ぷにぷに床の蒼い石

■ショートシナリオ&プロモート


担当:とうりゅうらふう

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月11日〜06月18日

リプレイ公開日:2008年06月19日

●オープニング

「鍛冶屋だってぇのに、作る方はてんで駄目でさ。その代わりと言っちゃ何だが磨く方には自信がある」
 冒険者ギルドに設置されたうちの一つの卓で、職人気質の男が大げさな身振り手振りで話している。

 ここは首都から徒歩で七日程離れた内陸にある小さな町。冒険者が首都から離れた場所へ行き交う際にちょっと宿を利用する程度の、特にこれといった特徴もない町だ。
 しかし人が行き交うお陰で噂話は豊富にあった。そのうち一つの噂話に鍛冶屋の男は食いついた。どうやら鍛冶屋ギルドでもその噂話で持ちきりだったらしい。

「自分で言うのも何だが、俺は刃物を磨く腕なら近隣に名が知れる程の腕前だと自負してる。だがいい仕事っていうのは腕だけじゃ駄目だ。相棒たる良い道具ってもんがどうしても必要だ。そこで、誰か冒険者に、ちょっくら噂の研ぎ石を取って来て欲しい訳だ」
 同じ卓に座る冒険者が、ふむふむと話を聞いている。

彼の依頼はこうだ。
・メイディアから片道二日ちょっとかかる山の奥にある『良い研ぎ石』と噂の石を取って来て欲しい
・その場所は過去に崖崩れがあったらしく、地層が剥きだしになっている
・その地層のうちの一本が、噂の蒼い石の層
・場所については手書き地図がある
・石の現物を持っていない為、見本を渡す事も見せる事も出来ない
・目的の石は薄い青緑色っぽく、触ると手に粉が着きそうな雰囲気のざらりとした石であるらしい

「ぶっちゃけ俺自身が同行したい所なんだが、どうもその採取場所、足元がぷにぷにしているらしいんだ。詳細は不明だが、とにかくぷにぷにと‥‥この研ぎ石の話には必ず何故かぷにぷにの話題がついてくるんだ‥‥。万が一そいつがモンスターだった場合には俺なんざひとたまりもねぇんでな、ここはプロの冒険者に頼もうって思った次第だ」
 そこまで一気にまくし立てると、かれはふうと一息ついて席に座り、肘を突いた手で額を撫でた。

「問題は、砥石の種類なんざ普通の人には解らなくて当然って事だ。目的の地層の上下にも、似た様な色の層があるらしくてな‥‥。だから間違えても当然だと思っている」
 そう言うと彼はがさごそと腰の鞄から小さな麻袋を取り出して、テーブルの上へ置いた。
「決して多いとは言えない額だがな、一般的な報酬料はここに用意してある。砥石は消耗品だ。だから全員が二個ずつ、そして各々が『コレだ!』と思った石を持ち帰ってくれればいい。一個でも目的の石を持ち帰ってくれた奴には、報酬を上乗せするつもりだ。もし多少外れていたとしても、研ぎ石にもならねぇ程の石で無い限りは、依頼を果たしてくれたとするからさ、どうか採取してきてくれないだろうか?」
 彼は真剣な面持ちで冒険者達の目を見つめた‥‥

●今回の参加者

 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 eb3114 忌野 貞子(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec2412 マリア・タクーヌス(30歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・メイの国)
 ec4666 水無月 茜(25歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●いざ出発
「美芳野さん、忌野さん。お久し振りですね!」
「わわわっ! 人数が集まらなくてダメかな〜って思ってました。でもちゃんと揃ってたんですね。油断大敵ですね。茜さん、貞子さん、お久し振りです〜☆ 茜さん、知らせてくれてありがとうです♪ 」
 街外れの集合場所に集まった地球の演歌歌手水無月茜(ec4666)と白髪の少女美芳野ひなた(ea1856)は両手で握手をしながら早朝から元気よく挨拶を交わした。
「‥‥依頼、流れるかと思った、わ‥‥不意打ち、ね。 水無月さん‥‥さんきゅう、よ」
 快晴に似合わぬテンションの低さで黒髪の忌野貞子(eb3114)がいつのまにかその輪に加わる。微妙に離れた位置で集合を待っていた鉱物学者マリア・タクーヌス(ec2412)と、剣士風のレインフォルス・フォルナード(ea7641)も軽く会釈をしながら近寄り、皆が口々に宜しくお願いします、と言葉を交わした。
「石に詳しい‥‥人が来て、助かった‥‥わね。それに腕の立つ人も‥‥ウフフ。じゃ、土壇場で‥‥揃った事だし‥‥、一緒に逝きましょ、うふ」
 宜しくお願いします!という元気な声が澄んだ青空に響いた。

●森と石とぷにぷにと
 目的の森迄距離はあったが特に何の問題も発生せず順調に辿り着いた。モンスターさえ出ないなら、ちょっとした観光旅行だったと言っても過言ではない。
 森は温暖でありながら時折ひんやりとした風が辺りをくすぐっている。その都度葉はさわさわと音を立て、小さな雨を辺りに降らせた。崖にも幹にも地面にも、所構わず蔦が這い、辺り一面緑で覆い尽くされている。歩道らしき道はなく、獣道程度の細い空間を滑らないよう気をつけながら奥へと進む。
「はあはあ‥‥アトランティスやジ・アースに比べれば、地球は進んでるけど、体力は‥‥敵わない‥‥なあ。登山道もないなんて‥‥」
 最初はのうちは軽快に登れた段差にも、茜は段々と着いて来れなくなってなってきている。脇にいたレインフォルスがそれを見て「ははっ」と軽く笑い、要所要所で小柄な茜の手助けをした。長身で逞しい体躯の持ち主である彼にとって、この森はさほど険しくはない。彼は体力を消耗してすっかり無口になってしまっているマリアにも気を使い、一行を森の奥へと案内した。
 コーンコーンコーン。
 唐突に、何かを叩く音が森中に響き渡った。音源はとても近い。しかも一行の最後尾付近。皆が一斉に音源へ視線を送ると、崖へ向かって束ねられた草を 杭で打ちつける貞子の姿があった。
「うふふ‥‥この崖は・・‥じめじめとしていてまるで‥‥」
「はわわっ! 何やってるですか貞子さ〜ん!」
「うふふ、冗談よゥ」
 はっと我に返った貞子は杭を引き抜き、開いた間を詰めた。レインフォルスとマリアが一瞬何かを言いかけた様子だったが、2人はそれを飲み込み踵を返した。一瞬気まずくなった周囲を元気付けなくては! とひなたは焦った。
「あ、茜さん、チキュウの歌、歌ってください!」
「‥‥歌、かあ」
 茜は急に振られた要望に応えようと、歌の題材を辺りに求めた。視界に入るのは青々と茂る木々、どこからともなく聞こえる川のせせらぎ。昔どこかで見た様な美しい景色。
「地球に、お家に帰れるのかなぁ‥‥。それとも‥‥」
 右手に聳(そび)える雄大な崖。この壁を壊したらどこかへ繋がったりするのだろうか。そんな風に思いを巡らせていると、しんみりとした優しげなメロディが溢れ出てきた。小鳥の囀りが伴奏に聞こえ、段々自然と一体になっている感覚に囚われた。茜は調子を取り戻し、歌はいつのまにかコブシの聞いた元気のいいものに変わっていった。しかし歌いながら登山をする事は体力を使う。
「こんな事なら、地球で山登りとかしておけばよかったなぁ。地方営業で体力あると思ってましたが‥‥キツイ。依頼が終わったら筋肉痛になっちゃいそう」
 茜の台詞にマリアがふふっと笑う。弱音の一つも吐かないが、細身の彼女の方が消耗は激しそうに見えた。

 獣道が唐突に終わり、大きな葉を広げる蔓性植物のせいで先の地表が全く見えなくなった。
「どうやらついた様だ」
 レインフォルスが地図を確認した上、右前方の高い崖を指差した。崖には見事な地層が現れており、赤や黒や茶色に混じって肌色や白、そして青緑色の地層が幾重にも入っている。急に疲れが吹き飛んだかの様に、茜とひなたが辺りを調べ始めた。
「じゃあ、何だかよく分からないぷにぷに? えーと、そのぷにぷに? に気をつけていきましょう」
 ひなたの言葉にマリアが頷く。
「ああそれにしても‥‥太陽が‥‥高い‥‥。体が灰になる‥‥ふううううう〜」
「はわわっ! 大丈夫ですか貞子さ〜ん!!」
「ああ、べつに病気じゃない、のよ。日差しが‥‥苦手な、だけ。他に理由は‥‥うっふふふふゥ〜。さあ、仕事しましょ」
 そんなひなたと貞子のやりとりに、苦笑をみせながらも、マリアは、
「砥石をとりに行く前に、ぷにぷにの状態を調べたい」
 と提案した。
「そうですね。まずは生き物かどうか、確認しましょう」
 茜もマリアに賛同した。マリアは頷き、レピテーションで体を浮かせると崖の前の床をくまなく見渡した。上から見る限りでは、問題の場所は蔓性植物が覆っている様子で、床表面が全く視界に入らない。この植物を表現するならば「ぷにぷに」ではなく「がさがさ」「ばさばさ」が妥当だろう。彼女は続けてデュアラブルセンサーを唱える。しかし、対象物は反応しない。寧ろ調べたい物を突き抜けて、その下にある床が普通の地面である事が見て取れる。
「うまく調べられないという事は、建造物ではない。つまり、動植物であるのだろう」
「建造物じゃないのなら‥‥もしかして‥‥その周辺に‥‥棲み付いた魔物の腹‥‥かも。 それもすごく巨大で‥‥巨大な蜥蜴とか巨大芋虫みたいな」
 時折ウフフと笑いながら貞子は様々な推測を投げかける。
「あるいは‥‥スライムの様な不定形生命‥‥も、捨てがたいわねェ。石の良し悪しは、分からない‥‥けど、大概の魔物はモンスター知識で対応可能、よ」
 既に視点は定まっておらず、心なしか嬉しそうだ。
 レインフォルスは3人の前に立ちはだかる形で茂みに向き合った。心配ない、俺が前衛を担当するという事を、それとなく体で示している様でもある。マリアは暫し考えた後、床に向かって「どうか我々を通らせてはくれぬか?」と呼びかけてみた。全員がその経緯を注視しているが、特に何の変化も無い様に見える。が。
「ふむ。答えがあったようだ」
 レインフォルスは刀剣をすらりと抜き放った。素晴らしい視力を持つ彼にだけは、その反応がどうやら見て取れたらしい。続いてマリアがその異変に気がついた。ややもして、がさ、ごそと何かが葉の下が鳴り始めた。それは前もって知らされていなければ見落としたかもしれない程の僅かな変動。
「大きなものだったら‥‥ゾっとしちゃうなぁ。人数も少ないですし、無理は禁物ですね」
「ふむ」
 レインフォルスの背後で茜が構える。蔦の隙間からヒュッと何かが飛び出した。レインフォルスが反射的に剣で打ち返し、その物体はべちっと床へへばりつく。
「クレイジェルだ」
 マリアはそう言いながら床へ降り、素早くローリングラビリティを唱えた。マリアが淡い茶色の光に包まれ、間髪入れずに蔦の葉が立ち、1m程もあるクレイジェル3体が9m程打ちあがり、そして落下した。
「大きい‥‥!」
 茜が感想を素直に述べる。クレイジェルがぼとぼとと振ってきた所をレインフォルスが斬り刻み、更に貞子がアイスコフィンを唱え、彼女が淡い青の光に包まれると同時に1体のクレイジェルが凍りついた。一瞬で終わった戦闘に、茜は感服した。
「これで大丈夫だろう」
「レインフォルスさん、凄く強いんですね!」
「何、戦いに慣れているだけだ」
 偉ぶる素振りもなく彼はそう告げると、他にモンスターが潜んでいないか辺りを確認して回る。だが、もう敵はいなさげだ。
「確かにジェルは、ぷにぷにねェ? 踏んだ人を考えると‥‥ウフフ」
 貞子がまた瞑想の中に入っている。
「さて、床の件は解決した事であるし、私は鉱物の知識を活かして、しっかりとした砥石を採取したいと考えている」
 恐らくあの辺の地層だろう、とマリアはいくつかの地層を指差した。地上から届く部分は少なく、大部分が地上から3m位の場所にあった。
「あの、この蔦ってロープ代わりになりませんかーっ!?」
 茜が壁に張り付いている頑丈そうな蔦をぐいぐいと引っ張った。蔦を引っ張る事で木が微かに揺れ、隙間からちらちらと光が漏れてくる。
「ああ‥‥日が高い、わ‥‥呪うわ。石に詳しいお姉さんが仲間に居るから‥‥鑑定してもらえそう‥‥ね」
「そうですね。マリアさんに指示を仰いで、なるたけ正確なものを採取しましょう」
 貞子と茜が頷く。
「半人前どころか三分の一人前ですが、ともかく登るのはちょっとだけ得意です! 私登るので、貞子さん茜さん、受け渡しお願いします!」
 ひなたは蔦を辿り、ひょいひょいと木に登ると、マリアの指す地層付近へ細心の注意を払いながら近寄った。かなり白に近い蒼い地層。どこ迄が該当の地層か判り難い状態だったので、彼女はしきりにマリアへ確認しながら杭を打ち立てた。杭を打つ事でひびが走り、面白い様に石が取れる。それを茜と貞子が受け取りマリアに確認する、という流れ作業を繰り返した。レインフォルスは崖から突き出した岩の上に立ち、その長身を活かして別の角度から石を採取してはマリアへ確認をとっている。ひなたは合間合間に自身がこれだと思う石を採取しのだが、それでも半数位は違う物であると指摘を受けた。鑑定しているうちにこの石に興味が沸いたマリアは、記念にと、荷物にもならない程小さな破片をポーチへ入れた。
「うーん、お野菜とかの良し悪しならすぐ分かるのになぁ。 石なんてどれも同じにみえるのに‥‥マリアさんってスゴイ!」
 ひなたは素直に感想を述べた。その直後。マリアが返事をする間もなくズルッズルッという嫌な音を全員が聞いた。
「新手が来たようだ」
 レインフォルスは採掘を終え、剣の柄に手を当てた。より奥の森から何か物陰が近づいている。それも相当大きい。
「ラージウォームだな。一般的な寸法より小さい様だが、この足場でこれだけの巨体を相手するのは不利だ」
 マリアが分析する。
「ふむ。まあ、倒せぬ程でもないが」
「目的の石は採取してある。避けられる戦いなら避けたい」
「では俺が最後尾を努めよう」
「すまぬ。宜しく頼む」
 レインフォルスを最後尾に、5人は足早にその場を離れる。と、唐突に何もない所でひなたが転倒した。レインフォルスは視線をラージウォームに向けたまま、片手でひなたを立ち上がらせる。ラージウォームとの距離が一気に縮まった。レインフォルスがひなたをかばう様に立ち、剣を抜いた。
「よーしいっけえ☆ ごお、ちゃっぴい♪ 」
 ひなたからどろんと煙が立ち昇り、巨大な蛙がラージウォームの間へ姿を現す。
「短時間しか持ちませんが、闇雲に暴れさせれば足止めにはなりますよね?」
「ふむ、そうだな」
 こうして彼らは一目散に山を下った。

●帰還
「お、お、お! こりゃ凄いな! いやぁマジで感謝するよ!」
 採取した石を見せた途端、依頼主の高揚っぷりは凄いものだった。
「何ね、石の事はやっぱり専門に扱ってる奴じゃなきゃ解らないのも無理はない訳で。着いていくのを断念した以上一欠片でも目的の石があればいいと思っていたのだが‥‥半分以上が目的の石とは! これは驚いたぜ!」
 これも、これも、こっちもだ! と、置かれた十個の塊を代わる代わる手にとって彼はとても嬉しそうな顔をした。
 レインフォルスが借りていた道具類を皆から集め、一つに纏めて鍛治師へ返却する。
「それでは、我々はそろそろお暇させて頂こうと思うのだが」
「おおっと、ちょっとまってくれよ!」
 切り出したマリアを鍛治師は制し、慌てた様にポケットから財布を取り出した。
「俺のへそくりだ」
 そういいながら彼は小銭を出すと、各々用にと用意されている報酬用の麻袋にちゃりんちゃりんと小銭を追加した。そして、唐突にレインフォルスの腕を掴む。
「兄さん、あんた前衛担当したんだろ? その綺麗な刀剣が一仕事してきたぜぇ〜って顔をしてるぜ。良かったら研がせてくれないか? 他の皆もだ。何か刃物があればお礼として研がせて貰うぜ。流石に今回採取して貰って来た未知の石を試しもせず使う訳にはいかねぇんで俺の愛用の奴でやらしてもらうがな! よかったら今日は皆うちに泊まってくれ!」

 それから暫くの間彼が、非常に生き生きとした日々を送った事は、言うまでもない。