混じって衣装のデザインを始めた。衣装を着ない予定の大人達も、まるで街ぐるみで一つの演劇でも行う位の勢いで真剣に、かつ楽しそうに相談しあっている。
「ふう、ケータイのブラウジング機能が使えりゃ理想的な衣装とかも見せてやれるんだけどなぁ」
「そんな物なくても大丈夫ですよ」
クリシュナは自信ありげにウィンクをした。
衣装デザインが始まったので、龍牙は一人広場の手伝いに出掛けた。歩きながらも定時には糠床をかき混ぜる事を欠かさない。
「あら、先生。会議の方は宜しいのですか?」
龍牙の姿を見て、街の女性達がわらわらと集まってきた。遠くには料理を作っている集団も居る。
「あっちは二人も居るから任せておいて大丈夫かなと思ってね。それより干されている野菜が気になって」
「うふふ、これね、ハロウィンでは野菜のランタンを飾るって聞いたものですから一杯飾りつけをしてみたんですよ!」
「でもねぇ、出来るだけ新鮮な物を選んだのに、場所によってはこう萎び始めちゃって当日まで持つかしらって心配な物も出てきているんですよ」
「あー‥‥。野菜のランタンというのは、中身をこうくりぬいて‥‥中で蝋燭等の明かりを灯すっていう意味なんデスヨ」
それを聞いた女性達が、おほほほと皆一斉に笑い出した。
「そうですよねー! これじゃ何の収穫祭かと思ってましたの!」
「確かに、収穫祭の意味もある様だけど、精霊とか魔物とか、先祖の霊が帰ってくる日でもあるから、今回も精霊とか妖精とか、自分も招待されてると思っているだろうし、それも楽しませてあげて貰えるかな? 俺も前の時招待されてよくして貰ったのでね」
「ハロウィンには妖精が集まってくるのですか?」
「先生も精霊の仲間なのですか?」
そもそも先祖の霊という概念のない彼女らにとって、余り理解出来ない様子だったのだが、最終的に精霊の類が遊びに来るかもしれないんだ、という事で話が落ち着いた。元々昔は妖精がいたとされる広場である。妖精や精霊が遊びに来てくれたらいいなと彼女らはまた楽しげに盛り上がった。
「あのぅ、それで、お野菜ランタンについてなのですが‥‥」
「これ全部ランタンにするのは流石に無理だろうから、これはこれでいいんじゃないのかな。お祭が終わった後の使い道もあるし‥‥」
「使い道、ですか?」
龍牙は唐突に糠床から人参を一本取り出すと、まな板と包丁を借りて人参を綺麗な銀杏切りにした。
「こ‥‥これは!?」
人参の浅漬けを食べた女性達は、今まで食べた事のないその味に驚いた。
「糠床に野菜を一晩から数日漬け込んでおくと、『ヌカヅケ』という『オツケモノ』になってだな」
え、米糠!? え、麦のふすま!? そんな飼料から保存食が!?
女性達は初めて目にした食材や調理方法に一つ一つ驚きながらも興味津々に食い入った。米糠は流石にこの街でも入手できないとの事で、糠床作りの為に麦のふすまをすぐ調達しにいった女性まで出てきた。
龍牙が持ち込んだ糠床でさえ、先日農家の人から怪訝な顔をされつつやっと少量分けてもらえた麦のふすまだった。
「生き物なので常に一定時間置きにこうかき混ぜて‥‥」
ハロウィンの装飾はそっちのけで、すっかり見事な漬物教習会が開かれている。間違いだらけのハロウィンを無駄なく処理するという意味では、大変自然に優しいといっても間違いではない。
こうしてお祭の為の菓子や料理は、漬物講座の合間を縫って行われ「お、時間だ」という台詞が一種流行文句として主婦層の間に広まった。
龍牙が最初から手にしていた糠床は、女性達の強い要望により『先生の糠床』と名付けられて街へ寄付される事となった。腐らせない様にしなくちゃと、彼女らは一致団結したのであった。
翌朝、衣装合わせが始まった。流石クリシュナの趣味というべきか、少女達はレースがふんだんにあしらわれた可愛い小悪魔となって登場した。
「はふう〜! お兄ちゃんって呼んでくれ〜!」
ついうっかり本性を丸出しにしながら、紫狼が携帯で子供たちを激写する。そして、写しては「これは一瞬で肖像画を描いてくれる機械なんだよ」と伝えながら子供達に見せてやると、皆は大喜びをしながら「私も写してお兄ちゃん!」とぎゅうぎゅうに詰め寄った。
「印刷、出来たらいいのにな」
そう呟きながらも次々襲ってくる悪魔っ娘達に、紫狼は至福の時間を過ごした。少年達も見事なモンスターっぷりで、お決まりの台詞も上手く言える様になっていた。
蕪ランタンは余り数は作れなかったものの、それでも大小様々一家に一個、玄関に飾る位は作られて、街の通りもそれらしい様相を見せ始めていた。きっと上手くいく。誰もが疑っていない。
そして、とても短かった準備期間があっという間に終了した。後は当日を待つばかりだ。
「今回は本当に有難うございました!」
街の人々は口々に三名の先生にお礼を述べた。
「当日はきっと盛り上が‥‥」
「た、大変です! ちょっと来て下さい!」
「な、何かあったのか!?」
「広場の野菜が‥‥!」
別れの挨拶に来ていた街の人々が一斉に広場へ向って駆け出したので、三人も何事かと後を追った。広場は皆で作ったランタンが数個明々と静かに灯っているだけにも見える。
「ほら、あの木々に掛けられた野菜を見て下さい」
「ん‥‥」
皆がそっと息を飲んで静かに釣られている野菜を見ると、ちらり、ほらりと光ってる野菜があった。
「あの野菜、ランタンにしたっけ‥‥?」
「メイフェよ、きっと」
ほわほわと淡い光が移動しては、野菜をランタンの様に光らせた。ふよふよと移動しては輝き、それ自身がまるで飾りの様にすら見えた。
「きっといいお祭になりますよ」
幻想的な景色を見つめ、人々の顔はどこかしら懐かしむような笑顔になっていた。