れっつ雪合戦!

■ショートシナリオ


担当:とうりゅうらふう

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月12日〜12月17日

リプレイ公開日:2008年12月20日

●オープニング

「全く、近頃の子供達は運動不足であーる!」
「博士、唐突に何を言い出すんですか」
 ここ首都メイディアに構えた小さな住居で博士と呼ばれた若い男性は、同じ部屋にいる小柄な男性助手に食って掛かった。二人の年齢差はそれ程無い様に見える。そして助手は「またか」という顔で溜息をついた。
「この季節は確かに寒い!しかーしである! 我輩の故郷ではこの様に寒い日こそシャツ一枚で外を走り、縄跳びを競い合ったものである!」
「縄‥‥飛び?ですか?」
「うむ、己の身丈の1.5倍程の縄の端をそれぞれの手に持ち、ぴょんぴょんとな。冬場はアレが当ると痛くてだな」
「縄を、自分にぶつける運動なのですか? 博士のいた世界って余程の物好きが多‥‥」
「違ーう! まぁそんなものはどうでもいいのであーる!」
「は、はぁ‥‥」
「雪合戦をしようである!」
「雪合戦‥‥ですか? しかし雪そのものがまだ降っていませんが‥‥」
「何と消極的なのだ若者よ!なければある所にいけばいいのであーる!」
「ええっ!? わざわざ、ですか?」
「自然に任せた挙句、己の都合の悪い日に降ったら困るではないか。我輩の都合の良い日、遊びたい日に雪遊びをする、それで良いではないか」
「は、はぁ、まあそうですけど‥‥。それで、雪山にでも行くんですか?」
「我輩の知り合いの居るとある山間部の村では、もう既に雪合戦シーズンだそうであーる!」
「おお、それは良かったですね。じゃあその村に宿泊して、村外れの広い所で合戦を」
「会場は村の中であーる!」
「ちょ、迷惑!」
「何を言うであるか。村では今深刻な過疎化が進んでおり、若者共の生き生きとした元気な姿が絶滅危惧種である。否、最早既に絶滅したに等しいのである。そこへ我輩からのプレゼントとして、元気な子供達と大きなお友達による『ドキドキ☆雪合戦』ポロリもあ」
「いちぬけ」
「あ、ちょっとどこにいくのであーる!? 己は男子でありながら、ポロリと聞いて胸がときめかぬのであるか!?」
「真冬の着込んでいる状態でそんな事故ありえないですから」
「どんな事故であるか? 何を想像したのであるかな助手よ?」
「ウホッ‥‥!」
 助手は顔を博士から逸らす。ニヤつく博士の顔が心底憎らしい。
「気を取り直してですね、山間部のご老人達に元気な姿を見せよう会っていうのは悪くないと思うんですけどね、それで何故雪合戦なのですか」
「最近やってないからかのう」
「思いっきり自分がやりたいだけじゃないですか」
「考えてもみてくれたまえ。ちょっといい仲の男女がいたとする。男子が女子に雪玉を投げつける。『きゃっ痛ーい、あら、中に手紙が‥‥』」
「どんな恋愛話ですか。それに紙は貴重品ですよ」
「中には『お前が鬼』と書いてある。そこから鬼ごっこに発展」
「ちょ、紙の無駄遣い!」
「最後に鬼だった奴はかまくらを作らねばならい。女子なら兎で免除」
「作るわけですね。可愛らしくていいですね」
「獲れた数でその日の夕飯が決まるのであーる」
「えっ‥‥ちょ‥‥そっちッ!?」
「素敵な話になりそうであーる」
「‥‥」
「仮に、優勝者に『頭脳派雪合戦優勝者』という素敵な称号がついたとしよう。それを見た各地の雪合戦主催者から招待の嵐が」
「いや、ぶっちゃけいらな‥‥」
「あとは余談であるが我輩の知り合いの知り合いの子供とその友達の二人も連れて行こうと思っているのであーる」
「随分と遠いじゃないですか。『近所のガキ』って一言で纏めてもい‥‥」
 ドガッ。
 横柄に構えていた助手は椅子ごと蹴倒されたが、やや乱れた顔をしつつも何事もなかったかを装って又平然と椅子に座りなおした。
「情報は正確にであーる!」
「はぁ、じゃあ話を戻しますけど、雪山に赴いて魔物でも出たらどうするんですか」
「出ないのであーる!」
「まだアトランティスに来て間もない貴方が何を根拠に」
「我輩が出ないといったら出ないのであーる! そもそも我輩のいた世界では『笑う角には福来る、笑えば魔物も人になる』といってな」
「魔物が人に紛れたら怖いじゃないですか」
「楽しそうに笑う事は魔物から身を守る最大の鎧なのであーる! さあ、依頼を出しにいくであるぞ!」
「え、ちょっと博士、本気ですか!?」

‥‥こうしてまた、珍妙な依頼が一つ、ギルドにあがったのであった。

●今回の参加者

 eb1259 マスク・ド・フンドーシ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ec4205 アルトリア・ペンドラゴン(23歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec5159 村雨 紫狼(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec5196 鷹栖 冴子(40歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec5649 レラ(20歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

「いやー、ちょいと王立のゴーレム学園の研修で根を詰めてたんだ。ゴーレム二ストになるのも楽じゃないさね。まあ、明日の英気ってのを養うのもありさね。雪遊びたァ、童心に帰るよ」
 鷹栖冴子(ec5196)、通称おタカはそう言って大きく伸びをした。博士もわざと同じポーズを取る。
「我輩も久々に童心に帰るのであーる」
「博士はいつも童心だと思われます」
「何にせよ思う存分遊ぶといいのであーる!」
「気合なら任せておくと良いのだ!」
 巨漢のマスク・ド・フンドーシ(eb1259)が助手の頭を押さえつける博士の背をばしんと叩き、そのアフロを揺らす。
「久しぶりだな、ガティアにナナたん! お前、あれからナナたん泣かしてねーだろな!?」
「な、泣かしてなんていませんよッ!」
「ガールフレンドに心配かけちまったら、幽霊ちゃんにまた怒られちまうぜ。さあて、黙示録だ何だ言いやがるがさ、目一杯楽しもうぜ!」
「うん!」
「いつもは偉そうにしてる癖に、冒険者さんの前だとすっかり子供ね」
 村雨紫狼(ec5159)と以前の冒険で紫狼達に助けて貰った事のある少年ガティアは幼馴染の少女ナナに茶化され、煩いなぁ〜!と恥ずかしそうに笑う。
「ほぅら目的地が見えてきたのであーる!」
 博士が指し示す先に、純白の雪を被った山が近付きつつあった。
「雪かァ‥‥なんだかおいらの故郷を思い出しちゃうなあ。長老、風邪ひいてないかな〜」
 メイの平野部では真冬でも雪が積もる事は稀だ。久々に見る雪にレラ(ec5649)はそっと故郷へ思いを馳せる。
「レラたんは雪国育ちなんだっけ」
「うん。楽しく雪遊びをする事なら任せてよ!」
「はは、それは頼もしいねェ」
 徐々に雪深くなっていく景色に、皆のテンションは徐々に上がっていった。


 見渡す限りの銀世界、ひっそり埋まる集落に一行が到着すると、老人達が集まり「寒かったでしょう、中でスープを用意してありますゆえ先ずはお飲みんさい」と、やや大きな小屋である集会所兼外来者宿泊所へ案内した。老人達は入れ替わり立ち代り「ようこそきなすった」と孫を見る様な目つきで喜んだ。そのうち一人の老婆は薄着のアルトリアと褌一丁のマスクへそっと毛布を掛けた。ずっと暖炉で暖めてあったのか毛布自体も暖かかった。


 翌朝、村は眩しい程の晴天に恵まれた。
「じゃ、皆でカマクラ作ろーぜ!」
「カマクラかい。また童心に帰りそうなシロモノさね。それならあたいも一肌脱がせてもらうよ! あたいの本職は大工、いつもは木が相手だけど今度は雪ってのもオツじゃないかい」
「カマクーラとは確か雪で作るジャパンの簡易テントであったかな?」
 マスクが三人の顔を見る。
「そそ。先ず雪山を固めて、それから内側を刳り貫くんだ。でもキミが入れるかまくらとなると、相当大きいのを作らなきゃだねぇ」
「うむ、かなりキバらんと無理だのう。ふぉおぉぉ‥‥マッソォ!」
 マスクは唐突にオーラエリベイションで気合をフルチャージした。
「強い子風の子元気な子、ジャイアント族のパゥワーをとくと見るが良いのだ! アフロに棲んでるピーヨちゃんもがんばるぞ! 何もせんがな、HAHAHA☆」
 マスクは村で借りてきた農具を使い、物凄い勢いで雪山を作り始めた。負けじとレラとおタカが加わる。
「出来上がったら中に石をぐるっと組んで竈も作ろうよ! 鍋であったかい汁を作ると美味しいんだ〜! あ、でも雪が積もってるから石集めにくいかも?」
「口の大きな壷に火のついた炭を入れりゃ簡易竈もできるさね。その上で料理するなりしてもいいさ」
「それ、楽でいいね! おいら、江戸でお餅を買っといたんだ。鍋に入れてもいいし、火に炙っても美味いよ! 味噌とか醤油とかも買っときゃよかったかな〜」
「へぇ〜!餅だなんて懐かしいじゃん!」
 餅と聞いて紫狼もテンションをあげる。アルトリア・ペンドラゴン(ec4205)は黙々と手で雪を積み、ガティアとナナは、雪を運びつつ飛び交う聞きなれない単語をひたすら目で追った。博士と助手は、気付けばどこにもいない。
「オイラ、京都行くつもりで入った月道が異世界行きだったんだ。お陰でお餅も持ったまま。こっちの世界の人にお餅たべさせたのって、おいらが初めてだったりしてね」
「あはは。だとしたらあんたは餅の伝道師さね」
「そりゃかっけーな! ああそれと、大工姐さん、ソリとかスキーセットを木ででっち上げられる?」
「木材さえあればストックも作れるさね」
「よっしゃ!」

 かまくら作りに疲れた頃、村人に木材用の工具を借りたおタカは休憩がてらに手早くソリやスキーを作り、紫狼がスキー板の裏にアロマキャンドルを塗りこんだ。
 完成した試作品をはいて紫狼は何度も雪斜面を滑った。もう少しキャンドルを塗った方がいい、もう少し削った方がいいだとか、二人は何度も試行錯誤を繰り返し、やりがいと達成感を感じる事が出来た。
 ソリの滑り心地はレラが確かめ、ガティアやナナを乗せて引いてみたり、三人で各々ソリに乗って競争してみた。青白く輝く雪原の風を切って滑ると、日々の嫌な事を忘れてとても清々しい気分になった。
 村人達はふらり立ち寄っては手伝い、気付けば姿を消し、楽しそうに雪と戯れる一行を優しく見守っていた。

「ああそれと、雪合戦用のフィールドでも作っておくかい」
 おタカは枝を使って適度な狭さの枠線と、防御壁代わりの雪山を作る様目印をつけた。
「あたいの国じゃあ、雪合戦の全国大会もあるらしいんだけど、限られた範囲で攻防を繰り広げるんだ。互いの陣地に旗を立てて、これを雪玉で狙い打つってのは、ただ投げあうより緊張感あるだろ? 倒したら勝ち。攻撃に偏れば防御が疎かになる。けど、守ってばかりじゃ旗は倒せない。確かそんなだった気がするんだ」
「へえー! 面白そうだね!」
 ガティアとナナは、聞いた事のないルールにどきどきを覚えた。

 日が暮れる頃には、マスクの活躍とアルトリアの地道な積み重ねと、レラの指導もあってとても大きなかまくらが完成した。
 翌日には小さなかまくらが至る所に作られ、何もなかった雪原は小さな集落が誕生したかの如く賑やかになった。


 そして愈々雪合戦当日。連夜降る雪のお陰で雪はふかふか、空は快晴。絶好の雪合戦日和だった。
「それでは、チーム分けの発表であーる!」
「男女差とかも考慮しとくれよ」
 博士はおタカから目を逸らしながら高らかに叫ぶ。
「ひがぁしチーム、おタカ、紫狼、アルトリア、助手! 今が熟れ時チームぅ!」
 東側に固まっている村人達がわーと盛り上がる。
「西チぃーム! アフロ、レラ、ガティア、ナナ! かるがもチームであーる!」
 西側も負けじと歓声を送る。
「ええー、オイラ達雛!?」
「何か、思いっきり偏ってね?」
「平均身長は、きっと似たような物であーる! 計算はしてないがね」
「ていうか博士は? 博士が一番雪合戦したいんじゃなかったの?」」
「我輩は審判である! 戦いで追い詰められ、必死に戦うキミらを観察するのが頗る楽しいのである! ウフフフフ」
「なんて趣味だよ」
「さあさあ始めるであるぞ!」
「そうさね。日頃の難しいことは忘れて、ぱーっと雪遊びしようさね!」
「それでは! 開始であーる!」
 博士がピュイっと指笛を吹いた。それと同時に八人の選手達は一斉に壁に隠れ、そこから積極的に相手陣地へ向けて雪玉を投げ込んだ。
 粉雪の為、空中分解してしまう雪玉も多い。
 痺れを切らしたマスクがばばっと壁から飛び出し、フィールドのど真ん中で大股に立ち、右腕を斜め上に勢い良く振り上げた。手に持っていた雪がキラキラと空中を舞う。
「んんぶるわああッ! 我輩こそイギリスの愛と正義を体現する真実の人! その名も!」
 右手を大きく左上に上げ直す。
「マスク」
 ビシッ!
「ド」
 バシッ!
「フンドォォォシッ」
 メメタァ!
 一台詞ごとに決めるポーズに目を奪われ、皆の手が止まる。彼はこの雪原でも褌一丁だ。
「その格好寒くねーのかマスクマン!?」
「HAHAHA☆皆も我輩を見習ってナイスなマッスルになれば寒さもモーマンターイ! なのだ!我輩が祖国イギリスでは、みんな寒中だろうとマッチョでビルダーなのだぞ」
「え、イギリスってそれが普通なのかよ!? ‥‥ポロリ要員ならさー、ちっちゃい女の子の褌の方がよかったぜ‥‥ふーかたん用の妖精用褌でも見繕うかな」
 ぼそっと呟く紫狼の台詞を聞き、博士の目がキラリと光る。
「ポロリをしたら、五分間の退場であーる!」
 ええっ!? とマスクが博士の方を見る。
「そんな話聞いてないであるぞ! その上博士殿と何気にキャラが被ってるのが気になるのだが!」
「我輩は研究者! キミはアフロ蝶。どこも被ってないのであーる!」
「蝶!? 蝶って言ったら俺のふーかたんだろ!?」
「その服は‥‥」
 おタカは眉間に皺を寄せながら紫狼がアピールする妖精を見た。
「すごく‥‥スク水です。ってぃやぁふぅ! 俺もようやくペット持ちだっぜ! これからの冒険も、ふーかたんの太腿やつるぺたぼでーに癒されながら戦うんだぜ!」
「そんな寒そうな格好じゃ、風邪ひいちまうんじゃないのかい?」
 おタカが言うのとほぼ同時に、フィールドの外から紫狼に向けて一足の毛糸の靴下が投げ込まれた。外野でお婆ちゃんが叫んでいる。
「そぅれ編みたてだかんね、女の子さ入れてやってけろ!」
 と、全身で語りかけてくる。
 おタカが毛糸の靴下を拾うと、ふーかはすぽっと靴下に収まり、ぬくぬくと顔だけを覗かせた。
「防寒についても保護者がきちんと面倒を見とくれよ」
 おタカは靴下ごとふーかを紫狼に渡した。
「そうだよな‥‥女の子をペットだの何だの言うのはアレだし俺、保護者だよな‥‥」
「レディには優しく接してやらんとだのう」
「うん、ペット言うの自重するわ」
「んでは! 再開するかの!」
「了解っ、いっくよー! おいら、ちょっとは雪に慣れてるしすばしっこいから、甘く見てると痛い目見るぜ〜!」
 再び雪玉が飛び交い始めた。レラは雪玉でホイホイお手玉を披露し、フェイントをかけつつ相手に投げつける。更に持ち前の素早さを生かしてあちこちに姿を現しては相手を翻弄する。
 そんな中アルトリアが一人黙々と真剣な表情で正確に雪玉を敵地へ投げ込み続けている。その目はかなり真剣だ。それに気付いたマスクが徹底してその雪玉をその胸に受け、子供達を守った。あたった部分がほんのり赤くなり、みている方が寒い。
「紳士は婦女子の盾であるぞ。ミンネ、というかまあ、騎士道持ち出さんでも常識であるな! あ、中に石入れるの反則であるぞ!」
「いわれなくったって判ってるよマスクマン! ってこれ何回当たっていいんだ?」
「婦女子を守る為ならば、我輩は何度でも蘇るのだぁーッ! ふふふ、んでは我輩のターン! ふおおおおおおッ! 雪原に映える我がナイスマッソォォォッ!! に酔いしれるがよいのだーッ!!」
 シャキーン! という音が聞こえそうなナイスポーズでマスクがその巨漢をアピールした。純白に輝く『漢の褌』が光り輝く雪原にも負けない程の存在感を周囲に撒き散らし、皆の視線と集中力を奪う。更にほんわり春の香りが漂った気がした。
「ギンギラギンにさりげない、我輩のYA☆RI☆KA☆TAでずっと我輩のター‥‥あいたァッ!」
 その効果、僅か一秒。
「あ、ごめん」
 レラの雪玉がマスクの首筋にヒットした。それを合図に次々と雪玉がマスクへ投げつけられる。前から後ろから。まさに四面楚歌状態だ。
「な、何故我輩だけが集中攻撃されるのだー!」
「だってキミでかいんだもん! 狙って無くても当たっちゃうよ!」
 ピィー!
 そこに博士の指笛の音が飛ぶ。反則を取られたのか? と皆が一斉に博士を見る。
「的、変更のお知らせであーる! 新しい的、アフロ蝶を真っ先に倒した者が勝者であーる!」
「よっしゃー!」
「何故我輩がぁー!?」
 フィールドは一気に混沌と化した。外野からも容赦なく雪玉が飛び交い、その空間は弾ける雪で真っ白に埋め尽くされた。どこへいっても逃げ場はない。予想外な方向へ飛び交う流れ弾の雨が全員に降り注ぐ。アフロ目掛けた玉入れ合戦にも見える。
 マスクは相変わらず流れ弾から三人の子供を守ろうと必死にその身を盾にしたのだが、守った相手からその体中に雪を塗りつけられる始末。とりあえず一旦間合いを確保しようと巨大雪玉を抱え上げるも、レラの華麗なパンチで雪玉は崩壊し、マスク自身が巨大な雪達磨になった。
 気付けば、いつも真面目な顔のアルトリアにも笑みが浮かんでいた。その場にいた誰もが童心に帰り、雪合戦は既に試合ではなくなっていた。

 体力が尽きてきた頃、皆は巨大かまくらで休憩を取る事にした。中で土鍋がぐつぐつと煮え、野菜や肉、そして狐色に焼けた餅がいい香りを放っていた。
 気温が下がらない様に紫狼はプラウリメーのロウソクに火を灯し、粉ジュースを水で溶かすと、三人の子供達に振舞った。
「いただきまーす! うわー、何だこれ!」
「さっきまで単なる粉だったのに‥‥美味しい!」
 ガティアとナナが驚いている最中、博士が一人こっそり鍋をつつこうとし、マスクはその手を叩く。
 おタカが皆のお椀に鍋を分け、全員分揃った所で「お疲れ様ーッ!」と掲げて皆で食べ始めた。
「かーっ! 久々の餅が胃に沁みるぜ!」
「ホラホラ、こうして小さくしてから食べるんだよ」
 おタカがアルトリアやガティアとナナに餅の食べ方見本を見せる。
「うわー、伸びるよこれ! 凄ぇ!」
 餅を初めて見たガティアは大騒ぎ。
「こうだよこう!」
 レラも餅を伸ばしつつ、上手に食べてみせた。
 独特の味に身も心も温まり、沢山あった鍋も、あっという間に終わろうとしていた。

「あ、そうだ! 忘れてた! 誰が一番大きな雪達磨作れるか競争しようよ! 目鼻用の練炭、かまくら用の火種にも貰ってるだろうし、それでやろうよ」
「いいねぇ! 受けて立つぜ!」
「では我輩も」
 あちあち、この炭はまだまだ熱いであるぞ! などと言いながら、マスクも立ち上がる。
「ちょ。それ絶対勝負にならないって!」
「漢なら受けて立つべきであるぞ! マッソオォオォ」
 ポーズいいから!
 その日、雪を照らす橙色の光は消える事なく、いつまでもいつまでも輝いていた。