二階の親父は55歳

■ショートシナリオ&プロモート


担当:とうりゅうらふう

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 98 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月01日〜07月04日

リプレイ公開日:2008年07月06日

●オープニング

「大変だ! 食堂の親父の家に盗賊団が立て籠もりやがった!」
 冒険者ギルドに一人の青年が転がり込んだ。彼は二十代前半位で、ごく普通の町民に見える。
 彼の言う食堂は五十代前後の男性中心に人気のある食堂だ。ちょっとしたゲームを楽しんだり、謎かけをしあったり、そして時には勉強、時には議論。毎晩毎晩多人数で和気藹々と盛り上がる、親父達の憩いの場だった。その主人である親父さんが捕まっているという。
「うちの親父もお世話になってるしさ、食堂の親父さんは家族みたいなもんなんだよ! 腕の立つ誰か、何とか助けてくれないかな‥‥」
 頼む! この通りだっ! という風に彼はギルドのスタッフを拝む。
 そしてその直後、やや大柄な五十代前後の男性がギルドへ飛びこむなり「食堂の親父を助けてくれぇ!」と叫んだ。
 その後も続々と町の人が集まり、皆口々に食堂の親父さんを助けてやってくれと言い、冒険者を募る為の資金を集め始めた。十四、五名位は集まっている。
「どなたか詳細が解る方はいらっしゃいますか?」
 ギルドのスタッフが彼らに声を掛けると、一番最初に駆け込んだ青年が自分の見た状況を説明し始めた。

 夕刻、そろそろ陽が陰り始めるという頃、食堂の親父さんは料理の仕込みの仕上げにかかっていた。そこへどやどやと盗賊風の一団が入り込み、親父さんと口論をしていたという。
「お前には俺達の仲間を解放させる為の人質になって貰う! と叫んでいました。私はその後すぐここへ飛び込んだのでその後の事は‥‥」
「あ、僕多分それよりちょっと後に食堂の前を通りましたよ」
 まだ十代と思われる青年が、挙手しながらギルドスタッフの側へ割り込んでくる。
「僕が通った時親父さんは二階の一番東側の部屋に居ました」
「どうして親父さんは二階だと判ったのですか?」
「二階の窓が半分開いていて、親父さんの声が聞こえたんです。誰かと喧嘩している様でした」
 ギルドのスタッフは、依頼書を作成する為に彼らの言葉を一字一句記録する。
「相手はどんな人でしたか?」
「見えませんでした。ええとでも、いわゆる盗賊風‥‥小汚い格好で、皆それぞれ武器を手元に置いている感じで、近づいたらそれこそ殺されそうな気がする様な相手が一階を占拠していて、すぐに異変に気付いたんで、多分二階も同じ様な輩がいたんだと思います。何せ表通りから見ただけですからね、二階は天井ばかりで人はみえませんでした。あ、そういえば相手に投げ付け損なったのか、板きれが飛んできました」
 動揺しててすっかり忘れていましたと言いながら、青年は鞄の中から手垢で変色している表札に似た板を取り出した。
 どれどれ‥‥と周囲に居た人達が集まってくる。
「ああこれ、ほらあれだ、就寝中だから起こすなとか、部屋空いてますだとかさ、扉に掛けておく札だよ」
「ああそうだ、どこかで見た事あると思った」
「間違いない、親父さんとこのだ」
 そうだそうだと言いながら、皆がそれを回している。
「何だろうな、これ、親父さんの字じゃないか?」
「ん?」
 一人がその札の端に、小さな文が一行書かれている事に気がついた。

 箱のりのるン私辿密あジにへ秘がン下屋く段ニの部着階

 皆がまた札を回し、これはどういう意味かと小首を傾げる。
「親父さんはこれを投げながら何か叫んでいましたか?」
「僕から親父さん見えなかったんで僕に向けてじゃなかったと思いますが、俺は55、55歳だー!って何度も何度も叫んでいました。どうしてそういう喧嘩してたんだかはさっぱり‥‥。相手の声は聞こえませんでした」
 青年はもっと思い出そうとして首をかしげ、斜め下を見た。ギルドのスタッフは青年を見つめ、彼らの周囲の人々はこの一文を口の中で何度も何度も反芻している。
「箱のりのるん‥‥箱に乗せられてるのかな?」
「それよりこれ二段って読めないか?」
「いやこのニは数字じゃないようだ」
「そういやおやっさん、先日こういう暗号遊びしてたよなぁ‥‥」
「何かメッセージなのだろうが‥‥」
 人々は机上の札を中心に囲み、うーんと唸った。
「取り敢えず、盗賊の声明を待とう。それまでにこの板の暗号が解けるといいんだが‥‥」

 翌朝、盗賊団の要望が書いてある羊皮紙が、食堂の入口に張られていた。
 以前民家へ盗みに入り、投獄された仲間と食堂の親父さんを交換するという内容だ。期限は三日後の昼となっている。

 冒険者ギルドでは、役人も集まっての大会議が開かれた。盗賊に気付かれずに食堂の親父さんを逃がし、なおかつ盗賊を捕らえる事が出来ればいいのだが、それが出来ない場合は親父さんの安全を最優先とし、捕虜と交換する事も許可するとの結論に至った。

 親父さんは元々自宅の一階を食堂として使用し、二階を住居として使用していたのだが、大層繁盛した為東側の土地を新たに買い、そちらを自宅兼食料庫として使用し、食堂の二階は簡易宿泊施設に変えて使っていたという。
「親父さん、防音の為に二重窓ならぬ二重壁にしたと自慢げに話してたっけな。だから建物自体はくっついているのに、食堂の音は自宅へ響かないとか」
「そうそう、でも食堂側の食料庫が小さくて、持って二日分位しか食料置けないからってしょっちゅう自宅側の食料庫と往復しててさ。扉つくりゃよかったよなんて愚痴ってたよな」
 あははと楽しげに笑っては、早く助かるといいよなと俯き、辺りが静まり返った。何かいい案はないか。彼らは一刻も早く冒険者が名乗り出てくれる事をひたすら祈っていた。

●今回の参加者

 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3114 忌野 貞子(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec4427 土御門 焔(38歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec4666 水無月 茜(25歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec5159 村雨 紫狼(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

「‥‥ま、簡単なアナグラム、組み換え言葉‥‥よ」
 机上の板を突付きながら忌野貞子(eb3114)が呟く。
「ヒントは‥‥親父が口走っていた‥‥55歳‥‥よ。‥‥注目するのは‥‥この数字の並びと‥‥数字そのもの。‥‥右から読んでも、左から読んでも‥‥同じ。つまり‥‥右からも‥‥読めって事。でもそれだけじゃ‥‥ダメ。もう一つの‥‥着目点‥‥5、よ。つまり‥‥5文字飛ばしで読めって、事‥‥」
 枝の様に細い指で文字を右から五飛ばしでなぞって見せた。
「階段がある、着く秘密の、部屋へ辿り、の下に私の、ニンジン箱‥‥つまり、 ニンジン箱の下に私の部屋へ辿り着く秘密の階段がある‥‥とまあ‥‥こんな感じ、よ」
「凄いです、貞子さん!ひなた、暗号なんてちっとも分かんなかったです〜」
 隣で木片を覗き込んでいた美芳野ひなた(ea1856)が感嘆の声を上げた。
「謎の暗号解読なんて、何だか探偵小説みたいですね!そう言えば、小学生の頃は図書館でよく読んだなぁ」
 正面に居た水無月茜(ec4666)が目を輝かせている。その横でため息交じりの村雨紫狼(ec5159)が「一番簡単そうな仕事でこれなんだから、ったく面倒な世界だぜ」と言いながら頭を掻き、土御門焔(ec4427)は親父さんの救出方法について何か良い方法は無いかと戦略を練っていた。
「自宅一階の食料庫‥‥そこのニンジン箱、よーく探せば‥‥あるかもね、くく」
 貞子は指を足に見立て、階段を昇降する仕草を見せた。
「ではそこから侵入する策でいきましょう。私は自分の技能を生かし、皆さんを補助します」
 焔の台詞を聞いて、貞子の動きが止まる。
「了解したわ‥‥後は私達‥‥『地獄の仲良し三人組』‥‥と、その他1名に、任せなさいな‥‥なぁに嫌そうな顔してるの、ひなたさん‥‥水無月さん。くっくっく、それとも『仏滅シスターズ』にするかしらぁ?」
 貞子は目の奥を怪しげに光らせた。
「じゃあ、茜さんと村雨さんが盗賊さんを引き付けて、焔さんが全体援護という感じで、外の皆さんが囮になっているうちに、食料庫からひなたと貞子さんが忍び込みますね!」
 ひなたの提案に、全員が頷いた。

 期日の朝、彼らは配置についた。
 親父さんの自宅食料庫のニンジン箱の下からは予定通り隠し階段が見つかり、階段は食堂側へ下る形で伸び、想像通り二重壁の間の登り階段へと繋がっている。
 二人は足音を忍ばせて階段を登った。
 それにしても。
「うーん、忍者のひなたより忍んでる貞子さんって一体‥‥。まるで浮いてるみたいな‥‥ゆ、幽霊!?な、訳ないですよ‥‥ね??」
 小さな声でひなたが囁く。
「気配を消して‥‥みているだけよゥ。これならいつでも後ろから呪‥‥ウフフフフ」
「あうう‥‥『霊が視える』とか『呪う』とか‥‥含み笑いしてないで否定して下さいよ〜!」
 背後の恐怖に押されながら、ひなたは階段の最上段へ着いた。左の壁を抜けると恐らく食堂二階の部屋か廊下。それを直感しながら二人はその場で待機した。壁の向こうに人の気配を感じる。

  その頃焔は食堂斜め前の建物の影に身を潜め、リヴィールエネミーとエックスレイビジョンのスクロールで食堂の手前の壁を透視した。廊下や厨房に居ると思われる者の姿までは確認できなかったが、犯人達のおよその位置を把握するには充分だ。
「下には七名前後、二階の部屋には一人ずつ、そして恐らく裏口、二階の廊下にも見張りが居るでしょうから‥‥全部で約十五名程度といった所でしょう」
 彼女はそう言いながら素早くこの状況をテレパシーでひなたにも伝る。狼と茜はそんな彼女の姿をわくわくしながら見ていた。
「何か刑事ドラマみたいですよね村雨さん」
「うーんそうだなあ‥‥でも冒険者って‥‥ぶっちゃけ、派遣社員??」
 茜が笑う。紫狼は妙に落ち着かない。無理も無い。彼にとってこれがこの世界での初仕事なのだ。
「俺、まだ混乱してるんだ。確か仕事に行く途中ケータイに夢中になって、気が付いたら‥‥何だよこのファンタジー世界。この世界の事を知りたいし、金が無いから仕事を探してるって保護された城の兵隊に言ったら『冒険者ギルド』って場所を紹介されたんだぜ? ああもう‥‥マジ勘弁してくれよ。おいおい、どこのMMOだよ? って状態だぜ」
「あはは。わかりますわかります」
「だろー? ギルドってハローワークにゃ、いかにも! ってムサい戦士とか居たじゃん? もう体臭プンプンでコワモテ。うわー、ヤダヤダ! あーもう、たまには洗えよその鎧! って言いたいけどさぁ‥‥怖いしー」
 うんうん、と茜は頷いた。久々に同じ世界出身者と話せる事がちょっと嬉しかった。彼の台詞は「こっちの世界は色々云々」と、一見文句ばかりにも見えなくもなかったが、逆にそれを楽しんでいる様に見える。しかし実の所、紫狼の中では「今回は女の子ばっかじゃん!! ラッキー☆」という素直で前向きな感情が渦巻いていた事までには流石に気がつかない。
「ずっとこっちに住むの?」
「う〜ん‥‥どうかなぁ。ちょっとホームシック、かなぁ。貞子さんやひなたさんは、大切なお友達だけど‥‥」
「ふうん‥‥」
 まだ出番のない彼らは、そんな会話を小声で続けている。
 そんな中、焔はリヴィールエネミーで唯一敵意反応を示さなかった親父さんを探し当てる事に成功していた。彼女はテレパシーで親父さんに「突然申し訳ありません。陰陽師の土御門焔と申します」と呼びかけた。
 一方、期限が迫ってヤキモキしていた親父さんは、唐突に頭に響いたこの声に、うぇっと驚きの声を上げた。
「ん?」
 見張りの盗賊が親父さんに近寄ろうとする。
「ああいや、その、今、ちょっとうたた寝をしていたみたいで、まあ、その、寝言でも言いましたか?」
「殺されるかもしれねぇってのに呑気なジジィだぜ‥‥」
 なんだ‥‥という顔をして盗賊はため息混じりに再び人通りのない道を見下ろした。親父さんの頭の中には引き続き焔の声が響いている。
「貴方を助けて欲しいとの依頼を受け救出に参りました。今、貴方の暗号を解読した仲間達がそちらへ参ります。もう暫くの辛抱です」
 親父さんの顔に、抑えきれない笑みがこぼれた。
「何かいい夢でも見たのか? お? 誰か出てきたぜ」
 窓に向き直った盗賊がショートボウを構えた。

 盗賊から見えたのは焔と紫狼と茜の三人だ。
「あとは盗賊だか何だかよく分からんファンタジー連中を引き付けて、お嬢ちゃんたちが忍び込む手伝いをすればいいんだな?」
「はい! そろそろやりますか!」
 紫狼と茜はお互いの顔を見て頷くと、大きな声で盗賊達へ呼びかけた。

「――あ? なんだって? 捕まっている俺達の仲間が誰だか判らない?」
 親父さんの部屋の盗賊が大声で返事をした。
「そうなんですよ〜、最近色々物騒で、それっぽい人が沢山捕まってるらしくて〜」
「私達も親父さんを助けたいので、どうかそちらのお仲間さんの外見などを詳しく伺えませんかー?」
 二階の盗賊へ語りかけながら、三人は自分達が丸腰である事をひらひらとアピールする。大声を聞いた他の部屋の盗賊達も窓側へ顔を出してくる。
「‥‥ちっ仕方ねえ‥‥。てめぇら頭領に確認して来い」
 一番東側の盗賊がそう言うと、中央と西側の盗賊が部屋へ引っ込んだ。下へ行く気だ。焔は素早くテレパシーでひなたへ合図を送った。

 合図を受けたひなたは盗賊が階段を下りた音がしたのを確認後、そっと壁を押し細い隙間から中を窺った。壁は部屋の中だった。窓側に一人の盗賊がいる。
 ひなたは部屋に向かって掌を翳すと、春花の術で眠りの香を流し込んだ。やがて盗賊が崩れ落ち、寝息を立て始める。扉の外でもごとりと音がした。外の見張りも寝てしまったのかもしれない。取り敢えず寝ている盗賊に貞子がアイスコフィンをお見舞いし、二人はベッドの上で寝息を立てている親父さんに駆け寄った。親父さんは両手を一つに束ねられ、そこから伸びた長いロープでしっかりとベッドの柱に繋がれていた。
「ウフフ‥‥無防備に寝ちゃって‥‥」
 貞子が親父さんを覗き込むと、彼はうーんうーんと魘され始める。
「貞子さんいじめちゃ駄目ですよーもう! 親父さん、起きて下さい、助けに来ました!」
「ふが‥‥き、君達がさっきの声の‥‥」
 そう親父さんが言いかけた所で、廊下に足音が響く。どうやら他の場所にいた盗賊がこの部屋の見張りが眠っている事に気付いたらしい。
 盗賊が半開きの扉を押し、眠る仲間を跨いで部屋へ入ってくる。
「どうかし‥‥」
 扉の後ろに隠れていた貞子のアイスコフィンが炸裂した。
 ひなたはほっと一息をつき親父さんのロープを手際よく解くと、見張りを貞子に任せ、気配を消して他に盗賊が居ないかを確認をしに出た。他の部屋への扉は開いており、どちらにも盗賊の姿はもうない。
 大丈夫、と思い、ひなたが後ろを向いたその瞬間、視界一杯にニタリと笑う顔が広がった。
「ひっ!」
 ぞっとしたひなたが飛びのく。が、その顔は貞子だった。
「‥‥あうう、貞子さん。後ろに立つのやめて下さい〜。く、首筋が寒くなってきました〜!」
「ウフフ‥‥さあ、逝きましょう。隠し階段から脱出、よ」
 
 その頃、一階から表通りに盗賊が三人出てきた。そのうち二人は先程二階にいた盗賊だ。焔は交渉役を買って出、持ち前のカウンセリング技術を駆使して要望も提示しつつも、相手を否定しない形で粘り強く話を持ちかけた。とにかく穏便に事を済ませたいと思っている事を強調し、できれば同行を求め、できなければ解放対象者の特徴を事細かに教えて欲しい、という方向に持って行く。
 彼らが同行に応じない事は明白だ。彼らはやや苛立ちながらも解放対象者の特徴を語り始めたので、紫狼がそれをふむふむと聞いてはわざと少し誤解している風な回答をし、うまく時間を稼いだ。
 ややもして、茜が盗賊達のイライラを抑える様な、和みの歌を歌い始めた。実はメロディーの魔力が込められた歌であった事に彼らは気付かない。何だ何だと一階に居た盗賊たちが窓際へ集まってくる。それも又、茜の歌を聴かずには居られない、といった魔力が込められた歌にひっかかった事は、彼らが知るよしもない。
 盗賊達の殆どが歌に魅了された事を確認し、焔は突如高速詠唱スリープで、手前の盗賊から次々眠らせていった。異変に気付いた盗賊も居たが、茜の歌に魅了され逃げるに逃げられない。眠った人から順に紫狼が縄を掛け、後から来たお役人に続々と引き渡される。
 数人が、茜の歌から逃れ、全速力で階段を駆け上っていく。彼らが勢いよく一番東の部屋に入った時、ババ・ヤガーの空飛ぶ木臼に乗って一足先に二階へついた紫狼と焔が彼らをお出迎えした。親父さんはもういない。
「お前の負けだぜ、ファンタジー盗賊」
 紫狼が言うと共に、焔の高速詠唱スリープが炸裂した。
 こうして彼らは誰一人傷つける事無く事件は解決した。

「そうだ! みんなでお食事しませんか? もちろん、心配して依頼料を出し合って下さった馴染みの皆さんも一緒に!」
「ああ、そりゃいいな、わしも皆にお礼を振舞いたいと思っていた所なんだ! 今日の料理はきっと格別に美味いぞ! 今日はわしのおごりだからな! 好きなだけ食っていってくれ!」
「わあー! すごく美味しい料理なら、ひなたも覚えたいなぁ。ひなたも、お手伝いしますね!」
「ふふ、お嬢さん、美味しい料理っていうのはね、心という味付けが肝心なんだよ!感謝や相手を想う心、そしてその場を演出する心! それらが総ての料理を美味くするんだ!」
 親父さんはひなたの頭を優しく撫でると、よーし、今日はやりがいがあるぞーと言いながら腕まくりをし、厨房に入っていった。ひなたもそれに続く。
「じゃあ、親父さんも無事に助け出す事が出来たし、依頼を受けた皆さんに、店の常連さん、皆でお祝いをしましょう!」
「おー!」
 茜の呼びかけと共に、食堂の常連達がわいわいと動き始めた。食堂はあっという間に美味しそうな料理で埋まり、明るい乾杯の声と共に楽器演奏や歌といった明るいムードに包まれた。
「やっぱ手料理は美味いな! 不味い保存食とは大違いじゃん。俺もここで雇って貰おうかな!?」
「あんちゃん、あんた喋るの上手だから居てくれたら楽しいがよ! 折角若いのにこんな所で落ち着いちゃ勿体ねえ!」
 紫狼の台詞に食堂の定連達がわっはわっはと笑って返す。
「宴会の余興に、私、地球の歌を歌います! ふふ、よく地方のデパートやスーパー銭湯なんかで営業したんですよ。よーし、久しぶりに張り切っちゃうぞ!」
 ヒューヒュー、という口笛に囲まれながら、茜お得意の演歌は深夜まで周囲を盛り上げ、食堂は昼間の事件を微塵も感じさせない程盛大な賑わいを見せた。人情と勇敢さが導いた気持ちの良い宴会は、なかなか終わりそうにもなかった。